• 検索結果がありません。

東日本大震災と司法書士の救済活動

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "東日本大震災と司法書士の救済活動"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東日本大震災と司法書士の救援活動

An Aspect of the Relief Activities Operated by Japanese “Shiho-shoshi”

for the 2011 Great East Japan Earthquake

齋藤 隆夫

SAITO, Takao

(2)

1 はじめに  東日本の太平洋沿岸に、未曽有の災害をもたらした大震災から4年近くが経った。震災 直後から、被災地へは多種多様な救援活動が行われ、その姿はメディアをとおして様々に 紹介されてきたが、意外と知られていないものに法律家の活動がある。法律家の支援は、 命を救うレスキュー隊や医師のように、その姿が人々に感動を与えるものではない。しか し、紛争を解決し、あるいは財産を守るなど、国民の安心した暮らしの維持に法律家は不 可欠であり、大震災の被災地においても大いに発揮すべき役割を担っている。  ところで、法律家というととかく弁護士に注目が集まるが1、実際に地域住民のレベルで 社会・経済の法的安定を支えているのは、不動産と会社に関する登記を中心とした法律事 務、そして簡易裁判所での訴訟代理や調停手続きをとおして国民の身近な紛争の処理をあ つかう司法書士であることが多い。  そこで本稿では、震災後に被災地の住民が陥った困りごとに対して、地域住民に近い法 律家である司法書士がどのような救援活動を行ったかの一端を紹介しながら、自然災害の 多発する我が国での今後の参考とするために、大規模災害からどのような法律問題が生ず るのかを探ってみたい。なお、被災地は広範囲にわたり、法律問題も多様で、とりわけ福島 県では東京電力の原発問題があって、この大きな問題に司法書士も取り組んでいるが、極 めて希な事案であるので、本稿ではこれに言及しないことにした。また、本稿の執筆にあ たり、資料並びに写真等の提供については日本司法書士会連合会の協力をいただいたこと を紹介しておく。 2 司法書士の救援活動と開始  司法書士の救援活動も、個人から司法書士の団体であり全国の都道府県にそれぞれ置か れた司法書士会(以下、単位会と呼ぶ)、およびその連合体である日本司法書士会連合会(以2 下、日司連と呼ぶ)まで多様であるが3、ここでは被災地の単位会と日司連が実施した活動 を取り上げる。 【一般的な相談方法】  司法書士が被災地で実施した救援活動は、主に法律相談である。相談と一口で言っても、 内容が金を中心とした財産や家族関係となると、そう簡単ではない。実施にあたっては人 的・物的な環境が重要であり、これを整備することが必要である。人的環境とは、主に相談 に的確に対応できる人員の確保であり、物的環境とは相談者の相談内容の秘密が保てる場 所の確保である。また、相談の方式には直接面談するものと、電話等を介した間接的なも のがある。さらに、相談場所の設置も問題で、相談者4側の都合で固定的(恒常的)な場所 を設けるか、臨時の場所か、事情によっては被相談者5の生活圏に相談者が出向く場合もあ

(3)

る。これらに加えて欠かせないのが相談実施の告知であり、これが無いと相談の実効性は 確保されない。 【被災者への相談開始】  今回の震災支援の場合、相談に関する人的・物的環境の双方に問題があった。まず、マン・ パワーとして最も期待される被災地域の司法書士自身も被災者であった。次に、物的環境 では面談場所の確保が難しかったことや、当初は通信手段や移動手段も混乱していた。さ らに、被災者の困りごとは日々の衣食住確保であって、法律家への期待は薄いと思われる こと、そして、被災者の生活を勘案すると相談実施の有効な告知方法にも問題があった6  震災後の日の浅い時点における司法書士の被災者への救援は、「3月下旬ごろから、司法 書士として何かしなければ、という気持ちが募り始め、避難場所へ足を運び、少しずつ相 談活動を行おうという方向に向いて行った。」(中略 要旨~しかし、被災地の混乱状況と 自分たちの専門性を勘案して司法書士としての活動はせず、精神保健福祉センターのチー ムに付き添って巡回し)、「その中で法律相談的なものがあった場合には、司法書士が対応 …」のような活動から始まったようである7  ちなみに、災害被災地における法律相談について、開始の時期は被災直後が良いのか、 それとも一定程度時間を置くほうが良いのかが議論されることがある。この点について、 被災から間もない3月27日に宮城県沿岸部に入った司法書士のレポートに、「「法律相談は ありませんか」というと、「何を相談したらいいのかがわからない」と言われる。こちらが 例示をすると次々に話が出てくる。」(中略)「…役場でも…「まだ法律相談は必要ない」と 言われてしまう」との報告がある8。法律問題は、普段でさえ本人に自覚がないことがある ことと、震災直後の混乱期の衣食住確保と比較した優先順位への認識等が良く表れている。  救援活動としての法律家の相談活動、とりわけ被災地でのそれは、通常時に研究者が行 う情報収集活動ではなく被災者の救援なのであるから、被災直後の状況を鑑みて、被災者 の生活が一定程度確保された後に、充分な体制を整えた上で行われるべきであろう。 【組織的活動】  司法書士が専門家として実施した救援活動は、主に単位会と連合会の二つがある。ここ では、震災後の活動について、まず単位会を、次に日司連のものを見ていくことにする。 〈宮城県司法書士会〉  はじめに宮城県司法書士会(以下、宮城県会という)である。宮城県会の活動で特筆す べきは、震災直後の3月14日から宮城県会会館において面談相談と電話相談を実施したこ とである9。ここでの相談件数は、3月14日から同23日までは0件であるが、3月24日から 3月31日には各日4件から15件(平均5件程度)の相談があった。被災者が相談会を認知し た媒体は、新聞であったようである。この活動は、会員自身及び家族や親類縁者に甚大な 被害が出ている中で行われたものであり、相談の量は問題外で、活動そのものに大いなる

(4)

敬意を表すべきものである。  さて、宮城県会の本格的な支援活動を 追った記録をみることはできなかったが、 会の報告によると、支援活動は概ね以下の とおりである10  震災1月経過後には電話相談と相談会を 実施し始めたようであり、6月11日、同12 日の両日には、全県下で相談会が開催され た。そして、相談会場については、宮城県 会では従来、司法書士会館の他に「大崎」 「石巻」「仙南」に市民向け相談センターを 設けていたところに、「気仙沼」「南三陸」「山元」の三か所に新たに相談センターを設けた。 また常設会場以外にも、市区町村役場にも会場を設け、救援の相談活動を本格的に開始し た。相談内容は次章でふれるが概観すると、相談会開始直後は相談者が少なかったものの、 9月以降は相談センターの受付だけで毎月350件前後の相談が寄せられたとのことである。 相談のうちの半数程度は電話相談であるが、これは、相談センターの場所と電話番号を案 内したチラシ付のティッシュ・ペーパーを、仮設住宅を中心に配布した効果のようだと考 えられている。 〈岩手県司法書士会〉  次に、岩手県司法書士会(以下、岩手県会という)の活動である。ここでも、組織的活動 の記録を目にすることが無く、会の支援活動報告からうかがい知る限り以下のようである。  震災後、岩手県会は、行政機関が設置した相談会場に会員を相談員として派遣し、また 会員が比較的規模の大きい避難所を巡回して相談に応じた。当初、法律相談はほとんど無 く、「被災者の話や悩みを聞いてあげると いう、ある種の心のケア的な対応に終始し た」11ようである。ここにも、被災直後の法 律相談へのニーズが如実に表れている。  震災から3月経過あたりから仮設住宅が 建ち始め、巡回相談は避難所から仮設住宅 へと活動の場を移し、この時期より具体的 な法律問題が相談に現れ出したようであ る。そうすると、被災者支援をより実効性 あるものにするためには常設の相談所を設 ける必要性があり、10月11日には陸前高 田市に、12月22日に大槌町に司法書士相 談センターを開設した。そして、相談所は

(5)

マン・パワーの関係で週末のみの開設であるが、開設後から次第にニーズが増えて、平日 に訪問者が増えている。また、この地域は移動の手段に乏しい高齢者が多いため、巡回相 談も継続している。このような状況下で、支援活動に追われていることの報告がなされて いる12 〈司法書士会連合会〉  最後に、日司連の活動を紹介する。日司連は、震災4日後の3月15日に統合対策本部を設 置し、岩手、宮城、福島および茨城の各会に設けられた災害対策の実施本部との連携体制 を構築した。そして、被害の大きさに鑑みて、被災地への救済活動には日司連が積極的に 関わっていくことを決めたようである。具体的には、3月下旬から情報収集を開始し、現 地の実情を一定程度把握した後に、日司連がフリーダイヤルによる電話相談を実施するこ とにし、4月18日から開始した。これに加え、被災地での相談活動については、現地の司 法書士だけでは対応が難しいこともあるので、被災県近隣の青森、秋田及び山形の各司法 書士会が相談の支援を行うこととして、5月中旬より活動を始めた。この他、関東各地の 司法書士会への相談についての支援要請もなされた。さらに、全国各地の司法書士会から の支援申し出を受けて、6月10日と同11日の二日間、宮城県内の被災地44か所で一斉に相 談会を開催した。この相談会には全国各地からボランティアの司法書士が400人以上集ま り、相談の件数は300件を超えた13 3 相談内容  では、震災の救援に関して実施した司法書士の相談会等にどのようなものが持ち込まれ たかをみてみよう。司法書士の行った相談活動について、幾つかの調査があるが、ここでは、 震災後の一定期間に、被災者を対象に行われた相談のうち、2011年3月14日から2014年3 月31日までの間で実施されたものの集計をみてみる14 【面談について】  まず、震災直後の2011年3月14日から同年11月30日までの相談は、合計3,048件であっ た。細かい分類は割愛するが、相談内容を実数と大まかな割合で示すと、隣接地関係や借地、 借家等を含む不動産関係が813件(26.6%)で最も多い。このうち、不動産の権利証の紛失 に関する相談が128件(4.1%)あった。次に多いのが相続関係で、728件(23.8%)を占め ている。続いて、住宅ローンや保証人等を含む金銭の借入の関係が428件(14.0%)である。 また、事業継続等を含む会社関係のものも108件(3.5%)あった。  次に、2011年12月1日から2014年3月31日までの間には、合計すると12,357件あった。 このうち、不動産登記が最も多く3,482件(28.1%)あり、この中で多いものが相続に関す るもので1,951件あり、これだけで全体の15.7%を占めている。次に、相続人の範囲や遺産 分割の方法等、相続に関するものが1,991件(16.1%)あるが、これに前述の相続登記を加

(6)

えると3,942件で、全体の31.91%となる。これらに続いて多いものが、住宅ローンや保証人、 多重債務問題などの金銭の借入関係であり、467件(3.7%)あった。これに、不動産の相隣 関係が247件(1.9%)、借地・借家関係が530件(4.2%)、事業の承継や役員の死亡による変 更登記等の会社に関するものが187件(1.5%)ある。 【宮城・岩手の電話相談】  被災地である宮城県と岩手県だけの、震災に関する電話相談結果は次のとおりである。  2011年4月8日から同年11月30日まで実施された電話相談は、合計469件あった。主な 相談項目は、相続を中とした家族関係が最も多く169件(36.0%)、次が隣接地問題などを 含む不動産関係で144件(30.7%)であり、このうち建物倒壊の関係などが67件(14.2%)、 借地・借家関係が66件(14.0%)そして不動産の権利証紛失が11件(2.3%)である。これに 住宅ローンなどの金銭の借入関係が49件(10.4%)と続いている。  2011年12月1日から2014年3月31日までの相談は、合計が9,786件である。件数の多い 順に項目を追うと、不動産登記が最も多くて2,059件(21%)であるが、このうちの1,087件 (11.1%)は相続登記である。また権利証の紛失は35件(0.3%)あった。次に多いのが相続 人の範囲や遺産分割等、相続に関するもので1,638件(16.7%)ある。これに前述の相続登 記を加えると2,725件(27.8%)となる。借地・借家については1,063件(10.8%)であり、こ こでは立ち退きに関するものが目立っている(213件・2.1%)。続いて保証や多重債務を含 む金銭の借入が455件(4.6%)である。他に、事業承継や役員の死亡等による登記を含む会 社関係が194件(1.9%)、成年後見に関するものが242件(2.4%)あった。そして、訴訟や調 停など民亊に関する紛争処理手続きについてのものが674件(6.8%)あった。 【日司連フリーダイヤルによる相談】  日司連は、2011年4月1日から2012年8月31日まで、震災救援活動としてのフリーダイ ヤルによる相談を実施した。その結果、2011年4月18日から同年11月30日までのものでは、 合計1,124件の相談があり、このうちでは相続関係が最も多く234件(20.8%)である。次に、 借地・借家が192件(17.0%)、住宅ローンなどの金銭の借入関係が187件で16.6%であり、 これに不動産の近隣関係の問題が118件(10.4%)と続いている。なお、権利証の紛失が42 件(3.7%)、会社関係は26件(2.3%)である。続いて、2011年12月1日から2012年8月31 日までのものでは、合計805件の相談があり、不動産登記に関するものが121件(15.0%) で最も多い。次に多いものが相続人の範囲や遺産分割協議の方法等相続に関するもので86 件(10.6%)であるが、これに相続登記を加えると140件(17.3%)となり、事実上はこれが 一番多いことになる。続いて、保証や住宅ローンなどを含む金銭の借入関係で64件(7.9%) であり、借地・借家関係が63件(7.8%)と続いている。また、訴訟や調停など民亊に関する 紛争処理手続きについてのものは13件(1.6%)である。

(7)

【活動の認知媒体】  専門家の相談が利用されるためには、困りごとを抱えた国民に相談活動が認知される必 要があり、このための手段が欠かせない。司法書士は救援活動に際して、相談者に認知媒 体を訊ねている。質問には、日司連HP、チラシ、新聞等、幾つかが例示されているものの、 質問項目について、一定期間経過後に追加がなされているので、媒体の有用度の単純な比 較はできない。筆者の印象では意外と効果的なものが「チラシ」であり15、今後の活動の示 唆となり得えよう。一方、圧倒的に多いのは「その他」の項目であり、何れの活動でも約半 数もしくはそれ以上を占めている。「その他」が具体的に何を指すのかは、今後にとって意 味深く興味の持たれるところだが、具体的に何かを知ることができず残念である。 4 終わりに代えて ~若干の評価~  司法書士が、東日本大震災の救援として行った活動は幾つかあるようだが、組織的に行っ た相談活動のうちで、福島県で行ったものを除いては以上のとおりである。宮城県・岩手 県16の司法書士およびその会員が、自身が大なり小なり被害を被った中で、地域住民への 救援活動に多くの労力を費やした姿をかいまみることができた。  ところで、本来、このような実態を示す数値があれば、例えば自然災害後の法律問題の 発生傾向や、さらに踏み込むと、同様の阪神淡路大震災と法律問題に関する比較などを論 ずべきであろう。しかし専門外の筆者にはこれをする力量はない。そこで、極めて一般的 ではあるが、巨大災害に際して地域住民にどのような法律問題が生ずるか17を、相談内容 をとおした印象を述べ、あわせて、このような活動を国民がどのように受け止めているか についての興味深い調査結果があるので、ここで若干の紹介をしてみたい。 【相談をとおしてみた法律問題】18  今回、司法書士の救援活動を知るための基礎資料は、元々統計目的ではなかったために、 集計の項目が時系列的には整合を欠いている。また相談の方法も、面談と被災した宮城県・ 岩手県における電話相談、そして日司連がフリーダイヤルで実施したものと、分かれてい る。まず目に付くのは、どれを見ても、大震災から時間が経たない間には、隣接地との境界 の関係や建物倒壊、借地・借家からの立ち退きなどが数多く寄せられている。これらは、住 まいに関する現実問題で、被災後に解決を急ぐ性質のものであろう。同様の時期に、数こ そ多くはないが、不動産の「権利証滅失」がみられる。不動産の「権利証」は登記に関する 法的な手続きの観点では特段問題視すべきことでもないが、生活者としては優先順位の高 い心配事であることを如実に物語っている。そして、これら不動産の現実的利用をめぐる 問題は、一定程度時間が経過すると、借地・借家の法律問題に姿を変えて相談に現れてくる。  次に、被災後から一定期間経過まで時期を問わず多いのが、不動産をめぐる問題と同様 に相続関係である。未曽有の災害で肉親を失い、失意にあっても復興に向けて回避できな

(8)

い問題であるために、災害後の比較的早い段階からでも登場し、時間が経っても相談全体 の割合では筆頭あるいはその次に現れている。  不動産、あるいはその登記、さらに相続に関する問題の数が多いのは、国民にとって「司 法書士」といえば思い浮かぶのは不動産登記の専門家であり、相続の多くが住宅のそれで あるため、司法書士に相談を寄せているものと思われる。  また金銭の借入に関する相談も目立って多い。これは、主に住宅ローンの利用者が、担 保不動産が震災被害で滅失し、しかし借入だけは残されたところに、自宅や事業所等の再 建に向けて重ねて借入をせざるを得ない、いわゆる二重ローン問題についてだと推測され る。この問題は、被災地の復興に向けて障害になることから、特別な対応が進められてい ることは知られているとおりである19 【相談の効果~国民の反応~】  日本司法支援センター(法テラス)は、被災地における、被災者の法的ニーズの実情を正 確に把握するとともに、その結果を、被災者が抱える法的トラブルの解決に当たり、法テ ラスなどの法的機関へのアクセスを促進するための施策につなげることを目的に、2012 年11月16日から同年12月2日にかけて、東日本大震災被災地の幾つかの場所で「東日本大 震災の被災者等への法的支援に関するニーズ調査」を実施した。本調査の最終報告書(以下、 ここでは報告書という)20によると、アンケートやインタビューを実施した地域は、仙台市、 女川町、南三陸町、二本松市(浪江町)それと相馬市である。アンケートには様々な項目が あるが、ここには、法律家への相談に関する国民の心情等に言及するものがある。そこで、 法律家の相談の実効性を考察する参考のために、国民がどう反応しているかを紹介するこ とにした。 〈被災者の法律問題〉  まず、「震災後に法律問題を経験したか」の問いに、40.1%の人が「経験した」と答えて いる21。では、「どのような法律問題を経験しているか」であるが、これを多い順に紹介す ると、1位は「自治体による土地の買い上げ」、2位が「義援金等の給付」である。続いて3 位が「住宅ローン」、4位が「解雇」、5位が「土地建物の売買・建築」、6位が「地震保険の請求」、 7位が「相続・遺言」である。8位が「借金」、9位が「現在の住まい(仮設住宅等)での近隣 関係」と続き、これ以降、本稿と関係のあるところでは、13位が「土地の境界」、14位が「土 地・建物の賃貸」となっている(報告書31頁~ 32頁)。  次に、震災後に経験した「最も重大な問題」の調査があり、これも多い順に紹介すると、 1位が「自治体による土地の買い上げ」、2位が「住宅ローン」、3位が「土地・建物の売買、 建築等」、4位が「解雇等」、5位が「相続・遺言」、6位が「借金」、と続き、この後本稿と関 係のあるところでは、14位が「土地の境界」、16位が「土地・建物の賃貸」である(報告書 40頁~ 42頁)。ここでは、1位を除くそれ以外は、順位は若干異なるけれども殆どは上述 の司法書士の法律相談に登場したものである。

(9)

〈法律家への相談〉  法テラスの調査が、被災地の住民が抱える法律問題について、「その問題を解決するため に弁護士や司法書士に相談したか」を聞いたところ、「相談した」と答えたのは28.0%であっ た。この数値については、法テラスが2008年に行った同様の調査結果では29.7%であり、 震災後かどうかで変わりはない(報告書46頁~ 48頁)。  問題の内容別に相談率をみると、1位は「家族問題(離婚、相続・遺言等)」が59.6%で最 も多く、2位は「損害賠償」で38.9%、3位が「債務」で36.1%、4位が「住まい・不動産」で 31.3%であり、司法書士の法律相談で上位を占める項目がここに表れている。 〈法律家への相談経路〉  最も重大な法律問題について法律家に相談した人の相談経路は、多い順にすると、1位 が「弁護士・司法書士の事務所に直接出向いて」で8.3%、2位が「避難所や仮設住宅に来た 弁護士や司法書士に」で7.8%、3位が「法テラス事務所や出張所に直接出向いて」で6.9% である。これらに続き、4位が「弁護士会・司法書士会に直接出向いて」で4.0%、5位が「弁 護士・司法書士の事務所に電話で」が2.8%、6位が「法テラスに電話で」が2.1%、7位が「弁 護士会・司法書士会に電話で」が0.5%である(報告書48頁~ 50頁)。  これによると、避難所等での相談活動に一定の効果が表れていることは明らかであるが、 その一方で電話相談が意外と少なく、特に「弁護士会・司法書士会に電話で」が、本稿の前 半で述べた司法書士会等の示す数字と比べると少ない印象を持つ22 〈法律家に相談しない理由〉  質問項目に「震災後に経験した最も重大な問題について法律家に相談しない理由」があ り、これに対する答えを多い順に紹介すると、1位が「相談しても無駄だと思うから」、2 位が「時間や手間がかかりそうだから」、3位が「費用がかかりそうだから」、これに続いて 4位が、「弁護士・司法書士に相談するほどの問題ではないから」、が続いている。ここに1 位で登場する「相談しても無駄だから」は、法律問題の解決に、法律家は自身の専門的知識・ 能力が一定程度有効であるとの自負があるところと、国民はそう考えていないギャップが ここに如実に表れている。 〈専門家の効用 ~「最も重大な問題」の解決率と法律家への相談の有無~〉  震災後に経験した最も重大な問題について、法律家への相談と解決状況を示す興味深い 調査結果がある。それによると、「最も重大な問題」に対して、「既に解決した」に「まだ解 決しないが、解決の方向に向かっている」を加えた解決率は、「法律家に相談した場合」に は52.2%であり、「法律家に相談していない場合」には33.0%である。これは「法律専門家 に相談することは、問題状況の整理、法律の内容や解決制度に関する情報提供、解決に向 けた選択肢の提案、当事者の精神的サポートなどさまざまなかたちで問題解決に促進的な 効果を及ぼしている可能性が示唆される。」23といえよう。

(10)

【終わりに代えて】  法律問題は病気に例えられることがある。例えば熱があって鼻水が出ると、自分では経 験を拠り所に風邪だろうと思うが、医師に診察してもらうと「花粉によるアレルギー症状」 だということがある。このように、病気と症状に一定の因果関係があるにしても、病気に 関する正確なところは医師の専門的知識を介してでなければ分からない。ましてや、自覚 症状の少ない症例では、素人の見立ては禁物であろう。法律問題も類似の側面がある。例 えば、貸した金が返ってこないという「症状」があれば、多くの人は「裁判」が頭をよぎり 法律問題だと認識するが、一時世間を賑わしたサラ金の過払い問題等は、利息の支払いが 払い過ぎの「症状」であると認識する人は少なく、法律家を介して法律問題となった典型 例である。同様に、相続に際しても、誰が相続人であるかや相続分について、法的観点から 正確に知っている人は意外と少なく、とりわけ寄与分や特別受益の制度の知識に乏しいま ま遺産分割に臨み、法的には正しくない主張に固執して兄弟間に感情対立をもたらす例は 多い24。このような事例を抱えた際に、法律相談を経れば、その過程で事案が法的に整除さ れるので、多くは誤解による無益な感情対立を防ぐことができるし、仮に紛争になっても、 解決に向けた手段が提示されるので、合理的な解決を図ることができる。したがって、内 容に濃淡はあっても自分が抱える困りごとについて、まず法律家に相談することが解決へ の早道である。このような考えを前提とすると、震災被災者への法律家の救援に法律相談 を行うことは極めて的を射た活動であり、上述のように、この活動等をとおして被災者に 一定程度の効果がもたらされていることも推測される。  本稿は、東日本大震災の後に司法書士が行った救援活動と、それをとおして被災地にど のような法律問題があるかを探ることが主な目的であったが、関連して被災者の受け止め 方から法律相談の効用にまで論が進んでしまった。  まとまりに欠ける紹介ではあったが、大震災をめぐる様々な救援活動を研究対象とする 諸氏の多少の参考になれば幸いである。  現在も被災地では司法書士の法律相談が継続して実施されている。この先の救援活動が、 一人でも多くの被災者の法律問題の解決に寄与することを期待して止まない。 注 1 大震災時の弁護士の救援活動については、永井幸寿(日本弁護士連合会東日本大震災・原子力 発電所事故等対策本部副本部長)「東日本大震災での弁護士会の被災者救援活動」NBL No974 2012/4 等で紹介されている。 2 司法書士法により設置された法人で、司法書士は開業にあたり事務所の所在地の司法書士会に必 ず加入しなければならない(いわゆる強制会である)。 3 司法書士の団体は、司法書士法によって設立された単位会と日司連の他に、例えば関東や関西な ど地域的な連絡機関としての団体や、司法書士が任意で加入する団体などがあり、これらも独自 に被災者への支援活動を行っている。

(11)

4 相談者と被相談者の用語法は統一されていないようであるが、本稿では、困りごとを聴き取って アドバイス等をする者を相談者とし、困りごとを抱えてアドバイス等を欲する者を被相談者とし て使用する。 5 上記のとおりである。 6 震災から日の浅い時期の、被災者の避難所等での集団生活を勘案すれば、テレビ等のメディアで の告知がさほど有効とも思えないことなど。 7 齋藤利美(宮城県司法書士会副会長)「宮城県司法書士会の現状と課題」月報司法書士No481(2012/ 3)7頁 8 司法書士・芝知美「現地に赴き法律相談を」市民と法No69(2011/6)118頁 9 3月29日からは電話をフリーダイヤルとした。鈴木忠夫(宮城県司法書士会会長)「災害時におけ る市民救援」月報司法書士No493(2013/3)18頁 10 齋藤利美(宮城県司法書士会副会長)「宮城県司法書士会の現状と課題」月報司法書士No481(2012/ 3)7頁 11 菊池隆(岩手県司法書士会会長)「東日本大震災復興支援についての現状と課題」月報司法書士 No481(2012/ 3)10頁 12 上記、菊池より。 13 以上、細田長司(日本司法書士会連合会会長)「東日本大震災に対する連合会の対応」月報司法書 士No481(2012/ 3)2頁~5頁 14 この統計は、日司連が被災会その他の司法書士会や日司連が実施した相談(面談及び電話)にと もなって、その内容を集計したものであり、筆者が学術調査用に提供を受けたものである。統計 には、面談と被災地会の電話相談、連合会が実施したフリーダイヤルに関するものなどの集計結 果が幾つかがある。集計自体が学術調査を目的とはしていないために、分類項目や集計期間が必 ずしも一致してはいない。したがって、同一項目の地域比較や経年変化等、統計処理には適して いない。本稿は、司法書士の震災救援活動の紹介が目的であるために、この資料は、代表的な相談 項目を取り上げて、相談の実際を概観する材料とした。なお、本稿と類似の報告が司法書士によ りなされているが(安藤信明・日司連統合災害対策本部事務局長「東日本大震災における復興支 援相談の状況」月報司法書士No493/2013/3 24頁~27頁)、統計の基礎資料の取扱いの違いから、 数値が異なっている。 15 チラシの活用は、相談活動の報告にしばしば登場している(石川陽一・岩手県司法書士会「災害復 興支援事務所便り」月報司法書士No503/2014/1 34頁35頁、及び月報司法書士No504/2014/2 34頁)。 16 手元に資料がないためにふれてはいないが、福島県の司法書士会と会員も同様の活動をしている ことは附言しておく。 17 相談内容から伝わる法律問題が、隣接建物の倒壊による被害の救済方法のように、大震災に直接 起因すると考えられるものと、これとは違って、既に発生していた相続問題に関して大震災を契 機にその処理が表に出た場合のように、必ずしも震災に起因しているとはいえないものもある。 しかし、ここでは双方を特に区別しないものとした。 18 類似の報告が弁護士よりなされている。相談に現れる法律問題の傾向は、そこでの統計の出典が 不明であり(おそらくは弁護士会であろうが)、また項目が異なるので直接比較はできないが、相 続やローン、不動産賃貸が目立つところは同様である(弁護士津久井進「大災害時の法的支援」月 報司法書士No493/2013/3 3頁~9頁)。

(12)

19 二重ローン問題のうちの個人債務については、自己破産手続きを使わずに、借主が銀行等と合意 により債務の全部もしくは一部の免除を受けながら債務整理を進めることを可能とするために、 平成23年8月に「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」が策定され、金融機関等がこれ に基づいて私的整理に応じている。 20 「東日本大震災の被災者等への法的支援に関するニーズ調査」最終報告書・日本司法支援センター (法テラス)編 2014年5月 日本司法支援センター(法テラス)発行 21 この数字が多いか少ないかについて、調査機関の法テラスによると、過去の同種の調査結果と比 較しても、増えているとみている(報告書32頁)。 22 本稿3の宮城・岩手の電話相談との比較である。 23 報告書66頁 24 例えば、農家の跡取りが数十年親(被相続人)と一緒に耕作をしている場合、相続に際して跡取り への寄与分は、裁判例では意外と多く認められる。このような場合、寄与分制度を知らずに兄弟 は均等と思い込んで自分の相続分を主張した者が、調停等を経た最終的な相続分が当初の意図よ り極めて少なくなる例が見受けられる。これも、当初から寄与分制度について正しい法律知識が あれば、争いは防げる事案である。 齋 藤 隆 夫  法学・政治学系 教授(民事法)

参照

関連したドキュメント

当該不開示について株主の救済手段は差止請求のみにより、効力発生後は無 効の訴えを提起できないとするのは問題があるのではないか

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

つの表が報告されているが︑その表題を示すと次のとおりである︒ 森秀雄 ︵北海道大学 ・当時︶によって発表されている ︒そこでは ︑五

(( .  entrenchment のであって、それ自体は質的な手段( )ではない。 カナダ憲法では憲法上の人権を といい、

熱が異品である場合(?)それの働きがあるから展体性にとっては遅充の破壊があることに基づいて妥当とさ  

を行っている市民の割合は全体の 11.9%と低いものの、 「以前やっていた(9.5%) 」 「機会があれば

歴史的にはニュージーランドの災害対応は自然災害から軍事目的のための Civil Defence 要素を含めたものに転換され、さらに自然災害対策に再度転換がなされるといった背景が

夜真っ暗な中、電気をつけて夜遅くまで かけて片付けた。その時思ったのが、全 体的にボランティアの数がこの震災の規