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義務付け訴訟の一局面 : 「中間型」義務付け訴訟を中心に《第十回 東洋大学公法研究会報告》 利用統計を見る

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義務付け訴訟の一局面 : 「中間型」義務付け訴訟

を中心に《第十回 東洋大学公法研究会報告》

著者名(日)

高木 英行

雑誌名

東洋法学

56

1

ページ

288-294

発行年

2012-07

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000154/

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《 第十回   東洋大学公法研究会報告 》

義務付け訴訟の一局面

――「中間型」義務付け訴訟を中心に 髙木   英行 報告者   髙木英行 (東洋大学) 報告題   義務付け訴訟の一局面――「中間型」義務付け訴訟 を中心に 日   時   平成二四年三月三〇日    一五時~一七時 場   所   東洋大学第二号館一四階学習指導室 参 加 者   名 雪 健 二・ 宮 原 均・ 齋 藤 洋 (以 上、 東 洋 大 学) 、 柴 田 憲 司 (中 央 大 学) 、 成 瀬 ト ー マ ス 誠 (明 治 大 学) 、 鈴 木 陽 子 (武 蔵 野 学 院 大 学) 、 始 澤 真 純 (東 洋 大 学 大 学 院博士後期課程) 、門脇邦彦 (同博士後期課程) 。 一   報告の目的   本 報 告 は、 平 成 一 六 年 の 行 政 事 件 訴 訟 法 (以 下「行 訴 法」 ) 改正により明文規定化された義務付け訴訟をめぐる諸問題の う ち、 「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 と い う 問 題 に 考 察 対 象 を 絞 っ て報告する。なおこの「中間型」義務付け訴訟という用語は 報 告 者 の 造 語 で あ っ て、 こ れ が 何 で あ る か は 追 っ て 紹 介 す る。ところで、行訴法改正後の義務付け訴訟をめぐって最も 議論がなされてきたと思われる行政領域として、税務行政領 域、とくに《減額更正処分の義務付け訴訟》問題がある。実 のところこの減額更正処分の義務付け訴訟が、まさに「中間 型」義務付け訴訟の典型例に当たるのだが、本報告ではこの 減額更正処分の義務付け訴訟がいかなる問題なのかを紹介す る と と も に、 平 成 二 三 年 の 国 税 通 則 法 (以 下「通 則 法」 ) 改 正 によってこの問題がどのように立法的に解決されたかを確認 する。またこの立法的解決にもかかわらず、義務付け訴訟問 題として残された課題はどこにあるのかを、もっぱら行政法 学の観点から検討する。   以上本報告のねらいは、減額更正処分の義務付け訴訟とい う 税 務 行 政 で 争 わ れ て き た 個 別 的 な 問 題 を 素 材 に、 「中 間 型」義務付け訴訟という行政訴訟の一般的な問題を浮き彫り にすることにある。なお管見の限りだが、このような観点か らの先行研究は見あたらない。いずれにせよ本報告は、全般 的にいって、いまだ構想段階での議論なので、不十分・不勉 強 な 点 が 多 々 あ る か と は 思 う が、 ご 海 容 の ほ ど お 願 い し た い。もっとも本報告を構成する部分のうち、少なからぬ部分 は、すでに拙稿「減額更正処分の義務付け訴訟に関する一考 察:訴訟要件論を中心に」福井大学教育地域科学部紀要第Ⅲ 部 (社 会 科 学) 第 六 四 号 (二 〇 〇 九 年) 八 五 頁 以 下 (以 下「拙 稿 ①」 ) 、 な ら び に、 拙 稿「減 額 更 正 処 分 の 義 務 付 け 訴 訟 が 不 適 法 と さ れ た 事 例」 早 法 八 六 巻 二 号 (二 〇 一 一 年) 三 三 九 頁

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以 下 (以 下「拙 稿 ②」 ) に お い て 検 討 し て い る。 そ れ ゆ え 本 報 告では、参考文献を含め、これら既に発表した拙稿の議論に 大幅に依拠したい。したがって、併せてこれらの拙稿もご参 照いただければ幸いである。 二   義務付け訴訟概説   ここでは、義務付け訴訟をめぐる判例学説の沿革や、現行 法 制 度 に つ い て 報 告 し た (詳 細 は 拙 稿 ① 八 六 頁 以 下 参 照) 。 平 成一六年行訴法改正前から、社会において義務付け訴訟が求 め ら れ る 場 面 と し て、 (あ) 給 付 行 政 の 場 面 と (い) 規 制 行 政 の 場 面 の 典 型 的 な 二 つ の 場 面 が あ っ た。 (あ) は、 市 民 が みずからに給付をもたらす行政処分の申請をしたにもかかわ らず、行政が拒否ないし応答しない場合である。この場合、 行 政 と 市 民 と の「二 当 事 者 関 係」 の 紛 争 が 問 題 と な っ て い る。 (い) は、 周 辺 住 民 と し て、 公 害 を も た ら し て い る 事 業 者に対し規制的な行政処分を発動してもらいたいのに、行政 がそういった処分をしない場合である。この場合、行政と事 業者と市民という「三当事者関係」の紛争が問題となってい る。   平成一六年の行訴法改正は、これら二つの場面を念頭に置 い て、 そ れ ぞ れ「申 請 型」 義 務 付 け 訴 訟 (行 訴 法 三 七 条 の 三) と「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 (同 法 三 七 条 の 二) と を 明 文 規 定 化することとなった。本報告との関連で重要なのは、両義務 付 け 訴 訟 を 比 較 す る と、 前 者 と 比 べ て 後 者 に は、 「重 大 な 損 害」要件と「補充性」要件――「一定の処分がされないこと により重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を 避けるため他に適当な方法がないときに限り」――という、 原告市民にとって立証するのが困難な〈訴訟要件〉が課され ていることである。 三   義務付け訴訟の具体例   ここでは「申請型」義務付け訴訟の具体例として、東大和 市 保 育 所 入 所 拒 否 事 件 (東 京 地 判 平 成 一 八 年 一 〇 月 二 五 日: 判 時 一 九 五 六 号 六 二 頁) を、 ま た「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 の 具 体 例 と し て、 産 廃 措 置 命 令 義 務 付 け 訴 訟 (福 岡 高 判 平 成 二 三 年二月七日:判時二一二二号四五頁) を紹介した。 四   減額更正処分の義務付け訴訟   ここでは減額更正処分の義務付け訴訟のうち、納税者が更 正の請求期間 (法定申告期限から一年) は徒過しているが減額 更正処分の除斥期間 (法定申告期限から五年) 内に訴訟を提起 す る 場 合 を 中 心 に、 従 来 の 学 説 動 向 を 整 理 し て 議 論 し た (詳 細 は 拙 稿 ① 九 〇 頁 以 下 参 照) 。 本 報 告 と の 関 連 で 重 要 な の は、 こ の タ イ プ の 減 額 更 正 処 分 の 義 務 付 け 訴 訟 は、 「二 当 事 者 関 係」 で の 紛 争 が 争 わ れ て い る に も か か わ ら ず、 “適 法 な 申 請 権” が な い (= 更 正 の 請 求 が で き な い) が ゆ え に、 「直 接 型」

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義務付け訴訟として争わざるを得ないという点である。すな わ ち 先 に 挙 げ た (あ) の よ う な 典 型 的 な《二 当 事 者 関 係 × 申 請 型》 で も な け れ ば、 (い) の よ う な 典 型 的 な《三 当 事 者 関 係×直接型》でもないのが、ここで紹介している減額更正処 分の義務付け訴訟の特徴なのである。そこで以下では、この よ う な『二 当 事 者 関 係 × 直 接 型』 義 務 付 け 訴 訟 を 一 般 化 し て、 「中間型」義務付け訴訟と呼ぶこととしたい。 五   減額更正処分の義務付け訴訟をめぐる判例動向     ここでは減額更正処分の義務付け訴訟に関する最近の判例 と し て、 広 島 高 判 平 成 二 〇 年 六 月 二 〇 日 (訟 月 五 五 巻 七 号 二 六 四 二 頁) を 紹 介 し た。 こ の 判 例 に つ い て は、 更 正 の 請 求 期間を過ぎた段階での減額更正処分の義務付け訴訟を不適法 と し た 判 例 と 理 解 さ れ て い る (も っ と も こ の 理 解 に 対 し て 報 告 者は反対だが、詳しくは拙稿②三四七頁以下を参照) 。 六   平成二三年国税通則法改正   ここでは平成二三年に通則法が大きく改正されたことを紹 介 し た (例 え ば 首 藤 重 幸「納 税 者 権 利 憲 章 の 策 定」 税 理 五 五 巻 一 号(二 〇 一 二 年) 八 一 頁 以 下 参 照) 。 と り わ け 本 報 告 と の 関 連 で重要なのは、更正の請求期間が一年から五年に延長された という点である。これによって、従来あった更正の請求期間 と減額更正処分の除斥期間との乖離がなくなった。したがっ て、主としてこの乖離を原因として問題となってきた減額更 正処分の義務付け訴訟については、もはや考える必要がなく なったように思われる。 七   残された課題   平成二三年改正によって、減額更正処分の義務付け訴訟問 題は、租税法学の観点からすれば、さしあたり解決したと言 えるのかもしれない。しかし仮にそうであるとしても、行政 法 学 の 観 点 か ら す れ ば、 「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 一 般 を ど う 考えていくかという課題が残されている。言い換えれば、減 額更正処分の義務付け訴訟問題は、より一般的な問題、すな わ ち「申 請 型」 と「直 接 型」 と い う よ う に、 《法 律 上 の 申 請 権の有無》によって訴訟要件の厳格さを全く異ならしめると いう、義務付け訴訟「二類型」制度の合理性の有無を問うて い る の で は な い か と 思 わ れ る の で あ る。 以 下 残 り の 報 告 で は、この二類型制度の合理性を再検討するため、あらためて 税務行政以外の行政分野での「中間型」義務付け訴訟問題に 目を向けたい。ただし以下の議論に関しては試論であること にあらためて留意されたい。 八   「中間型」義務付け訴訟の問題: 「在留特別許可処分」を めぐって   ここでは出入国管理行政の分野、とりわけ「在留特別許可

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処分」を求める義務付け訴訟が争われた二つの裁判例を紹介 し た。 一 つ は、 「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 と し て 扱 っ た 東 京 地 判 平 成 一 七 年 一 一 月 二 五 日 ( LEX/DB 28131604 ) で、 も う 一 つは「申請型」義務付け訴訟として扱った東京地判平成二〇 年二月二九日 (判時二〇一三号六一頁) である。後者は、異議 の申出権が在留特別許可処分の申請権をも併せ有するとの論 理でもって、在留特別許可処分に関する原告の法律上の申請 権を導き出している。もっとも平成二〇年判決の控訴審、東 京 高 判 平 成 二 一 年 三 月 五 日 ( LEX/DB 25441765 ) で は、 原 審 の判断とは異なって「直接型」義務付け訴訟として扱われる こととなった。   このように「中間型」義務付け訴訟をめぐっては、同じ行 政 処 分 (在 留 特 別 許 可 処 分) で あ る の に も か か わ ら ず、 「申 請 型」 義 務 付 け 訴 訟 と 解 釈 す る か、 「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 と 解釈するかで疑義が生じうる可能性がある。なお減額更正処 分の義務付け訴訟や在留特別許可処分の義務付け訴訟のほか に も、 「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 と し て、 例 え ば ① 住 民 票 記 載 処 分 義 務 付 け 訴 訟 (東 京 地 判 平 成 一 九 年 五 月 三 一 日: 判 時 一 九 八 一 号 九 頁、 東 京 高 判 平 成 一 九 年 一 一 月 五 日: LEX/DB 28132380 ) 、 ② 固 定 資 産 課 税 台 帳 へ の 修 正 価 格 の 登 録 を す る こ と の 義 務 付 け 訴 訟 (神 戸 地 判 平 成 一 九 年 三 月 一 六 日: 判 自 三 〇 三 号 二 七 頁) 、 ③ 既 設 ミ ニ 処 分 場 に つ き 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 と し て 使 用 す る 許 可 処 分 の 義 務 付 け 訴 訟 (千 葉 地 判 平 成 一 八 年 九 月 二 九 日: LEX/DB 25420796 ) 等 も あ る。 こ の よ う に 現 在、 義 務 付 け 訴 訟 の 少 な か ら ぬ 部 分 が、 「中 間 型」 義 務 付 け訴訟により占められており、法律上の申請権の有無、さら にそれに伴う「申請型」 ・「直接型」振り分けに関して、潜在 的な解釈上の問題を提起しているのである。   以 上 ま と め る と、 「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 を 通 じ て は、 実 質的には「申請型」であるにもかかわらず、法律上の申請権 があるとは言い難いがゆえに、 「直接型」と分類されて、 「重 大な損害」要件と「補充性」要件が原告市民に対して課され て し ま っ て い る と い う 構 図 が 見 出 さ れ う る。 換 言 す れ ば、 「中間型」が少なからず見出されてしまうということは、 「申 請型」と「直接型」という二類型制度の立法上の合理性が問 われているのではないだろうか。もっともこの点すでに、水 野 武 夫「行 政 訴 訟 教 育 の 混 沌」 自 正 六 二 巻 九 号 (二 〇 一 一 年) 三八頁以下が、上に挙げた在留特別許可処分の裁判例を挙げ な が ら、 「申 請 型」 と「直 接 型」 と の 区 別 の 不 合 理 性、 と く に後者の訴訟要件を重くすることの不合理性を指摘している ところである。   報告者は、水野氏の批判をさらに深く検討するに当たって は、 「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 の 立 法 趣 旨 の 所 在 が ど こ に あ る のかあらためて確認する必要があると考える。もっともこの 立法趣旨をめぐっては、微妙な理解の対立がみられる。すな わ ち、 一 方 で 村 田 斉 志 氏 (小 早 川 光 郎 編『改 正 行 政 事 件 訴 訟 法

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研 究』 ジ ュ リ 増 刊(二 〇 〇 五 年) 一 一 五 頁) は、 そ の 所 在 が、 実体法上の申請権の有無といった、制定法に手掛かりがある かどうかといった形式的な側面にあることを示唆している。 こ れ に 対 し て 塩 野 宏 氏 (『行 政 法 Ⅱ[第 五 版] 』(有 斐 閣、 二 〇 一 〇 年) 二 三 八 頁 以 下) は、 そ の 所 在 が、 第 三 者 に 対 し ての公権力の発動を求めるものであるからという実質的な側 面にあることを示唆している。   ここで仮に立法趣旨の所在を塩野説的に捉えるならば、立 法当時十分に念頭に置いていなかったであろう「中間型」義 務 付 け 訴 訟 に 対 し て ま で も、 「重 大 な 損 害」 ・「補 充 性」 の 両 要件を機械的に適用することは、立法趣旨に黙示的に反する ことになるのではないだろうか。また仮に立法趣旨の所在が 村 田 説 的 に 捉 え ら れ る と し て も、 実 質 的 な 紛 争 類 型 と し て は、 「中 間 型」 も「申 請 型」 も 同 じ で あ る わ け で、 そ れ に も か か わ ら ず 法 律 上 の 申 請 権 が な い か ら と い っ て、 両 要 件 を 「中 間 型」 に 機 械 的 に 適 用 し て 訴 え を 不 適 法 却 下 す る こ と は、 「裁 判 を 受 け る 権 利 の 保 障」 (憲 法 三 二 条) に 照 ら し て 妥 当ではないのではないだろうか。もっとも前者を論証するた めには、今後、義務付け訴訟の立法過程をさらに綿密に検証 していく必要があるし、また後者を論証するためには、行訴 法の訴訟要件規定を憲法論から検討していくためのさらなる 媒介的な議論が必要であろう。 九   対応の可能性   以 上、 「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 の 訴 訟 要 件 に 関 し て は、 少 な く と も「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 が 問 題 と な る 限 り に お い て、何らかの対応が必要なのではないかという主張を導きだ した。こういった対応として、まずは立法論が考えられるだ ろ う。 最 も ド ラ ス テ ィ ッ ク な の は、 「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 の「重 大 な 損 害」 ・「補 充 性」 要 件 を 廃 止 し て し ま う こ と (関 連 し て 阿 部 泰 隆「税 務 訴 訟 活 性 化 の 視 点 か ら み た 行 政 訴 訟 改 革 の あ り 方」 税 理 四 六 巻 一 三 号(二 〇 〇 三 年) 七 頁 参 照) で あ ろ う が、そこまでいかなくとも「中間型」義務付け訴訟を念頭に 置いて訴訟要件を緩和する立法がなされてもよいのではない だろうか。さらに解釈論として、義務付け訴訟二類型制度に つ い て 憲 法 の 観 点 か ら 議 論 で き な い だ ろ う か。 確 か に す で に、 行 政 法 レ ベ ル で の 議 論 を 通 じ て、 「重 大 な 損 害」 ・「補 充 性」 要 件 の 柔 軟 な 解 釈 を 試 み る 動 き が あ る が (山 本 隆 司「訴 訟類型・行政行為・法関係」 民商一三〇巻四・五号 (二〇〇四年) 六 六 二 頁 以 下 参 照) 、 憲 法 レ ベ ル で の 議 論 を 通 じ た 柔 軟 な 解 釈 論 も 考 え ら れ る の で は な い か。 例 え ば、 「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 に 関 し て は、 「裁 判 を 受 け る 権 利 の 保 障」 と い う 観 点 を 踏 ま え て、 「重 大 な 損 害」 要 件 の「限 定 解 釈」 を す る と いった試みがあってもよいのではないだろうか。もっともこ れ ら の 議 論 に 関 し て は、 い ま だ 思 い 付 き の 範 囲 を 出 な い の で、さらに研究していくこととしたい。

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十   質疑応答   以下では、報告後になされた質疑応答の主な内容につき、 報告者のほうで整理した上で記述させていただく。 齋 藤: 「申 請 型」 義 務 付 け 訴 訟 や「直 接 型」 義 務 付 け 訴 訟 と は 異 な っ て、 法 律 上 の 根 拠 の な い「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 を、あえて認知して議論する意義はどこにあるのか。 髙木:税務行政であれ出入国管理行政であれ、判例上「二当 事 者 関 係 × 直 接 型」 の 義 務 付 け 訴 訟 が 分 野 横 断 的 に 問 題 と なっている。報告者は、この問題の独自の性格を浮き彫りに するためには、学問上「中間型」義務付け訴訟というカテゴ リーを新たにもうけて統一的に議論していくのが有益なので はないかと考えた。 宮 原: 裁 判 を 受 け る 権 利 と い っ て も 抽 象 的 な 権 利 内 容 な の で、それのみをもって義務付け訴訟二類型制度の是非を評価 するのは難しい。無理に憲法学の議論に引きつける必要はな い の で は な い か。 例 え ば 既 存 の 行 政 法 学 の 議 論 に 立 脚 し て も、裁量基準を通じて行政裁量が制約されているような場合 に は、 「中 間 型」 義 務 付 け 訴 訟 の 訴 訟 要 件 の 緩 や か な 解 釈 を 導き出すという立論も考えられるのではないか。 髙木:本報告は、もちろん不十分ではあるが、憲法の規範的 要請という観点から既存の行政法問題を考えることにチャレ ンジしてみたものである。ご提案に関しては、訴訟要件と本 案 勝 訴 要 件 と の 区 別 を 念 頭 に 置 く 必 要 が あ る か も し れ な い が、行政規則の外部化を通じて市民に対し事実上であれ申請 権が保障されているとの構成であるならば、行政法の議論と して理解できる。 柴田:憲法学の通説的思考からすると、裁判を受ける権利は あ く ま で も「適 法 に」 裁 判 を 受 け る 権 利 を 保 障 し た 人 権 (立 法裁量を前提とした人権) にすぎないので、この人権のみを根 拠として、現行法の義務付け訴訟二類型制度を消極的に評価 するのはやはり難しいのではないか。少なくとも、義務付け 訴訟の訴訟要件の緩やかな解釈を導き出したいのであれば、 裁判を受ける権利のみならず、他の基本権との関係でも議論 しなければ、立論としては弱いのではないか。 髙 木: 憲 法 一 七 条 の 国 家 賠 償 を 受 け る 権 利 に 関 し て は、 「法 律に定めるところにより」という立法裁量を広く示唆する文 言があるが、憲法三二条の裁判を受ける権利に関してはその ような文言がないということを、あらためて考えてみる必要 が あ る よ う に 思 う。 も っ と も 裁 判 を 受 け る 権 利 プ ラ ス ア ル ファとして、実体的な基本権を論ずる必要性については、ご 指摘の通りだと思う。 成 瀬: 「裁 判 を 受 け る 権 利」 の 問 題 と「司 法 権 の 範 囲」 の 問 題は密接に関連しているはずである。したがって、まずもっ て司法権の範囲をどの程度にまで及ぼすべきなのかという議 論をしておかなければならないのではないか。また「重大な 損害」の有無の判定に当たって憲法違反の有無を重視し、そ

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うすることによって「中間型」義務付け訴訟に関する訴訟要 件の緩やかな解釈を導くという議論が素直なのではないか。 髙 木: 「法 律 上 の 争 訟」 が あ る と 言 え る に も か か わ ら ず、 行 訴法の規定を通じて市民に対し高い訴訟要件のハードルを課 し、それによって裁判による救済を認めないことは、裁判を 受ける権利の侵害のみならず、司法権としての任務を放棄さ せ る も の と 言 え な い だ ろ う か。 「重 大 な 損 害」 の 解 釈 に 当 たって憲法的価値を読み込むという議論に関してはご指摘の 通りで、報告者も減額更正処分の義務付け訴訟の適法性を裏 付けるために、憲法の「租税法律主義」に依拠したことがあ る (拙稿①一〇三頁参照) 。 齋 藤: 「何 人 も、 裁 判 所 に お い て 裁 判 を 受 け る 権 利 を 奪 は れ な い。 」 と い う 憲 法 三 二 条 の 文 言 か ら す る と、 や は り 行 政 訴 訟の訴訟要件の場面において、憲法規範に基づく特別の要請 があるのではないか。憲法学の通説が「裁判を受ける権利」 を 解 釈 す る に 当 た っ て、 「立 法 裁 量」 を 過 度 に 重 視 す る の は 疑問がある。   以上の議論のほかにも、行政の第一次的判断権の意義、行 政訴訟の訴訟要件問題を考えるに当たっての憲法学的なアプ ロ ー チ と 行 政 法 学 的 な ア プ ロ ー チ の 相 違、 「法 律 上 の 争 訟」 の 内 容 理 解、 義 務 付 け 訴 訟 の 性 質 理 解 (給 付 訴 訟 か 形 成 訴 訟 か) 、 三 権 分 立 の 捉 え 方 と 裁 判 所 制 度 の あ り 方 と の 関 係、 義 務付け訴訟の原告適格や処分性の問題など、様々な議論が展 開された。   さいごに、質疑応答を受けての報告者の全般的な感想を述 べさせていただきたい。本報告の趣旨の一つとして、憲法と 行政法との連携が求められている昨今、行政法学専攻の報告 者として、行政法の内在的論理のみにこだわるのではなく、 むしろ憲法の論理を介在させながら、義務付け訴訟の訴訟要 件 問 題 を 行 政 法 外 在 的 に 論 じ て い く こ と を 試 み た も の で も あ っ た。 も ち ろ ん 現 時 点 で こ の 試 み が 成 功 し て い な い こ と は、上に挙げた質疑応答を通じても明らかであろう。とりわ け今回、憲法学専攻の参加者から、憲法学の議論の現状を踏 まえつつ、数多くの有益なご指摘をいただくことができたこ とは貴重な経験であった。もちろんその他の参加者からも、 様々な有益なアドバイスをいただくことができた。この場を お借りして厚く御礼申し上げたい。今後はいただいたご指摘 を踏まえつつ、さらに研究を深めていくこととしたい。 (たかぎ・ひでゆき   法学部准教授)

参照

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〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」

         --- 性状及び取り扱いに関する情報の義務付け   354 物質中  物質中  PRTR PRTR

と判示している︒更に︑最後に︑﹁本件が同法の範囲内にないとすれば︑

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『消費者契約における不当条項の実態分析』別冊NBL54号(商事法務研究会,2004

の会計処理に関する当面の取扱い 第1四半期連結会計期間より,「連結 財務諸表作成における在外子会社の会計