原 著 〔東女医大誌 第63巻 第3号頁228∼238平成5年3月〕
胃癌患者における血清1型プロコラーゲンC末端ペプチド
(P−1−P)測定の臨床的意義に関する研究
東京女子医科大学 附属第二病院外科(指導:梶原哲郎教授) ワカ バヤシ トシ ヒロ若 林.敏 弘
(受付平成4年9月30日) αinical Significance of Type I Procollagen Carboxyt6rminal Peptide(P・1・P) 量nSerum of Patients with Gastric CancerTosbihiro WAKABAYASHI
Department of Surgery(Director:Prof. Tetsuro K幻IWARA) Tokyo Women’s Medical College Daini Hospita1 Using monoclonal antibody, serum type I procollagen carboxyterminal peptide(P・1・P)were determined in 104 patients with gastric cancer. The cut−off v31ue of serum P−1−P in 22 gastric cancer was stained with same monoclonal antibody. Sertlm P−1−P values in patients with gastric cancer were higher than in benign diseases and in healthy subjects. The positivity rate of serum P・1−P was high in liver cirrhosis. Gastric cancer showed high serum P・1・P values for the cases with lymph n6de エnetastasis or lymph duct invasion, for poorly differentiated cancer, and for scirrhous cancer rich in stroma. The fact that tissue P−1−P was stained in cancer cells indicated the possibility that cancer cells produce collagen. Stainability improved.as the amount of stroma increased. The above results suggest that P・1−P can be a useful clinical marker of scirrhous cancer of the stomach, for which no reliable marker has been available so far. 緒 言 近年,診断技術の向上,治療の進歩により胃癌 り治療成績の向上はめざましいが,Borrmann 4 型のいわゆるスキルス胃癌の予後はいまだ不良で あるD.スキルス胃癌は組織学的にコラーゲンを 主体とする間質の増生が著明な胃癌であり,胃壁 に広範かつびまん性に浸潤し,明らかな:腫瘤や潰 瘍形成を伴わない.このため,胃X線検査や内視 鏡検査による早;期診断は困難で,ほとんどの症例 が進行癌で発見され,この治療の遅れが予後を不 良とする一因と考えられている2). 一方,血清学的検査法の進歩により,癌細胞あ るいは担癌宿主の組織から血中に放出される微量 物質を正確に測定できるようになっている.これ らは腫瘍関連物質とされ,Goldら3)のcarcinoem・ bryonic antigen(CEA), Abelevら4)のα一 fetoprotein(AFP)を代表的なものとして古くよ り多く報告され,腫瘍マーカーといわれてい る5)∼9).しかし,胃癌におけるこれらのマーカーの 陽性率は20∼50%でしかない.ことに診断や治療 の困難なスキルス胃癌に有力なマーカーがないの が現状で,新しいマーカーの開発が待望されてい る10). 他方,プロコラーーゲンはコラーゲンの前駆物質 で,線維化を伴う肝炎,肝硬変などの肝疾患や著 明なコラーゲン増生を特徴とするスキルス胃癌と の関連が報告されている11)∼16).スキルス胃癌の新 しいマーカーとして期待されるが,これらの報告はいずれもポリクローナル抗体を用いた検索結果 によるもので,より高感度なモノクローナル抗体 を用いた報告はみない,そこで,新たに開発され た1型プロコラーゲンC末端ペプチド(P−1−P)に 対するモノクローナル抗体(宝酒造製)を用いて 胃癌における血清P手Pを測定し,まず他の消化 器癌,消化器良性疾患の測定値と比較した.つい で胃癌の臨床病理学的諸因子との関連を検索し, 胃癌患者において血清P−1−Pを測定することの臨 床的意義について検討した.さらに,同じモノク ローナル抗体を用いて胃癌組織内P−LPの局在に ついて免疫組織学的な検索も試みた. 対象および方法 1.対象 1988年12月より1990年9月までに東京女子医科 大学附属第二病院外科で治療した胃癌104症例(胃 癌取扱い規約17)でいうstage I 35症例, stage II 5 症例,stage III 17症例, stage IV 19症例,非切 除および再発例28症例)を対象とした.また,比 較検討のため他の消化器癌88症例(大腸癌35症例, 胆道癌17症例,肝癌13症例,食道癌13症例,膵癌 10症例),良性疾患48症例(胃潰瘍10症例,胆石症 15症例,肝硬変23症例),健常人158例を対照とし て用いた.各疾患,健常人における年齢分布は胃 癌34∼86歳,消化器癌36∼78歳,良性疾患28∼67 歳,健常人25∼43歳であった. 胃癌組織内P4−Pに対する免疫組織学的検索に は,同時期に開腹手術が施行された胃癌22症例の 手術摘出標本を用いた. 2.方法 胃癌および他の消化器癌,良性疾患,健常人の 血清P−1−P値の測定,胃癌組織におけるP−1−Pの 免疫組織学的検索を以下の方法で行った.また, 胃癌の組織学的進行程度,それを規定する組織学 的深達度,組織学的リンパ節転移度,肝・腹膜転 移の有無,脈管侵襲の程度,組織型,肉眼型,間 質量などについては胃癌取扱い規約1ηにもとづい て記載した.統計学的有意差検定にはκ2検定,t検 定を用いた. 1)血清P・1−Pの測定 (1)測定原理 測定は血清P−1−P測定キット(宝酒造製)を用 い,固相!ステップサγドイッチ法で行った.す なわち,検体中のP−1−Pをまずポリエチレンビー ズ表面にコーティングされた抗P−1−Pモノクロー ナル抗体に反応させ,さらにこれを酵素標識抗P− 1−Pモノクローナル抗体に反応させて検体中のP− 1−Pをはさんだ3者のサンドイッチ複合体を形成 させ,この複合体の含量を酵素抗体系でみること により測定した. (2)測定方法 早朝空腹時に採血した末梢血より血清を分離 し,その.血清0.02mlにペルオキシダーゼ標識マウ ス抗P・1Pモノクローナル抗体液0.2mlを加え, さらに同じモノクローナル抗体を吸着させた抗体 ビーズを1個加えて室温(20∼25℃)で30分間反 応させた.ビーズウオヅシャーを用いて蒸留水で 洗浄したのち,基質液(o一フェニレンジアミンリ ン酸緩衝液)0.3m1を加えた.そのまま室温,暗 所で15分間反応させたのち,1N硫酸1mlを加え て酵素反応を停止させた.そして分光光度計によ り492nmの吸光度を測定,標準検量線を用いて血 清中のP−1−P含量を求めた.なお,標準検量線は 標準P−1−P液(P−1−P3,000ng/ml含有)でえられ た吸光度を縦軸に,P−1−P量を横軸に片対数グラ フ上にプロットして作成した. 2)胃癌組織内P−1−Pの染色 (1)染色方法 染色は抗P−1−Pモノクローナル抗体(宝酒造製) と染色キット(DAKO LSABTM Kit)を用い,酵 素抗体法(Labelled Streptavidin Biotin法)で 行った.染色する胃癌組織はパラフィン包埋切片 を用い,トリプシン処理以外は室温で反応させた. まず組織切片を脱パラブイソ後水洗し,0.1%トリ プシン(type I, Sigma)0.01Mリン酸緩衝液(pH 7.2)(PBS)溶液にて37℃,30分トリプシン処理 した.水洗したのち,3%過酸化水素水を滴下し て5分間反応させ,内因性ペルオキシダーゼを阻 止した.水洗してPBSに5分間浸漬,ついで希釈 ヤギ正常1血清を滴下して5分間反応させ,PBSで 洗浄したのち5分間浸漬した.ここで一次抗体と して20倍希釈抗P−1−P一モノクローナル抗体(宝二
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陰性(一) 陽性(+) 強陽性(+卜) 図1 胃癌組織におけるPlPの染色性(×100) 造製)を滴下して60分間反応させ,PBSで洗浄し たのち5分間浸漬,つづいてビチオン化二次抗体 (抗ウサギイムノグロブリンピチオン化抗体)を滴 下して20分間反応させ,PBSで洗浄して5分間浸 漬した.さらにペルオキシダーゼ標識ストレプト ァピジン(125Mトリス緩衝液濃縮液(pH 76) 4滴に蒸留水を加え4mlとしたものにペルオキシ ダーゼ標識ストレプトアヒ’シン濃縮液ユ滴を加え 混合したもの)を滴下して20分間反応させ,PBS で洗浄して5分間侵漬した.発色基質はシアミノ ヘソチジン4HCI(DAB)を使用し,反応時間は3 分間とした.対比染色はヘマトキシリン,メチレ ンブルーを用いた. (2)染色度の判定 光学顕微鏡100倍にて鏡検し,癌の先進部付近の 癌細胞の胞体の染色性より染色度を陰性(一),陽 性(十),強陽性(升)の3段階に分類した(図1). 成 績 1.健常人および胃癌,消化器癌,消化器良性疾 患の血清P・1−P値と陽性率 健常人158例における血清P−1−P値の平均値± 標準偏差(mean±SD)は459±152ng/mlであっ た.mean+2SDの763ng/mlを基準値とし,基準 値を越えるものを陽性とした(図2). 各疾患別の血清P−1−P値と陽性率は胃癌573± 度 数 (人) 30 25 20 15 10 5 7 459(n9/mi) SD 152 (n=158) 鼻0釦1∼01蘭 240拗ヨ=0350 糊欄}∼口励 脚B口η口髄 8旧田09∼o弧 図2 200 40〔} 600 800 1000 1200 P−1−P(ng/ml) 健常人における血清PlP値の分布 503ng/ml 163%,大腸癌656±544ng/ml 20.0%, 胆道癌651±244ng/ml 412%,肝癌824±401ng/ ml 38.5%,食道癌475±152ng/ml 154%,膵癌 367士180ng/ml 100%,鞍懸瘍386±114ng/ml O%,胆石症489±130ng/ml 67%,肝硬変574± 368ng/ml 217%であった(図3).良性疾患では 胃潰瘍,胆石症で健常人との間に差をみず,とも に低い値および低い陽性率であった.胃癌では胃 債瘍,胆石症,健常人に比べ有意に高い値および 高い陽性率を示した(p<0,05).肝硬変でもこれ胃 癌(n=lo4 ・大腸衙(n=35) 胆道癌(n=17) 肝癌(n言13) 食道癌([=13) 膵 癌(n=IO) 胃潰瘍(n司0) 胆石症(n篇15) 肝硬変(n=23) 健常人(n=158 2004006008001.000112001、4002,0003,000(ng/ml) 図3 疾患別にみた血清P−1−P値と陽性率 ”擁E・・・・・… … 騨 ・ 「 573±503 蓄6.3 1 E卜r革r“胡E’ ・”の 一 656土544 20.0 1 f”・輸●@8●P・嘘● ● 651±244 41.2 ・・ ・… ..」 . … 1 824土401 38.5 1 B・、A’。’ 。3●● 475±152 15.4 ・Ψ・…
@ 1
367士180 10.0 ・…一・ c 386±114 0.0 墨ウ.・㍗・・.1 489土130 6.7 ・…@ト轍・・噛・十 … 574±368 21.7 459±152 5.0{
らに比べ有意に高い値と高い陽性率であった (p〈0.05).他の消化器癌では大腸癌,胆道癌,肝 癌がやはり有意に高い値(p<0.05),高い陽性率 を示した(p<0.01). 2.胃癌の血清P・1・Pと臨床病理学的因子との 関係 1)血清P4−Pと組織学的進行程度との関係 血清P・1−Pと組織学的進行程度(stage)との関 係では,血清P−1−P値と陽性率は切除例のstage I で440±206ng/ml 5.7%, stage IIで655±326ng/ ml 20.0%, stage IIIで537±285ng/ml 17.6%, stage IVで522±330ng/ml 21.1%,非切除胃およ び再発例では781±821ng/ml 25.0%であった.1血 清P4・P値,陽性率ともstage II∼IV,非切除例, 再発例で上昇したが,stage Iに比べて有意差はな かった(図4). 2)血清P−1−Pと組織学的深達度との関係 血清P−1−Pと組織学的深達度との関係では,血 清P−1・P値と陽性率は粘膜内癌(m)で413±220 ng/m16.7%,粘膜下組織丁丁(sm)で438±195 ng/ml 6.7%,固有筋層癌(pm)で595±282ng/m1 11,1%,漿膜下組織層癌(ss)で491±217ng/m1 12.5%,そして漿膜面に露出もしくは他臓器まで 浸潤した癌(se, sei)では541±325ng/ml 20.7% であった.血清P−1・P値は各深達度間で差はみら れなかった.陽性率はse, sei癌で高率であった が,他に比べて有意差はなかった(図5). 3)血清P−1−Pと組織学的リンパ節転移との関 係 血清P−1−Pと組織学的リンパ節転移との関係で は,血清P−1−P値と陽性率は陰性例で436±195 コト料
2000 1000叡L⊥1康
stage I n 皿 四 非切・再発n 355171928
陽性率 5,7 20.0 17.6 21.1 25.0% M±SD 440±206 655±326 537±285 522±330 781±821ng/mI 図4 血清P−1・Pと組織学的進行程度との関係 鬼1粛 2000 1000}樹1干}副
m Sm pm SS Se, Sein15159829
陽性率 6,7 6.7 11.1 12,5 20.7% M±SD 413±220 438±195 595±282 491±217 541土325 ng〆mI 図5 血清P−1−Pと組織学的深達度との関係 ng/ml 5.0%,陽性例で564±330ng/ml 22.2%で あった.血清P−1・P値および陽性率はリンパ節転 移陽性例で有意に上昇した(p<0.05)(図6). 4)血清P−1・Pと脈管侵襲との関係 血清P・1−Pとリンパ管侵襲との関係では,血清 P・1−P値と陽性率は陰性例で404±182ng/m1 3.7%,陽性例で547±303ng/ml 18.4%であった. 血清P・1−P値と陽性率はリンパ管侵襲陽性例で有 意に上昇した(p<0.01).(図7). 血清P−1−Pと静脈侵襲との関係では,血清P−1−P値と陽性率は陰性例で486±255ng/m1
10.9%,陽性例で512±302ng/ml 16.7%であり, 両者間に差はみられなかった(國8). 5)血清P−1−Pと肝・腹膜転移との関係呈調 2000 1000 % の
尉
射
n〔一) n〔十} n 40 36 陽性率 5,0 22.2% M±SD 436±195 564±330ng!rnI 図6 血清P・1・Pと組織学的リンパ節転移との関係 呈調 2000 1000 き樹
十 H〔一〕 H〔+) n 73 3 陽性率 ’12.3 33.3% M土SD 488±271 715±277nglmi 図9 血清P・1−Pと肝転移との関係 呈調 2000 1000 … 寡モ ly(+) 49 18.4% 547±303n9!ml黙
2000 ly(一} n 27 陽性率 3.7 M±SD 404±182 1000鰍
モ 図7 血清P・1・Pとリンパ管侵襲との関係購
2000 1000 :●射
針
V〔+} 30 16.7% 512±302ng!mI P(一) n 69 陽性率 11.6 M±SD 490±255 P〔+} 7 28.6% 558±418n9/rn1 図10血清P・1−Pと腹膜転移との関係 V〔一) n 46 陽性率 10.9 M土SD 486±255 図8 血清P−1−Pと静脈侵襲との関係 血清P−1・Pと肝転移との関係では,血清P−1・P 値と陽性:率は陰性例で488±271ng/ml 12,3%,陽 性例で715±277ng/ml 33.3%であった.血清P一 1−P値と陽性率は肝転移陽性例で高かったが有意 差はなかった(図9). 血清P・1−Pと腹膜転移との関係では,陰性例で 490±255ng/ml 11.6%,陽性例で558±418ng/m1 28.6%であり,やはり後者で高かったが有意差は なかった(図10). 6)血清P・1・Pと組織型との関係 血清P−1−Pと組織型との関係では,血清P−1・P値と陽性率は比較的分化度の高い乳頭腺癌
(pap),高分化型管状腺癌(tub、),中分化型管状 腺癌(tub2)で413±144ng/ml O%,分化度の低い 低分化腺癌(por),膠様腺癌(muc),印環細胞癌 (sig)で576±340ng/m125.6%であった.血清P− 1−P値と陽性率は後者で有意に上昇した(p< 0.01)(図11).呈調 2000 1000 i●
封
pap, tub1, tub2 por, muc, sig n 36 39 陽性率 0,0 25.6% M土SD 413土144 576±340ng!ml 鬼浦 2000 1000 P一1−P ng/耐 2000 1000針
毒壬 雄 図11血清P・1・Pと組織型との関係 り ●● … 1壬 陽性率 M±SD 図13 肉眼型 0,1,2,3 n 47 陽性率 4.3 M±SD 429±179 4 29 27.6% 606土357ng/ml 図12 血清P・1・Pと肉眼型との関係 7)血清P・1・Pと肉眼型との関係 血清P−1−Pと肉眼型との関係では,血清P・1−P値と陽性率は0,1,2,3型で429±176ng/m1
4.3%,4型で606±357ng/ml 27.6%であった.血 清P−1・P値,陽性率とも4型は他の型に比べて有 意に上昇した(p〈0.05)(図12). 8)血清P・LPと間質量との関係 血清P−1−Pと間質量との関係では,血清P・1・P 値と陽性率は髄様型(medullary type)で491±260 ng/ml 10.0%,中間型(intermediate type)で 453±228ng/ml 8.1%,硬性型(scirrhous type) で697±390ng/ml 44.4%であった.血清P・1−P 値,陽性率とも硬性型は髄様型に比べて有意に上 昇した(p<0.05)(図13). Medullary Intermediate Scirrhou5 30 37 9 10.0 8.1 44.4% 491±260 453土228 670土39{〕ng/mI 血清P−1・Pと間質量との関係 3.、胃癌組織内P−1・Pの局在,染色度と血清P・ 1・P,間質量との関係 1)胃癌組織内P−1−Pの局在と染色度 胃癌22例の組織内P・1・Pを染色した結果,P・1・P は癌細胞の胞体内に染まり,同一標本内では癌の 先進蔀付近で強く染色された.組織内P−1・Pの染 色度をみると陰性は3症例(13.6%),陽性は14症 例(63.6%),強陽性は5症例(22.7%)であった (表). 2)胃癌組織内P−1−Pの染色度と血清P−1−Pと の関係 胃癌組織内P・1・Pの染色度と血清P・1−Pとの関 係では,血清P−1−P値と陽性率は陰性で503±147 ng/ml O%,陽性で507±336ng/ml 14.3%,強陽 性で597±236ng/m140.4%であった.血清P−1・P 値と陽性率は強陽性例で上昇したが,他に比べて 有意差は認めなかった(図14). 3)胃癌組織内P−1−Pの染色度と間質量との関 係 胃癌組織内P−1−Pの染色度と間質量との関係で は,髄様型で陰性は2症例(40.0%),陽性は3症 例(60.0%)で,中間型で陰性は1症例(11.1%), 陽性は8症例(88.9%),両型とも強陽性はなかっ た.他方,硬性型では陰性はなく,陽性は3症例 (37.5%),強陽性は5症例(62.5%)であった. 間質量の多い硬性型で組織内P−1−Pの染色度は高 い傾向がみられた(表).表組織内P−1・Pの染色度
症例 血清P4・P値 肉眼分類 組織型 間 質 量 染色度(一∼升)
1 925ng/ml Borr 1V po「 Scirrhous 卦
2 780 〃 〃 〃 升 3 601 〃 sig 〃 十 4 ’ P,155 〃 po「 〃 十 5 1,449 〃 sig 〃 十 6 265 〃 〃 〃 十 7 290
V
mUC 〃 卦 8 389 III po「 〃 升 9 246 IV mUC Intermediate 十 10 419 III po「 〃 十 11 335 〃 〃 〃 十 12 440 〃 〃 〃 一 13 355 〃 sig 〃 十 14 425 II tub2 〃 十 15 386 1 〃 .〃 十 16 403 Hc like advanced po「 〃 十 17 356 Hc十皿a tub1 〃 十18 345 Borr III tub2 Medullary 十
19 363 〃 po「 〃 『 20 481 II tub1 〃 十 21 473 1 po「 〃 十 22 408 Hc tub1 〃 一 ・脚 2000 1000 一
路
壬 陰性〔一} 陽性〔+} 強陽性醗 n 3 14 5 陽性率 0.0 14.3 40.0%. M‡SD 503±147 507±336 597土236ng/ml 図14 胃癌組織内P−1−Pと血清P−1・Pとの関係 考 案 コラーゲンは生体全蛋白質の1/3を占め,結合織 を構成する最も重要な蛋白である.その分子構造 は1960年代の前半までは1種類と考えられていた が,その後の研究によりコラーゲンを構成する3 本のα鎖の違いと組み合わせより,type l∼Vの5型と1型trimerの6種類の分子型が知られる
ようになった18}. 他方,ブローコラーゲンはコラーゲンの前駆物質 で,細胞外に分泌される際にプロコラーゲンペプ チダーゼによりそのN末端ペプチド,C末端ペプ チドが切り離され,コラーゲンが形成される.し たがって,末梢血に遊離されたN末端,C末端ペ プチドの量を測定すれぽ,生体におけるコラーゲ ンの生合成の状態を推定できると考えられる.す でにIII型プロコラーゲンN末端ペプチドに対す る測定キットが市販され,肝疾患,悪性腫瘍との 関連が報告されている19)∼21).一方,1型プロコ ラーゲンC末端ペプチド(P−1−P)はスキルス胃癌 の新しいマーカーとして期待されるが,Taubman ら11),幸田12),伊藤16)のポリクローナル抗体を用い たRIA法による報告をみるにすぎない.そこで., 著者は宝酒造(株)によって新たに開発されたモ ノクローナル抗体を用いたEIA法の測定キット で消化器癌患者,良性疾患患者,健常人の血清P− 1・Pをより高感度に測定し,とくに胃癌患者にお ける臨床的意義を検討した.さらに,同じモノク ローナル抗体を用いて胃癌組織内P・1・Pの局在な どについて免疫組織学的に検討した.まず,各疾患の血清P・1−P値と陽性率について みた,肝硬変をのぞく良性疾患,健常人ではとも に低い値,低い陽性率であったが,胃癌,大腸癌, 胆道癌,肝癌ではこれらに比べ有意に高い値,高 い陽性率であった.伊藤’6)はポリクローナル抗体 を用いたRIA法で各疾患の血清P・1−P値と陽性 率を測定し,肝硬変をのぞく消化器良性疾患は低 値で,陽性率も0%,肝転移をきたした大腸癌, 食道癌,膵癌,胆嚢癌など進行消化器癌は高い値 および高い陽性率であったと報告している.P−1−P は線維化を伴う肝疾患やコラーゲン増生がみられ る悪性疾患で非特異的に増加すると考えられる. また,著者の成績で胃癌と胃潰瘍,健常人との間 には有意差を認めたが,肝硬変との間には差がみ られなかった.このことより,P−1−Pを腫瘍マー カーとして用いる場合,良悪性鑑別の一助にはな ると考えられるが,その際,常に肝疾患の有無を 念頭におく必要があると思われる. 組織学的進行程度との関係では,血清P−1・P値 および陽性率はstage II,・III, IV,非切除例,再 発例でstage Iに比べて上昇したが, stage Iとの 間や・各stage間に有意差はみられなかった.さき の伊藤16)は進行胃癌について検討し,stage IVで はstage II, IIIに比べて上昇するとし,著者とは やや異なった成績を報告している.症例分布の差 と思われるが,いずれにせよ,血清P・1・P値や陽 性率は腫瘍量の多い進行癌では上昇するが,胃癌 の個々のstageまで反映するマーカーにはなりえ ないと考えられる. 組織学的深達度との関係では,血清P−1−P値は 深達度の進行にしたがい高値を示すが,各深達度 間で有意差はなく,陽性率もse, sei癌で上昇した がやはり有意差は認められなかった.胃癌の深達 度との関係を論じた報告はないが,著者の成績で は,血清P・1−Pは胃癌の深達度まで細かく反映す るマーカーにはなりえ.ない. つぎに組織学的リンパ節転移との関係では,血 清P・LP値,陽性率とも陽性例で有意に上昇した. 転移リンパ節でのコラーゲン増生は考えにくく, この上昇の要因として,まず,転移陽性例は全例 とも進行癌であること,さらに,組織学的にみて 低分化型胃癌が多いこと(69.4%),肉眼的にみて 4型胃癌が多いこと(55.6%)があげられる.後 述するが,血清P−1−P値は低分化型胃癌,4型胃 癌で高値を示す例が多いからである. 脈管侵襲との関係では,血清P−1−P値,陽性率 とも静脈侵襲の有無では差をみないが,リンパ管 侵襲では陽性例で有意に上昇した.前記のリンパ 節転移陽性例での上昇と関連して,やはりこの上 昇は進行程度,組織型や肉眼型による特徴に起因 したものと考えられる. 肝転移との関係では,陽性例で上昇したが有意 差は認められなかった.伊藤16)は肝転移例で血清 P・1・P値が高値を示すことについて,転移巣が肝 臓という血流に露呈されやすい環境に囲まれた結 果,P・1−Pが血中に流出しやすくなると推定して いる.著老は肝転移巣内P・1・Pを免疫組織学的に 検索した際,転移巣内ではP−1−Pが強く染色され る症例が多いことを経験しており,肝転移巣では コラーゲンが活発に産生されていると思われる. 今回の成績では症例数の関係から有意差こそな かったが,血清P−1−P値と陽性率は肝転移例で上 昇した.この上昇は転移巣での活発なコラーゲン の産生,血流に露呈されやすい環境の両者に起因 すると考えられよう. 腹膜転移との関係では,陽性例でやはり上昇し たが有意差はなかった.これに関した報告もない が,tumor burdenとの関連が大きいと考えられ, 今後さらに症例を重ねた検討が必要と思われる. 組織型との関係では,分化度の低いpor, muc, sigで有意に上昇した.伊藤16),新津ら22)は胃癌50 例についてポリクローナル抗体を用いて検討し, 組織型による血清1型プロコラーゲン値の差は認 められないとしているが,詳細については言及し ていない.中田ら23)は胃癌組織内コラーゲン量を 測定し,低分化型癌では分化二二に比し有意に増 加したことを述べ,著者と一致した成績を報告し ている.低分化癌の特徴の1つに間質量が多いこ ともあげられ,組織学的に分化度の低い胃癌ほど 血清P−1・P値が高いように思われる.また,腫瘍 細胞でもコラーゲンが産生されるともいわれてお り,組織型とコラーゲン産生との関連は今後の検
討課題と考えている. 肉眼型との関係では,4型では有意に上昇した. 先の伊藤16),新津ら22)も4例は1,2,3型に比べ 高い血清P−1・P値および陽性率を示すと,著者と 一致した成績を報告している.4型胃癌の大部分 は著明なコラーゲンの増生を伴うスキルス胃癌で ある.血清P・1・Pはこのコラーゲン増生を反映し, 4型胃癌とくにスキルス胃癌の良いマーカーにな ると考えられる. ついで,このコラーゲン増生と関連の深い間質 量との関係についてみた.血清P−1−P値,陽性率 とも硬性型で有意に上昇し,この間質量の多寡も 良く反映した.スキルス胃癌の大部分は間質量の 多い硬性型に分類される.先の4型胃癌での上昇 を裏付ける成績と思われる. 他方,胃癌に対して信頼できる腫瘍マーカーは, 従来よりcarcinoembryonic antigen(CEA), carbohydrate antigen 19・9(CA19−9)があげられ ている.これらの硬性型胃癌における陽性率をみ ると,著者の検索ではCEA O%, CA19−922.2% であり,P・1−Pの44.4%に比較して低率であった (未発表).スキルス胃癌に対して,血清P・1・Pは
CEAやCA19・9より優れたマーカーと考えられ
る. 以上,血清P・1・Pは進行消化器癌では腫瘍の進 行に伴って非特異的に増加すること,胃癌につい ては,リンパ節転移,リンパ管侵襲,組織型や間 質量と関連し,とくに4型胃癌で上昇することな どが判明した.すなわち,低分化で間質増生がつ よく,リンパ節転移も伴って浸潤性に増殖するよ うな胃癌で上昇する.多くはスキルス胃癌であり, 血清P・1−Pはこれに対する腫瘍マーカーとして臨 床上有用であると考えられる. つづいて,こうした胃癌における血清P・1・P上 昇のメカニズムをより明らかにする目的で,胃癌 組織内P−1−Pの局在などを免疫組織学的に検索し た.抗P・1・Pモノクローナル抗体を用いて酵素抗 体法によりみたところ,P−1−Pは癌細胞の胞体内 に染色され,臨床病理学的には低分化で間質量が 多いほど染色性が高い傾向がみられた.また,有 意差こそなかったが,胃癌組織内P・1−Pの染色性 の高い症例では血清P−1−P値,陽性率とも上昇し た.伊藤;16),新津ら22),森田ら24)も胃癌組織内P−1−P について免疫組織学的検索を行い,やはりスキル ス胃癌細胞の細胞質が強陽性に染色されるとし, 著者と一致した成績を報告している.従来,スキ ルス胃癌におけるコラーゲン産生の機序につい て,(1)腫瘍細胞自身が産生する25)∼27),(2)腫瘍 細胞の分泌する液性因子などの刺激によって活性 化された線維芽細胞が産生する28)∼30)との2つの 説があり,いまだ結論はえられていない.本研究 で著者が用いた抗P−1・Pモノクローナル抗体はコ ラーゲンとは反応せず,プFコラーゲンのC末端 ペプチド(P−1・P)とのみ反応する.したがって, 胃癌組織内におけるP・1−Pの局在部位が1型コ ラーゲンの産生の場と考えて矛盾がない.腫瘍細 胞が分泌するtransforming growth factor beta (TGF・β)など液性因子の刺激によって線維芽細 胞がコラーゲンを過剰に産生するという機序31)32) も勿論あろうが,著者の成績より,腫瘍細胞自身 もまたコラーゲンを産生していると思われる.ま た,同一標本内では癌の先進部ほど強く染色され た.増殖,浸潤性の高い部位でより多くのコラー ゲンが産生されていると考えられ,癌の進展形式 に関連してきわめて興味深い事実と思われる. 以上の免疫組織学的な検索成績より,胃癌にお ける血清P−1−P上昇の機序には,胃癌細胞におけ るコラーゲンの産生も大きく関与していると考え られる. 結 語胃癌における1型プロコラーゲンC末端ペプ
チド(P−1−P)の測定意義を他の消化器癌消化器 良性疾患との比較,臨床病理学的弓因子との関連 から検討し,さらに胃癌組織内の局在についても 免疫組織学的に検討した結果,以下の結論をえた. 1)胃癌患者の血清P−1−P値,陽性率は胃潰瘍, 胆石症患者,健常人に比較して有意に上昇した. 2)大腸癌,胆道癌,肝癌,肝硬変患者の血清P− 1・P値,陽性率は胃潰瘍,胆石症患者,健常人に比 較して有意に上昇した. 3)胃癌の進行程度,深達度と血清P−1・P値,陽 性率との関係では,各進行程度間,各深達度間に有意差を認めなかった. 4)胃癌のリンパ節転移,脈管侵襲との関係で は,リンパ節転移陽性例,リンパ管侵襲陽性例は 各陰性例に比較して有意に上昇した。また,静脈 侵襲の有無では有意差を認めなかった. 5)胃癌の肝転移,腹膜転移との関係では,陽性 例では上昇したが有意差を認めなかった. 6)胃癌の組織型との関係では,低分化型の癌は 高分化型の癌に比較して有意に上昇した. 7)胃癌の肉眼型との関係では,4型は他の型に 比較して有意に上昇した.・ 8)胃癌の間質量との関係では,硬性型は髄様型 に比較して有意に上昇した. 9)P−1−Pは癌細胞の胞体内に局在が認められ, 血清P・1−P上昇のメカニズムに癌細胞によるコ ラーゲン産生が関与することが示唆された.また, 低分化で間質量が多い億ど染色性が高い傾向がみ られた. 以上より,血清P−1−Pは進行消化器癌では非特 異的に上昇すること,胃癌については,リンパ節 転移,リンパ管侵襲,組織型や間質量:と関連し, 4型胃癌とくにスキルス胃癌で上昇することが判 明した.さらに,血清P・1−P上昇のメカニズムに は,癌細胞によるコラーゲン産生が関与すること も判明した.これらより,血清P−1−Pはスキルス 胃癌に対する腫瘍マーカーとして臨床上有用であ ると考えられる. 稿を終えるにあたり,ご指導,ご校閲を賜った梶原 哲郎教授,ならびに本研究を直接ご指導いただいた小 川健治助教授,特高義彦講師に心より感謝する.また, 終始ご協力いただいた芳賀駿介助教授をはじめとす る東京女子医科大学附属第二病院外科諸兄姉,病理組 織学的所見などにつぎご教示いただいた中央検査部 藤林真理子助教授に深謝する. なお,本論文の要旨は第28回日本癌治療学会総会に おいて発表した. 文 献 1)貝原信明,前田辿郎,浜副隆一ほか:スキルス胃 癌の集学的治療.消化器外科 12:1317−1321, 1989 2)須賀昭二,吉田雄一,恒川 洋ほか:胃癌の化学 療法一UFTM療法による胃スキルスの形態学的 変化と生存期間を中心に一.医療35: 1081−1086, 1981 3)Gold P, Freedman SO:Specific carcinoem・ bryonic antigen of the human digestive system. JExp Med 122:467−481,1965 4)Abe藍ev GI, Perova SD, Khramkova NI et a1: Production of embryonalα・globulin by trans・ plantable mouse hepatoma. Transplantation 1 :174−180, 1963 5)Koprowski M, Steplewski Z, Miehell K; Colorectal carcinoma antigens detected by hybridoma antibodies. Somat Cell Genet 5: 957−972, 1979 6)石田名香雄,田中啓二,柴田芳実:免疫抑制酸性 蛋白の性状と癌患者における検出意義.医のあゆ み115:423−433,1980 7)Hirohashi S, Watanabe M,.Shimosato Y et al:Monoclonal antibody reactive with the sialyl・sugar residue of a high molecular weight glycoprotein in sera of cancer patients. Gann 75:485−488, 1984 8)成高義彦:胃癌患者の血清Tissue Polypeptide Antigen(TPA)に関する臨床的研究.日臨外医 会誌 45:1229−1243,1984 9)小川健治,成高義彦,湖山信篤ほか:胃癌,大腸 癌における腫瘍マーカーの臨床的有用性について 一外科的立場からTPA, CEAを中心に一.癌の 臨床 31:638−647,1985 10)芳賀駿介,成高義彦,大石俊典ほか:消化器癌患 者における血清P−1・P測定の臨床的意義について 一CEA, CA19−9との比較検討一.医学と薬学 24:1047−1053, 1990 11)Taubman MB, Goldberg B, Sherr CJ: Radioimmunoassay.for human procollagen。 Science 186:1115−1117, 1974 12)幸田久平:ヒト1型procollagen C末端の抽出・ 精製とその診断.肝臓 25:192−202,1984 13)Savolainen ER,.Goldberg B,1・eo MA et al: Diagnostic value of serum procollagen peptide measurements in alcoholic liver disease, Alcoholim Chem Exp Res 8:384−389,1984 14)幸田久平,新津洋司郎,伊藤信行ほか:スキルス 胃癌における血中1型およびIII型プロコラーゲン C末端ペプチド測定の臨床的意義.日消病会誌 81 :2729−2737, 1984 15)幸田久平1新津洋司郎,伊藤信行ほか:スキルス 胃癌の診断一腫瘍マーカー,最新医学41: 1016−1023, 1986 16)伊藤信行:スキルス胃癌における血清1型プロコ ラーゲソC末端ペプチド測定の診断座興i義.札幌 医誌 57:67−77,1988
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