【論 文】
トルコ西部における女性生産者の市場空間
鶴 田 佳 子
Market Spaces for Female Producers in Western Turkey
Yoshiko TSURUTA The purpose of this study is to investigate regional and spatial characteristics of Turkish city markets. On the basis of spatial examination of 20 market spaces for female producers in 12 cities in western Turkey, the researcher found that these spaces can be divided into 3 types, the square type, the street type, and facility type. The type of stalls at market places can be divided roughly into 4 types. Various agricultural products, cooked and processed foods, homemade traditional foods, and handmade crafts are sold at designated spaces or at halls exclusively for female producers. The Aegean and Marmara regions have rich food cultures so markets offer a wide variety of local products and traditional cuisines. Many of them are produced by the women themselves at home using traditional methods. In recent years the number of female producers at the Turkish markets has been increasing. They are economically and socially encouraged and supported by local government.
Key words: Turkey (トルコ), Aegean region (エーゲ海地域), market space (市場空間), urban space (都市空間)
1.はじめに トルコは図 1 に示す通り,南は地中海,西はエー ゲ海,北は黒海に面し,三方を海で囲まれた立地で あり,気候風土はそれぞれ地域によって異なる。し かし,都市の構造をみると,規模の大小に関わらず 中心部にトルコ語でチャルシュ1と呼ばれる常設の 商業空間を有し,パザル2と呼ばれる露天市によっ て賑わいの場が定期的に創出されている点で共通し ている。チャルシュの主たる機能は商業機能である が,単に物の売買だけでなく,工房をはじめとする 生産の場や,行政施設,宗教施設,文化施設,交通 施設など,公共性の高い諸施設が立地しているため, 都市の多様な機能を担っている。パザルはチャルシ ュに隣接する場合と都市の周縁部に位置する場合が あるが,立地に関わらずチャルシュとともに都市内 外の人,物,情報をつなぐ重要な交流の場として機 能している。パザルは農産物など扱う商品から季節 感や地域性もうかがえる。これらチャルシュ及びパ ザルを対象に 2007 年からトルコ各地で現地調査を継 続して行い,都市構成について特徴を整理してきた3。 また,2018 年 9 月に実施したエーゲ海地域沿岸 部の都市空間調査から,都市部の人口増加に加え, 国内外の観光者数の増加が確認され,市場空間にお いて多様な賑わいがあることを捉えてきた4。チャ ルシュエリアを中心に,歴史建造物の利活用や広 場・街路空間の歩行者専有空間化など,各地で活発 な空間利用がなされている。エーゲ海地域の中心都 市であるイズミールは,国際商業都市イスタンブル, 首都アンカラに続く大都市であり,イズミール大都 市圏としての人口は 2014 年の 411 万人から 2018 年 の 432 万人へと,5 年間で 21 万人増加し,発展し 続けている5。イズミール大都市圏中心部のパザル について62010 年と 2018 年の開催数の比較を行っ たところ,都市化が進む中でも開催数は 100 件から 115 件と増加し,イズミール大都市圏全体では 2018 学苑・人間社会学部紀要 No. 952 21~34(2020・2)
年時点で 214 件開催されていることが確認できた。 中心部と周辺部の都市を比較すると,周辺部の方が 人口に対しての開催数が多いことも明らかとなり, 時代と共にスーパーマーケットが都市中心部にも点 在する中,週に 1,2 度開催されるパザルは都市規 模に関わらず,日常生活に欠かせない存在であるこ とがわかる。 これらを踏まえて,本稿ではパザルを研究対象と し,中でも近年の調査で多く目にするようになった 女性による販売エリアに焦点をあて,都市における 位置付けや空間活用の視点から特徴を明らかにする。 研究対象地は,2018 年及び 2019 年 9 月に現地調査 を実施したトルコ西部とし,過去の調査事例も含め, エーゲ海地域及びマルマラ海地域に位置する中小規 模の都市とする。(図 1 参照) 2.対象エリアの都市と市場空間 2-1.対象エリアの 12 都市 調査対象とする 12 都市を 2018 年の人口規模によ り一覧にしたものが表 1 である。12 都市のうち, エディルネ,ボズジャアダ7の 2 都市がマルマラ海 地域に属し,残る 10 都市はエーゲ海地域に属する。 また,エディルネ,オデミッシュ,ムーラ8,ベル ガマは内陸部,クシャダス,アイワルック,ウルラ, セフェリヒサール,チェシュメ,フォチャ,アラチ ャト,ボズジャアダは沿岸部に位置し,世界遺産な どの文化的な観光地やリゾート地として観光産業が さかんな都市が多く,夏季に国内外から多くの観光 客が訪れる9。12 都市のうち 7 都市がイズミール県 下に位置しており,イズミール県には 2019 年 9 月 における外国人来訪者数10国内第 4 位の空港があり, 国際船舶の寄港地となる複数の港とともに観光拠点 となっている。図 2 はイズミール県の 2017 年から 2019 年までの 3 年間,月別に外国人来訪者数の推 移を示したものである。7 月をピークに 6 月から 9 月に多くの来訪者があり,2018 年は前年比 33.8%, 2019 年は 7 月が前年を超えなかったものの,6,8, 9 月は 20%以上の伸び率をみせている。2019 年 1 月から 10 月までの来訪者数総計は 115 万人を超え, 2018 年年間の総計 102 万人をすでに超えている。 また,クシャダス,アイワルック,チェシュメは対 岸のギリシャの島との定期船を有し,日帰りでの訪 問者も多い11。 エーゲ海地域及びマルマラ海地域は,気候風土と してオリーブやブドウをはじめ,野菜や果物など農 業に適した地域であり,食文化も豊かである。図 3 オデミッシュの土曜市の開催エリアは,都市中心部 全体を覆う大規模なパザルであり,行政施設が立ち 並ぶ中央の広場やチャルシュ内外の街路,鮮魚やチ ーズの商品に特化した市場施設に色とりどりの食材, 衣類や雑貨などの日用品類が並ぶ。対象地域は夏季 に雨が少ないこともあり,パザルだけでなく歩行者 専有空間も含め,屋外空間の利用が活発である。ま た,農産物を活かした取り組みも多い。トルコ国内 図 1.調査都市位置図
で最初のスローシティ12に認定されたセフェリヒサ ールやスローフードのアースマーケットを開催する フォチャ,春の野菜祭りといった食のイベントを開 催するウルラやアラチャトなど,大都市イズミール だけでなく,国内外から多くの観光客を惹きつける 中小規模の都市が,周辺の農村とも連携しながら点 在している。 これら多様な都市空間の活用がみられる中,女性 による手工芸品や郷土料理などの販売エリアに着目 すると,過去に実施してきた現地調査のうち 12 都 市 20 件の市場が挙げられる。対象とする市場空間 は,チャルシュとパザルを調査する中で行政機関や 関係者から情報を得て確認してきた市場である。女 性専用販売スペースもしくは出店者のほとんどが女 性である販売エリアに限定し,対象とする市場につ いて精査する。都市のセンター領域を形成するチャ ルシュ,日常生活に欠かせなく観光要素ともなるパ ザル,観光要素あるいは都市のシンボルともなる歴 史建造物や公共施設等との位置関係を確認し,市場 自体の空間形態から整理したものが表 2 の空間形態 別市場事例一覧である。対象都市は 12 都市である が,アイワルック 2 事例,アラチャト 2 事例,ボズ ジャアダ 2 事例,フォチャとウルラについては郊外 の村も含めフォチャ 3 事例,ウルラは 4 事例あり, 計 20 事例が対象となる。20 事例それぞれの代表写 真と特徴を一覧にしたものを表 3 に,商品や空間形 表 1.対象都市の人口(2018 年) 都市名 県 人口(人) 01 エディルネ エディルネ 180,327 02 オデミッシュ イズミール 132,511 03 クシャダス アイドゥン 113,580 04 ムーラ*1 ムーラ 112,447 05 ベルガマ イズミール 103,185 06 アイワルック バルケシル 071,063 07 ウルラ イズミール 066,360 08 セフェリヒサール イズミール 043,546 09 チェシュメ イズミール 043,489 10 フォチャ イズミール 033,131 11 アラチャト イズミール 010,060 12 ボズジャアダ チャナッカレ 003,023 *1 2013 年からメンテシェに都市名が変わる。 *2 トルコ統計局のデータから各都市部の人口を記載。 図 2.イズミール県の外国人来訪者数の月別 3 年間の推移 * イズミール文化観光局のデータをもとに筆者作表。2019 年 11 月時点でのデータのため 2019 年は 10 月までのデータである。 0 50000 100000 150000 200000 250000 300000 2017 2018 2019 (人) 図 3.オデミッシュのパザル(土曜市)エリア 中央の市役所前広場に女性のクラフト市エリアが位置する。 *オデミッシュ市役所の協力を得て筆者作図(2012 年調査時の状況) 市役所 魚市場 チーズ 市場 チャルシュ エリア モスク モスク モスク 街路に露店が並ぶ 女性の クラフト市 エリア
態などの特徴を表す写真を表 4 に示す。 2-2.女性のための市場空間
女性生産者を対象とした市場をトルコ語で kadın üretici pazarı と呼ぶ。kadın が女性,üretici が生 産者,pazar が前述の定期市パザルで述べた通り, 市場を示す単語である。この女性生産者市場と名称 のつく市場は,ウルラ(表 2 事例 No. 12, 19),ベル ガマ(事例 No. 18),フォチャ(事例 No. 20)の 4 事 例である。いずれも行政によって整備されている。 ウルラの場合,調査地の 2 事例以外にも市内の別地 区に同様の女性生産者のための市場を行政が開設し ており,近年,積極的な支援を行っている。女性が 家計の支えとなる収入を得,社会とのつながりをも つことに対する経済的,社会的な支援として,場を 提供し,屋根付きの専用市場施設や常設固定型の販 売台の提供を行っている。調査で確認ができた範囲 では出店料は無料である。 生産物として,レース編みなどの手工芸品(写真 4-1 参照),焼き菓子や惣菜,ジャムなどの加工食品 (写真 4-2 参照),野菜,果物,卵などの農産物と大 きく 3 分類できる。これらすべてを扱う市場と,手 工芸品のみや加工食品のみを扱う市場がある。前述 の 4 事例のうち事例 No. 19 ウルラの女性生産者市 場と No. 20 のバーアラス女性生産者市場の 2 事例 では,すべての生産物を販売している。No. 12 と No. 18 は手工芸品中心の市場となっていた。トル コ語で手工芸品のことを el sanatlar13と呼び,市 場の名称にこの単語がつく事例も多い。表 2 中,ク ラフト市と記載した 11 事例が該当する。特に名称 に kadın がつくものは女性のクラフト市と明記し, 女性に限定されない市場,あるいは市場の名称はな いものの販売している商品からクラフト市と認定し たものを含む。伝統的なレース編みやフェルト細工, アクセサリーなどが制作,販売されている。対象と している都市がリゾート地として多くの観光客を迎 えている点からもアクセサリー関連の手工芸品の店 舗は各地でみられる。本稿では,これらアクセサリ ーなど観光用の土産物が主たる市場も含めクラフト 市と呼ぶ。事例 No. 1 アイワルックのナイトマーケ ットは夜のみの開催から名称が付いているが,扱っ ている商品は手工芸品であり,クラフト市に該当す る。この他,No. 14 ボズジャアダのジャム市場は ジャム,蜂蜜,ラベンダーなど島での生産物が売ら れ,No. 11 フォチャのアースマーケット(写真 4-3 参照)はスローフードの概念に当てはまる農産物や 表 2.空間形態別市場事例一覧 事例 No. 都市名 市場名称*1 タイプ市場 街路 広場 施設空間形態*2 販売台 隣接 関連要素定期市 チャルシュ 開催日 調査年 備考 01 アイワルック ナイトマーケット* 観光 1 移動型 隣接 内部 夏季夜 2019 木曜以外開催 02 ウルラ 芸術通りクラフト市 観光 1 移動型 文化施設 内部 午後 2018, 2019 03 フォチャ 女性のクラフト市 独立 2 移動型常設 城壁 夏季夜 2018, 2019 04 クシャダス クラフト市* 独立 2 移動型常設 城壁 内部 午後 2010 2018 年不明 05 チェシュメ クラフト市 独立 2 移動型常設 内部 午後 2011 2018 年不明 06 アイワルック 女性のクラフト市* 独立 2 3 常設折畳型 隣接 内部 木 2019 2008 年開設 07 アラチャト クラフト市 観光 3 移動型 隣接 内部 午後 2011, 2012 08 セフェリヒサール スアジュック生産者市場* 観光 3 3 移動型 城壁 内部 日 2019 09 ウルラ バルバロスかかし祭り* 観光 3 3 3 移動型 モスク 内部 9 月 2018, 2019 第 1 回は 2016 年 10 エディルネ 女性のクラフト市 独立 1 移動型常設 モスク 内部 夏季 2011 11 フォチャ アースマーケット* 独立 1 移動型常設 案内所 内部 日 2019 2012 年開設 12 ウルラ 埠頭の女性生産者市場* 独立 1 2 常設固定型 埠頭 近距離 土日 2018 2015 年開設 13 アラチャト クラフト市 観光 2 移動型常設 モスク 隣接 内部 午後 2011, 2012 14 ボズジャアダ ジャム市場 観光 2 移動型常設 公園 内部 内部 毎日 2019 水曜市エリア内 15 ボズジャアダ クラフト市 観光 2 2 常設固定型 城塞 隣接 内部 毎日 2019 16 オデミッシュ 女性のクラフト市 パザル部分 2 2 常設固定型 行政施設 内部 内部 土 2012 17 ムーラ 女性のクラフト市* パザル部分 2 2 常設固定型 隣接 内部 木 2010 18 ベルガマ 女性生産者市場* 独立 1 常設固定型 内部 月金 2009 2009 年開設 19 ウルラ 女性生産者市場* 独立 1 移動型 内部 土 2018, 2019 2007 年開設 20 フォチャ バーアラス女性生産者市場* 独立 1 移動型 公共施設 近距離 金土日 2019 2019 年 7 月開設 *1 市場名称として,現地での看板や各市役所の公式サイトなどで確認ができた事例の名称に*をつける。20 事例中 11 事例が該当。 *2 空間形態として,街路,広場,施設を下記の特徴で分類する。 街路 1:メインストリート,2:路地,3:メインストリートと路地による複数の街路構成 広場 1:広場全面利用,2:広場の一部利用,3:複数の広場利用 施設 1:屋根付き施設,2:販売エリアのみ屋根付き施設,3:他の機能を有する施設(住宅,図書館他)を活用
加工食品が売られている。No. 8 スアジュック生産 者市場と No. 9 バルバロスかかし祭りでは農産物, 加工食品,手工芸品,すべての生産物が扱われ,加 工食品に郷土色が強く現れている。写真 4-4 のよう に出来立ての料理を提供する店もある。これはギョ ズレメ14と呼ばれる軽食で,クレープのような薄い 生地を専用の鉄板で調理し,それにチーズやほうれ ん草などを挟んで焼いたものである。通常のパザル やイベントの際も女性たちがその場で調理し,店を 切り盛りする。 ここで,ヒヤリング15を実施した No. 20 フォチ ャのバーアラス女性生産者市場を事例に出店者及び 販売商品について詳細を述べる。この市場はバーア ラスを含む周辺 6 地区16の住民である女性を対象に 2019 年 7 月にバーアラス地区のはずれ,リサイク ルセンターの隣に開設された。市場は行政が建設し た専用の屋根付き施設であり,幹線道路には面して いるものの,地区の中心に立つ日曜市エリアからは 離れている。バーアラスも他の地区もかつては村で あったが,現在はフォチャ市の地区として統合され ている。出店者の女性たち(写真 4-5 参照)は,商 品を売るためにディスプレイの仕方や宣伝など情報 発信の方法,商品自体の質の向上について話し合い ながら運営している。出店者たちの意欲的な話から は,単に収入を得る経済的側面だけでなく,市場に 出店することで生きがいを得ている様子が伝わって きた。また,出店者の女性だけでなく,その家族が 協力する姿もあり,出店者同士のつながりに加え, 家族内でのつながりにも影響を与えているようであ る。販売商品としては,ジャムや焼き菓子,薬草を オリーブオイルに漬けたものや惣菜などの郷土料理, 伝統的なレース編みやフェルト細工,人形,ラベン ダーのサシェ,アクセサリーなどの手工芸品,絵画 作品もあり,幅広い品揃えである。伝統的な手工芸 品の制作にあたっては,女性たちのために行政が講 座を開くなど技術的なサポートも行っている。7 月 の開設時と 9 月後半に市長も加わったイベントを開 催し,同時に各種メディアでも発信するなど,市場 を定期的に盛り上げている。 2-3.都市における市場の位置 都市中心部のチャルシュ周辺を歩行者専有空間と している都市も多い。女性による市場空間の立地と して,チャルシュやパザル,歩行者専有空間,他の 諸施設との関係性から,利用者にとってアクセスし やすいものであるかを確認する。 表 2 に示す通り,20 事例中 17 事例がチャルシュ 内部に位置し,アクセシビリティが高い立地である。 該当しない 3 事例をみると,No. 3 フォチャの女性 クラフト市は,港から続く水辺の歩行者専有空間上 に位置するため,人の流れがある。また,城壁に沿 った立地でもあり,隣接する城門内側の旧艇庫では 野外絵画展が開催されており,文化的な要素と連携 した位置関係となる。No. 12 ウルラ埠頭の女性生 産者市場も水辺の歩行者専有空間内にあり,魚市場 と隣接する。埠頭にはカフェやレストランが並ぶ。 No. 20 のバーアラス女性生産者市場のみ地区の中 心から離れており,調査時,日曜の夕方は訪問者も 少なく,定時よりも早く閉店していた。 都市内外から定期的に多くの利用者があるパザル に着目すると,パザルの曜日に合わせて隣接した場 所での開催や,パザルの一部として専有のエリアを 形成している事例が 9 事例みられ,日常的な市場と して運営されている状況が確認できる。ただし, No. 1 アイワルックのナイトマーケットはパザルの ある木曜以外での開催であり,夏季の夜限定市場で ある。木曜市は規模が大きく,パザルエリアだけで なく,隣接するチャルシュも朝から夕方まで多くの 人が利用する。日中,中心部全体が賑わいの場へと 変わるため,木曜夜は開催せず,木曜以外,日没後 の暑さが落ち着く時間帯にメインストリートに露店 を並べ,パザルとは曜日をすみ分けて開催している。 また,表 2 の関連要素に目を向けると,日々の礼 拝に欠かせないモスクに面するものが 3 事例,行政 施設や文化施設,公園などの公共施設に面するもの が 4 事例,歴史建造物である城壁に沿ったものが 3 事例,城塞の入り口広場に位置する事例が 1 件みら れる。いずれも該当市場単体ではなく,周辺の施設 や空間と隣接することで市場の存在を周知すること ができ,利用者にとってアクセスしやすい。
写 真 事例 No. 調査年 市場の特徴 No. 1 2019 メインストリートでの夏 季ナイトマーケット No. 2 2018 歩行者専有「芸術通り」 のクラフト市 都市名 アイワルック ウルラ No. 3 2019 城壁前の歩行者空間に並 ぶ女性のクラフト市 No. 4 2010 城壁の外側に設置された クラフト市 No. 5 2011 チャルシュ内裏道に並ぶ クラフト市 フォチャ クシャダス チェシュメ No. 6 2019 女性のクラフト市用の折 畳型販売台が並ぶ No. 7 2012 保存地区内の街路に並ぶ 露店 No. 8 2019 スアジュック地区の城壁 内の街路に並ぶ露店 アイワルック アラチャト セフェリヒサール No. 9 2018 バルバロスのかかし祭り No. 10 2011 モスク前広場での夏季の みの女性クラフト市 No. 11 2019 広場で開催されるアース マーケット ウルラ エディルネ フォチャ No. 12 2018 埠頭前の女性のための生 産者市場 No. 13 2011 モスク前広場のクラフト 市 No. 14 2019 水曜市内にある島民によ るジャム・蜂蜜販売 ウルラ アラチャト ボズジャアダ 表 3-1.市場事例写真一覧
No. 15 2019 城塞下の広場一辺に並ぶ 土産物中心の市場 No. 16 2012 土曜市の広場内に立つ女性のクラフト市 No. 17 2010 市場施設前の広場にある女性のクラフト市 ボズジャアダ オデミッシュ ムーラ No. 18 2009 広場に面して設置された 女性のクラフト市 No. 19 2019 ホール空間での女性のた めの市 No. 20 2019 バーアラス地区の女性の ための市 ベルガマ ウルラ フォチャ 表 4.市場関連写真一覧 4-1 No. 20 手工芸品。販売台のテー ブルクロスを統一 4-2 No. 19 前菜や焼き菓子などの郷 土料理の販売 4-3 No. 11 手打ちパスタや自家製ジ ャムなどの販売 フォチャ ウルラ フォチャ 4-4 No. 9 クレープ状の生地をその 場で焼きあげて販売 4-5 No. 20 出店者同士で話し合いながら市場を運営 4-6 No. 9 テーブルと干草の台で販売台を統一 ウルラ フォチャ ウルラ 4-7 No. 9 住宅の一部で展示,中庭 ではお茶を提供 4-8 No. 9 納屋を開放し,野菜やお 茶,伝統料理の販売 4-9 No. 9 住宅前の路地で自家製加 工食品と花を販売 ウルラ ウルラ ウルラ 表 3-2.市場事例写真一覧
3.空間形態による特徴 対象とする市場の空間形態をみると,街路,広場, 施設があり,これらが単体で場を形成しているもの と複数の空間によって形成されているものがある。 表 2 の空間形態は,街路をメインストリート,路地, メインストリートと路地による複数の街路構成とに 分け,さらに広場は広場全面利用,広場の一部利用, 複数の広場利用に,施設は屋根付き施設,販売エリ アのみ屋根付き施設,他の機能を有する施設の活用 に分類した(表 2, 3, 4 参照)。 3-1.街路: 9 事例(No. 1〜9) 露店が 1 列もしくは 2 列に街路空間に並ぶ形態で あり,街路自体の都市内での位置付けとして,都市構 造の主軸となるか否か,また街路単体か複数の街路か ら構成されているかという観点で,メインストリート, 路地,街路複合の 3 タイプに分類することができる。 ① メインストリート: 事例 No. 1, 2 No. 1 アイワルックのナイトマーケット,No. 2 ウルラの芸術通りクラフト市である。アイワルック は,チャルシュのメインストリートが歩行者専有空 間として車両が規制され,両側に店舗の連なる街路 に露店が 2 列に並ぶタイプである。ウルラの芸術通 りは,正式名アタチュルク通りを芸術通りと命名し, 歩行者専有空間化した。伝統的なチャルシュエリア に隣接し,現在のチャルシュの主軸の 1 つとなって いる。カフェやレストラン,本屋,文化センターな どが面し,歴史建造物の保存修復や店舗の看板・フ ァサードへのこだわりなど芸術通りの名に相応しい 景観整備が試みられている。街路にはみ出した店舗 の販売台やカフェとともに露店が街路に並ぶ。 ② 路地: 事例 No. 3, 4, 5, 6 幅員が狭く,通り抜け機能が主となる街路である。 歩行者空間として整備されているものがほとんどで ある。No. 3 フォチャ,No. 4 クシャダスの 2 事例 は城壁沿いに位置し,フォチャは城壁の一部,城門 内にあるかつての艇庫を文化的に活用した野外絵画 展エリアと隣接している。城壁を背に 2 列に露店が 並び,水辺の歩行者空間を挟んで目の前にエーゲ海 が広がる立地である。日没から開店する露店が多く, 夏場はリゾート地らしく,夕食後のそぞろ歩きの観 光客をターゲットに夜中 12 時まで営業している。 アクセサリーや小物が中心に販売され,デザイン性 の高い商品が多い。クシャダスは,カレイチ17と呼 ばれる城壁内の保存地区が全面歩行者専有空間のチ ャルシュとなっている。その外壁に沿った場所に行 政が整備したクラフト市の露店が並ぶ。No. 5 チェ シュメは,チャルシュのメインストリートと並行し, 一本裏手の路地片側 1 列に露店が並び,手工芸品が 販売されていた。クシャダスは 2010 年の調査,チ ェシュメは 2011 年の調査時に確認したものであり, チェシュメでは 2018 年の調査時には露店が撤去さ れている。No. 6 アイワルックの該当街路は,海沿い の商業空間から木曜市エリアへと続く抜け道の一つ である。調査時は販売台が折りたたまれ,通行の障 害にならないように街路両脇の壁に固定された状態 であった。販売台のフレームが日除けテントを支え, 街路全体をテントが覆っている。市開催時は街路す べて市場専有空間となるが,市以外は通行機能を主 とする街路となるため,表 2 では施設を 3 に分類する。 ③ 街路複合: 事例 No. 7, 8, 9 複数の街路を利用し,面的に広がるエリア全体で 市が開催されるタイプである。No. 7 アラチャトと No. 8 スアジュックは,いずれもギリシャ系住民の 伝統的な民家が立ち並び,かつての市街が保存対象 エリアとなっている。保存地区は歩行者専有空間と して整備され,特に夏は多くの観光客を迎える。保 存地区内の複数の街路に毎日,露店が並ぶが,スア ジュックの場合,平日は出店の数が少なく,生産者 市場と呼ばれる日曜市では城壁で囲まれた地区全域 が会場となる。野菜,伝統的な菓子や料理,ドライ フルーツ,トマトペーストといった加工食品,手工 芸品など多様な商品が並ぶ。スアジュックは,トル コ第 1 号のスローシティに選定されたセフェリヒサ ールの一地区である。アラチャトは,城壁はないが, 指定された保存地区内の住宅の多くはホテルやレス トランなど商業的に活用されている。街路は幅が狭 いため,通りの片側に露店が並ぶ。保存地区の南東 部,住宅街からバスターミナルまでの複数の街路に
規模の大きな土曜市が立つ。 No. 9 バルバロスはウルラ郊外の山間に位置する 村であり,本稿で対象とするバルバロスかかし祭り は,年に 1 度開催されるイベントである。2019 年 は 4 回目を迎え,9 月 6 日から 8 日までの 3 日間開 催された。村中の至る所にかかしが飾られ,村の中 心部モスク前広場をステージに見立て,モスクへ通 じる村のメインストリートと広場から奥に位置する 住宅街に点在する店舗や住宅が会場となる(図 4 参照)。 また,村の入り口に位置する文化施設や広場もギャ ラリーや展示会場となり,村の住民だけでなく,芸術 家や建築家,大学関係者など,住民以外の多様な関わ りもある。メインストリートには,統一された干草の 販売台が並び(写真 4-6 参照),手工芸品のほか,家庭 料理など地域特有の加工食品が販売されている。中 庭(写真 4-7 参照)や倉庫(写真 4-8 参照)など住宅の 一部を公開し,トルコ紅茶であるチャイや軽食,果 物・野菜などの販売を通して来訪者との交流の場を 提供する住民もいる。住宅前の路地で自家製加工食 品と花を販売する女性の姿(写真 4-9 参照)もみられた。 3-2.広場: 8 事例(No. 10〜17) 広場全面を市場空間として使用する広場専有タイ プと,広場の一部が市場空間となる広場部分利用タ イプがあり,8 事例が該当する。この他,複数の広 場利用として前述の No. 8, 9 が該当する。街全体の 利用の一部に複数の広場が含まれており,広場より も街路空間により多くの出店がみられる。 ① 広場専有: 事例 No. 10, 11, 12 No. 10 エディルネは,チャルシュ中心部のモス ク,キャラバンサライといった歴史建造物に囲まれ た広場に夏期間限定で女性の手工芸品の露店が並ぶ。 一部公開の住宅 図書館等の会場 露店の並ぶ街路 モスク 村の 中心広場 図 4.バルバロスかかし祭り 2018 イベントマップ *会場内に掲示されていた案内図をもとに筆者加工。
販売エリアは白いパラソルとテーブルで統一されて いる。2011 年夏の調査時のヒヤリングでは,出店 者は専業主婦であり,1 年かけて自宅で制作したニ ット製品などの手工芸品を販売しているとのことで あった。広場は出店者同士,作品を作り続けながら 交流する場となっていた。 No. 11 フォチャのアースマーケットは,バスタ ーミナルからチャルシュへの入り口に位置する広場 で毎日曜に開催される。この広場には観光案内所が 面し,広場中央に水場がある。広場横のメインスト リートは歩行者専有空間になっており,チャルシュ の中心的な港前広場へとつながる。観光客だけでな く住民の日常生活においても重要なメインストリー トである。火曜市がチャルシュに隣接する住宅街で 開催され,開催日は異なるもののアースマーケット の広場からも近く,双方とも都市内外の来訪者にと ってアクセスが良い。アースマーケットは 2018 年 の調査時,幹線道路に隣接する別の広場で開催され ていたが,2019 年の該当広場の方がチャルシュと 直接つながり,アクセス面の改善がなされた。空間 としても一体感のある規模としつらえになり,デザ インの統一された販売台と合わせてより良いイメー ジへと変化した。このアースマーケットはスローフ ード運動の一環として 2012 年に世界で 28 番目に開 設され,日曜の朝 8 時半から 18 時半まで地域の生 産物を販売する。商品は開催地の 40 km 以内で自 ら生産したものという必須条件があり,2019 年の 調査時は,出店者の畑で収穫した野菜や果物,ジャ ムや薬草を使用した加工食品,その場で調理したギ ョズレメが販売されていた。 No. 12 ウルラの埠頭に開設されている女性生産 者市場はウルラ市役所が 2015 年に開設したもので, 埠頭の歩行者空間の一角,オープンカフェや魚市場 が隣接する広場を占有する。埠頭のある地区は,内 陸にあるウルラ市中心部からは離れているが,該当 市場は埠頭地区の中心に位置し,船からのアクセス や水辺を楽しむ人にとっては利用しやすい。販売ス ペースのみに簡易な屋根が付き,市場全体にはかか っていない。 ② 広場部分利用: 事例 No. 13, 14, 15, 16, 17 No. 13 アラチャトのモスク前のクラフト市は, 広場の一部に同じデザインの販売台が並ぶ。アラチ ャトの保存地区にこの広場も含まれるが,街路複合 型の事例 No. 7 とは区別する。広場中央に位置する モスクは,かつてキリスト教の教会だった施設を転 用したものである。 No. 14, 15 のボズジャアダは,トルコ本土から約 8 km 西側のエーゲ海に浮かぶ島である。定期船の 着く港に面して中心の街が広がる。港からのびるチ ャルシュのメインストリートを挟んで,かつては北 側をギリシャ人居住区,南側をトルコ人居住区に分 けていた。北側の地区は格子状の街区割がなされ, 教会がある。南側にはモスクがあり,水曜市が立ち, 両地区にまたがる形でメインストリートを中心とし たチャルシュが形成されている。島には海水浴場や ブドウ畑などがあり,夏にはイスタンブルなどの大 都市から多くの観光客が訪れる。観光客の多い 6 月 半ばから 9 月初めまで港周辺の中心部は車の通行を 規制し,中心部全体が歩行者専有空間となる。港に 面した北側の高台に堅固な城塞があり,城塞下の広 場一辺に手工芸品などの土産物の露店が常設で並ぶ。 この広場の南側に水曜市が立つ。水曜市の露天商は 本土から船に乗って来るため,市の開催は夕方の定 期船の運航時間までとなる。このパザルの一部にジ ャムや蜂蜜,ラベンダーなど,島で生産されたものを 販売するエリアがあり,水曜だけでなく他の曜日も 観光客をターゲットに階段状の陳列台とパラソルを 用い,店を開いている。規模としては水曜市の露天 商が50 軒,島民による露店ジャム市場が22 軒である。 No. 16 オデミッシュは,図 3 に示したように土 曜市の開催エリアが広範囲におよび,その中心部に 位置する広場内にレース編みをはじめとする女性の 手工芸品の露店が軒を連ねる形である。該当エリア だけの名称はなく,土曜市の一部として存在してお り,出店者の一人の女性は,チャルシュ内に常設の 手工芸品店をもっているとのことであった。 No. 17 ムーラの中心部は,都市計画により広場 や幹線道路の整備がなされており,伝統的なチャル シュは奥まった場所に位置する。整備された広場に
面して木曜市の市場施設が立ち,2010 年の調査時 は木曜市にあわせて,広場の一角で屋根付きの女性 によるクラフト市が開催されていた。 3-3.施設: 3 事例(No. 18〜20) No. 18 ベルガマは,伝統的なチャルシュ内の広 場に面したスペースを女性生産者市場と名付け, 2009 年に行政が常設の屋根付き販売台を設置した。 もとは,チャルシュの一角でパザルが開催され,該 当スペースはチーズ市エリアであった。チーズ市用 の販売台を撤去し,新たに女性のための市場へと作 り変え,パザル自体は中心部から離れた場所に移転 している。調査時の写真(表 3-2. No. 18)では販売 台上部の屋根のみであったが,その後,市場全体を 覆う大屋根が設置されている18。 No. 19 ウルラはかつての修理工場を活用したホ ール空間であり,天候に左右されることなく年間を 通じて開催可能である。伝統的なチャルシュエリア に隣接し,ウルラ市役所が面する広場の奥に位置す る。2007 年頃,ウルラ市役所が数名の女性に呼び かけて開設したもので,年々,参加する女性の数は 増え,土曜は終日,出店者でホールが埋め尽くされ る。販売されている商品は,伝統的な手工芸品だけ でなく,石にペインティングした作品など個性あふ れる商品も数多くみられる。料理などの加工食品は, パンや焼き菓子,惣菜など,食文化豊かな地域性が 反映され,種類も多い。 No. 20 フォチャのバーアラスは簡易な屋根と柱 によるホール空間である。一体感のあるホール空間 は,天井が高く,日差しを避けながらも風が通り, 夏場は過ごしやすい。面する幹線道路とホールの間 には広い敷地があるため,訪問者の駐車スペースと して有効であると同時に,ホール空間とあわせて音 楽やダンスなどの交流イベントを開催する場として も活用されている。 市場全体に屋根がかかり,専用空間を形成するタ イプは上記 3 事例であるが,この他,販売側のみに 共通の屋根を設置する常設固定型の販売台を有する もの 4 事例(No. 12, 15, 16, 17),No. 9 の住宅や図書 館など通常は他の機能を有する施設を一時的に活用 する事例や No. 6 の市開催時以外は販売台が折畳ま れ,壁際に設置でき,通行機能主体の街路空間とな る事例もある。 3-4.販売台の形態 販売台の形態として移動型,移動型常設,常設固 定型,常設折畳型の 4 種類がみられた(表 2,表 3 参照)。 移動型は,毎回,使用時に設置,使用後撤去する 他のパザルでも一般的なタイプであり,20 事例中 7 事例が該当する。街路の通行機能や街路に面する諸 施設の利用を考えると,市場開催時以外では販売台 は障害物となり得る。また,パザルの一部で開催さ れる場合は,パザルの他の露店同様にパザル時のみ の設置となる。No. 19, 20 のホール型専用市場施設 を有する 2 事例も市場開催時以外は販売台を片付け る。施設を他の用途で使用する訳ではないが,毎回 すべての出店者が必ず出店するとは限らず,出店者 が各自責任をもって販売台を設置するためである。 移動型常設は 7 事例が該当し,そのうち 5 事例が 統一したデザインの屋根付き販売台である。販売台 自体は移動が可能であるが,市場の開催時以外は商 品のみ片付け,台はそのまま置いてある。 常設固定型には,販売台上部に一体化した屋根が かかる 3 事例と簡易な販売台ではあるものの毎日営 業しているために常設固定しているボズジャアダの 2 事例がある。 No. 6 アイワルックの女性のクラフト市は販売台 自体が壁に沿って折畳むことができ,台とテントを 張るためのフレームが固定されている。 4.考 察 トルコ西部,エーゲ海及びマルマラ海地域におけ る中小規模の 12 都市から女性による市場 20 事例を 対象に,都市における立地,空間及び販売台の形態, 市場の名称や販売商品としての生産物の内容につい て整理してきた。それぞれの市場の内容と形態を合 わせて 20 事例の特徴を捉えると,独立型,パザル 部分型,観光型に大きく 3 分類できる(表 2 の市場 タイプ欄参照)。また,事例を通して,地域性や女性
支援の社会的な動向もみえてきた。 4-1.市場の内容と形態による特徴 市場の内容として,20 事例全てにおいて生産物 を扱っており,農産物,加工食品など地域性のある 食品類と伝統的なレース編みのような手工芸品類と がみられた。いずれも女性たちが日常の中で生産が 可能な商品であり,家庭で受け継がれてきた技術が 活かされているものが多い。市場の空間形態と内容 をあわせて特徴をみると,大きく 3 グループにまと められる。隣接する空間との境界が明確であり,該 当エリアが専用の市場空間になっているものを独立 型,パザルの一部として存在するものをパザル部分 型,販売内容や開催時期等から観光色が強いものを 観光型とする。No. 14 ジャム市場は水曜市の一角 に位置するものの,水曜以外にも観光客向けに営業 していることから観光型とする。観光型は,夏季中 心に観光客を主対象に開催されるものや地域活性化 を目的に開催されるものを指し,年間通して毎週定 期的に開催されるパザルとは区別する。独立型は専 用の市場施設を有するものや統一された販売台が並 び空間を形成する,あるいは看板などの明確にエリ アを区別する要素があるものが該当する。開催地の 立地や周辺施設との関連は重要である。独立型であ っても,チャルシュやパザル,歩行者専有空間との 関連性はあり,アクセスしやすい立地は経済的な視 点からも欠かせない要件である。観光地であれば, 地域性豊かな料理や農産物,手工芸品は観光客にと っても地域を知る重要な手がかりとなり,関心も高い。 扱われる生産物の種類や内容も大切であるが,場 のしつらえも他の空間との差別化あるいは視覚的な 特質を提示することができるため,着目すべき点で ある。販売台あるいは販売スペースのデザイン面を 確認すると,20 事例中 14 事例が統一性されたデザ インを有している。また,販売台が個々に違う場合 でも,同一素材のテーブルクロスや日よけのパラソ ルを揃えることでも空間全体に一体感を与えること により遠くからみた際に目を引き,市場のランドマ ークともなり得,場のしつらえが市場のイメージや 商品の価値に影響を与える。 4-2.対象エリアの地域性 市場で扱われている農産物や加工食品,特に郷土 料理からエーゲ海地域及びマルマラ海地域の食材と 食文化の豊かさを再確認することができた。また, 歩行者専有空間と連携した屋外空間の活用は,夏は 雨が少なく,日差しを遮ることが出来れば過ごしや すい気候風土によるところの特性である。全体に屋 根のかかった施設もあるが,ほとんどは販売台上部 に屋根がついているのみである。市場の都市内での 位置を人の流れから考えると,チャルシュや広場, 街路などの歩行者専有空間を回遊する流れの一部と なり,多様な行為や場所とつながることが重要であ る。本稿では訪問者の多い夏を中心に特徴を捉えて きたが,生産物及び空間の利用形態に関して,他の 季節についても情報収集した上で対象エリアの地域 性についてさらに考察する必要がある。 4-3.女性のための市場の特徴 女性への経済的・社会的支援として行政によるサ ポートが各地で行われていると同時に,協同組合を 結成する女性団体,加工食品の材料や農産物の産 地・質にこだわりをもつ団体が活躍している現状が 調査から明らかとなった。本稿で対象とした女性に よる販売エリアとしての市場の普及は,女性の活動 の場として身近な日常の生活圏に開設されたことと, 地産地消の食や環境への関心の高まりという 2 つの 社会的要因によるものと考えられる。 既往研究で対象としてきた定期市のパザルにおい て,今回の 12 都市以外でも,パザル内で村から持 参した自家製の野菜や果物,チーズなどの加工品を 販売する女性の姿もみられ19,都市によって村の生 産者エリアとして通常の露天商とは別に扱い,無料 で販売エリアを指定するケースや通常の露天商と同 じく,パザル内に混在する場合もある。いずれも村 の生産物を販売する出店者は,ほとんどが女性であ った。パザルを地産地消の農産物販売の観点からみ れば,生産者は女性に限定されるわけではない。し かし,女性の社会的支援の高まりに注目した場合, それが昨今のパザルに変化を齎していることもまた, 顕著な傾向として特筆に値するのである。
5.おわりに 女性への社会的,経済的支援は中小規模の都市や トルコ西部に限ったことではない。イスタンブルや イズミールの大都市,内陸部の調査済みの都市にお いても動向がみられる。例えば,イスタンブルでは アジア側のカドキョイ区において,行政が女性の社 会進出を支援する目的で 2016 年にプロジェクトを 立ち上げ,支援の幅が広がっている。イズミールで は,イズミール市役所が中心から少し離れた高台に ある城塞跡に開設している。この市場では,県内の 25 地域から 90 人の女性生産者が集まり,毎土曜に 新鮮な野菜を販売している。 また,2019 年 10 月には同じく県内の女性生産者 のために,イズミール市内中心部の文化公園に市場 を設置し,毎水曜に開催できるように整備された。 文化公園は国際展示場のある広大な公園であり,大 規模なイベントが多く,市民には馴染みのある公園 である。イズミール市役所によれば,この女性生産 者市場は 27 の地域から約 100 の生産者が出店する とのことである。大都市及び他地域での女性のため の市場空間の分析については今後の課題とする。 本稿で対象とする地域に限らず,トルコ国内で実 施してきたパザル調査からは,流通や情報の拠点と なる都市と周辺の村との関係性がみて取れる。今後 は都市と村だけでなく,中小規模の都市と大都市と のつながりも対象とし,生産物だけでなく,人と情 報のつながりも含めて調査を進め,地域一体となっ たネットワークや特性について明らかにしていく予 定である。 註 01 トルコ語 çarşı をチャルシュとカタカナ表記する。 伝統的な商業空間を意味するが,商業施設のみや街 路,街路と施設,複数の街路の複合体といったよう に空間形態が多様である。商業施設単体から複合的 かつ広域に亘る商業エリアを示す。 02 トルコ語 pazar をパザルとカタカナ表記する。地区 で定期的に開催される露天市を指す場合が多い。 03 トルコ諸都市の都市構成に関しての詳細は参考文献 01 を参照。 04 詳細は参考文献 02 を参照。 05 トルコ統計局に基づくイズミール大都市圏の人口。 06 参考文献 02 参照。 07 ボズジャアダのアダはトルコ語 ada で島の意味であ り,ボズジャ島と訳すことができるが,本稿ではア ダまで含めて地名として表記する。 08 2013 年からメンテシェへ都市名が変更になっている が,現在もムーラ県の中心都市であるため,本稿で は 2010 年の調査時の都市名ムーラを使用。 09 イズミール文化観光局 2019 年 10 月旅行者の動向報 告書及びトルコ共和国文化観光省 2019 年 10 月国境 報告書に基づく。 10 トルコ共和国文化観光省 2019 年 9 月国境報告書に基 づく。 11 イズミール文化観光局 2019 年 10 月旅行者の動向報 告書及びトルコ共和国文化観光省 2019 年 10 月国境 報告書に基づく。 12 イタリアに本拠地を置くスローシティ協会によって 認定された都市。協会の公式サイトによると,環 境・エネルギー政策や都市生活の質など 72 項目の指 標があり,認定後も質を維持しているか定期的に確 認がなされている。2019 年 9 月の時点で世界 30 カ 国の 262 都市が認定されており,トルコの都市につ いては 17 事例が認定されている。 13 トルコ語の el は手を,sanat が芸術を意味する。 sanatlar は sanat の複数形である。 14 トルコ語 gözleme。 15 2019 年 9 月の調査時にウルラ,フォチャにおいて数 名の女性出店者へ出店により変化したことや課題に ついてヒヤリングを行なった。 16 バーアラス,イェニバーアラス,ゲレンキョイ,ウ ルプナル,コズベイリ,コジャマフメットレルの 6 地区。 17 カレ kale がトルコ語で城塞,城壁を意味し,イチ içi が内側を意味する。 18 ベルガマ市役所の公式サイト http://www.bergama .bel.tr/ にて 2019 年 11 月に確認。 19 参考文献 03 参照。 参考文献・参考サイト 01.鶴田佳子,トルコ諸都市のセンター領域と市場空間
に関する基礎的考察,昭和女子大学学苑・人間社会 学部紀要 No. 844, 2011 02.鶴田佳子,トルコ西部エーゲ海地域における市場空 間の現状,昭和女子大学学苑・人間社会学部紀要 No. 940, 2019 03.鶴田佳子「トルコ地方都市における女性のコミュニ ティ空間の形態」昭和女子大学女性文化研究叢書第 8 集『女性と情報』,御茶の水書房,2012 04.トルコ共和国文化観光省,https://www.ktb.gov.tr/, 2019/11/15 05.トルコ統計局.http://www.tuik.gov.tr/,2019/11/15 06.イ ズ ミ ー ル 県 文 化 観 光 局,https://izmir.ktb.gov .tr/,2019/11/15 07.イ ズ ミ ー ル 市 役 所,https://www.izmir.bel.tr/, 2019/11/15 08.ウルラ市役所,http://www.urla.bel.tr/,2019/11/15 09.セフェリヒサール市役所,http://seferihisar.bel. tr/,2019/11/15 10.フォチャ市役所,https://www.foca.bel.tr/,2019/11/15 11.オデミッシュ市役所,https://www.odemis.bel.tr/, 2019/11/15 12.アイワルック市役所,https://www.ayvalik.bel.tr/, 2019/11/15 13.ベ ル ガ マ 市 役 所,http://www.bergama.bel.tr/, 2019/11/15 14.カドキョイ区役所,https://www.kadikoy.bel.tr/, 2019/11/15 15.スローシティ協会,https://www.cittaslow.org/, 2019/11/15 謝辞 本研究の調査を実施するにあたり,トルコ各地におい て,行政機関及び現地の方々に多大なるご協力を頂きま した。ここに記して謝意を表します。 (つるた よしこ 現代教養学科)