プログラミング演習のハイブリッド実施に関するケーススタディ
○桑田 喜隆
†1石坂 徹
†1室蘭工業大学
A case study of hybrid implementation of programming exercise classes
Yoshitaka Kuwata†1, Toru Ishizaka†1 †1 Muroran Institute of Technology, Japan
概要 コロナウイルス感染症対策のため,室蘭工業大学では,2020 年後期のプログラミング演習 の授業をハイブリッド(遠隔+対面)で実施した.本稿では学習支援システム(Moodle), 演習環境(CoursewareHub), 遠隔会議システム(Zoom)を組み合わせた実施方法および学生ア ンケートによる評価について述べる. Abstract
Due to the outbreak of CORONA-virus in 2020, we taught so-called ‘Hybrid-classes’ for Programming exercise in Muroran Institute of Technology. Students either at classroom or in distant-location could join the hybrid-classes. In this paper, we report how we made use of ICT, such as learning management system (Moodle), exercise environment (CoursewareHub), and teleconference system (Zoom). We also discuss the result of the class evaluation by questionnaire.
1. はじめに1 2020 年に発生した新型コロナウイルス感染症 への対策のため,室蘭工業大学においてほとん どの上期授業が遠隔で実施された.2020 年 9 月 には感染が一旦落ち着いてきたこともあり,下 期からは対面授業が再開されるようになった. (学内の対応状況は参考文献1 を参照)一方 で,感染拡大防止のための様々な対策が講じら れた.教室の消毒や換気のほか,密を避けるた め教室の定員を半分にするなどの対策が必要と なった. 筆者らの担当した「プログラミング入門」に ついては演習科目であるためパソコンを利用す る必要があったが,実習室の定員を半分にする と予定していた人数が同時に授業を受講できな いこともあり,遠隔授業と対面授業を組み合わ せた「ハイブリッド授業」を実施した. 本稿は,「プログラミング入門」を例とし,ハ イブリッド授業の実施方法および学生による評 価アンケート結果について報告する. 1 Yoshitaka Kuwata 室蘭工業大学 北海道室蘭市水元町27−1 [email protected] なお,遠隔授業と対面授業を同時に実施する 授業形態は「ハイフレックス授業」とも呼ばれ ることもあるが,同じ意味と捉えている. 2. ハイブリッド授業の実施 「プログラミング入門」は 2019 年より新カリ キュラムとして導入された1年生向けの必修科 目である.演習科目であるため,学生が分から ない点を手軽に質問できる対面授業が適してい ると筆者らは考えている.2019 年には実習室の パソコンを使用し演習を実施してきており,教 員やティーチングアシスタント(TA)が教室を回 り質問に回答したり,アドバイスを実施した. 2020 年にコロナ対策の導入により実習室定員 が減少したため,これまで通り教室での対面授 業が困難になった.インターネット上の演習環 境を利用して授業を実施する前提のため,実習 室の端末に代わり学生の端末からでも演習環境 を利用することが可能である. そこで,次の実施方法を検討した. (1) 全員遠隔授業
全員遠隔から受講する. (2) ハイブリッド授業 学生の半分が交代で出席し,残りの学生は 遠隔で受講する. 担当教員で検討した結果,少しでも直接指導 できる授業を実施したいという要望があり,ハ イブリッド授業で実施することとした. 3. 授業実施方法 3.1 授業の概要 (1) 授業概要 プログラミング入門の概要を表1に示す. 表1 プログラミング入門の概要 項目 内容 コース名 プログラミング入門 対象者 創造工学科/システム理化 学科/夜間主コース 1 年 生 総計約 600 名 クラス数 4 クラス(昼間),1 クラス (夜間) 担当教員数 4 回数 15 回(90 分) 選択/必修 必修 言語 Python 環境 Jupyter Notebook2) 授業形態 講義/演習 (反転学習) 達成度目標 全コースの学生を対象 に,プログラミングに必 要な概念を理解し,基礎 的なプログラムを作成す ることができるようにな ることを目標とする. ティーチングア シスタント(TA) 学生約 30 名に対して 1 名 を配置 教科書 Jupyter Notebook で始め るプログラミング7) (2) スケジュール 表2に,あるクラスの授業スケジュール例を 示す. 表 2 実施スケジュール例 回 開催日付 ID 偶数 ID 奇数 第1回 2020/10/2 遠隔 遠隔 第2回 2020/10/9 遠隔 遠隔 第3回 2020/10/16 遠隔 対面 第4回 2020/10/23 対面 遠隔 第5回 2020/10/30 遠隔 対面 第6回 2020/11/6 対面 遠隔 第7回 2020/11/13 遠隔 対面 第8回 2020/11/20 対面 遠隔 第9回 2020/11/27 遠隔 対面 第10回 2020/12/4 対面 遠隔 第11回 2020/12/11 遠隔 対面 第12回 2020/12/18 対面 遠隔 第13回 2020/12/25 遠隔 対面 第14回 2021/1/8 遠隔 遠隔 第15回 2021/1/22 遠隔 遠隔 なお,学生の移動に伴う感染拡大防止のめ, 授業開始時の第 1 回,第 2 回および年明け 2 週 間は全員遠隔実施とした.また,実施回数を合 わせるため,第 15 回も全員遠隔実施とした.上 記スケジュールにも関わらず,感染の不安があ る学生は,対面授業に該当する回でも遠隔授業 に参加することを認めることとした. 3.2 授業の進め方 教員が実習室で講義を行い,同時に動画配信 システムを利用して配信を行なった. 半数の学生が遠隔実施となるため,授業時間 を効率的に利用することが重要と考え,反転授 業の形式を採用した. 1 回の授業は,以下から構成される. (1) 事前学習 教科書の該当箇所を読む 事前配布している講義資料を読む 演習環境で,事前演習を実施する (2) 小テスト(授業時間内 5 分程度) 授業開始時に,理解度を図るため実施 (3) 講義(授業時間内 20 分程度) 教員が 20 分程度でポイントを説明 (4) 課題実施(授業時間内 60 分程度) 学生が当日出題した課題を実施 ブレイクアウトルームなどを活用 (5) 課題採点と返却(次回授業まで) 授業終了時に回収した課題を採点し返却 3.3 利用したツールおよびシステム構成 表 3 に授業に利用したシステムを示す. 表 3 ハイブリッド授業で利用したシステム 機能 システム 利用方法など (A)学習 支援シ ステム Moodle3) 教材配布 小テスト 課題フィードバック
(B)遠隔 動画配 信 Zoom4) 講義配信 ブレイクアウトルー ム (C)動画 配信 OneDrive8) 後日授業動画の提供 (D) 演 習環境 Coruseware Hub(CWH) 5) Jupyter Notebook を 使った演習 (A)-(C) は上期の授業で利用していたもので ある.(D)は Jupyter Notebook を提供するサー ビスである.2019 年に導入し今回で 2 度目の利 用となる. システム構成を図 1 に示す.Moodle は従来か ら他の授業でも利用しており,学内に設置して ある.また,CoursewareHub(CWH)は NII のサー ビスを利用したが,12/11 より Amazon Web Ser-vices(AWS)に構築したサービスを利用した. 図 1 システム構成図 3.4 教材の例 プログラミング教材の例を図2に示す.学生 はパソコンにソフトウェアを新たに導入しなく とも,WEB ブラウザからプログラミングを行う ことができる. 図2に教材の例(Notebook)を示す. 図 2 プログラミング入門の教材例(Notebook) Jupyter Notebook の特徴を活かして,対話的 にプログラミングの演習が可能である.コード セルと呼ばれる部分に記述した Python のプログ ラムを実行し,その結果がコードセルの下に表 示される. 4. 学習状況の把握 遠隔およびハイブリッド授業では,学習状況 を把握することが難しい.しかし,利用したシ ステムの実行履歴を収集し可視化する7)こと で,学生の授業への参画状況を把握することが できる. 4.1 参加状況の分析 図 3 に,あるクラスの Zoom, Moodle, CWH の 授業時間前後の利用状況の例を示す. 図 3 の上段(第 1 回)は TA を含むほぼ全員が 授業開始時刻である 8:45 に Zoom に参加してお り,授業時間終了時刻である 10:15 まで継続し て参加していることがわかる. 図 3 の下段(第 5 回)は対面授業に参加した 学生がいたため,第 1 回に比べて Zoom での参加 人数は少ない.また,課題が終了した学生が途 中で抜けたため,参加人数も時間を追って減少 していることが分かる.第 5 回では授業開始時 刻に Moodle のアクセスが増加しているが,これ は小テストを受験しているためである. 図 3 授業時間前後のサービス利用状況例 (上:第 1 回,下:第 5 回) 図 3 はクラス全体を分析したが,学生ごとの 学習状況を分析することが可能である.個別学 生の指導などに有効であると考えられる. 4.2 事前学習状況の分析 CWH の実行履歴を利用すると,授業時間外の学 --- ---- ---- ---- ---- -Jupyter Notebook 演習環境 教員 学生 (遠隔参加) SINET キャンパスネットワーク Moodle CoursewareHub Zoom サービス インターネット 学生(対面参加)
習状況を知ることが可能である. 図 4 はあるクラスの学習の実施状況を示した グラフである.授業前日より CWH の利用が増加 しており,事前学習を実施していることが分か る. 図 4 事前学習の実施状況の把握 5 主観評価(アンケート結果) 本章では,授業の最後の回に実施した学生ア ンケートによる授業の評価について述べる. なお,学習データを本研究に利用することに 合意した学生のみを分析している.分析対象と したデータは,2019 年 559,2020 年 496 である 5.1 遠隔対面実施効果の分析 2020 年に実施したハイブリッド授業に関し て,遠隔・対面のどちらが役に立ったかの評価 結果を図5に示す. 図 5 遠隔・対面授業の評価結果 遠隔授業の評価が高く,70%弱の学生が遠隔授 業を好んでいることが分かる.さらにアンケー トより対面授業に参加しなかった学生が全体の 44%いたことが分かった. 図 6 遠隔・対面授業への参加状況 5.2 授業内容の理解度 図7に 2019 年と 2020 年の授業内容理解度に 関する主観評価を示す. 図 7 授業内容理解度に関する評価 2 年間の比較では大きな違いはないが,2020 年の高評価が 5%程度増加している. 5.3 授業の実施方法に関する評価 授業実施方法に関する評価結果について述べ る.図8は事前学習に関する有効性に関しての 問いである. 図 8 事前学習の有効性に関する評価 2019 年に比べ 2020 年は事前学習の評価が大幅 に向上している.2019 年は教科書の確認のみを 事前学習としていたが,2020 年は点数つき事前 演習を出題した効果であると考えられる. 5.4 教材および環境に関する有効性 利用した教材および環境の有効性に関する評 価結果について述べる. (A) 教科書 図 9 に教科書に関する有効性評価結果を示す. 図 9 教科書の有効性に関する評価
教科書7)はこの授業向けに作成しており,教科 書に沿って授業を進めた.このため全体的に有 効性の評価は高い.2019 年 2020 年で教科書の 有効性に大きな違いは生じていない. (B) 学習支援システム,演習環境 図 10 に学習支援システムおよび演習環境の有 効性に関する評価を示す.学習支援システムの 評価の低下に対して,演習環境の評価が向上し ていることが分かる.事前演習の時間を設けた ことで,演習環境を利用する機会が増えたため であると考えられる. 図 10 学習支援システムおよび演習環境の有効 性に関する評価 (C) 提供資料に関する評価 図 11 に資料提供の有効性に関する評価結果を 示す.資料提供に関しては 2019 年度のデータが ないため 2020 年度のみを示している.講義動画 や資料は他の教材に比べて評価が低いことがわ かる. 図 11 資料提供の有効性に関する評価 (D) 演習サポートに関する評価 図 12 に演習サポートの有効性に関する評価結 果を示す.これは授業実施方法のステップ(4)の 演習に関する教員及び TA のサポートの有効性に 関する質問である. 図 12 演習サポートの有効性に関する評価 2019 年に比べ 2020 年は「大変役に立った」が 大幅に増加しているが,これはブレイクアウト ームを利用したことによる効果であると考えら れる.ブレイクアウトルームの利用に関しては 考察で論じる. 5.5 学生の授業の取り組みに関する評価 主観的な評価として,学生の授業に対する取 り組み態度(図 13),好きかどうか(図 14),楽し かったかどうか(図 15)を尋ねた. いずれの問いに対しても 2019 年度から 2020 年度にかけて評価が向上していることがわか る. 図 13 授業の取り組み態度に関する評価 図 14 プログラミングを好きかどうか 図 15 授業の楽しさに関する評価
6. 単位取得状況 客観的な評価の一つとして,単位取得状況の 変化について述べる.表 4 に 2019 年,2020 年 の単位取得率を示した. 表4 単位認定状況 年 受講 者数 単位取得 割合 未取得内訳 出席不足 点数 2019 635 97.6% 2.4% 0% 2020 645 94.3% 4.0% 1.7% 2019 年に比べ 2020 年は出席,点数不足がそれ ぞれ 1.6%,1.7%増加している. 小テストを授業時間内に実施すると出席とし て扱っているため,教室に来るよりも容易に出 席とすることができるはずである.それでも出 席不足で未取得が増えた原因は不明である.個 別の分析が必要であると考える. 7. 考察 7.1 ブレイクアウトルーム(BR)の活用 ブレイクアウトルームは,遠隔会議の中で部 屋を分ける機能である.参加者を特定の BR に配 置し,その中でグループワークなどを行うこと ができる.BR 内での会話は BR 参加者のみで共 有される.予めグループを決めずに,参加者が 自由に BR を出入りできる設定も可能である. 本授業では,授業時間内の課題実施時間では BR を活用した.課題実施時間に教員及び TA が BR で個々の学生から質問を受け付けることとし た.質問のある学生は空いている BR に入り,画 面共有などを利用して解決方法を聞くことがで きる.BR の会話内容はクラス全体で共有されな いため,学生も質問しやすい. BR に関するアンケート結果を図 16 に示す. 図 16 BR の有効性に関する評価 70%程度の学生が有効性に関する評価をしてい るのに対して,5%程度は有効性を評価していな いことがわかる.うまく BR を活用できない原因 に関しては,(1)環境的な問題(2)心理的な問題 などが考えられるが,詳細は不明である.更な る調査および分析が必要である. 7.2 受講に関する物理的な制約 アンケート結果で,隣接する授業時間に対面 授業があるため,遠隔からの参加が難しいとい う声も聞かれた.休み時間に物理的な移動が必 要になるが,自宅で遠隔授業を受講している場 合には,受講が不可能になる.ハイブリッド授 業だと柔軟な対応が可能であり,メリットを生 かすことが可能であると考える. 8. まとめと今後の課題 本稿は,新型コロナウイルス感染症への対策 として実施したハイブリッド授業の実施方法に 関して,「プログラミング入門」を例として取り 上げ説明した.学生アンケートによる評価から プログラミング演習のような演習科目はハイブ リッド実施だけでなく遠隔実施に向いていると 考えられる. 本稿では実施状況の概要のみを説明したが, クラスごと個人ごとなど状況が異なっており, 更に詳細な分析が必要であると考える. なお,本研究は JSPS 科研費 (JP18K11561)の 「クラウドを活用したプログラミング演習環境 に関する研究」の助成を受けたものである. A. 参考文献 1. 室蘭工業大学, 特設サイト「新型コロナウイル ス感染症への対応」, http://www3.muroran-it.ac.jp/covid19/ (2021/3/3 参照)
2. Project Jupyter, Project Jupyter Homepage, http://ju-pyter.org/ (2021/3/3 参照)
3. Moodle Project, https://moodle.org/ (2021/3/3 参照) 4. Zoom Video Communications, Inc., https://zoom.us/
(2021/3/3 参照)
5. Literate Computing for Reproducible Infrastructure, https://literate-computing.github.io/ (2021/3/3 参照) 6. 桑田喜隆,小川祐紀雄,早坂成人,石坂徹, Jupyter Nortebook で始めるプログラミング, 学術図書 出版社, 2020 年 10 月 7. 桑田喜隆, 石坂徹, 政谷好伸, 長久勝, 横山重俊, 浜元信州, Jupyter Notebook の実行履歴を活用し たプログラミング演習の状況把握, 第 24 回 人 工知能学会 知識流通ネットワーク研究会, 2019 年3 月 8 日
8. Microsoft OneDrive, https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/onedrive/online-cloud-storage (2021/3/3 参照)
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