著者
? 丹
雑誌名
東洋大学社会福祉研究
号
9
ページ
38-47
発行年
2016-07-31
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008076/
福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻後期課程2年 ●論文
外国人人材の受け入れのあり方に関する研究
【キーワード】 外国人人材、EPA、留学生受け入れ 制度、技能実習制度 現在、日本は世界最速のスピードで高齢化が進 行しており、団塊世帯が75歳になる2025年までの 10年が勝負の時期であるといわれている。特に、 高齢者介護を担う介護職員の人材確保が極めて重 要な課題となっており、外国人介護人材の受け入 れが政策に取り込まれてきた。 本論では、外国人介護人材の育成と関連してい るEPA制度に基づく受け入れや留学生受け入れ制 度、技能実習制度の現状と課題について検討し、 これまでの日本における外国人の受け入れの現状 と課題を提示する。 EPA制度は介護人材育成で成果が上がってきた が、受け入れ人数が未だ少ないため、介護現場へ の影響力が極めて小さいものと考えられる。一方、 留学生の受け入れ制度はその政策の緩和により、 受け入れ人数が大幅に増加した。しかし、政策を 緩和したことにより、アルバイト等の単純労働に 従事する留学生が増加し、日本国内における留学 生の日本語能力は低下の一途をたどっている。ま た、技能実習制度は一新された方針と見合った運 営の仕組みが構築されていない、低賃金労働力と して外国人を扱うというイメージが定着されてい る。 上記の課題を改善するため、送出国のニーズの 把握、日本語能力要件の引き上げ、能力の応じる 給与ランクの設定、労働者の母国でも認められる 評価仕組みの構築の4点を注目し、考察していく ものとする。 論文構成 Ⅰ.研究背景・目的 Ⅱ.EPA制度の成果と課題 Ⅲ. 留学生受け入れ制度、技能実習制度の現状と 課題 Ⅳ.考察 1. 三つの制度から見る日本の外国人受け入 れ問題点 2.改善策への提案 Ⅴ.今後の課題 Ⅰ、研究背景・目的 総務省統計局のデータによれば、2015年9月20日 現在、日本の高齢者人口は3384万人であり、高齢 化率は26.7%と過去最高であった。高齢化が進むと ともに、労働者不足の問題も深刻になりつつある。 「高齢社会白書」(平成25年版)によれば、団塊世 代が75歳以上になる2025年に、全国の65歳以上の 高齢者人口は3658万人に達し、高齢化率30%を超 すことが見込まれている。現行の介護サービスの 水準を維持するためには、2025年には237 ~ 249万 人の介護職員が必要であると予測されている。ま た、2020年の東京オリンピックは全国で81.5万人の 人材ニーズを喚起し、産業別では、建築業におけ る人材ニーズが最も大きく全国で33万人、次いで はサービス業全国で16.8万人とされている1)。その ため、社会全体の人材不足のなかで、人材確保の 争いが各産業のなかでは発生せざるを得ない。 このような状況を打開するため、潜在化してい る介護人材を呼び戻す政策が必要であるという指 摘があるが、佐藤ら(2014)の研究結果では、潜在介護福祉士は現場に復帰させるのが困難である ことが明らかとなっている2)。 介護分野で労働力を確保するために、「『日本再 興戦略』改定2014」では、「外国人技能実習制度」 の対象職種に介護分野の追加と外国人留学生の介 護分野での活用などの制度が検討された。また、 2015年3月6日、「出入国管理及び難民認定法の一部 を改正する法律案」が国会に提出され、日本で介 護福祉士の国家資格を取得した外国人が日本で継 続的に就業できるよう、新たな在留資格「介護」 の創設が盛り込まれた。さらに、2015年7月、「国 家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法」の一 部が改正され、第十六条の三では、地方自治体等 による一定の管理体制の下、家事支援サービスを 提供する企業に雇用される外国人の入国・在留を 可能にすると記載された。この一連の政策から見 ると、今後外国人労働者の受け入れは緩和にされ ていくことが推測できる。 現在、外国人介護労働者の受け入れをめぐって、 先頭に立っているのは経済連携協定(EPA)に基 づく看護師・介護福祉士候補者の受け入れ制度(以 下、EPA制度)である。2008年に発足してから約 8年が経過した。現在、介護福祉士コースにおいて 国家試験の合格率が全体的に上り、受け入れ施設 の施設長からの高い評価が得られ、高度人材育成 制度として一定の成果が上がっている。前述のよ うに、「技能実習制度」の対象職種に介護分野の追 加と介護分野で留学生を活用しようとする流れが あるなかで、EPA制度における一定の成果が上がっ た経験が日本の外国人労働者の受け入れに関して、 大きな意味を持っているのではないかと考えられ る。 一方、日本における外国人労働者の受け入れは 様々な課題が残されている。日本国内では、単純 労働者を受け入れるニーズが高まってきているが、 「国内の労働市場にかかわる問題をはじめとして日 本の経済と国民生活に多大な影響を及ぼすととも に、送出国や外国人労働者本人にとって影響も極 めて大きい」3)とのことから単純労働者の受け入れ が行われなかった。ネーパナー(2009)により、「1990 年代に製造業や中小企業における非熟練労働者、 特にいわゆる『3K』職種で人材不足問題に直面 した。結果として、外国人非熟練労働者に対して『フ ロント・ドア(正門)』ではなく、日系人の活用や 研修生・技能実習生という名目での活用という『サ イド・ドア(横門)』を開き対応していた。」と述べ、 現在、外国人技能実習制度は外国人を低賃金労働 者として扱うイメージが定着されている。 また、独立行政法人日本学生支援機構(以下、 JASSO)の「平成25年度私費外国人留学生生活実 態調査」では、全体の75.3%のものが何らかのアル バイトに従事し、職種としては、軽労働の「飲食 業」が全体の48.7%を占めていることと指摘してい る。黄(2015)により、「中国人女性私費留学生が アルバイトを通じて得た肯定感として、『職務スキ ル・態度の獲得』という仕事内容面、『自己成長』 という自分自身の内面の変化、『日本人・日本社会 への理解』、『人間関係』という人間関係構築面の ものが多く、『生活手段』という道具面の肯定感と 『キャリア意識』という将来との関連面での肯定感 が少なかった。」と述べた。志甫(2015)より、ベ トナム・ネパール出身者が、日本語教育機関を経 て大学ではなく専修学校に入学し、日本語能力が それほど必要されてないアルバイトに就きやすい 傾向がある。従って、留学生の「資格外活動許可」 から多くの単純労働者を生み出しているのではな いかと考えられる。 本論では、厚生労働省、法務省、日本学生支援 機構(JASSO)、国際研修協力機構(JITCO)、国 際厚生事業団(JICWELE)、日本語能力試験等の 各年の調査データを用い、先行文献に参照し、技 能実習制度・留学生受け入れ制度・EPA制度の現 状と問題点を明白する。また、今後外国人労働者 の受け入れのあり方について考察する。 Ⅱ.EPA制度の成果と課題 EAP制度に基づく受け入れは経済連携の強化の 観点から、二国間の協定に基づき公的な枠組で特 例的に行う制度として2008年から開始された。単 なる単純労働者を雇用するためのものではなく、 国として、専門的・技術的分野での外国人労働者 の育成を積極的に推進するものであると位置づけ られた。看護師はコース最大3年間、介護福祉士は
コース最大4年間、受け入れ施設で専門知識、技術 を修得し、日本語の継続的に学習を行い、日本の 国家試験に合格すると、継続的就労ができるとい う体制である。2008年の第1陣インドネシア候補 者の来日から、EPAに基づく看護師・介護福祉士 候補者の累計受け入れ人数は2,926人であり、看護 師候補者1,110人、介護福祉士候補者1,816人であっ た。受け入れ人数の変化は図1の通りである。看護 師候補者の受け入れ人数を見ると、人数は右肩下 がりという現状である。介護福祉士候補者の曲線 は全体U型であり、2013年以降受け入れ人数が上々 増加している。 次に、国家試験の合格率(図2)から見ると、看 護師国家試験の合格率は日本全体の合格率90%程 度近くと比べて、EPA候補者は10%しかなかった。 2015年の第104回看護師国家試験の合格率は7.3% まで低下した。その一方、介護福祉士国家試験の 合格率は、日本全体の合格率60%~ 65%の間で前 後しており、候補者の合格率は2012年の37.9%から 2015年の44.8%まで上がってきた。 EPA制度に基づく介護福祉士候補者の受け入 れは人材育成において一定程度の成果を果たして いるが、スタート時は決して順調ではなかった。 2012年までの受け入れについて、佐藤(2015)は「第 1サイクルは試行錯誤の中で期待と幻滅が表出し、 受け入れ態勢の見直しと軌道修正がなされた時期 である」と評価している。具体的な対応策として、 2011年訪日前の日本語研修がスタートした。2012 年度3ヶ月の研修を受けたフィリピン入国者のN3 取得率は70.7%(2011年では2 ~ 3ヶ月で31.9%)で、 6ヶ月の日本語研修を受けたインドネシア入国者の N3レベルの取得率は88.1%(2012年3ヶ月で55.8%) になった。2013年から、出身国に問わず来日前の 日本語研修時間は6ヶ月間まで拡充され、2013年と 2014年候補者のN3程度の達成率は9割程度まで上 昇した。2016年の取り組みとして、来日前の日本 語研修が6ヶ月から1年間まで延長された。 来日して施設に所属後の支援策として、2012年 から介護福祉士候補者一人に対し、都道府県の助 成より年間235,000円の学習経費の支援制度が導入 され、日本語の学習、日本語学校への通学、模擬 試験や介護技術講習会への参加のための経費とし て使用可能と規定されている。さらに、2013年か らは備品購入も学習経費の支援項目として加えら れ、受け入れ施設の研修担当者へ1施設あたり8万 円の手当てが導入された。また、国際厚生事業団 (JICWELS)により、2012年から通信添削指導、 国家試験への再チャレンジ支援が行われている。 2012年から、候補者に対しては国家試験時間が1.5 倍に延長され、全ての漢字にふりがなを付記する など配慮策を取っている。2013年から、国籍別の 集合研修と候補者向け国家試験対策教材の配布な どの支援も取り組まれた。 この様々な支援を取り入れた結果として、受け 入れの人数が年々増加し、合格率も上昇してきた。 それだけではなく、伊藤(2014)より、外国人候 補者が3年間の実務研修を通じて、日本人職員と比 較して遅い速度ではあるが、「介護記録」を除いて、 すべての介護業務を平均で1年以内に習得している 一方、「介護記録」には多くの候補者が1年以上の 期間を要していることが確認された。また、施設 長による候補者の介護技術に関する評価では、「衛 図1 EPAに基づく受け入れの実績 図2 国家試験合格率
生管理」と「住民コミュニケーション」を除く他 の項目について平均で日本人職員を上回っている。 19施設の中で5年以上の長期雇用の希望を有して いる割合は、候補者側54%であるのに対して、施 設長側は94%に達することであった。また、伊藤 (2015)は「仮に候補者が国家資格取得後に2 ~ 3 年間の就労をした場合、来日から国家試験までの4 年間に2 ~ 3年の就労期間が加わり、通算6 ~ 7年 間日本で介護業務に携わることになる。日本人の 施設介護職員の平均勤続年数である5.7年と比較 して、遜色ない」と述べた。 成果が上がる一方で、候補者は合格したにも関 わらず、母国に帰るという状況も発生している。 国際厚生事業団(2015)の「受け入れ支援等の 取り組み・受け入れ状況等について」によれば、 EPA介護福祉士合格者数は累計345人であり、その 中84人(24.3%)が帰国した。宮本ら(2014)は、「『定 着問題』にかかる視点が、日本側と合格者側とでは、 ズレがある」と述べた。赤羽ら(2015)の調査では、 施設の指導者によればEPA候補者の質にばらつき が大きいと指摘している。国際厚生事業団の2012 年の調査でも、9割近くの介護施設は「JICWELS に求めること」に関して、マッチング時の候補者 に関する情報を充実させて欲しい、斡旋機関とし て候補者の適正の有無をしっかり確認して欲しい という回答があった。 従って、EPAに基づく介護福祉士候補者の受け 入れの成果は上がる一方、両国間の協定に基づい て行うため、閉じられる制度となっている。受け 入れの人数上限があるので、介護現場全体の人材 確保への影響力がまだ低いと考えられる。また、 国家試験の合格者に関して、日本で継続的に働く 場合のキャリアアップ問題、帰国された際日本で 身につけた技術が母国でどのぐらい活用されてい るのかが明確になっていないという課題が残って いる。しかし、この制度における受け入れの経験 が日本全体の受け入れの一つの方向性を示してい るとは言える。 Ⅲ. 留学生受け入れ制度、技能実習制度の現 状と課題 1、留学生受け入れ制度 日本の留学生受け入れ政策は1983年の「21世紀 への留学生政策に関する提言」、通称「留学生受け 入れ10万人計画」から正式にスタートし、この目 標は2003年で達成した。しかし、日本の留学生数や、 留学生が高等教育機関の全学生に占める割合は他 の先進国と比べ、低い水準に留まっている。2005 年の留学生が高等教育機関の全学生に占める割 合は、アメリカ6.3%、イギリス23.5%、フランス 11.2%と比べ、日本の留学生数は121,812人で、高 度教育機関の留学生比率は3.3%しかなかった(文 部科学省 2005)。こうしたなか、2008年政府は「留 学生30万人計画」(以下「30万人計画」)を発表し、 2010年の閣議で決議した。「留学生30万人計画」の 趣旨は「グローバル戦略」の一環とし、「アジア・ 世界との間のヒト、モノ、カネ、情報の流れを拡 大する」、優秀な留学生を獲得する、知的国際貢献 を果たすことである。 JASSOの「平成26年度外国人留学生在籍調査結 果」により、留学生の在籍人数は(図3)、2011年 の163,697人、2014年の184,155人まで増え、12%増 加した。その内訳から見ると、高等教育機関の在 籍数が14万人ほどで維持している一方、日本語教 育機関の在籍数は2011年の25,622人から、2014年の 44,970人まで増え、約75%増加した。 志甫(2015)は、「JASSOの各年の『私費留学 生生活実態調査』を用いた試算では、2005年から 2013年まで、留学生のアルバイト従事率が低下し ている」と述べ、「留学生は調査項目について警 図3 外国人留学生の在籍数の推移
戒心があり、正直な回答が期待できない部分ある」 と指摘している。本論では、アルバイト従事率は 厚生労働省の「外国人雇用状況届出状況」中の「資 格外活動許可(留学)」と法務省入国管理局が公表 した各年度の留学生在留人数で試算する。「外国人 雇用状況届け制度」は2007年から施行されている。 外国人(特別永住者、「在留資格「外交」・「公用」 のものを除く」を雇用している企業は外国人雇用 状況の届出が義務化されている。厚生労働省の「外 国人雇用状況の届出状況」(2011年~ 2014年)によ れば、「資格外活動(留学)」に基づき就労してい る人数は2011年109,612人、2012年108,492人、2013 年125,216人、2014年167,660人である。法務省入国 管理局(2011年~ 2014年)より、「留学」資格で 在留している外国人の人数は、2011年188,605人、 2012年108,492人、2013年193,073人、2014年214,525 人である。試算すると、留学生のアルバイト従事 率は、2011年58.12%、2012年60%、2013年64.9%、 2014年78.15%という結果になり、かなり増加して いることが明白である。 さらに、日本語能力を測るための公認されてい るテスト、日本語能力試験(JLPT)の2011年から 2014年まで日本国内の受験者数から見れば、2011 年の120,370人から2014年の145,218人まで増え、約 20%増加した。そのうち、レベルが一番高いN1 (幅広い場面で使われる日本語を理解することが できる)の受験者数は9%減少し、逆に、「日常的 な場面で使われる日本語をある程度理解すること ができる」を示すレベルN3の受験者数は2011年の 12,791人から2014年30,516人まで伸び、約138%増 加した。 また、JASSOが公表した留学試験の科目別平均 得点等一覧(2011年~ 2015年)から見ると、毎年 6月の第1回の日本語平均得点は2011年237.6点から 2015年の218.3点まで下がった。11月の第2回のテス トは2011年242.1点から231点まで下がった。近年の データではないが、総務省(2005)の「留学生の 受け入れ推進施策に関する政策評価」では、大学 院における留学生の学位取得率は低下し、留学生 の退学・除籍率は大幅に増加する傾向があると記 述されている。 これらのことから、「留学生30万人計画」によっ て留学生の人数が確実に増加している一方、日本 国内で留学生の日本語レベルが低下している傾向 があると考えられる。また、アルバイトをしてい る留学生の割合もかなり増加している。原因を追 究すれば、近年留学生受け入れ政策の緩和により、 勉強する志を持たず出稼ぎのために来日する学生 が増えていることと一部の教育機関の入学要件が 下がっているという傾向があると考えられる。 2.外国人技能実習制度 外国人技能実習制度の沿革についてまとめてみ ると、外国人研修の側面から見れば1950年代、高 度経済成長期を迎えた日本では、多くの企業が海 外に進出し、外国人従業員に対する研修を日本国 内で効率的に行うために、自社内で関連技術・知識・ 技能を研修するという“外国人研修制度”(「企業 単独型」)がそのスタートである(佐野 2013)。日 本で開発された培われた技術、技能または知識を 開発途上国への移転をし、それらの国等の経済発 展を担う人づくりに貢献するという趣旨で、留学 生の一形として技術研修生を受け入れたのは1982 年であった。1990年、入管法の改正により「研修」 という在留資格が創設され、「企業単独型」研修以 外に「団体監理型」研修の受け入れがスタートし た。1993年には、1年目の研修により一定水準以上 の技術等を研修した外国人について、2年目から 研修機関と新たな契約を結び、研修を修得した技 術をより実践的に修得できるために、技能実習制 度が創設された(厚生労働省 2002)。1997年には、 技能実習の滞在期間が2年に延長され、現在の制度 となった。 その後、受け入れ機関の一部には、外国人研修 図4 日本語能力試験日本国内の受験者数推移
生又は技能実習生を低賃金労働者として扱う傾向 があり、長時間労働、賃金不払い、強制帰国など 様々な不正行為が発生した。団体監理型の受け入 れを廃止すべきという意見も出ていた(外国人研 修生問題弁護士連絡会 2009)。その現状を改善す るために、2009年「研修・技能実習制度」が改正 され、新たに来日後2ヶ月の講習期間が導入され た。これまで、1年目の研修に対して労働関係令適 用されなかった。改善後、2ヶ月間の講習期間を除 き、労働関係令が全期限に適用されるようになっ た。また、新たな在留資格「技能実習」が創設され、 技能実習生の労働条件、労働時間、賃金、解雇な どの内容について新たに明記された(厚生労働者 2010)。その後、2011年、技能実習制度における実 習の成果を評価するために、随時3級、基礎1級及 び基礎2級の技能検定は試験制度を導入し、学問試 験(随時3級30問、基礎1級30問、基礎2級20問。試 験時間1時間)及び実技試験より行われ、100点満 点60点で合格とされた(厚生労働省・都道府県中 央職業能力開発協会、都道府県職業能力開発業界: 2011)。橋本(2015)は、実習生が受けている技能 検定は目安となる日本人の技能レベルが設定され ていないと述べた。また、「技能1号」(来日1年目 在留資格)から「技能2号」(2年目になり、かつ試 験を合格した後の在留資格)へ移行するために受 験しなければならない基礎2級以外の試験は受験率 が低くなっている。原因として、受験料が高く、 資格そのものが母国で認められていないことが挙 げられる(萬谷 2013;橋本 2015)。その結果、ほ とんどの実習生がどの技能レベルに達したのかを 相互に確認できないまま帰国に至ってしまった。 改善策として、2015年公表された「技能実習制 度推進事業等運営基本方針」(以下、「2015年基本 方針」)では、技能実習1号の対象技能について「技 能実習生の母国において修得することが不可能ま た困難であり、帰国後わが国において修得した技 術等を活かすことが予定されているもの(技能実 習生送出し国のニーズに合致するもの)であって、 かつ、同一の作業の反復のみによって修得できる ものではないとする」と初めて明記された。 他には、「技能実習終了までの間に、技能実習期 間全体を通じた成果を確認し、技能実習生の帰国 後のキャリア形成に資することを目的として、策 定した技能実習計画に基づき検定する。実習実施 機関等は、技能実習生が検定・資格受検等に必要 な援助を行うよう努める」こと、帰国旅費を負担 すること、日本語教育支援を行うことも明記され た。 技能実習制度の「2015年基本方針」は非常に明 白なものであり、「技能実習制度」のイメージを一 新するために大切な一歩を踏み出そうとした。し かし、厚生労働省が2015年1月公表した外国人技能 実習制度に介護分野を追加することを適当とする 「中間まとめ」では、技能実習生の業務は身体介護 が半分以上、給料は日本人と同等にし、1年目の実 習生は日本語能力試験N4程度の日本語能力でよい と記載されていた。この中間「まとめ」について様々 な懸念の声(表1)が寄せられた。現状では、技 表1 「外国人技能実習制度」への介護分野導入の問題点
能実習制度は人権損害の問題が多発し、来日前支 払う仲介費用の負担が大きく、返済する見込みが たたない者が失踪してしまったこと等の問題が存 在している(結城 2015;桑本 2015)。介護分野の 実習生の日本語能力が担保されてない、日本の介 護について理解が薄く、来日後モチベーションを 維持することも困難である(結城 2015)。それに よって、日本人の介護職員の負担が増加し、さら なる離職に繋がるのではないかと懸念され、日本 語N4のレベルでコミュニケーションが取れない、 ケアの質を担保することができない。したがって、 技能実習制度の方針が「生まれ変わる」としてい る一方、運営上は方針の変化に順応できていない と考えられる。取得する技能の質と徹底的な評価 仕組みの構築問題を解決しなければ、制度をなし 崩していくのではないかと思われる。 Ⅳ.考察 本節では、Ⅱ節で述べた三つの制度の問題点か ら日本の外国人労働者・留学生の受け入れ制度の 課題についてまとめ、その改善策について提案す る。 1. 三つの制度から見る日本の外国人受け入れ 課題 制度の趣旨を吟味すれば、三つの制度とも人材 育成と国際貢献の二つの大きなビジョンを含んで いる。しかし、すでに述べたように、留学生の受 け入れ制度は政策の緩和により、留学生の人数が 大幅に増えた一方、日本国内の留学生の日本語能 力は低下している傾向にあり、学業と関係ないア ルバイト等単純労働に従事する留学生も少なくな い。技能実習制度は方針が一新されつつあるが、 運営する際、見合った仕組みが出来ていない課題 に直面している。きちんとした運営の仕組みを構 築されない限り、労働者全体の質が上がらないと 考えられる。EPA制度は介護人材育成上で成果が 上がってきたが、それが膨大な財政支援の下で成 り立っている。EPA制度は閉じられた制度であり、 受け入れの人数が少ないため、介護現場への影響 力が極めて小さいと考えられる。日本の外国人人 材育成制度が優れたビジョンを持ちながら、順調 に運営が出来ていない。その原因を追究する必要 がある。 まず、外国人労働者が海外を選ぶ理由について 検討する必要がある。上野(2011)は、シンガポー ルで働く外国人家事労働者へのインタビューから、 海外就労を選ぶ理由について、両国間の賃金差に よる「経済的要因」以外には、「大きな人生計画の 一環として位置づけられている」、「家族と自分の 人生を変える手取り早い方法」、「外国を見聞した い」などの理由を挙げていた。安立ら(2010)は、 EPA介護福祉士候補者の来日動機について、経済 的要因以外には、「自分のキャリアを伸ばしたいか ら」、「日本の高度先端技術を勉強したいから」、「政
府間プロジェクトに貢献したかったから」などの 理由を挙げていた。したがって多くの外国人労働 者・留学生は複数の目的を持ちながら日本を選択 したと考えられる。 図5は、三つの受け入れ制度において、外国人労 働者は日本滞在期間内、目標を失っていくことを 説明するための仮説図である。前述したように、 Aのような外国人が様々な目的を持ちながら日本 に来ている。現状では、EPA制度以外の方が多額 の仲介費用を背負っている。事前準備段階では、 十分な日本語教育を受けないまま来日した。三つ の制度を通じて滞在とすれば、提示している課題 が存在している。課題を改善するために、ここでは、 外国人労働者や留学生が置かれた状況によって三 種類に分類して検討する。 ①.来日後過酷な状況(悪質企業・悪質教育機 関)に置かれ、本来の目的を実現する環境がなく、 仕方なく単純労働に専念し、来日するために掛かっ たコストを取り戻そうとする。 ②.来日後、一般的な環境に置かれ、きちんと した指導を受けることが出来なかったか、正当な 評価システムに不備により、資格の取得や日本語 能力を向上させるモチベーションが低下し、単純 労働に専念したまま母国に帰国してしまう。 ③.来日後、よい環境に置かれ、努力で資格、学歴、 技術等を身につけて帰国したもの。しかし、母国 と日本の経済状況が異なったため、自分のスキル を活かせる環境がなくあるいは、習得した日本の 資格が母国で認められないということがある。 ①と②は数年間日本に来て、自分の将来に役に 立つ能力を得られなかったというものである。こ の様な外国人労働者が増えると、外国人にとって、 日本は知識や技術を学ぶ国ではなく、単なる出稼 ぎ先と認識されていく恐れがある。また、日本人 も外国人労働者を単純労働者だと考えてしまい、 外国人労働者全体のイメージを低下させる可能性 がある。 ③では、外国人労働者・留学生にとって数年間 の努力が白紙に戻され、日本の技術を獲得しても、 母国のキャリアになることがない。日本にとって は人材を育成したが、その人材が日本と母国間の 橋渡し役になっていない。③のような人が増える と、技術や知識を学ぶ志を持つ人にたいして、日 本の魅力が低下する恐れがある。 このような状況が増えると、図5のBのようなこ れから日本へ就労・留学に来る人へ悪影響を与え る恐れがある。 2.改善策への提案 今後の外国人労働者・留学生の受け入れ(全体) と育成について、以下の取り組みが必要であると 考える。 1).送出国のニーズを把握する。現地の日系企 業や日本と連携する意識をもつ一般企業、大学等 と連携を図り、外国人労働者・留学生の母国のニー ズを明らかにする努力が必要である。 2).日本語能力要件を引上げることである。N3 レベルの日本語能力(N3日本語能力試験に合格し た)は最低限の入国要件として設定する必要があ る。留学生に対して、専門学校・大学学部へ進学 する時、日本語能力試験N2の合格証明書を提出す ることを入学要件として導入すべきである。大学 院に進学する場合では、N1の合格証明書(非漢字 圏はN2も可)を要件として取り入れる必要がある。 3).技能実習制度では、能力に応じた給与ラン クを設定する必要がある。技能実習生に日本語能 力試験や技能検定試験を受験させ、試験に合格す ると、給料を引上げる取り組みが必要となる。 4).認められる評価仕組みを構築することであ る。分野ごとに、外国人労働者の能力を判断する 評価システムを構築する。その評価基準は日本国 内だけではなく、外国人の母国においても認めら れる必要がある。 必要な取り組みは決してこの4点だけではない。 しかし、学ぶ志を持つ外国人を入国させ、母国で も活用できる知識・技術を学ばせ、外国人材の母 国に活躍できる環境の整備をサポートすることが きちんとできれば、これらの制度は人材育成制度 として成熟していくのではないかと考えられる。 介護分野において、現地の介護施設・学校など と連携し、教育内容を双方の合意で決めることが 重要である。EPA制度のように、候補者は一定程 度の医療・介護知識を有することが望ましく、大 学の相関専攻の学生や介護現場のスタッフなどが
考えられる。また、現地における日本語教育と介 護研修が必要である。研修前、制度の目的、日本 の現状などについて母国語による説明が必要であ り、研修後、日本語N2と介護初任者研修に合格す ることを目標として設定する。来日後、日本語の 教育と介護技術、知識を継続的に学ばせ、定期的 かつ強制的に試験を行う必要がある。帰国する修 了者に対し、連絡を維持し、フォローアップする 努力が必要であると考える。これらの対策により、 介護現場の人材不足問題の解決につながり、日本 式介護がアジアで広がる機会でもあると考えられ る。 Ⅴ.今後の課題 「外国人技能実習制度」の対象職種に介護分野の 追加と外国人留学生の介護分野での活用する動向 のなかで、学ぶ志を持つ外国人を入国させ、母国 でも活用できる知識・技術を学ばせ、外国人材の 母国に活躍できる環境の整備をサポートしていく ことを考えなければならない。今後、国際的介護 人材を育成する在り方について検証するのが課題 である。 注 1)株式会社リクルートホールディングス(2014) 「東京オリンピックがもたらす雇用インパクト― 人材難が2020年までに迫る構造変革」により。 2)佐藤加奈ら(2014)の調査では、現在就労し ている潜在介護福祉士の介護現場への復帰可能 性は低いことが示唆された。その理由は、現在 の仕事を収入がよく、労働条件がよく、子育て に適し、比較的満足しながら就労を継続してい るからである。一旦介護職を離職し他の職種に 就いている者は、介護職の労働環境の厳しさを 実感しているため、離職した時点で介護職に戻 る可能性は低いことが示唆される。現在非就労 の潜在介護福祉士の介護現場復帰の可能性につ いて、6割以上が介護現場に戻りたいと回答した が、そのうち8割以上の者は条件付つきでの復帰 意志を示した。無条件に介護現へ戻る意志があ る者は1割台にすぎず、多くの者が職場復帰の ための条件が解消されなければ実現は困難であ ることが明らかとなった。 3)厚生労働省(2002)「外国人雇用問題研究会報 告書」では、①他の労働者の就業機会を減少さ せる恐れがある、②労働市場の二重構造化を生 じさせる、③雇用管理の改善や労働生産性の向 上の取り組みを阻害し、ひいては産業構造の転 換等の遅れをもたらすおそれがある、④景気変 動に伴い、失業問題が発生しやすいこと、⑤新 たな社会費用を生じさせること、⑥送出国や外 国人本人にとっての影響もきわめて大きいと予 測されること、以上の六つ理由で単純労働者と しての受け入れを行わない。 文献 安立清史・大野 俊・平野裕子・ほか(2010)「来 日インドネシア人、フィリピン人介護福祉士候補 者の実像」『九州大学アジア総合政策センター紀 要』5,163-174. 文部科学省(2005)「留学生交流の推進について」 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo4/015/gijiroku/06060910/002.htm, 2016.3.22). 文部科学省(2008)「大学のグローバル化に関する 現状について」(http://www.mext.go.jp/b_menu/ shingi/chukyo/chukyo4/025/gijiroku/__icsFiles/ afieldfile/2014/06/10/1216902_001.pdf,2016.3.6). 黄 美蘭(2015)「アルバイトの目的とアルバイト を通して得た肯定感――中国人女性私費留学生の 場合」『言語文化と日本語教育』48,56-7. 法務省入国管理局(2012-2015)「在留外国人統計 (旧登録外国人統計)統計表」(http://www.moj. go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html, 2016.3.18). 伊藤 鏡(2014)「介護現場における外国人介護労働 者の評価と意欲:インドネシア第一陣介護福祉士 候補者受け入れ施設のアンケート調査をもとに」 『厚生の指標』61(11),27-35.
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