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相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 利用統計を見る

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(1)

相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律

関係について

著者名(日)

岡部 喜代子

雑誌名

東洋法学

41

2

ページ

261-227

発行年

1998-03-15

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000471/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

(2)

東洋法学

相続人の一人が共同相続財産を占有

する場合の法律関係について

岡部

宣口

1 は じ め に

 民法の定める共同相続が定着し、他方、不動産の価額が高騰するなど、 遺産分割の解決に長期間を要することが多くなってきた。それに伴い、相 続開始から遺産分割終了までの間共同相続財産の管理をどのように行うか という重要かつ困難な問題を抱えるにいたった。本稿は、このような遺産 の管理に関する諸問題のうち、占有について生ずる諸間題、特に判例上最 も問題となっている共同相続人の一人が相続財産全部を占有している場合 について検討しようとするものである。  共同相続財産の占有の問題を論ずるに当たっては、本来、共同相続財産 は共有であるか合有であるか、共有としても物権法上の共有と同一の性質 と考えてよいか、共有の本質は分量的に分割された所有権か、制限された 複数所有権か、共有物の管理とは、共有の作用であるか、組合の事業執行 であるかなどの重大な問題をまず、論じなければならないであろう1)。し かし、これを論ずるには今しばらく時間を必要とすること、また、以上の 論点の解決が本稿の論点に必要不可欠とまではいえないことから、以上の 論点に関する考察を一応保留し、共同相続財産の管理・処分については、 民法249条、251条、252条が適用されることを前提に、論を進めたい。 注 1)鷹巣信孝・財産法における権利の構造一共有と合有一 261       (1)

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相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について

ll共同相続財産を占有している相続人(以下「占有相続人」

  という。)に対する他の相続人による明渡請求  1 共有持分権に基づく占有に関する原則  占有相続人に共有持分権のほかに占有権原がないとき、どの立場に立っ ても、占有相続人が何の負担もなく相続財産全部を当然に占有できると解 することはできない。他の共有持分権を害するからである。しかし、だれ がどのように占有するかは、共有持分権を有するということから当然に定 まるものではないので、共有者間の協議によらなければならない1)。つま り、共有持分権に基づく共有物の占有は、共有物全部について可能ではあ るが、持分権の範囲内で占有できるだけであるから、持分権を超える部分 の占有は違法であるということになる。  2 明渡請求の根拠  前述のとおり、相続人の一人が占有を独占するとき、他の共有者の共有 持分権を侵害していることになる。では、共有者が一人で共有財産を独占 占有しているとき、他の共有者は、どのような方法でその独占的利用を防 止することができるであろうか。  まず第一に、相続人がその有する共有持分権に基づく物権的請求権によ り、占有相続人に対し相続財産を独占してはならない旨の請求をすること ができる2)。しかし、非占有相続人の有する共有持分権の占有範囲などの 具体的内容が定まっていないので、占有相続人の占有を排除することはで きないのである。結局のところ、不当利得又は不法行為に基づく損害賠償 などによる金銭的補償によるしかない。  したがって、占有相続人の独占的利用を排除するためには、各相続人の 共有持分権の内容を具体的するための協議が必要となる。その一つの場合 として、占有相続人の占有を排除する旨の協議がなされれば、明渡しが可 能となるのである。占有相続人に共有持分権以外の占有権原がない限り、

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  東 洋 法 学 この協議による定めにより、他の相続人は占有相続人に対し明渡しを求め ることができると解する。  この協議については説が分かれているが、以下の理由により共有物の利 用行為に関するものであり持分過半数によって決議が可能であると解する。  かつては共有者の一人が共有物を占有することを定めることは、利用行 為であり持分過半数をもって決すべきことに特に疑問はもたれていなかっ た3〉。後に、後述の共同相続人による相続財産の占有という論点に関して、 現在の占有者を変更することは変更行為に当たり、全員一致が必要である と解する判例、学説が現れた4)。  しかし、共有物をだれが占有するかを決することは、共有物の性質や形 状をなんら変えるものではないので、変更と解することは文理上無理があ ること、利用行為は占有を伴うことが多いのであるから、占有の排除につ いてこれを変更行為と解すると、利用行為の大部分を変更行為とすること になり、利用改良行為を多数決で決しようという立法の趣旨に反する結果 となること、全員一致を要するとなると、共有物の利用が硬直化するだけ ではなく、早く占有したものが占有し続けることになり結果的にも妥当で ないこと、持分過半数によった場合の妥当でない結果は後記のとおり個別 に救済することが可能であることなどの理由により、持分過半数をもって 決議しうる利用行為と解する。  現にある占有を排除することが変更行為であるという考え方は、被相続 人と同居していた相続人の占有を排除することが妥当でない結果をもたら すことに対する救済理論として考えられたものである。しかし、占有の排 除は必ずしもそのような場合ばかりではなく、例えば、被相続人が一人で 暮らしていて死亡後空き家になっていた家屋に、相続人の一人がだれの了 解をも得ずに入居して占有を始めたが、他の相続人はこれを納得せず、持 分過半数をもって占有相続人の占有を排除する旨定めて明け渡しを求めた という事案を想定してみると、持分過半数による定めはなんら異とするに 足りないのである。  259      (3)

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   相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について  そこで、次に明渡請求するためには、どのような主張立証が必要かにつ いて示した判決を見てみよう。  3 昭和41年5月19日最高裁判決(民集20巻5号947頁)の検討5)  (1)事   案  二男名義で父が購入した土地上の父名義建物で、父親の桑樹匠(指物師) を継いだ二男が父親とともに生活していた。間もなく父親は転居し、上記 建物には二男のみが居住することとなった。その後両者間に紛議が生じ、 仲裁の結果、二男は父親に月2万円を仕送りし、二男が右契約を確実に履 行したときは父は右土地建物を二男に譲り渡し、他の者から異議を述べさ せない旨の契約をした。二男が月2万円の支払いを怠ったので父は右契約 を解除し、土地の共有登記と建物の明渡しを求めた。訴訟の途中父親が死 亡して共同相続が発生した。被告たるこ男の相続分は12分の1、原告父親 の訴訟承継者たる他の共同相続人の相続分合計は12分の11である。当初 の主な論点は贈与の成否であった。  一審は土地についての請求を認めず、建物明渡しを認容した。原審は贈 与を認めず、土地に関する登記請求を認め、建物に関する一審判決を維持 した。原審は、建物の占有権原として、使用貸借契約の存在を認定してい るが、父親からする明渡しを求める調停申立までに解約があったと認定し、 かつ、二男の共有持分権に基づく占有については、「共有者である共同相 続人が持分の価格に従いその過半数をもって建物管理の方法として相続財 産に属する建物を共同相続人の一人に占有させることを定める等かくべつ の事情のない限り、持分の価格の過半数に満たない持分を有するにすぎな い共同相続人は、その建物にひとりで居住しこれを占有するについて他の 共同相続人に対抗できる正当な権原を有するものと解することはできない」 と述べて、他の共同相続人らからの明渡しを認めた。  (2)判   旨  共同相続に基づく共有者の一人であって、その持分の価格が共有物の価

       (4)       258

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 東 洋 法 学 格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者 の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権原を有す るものではないが……が、他方他のすべての相続人らがその共有持分を合 計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといって(以下 このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する 前記少数持分権者に対し、当然にその明渡しを請求することができるもの ではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によっ て、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有する ものと認められるからである。従って、この場合、多数持分権者が少数持 分権者に対して共有物の明渡しを求めることができるためには、その明渡 しを求める理由を主張し立証しなければならない……。  (3)検   討  この判決を二審判決との対比で検討してみると、二審判決が、共有物の 管理に関する定めを、被告が相続財産を適法に占有することができること を根拠付ける抗弁事実としたのに対して、本判決はこれを請求原因事実と したものと解される。明渡しを求めるということは、占有相続人の占有を 排除することである。つまり、占有相続人の共有持分権に基づく占有をも 排除することになるのである。前述のとおり、共有者は共有物を持分の範 囲内で使用できるのである。したがって、これを排除するためにはその旨 の共有物に関する定めを要するのである。請求原因事実又は再抗弁事実で ある6)。  判旨の、「その明渡しを求める理由」というのは、少なくとも、占有者 の占有を排除する旨管理に関する定めをした旨の主張立証を意味している ことは今までの検討からいえるところである。  しかし、共有物に関する定めのみを内容とするものかどうかは、いろい ろな解釈があり得る。  一つは、明渡しを求めるためには、占有態様の不良などの事由を要する という解釈である。福岡高裁昭和51年5月12日判決(判タ341号181頁)を  257      (5)

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    相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について みてみよう。  事案は次のとおりである。相続人の一人が、他の相続人の異議なく相続 財産の建物を単独で(一部賃貸していた部分を除く。)占有し喫茶店を経 営していたところ、借金を支払えずに行方不明になった。債権者が無断で 該建物に侵入したうえ、該建物を第三者(被告・控訴人)に賃貸し、控訴 人が該建物で喫茶店を経営している。その後該建物の持分9分の1は競売 に付され、控訴人が競落して共有持分9分の1を取得した。多数持分権者 である相続人らの控訴人に対する明渡請求に対し、判決は「9分の1にせ よ持分権を有する共有者に対して他の共有者が明渡を求めるには特段の事 由が必要であると解せられるところ、その者の占有の取得の態様を問題に するのであれば、単に権原なく占有を開始したというだけでは足りず、強 暴その他これに類する極めて不公正な方法により占有を奪うことによって 占有を開始したとき初めて明渡しを求める理由があるとするのが占有回収 の訴の要件との対比において正当であると解すべき」と述べている。しか し、占有取得の態様が不公正であることを要求することは、通常の場合、 非占有者の明渡請求を拒む結果となるから、占有していない共有者の権利 が全うされないことになって不当であるし、他の共有持分権者の占有を侵 害するという意味では、平穏な侵害と強暴な侵害とを区別する根拠はない のである。本件では、請求原因として、控訴人の占有が、不法占拠者であっ た債権者から借り受けたことに基づく不法占有であったと主張しているの みである。共有物利用に関する協議については主張がないので、この点で 請求棄却とすれば足りたのではなかろうか。  以上のとおり、多数持分権者が少数持分権者の占有を排除するためには 協議を行い持分過半数により、少数持分権者の占有を排除する旨定めなけ ればならないのである。  では、多数持分権者が協議をして少数持分権者の占有を排除する旨定め れば必ず明渡しが認められるであろうか。次に検討しよう。  これにつき、占有相続人が被相続人と同居していた相続人(以下「同居

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 東洋法学

相続人」という。)の場合に限り、これを共有物の管理の間題ではなく、 遺産分割の問題として考え相続開始時の占有状況を変更しないこととする という考え方がある7)。しかし、遺産分割を前提とした共有は、いずれの 説に従っても共有持分権の譲渡等処分は許されるのでありながら、占有状 況を変更することが許されないとする根拠は見いだし得ない。遺産分割に 関する906条は、相続人はいつでも遺産分割を求められることを規定して いるのみであって、これが、共有持分権の制限を課すなど実体的な効果を もたらすものとは解し得ない8)。  そこで、次に考えるべきは、占有者に共有持分権以外の占有権原がない かどうかである。906条以外には占有権原を基礎付け得る条文はないので、 合意による占有権原の有無を考察する必要がある。  第一に、共有者の一人が、共有者間の協議によって共有物全部を占有す る場合がある。この場合の法律関係については後に述べる(後記V5)。 第二は、共有者の一人が共有関係開始前より占有している場合、すなわち、 占有が相続開始前からなされている場合に何らかの合意があるのではない かということである。第二の場合について検討してみよう。 注 1)梅・民法要義巻乃二物権編192頁 2)大判大正8年9月27日民録25輯1664頁 3)神戸地判昭和37年7月25日下民集13巻7号1563頁、大阪高判昭和38年2 月1日下民集14巻2号153頁、於保「共同相続における遺産の管理」家族法 体系皿九八頁 4)東京地判昭和63年4月15日判時1326号129頁、甲府地判都留支部判昭和42 年12月26日判タ219号167頁、山中・共同所有論53頁、高木・口述相続法338 頁、我妻・民法講義II215頁は、「もっとも、一度共有物を事実上分割して 各自が専用することを定めたような場合には、その者の同意なしに変更す ることはできない場合もありうるであろう」と述べるが、同趣旨であろう か。 5)本判決の判例評釈 奈良次郎・最高裁判所判例解説民事篇氏41年度244頁、 星野英一・法協84巻5号689頁、谷田貝三郎・民商法雑誌56巻1号107頁、

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  相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 金山正信・判例評論96号7頁 6)矢田貝・前掲評釈111頁 7)星野・前掲評釈84頁、奈良・前掲評釈252頁提言 8)岡垣学「相続家屋における居住の保護とその評価一所有家屋に共同相続 人の一部が居住する場合一」家事事件の研究(2)254頁 1” 同居相続人が相続開始後引き続き相続財産を   独占使用する場合の明渡し

 1 非同居相続人

 ここで、便宜のため、非同居相続人が相続開始後も相続財産に居住して いるという場合の法律関係をみておこう。  被相続人が、相続人の一人に自己の財産を無償で使用させたという事例 を考えると、被相続人と使用を許諾された相続人との間で使用貸借契約が 締結されたものと認められる。相続開始後は、共有者の一人であって共有 者として占有していると同時に使用貸借契約に基づいて占有していること になる。この使用貸借の終了時期は契約内容によるのであり、被相続人と の約束が被相続人死亡までということであれば被相続人死亡により終了し、 他の目的・期間の定めがあればその終了のとき終了する。他の相続人は、 被相続人の使用貸主としての地位を相続により承継するので、使用貸借契 約終了までは引き続き貸し続けなければならない。使用を許諾されている 相続人が、これを特別受益として持ち戻さなくてはならないことがあるこ とは別問題である。  他の共同相続人は、持分過半数を以てする使用貸借契約の解約あるいは 解除、又は期間満了等の使用貸借契約の終了を主張し更に管理に関する定 めとして現に占有する相続人の占有を排除する旨を定めて、明渡しを求め なければならない。使用貸借契約が存続していれば占有相続人には共有物 全体を占有する権原があるので、明渡しを求めることもできないし不当利 得等も成立しない。使用貸借契約が存在せず、占有相続人の占有を排除す

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  東 洋 法 学 る旨の共有物に関する管理の定めがあるときは、明渡しを求めうる。使用 貸借契約が存在せず、管理の定めもないときは、明渡しは求められないが、 不当利得が成立する。  ここで前掲昭和41年5月19日最高裁判決を再びみてみよう。  この事案では、占有相続人は同居相続人ではなく、被相続人から建物の 使用借権の設定を受けていたが、その後被相続人は使用貸借契約を解約し たと主張している。もし使用貸借契約の解約が有効で、かつ、共有物の管 理の定めが有効になされ、これを主張立証したならば、明渡しの請求は認 容されることになる。しかし、本件では、明渡しの請求は棄却されている。 管理の定めがないということはもちろんであるが、明渡しを求めているの は圧倒的多数持分権者であるから、明渡しの結論が妥当であれば管理の定 めを釈明などすることもできたであろう。本判決の結論は概ね支持されて いる1)。  何故に支持されているのかを考えてみたい。本件の占有者は、被相続人 の事業(桑樹匠)の承継者であり、被相続人の事業を継ぐために本件建物 に居住をし、被相続人の事業を継続している。事業の後継者であるが故に 使用を許可されたものといえる。その後月2万円の扶養料の支払いと将来 の宅地建物の贈与(条件付贈与予約であろうか。)とが約されたが、扶養 料の支払いをしないので上記契約を解除した、そして、その後に使用貸借 契約を解約したのである。このような事実関係をみると使用貸借契約の解 約が有効であるかどうかは、考慮の余地がある事例ではなかろうか。桑樹 匠を営んでいる間は使用貸借契約の期間中である、もしくは目的は消滅し ていないと解する余地があり得るのではないかと思われる。すなわち、本 件事例では、仮に共有物の管理の定めとして、現在の占有者の占有を排除 する旨定めても、使用貸借の存在により占有権原が認められた可能性があ るのである。このように考えてみると本判決の「その明渡しを求める理由」 は、共有持分権以外の占有権原消滅事由を含む意味にも解せられるのであ る。

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    相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について

 2 同居相続人

 同居相続人の場合は、また別の問題がある。被相続人の所有する建物に、 なんらかの事情で相続人の一人が同居し生活していたところ、被相続人が 死亡し、その後も同居相続人がそのまま当該建物に居住しているという場 合である。今まで、判例で問題になった事例の多くはこの例であり、学説 もこのような事案を中心に論じてきた。この類型の事案では、同居相続人 の居住する建物とその敷地が主要な相続財産であり、多くの場合同居相続 人は事業の承継者であったり、被相続人の面倒を見た者であったりしなが ら、少数持分権者であるという状況により問題を深刻化させてきた。前述 した占有者の変更を変更行為と解する学説判例も、このような事案につき 同居相続人の占有を保護する目的で主張されてきたものである。しかし、 その前にまずは占有権原の有無等個別的な解決を目指してみようと考える のである。  そこで、同居相続人にも前述した非同居相続人と同様に占有権原として 使用借権があるのではないかということが検討されなくてはならない。同 居相続人の占有権原には以下のような問題が存在する。  (1)占有の有無  まず、被相続人所有建物に被相続人が居住しているとき、右土地建物を 占有しているのは被相続人である。その他の同居の家族は、どのような法 律関係に基づいて同居しているのであろうか。一般的には占有補助者とし て独立の占有を有さない者と扱われている2)。  占有補助者について、我妻・民法講義II315頁は、「他人が独立の所持者 たる地位を有せず、全く本人の所持の機関と認められる場合である」と説 明する。営業主と使用人、家族生活の中心にある者とその他の成員などで ある(ド民855)。占有機関ともいう3)。鈴木禄弥・物権法講義三訂版69頁 は、「占有補助者による占有とは、たとえば、乙が甲の家族団体中の子供 や僕ひなどの場合で、現実には乙が物を支配していても、その事実支配の 独立性が弱く、法的には乙は占有者として取り扱われず、甲がみずから直

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 東洋 法学

接に目的物を支配していると見なされ、甲のみが占有者で、占有の効果は、 すべて甲のみに帰属する」と、説明する。  ここには問題が二つある。①占有補助者と独立の占有者とはどのように 区別するのか、②占有補助者はいかなる関係においても独立の占有がない のか、ということである。  ①につき、鈴木教授は、「つまるところは、甲のみならず、乙にも占有 の諸効果を帰せしめることが妥当かどうかによって、この区別がきまる、 と考えるべきであろう。」(鈴木・前掲70頁)という。では、どのような基 準でこれが妥当であるかどうかを決するべきであろうか。独立の占有者と 認めないということは、占有の効果が及ぶ主体とは認められないというこ とである。つまり、占有によって保護されるべき独立の利益を有さない、 そして占有によって負担すべき独立の義務を有さないということであろう。 乙の事実上の支配の利益は甲が得ていることになる関係といってよい。そ うすると、占有補助者といい得るのは、乙が甲の支配ないし庇護下にあっ て甲の事実上の支配内にあるときと解することが可能である。具体的には、 同居の家族関係では、甲に扶養されている乙、甲の親権・後見に属する乙、 甲の本権に潜在的持分しか有さない乙、甲の被用者たる地位にある乙など が考えられる。  一方、実務上、占有補助者という概念は、主に、明渡義務を認めてよい かどうか及びある人に対する債務名義でどの範囲まで執行できるか、また、 占有者としての責任を負わせられるかという問題の解決のために考えられ てきた4)。明渡しを求める者は被相続人のほか同居の家族全員に対する債 務名義を得なければならないのか、否、同居の家族は占有補助者であって 独立の占有がないから不要である、というのである。また、同居の家族は 不法占拠者として明渡しの義務及び損害金支払い義務を負担しなければな らないのか。否、同居の家族は被相続人の占有機関であり、独立の占有者 ではないから、というわけである。つまり、占有者としての責任を負わせ るのが妥当かどうかという観点から判断されてきた。そうすると、本権者

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   相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について が占有しているとき、その同居の家族に独立の占有を認めることは、本権 者の支配下にあるにもかかわらず責任を負うことになって妥当でない場合 が多く5)、本権者の同居の家族は占有補助者であるとある程度定型的に認 められているのが、実務の実情であろう。そして、このようにある程度定 型的に同居の家族を占有補助者とすると、その者に占有者としての利益も 与えられないという問題が生じる。つまり、本件のように、同居の家族で あった同居相続人は、独立の占有がないので使用借権もないということに なりかねないのである。  そこで、次に②の点を考えてみたい。これにつき、鈴木教授は、「甲乙 間の内部関係は、そこでの契約関係・事務管理関係ないし家族関係によっ て律せられ、乙が占有補助者か直接占有者か等には、直接影響されない。 たとえ、乙が単なる占有補助者であっても、乙の現実支配を甲が実力で奪っ てよいか、奪った場合、乙が甲に対し占有訴権を有するか等は、乙ないし 甲と第三者丙との関係とは別個に、各事案につき考えられるべきである」 (鈴木・前掲72頁)と述べられる。債務不履行における履行補助者が、債権 者との関係では債務者の手足と評価される者であっても債務者との内部関 係では独立した契約当事者であるように、占有補助者も、団体外との関係 では主たる占有者の占有を補助するにすぎないが、内部的には、つまり甲 との関係では乙に占有があると考えることはできないであろうか。このよ うに解することができれば、同居の家族も被相続人との関係では独立の占 有者ということができる。占有補助者という概念は、目的物の事実的な支 配を、占有ではなく占有の補助と解することにより、占有を観念化してい るものといえる。観念化を押し進めれば、相対的占有、つまり、第三者と の関係では占有はないが甲との関係では占有があるということが成り立つ かもしれない。  しかし、この考え方は、Aとの関係では事実上の支配がありながら、B との関係では事実上の支配がないことの説明に窮する。占有は、「社会的 秩序の力によって、その人の支配の中に存すると認められることである」

       (12)       250

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  東 洋 法 学 (我妻・前掲214頁)。そうすると、その者の支配にあると社会秩序が認める か否かという一義的な問題であると考えられる。そのように考えないと、 対内的占有者が対外的占有者となるとき対内的占有権原が同時に対外的占 有権原となるのかどうかなどにつき解決困難な間題が生じる。占有が観念 化しているとはいえ、基本的には事実状態に基づくものであることも理由 の一つに挙げられるであろう。  以上をまとめると、同居相続人の占有の有無については、独立の占有の ない占有補助者と解されることが多いということになる。しかし、同居の 相続人だから必ず占有補助者になるとはいえない。例えば、長年別に居住 していた長男が、被相続人の面倒を見るため同居したが、その際被相続人 所有家屋を増改築して二世帯住宅とした、という場合には長男に独立の占 有があると認められる2)。また、同様に被相続人の面倒を見るために独身 の長女が被相続人の世帯員となって非相続人所有家屋の一室に入居したと いう場合を考えてみると、扶養もしくは無償の労働契約はあるが、独立の 占有はないということになろう。  (2)使用貸借契約の有無  同居相続人が独立の占有者であるとき、同居相続人は、被相続人より使 用を許諾されているのであるから使用貸借契約が存在すると認められる。 被相続人死亡後も同居相続人は引き続き使用借主であり、他の相続人は被 相続人の使用貸主たる地位を承継する。  占有補助者の場合は、被相続人死亡と同時に占有者の占有が消滅し、同 居相続人は、独立の占有者として顕れることになる。占有補助者であった 時代は独立の占有がないのであるから、占有権原を考える必要はない。し かし、独立の占有者として顕れた後は、占有権原の有無を考える必要があ る。  同居相続人が同居するには、様々な事情があろう。まず、妻のように同 居義務があって同居している者、被相続人を扶養するため、看護するため、 被相続人の事業を助けるため、あるいは、逆に被相続人が同居被相続人の

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   相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 面倒を見るため、などが考えられる。これらは、契約関係としては、夫婦 関係、扶養、無償の労働契約、雇用契約などである。これと同時に何らか の占有権原に関する約定はなされないのであろうか。  被相続人と同居相続人とは、同居相続人が同居するに当たり、あるいは 同居を継続するに当たり、その目的の継続する限り同居相続人が該建物に 居住することを前提としているはずである。なぜなら、該建物に居住する ことが当事者の定める目的達成に必要な手段と双方が認識し、そのような 意思をもって居住を開始するからである。この居住は無償である。該建物 に対する無償居住の許諾はすなわち無償使用の合意である。これは使用貸 借契約にほかならない。すなわち、前記扶養等の契約と同時に、目的の存 在する範囲で使用貸借契約が締結されたものと認めることができる7)。し かし同居相続人が独立の占有を取得するまで、その使用借権は効果を生じ ていないだけである。そして同居相続人の占有が発生すると同時に、使用 貸借契約が効力を生じ、同居相続人は使用借権を取得する。  つまり、被相続人と同居相続人とは、同居相続人が同居するとき、ある いは同居を継続するときには、使用貸借契約を締結する。同居相続人が占 有補助者であるとき、その使用貸借契約は、同居相続人が独立の占有を取 得するとき、多くは被相続人死亡時に効力を生じるもの、すなわち非相続 人死亡時を始期とする使用貸借契約であると解することができる。  (3)使用貸借契約の存続期間  では、この使用貸借契約の終期はいつであるか。目的があって同居する のであるから、同居の目的の終了時と考えるのが論理的である。  例えば、被相続人に雇われて身辺の面倒をみていた家政婦は、占有補助 者であり、かつ、被相続人死亡により目的終了により原則として終期に達 する。被相続人に雇われて、被相続人の事業に従事していた使用人は、事 業が継続し、その事業について承継者が定まるなど新しい法律関係が設定 されるまでの間使用貸借は継続し、被相続人死亡後も事業に従事するため の占有に限り違法とはいえないであろう。では、同居相続人の場合も使用       (14)       248

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 東 洋法学

人と同様被相続人介護のための同居であれば被相続人死亡による目的消滅 により終期に達するのであろうか。  被相続人は、自己の死亡後、相続人がどのように生活していくのか考慮 しているのが通常である。被相続人がこれを定めておきたいと考えれば遺 言をしておくであろうし、それがないときは相続人の話し合いに任せる意 思であると推測できる。話し合いができないときに裁判によって定められ るのはやむを得ないところである。そして、被相続人がそれを考慮する前 提となっている生活状況は、相続開始前の被相続人と相続人の生活状況で ある。そうすると、被相続人の意思は、相続開始前の状況のまま、相続開 始後に話し合いなどをして最終的な結論を出してほしい、と考えていると 推測することができるのである。  相続財産をどのように分けるかを定める手続は遺産分割である。遺産分 割によって、相続財産がだれにどのように属するかが決定する。遺産分割 が終了するまでの状態というのは、暫定的な状態である。暫定期間中は相 続開始直前の状況を継続させることが被相続人の意思であろう。同居相続 人に異議あろうはずはない。被相続人が望む相続開始直前の状況は、同居 相続人が引き続き居住家屋に居住し続ける状態である。この状態を現出せ しめるのが前記使用貸借契約である。両者の意思を推測すれば、その終期 は遺産分割の終了時ということになる。  以上のような考え方は、遺産分割までの占有の変更を原則として認めな い点で、前述した遺産分割の間題として処理すべきであるとの説と一脈通 じるものがある。しかし、根拠が異なるのみならず、使用貸借説は、同居 相続人の占有は占有権原ある適法なものであるから不当利得・不法行為は 成立しないが、遺産分割の間題説では、この点は不明である。後に不当利 得の成否の項で検討する。  では、次に使用貸借説に立つ注目すべき最高裁判例について検討しよう。

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  相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 注 1)矢田貝・前掲評釈115頁は疑問を述べられる。 2)我妻・前掲315頁 3)独民855条「家事上若ハ営業上又ハ類似ノ関係二於テ、物二関シ他人ノ指 図二従フベキ物ガ、他人ノ為二物ノ事実的支配ヲ行使スルトキハ、其ノ他 人ヲ以テ占有者トス。」(於保不二雄・独逸民法III物権法13頁)、Hans Josef Wieling・Sachenrecht Band I p.155頁 4)大審院昭和10年6月10日判決民集14巻1077頁、最高裁昭和35年4月7日 判決民集14巻751頁、鈴木重信・注解民事執行法(5)54頁、富川照雄「夫 に対する債務名義に基づく妻の占有の排除」192頁 5)前掲最判昭和35年4月7日参照 6)養子の例であるが、東京地裁昭和61年6月27日判決判時1227号69頁、そ  の他後記笹村論文参照 7)猪瀬慎一郎「共同相続財産の管理」現代家族法体系5・10頁 IV 同居相続人たる占有者に対する不当利得請求  1 最三判平成8年12月17日(民集50巻10号2778頁1))  (1)事   案  被相続人丁原太郎は、相続人妻ハナ、子丁原一郎、二郎、三郎、甲野花 子、丁原秋子、乙山春子、丙川夏子の8人を残し、昭和63年9月24日死亡 した。被相続人は、その所有する不動産及び商品、什器備品、売掛債権そ の他一切の財産を、次のとおりの割合で相続人に相続させ、甲野松夫に遺 贈する旨の遺言をしていた。   一、 一郎、二郎、三郎、ハナに各16分の1   二、 花子、秋子に各16分の3

  三、 甲野松夫、春子、夏子に各16分の2

 ハナは、自己の持分を一郎に譲渡し、現在の一郎の持分は16分の2であ る。  ところで、被相続人は、遺産である建物において、一郎、二郎とともに、

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 東 洋 法 学 家族として同居生活をすると同時に、二輪車の修理販売業を営んでいた。 相続開始後、分割協議がなされたが調わなかった。一郎と二郎は遺産の土 地建物を全部占有している。そこで、松夫、花子、秋子、春子、夏子が原 告となって、①本件土地建物につき競売の方法による共有物分割、②一郎、 二郎に対し、不当利得としての賃料相当額の支払いを求めて地方裁判所に 訴えを提起した。  一審判決及び控訴審判決は、①の点について、本件遺言は、「相続させ る」との文言が使用されているが、全遺産について相続人ら全員に割合的 に相続させることを指示しているのであって、仮に遺言によって直ちに遺 産承継の効果が生ずるものとすれば、全遺産の共有状態が生ずるにすぎず、 遺産分割手続を経由させる意味が薄いという、最高裁判決(平成3.4.19) の基礎となる事情がない。むしろ、遺産分割の理念が生かされるべき場合 である。遺言者の意思を付度してみても、全遺産を全相続人らによる共有 としたい意思とみるのは、合理的な意思解釈といえるか疑問である。本件 遺言は相続分指定と解すべきである。そうすると、家庭裁判所の審判によっ てその分割をなすべきである。旨判示して不適法却下した。 ②点につい て、共有者はその持分に応じて共有物を使用することができるのであり、 共有者の一部の者が独占的にこれを使用している場合、無償の使用の合意 がなされているときは別として、占有使用していない他の共有者は、法律 上の原因なく占有使用者の利得の限度で損害を受けていることになるから、 他の共有者らは、その共有持分権に応じた不当利得の請求ができる、と述 べて原告全貝で合計24万円の賃料相当損害金の請求を認めた。  これに対し一郎、二郎が上告し、上告理由は、原判決は格別の合意があ れば不当利得にならないといっているところ、本件では、丁原モーターが 賃料を払っていたことが格別の合意であり、何らかの有償契約が存在する ので不当利得ではない、一郎と二郎が、一人が、被相続人の家業を承継し、 守り、従って、その生活の本拠として使用し、しかも、その生活など一切 をみてきた者が、被相続人の死亡により、突然に、不法占拠になるとか、  245      (17)

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    相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 不当利得になるというのは、法常識よりしても、納得できない結論である、 旨主張した。  (2)判   旨  相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に おいて被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人 と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、 遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続 き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認 されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺 産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人が貸主とな り、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借関係が存続することに なるものと解すべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場で あり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、 遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権限を与えて相続開始前と 同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の 相続人の通常の意思に合致すると言えるからである。  (3)検   討  ① 本件では、いわゆる割合的相続させる旨遺言及び割合的包括遺贈が   なされており、その効力が問題となっている。前掲最高裁平成3年4   月19日判決は、特定物相続させる旨遺言について、遺産の分割方法の   定めと解し、かつ、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時   (遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続によ   り移転するものと解すべきである、と判示した。次に、全部包括遺贈   の効力につき、最判平成8年1月26日(判時1559号43頁)は、遺言者   の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に   掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その   限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからであると判示   し、割合的包括遺贈又は割合的相続させる旨遺言については、最高裁

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 東 洋 法 学  の判断はない。本件一審は相続分指定遺言と解した。この点にっいて  は上告がない。前記一審判決の述べる理由は、高裁も支持していると  ころであり、説得力もあるので、同様に解したい。   そうすると、本件の割合的包括遺贈及び割合的相続させる旨遺言に  より、共同相続人は指定相続人により共同相続することになるから、  遺産共有となる。そこで本題に入ることになる。 ② 同居相続人の占有権原  ア 共有持分権   本件の占有者である一郎と二郎は、一郎16分の2、二郎16分の1の  共有持分権を有する少数持分権者である。占有していない多数持分権  者合計16分の12の共有持分権者(原告となっていない相続人が1人  いる。)は、一郎らに対し、当初より、明渡しではなく不当利得に基  づく賃料相当損害金の支払いを求めている。従前述べてきたとおり、  共有持分権を有する者は目的物の全範囲を占有することができるが、 他の共有者の持分を侵害することはできない。したがって、本件事案  において、一郎、二郎に、他の占有権原がない場合は、16分の13部分  の占有は、占有権原のない違法な占有であるから、その部分に関する  不当利得が成立することになる。すなわち、同居相続人の側からみれ  ば、共有持分権は共有物全部についての有効な占有権原とはなり得な  い。  イ 使用貸借   では次に、占有権原として使用借権が認められる場合があるのでは  ないか、検討してみよう。  i 占有の有無   本件において、一郎、二郎が同居を始めた経緯は詳らかではないが、  判決文によると、少なくとも昭和54年には同居して被相続人が経営す  る二輪車の修理販売業に従事し昭和63年に被相続人死亡後も本件不  動産に居住していること、一郎と二郎は税務申告上本件不動産の地代

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 相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 家賃を年額12万円から36万円と記載しているが、それが実際に支払 われているとしても家族として同居生活していたなどの事実による生 活費ないしは固定資産税の一部とみられること、本件不動産は土地の 地積が73.15平方メートル、建物の床面積が1階2階とも24.79平方 メートルであること、野山調査官の解説によれば、被相続人はすでに 引退し一郎と二郎が家業の中心であった、というような事情があるよ うである。そして、一審、二審、最高裁と、いずれもが一郎、二郎は、 被相続人と家族として同居していたものと認定している。被相続人が すでに引退しているところからすると、被相続人の支配が及んでいる か若干の問題なしとしないが、おそらくは家業と居住とが分かちがた く結びついており、被相続人の興した事業に従事してきたものであろ うから、被相続人の支配が及んでいるものとみられる。  このような状況のもとでは、一郎、二郎は被相続人の家族として、 被相続人の占有補助者であると認めて差し支えないものと考える。す なわち、被相続人存命中は一郎、二郎に独立の占有はない。一郎、二 郎は、被相続人死亡と同時に被相続人の占有が消滅したことにより、 被相続人の支配を脱したので、独立の占有者となる。 ii 使用貸借契約の有無  本件において考え得る占有権原は二つある。賃貸借と使用貸借であ る。賃貸借は、一郎らが主張するところで、前述した税務申告を根拠 にしている。しかし、支払い自体が認定されていない上、廉価にすぎ るところから認められないと思われる。  次に、使用貸借である。本事案においては、同居の開始時期が明ら かでないが、一審以来の判決文を読むと、相当長期間の同居であると 思われる。そうすると、被相続人と一郎らとの間で契約があったのか どうか、どのような契約があったのかについては、明らかにしにくい 面がある。しかしながら、扶養を要しなくなった子が、親の事業を継 いでいくのかどうか、親と同居を続けるのかどうかは重大間題であり、       (20)       242

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東洋法学

特に他に子供がいる場合には話し合いがなされるのが通常である。何  らの話し合いもなくあたかも当然のように同居を続けたとしても、同 居をすること、無償であることという点に関する双方の意思の合致が あることは認められるのである。後者においては、黙示の使用貸借契 約ということになろう。本件では事実関係が不明であるので何ともい  えないが、少なくとも税務申告上賃料支払が記載された昭和54年には 使用貸借契約が締結されたものと認めることができよう。  終期は、事業が継続されていることからも遺産分割終了時と認定す  ることに特に問題はない。本件では、昭和62年に被相続人が遺言をし ており、その内容が同居相続人の相続分を法定相続分より少ない遺留 分相当額(身分関係がはっきりしないので推測である。)とするとい  うものである。事情は不明であるが、被相続人の意思に何らかの通常 の意思と異なるところがあるのかもしれない。しかし、前述のとおり、 相続開始後遺産分割まで、相続開始の時の状況を変更させないことは、 通常、被相続人の意思と認められるのであって、これと異なる認定を するには、相当明確な事情を要する。  以上の結果、被相続人と一郎及び二郎との間に、被相続人死亡時を 始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が存在していると認 定することができる。  本判決の示す「被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割に  より右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同 居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認さ れる」理由は、以上のようなものではないかと思われるのである。

③不当利得の成否

 上記認定によれば、一郎、二郎には使用借権があるから占有は適法 であり、不当利得は成立しない。  不当利得が成立すると、1カ月24万円もの多額の不当利得金を支払  わなければならなくなり、一郎、二郎の生活が成り立たなくなる。こ

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 相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について れは、被相続人の意思にも反し、また、遺産分割前に相続開始によっ て生活の基盤を失わせるような急激な変化をもたらすことになって不 当である。  2 本判決に対する批判  (1)理論的批判  中川教授は本判決の評釈において、「被相続人の死亡後に引き続いて維 持されることは、形式論としては、むしろ困難であろう。すなわち、形式 的に被相続人の死亡の時点で、無償使用の根拠というべき同居相続人の地 位、したがって、使用貸借上の地位、扶養当事者としての地位、占有補助 者としての地位を失うことになる。」と述べられ、「居住の利益と利用利益 の分配の側面」では、同居相続人の居住の保護との関連では前者が重視さ れる。しかし、「無償使用といっても、それを典型契約としての使用貸借 の枠に押し込める硬直化した構成をとるべきではない。」とされる(中川・ 前掲194頁)。確かに、本判決のような構成がある程度擬制的・技巧的なも のであることは否めないところである。他の占有権原が認定できる場合は 別に使用貸借を推認する必要はない。しかし、使用貸借は、多くの場合、 当事者の無意識的な無償使用に根拠を与えるものである。ただで使わせて やっている、死んだ後出ていかせるとは考えていないという実体を、法的 に使用貸借と構成しても、不自然ではあるまい。  高木教授は、「同居相続人には、遺産分割までの居住を保護すれば十分 であり、……居住利益を独占することを正当化する事は妥当ではない。」 と結論に反対される他、法律構成についても「自己の死後の法律関係を生 前に定めうるのは、現行法体系の下では、遺言か死因贈与であり、「使用貸 借権の設定」を贈与と解することができれば、これも一種の死因贈与と見 ることができるが、通説は、使用貸借権の設定を贈与とは見ておらず、……」 疑問が多いと指摘される(高木・前掲評釈87頁)。まず、法律構成であるが、 遺贈と死因贈与以外の設定が全く認められないのかどうかは別として、使

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 東 洋 法 学 用利益の授与として、使用貸借契約の効力を認める余地は十分存在する。 また、生前に使用貸借の効力が発生しない理由が独立の占有を取得できな いということであるから、死後に効力を発生させることによる弊害という ことは存在しないのである。当事者間の本件のような態様による使用貸借 の効力は認められてしかるべきである。  (2)妥当でないとの批判  次に、同じ相続人でありながら、なぜ、被相続人と同居していただけで、 相続人死亡後も無償でその建物に居住できるのか、相続人間の平等に反す るとの反論は本質的である。確かに、一般的に、同居相続人のみが使用利 益を独占できる合理的理由は見い出し難い。これに対しては、相続人間の 平等は遺産分割により実現できるのであり、遺産分割までの間、相続開始 時の状況をそのまま継続し、できるだけ速やかな分割を進めるのが法の趣 旨であるというほかはない。そこで、この間の利益の調整については、遺 産分割において調整が可能となる以下の方法を提案したい。  すなわち、死後に使用貸借権という権利を同居相続人に与えることは、 死因贈与に類似し、死亡を原因とした利益の授与であるから、生前に相続 人の一人に使用借権を与えることが特別受益となりうる2)のと同様に、 特別受益となりうると解するのである3)。同居相続人にその利益を与える ことが相続人間の不公平をもたらすものであれば、使用貸借相当利益の持 戻しをさせる。その利益の授与が合理的であるときは、寄与分の報償或い は、持戻し免除の推認などにより、持戻しを認めない。このようにして、 相続人間の不公平は遺産分割によって最終的に調整されることになる。使 用貸借権の付与は贈与と解されていないが、特別受益といえるかどうかは 贈与契約が成立したかどうかという問題と同一ではない。被相続人の損失 において相続人が利益を得、その利益が相続分の前渡しと認められるもの であるかどうかにより判断されるべきものである。そうであれば、使用利 益が相続財産から逸出し、占有相続人がこれを取得するのであるから要件 を満たすものである。もっとも、評価の方法については期間が不確定であ

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    相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について ることもあり考え方の相違があろう。  この使用貸借契約の終期は遺産分割終了時であるから、具体的相相続分 算出時における該建物の評価は使用貸借価額を差し引いた額となり、分割 方法を決定する段階では分割時の価額すなわち使用貸借価額を差し引かな い額となる。したがって、特別受益性を肯定して持戻しを認めれば、使用 貸借利益は遺産分割時には取得できないこととなり、相続人間の公平を図 ることができる4)。  これに対し不公平を是正するために、同居相続人に賃料相当額の支払い を命ずるときは、同居相続人は経済的負担に耐えられずに生活の本拠を失 うことにもなりかねず、かえって公平に反する結果となる。また、同居相 続人以外の相続人は、被相続人死亡により、被相続人が得ていなかった利 得を突然得ることができることになるのであって、これもまた合理的なこ ととは思われない5)。  3 遣産分割の問題として処理すべきであるとの説  遺産分割の問題として処理すべきであるとの考え方は、基本的には占有 関係を固定して遺産分割に支障を来たさないようにする、との考え方であ るから、占有が違法であるかどうかにはかかわらないように思える。  東京高裁昭和45年3月30日判決(判時595号58頁)は、被相続人と同居し て旅館を経営していた後妻である同居相続人に対し、先妻の子らが月額3 万4233円の割合による損害金を請求したものである。後妻に対して該建 物(特定物)を相続させる旨遺言があった事例であるが、特定物相続させ る旨遺言に関する最高裁平成3年4月19日判決(民集45巻4号477頁)前の 判決であるため、遺産分割がなされるまでは未だ法定相続分による遺産共 有の状態であると解された。この状態における占有につき、遺産分割前の 共有持分の権利性が極めて不動的・潜在的であるとの理由で、「共同相続 人中の一人が相続開始前より引き続き相続財産に属する建物を使用収益し ているとしても、それによって直ちに相続開始時より遺産分割までの間使

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 東洋法学

用収益しない相続人が右建物に対してもつ相続分(共有持分)を故なく侵 害し不法行為を構成するものと解することはできず、」と判示している。 不当利得についてはふれていない(主張に含まれないと解したのであろう。) が、「最終的遺産分割までに右利益の帰属に関して特段の定めがなされな かったときは、遺産分割によって右建物につき確定的にして遡及的効果を 伴う所有権を取得した相続人が相続開始時より遺産分割成立の前後にいた るまで右建物を使用収益した相続人に対し、不当利得の返還もしくは不法 行為による損害賠償を請求することが可能である」とも判示するので、遺 産分割までは不当利得も認めない趣旨であろうと思われる。つまり、遺産 分割の間題説からすると、最終的には不当利得となるが、遺産分割までは ならないとなるのであろうか。 注 1)本判決の評釈 野山宏・ジュリ1111号197頁、高木多喜男・ジュリ1113号 86頁、右近健男・判タ940号92頁、中川淳・判例評論463号193頁、高橋朋子・ 法学教室202号118頁 2)田中壮太・岡部喜代子・橋本昇二・長秀之・遺産分割事件の処理をめぐ る諸問題司法研究報告書45輯1号261頁 3)反対・都築民枝「建物の無償使用収益と特別受益、寄与分」判時1605号

 4頁

4)例・建物価額 1000万円、使用貸借価額100万円、相続財産該建物のみ、  相続人子2人、うち一人占有という事案を想定する。  持ち戻さないとき 相続財産の価額 1000万円一100万円=900万円

        具体的相続分 900万円÷2=450万円(1対1)

        取得額1000万円÷2=500万円

      双方とも500万円ずつ取得する。

 持ち戻すとき 相続財産の価額

      1000万円一100万円+100万円=1000万円         具体的相続分 1000万円÷2=500万円        500万円一100万円=400万円

       (4対5)

        取  得  額

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  相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について       1000万円×400/900=444万円(占有相続人)       1000万円×500/900=556万円(非占有相続人) 5)右近・前掲評釈は結果も妥当であると支持される。 V 残された問題  1 使用貸借契約の終了原因に関する問題点  以上のとおり、被相続人と同居相続人との間には使用貸借契約が認めら れ、その始期は、独立の占有ある同居相続人については同居のとき、占有 補助者については独立の占有を取得したとき、多くは被相続人死亡のとき、 終期は遺産分割の終了時ということになる。上記使用貸借契約の終了時期 に関する問題点についてふれておきたい1)。  (1)遺産分割の終了  被相続人と同居相続人との間の使用貸借契約は、遺産分割の終了までと いう期限付きであるから、期限の到来により終了する。  遺産分割の終了とは、協議の成立又は審判の確定である。履行は含まな い。  (2)同居相続人の死亡  借主の死亡は使用貸借契約の終了原因であるが(民599条)、同居相続人 生前からの同居相続人があればなお、遺産分割終了まで継続すると解すべ きであろう2)。  (3)借主の解約  規定はないが、自由になしうると解する。貸主に損害を与えることのみ を目的とする解約が、権利の濫用に該当するとされることがあり得るかも しれない。  (4)貸主の解約権  期限が定められているのでその間は原則として解約できない。

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 東 洋 法 学 (5)貸主の解除権

①用法違反

  同居相続人に、上記使用貸借契約の目的に背く行為があるときは、用  法違反により解除できる(民594条)。   ア 同居相続人が占有をやめたとき、例えば引っ越しをしたとき   イ 同居相続人が居住家屋の使用を第三者に許したとき。賃貸借、使    用貸借、全部、一部を問わない。   ウ 工作物の設置、新たな建物の築造、増築、大規模な改築、建物な    どを損壊させる行為など。   工 例えば、住居として使用していた建物で、事業を始めるなど、使    用の態様を変えたとき。   要するに、使用貸借の目的が暫定的な状況である相続開始直前の状況  を維持することにあるから、これを変動させる行為は、用法違反になる  のである。ただし、その範囲を超えるものかどうかは、画一的に決まる  ものではなく、他の相続人及び遺産分割との関係を考慮した幅のある判  断となろう。  ② 信頼関係破壊   継続的契約関係の一つとして信頼関係が破壊された場合は解除できる  3)。具体的事情による。  (5)使用貸借契約の解約又は解除の方法 共有物に関する使用貸借契約の解約又は解除は共有物の管理行為である。 なぜならば、それは、共有物の性質を変更するわけではなく、利用するも のだからである4)。  したがって、持分過半数による相続人の決議を要する。  決議をした相続人の意思表示に要素の錯誤、詐欺、強迫などがあったと きは、当該相続人の意思表示がなければ持分過半数にならない場合は決議 は無効である。  有効な決議に基づいて解除の意思表示をなし、これが到達したとき、使

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    相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 用貸借契約は終了する。  決議に参加した相続人が、決議の後、気が変わり使用貸借を継続しよう と考えたとしても、決議が有効である限り、決議の効力を覆滅することは できない。過半数の同意を得られたとき、再び使用貸借契約を締結するこ とができるだけである。  2 管 理 費 用  遺産の管理費用は、原則として相続人が負担する5)。相続人と占有者と の間で使用貸借が存在するとき、使用借人は通常の必要費を負担する(595 条1項)。その他の費用については、使用借人は、非常の必要費は支出し た額、有益費はそれによる価額の増加が現存する場合に限り、貸主の選択 により支出した額又は増加額の償還を請求することができる(同条2項)。 管理費用の多くは必要費であろうから、使用借人たる同居相続人が負担す ることとなり、利益の帰するところに負担も帰することとなり妥当な結果 となる。非常の必要費、例えば風水害の被害の修繕費6)及び有益費は、 これにより相続財産の価値が増加するのであるから占有していない相続人 が相続分に応じて負担することも是認できるのではないだろうか。  3 同居相続人の占有する建物が被相続人の賃借物件である場合  本稿の立場からすれば、同居相続人は相続人が有する賃借権の転使用借 人となるのである。したがって相続人は同居相続人に対し使用借権の終了 を主張立証しない限り明渡しを求めることも、不当利得返還請求をするこ ともできない。  原則として管理費用を同居相続人が負担することは前記のとおりである。  一方、相続人は、被相続人の有していた賃借権を相続するので、当然な がら賃料支払義務も相続する。そうすると、同居相続人は、居住しながら 賃料は相続分に相当する金額だけ支払えばよいということになる。使用借 権がない場合は、非同居相続人は同居相続人に対して賃料相当額の不当利

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 東 洋 法 学 得金を請求し、それにより実質的に、占有者が賃料を負担することになる 7)。使用借権があれば、不当利得返還を求めることはできない。非同居相 続人は賃料支払義務のみ負担することになる。この調整には、一つは、賃 料を、賃借権保存のための必要費と解して使用借人たる同居相続人に負担 させるか、二つは、遺産分割時の調整に任せるかという方法しかない。結 論を留保したい。  4 同居相続人の占有する建物が被相続人の使用借物件である場合  例えば、被相続人が被相続人の経営する会社所有建物に無償で居住し、 相続人の一人が同居していた場合などに考えられる。  前記3同様、本稿の立場からすれば、同居相続人は相続人が有する使用 借権の転使用借人となるのである。したがって相続人は同居相続人に対し 使用借権の終了を主張立証しない限り明渡しを求めることも、不当利得返 還請求をすることもできない。原則として管理費用を同居相続人が負担す ることは前記のとおりである。賃料もないので、その余の問題も生じない。 もし、この場合、同居相続人の使用借権を認めないと、他の相続人に対す る不当利得が発生することになろう。  5 他の共同相続人間の占有に関する紛争  本稿の立場、使用貸借推認がいかなる事案について適用可能か、という ことを検討しておこうと思う。  (1)相続させる旨遺言による共有  前掲最判平成8年12月17日事案においては、被相続人が、割合的包括相 続させる旨遺言をしていたところ、その趣旨は相続分指定と解され、相続 人の占有は遺産分割前の共有に関する占有の問題となった。  本稿の立場では、使用貸借契約の存在が推認されるから、右使用貸借の 終了原因がない限り目的物全部の占有は適法であり、不当利得は成立しな い。右使用貸借権を得たことによる利益は特別受益性の有無により遺産分

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   相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について 割により調整される。  相続させる旨遺言に関する、前掲平成3年最高裁判決以後においては、 相続させる旨の遺言は一部分割と同様の効果を生じさせるので、割合的特 定物相続させる旨遺言、例えば、特定建物を3分の1ずつ相続させる、と いう遺言であれば後記遺産分割が終了した後の問題となり、特定物を相続 人の一人に相続させる旨の遺言がなされ、これに対して遺留分減殺があっ て生じた共有の場合は、後記遺留分減殺後の共有に関する問題となる。  (2)遺産分割後の共有  遺産分割により、使用貸借契約は終了するので、以後は遺産分割により 定められた法律関係によることとなる。遺産分割により共有とされた場合 は、物権法上の共有であることに争いはない。  興味ある事例を取り上げよう。東京地裁昭和63年4月15日判決(判時 1326号129頁)である。長男夫婦が両親と同居していたところ、父親である 被相続人が死亡した。遺産分割協議の結果、該建物は、妻32分の16、長女、 長男、三男が各32分の3、二女、二男、三女が各32分の2の割合の共有と なった。使用収益方法の定めとして、1階に妻と三男、2階に長男夫婦が 居住することとした。2階に長男夫婦が居住することとしたのは、妻の面 倒を見るためであったところ、面倒を見ているか見ていないかの争いとなっ た。妻、長女及び三男は、協議の上、該建物を妻と三男のみに使用させる ことに決定し、長男に対し、該建物からの明渡しを求めた、という事案で ある。裁判所は、「少なくとも一旦決定された共有物の使用収益の方法を 変更することは、共有者間の占有状態の変更として民法251条の「変更」 にあたり、共有者全員の同意によらなければならないと解するのが相当で ある」と判示して請求を棄却した。  変更行為説には与しないことは前に述べた。しかし、全く協議なしに目 的物を独占的に占有するのと、同意を得て占有する場合とは、法律上の評 価は異なるはずである。すなわち、共有者の協議とは、どのような性質を 有するものかという問題である。

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参照

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