104 原
著
〔留女辱繕8箏57議和騨糊〕
てんかん患児における尿中N−acetyl一β一D−glucosaminidase
(NAG)活性測定の臨床的意義
東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授) イマイズミ トモイチ イズミ タツロウ ワン ペン ジユン今泉 友一・泉 達郎・王 本 榮
ヨコタ カズコ フクヤマ ユキオ横田 和子・福山 幸夫
(受付 昭和62年2月27日目Clinical Significance of Measuring Urinary N−acetyl・β・D・
glucosaminidase(NAG)in Epileptie Children
Tomoichi IMAIZUMI, Tatsuro IZUMI, Pen・Jung WANG,
K:azuko YOKOTA and Yukio FUKUYAMA
Department of Pediatrics(Director二Prof. Yukio FUKUYAMA),
Tokyo Women’s Medical College
The activity of urinary N−actyl・β一D−glucosaminidase(NAG)was measured in random urine specimens from 52 epileptic children and 58 age−matched controls.
1) Urinary NAG index(U/g creatinine)in 58 healthy children changed with age. Higher values were obtained in the younger age group(less than l year old), whereas lower values were obtained in the older group(100r more years old),
2)Ahigh urinary NAG index(2 SD or more above the mean for the age・matched controI
without medication)was detected in 33 epileptic children. High NAG index and proteinuria were concurrently observed in丘ve epileptic children. When the epileptic childreh showed a urinary NAG index within the normal range, none of them had abnormal urinary丘ndings.
3) These studies suggest that urinary NAG in a sensitive screening test for renal tubular injury in epileptic children under antiepileptic drug medication.
はじめに 尿中N−acetyl一β一D−glucosalninidase(以下
NAG)は,尿細管上皮細胞のライソゾームに多く
存在する分子量約12万のムコ多糖や糖蛋白の分解
酵素であり,尿細管の細胞障害時には早期に
NAGが逸脱し,尿中の活性値は上昇する.
したがって,各種腎疾患の診断および経過観
察’)∼3),薬剤による腎障害の早期発見4》,糖尿病5)や高血圧患者6>の腎機能障害の指標として検討され
てきたが,未だ抗てんかん剤服用児における検討
はされていない.今回,我々は抗てんかん剤服用児における尿中
NAG活性を測定し,その臨床的有用性について
検討を行なった.対象と方法
対象は,東京女子医科大学小児科外来受診中の
抗てんかん剤服用児52名(単剤服用26名,多剤服
用26名)である.服用薬剤の内容は,カルバマゼ
ピン(CBZ)24名,フェノバルビタール(PB)20
名,バルプロ酸(VPA)22名,フェニトイソ(PHT)15名,クロナゼパム(CZP)8名,アセタゾール
アミド(AZA)4名,エトサクシミド(ESM)2
名であった.対照群は,年齢相当の小児で,腎疾
患,糖尿病などの病歴がない非服薬の健康児58名
一578一105 である.
一般尿検査は試験紙法を用い,異常時には更に
沈渣を検査した.NAG活性測定は午前中の随時
尿を2,000回転,10分間遠心し,その上清を用いた. NAGは4mM−4−methylumbelliferyl−N−acetyl一 β一D−glucosaminide(以下4MU−Glc NAc)0.1mlを基質として,尿50μ1,0.1M citrate−0.2M
phosphate buffer pH 4.0,0.1ml, water O.15ml,
合計0.4mlを37℃,10分間加温した後, glycine
buffer pH 10.7,2mlを加え, Huorometryにて測定した.尿中クレアチニンは和光クレアチニン
キット(和光純薬,東京)を使用し,分光光度計
にて測定した.1分間に1μmolの4MUを生成す
るNAG量を1unitと設定し, NAG指数(U/g
creatinine)で示した.結 果
一般検尿は,対照群では全例正常であった.一
方,抗てんかん剤服用児では5名に蛋白尿(1+
.婁 ξ § & ヨ 10 〈1 〈2 2−5 6−910・14Y 壬:Mea・±Stand・・d bevi、ti。, 図1 The chronological change of urinary NAG index in the control group∼2+)を認めたが,沈渣の異常を伴う症例は1
例もなかった.また5名工3名はその後の反復検
尿でも蛋白尿を認めた.1.健康児および抗てんかん剤服用児の尿中
NAG指数(図1,図2)
健康児58名の尿中NAG指数をmean±1SDで
示すと,1歳未満(n=8)4.9±2.7,1∼2歳(n= 4)4.7±2.4,2∼5歳(n=33)3.4±1.2,6∼9 歳 (n=9)3。2±1.3, 10∼14歳 (n=4)1.7±0.64であり,年齢依存性に変化し,1歳未満ではやや
高値であり,10∼14歳では会話であった.一方,抗てんかん剤服用児52名において,健康
児の+1SD以上を示す症例は39名(75%),+2SD
以上を示す症例は33例(63%),+1∼+2SD内の
1ア 16 15 14 13 Φ12 :垂11 垂10 ジ 9考8
7
6
5
4
3
2
1
『\重/急,i
・団
く1 〈2 2・56・910・14Y一:Mean土SD and Mean±2SD of the control group
図2 Urinary NAG index of the epileptic children
表1 Urinary NAG index and urinalysis in the epileptic children under
monotherapy
CBZ
PB
VPA
NAG index High Norma1 High Normal High Norma1
No. of patients 5 6 3 5 5 2 Serum concentration iμ9/ml) 7.3±1.1 6.7±2.2 12±3,0 13±5.4 60±25 57±1.0 Duration of medication imonths) 29±25i1−54) 37±28 i5−72) 66±42 i36−96) 44±36 i4−98) 53±26 i14−90) i18−68)43±25 Proteinuria≧2十 1 0 1 0 0 0 一579
106
症例は6名(12%)であった.また,採尿と同じ
日の血清BUN値と血清クレアチニン値に異常を
示した症例は1例もなかった.
2.単剤服用児の尿中NAG指数と尿所見(表
1)健康児の尿中NAG指数のmean±2SD以上を
高値と考え,CBZ, PB, VPAの3剤につき『,尿中NAG指数が正常群と高値群に分け検討した.
CBZ服用児は11的中5名(45%), PB服用児は8
名中3名(38%),VPA服用児は7名子5名
(71%)が尿中NAG指数の高値を呈し, CBZ, PB服用児それぞれ1名ずつ尿蛋白2+の検尿異常を
示した.しかし,どの服用例でも2群とも採尿と
同じ日の抗てんかん剤の血中濃度とその服用期間
に有意な差はなかった.3.多剤服用児の尿中NAG指数と尿所見(表
2)2剤,3剤,4剤服用児につき検討をした.
2剤服用児では,14真中10名(71%)に尿中
NAG指数の高値を認めた.特にCBZ十PBの組
表2 Urinary NRG index and urinalysis in the epileptic children under polytherapy
NAG index High Normal
CBZ十PB
3(1) 1CBZ十VPA
1 1CBZ十PHT
1 0VPA十PHT
2 1VPA十CZP
1 0VPA十PB
1 0 PB十PHT or AZA 1 ユ CBZ十VPA十 oHT CZP or AZA , 2(2) 1 VPA十PB十 dSM or PHT 2 0VPA+ESM+PHT
1(3) 0PB十PHT十CZP
1 1CBZ十VPA十PHT十AZA
1 0CBZ十PB十PHT十CZP
1 0CBZ十PHT+CZP十AZA
1 0VPA十PB十PHT十CZP
1 0 (1) 1case proteinuria 2十 (2) 1 case proteinuria 1一ト (3) proteinuria 1十み合わせでは4忌中3名が高値を呈し,そのうち
1名は尿蛋白2+を示したが,どの組み合わせが
尿中NAG異常をきたしやすいかは,さらに症例
を重ねる必要があると思われた.一方,正常群に
は検尿異常を認めなかった.3剤服用児では,8名画6名(75%)に尿中
NAG指数の高値を認めた. CBZ+・VPA+AZA,
VPA+ESM+PHTの2名が尿蛋白1+であっ
た.4剤服用児では,4名中4名(100%)に尿中
NAG指数の高値を認めたが,検尿異常を示した
症例はなかった.最後に尿中NAG指数の高値と同時に検尿異常
を示した症例を呈示する.13歳2ヵ月,男児.1
歳から7歳にかけて7回の熱性けいれんがあり,
7歳2ヵ月よりPBが投与された.その後経過良
好であったが,8歳3ヵ月より無熱時に,顔を右
へ向けて意識を消失させる発作が出現したため,
複雑部分発作の疑いでCBZが併用された.12歳
3ヵ月時,外来受診時の午前中の随時尿ではじめ
て蛋白2十を指摘された.12歳9ヵ月時,PB 30
mg/day, CBZ 300mg/day服用中で,血中濃:度は それぞれ4.8μg/ml,6.2μg/m1であったが,依然尿蛋白2+を認めた.この時点での血清BUNは
15。9mg/dl,血清クレアチニンは0.8mg/dlと正常範囲内であったが,尿中NAG指数は13.2と高値
を示した.考 察
抗てんかん剤の副作用として腎障害が出現する
頻度は稀である7).しかしVPA8), ESM9), CBZlo),
PHT11)服用が原因と考えられる腎障害の報告が
あるため,B常診療においては,しぼしぼ定期的
に検尿検査が行われている.そこで我々は,抗てんかん剤服用児の随時尿に
つき,一般検尿と同時に尿細管障害時に逸脱する
ライソゾーム酵素の1つであるNAGを測定し,
早期の腎障害の指標としての有用性について検討
した.尿中NAGは,活性値では大きな日内変動を示
す例でも,クレアチニン比による指数表示ではそ
れが消失し12),さらに随時尿と24時間尿の各指数 一580一107 が近似している‘)ことより,我々は採尿が容易で
ある随時尿について検討したことを妥当と考え
た.健康児の尿中NAG指数は, Kuninら13)の報告
と同様に比較的一定であるが,1歳未満ではやや
高値を示し,10歳以上では低値を示した.
抗てんかん剤服用児の尿中NAG指数で,年齢
相当の健康児の+2SD以上の値を示す例は全体
の63%であり,さらに尿中NAG指数の高値と同
時に検尿異常を示す例は全体の9.6%であった.一方,尿中NAG指数が正常である抗てんかん剤服
用児は,全例検尿異常を認めなかった.単剤服用児の検討では,VPA服用児に尿中
NAG指数が高値を示す傾向があったが,必ずし
も全例が上昇するわけではなく,また正常を示す
例と服用期間,血中濃度に有意差がないことより,VPA服用と尿中NAG指数の上昇には個体差が
あると思われたが,さらに検討が必要である.
多剤服用児は,単剤服用児より尿中NAG指数
の異常をきたしやすく,特に4剤服用児では全例
異常を認めたことば注目される. 結 語尿中NAG指数の測定は,抗てんかん剤服用に
よる腎尿細管障害の早期発見に役立つ鋭敏な検査
法と思われた. 稿を終わるにあたり,御校閲いただいた福山幸夫教 授に深謝いたします. 本論文の要旨は昭和61年8月,第13回発達薬理・薬 物治療研究会で報告した. 文 献1)Dance N, Price RG, Cattell WR et al l The excretion of N−acety1一β一3−glucosaminidase and
β一galactosidase by patients with renal disease. Clin Chim Acta 27:87−92,1970
2)Pr孟ce RG, Dance N, Richards B et a1:The
excretion of N−acetyl一β一D−glucosaminidase and
β一galactosidase following surgery to the kid・ ney, Clin Chim Acta 27:65−72,1970
3)浅見直:尿中β一D・N−acetylglucosalninidase の諸性質と小児腎疾患における臨床的意義.日本 腎臓学会誌 22:!17−135,1980 4)広川尚之,成清卓二:アミノグリコシド系抗生物 質投与患者における尿中N−acetyl・β一D−gluco− saminidase活性測定の臨床的意義日本腎臓学会 誌 24:1041−1053, !982 5)小田桐玲子,平田幸正,野村武則ほか:糖尿病患 者における尿中微量アルブミンおよびNAG濃度 測定の有用性.東女医大誌 56:244−250,1986 6)Alderman MH, Melcher I., Drayer I)E et aL
Increased excretion of urinary n−acetyl一β一D− glucosaminidase in essential hypertension and decline with antihypertensive therapy, N Engl
JMed 309:1213−1219,1983
7)丸山 博:随抗てんかん剤の基礎と臨床”抗てん かん剤の副作用.脳と発達 6:63−73,1974
8)Lenoir G, Perignon JL, Gubler MC et a1= Valproic acid:Apossible cause of proximal tubular renal syndrome, J Pediatr 99:503−594, 1981
9)S量lverman S, Gribetz D,. Rausen AR=Ne− phrotic syndrome associated with ethosuc− cimide, Aln J Dis Child 132:99,1978
10)Hogg RJ, Swayer M, Hecox K et al:Car・ bamazepin・induced acute tubulointestinal ne−
phritis. J Pediatr 98:830−832, 1981
11)Ho貸man E:Phenytoin・induced interstitial nephritis. Southern Med J 74:.1160−1161,1981 12)飯村康夫,島田 勇,大貫佳子ほか:尿中NAG活 性測定の基礎的検討および糖尿病患者における変 動.臨床病理 56:79−89,1983
13)Kunin CM, Chesney RW, Craig WA et a1: Enzymuria as a marker of renal injury and disease: Studies of N−acety1一β一glucosa− minidase in the general population and in patients with renal disease. Pediatrics 62:751 −760, 1978