妖怪学講義 : 諸言 : 総論
著者名(日)
井上 円了[講述], 田中 泰麿[筆記]
雑誌名
井上円了選集
巻
16
ページ
15-285
発行年
1999-03-20
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00004736/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja哲攣館第七亭年度講義鋒
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妖怪学講義
Lサイズ(タテ×ヨコ) ’ 222×148㎜ 2.ページ 総数:361 再版につきて一言を題す・合本 総目録・緒言・緒言に題す・参 考書目拾遺:49 目録:10 本文:302 3.刊行年月日 初版:明治26年11月5日 ∼明治27年10月20日 再版:明治29年6月14日 底本:三版 明治30年8月5日 4.句読点 あり 5.その他 (1)初版は『哲学館講義録』の 「第7学年度妖怪学」として発 行された。その第1号・第2号 (第1冊)が明治26年11月5日 発行され,毎月2回2号ずつ2 冊発行されて,明治27年10月20 日,第47号・第48号(第24冊)を もって完結した。その各冊に /.、.、.;一…i霧 t .t、t、 無、経灘幕r義港之 上 田 捨 井£、・職丁鱒追r、 纏⋮本和一速W鎧∼稲 =纂一幕 定提驚 簿一濃田磐諭⑨本鴛自島篭βす、一繊o㊨個セ槙稜ば℃翼灘②苗宿を債ゑ砕総 叙す6貝音転■に一大伏魯②●田思して^扉0上忠績は◇oOあ6を瓦蕉龍垣 灘●爵轍竈黄灘数臼董砲之事茸鯵記裳搭を捨鞍蚕育ば舷■嫁設憤擦衷皆虞が 濠ぷ蕩輻○箋々砲.天亀芦芭ろして是ポ厚ちぎ膓培魯な轟も燕ぷ ぼ⑤ボ沖の究泊を館bごピLて■ホ●δ也o蝕反置鳳慧ば法●篇年憾て書ぼ亮 宍三喜惹②灘浪■ルεす“炉却冷鴨●轟∂を見壺苗漁て濠幻幾はくぴ夢蓋恒 せW¢債して苗允直隻殿●ルξ欲して艮¶寅昌ば受驚●旬くん健笑埠ゆ工駄冑 ぷ衷繋叉獄輪宅晃るへ、払疹●る痛憲灘白嚥②聾ばた館蕎醇良氏苦観する騰繕蓄 夢鄭亘ヰ拳泉直冑着嶋する版の鷺ぷ頃友緑鈴録存す6揖隷●晶蔑払て榊尭ぴぼ ︵霧 謡、・ (巻頭)
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「総論」をはじめとして「理学」 「医学」「純正哲学」「心理学」「宗 教学」「教育学」「雑」の各部門が 各数ページ分ずつ分けて掲載され た。 (2)再版は講義録完結後,各冊の 各部を合綴し,それに「緒言」(明 治26年8月24日『妖怪学講義緒言』 として発行された45ページの小冊 子)と「参考書目拾遺」,「正誤」 表および付録あるいは付講を加え て,全8巻全6冊の合本とし,『妖 怪学講義』と題して哲学館より刊 行されたものである。 (3)第三版は本文に異同はなく, 「再版につきて一言を題す」中に ある「緒言に題す」を表題として 掲載したものである。 6.発行所 哲学館妖怪学講義
簾
バ,薫 竺ふ 哲学館主 井上円了肖像再版につきて一言を題す
妖怪学講義 余は、数年来研究せる四百余種の妖怪を八大部門に分かち、一昨年一年間を期して講述し、一時その筆記を印 しよ し 刷して有志諸氏に配布したりしが、その後、四方より続々購読を望まるるものありとて、書犀より切に再版を請 求しきたれるをもって、ここに旧稿のまま再び印刷に付することとなす。再版は購読者の便をはかり、各部門に がつてつ つきてこれを合綴し、目録および付録を増加し、八大部門を合して六大冊となす。しかして、その印刷は余が哲 学館拡張の件につき信州各郡巡回中に着手し、校合も多く他人に一任し、自ら修正を加うることあたわざりしは、 余が遺憾とするところにして、かつ、そのことは読者に謝せざるを得ざるところなり。左に初版﹃妖怪学講義緒 言﹄に題せし序文を掲ぐ。 この緒言中に述ぶるがごとく、余、独力をもって日業の余暇、妖怪研究に従事することここに十年、その 間、自ら四百余種の書類をさぐり、人より四百余項の通知をかたじけのうし、これに加うるに、全国六十余 州を漫遊して実地に見聞したるもの、またすこぶる多し。ゆえにその材料、決して乏しというべからず。し かるに、そのうち事実として取るべきものわずかに十分の一に過ぎざれば、これによりて好結果を得ること はなはだ難しとす。ことに、これらの事実を抽象概括して一学科を組織するがごときは難中の難事にして、 余輩不肖、遠く及ぶところにあらず。ただその端緒を今日に開かんと欲して、拙劣を顧みず、﹃妖怪学講義﹄ を世に公にするに至る。こいねがわくば、四方の博覧達識の士、余が微志を助けて好材料を寄送し、もしく 15再版につきて一言を題す は参考書を指示せられんことを。郵書は東京市本郷区蓬莱町二十八番地、哲学館へ向け投函あらんことを請 う。まず一言を題して、懇請することかくのごとし。 また、左に初版﹃妖怪学講義﹄第一冊に題せしものを掲ぐ。 余の﹁妖怪学講義録﹂を発行せんとするや、世人あるいは、好奇のあまりに出でて無用の閑言語を弄すと なすものあり。それ奇を好み閑言語を弄するがごときは、余の不肖といえども、またあえてなさざるところ なり。そもそも余のここに及ぶゆえんのもの、実にやむをえざるものありて存すればなり。余、常におもえ こうぎよう らく、わが国明治の鴻業、一半すでに成りて一半いまだ成らず、政治上の革新すでに去りて、道徳上の革新 いまだきたらずと。方今、天下法律いよいよ密にして道徳日に衰え、郷曲無頼の徒、名を壮士にかり、もっ きけつ て良民を虐するものあり。不学無術ほしいままに時事を議し、誰講陰険至らざるなく、居然政事家をもって せいどんかつばく げんぜん 任ずるものあり。黄口少年、乳臭いまだ乾かず、わずかに数巻の西籍を読み、生呑活剥、撮然学者をもって とうぜん おるものあり、利をむさぼりてあくなきものあり。節義の風、廉恥の俗、蕩然地をはらう。これ、あに一大 革新なくして可ならんや。しかして、これを革新するの道、教育、宗教をおいて、はたいずれにか求めん。 し し これ、余が生を宗教界にうけながら身を教育界に投じ、日夜孜々として国恩の万一に報ぜんとするゆえんな り。しかるに世人の教育、宗教をまつゆえんのもの、余うらみなきあたわず。けだし心中の迷雲、知日の光 を隠すによらずんばあらず。余、近年日本全国を周遊して、ますますこのことに感ずるあり。おもうに、世 に妖怪多しといえども、要するに一片の迷心にほかならず。その迷心を去れば、道徳革新の功、またおのず から期すべし。これ、余がさきに哲学館を設け、もって教育家、宗教家を養成し、今また﹃妖怪学講義﹄を 16
発行し、有志諸君とともに講究せんと欲するゆえんなり。その種目は、もとより本館教授するところの学科 による。もし館外員諸君にして、﹁講義録﹂に載するところのほか、さらに疑義の解し難きあらば、よろし く本館内に開設せる妖怪研究会に向かいて質問すべし。その説明は、あるいは﹁講義録﹂の余白に載せ、あ るいは直接に回答せんとす。もし、なお不明に属するものは、先年大学内に開設したる不思議研究会員につ き、各専門家の意見を付して回答することあるべし。 明治二十九年五月
講述 者誌
妖怪学講義 17総目録
総目録
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第第第第第第第第
緒 言
哲学館主 井 上 円 了 述 妖怪学講義 美妙なる天地の高堂に座して、霊妙なる心性の明灯を点ずるものはなんぞや。だれも問わずして、その人間の 一生なるを知る。果たしてしからば、その一生中、森然たる万有を照見するものは実に心灯の光なり。しかして、 その光を養うものは諸学の油なり。ゆえに、諸学ようやく進みて心灯ようやく照らし、心灯いよいよ明らかにし て天地いよいよ美なり。吾人すでに心灯を有す、あに諸学の講究を怠るべけんや。これ余が先年、妖怪学研究に 着手したるゆえんなり。方今、大政一新、文運日に興り、明治の治蹟また、まさに大成を告げんとす。皇化のう そうもシつ るおすところ遠く草葬に及び、余のごとき微臣、なお茅屋の下に安臥して閑歳月に伴うを得。ああ、窓間一線の ろくろく 日光もまた、君恩の余滴にあらざるなし。余輩、あに緑々として徒食するに忍びんや。ここにおいて、積年研究 せる妖怪学の結果を編述して、世人に報告するに至る。けだしその意、同胞とともに一点の心灯をかかげきたり て、天地の活書を読まんとし、かつ自ら満腔の衷情をくみきたりて、国家の隆運を助けんとするにほかならず。 今やわが国、海に輪船あり、陸に鉄路あり。電信、電灯、全国に普及し、これを数十年の往時に比するに、全く か た 別世界を開くを覚ゆ。国民のこれによりて得るところの便益、実に移多なりというべし。ただうらむらくは、諸 ほうこう しんぎん 学の応用いまだ尽くさざるところありて、愚民なお依然として迷裏に彷復し、苦中に坤吟する者多きを。これ余 19がかつて、今日の文明は有形上器械的の進歩にして、無形上精神的の発達にあらずというゆえんなり。もし、こ 言 の愚民の心地に諸学の鉄路を架し、知識の電灯を点ずるに至らば、はじめて明治の偉業全く成功すというべし。 緒 しかして、この目的を達するは、実に諸学の応用、 なかんずく妖怪学の講究なり。国民もし、果たしてこれによ りて心内に光明の新天地を開くに至らば、その功すこしも外界における鉄路、電信の架設に譲らずというも、あ に過言ならんや。妖怪学の研究ならびにその説明の必要なること、すでにかくのごとし。世間必ず、余が積年の 苦心の決して徒労にあらざりしを知るべし。 妖怪学とはなんぞや。その解釈を与うるは、すなわち妖怪学の一部分なり。今、一言にしてこれを解すれば、 ぼうぜん 妖怪の原理を論究してその現象を説明する学なり。しからば妖怪とはなんぞや。その意義、荘然として一定し難 てんぐ し。あるいは曰く、﹁幽霊すなわち妖怪なり﹂と。あるいは曰く、﹁天狗すなわち妖怪なり﹂と。あるいは曰く、 こ り きようわく ひようふ ﹁狐狸の人を証惑する、これ妖怪なり﹂と。あるいは曰く、﹁鬼神の人に懸付する、これ妖怪なり﹂と。あるい は陰火、あるいは竜灯、あるいは奇草、あるいは異木、これ妖怪なりというも、かくのごときは、みな妖怪の現 象にして、妖怪そのものの解釈にあらず。しかして、妖怪そのものの解釈に至りては、けだし、だれも確然たる 定説を有せざるべし。あるいはこれを解して不思議といい、あるいはこれを釈して異常もしくは変態というも、 これみな、妖怪はすなわち妖怪なりというに異ならず。もしこれをもって妖怪の定義とするときは、なにをか不 思議といい、なにをか異常というやを解説せざるべからず。しからざれば、思議のなにものにして、常態のいか なる事柄なるやを考定せざるべからず。しかりしこうして、通俗一般に了解するところによるに、妖怪とは普通 の知識にて知るべからず、尋常の道理にて究むべからざるものをいうなり。しからばさらに問いを起こして、普 20
妖怪学講義 通の知識、尋常の道理とはなんぞや。たとえ知識、道理に高下の別ありとするも、いかなる標準を立ててこの分 界を定むべきや。かくのごとく推問するときは、その結局、知るべからず解すべからずといいてやむよりほかな し。けだし人知の関するところは、なにごとも四面めぐらすに、不可知的の境壁をもってすることを記せざるべ からず。しからば、妖怪は全く不可知的なるか。もし、これを不可知的と断定すれば、これを研究するの愚なる ことを知らざるべからず。しからば、妖怪はよく知り得べきか。もし、これを可知的とすれば、さらに種々の疑 問ありて起こる。これを要するに、妖怪そのもののなんたるを究めてこれに説明を与うるは、すなわち妖怪学の 目的とするところなり。しかしてその定義に至りては、妖怪学本論を講ずるときに詳述すべし。 世人多くは、自己の心鏡に照らして知るべからざるものを妖怪という。ゆえに、甲の妖怪とするものは乙これ を妖怪にあらずとし、乙の妖怪とするものは丙これを妖怪にあらずとす。愚民は、なにを見てもその理を知るべ からず。ゆえに、事々物々みな妖怪となる。学者は、よく愚民の知るべからざるものを知る。ゆえに、その妖怪 を指して妖怪にあらずという。しかれども、もし学者にして妖怪全くなしといわば、これ学者の妄見なり。例え ば愚民の妖怪ありとするは、あたかも船に乗りて自ら動くを知らず、対岸のはしるを認めて真に動くと信ずるが ごとし。ゆえに、学者は大いにその愚を笑う。しかして学者の妖怪なしとするは、あたかも地球に住息して太陽 かくかく の上下するを見、これ地球の動くにあらずして太陽の動くなりと信ずるがごとし。もし赫々たる哲眼を開ききた りてこれを徹照しきたらば、またその愚を笑わざるを得ず。なんとなれば、学者の妖怪にあらずとするもの、ま ちつぜん た一種の妖怪なればなり。仰いで天文を望めば、日月星辰、秩然として羅列するもの、一つとして妖怪ならざる ふ うつぜん しようしよう はなし。傭して地理を察するに、山川草木、欝然として森立するもの、またことごとく妖怪なり。風の瀟々と 21
して葉上に吟ずるも、水の混々として石間に走るも、人の相遇って喜び、相離れて悲しむも、怪中の怪、妖中の 言 妖ならざるなし。それ、一杯の水は一滴の露より成り、一滴の露は数個の分子より成り、分子は小分子より成り、 緒 小分子は微分子より成り、微分子はすなわち化学的元素なり。もし、そのいわゆる元素はなにより成るを問わば、 けだし、だれもこれに答うるものなかるべし。これ、すなわち一小怪物なり。人身の大なる、これを国土に比す そうかい れば、槍海の一粟にも及ばず。国土の大なる、これを地球全体に比すれば、また九牛の一毛にも及ばず。地球の ひ ゆ 大なる、これを太陽系に較すれば、その微小なる、警喩の及ぶところにあらず。太陽系の大なる、これを無涯の 空間に較するに、また比例の限りにあらず。しかして、空間そのもののなんたるに至りては、実に人知の及ばざ るところにして、これまた一大怪物なり。果たしてしからば、これを小にしてもこれを大にしても、妖怪その両 岸を築きて、人をしてその外に出ずることあたわざらしむ。これ実に真正の妖怪なり。しかして、その間に架し たる一条の橋梁は、すなわち人の知識なり。学者この橋上に立ちて、愚俗下流の輩の頑石の間にわだかまり、迷 いてその道を知らざるを見て、世に妖怪なしと断言するは、その識見の小なるを笑わざるを得ず。しかりしこう して、愚俗の妖怪は真怪にあらずして仮怪なり。仮怪を払い去りて真怪を開ききたるは、実に妖怪学の目的とす るところなり。 およそ妖怪の種類は、これを細別するにいくたあるを知らずといえども、これを概括すれば、物怪、心怪の二 大門に類別するを得べし。物怪はこれを物理的妖怪と称し、心怪はこれを心理的妖怪と称す。しかしてまた、こ しらぬい の二者相互の関係より生ずる一種の妖怪あり。例えば、鬼火、不知火のごときは単純なる物理的妖怪にして、奇 夢、霊夢のごときは単純なる心理的妖怪なり。しかして、コックリ、催眠術、魔法、幻術のごときに至りては、 22
妖怪学講義 物心相関の妖怪というべし。 世人、妖怪の種類を挙ぐるときは、耳目に触るるところの感覚上の妖怪に限るも、余のいわゆる妖怪は感覚以 ぼくぜい きゆうせい 外に及ぼし、卜笠、人相、九星、方位のごとき観理開運に関する諸術、ならびに鬼神、霊魂、天堂、地獄のごと めいかい き死後冥界に関する諸説、またみな妖怪の一種に属するなり。およそ世間に人の最も恐れ、かつ最もその心を苦 しむるものは、生死の境遇よりはなはだしきはなし。もし、生死の迷門を開きて死後の冥路を照らすものあらば、 かんやく その人間に与うる福利、これより大なるはなし。しかして、余のいわゆる妖怪学は、実にこの門を開く管鎗にし て、またこの道を照らす灯台なり。かつまた、人だれか一身の幸福、一家の安全を祈らざるものあらんや。しか して禍難ときに一身を襲い、災害また一家を侵す。これを予防せんと欲するも、自ら前知するあたわず。ここに しん おいて、百方力を尽くして、吉凶を予定する風雨鍼を発見せんとし、ついにト笈、人相のごとき諸術の世に行わ るるに至る。もしそれ、その風雨鍼のたのむに足らざるを知りて、これに代うるに、禍難に際会するもさらにそ の害を感ぜざる一種の避雷柱を適用するに至らば、その世を利するや、生死の迷門を開示するとなんぞ異ならん。 こつしよ しかして、これまた妖怪学応用の結果なり。ゆえにその学の講究、あに忽諸に付すべけんや。 妖怪学は哲学の道理を経とし緯として、四方上下に向かいてその応用の通路を開達したるものなり。もし哲学 の火気を各自の心灯に点じきたらば、従来の千種万類の妖怪、一時に霧消雲散し去りて、さらに一大妖怪の霊然 としてその幽光を発揚するを見る。これ、余がいわゆる真正の妖怪なり。この妖怪ひとたびその光を放たば、心 灯の明らかなるも、これとその力を争うあたわずして、たちまちその光を失うに至るべし。あたかも旭日ひとた び昇りて、衆星その光を失うがごとし。仮にこの大怪を名付けて、これを理怪という。余の妖怪研究の目的の、 23
言 緒 仮怪を払い去りて真怪を開き示すと唱うるゆえん、ここに至りて知るべし。 ひようぜん 理怪とはなにをいうや。無始の始より無終の終に至るまで、無限の限、無涯の涯の間に、瓢然として浮かび塊 然として懸かり、自生自存、独立独行、霊々活々の真体をいう。だれもその名を知らずして、その体あるを知る。 その体あるを知るも、これに名付くるゆえんを知らず。けだしその体たるや、知るべきがごとくにして、しかし て知るべからず、知るべからざるがごとくにして、しかして知るべし。これ実に大怪物なり。これを称して神妙、 あざな 霊妙、微妙、高妙、玄妙というも、その体より発散せる光気の一部分を形容したるに過ぎず。あるいはこれを字 して、老子は無名といい、孔子は天といい、あるいは易に太極といい、釈迦は真如といい法性といい仏といい、 ヤソは天帝といい、わが国に神というも、みなその体の一面に与うる仮名に過ぎず。余はこれを理想と称するも、 また一部分の形容のみ。だれか、よく有限性の名をもって無限性の体をあらわし得るや。むしろ、これを大怪物 かいてい として名付けざるをよしとす。しからざれば、有限性の名称を階梯として、その裏面に包有せる無限性を感知領 得することをつとむべし。 み ふ 吾人、仰いで観、傭して察するときは、自然に一種高遠玄妙の感想を喚起す。これすなわち、理想の大怪物の 光景に感接したるときなり。これより、ようやくその心に精究すれば、ようやくその真相を開顕し、ついに心天 びようぼう 澄荘たるところ、ただ理想一輪の明月を仰ぎ、一大世界ことごとく霊然たる神光の中に森立するを見るべし。こ のときはじめて、この世界の理想世界なることを了知するなり。すでにひとたび理想世界なるを知りて再び万有 てんてん けんけん を観見すれば、噂々たる鳥声も妬々たる花容も、みな理想の真景実相なるを領得すべし。これ、いわゆる哲学的 悟道なり。ここにおいて、理想に本体と現象との別あるを知るべし。物心万有は現象なり。現象の本体における 24
妖怪学講義 しゆゆ は、影の形に伴うがごとく須萸も相離れず、しかして二者その体一つなり。ゆえに、万有を推究してその神髄に 体達しきたれば、ただちに理想の真光に接触すべく、また、理想の本体を悟了して目前の世界を照観しきたれば、 事々物々の葉上に霊妙の露気を浮かぶるを感見すべし。三春の花香鳥語における、中秋の清風明月における、夏 木の鶴鱈たる、冬雪の職パたる、一つとして美かつ妙ならざるなし。これすなわち、理想の真相の自然に外界に 鍵.羅したるものにあらずしてなんぞや。けだし、理想の本体は宇宙山川雀を統轄する無限絶対の帝王にして、この 世界に下すに物心二大臣をもってし、吾人をしてその二大臣の従属たらしむ。しかして、吾人の体の物心の二根 より成るを知り、ひとたび心灯をかかげきたりて天地を照見するときは、たちまちそのいわゆる二大臣は、全く 理想帝王の現象にほかならざるを知るべし。ああ、吾人この美妙なる世界に生まれながら、終身その真相を観見 せずして死するもの多し。誠に哀れむべし。もしその人、一団の心灯を暗室に点じきたらば、一大天地たちどこ はそうへいおく ろに美妙の光景を現じ、破窓徹屋もたちまち変じて金殿玉楼となり、衆苦多患の世界も仙境楽園となり、そのは じめ妖中の妖たる理想の大怪物、ここに至りて神妙、霊妙、高妙、玄妙、精妙、美妙を現呈し、徹頭徹尾、妙中 の妙となるべし。この理を人に示すは実に妖怪研究の目的にして、さきに仮怪を払って真怪を開くとはこれ、こ れをいうなり。 かくのごとく仮怪を払い去れば、人をして超然として迷苦の関門外に独立せしむることを得、また、かくのご とく真怪を開ききたらば、人をして泰然として歓楽の別世界に安住せしむることを得べし。ゆえに妖怪研究の結 果は、心内の暗天地に真知真楽の光明を与うるにあり。これ余がその功、鉄路、電信の架設に譲らずというゆえ んなり。 25
世人、一方には妖怪を信じて事実明確、疑うべからざるものとし、一方にはこれを排して無根の妄説なりとす。 言 緒 しかして、これを信ずるものは、単にこれを真とするのみにて、さらにその真なるゆえんを証明せず。いわゆる 独断なり。また、これを排するものは、単にこれを虚なりとするのみにて、さらにそのしかるゆえんを説示せず。 これまた独断なり。しからざれば懐疑の弊を免れず。これみな説明の、そのよろしきを得ざるものにして、到底 こうきよ 一致することなかるべし。けだし、この二種の論者の間に、一条の溝渠ありて相隔つるによる。例えば、甲論者 は現に妖怪を実視せりといい、乙論者はこれ神経作用なりという。しかして甲は、なにゆえに実視したるものは 必ず真理なるやを証明せず、また乙は、神経作用そのもののなんたるを説明せず。ゆえをもって、世の文運の進 むにかかわらず、旧来の妖怪依然としてその形を改めず、かえってその勢力を張らんとす。ここにおいて、余は 哲学の利器を提げきたりて、一刀両断の断案をその上に下さんとす。 余の妖怪説明は哲学の道理によるというも、妖怪中物怪のごときは、その説明は理学をまたざるべからず。ま た、人身上に発する妖怪のごときは、医学の解釈によらざるべからず。ゆえに余は哲学を礎とし、理学、医学を 柱とし壁とし、もって妖怪学の一家を構成せんとす。 妖怪の種類は、さきに大別するところによれば、物怪、心怪、理怪の三種に分かち、物怪、心怪を仮怪とし、 ひとり理怪を真怪とするなり。今、﹁妖怪学講義﹂もこの分類に従って順序を立つべきはずなるも、余はこれを 諸学科の上に考えて説明を与えんとし、かつ、﹃哲学館講義録﹄の上において講述せんとする意なれば、さらに 左のごとき部門を設くるに至る。 26
妖怪学講義 妖怪学講義 第一類 第二類 第三類 第四類 第五類 第六類 第七類 第八類 これ実に講義の順序なり。 総論 理学部門 医学部門 純正哲学部門 心理学部門 総論 理学部門 医学部門 純正哲学部門 心理学部門 宗教学部門 教育学部門 雑部門 もし、その各部門の種類を挙ぐれば左のごとし。 定義、種類、原因、説明等 しんきろう 天変、地異、奇草、異木、妖鳥、怪獣、異人、鬼火、竜灯、屡気楼、竜宮の類 てんかん 人体異状、癩痛、ヒステリー、諸狂、仙術、妙薬、食い合わせ、マジナイ療法の類 えきぜい みくじ とうきゆう きゆうせい 前兆、予言、暗合、陰陽、五行、天気予知法、易笠、御嗣、淘宮、天元、九星、幹枝術、 すみいろ う け む け 人相、家相、方位、墨色、鬼門、厄年、有卦無卦、縁起の類 きつねつ てんぐ 幻覚、妄想、夢、奇夢、狐葱き、犬神、天狗、動物電気、コックリ、催眠術、察心術、降神 ふげき 術、巫親の類 27
言 緒 宗教学部門 幽霊、生霊、死霊、人魂、鬼神、悪魔、前生、死後、六道、再生、天堂、地獄、≦り、厄払い、 きとう じゆそ 祈薦、守り札、呪咀、修法、霊験、応報、託宣、感通の類 教育学部門 遺伝、胎教、白痴、神童、記憶術の類 雑部門 妖怪宅地、怪事、怪物、火渡り、魔法、幻術の類 これ大体の分類に過ぎず。そのうち二種もしくは三種の部門に関係を有するものあるも、余は講義の便宜に従 って、随意に一方の部門にこれを掲ぐ。例えば幽霊のごときは、心理学に関係を有するもこれを﹁宗教学部門﹂ ぼくぜい に掲げ、巫親のごときは、宗教学に関係を有するもこれを﹁心理学部門﹂に掲ぐ。また、ト箪、予知法のごとき は、間接に種々の部門に関係を有するも、直接に関係する部門なきをもって、純正哲学の一門を設けてその中に 属す。別に妖怪宅地、怪事、怪物のごときは、種々の部門混合せるをもって、雑部門を設けてこれに摂す。これ、 ただ便宜に従うのみ。かつ、この分類のごときも、学科上より見るときは不規律、不整頓の感なきにあらざるも、 年来収集せる事実にもとづきて種目を定めたるをもって、かくのごとく部門を設けざるを得ざるに至れり。もし、 さらに詳細の種目を列挙すれば左のごとし。 第一類 総論 第一編 定義 第二編 学科 第三編 関係 第四編 種類 第五編 歴史 第六編 原因 第七編 説明 第二類 理学部門 しょく にちうん こうげい 第一種︵天変編︶天変、日月、蝕、異星、流星、日量、虹蜆、風雨、霜雪、雷電、天鼓、天火、蟹気楼、 28
妖怪学講義 第二種 第三種 第四種 第五種 第六種 第七種 第八種
第第
種種
第三種第第
種種
じめい ちようせき しゆみせん 竜巻 ︵地妖編︶地妖、地震、地陥、山崩れ、自倒、地雷、自鳴、潮汐、津波、須弥山、竜宮、仙境 ︵草木編︶奇草、異穀、異木 ろうご きゆうびのきつね びやつこ ふるだぬき はらつづみ ようだつ ねこまた てん ︵鳥獣編︶妖鳥、怪獣、魚虫、火鳥、雷獣、老狐、九尾狐、白狐、古狸、腹鼓、妖獺、猫又、天 弥 やまうば ︵異人編︶異人、山男、山女、山姥、雪女、仙人、天人 おにぴ きつねぴ みのむし ︵怪火編︶怪火、鬼火、竜火、狐火、蓑虫、火車、火柱、竜灯、聖灯、天灯 らいふ しやり ︵異物編︶異物、化石、雷斧、天降異物、月桂、舎利 へんげ かつば かまな ︵変事編︶変化、カマイタチ、河童、釜鳴り、七不思議 第三類 医学部門 じくけつ ミイラ ︵人体編︶人体の奇形変態、死体の紐血、死体強直、木乃伊 ぎやく てんかん そう うっ ︵疾病編︶疫、痘、瘡、卒中、失神、癩痛、諸狂︵躁性狂、欝性狂、妄想狂、時発狂、ヒステリー狂 つつがむし 等︶、髪切り病、志虫 ︵療法編︶仙術、不死薬、錬金術、御水、諸毒、妙薬、秘方、食い合わせ、マジナイ療法、信仰療法 第四類 純正哲学部門 ︵偶合編︶前兆、前知、予言、察知、暗合、偶中 か と らくしよ はつか せいこく ︵陰陽編︶河図、洛書、陰陽、八卦、五行、生剋、十干、十二支、二十八宿 29言 緒 第三種 第四種 第五種 第六種 第七種 第八種
第第第
種種種
第四種 第一種 第二種 第三種 第四種 しようずい からすな ︵占考編︶天気予知法、運気考、占星術、祥瑞、鴉鳴き、犬鳴き ぼくぜい えきぜい きぼく ぜにうら うたうら ふとまに くちうら つじうら ちようせん ゆめうら みくじ みくじ ︵ト箪編︶易笠、亀卜、銭卜、歌ト、太占、口占、辻占、兆占、夢占、御困、神簸 きゆうせい とうきゆう ほんみようてきさつ はちもんとんこう ︵鑑術編︶九星、天元、淘宮、幹枝術、方位、本命的殺、八門遁甲 すみいろ ︵相法編︶人相、骨相、手相、音相、墨色、相字法、家相、地相、風水 としとく こんじん はちしようじん げつけん ︵暦日編︶歳徳、金神、八将神、鬼門、月建、土公、天一天上、七曜、九曜、六曜、十二運 ふじようじゆび うけむけ ごへい ︵吉凶編︶厄年、厄日、吉日、凶日、願成就日、不成就日、有卦無卦、知死期、縁起、御弊かつぎ 第五類 心理学部門 びゆうろん ︵心象編︶幻覚、妄想、迷見、謬論、精神作用 ゆめあわせ えん ︵夢想編︶夢、奇夢、夢告、夢合、眠行、魔 ひようふ きつねつ にんこ しきがみ きつねつか いつな たぬきつ ひとつ かみがか ︵懸付編︶狐葱き、人狐、式神、狐遣い、飯綱、オサキ、犬神、狸葱き、蛇持ち、人葱き、神葱 ま つ てんぐ つ り、魔葱き、天狗葱き ふげき ︵心術編︶動物電気、コックリ、棒寄せ、自眠術、催眠術、察心術、降神術、巫親、神女 第六類 宗教学部門 いきりよう ひとだま こんばく ︵幽霊編︶幽霊、生霊、死霊、人魂、魂塊、遊魂 ち み もうりよう ︵鬼神編︶鬼神、魑魅、魍魎、妖神、悪魔、七福神、貧乏神 ︵冥界編︶前生、死後、六道、再生、天堂、地獄 しよくえ たたり さわ き い く だ ふつじよ ︵触稜編︶崇、障り、悩み、忌誰、触積、厄落とし、厄払い、駆灘、祓除 30妖怪学講義 じゆがん さいし いんし きとう きんよう じゆげん じゆそ 第五種︵呪願編︶祭祀、鎮魂、淫祀、祈薦、御守、御札、加持、ノリキ、禁厭、呪言、呪咀、修法 みようばつ 第六種︵霊験編︶霊験、感応、冥罰、業感、応報、託宣、神告、神通、感通、天啓 第七類 教育学部門 もうあ 第一種︵知徳編︶遺伝、白痴、神童、偉人、盲唖、盗心、自殺、悪徒 第二種︵教養編︶胎教、育児法、暗記法、記憶術 第八類 雑部門 第一種︵怪事編︶妖怪宅地、枕返し、怪事 ろくろくび 第二種︵怪物編︶化け物、舟幽霊、通り悪魔、繊櫨首 第三種︵妖術編︶火渡り、不動金縛り、魔法、幻術、糸引き 以上数種の妖怪は、学科の部門に応じて八類に分かちたるものなれば、これを﹃哲学館講義録﹄に掲げ、第七 学年度講義録をもって﹁妖怪学講義録﹂となさんとす。それ本館発行の講義録は毎年十一月上旬初号を発行し、 翌年十月下旬に至りて完結するを例とす。よって、本年十一月上旬より発行する講義録に﹁妖怪学講義﹂を掲げ、 これを他学年の講義録に区別せんために、第七学年度講義録と名付くるなり。しかして、その講義は理学、哲学 諸科の原理に照らして説明を付するものなれば、これを通読するものにひとり妖怪の道理を知らしむるのみなら ず、あわせて各学科の大要を講究するの便を得せしめ、決して﹃哲学館講義録﹄の名義にたがわざらんことを期 す。 そもそも余が妖怪学研究に着手したるは、今をさること十年前、すなわち明治十七年夏期に始まる。その後、 31
この研究の講学上必要なる理由をのべて、東京大学中にその講究所を設置せられんことを建議したることあり。 言 これと同時に、同志を誘導して大学内に不思議研究会を開設したることあり。当時、余の意見に賛同して入会せ 緒 られたるものは左の諸氏なり。 三宅雄二郎 田中館愛橘 箕作元八 吉武栄之進 坪井次郎 坪井正五郎 沢井 廉 福家梅太郎 棚橋 一郎 佐藤勇太郎 坪内 雄蔵 しかして、その第一会は、明治十九年一月二十四日、大学講義室においてこれを開きたり。その後、会員よう やく増加せしも、余久しく病床にありて、その事務を斡旋することあたわざるに至り、ついに休会することとな れり。 また、当時全国の有志にその旨趣を広告して、事実の通信を依頼したることあり。その今日までに得たる通知 の数は、四百六十二件の多きに及べり。 またその間、実地について研究したるもの、コックリの件、催眠術の件、魔法の件、白狐の件等、大小およそ 数十件あり。その他、明治二十三年以来、全国を周遊して直接に見聞したるもの、またすくなからず。かつ数年 間、古今の書類について妖怪に関する事項を捜索したるもの、五百部の多きに及べり。今その書目を挙ぐること 左のごとし。 32
妖怪学講義
妖怪学研究参考ならびに引用書目
この書目は、余が手帖中に記載せるままここに掲ぐ。序次錯雑なるも、請う、これをゆるせよ。︹原本はいろは 順の旧仮名遣いで配列されているが、五十音順に直した。︺ あの部 あいのうしよう あずまかがみ あたごみやげ 塩嚢紗 東鏡︹吾妻鏡︺ 愛宕宮笥 熱海誌 ﹁アネロイド﹂晴雨計詳説及用法 阿弥陀経 安斎随筆 安政雑 書万暦大成 いの部 いえばぐさ いのうもののけろく いんしろん 云波草 伊香保温泉遊覧記 厳島宮路の枝折 医道便易 稲荷神社考 稲生物怪録 淫祀論 印判秘決集 陰 陽五行奇書 うの部 うんぴようざつし 宇治拾遺︹物語︺ 雨窓閑話 空穂物語︹宇津保物語︺ 雲薄雑志 えの部 えいたいおおざつしよさんぜそう えなんじ えんかんるいかん 永代大雑書三世相 永代重宝︹記︺ 易学啓蒙 易学通解 易経 閲古随筆 江戸名所図会 准南子 淵鑑類函 延喜式 おの部 おおざつしよ おがくずぱなし 王充論衡 往生要集 王代一覧 欧米人相学図解 大磯名勝誌 大雑書 大雑書三世相 鋸屑謹 小田原記 33おるからきぬ 織唐衣 温知叢書 言 かの部 緒 おとぎざくら おとぎわらわ としお よ 怪談御伽桜 怪談御伽童 怪談実録 怪談諸国物語 怪談全書 怪談登志男 怪談録 貝原養生訓 怪物輿 うん がつぺきじるい 論 河海抄 学芸志林 格致叢書 花月草紙 花史左編 家相図説大全 家相秘伝集 家相秘録 合壁事類 か とらくしよじもうしよう からことはじめ かんがかり がんざんだいしひやくせん みくじ 河図洛書示蒙紗 仮名世説 漢事始 神明葱談 元三大師百籔 元三大師御嗣判断 閑散余録 漢書 観 相奇術 広東通志 韓非子 きの部 きせつあつめぐさ きぼくひでん 奇術秘法 鬼神新論 鬼神論 奇説集艸 奇説著聞集 木曾路名所図会 吉凶開示 亀ト秘伝 救急摘方 きゆうこうじぎ きゆうせい ぎゆうばもん
救荒事宜嬉遊笑覧 九星方位早操便覧 牛馬問窮理隠語強識略今古未発日時九星弁近思録近
きんのう きんぴしよう 世奇跡考 近代世事談 禁中日中行事 錦嚢智術全書 禁秘抄 くの部 くじき くしみたま くしやろん くも旧事記奇魂 倶舎論蜘蛛の糸巻群書類従群芳暦訓蒙浅語訓蒙天地弁
けの部 げいえんにつしよう けんえんじつぴつ げんこうしやくしよ げんじゆくしゆう 秋苑日渉 芸文類聚 桂林漫録 家語 護園十筆 言海 元元集 元亨釈書 元史 源氏物語 撮塾集 げんにんうん 玄同放言 原人論 元明史略 この部 孝経 考証千典 皇朝事苑 黄帝陰符経 黄帝宅経 弘法大師一代記 古易察病伝 古易八卦考 吾園随筆 34妖怪学講義 後漢書 五行大義 国語 国史略 国朝佳節録 極楽物語 古語拾遺 古今考 古今事類全書 古今神学類聚 ここんはつけしゆうすいしよう ござつそ 抄 五魂説 古今著聞集 古今八卦拾穂抄 古今妖魅考 古今類書纂要 五雑姐 古事記 古始太元図説 こしゆしようじりんべんぎ こつけいぞうだん ことわざぐさ ごんさいぶんりやく
古事談五趣生死輪弁義滑稽雑談 諺草護法新論艮斎文略今昔物語昆陽漫録
さの部 さご さんがいいつしんき 西国事物紀原 再生記聞 墳語 三界一心記︹三賢一致書︺ 三元八卦九星方位占独判断 三国仏教略史 三国 さんどうしこう さんぽうけつぎしよう 仏法伝通縁起 三才図会 三災録 三代実録 山堂陣考 算法闘疑抄 三余清事 しの部 じつうせつ 塩尻 塩原繁昌記 史記 詩経 事言要玄集 地獄実有説 自娯集 事纂 子史精華事類統編 資治通鑑 地 みようもく じつきんしよう じつけんしゆみかいせつ しゆう 震考 七十五法名目 視聴雑録 十訓抄 実験須弥界説 支那教学史略 島田幸安幽界物語 沙石集 拾 がいしよう じゆつじようこうこ 芥抄 周書 十八史略宗門略列祖伝 周遊奇談 宿曜経朱子語類 修善寺温泉名所記 出定後語 出 しゆやじんしゆほう しゆらい じゆんせいはつせん しゆんぱろうひつき 定笑語 主夜神修法 周礼 筍子 春秋左伝 遵生八賎 春波楼筆記 商家秘録 消閑雑記 蕉窓漫筆掌 しょくにほんぎ 中和漢年代記集成 成唯識論 初学便蒙集 諸活幹枝大礎学 書経 続日本紀 続日本後紀 書言故事大全 うつほざる 諸国怪談空穂猿 諸国奇談西遊記 諸国奇談東遊記 諸国奇談漫遊記 諸国奇遊談 諸国古寺談 諸国新百物 語 諸国里人談 諸子彙函 庶物類纂 神易選 人家必用︹小成︺ 人国記 新古事談 神社啓蒙 神社考 概 せん くけつ ひようだん じんのうしようとうき きんのう 籔五十占 神相全編︹正義︺ 新続古事談 神代口訣 新著聞集 神童懸談 神皇正統記 神変仙術錦嚢︹秘 巻︺ 神幽弁論 すの部 35すいどかいべん すみいうしなん しようせん すんだいざつわ 水経 晴書 水土解弁 墨色指南 墨色小笙 墨色伝 駿台雑話 言 せの部 緒 ぜいご さいせき せいめいつうへんうらないひでん せいめい 聖学自在 星経 聲語 正字通 精神啓微 西籍慨論 清明通変占秘伝 清明秘伝速占 性理字義 性理大 せつさい せつぶ せんがいきよう せんしんどうさつき 全 世事百談 世説 摂西奇遊談 説郭 善庵随筆 山海経 戦国策 洗心洞剖記 仙台案内 先哲叢談 先哲像伝 その部 そうひるいしよう 葬経 宋元通鑑 宋高僧伝 荘子 相州大山記 宋書 相庭高下伝 宋稗類抄 草木子 続高僧伝 続古事 そらいしゆう 談 続文献通考 祖志 息軒遺稿 素問 但裸集 たの部 大学 太極図説 ︹大乗︺起信論 大聖日蓮深秘伝 大道本義 大日本史 大日本人名辞書 太平記 太平御覧 だじよう たまの みはしら たんかい たんき 太平広記 高島易占 高島易断 太上感応篇 霊能真柱 謂海 耽奇漫録 ちの部 竹窓随筆 中古叢書 中庸 長寿食事戒 朝鮮征伐記 珍奇物語 つの部 通変亀鑑 ての部 ていきんおうらい てつこうろく てんちわくもんちん へいしよく 庭訓往来 輻耕録 天元二十八宿指南 伝習録 天朝無窮暦 天地麗気記 天地或問珍︹乗燭或問珍︺ 天変 36
妖怪学講義 てんぽうおおざつしよ 地異 天変地妖決疑弁蒙︹決疑弁蒙︺ 天保大雑書 伝法智恵の海 との部 とうきゆうがく とうぽうさくひでんおきぶみ 東海道名所図会 淘宮学軌範 淘宮学秘書 唐詩選 唐宋八大家 動物電気論 東方朔秘伝置文 東洋心理 とえんしようせつ 初歩 兎園小説 読書録 なの部 な る ぺ し なんぽ 夏山閑話 南留別志 南翁軒相法 南斎志 南史 南朝紀伝 南畝叢書 にの部 かんき 二十八宿一覧表 日用晴雨管窺 日用早覧 二程全書 日本往生全伝 日本居家秘用 日本歳時記 ︹日本︺社 にれいどうらん にんそうはやまなび 会事彙 日本書紀 日本仏法史 日本風土記 二礼童覧 人相指南 人相千百年眼 人相早学 ねの部 ねんじゆうきちじかがみ はつけ てびきぐさ 年山紀聞 年中吉事鑑 年中行事大成 年中八卦手引草 年暦調法記 のの部 のぷともずいひつ 農家調宝記 農政全書 信友随筆 はの部 はくぶつせん はちもんきゆうせい 梅園叢書 梅花心易掌中指南 売江。貝極秘 馬関土産 博異記 博物答 博聞叢談 博覧古言 八門九星初学 はちもんとんこうわくもんしよう はつたく はつゆめうたあわせ ばんきんすぎわいぶくろ 入門 八門遁甲或問紗 八卦辻占独判断 八宅明鏡弁解 初夢歌合 万金産業袋 万物怪異弁断︹怪異弁 ばんぼうおおざつしよ ひ じ き ばんれき 断︺ 万物故事要略 万宝大雑書 万宝全書 万宝鄙事記 万暦大雑書三世相大全 37
緒 口 ひの部 ひとよぱなし ひやくものがたりひようばん びんしよ 秘事思案袋 秘事百撰 秘伝世宝袋 一宵話 百物語評判︹古今百物語評判︺ 百法問答抄 閲書 ふの部 ぶこくじべん ふがくだんぺい ふくろぞうし ふそう 風雨賦国字弁 巫学談弊 袋草紙 不思議弁妄 扶桑見聞私記 扶桑略記 物学秘伝 仏国暦象編 仏祖統 ぶんかいひしよう
紀物理訓蒙物理小識物類相感志筆のすさび文海披沙文会筆録文献通考
への部 へいしよくだん へいすいろく へきじやしようげん乗燭謂乗穂録闘邪小言
ほの部 ほうおんじゆりん ほうかんひつけい ほうせいあん ぽうそう ほ き ぼくぜいそうこう 北越雪譜 卜箪早考 篭篁 茅窓漫録 蓬生庵随筆 法苑珠林 方角即考 方角重法記 方整必摘 方豊弁説 もうきよう さだん ぼくほう みくじえしよう ほんそうこうもく ト笈増補盲節 北窓珀談 ト法類書 法華経 法華宗御爾絵紗 本草綱目 本朝奇跡談 本朝高僧伝 本朝 ほんみようてきさつそつかん 語園 本朝人相考 本朝年代記 本朝列仙伝 本命的殺即鑑 まの部まじなひ三百ケ条魔術と催眠術魔睡術
みの部 せん 水鏡 道の幸 妙術博物筆 妙薬妙術集 民家必用永代大雑書三世相 民家分量記 むの部 夢渓筆談 無量寿経 38妖怪学講義 めの部 めいぶつろくじよう 明治震災輯録 名物六帖 もの部 もうぎゆう もんぜん 蒙求 孟子 文選 文徳実録 やの部 やたんずいろく やまとことはじめ やまとのくに 夜謹随録 大和怪異記 和事始 大倭国万物記原 大和本草 ゆの部 ゆいいつしんとうみようほうようしゆう ゆうけん ゆうようざつそ ゆ ぐ ゆめあわせちようじゆだから
唯一神道名法要集 輯軒小録酉陽雑姐愈愚随筆夢合長寿宝 夢はんじ
よの部 ようかいもんしようこうでん ようしよ 妖怪門勝光伝 楊子太玄経 擁書漫筆 妖婦録 らの部 礼記 雷震記 羅山文集 りの部 りゆうきよう 利運談 履園叢語 理斎随筆 琉球談 劉向新序 梁書 旅行用心集 呂氏春秋 るの部 類聚国史 類聚名物考 れの部 39れんちゆうしよう 霊獣雑記 暦講釈 暦日諺解 暦日講釈 列子 列仙伝 簾中抄 言 ろの部 緒 老子 論語 わの部 わみようるい 和漢三才図会 和漢珍書考 和漢年代記集成 和漢名数 和漢洋開化年代記 和漢暦原考 和訓栞 和名類 じゆしよう 聚抄 その他、雑誌、新聞ならびに西洋書籍の目次はこれを略す。 40 その書目中、極めて通俗卑近のものまでを掲ぐるは、妖怪の問題は通俗の間に存するもの多きによる。 きつきよ それ、余がこのことに拮据するや、ここに十年の星霜を経過すといえども、生来才学拙劣、究索その功を見ず。 じんぜん これに加うるに近年業務多端、もっぱら力をその一事に尽くすあたわず。忙裏荏再今日に至り、いまだ一回もそ の結果を世間に報告せざりしをもって、四方より妖怪事実を寄送せられたる諸氏は、これを督責してやまず。余、 たんぜん そうそう 実に撮然たらざるを得ず。ここにおいて、その研究の未熟を顧みず、勿々編成しきたりて、ここにこれを世に公 し しよにつ にするに至る。その疎漏、誤脱の多き、余もとよりその責を任ず。碩学大家の喧笑を招くも、またあえて辞せざ るところなり。ただ余が微意は、さきに述ぶるがごとく、国家の隆治を助けて国民の本分を尽くさんとするにあ ひ ほ れば、もしこのことにして幸いに文運の万一を稗補することを得ば、いずれの本懐かこれに過ぎん。余、もと無 資無産なれば、実業を興して民力の伸暢を助くることあたわず。また、世情に暗く事理に通ぜざれば、政治を論
妖怪学講義 じて国憲の拡張をはかることあたわず。ゆえに、その妖怪研究に着手したるは、余が衷情のやむべからざるに出 すいじよ ず。請う大方の君子、その微衷を察してこれを推恕せよ。 哲学は余が専門とするところなれば、年来多少これを研究したるも、理学、医学に至りては、余の全く知らざ るところなり。しかれども、この部分を欠きて妖怪学を完結することあたわざれば、ここにその二科を加うるに 至りたるも、その説明のごときは、余の憶測をもって論断を下したるものすくなしとせず。これまた、専門の諸 士の批正を請わざるを得ず。しかして、哲学に属する部分も、その学とも︹に︺既設の学科にあらずして未設の学 科なれば、余の独断憶想にかかるものまた多し。もしその誤解に至りては、他日再考のうえ訂正を加うることあ るべし。余自ら知る、この事業は一人一代の力よく成功を期すべからざるを。けだし、その大成のごときは、数 世の後をまたざるべからず。ゆえに余は、ただその苗種を学田中に培養するのみ。 妖怪の事業は多く東洋に伝わるものを収集し、西洋に存するものはわずかに参考として掲ぐるに過ぎざるは、 その研究の目的、わが国の妖怪を説明するにあればなり。しかしてわが国の妖怪は多くシナより入りきたり、真 に日本固有と称すべきものははなはだ少なし。余の想定するところによるに、わが国今日に伝わる妖怪種類中、 七分はシナ伝来、二分はインド伝来、一分は日本固有なるもののごとし。ゆえに、わが国およびシナの書類は、 微力の及ぶ限りひろく捜索したるも、西洋の書類は、わずかに数十部を参見せしに過ぎず。 およそ妖怪の研究は卑賎の事業に似たるも、その関係するところ実に広く、その影響するところ実に大なれば、 その説明のごときは、教育家、宗教家に必要なるは論なく、医師、文人、詩客、画工、俳優、史家、警官、兵士、 政治家、法律家に至るまで、参考を要することは明らかなり。また、民間にありては、農工商のごとき実業に従 41
事するもの、および婦人、女子に至るまで、みなことごとくその理を知るを要するは、余が弁をまたざるなり。 言 緒 ゆえに講義の目的は、広く通俗をして了解せしむるを主とし、例証はなるべく実際に適切なるものを選び、文章 はなるべく簡易明瞭を本旨とし、他書引用のごときは、その書名、巻数、もしくは編名、丁数を掲げて、その捜 索に便にす。読者請う、これを了せよ。 余、先年この研究に着手せし以来、文科大学の速成を教授せんと欲して哲学館を創立し、また国学科、漢学科、 仏学科の専門部を開設せんと欲して全国周遊の途に上れり。ゆえをもって、余の研究も一時中止せざるを得ざる に至れり。しかれども地方巡回の際、実地見聞したるものすくなからざれば、研究の一助となりしことは疑いを いれず。その巡回の場所は、このことに関係するところあれば、左に掲記すべし。 巡回中滞在せし場所は、一道、一府、四十八国、二百十五カ所︵もしこれにその際通行の国数を加うれば 六十二国となる︶。 伊勢国︵山田、松阪、津、一身田、四日市、桑名︶ 尾張国︵名古屋、熱田、津島、大野、半田︶ 三河国 とおとうみ するが ︵豊橋、岡崎、北大浜、西尾、蒲郡、豊川︶ 遠江国︵掛川、浜松、平田、中泉︶ 駿河国︵静岡、小川、 さがみ かずさ おうみ 清水、藤枝︶ 相模国︵大磯︶ 武蔵国︵忍︶ 上総国︵千葉、茂原︶ 近江国︵大津、豊蒲、五ケ荘、愛 こうずけ いわしろ 知川、八幡、彦根、長浜︶ 美濃国︵岐阜︶ 上野国︵安中、松井田、里見、高崎、八幡︶ 岩代国︵福島︶ む つ 陸前国︵築館、一迫︶ 陸中国︵盛岡、花巻︶ 陸奥国︵弘前、黒石、板屋野木、鰺ケ沢、木造、五所川原、 うぜん うご 青森、野辺地︶ 羽前国︵米沢、山形、寒河江、天童、楯岡、新庄、鶴岡︶ 羽後国︵酒田、松嶺、湯沢、 十文字、横手、沼館、六郷、大曲、秋田、土崎、五十目、能代、鷹巣、大館、扇田︶ 越後国︵新井、高田、 42
妖怪学講義 直江津、岡田、安塚、坂井、代石、梶、新潟、沼垂、葛塚、新発田、亀田、新津、田上、加茂、白根、三条、 見附、浦村、片貝、千手、六日町、塩沢、小出、小千谷、長岡、大面、寺泊、地蔵堂、新町、加納、野田、 たじま いなば 柏崎︶ 丹波国︵亀岡、福知山︶ 丹後国︵舞鶴、宮津、峰山︶ 但馬国︵出石、豊岡︶ 因幡国︵鳥取︶ いわみ 伯書国︵長瀬、倉吉、米子︶ 出雲国︵松江、平田、今市、杵築︶ 石見国︵波根、太田、大森、大国、宅 はりま ぴぜん びんご 野、大河内、温泉津、郷田、浜田、益田、津和野︶ 播磨国︵龍野︶ 備前国︵閑谷︶ 備後国︵尾道︶ 安
芸国︵広島・呉︶魔国︵山。・西岐波・宮市・徳山、花岡、下校室積、岩国︶欝国︵馬関豊浦、
田辺、吉田、王喜、生田、舟木、厚東、萩、秋吉、太田、正明市、黄波戸、人丸峠、川尻、川棚︶ 紀伊国 さぬき ︵高野山、和歌山︶ 淡路国︵市村、須本、志筑︶ 阿波国︵徳島、川島、脇町、池田、撫養︶ 讃岐国︵丸 亀、高松、長尾︶ 伊予国︵松山、宇和島、今治︶ 土佐国︵高知、国分寺、安芸、田野、山田、須崎︶ 筑 ぶぜん ぶんご ひぜん 肥前国︵長 豊後国︵日田︶ 前国︵福岡、若松︶ 筑後国︵久留米、吉井︶ 豊前国︵小倉、中津、椎田︶ 崎、佐賀︶ 肥後国︵熊本︶ 瀞戯国︵函館、森︶ 撰蕊国︵江差、寿都、歌棄、磯谷、岩内、余市、古平、 てしお いぶり 美国、小樽、手宮︶ 石狩国︵札幌、岩見沢︶ 天塩国︵増毛︶ 胆振国︵室蘭︶ これよりこの﹁緒言﹂を結ぶに当たり、余の素志、宿望を述べて、天下の諸士に告げんとす。吾人は身心の二 根によりて天地の間に樹立する以上は、真理を愛し国家を護するの二大義務を有するものなり。これを内に顧み ては、心天雲深きところ真理の明月を開ききたりて、これを愛しこれを楽しむは学者の本分なり。これを外に望 みては、世海波高きところ国家の砲台を築ききたりて、これを護しこれを防ぐは国民の義務なり。余は一人にし て、この二大目的を達せんとす。ゆえに余、つねに曰く、﹁権勢の道に奔走して栄利を争う念なく、殿誉の間に出 43言 緒 ろうこう 没して功名をむさぼる情なく、ただ終身、随巷に潜みて真理を楽しみ、草茅に座して国家を思うの赤心を有する のみ﹂と。その言、狂に近しといえども、余、朝夕心頭に銘じて片時も忘るることなし。さきに妖怪研究に着手 し、つぎに哲学館を創立し、つぎに専門科開設を発表し、今また﹃妖怪学講義﹄を世上に公にするは、みな護国 愛理の二大目的を実行せんとするものにほかならず。妖怪の原理を究めて仮怪を排し真怪をあらわすは、真理を 愛するの精神にもとづき、これを実際に応用して世人の迷苦をいやし世教の改進をはかるは、国家を護するの衷 情にもとつく。果たしてしからば、妖怪研究の一事、よくこの二大目的を兼行するを得るなり。 それ、余は理想の実在を信ずるものなり。これを物界の上に考うれば、天地万有ことごとく理想の結晶、凝塊 なるを信じ、これを人界の上に考うれば、皇室国体はまたみな理想の精彩光華なるを信ずるものなり。ゆえをも あいぜん って、世界の上にありては、万有の美妙と心性の霊妙と相和して、天地六合ことごとく霧然たる神気の中に浮か ぶを見、国家の上にありては、皇室神聖の純気とわれわれ忠孝の元気と相映じて、国体全く霊然たる神光の中に 輝くを見る。今、余が妖怪研究の結果、よく仮怪を排して真怪を開くを得ば、人をしてこの理に体達せしむるこ ぎようき ひはく とを得べしと信ず。近年、世情ようやく澆季に移り、人心ようやく菲薄に流れ、国体まさにその神聖を減じ、忠 孝まさにその活気を失わんとするに当たり、広くこの理を開示するは、ひとり真理のために要するのみならず、 実に国家の急務とするところなり。 さらに一言を宗教、教育の上に加えて、この一論を結ばんとす。余おもえらく、今日の宗教家も教育家もとも ほうこう に、迷雲妄霧の中に彷復して帰宿する所を知らず。しかして、よくこの雲霧を一掃すべきものは、実に妖怪学の じよきよ 講究なり。妖怪学によりてこれを一掃するは、あたかも心田の雑草を鋤去するがごとし。ここにおいて、はじめ 44
妖怪学講義 て宗教、教育の苗種を繁茂せしむるを得べし。ゆえに余、まさに言わんとす、﹁妖怪学は宗教に入るの門路にして 教育を進むるの前駆なり﹂と。宗教のいわゆる自力、他力の二宗も、ひとたび妖怪学によりて仮怪の迷雲をはら い去りてのち信念得道すべく、教育のいわゆる知育、徳育も、ひとたび妖怪学によりて真怪の明月を開ききたり てのち開発養成すべし。しかして宗教そのもの、教育そのものに至りては、やや余論にわたるをもって、ここに これを述べず。これを要するに、妖怪学の目的は仮怪、仮妖を払って、真怪、真妖を開くにほかならず。余が巻 首に提唱したる、心灯を点じて天地を読むとはこれをいうなり。ああ、これ人間最上の真楽にあらずや。そのつ まびらかなるは、本論に入りて講述すべし。 ︹原本︵三版︶には、このつぎに﹁妖怪学講義緒言に題す﹂という一文︵明治二十六年八月十日付︶が掲げられ ているが、すでに同文が本書十三頁八行目より十四頁二行目に掲載されているので、当該文は割愛した︺
参考書目拾遺
前に掲げたる書目の外に参考せし書類、およびその後に参考書として購入したる書類を集めて、 目を示す。︹原本はいろは順の旧仮名遣いで配列されているが、五十音順に直した。︺ いの部 いけんし いせいしゆうよう いちごん 威儀略述 夷堅志 願生輯要 一言雑筆 因果物語 うの部 雲臥紀談 雲室随筆 雲楽見聞書記 左にその︹書︺ 45言 緒 えの部 えんくんぎようしようき えんせきざつし 英華故事 煙霞綺談 役君形生記 燕石雑志 燕南記語 おの部 し き しよう 往生要集 往生要集指摩紗 思出草紙 温故要略 かの部 かきねぐさ かくりんざよくろ か た び さ し がらんざつき 怪妖故事談 垣根草 学山録 鶴林玉露 嘉多比沙志︹傍廟︺ 学海余滴 伽藍雑記 閑際筆記 韓詩外伝 かんのうへん 閑聖漫録 勧善懲悪集 閑窓倭筆 感応編 きの部 りげんしよう ぎそろくじようきつあん きとうかんのうろく きゆうあい 擬山海経 鬼神集説 鬼神僅諺紗 義楚六帖 橘庵漫筆 祈薦感応録 奇病便覧 笈埃随筆 教苑摘要 きよこう し 玉石雑誌 居行子 近世百物語 くの部 くうげ 空華随筆 空華談叢 けの部 けいそ もうぎゆう げんぜ りやくぺん 荊楚歳時記 啓蒙雑記 啓蒙随録 芸林蒙求 決疑弁蒙 現世利益弁 顯密威儀便覧 この部 こうかんめいしようろく こうせきしゆう こうやまとほんぞう こくじもうぎゆう こつきようしゆう 孝感冥祥録 好生録 磧石集 広大和本草 国字蒙求 古今雑談集 故事文選 五朝小説 谷響集 谷 こんぎよくさつようしゆう 響続集 護法資治論 岨玉撮要集 今昔拾遺物語 今昔夜話 46
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