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ビブリオシアターと司書課程の学生と図書館情報学

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Academic year: 2021

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−   −10 短期大学部 准教授

川 原 亜 希 世

ビブリオシアターと司書課程の学生と図書館情報学

 アカデミックシアターがオープンして 1 年 以上が過ぎた。その中心にあるビブリオシア ターについて、私はオープン前から司書課程 の教材にしたいと考えていた。ビブリオシア ターは日本の多くの図書館が使っている本の 分類法 NDC(日本十進分類法)ではなく、本 学オリジナルの「近大 INDEX」で本が並ぶ、 本のシアター(劇場)であり、学生が司書課 程で学んでいる図書館とは少し異なっている。 その違いを学生に感じてほしい。  そのアイデアを実行したのは、シアター のオープンから 1 ヶ月半経った、昨年の 5 月である。司書課程科目「情報資源概論」の 学生に課題を出した。司書課程の学生は保守 的で、新しいものに尻込みするところがある。 例えば電子書籍より絶対に紙の本が良い、と いうような学生が多い。出版不況や電子書籍 について講義をしている身からすると、もう 少し柔軟に新しいものを受け入れたらいいの に、と思う。そんな学生たちがオープンした ばかりのガラス張りのおしゃれな建物、アカ デミックシアターに入ったことがないという ことも十分あり得る。加えて、この年はシア ターを案内するツアーがなかったので、学生 達はビブリオシアターのねらいを理解してい ないかもしれない。そう考え、「近大 INDEX」 のテーマが並ぶマップを配布し、簡単な説明 もしたうえで学生達を行かせるようにした。  ビブリオシアターは 2 階建てで、そこには 「近大 INDEX」に従って用意された 7 万冊の 本がある。1 階の NOAH33 には、表紙を見せ た本が棚のところどころに置かれている。近 大の中央図書館は閲覧室がせまく、150万冊も ある本のかなりの部分が書庫にある。閲覧室 の棚には表紙を見せて並べるスペースはない。 それに対して NOAH33 では、「近大 INDEX」 のテーマに沿って置かれた本のうち、キイと なる本が表紙を見せて置かれている。それだ けのことで、本の魅力がぐんと増す不思議。 それは書店の陳列のように、私たちを本の世 界へ誘う。  2 階の DONDEN には 2 万 2 千冊のコミック がある。それらがテーマごとにユニークなデ ザインの棚に並んでいる。その棚の前に大き なクッションを置いたコーナーや、棚で囲ま れた小さな居心地の良いコーナーがある。コ ミックの横には同じテーマの文庫や新書が置 いてあり、コミックをきっかけにして読書の 幅が広がるよう、読者を誘う仕掛けになって いる。  さて、私が出した課題は次のようなもので ある。「近大 INDEX」に基づいて、NOAH33 には 33 、DONDEN には 32 のテーマの本が集 められたコーナーがある。そのテーマの中か ら、自分が面白いと思うものを 1 つずつ選ぶ。 選んだ 2 つのテーマのコーナーに行き、そこ で面白そうだと思う本を 2 点ずつ選び、タイ トルを書く。最後にビブリオシアター全体の 感想と「近大 INDEX」の感想をまとめる。  「近大 INDEX」に基づいて、1階の NOAH33 で 設 定 さ れ て い る テ ー マ は、 次 の 33 で あ る。①注目すべき個性たち、②コスモスとユ ニバース、③光と物質のドラマ、④分子たち の冒険、⑤大地と海が生きている、⑥進化 する生態系、⑦資源のめぐみ・収穫のよろ こび、⑧生命のはたらき、⑨脳と心と体の関 係、⑩医療と健康と薬、⑪アスリートをめざ して、⑫世界の民族と文化、⑬社会は構成さ 香散見草:近畿大学中央図書館報  No.51, 2018

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−   −11 れている、⑭国と人を守るしくみ、⑮市場と 資本主義、⑯情報・通信・ICT、⑰メディア とネットワーク、⑱暮らしとコミュニティ、 ⑲創意のエンジニアリング、⑳売ります・買 います・起こします、学習と教育のため に、数は雄弁である、言葉と文学の方 舟、アーティスト・ワークス、デザイン が秘める魅力、ステージとスクリーン、 クラッシックからロックまで、神々と仏の 教え、全ヨーロッパの流れ、アフリカと 南北アメリカ、アジアの胎動、日本をめ ぐる歴史と文化、近畿・大阪・全地方。以 上 33 の テ ー マ が Chance(① ~ ⑮)、Chain (⑯ ~ ⑰)、Charge(⑱ ~ )、Challenge( ~)、Charm(~)、Channel(~)、 Change(~)の 7 つのエリアに分けられ て配置されている。   続 い て 2 階 の DONDEN に は、 次 の 32 の テーマが設けられている。①文学をマンガす る、②イメージの実験工房、③時空をめぐる 宇宙旅行、④マンマシーンと変なエンジニア、 ⑤もうひとつの世界へ、⑥近大生のためのハ ローワーク、⑦お金がものをいいます、⑧仕 事 術 と 処 世 術、 ⑨ LEGEND 50 、 ⑩ 日 出 ず る処の匠、⑪菊と刀の大日本、⑫世界史クロ ニクル、⑬犯人はこの中にいる、⑭裁判長に もの申す、⑮アウトローなヒットマン、⑯革 命ごっこと戦争モード、⑰神と悪魔の語り部、 ⑱異形との出会い、⑲目覚めたら超能力、⑳ ホラーにはまりたい、モザイク模様の愛、 恋する女の生きる道、交際するメディア、 笑いとオチの現象学、一球入魂のメイク ドラマ、アスリートのボールゲーム、ど ついたるねん、百花繚乱の身体、ライフ スタイル・ドラマ、食いしん坊の日常、 動物の王国へようこそ、文化部が教えて くれること。これら 32 のテーマを次の 11 の TOPIA(エリア)に分けて、コーナーを配 置 し て い る。Mode(① ~ ②)、Engineering (③ ~ ⑤)、Growth(⑥ ~ ⑧)、Legend(⑨)、 History(⑩ ~ ⑫)、Intelligence(⑬ ~ ⑯)、 Alien(⑰~⑳)、Passion(~)、Body( ~)、Communication(~)、Special()。  回収した学生のレポートは、「よしよし、わ かっているな」と思うものから、「まだまだ頭 が固いなあ」と思うものまで様々だった。ビ ブリオシアターは学生が迷うように設計され ている。これは学生が思いがけない本に出会 うための仕掛けなのだが、この“迷う空間” を楽しめるか、困惑するかで、ビブリオシア ターに対する学生の評価が分かれる。司書課 程で学ぶ学生は、自分の欲しい本を効率よく 探すのが図書館だと思っているので、自分が どこにいるのかわからなくなってしまう空間 にいることが落ち着かないらしい。迷うのを 楽しんでいる学生よりも、困惑している学生 の方が多い気がする。  ビブリオシアターの棚は、「近大 INDEX」 のテーマの一覧とマップを渡されて説明され るまでは、学生たちには謎の棚だったに違い ない。書店の棚と比べても、かなり個性的な 棚である。「近大 INDEX」は NDC のように、 ありとあらゆる分野の本を、どこかの棚に収 めるための分類ではない。編集工学研究所所 長松岡正剛氏の「目次録」と、近大のシラバ ス(各科目の授業計画)を融合させたもので、 学生が興味を持ちそうなテーマを設け、その テーマにふさわしい本を収めた図書館をつく るための仕組みである。  ビブリオシアターでは本は探すものではな く、出会うものである。コーナーからコー ナーへとさすらい、ときには迷子になりつつ 本と出会うのが正しい使い方といえる。なの で、時間がないときに迷い込んではいけない。 ここは基本的に暇をつぶすための場所なので ある。それが分かっている学生は、「時間が たっぷりある私たち学生だからこそ、より魅 力がわかる場所」「いくらでも時間をつぶせる 楽しい図書館」「暇つぶしにはもってこいの場 所」などとコメントしていて、それらを読む とほっとする。  私自身はビブリオシアターの棚を眺めてい ると、一人暮らしをしていた学生時代に、暇 をつぶすためにうろついていた夜の書店の棚 ビブリオシアターと司書課程の学生と図書館情報学(川原)

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−   −12 (遅くまで一人でいられる店は、書店かコンビ ニくらいしかなかった)や、アルバイトの仕 事で整理するために見つめていた大学図書館 の棚を思い出す。迷い込んだ棚の間で、何を 探すでもなく出会ってしまう本。そういう本 が見せる思いがけない世界。  もしも今、私が学生だった頃に戻り、近大 生としてビブリオシアターを使えたなら、ど のように利用するだろうか。公共図書館研究 会と新聞部と学園祭実行委員会という、3 つの サークルに籍を置いていた学生時代。友達と 時間だけはたっぷり持っていたあの頃。大学 は私にとって遊び場だった。ひとりの時間に 棚の間で時間をつぶすだけでなく、ACT(ア クト。ビブリオシアターのなかに多数あるガ ラス張りの小部屋。)やラーニングコモンズ (グループ学習用のコーナーで、ビブリオシア ターと接している。)に集まって、サークル の友人たちと夜を過ごす。ビブリオシアター は 22時まで利用できるから、ミーティングだ、 勉強会だといっては、夜遅くまで入り浸って いるに違いない。  さらにもう少し自分の大学時代をふりか えってみれば、私自身も保守的で頭の固い学 生だった。私は図書館について、司書課程よ りももっと専門的な知識を身につけようと、 図書館情報学を学べる大学に進学した。私が 入学した図書館情報大学は 2004 年まで、国 内唯一の図書館情報学の単科大学として存在 した。現在は筑波大学と統合され、同大学の 情報学群知識情報・図書館学類(学群が学部、 学類が学科に相当する)となっている。  図書館のない町で育った私にとって、この 大学の授業は、驚くほど最先端な内容だった。 1987年に入学し、コンピュータというものに 初めて触れた。私にとってこの出会いはあま り幸福なものではなかった。当時の私は「コ ンピュータのない職場に就職したい」と本気 で考えるほど出来が悪い学生で、今から考え れば、まったく未来が見えていなかった。講 義で最先端の図書館のありかたを学んでも、 そもそも図書館がない地元の町を思い出すた びに悔しくて、コンピュータと共に歩む未来 の図書館像は、私には見えてこなかった。  私にとって大学の授業は、現実のイメージ がわかない退屈なものでもあった。図書館を 使った経験がとぼしいので、講義されてもわ からないことばかり。あの頃の私は「感じた ことしか記憶に残らない」そう思っていた。 そこで大学が地域に公開していた図書室でボ ランティアをし、そのメンバーに声をかけて、 公共図書館を見学する研究会を立ち上げた。 授業で何かを感じるためには、自分で図書館 を見て歩くしかないと考えたから。  大学の附属図書館でアルバイトもした。返 却された本を棚に戻すことや、書架整理も仕 事の一部で、これらの仕事を通じて面白い本 にずいぶん出会った。こんな本があるのか。 こんな雑誌があるのか。そう思ったことは数 え切れない。図書館には、図書館情報学の専 門書や雑誌が揃っていた。棚を見ているだけ で、知識が増えていくような気がした。実際、 レファレンス(利用者の質問や相談に、図書 館員が図書館の資料を使って答えるサービス) の授業のなかで「あ、この質問には、あの本 だ!」とひらめくこともあった。  私は図書館のボランティアや研究会の活動 やアルバイトをしながら、自分のなかで講義 と現実の図書館を結びつけていった。そうす るうちに、「図書館のない町から来た私には、 他の学生にはない視点がある」そう前向きに 考えられるようになった。自分にも新しいも のを受け入れる余地があると気づき、学ぶこ とは楽しいと思うようにもなった。図書館情 報学という学問のこれからに、私も参加でき るのではないかと考え、大学院への進学を決 めた。  現在の私は司書課程の教員として、昔の自 分と同じように、学生たちには現実の図書館 を見て、それを講義と結びつけて理解してい く経験をしてほしいと思っている。そのため に、ビブリオシアターに行く課題を出し、図 書館やアカデミックシアターの見学ツアーへ の参加や、レポート作成法やデータベースの 香散見草:近畿大学中央図書館報  No.51, 2018

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−   −13 使いかたが学べる学修サポートセミナーへの 参加も課題にしている。近大中央図書館や 八尾市立図書館のアルバイトの募集もするし、 図書館ボランティア募集の呼びかけもする。 授業の教材には新聞記事や雑誌記事、映像教 材も使う。学生達に現実の図書館を「感じて」 ほしいからである。その経験がさらに、図書 館情報学という学問に、興味を持つきっかけ になってほしいとも考えている。  司書課程の学生たちには、ビブリオシア ターと中央図書館の両方が使える良さも感じ てほしい。古い本を探して中央図書館の書庫 にも入ることもあれば、ビブリオシアターで 棚の間を歩きながら面白い本を探すこともあ る。一人で勉強に集中するときは中央図書館 の机、友達と勉強するときはビブリオシア ターのラーニングコモンズ。そんなふうに自 分のなかの選択肢を増やして、うまく使いこ なしてほしい。コミックも電子書籍も本と同 じ情報源にして、自分の知識を増やしていけ ばいい。NDC も「近大 INDEX」もマスター して、本を見つける達人になってほしい。そ うして自分の好みや考えにとらわれず、それ ぞれの図書館が持っている良さを受け入れ、 自分の学生生活に上手に取り入れていく柔軟 性を身につけてほしい。  司書課程の学生たちにとって、図書館は教 材である。中央図書館もビブリオシアターも、 地元の公共図書館も教材である。それらの図 書館と関わった経験は、学生たちのなかに図 書館に対する自分なりの視点を作り、それが 授業への関心や理解につながっていく。だか ら私は、司書課程の学生たちには、他の学生 以上に、ビブリオシアターをはじめとする図 書館という教材をしっかり利用し、上手に学 んでほしいと考えている。 ビブリオシアターと司書課程の学生と図書館情報学(川原)

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