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対話的な学びにおける学習指導 : 自己表現と協調性に焦点をあてて

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対話的な学びにおける学習指導

― 自己表現と協調性に焦点をあてて ―

木 内 亜 紀

Ⅰ.はじめに  「自分の意見を言う」、「他者の意見を聞く」、そうした対話の中で「自分のものの見方が 変わっていく」 ― 今、このような対話的な学びの指導が教育現場で求められている。 その一方で、児童・生徒が自分の意見を表現することの難しさやとまどいも伺える。教職 の授業の中では、学生たちから、「グローバル化、多様化した社会では、自分の意見をしっ かり持つことが大切だ」という意見も、「日本の社会では、協調性が重要だから、相手や集 団に合わせることが重要だ」という意見もよく聞く。また、「小学生の頃は、自分の意見を 率直に述べていたが、中学に入ると集団に合わせたり、場の空気を読み目立たないように したりと、自分の意見を言うことが少なくなった」という意見も多い。  教育現場では、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(アクティブ・ラーニング) の一環として、他者とのコミュニケーションを通して新しい知識を生み出すような「対話 的な学び」が重視されている(今井, 2016;齋藤, 2016, 等)。しかしながら、日本の社会では、 「集団に合わせること」や「言葉で説明するのではなく察し合う」ということが伝統的に重 視されてきた側面があり、児童・生徒が集団の中で自分を表現することがなかなか難しい (Kiuchi, 2006, 等)。対話的な学びにおいては、自分を表現することも、他者と協調的に関わ ることも、両方必要とされる。したがって、「自分の意見を主張すること(自己表現)」と「他 者と協調的に関わること(協調性)」という2つの能力を対話的な学びに生かすための具体 的な学習指導が必要だと思われる。こうした問題意識より、本研究では、授業の一環とし て行った質問紙調査やグループディスカッションから、「自己表現と協調性」に関わる学習 指導について考察することにした。 Ⅱ.問題と目的 1.現代の日本社会におけるコミュニケーションの難しさ  日本経団連(2017)の調査によると、企業の人事担当者が新卒採用の選考にあたって重

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社会においては、その場の状況に応じて、互いの立場や考えを大切にして、自己表現と協 調性を柔軟かつ適切に切り替えることができる能力が求められている。しかしながら、こ うした対話的なコミュニケーション能力を現在の日本社会の中で身につけることにおい て、以下のような難しい現状がある。  平田(2012)は、現在の日本社会全体が、「異文化理解能力」と、日本型の「同調圧力」の ダブルバインド(二重拘束)の状態であることを以下のように指摘している。企業が新入 社員に要求するコミュニケーション能力として「異文化理解能力(グローバル・コミュニ ケーション・スキル)」が重視されている。異文化理解能力とは、異なる文化、異なる価値 観を持った人に対しても、きちんと自分の意見を伝えることができ、文化的背景の違う人 の意見も、その背景を理解し、時間をかけて説得・納得し、妥協点を見出すことができる能 力である。そして、そのような能力を以て、グローバルな経済環境でも、存分に力を発揮で きる。一方、日本企業の中では、「上司の意図を察して機敏に行動する」「会議の空気を読ん で反対意見は言わない」「輪を乱さない」といった日本社会における従来型のコミュニケー ション能力も求められている。平田によれば、現在就職活動している学生たちは、このよ うな矛盾した二つの能力を要求されているという。  「異文化理解能力」と言えば、かつては、日本以外の外国の文化や人を理解し、そうした 異なる文化的背景の人々とコミュニケーションをしていく能力を指すことが多かったが、 インターネットで世界中がつながり、多くの人や情報がグローバルに移動する現代では、 日本国内の日本人同士であっても、多様な価値観、ライフスタイルにおける個々人の違い が大きくなっており、人間関係においては、異文化理解能力が必要とされている。その一 方では、集団での協調性や同調性を重視する従来型のコミュニケーション能力も多くの企 業や学校で求められ、人々のコミュニケーションは複雑で難しくなっていると思われる。  学校教育においては、自分の意見を表現することの難しさが見られる。齋藤(2013)によ れば、日本の小学校の班活動は、活気にあふれ、児童は、主体的に意見を出し合っているが、 中学校、高校、大学に進むにつれて、意見交換は不活発になり、遠慮がちで様子見の構えに なるという。齋藤は、日本人は成長するにしたがってコミュニケーションが下手になり、 なかでも、コミュニケーションの一環としてのディスカッションが苦手であることを指摘 している。その理由として、自分の意見を積極的に述べ、相手の主張を聞き、それに対して 反論するという技術が欠けていることをあげている。木内(2016,2017,2018)は、青年期の 友人関係に焦点をあてた一連の調査において、中学校の友人グループにおける同調圧力と 対話的な学びの難しさについて検討している。中学校では上下関係がある友人グループが 作られやすく、グループに合わせることに気を使い、自分の意見を言いにくいという問題 が生じることが報告されている。自分の意見を言うことができなければ、対話的な学びの 効果もあまり期待できない。

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2.「子ども観(理想のこども像)」の研究における自己表現と協調性  「自己表現」と「協調性」に関わるコミュニケーションの問題は、「子ども観」の研究でも 扱われている。子ども観とは、人々が「子ども」に対して付与するイメージや価値観である (住田他, 2008)。私たちは、子ども観を基に、子どもたちを捉え判断し、子どもたちに対し てどのような行動をとるかを決定している。それ故、どのような子ども観をもつかによっ て、その人の行う教育・保育の方向性が決まる。こうした子ども観は、その時代の社会、経済、 文化と密接に関連していると思われる。子ども観の一つである「理想の子ども像」を調べ ることにより、その時代の社会の中で、子どもに要求されるコミュニケーション能力の内 容が明確にされる。住田ら(2008)は、教育者等に対して、理想の子ども像として、「(協調性) 何かを決める時、みんなの意見に賛成するような子どもの方がよい」と「(自己主張)みん なの意見と違っていても、自分の意見をはっきり言える子どもの方がよい」のどちらかを 選択する調査を行っている。住田らの調査では、90%が「自己主張」を選択していた。「(公 共性)子どもであっても、人に迷惑をかけないよう社会のきまりを守るべきだ」と「(自由) 子どもだから、あまり社会のきまりに縛られないで、自由に行動してよい」の選択では、ほ とんどの回答者が「公共性」を選択していた。全国国公立幼稚園長会(2010)は、保護者の「理 想のこども像」を調査している。子どもの理想像では、「人に迷惑をかけない」、「礼儀作法 をわきまえる」、「ルールや決まりを守れる」という項目で、「そう思う」「ややそう思う」と 答えた保護者が合わせて98∼ 99%に上った。一方、「リーダーシップをとれる」は合わせ て54%、「人より秀でたところがある」は、59%であった。  住田らの調査では協調性よりも自己主張を重視するという結果となったが、筆者の教職 の授業では、学生たちから「自己主張も協調性も大切」という意見が出されることが多い。 住田らの研究は、調査が行われた時期が2003年であり、15年程前のものである。変化の激 しい現代においては、「自己表現」と「協調性」について新たに検討する必要があると思わ れる。 3.対話的な学びにおける学習指導  現在、様々な教科で対話的な学びが重視されている。対話的な学びは、「自己表現」と「協 調性」というコミュニケーションの問題が関連している。しかしながら、学校教育におい ては、集団への同調圧力等の問題があり、「自分の意見を表現し、他者の意見を聞き、互い に相手の言いたいことをしっかりつかみ合い、より良いアイディアを出していくという話 し合い」の指導は容易ではないと思われる。富澤ら(2015)は、話し合いがうまくいかない 原因として、児童生徒の発達段階(例:思春期だから)や、性格特性(例:内気だから)だけ ではなく、「適切な話し合い方を学習してこなかったこと、あるいは誤った学習をしてし まったこと」が大きな原因であることを指摘している。対話的な学びにおいては、探究的

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参加する者たちの間にルールが共有される必要があるとして、そうしたルールをグラウン ド・ルール(ground rule)と呼んでいる。富澤らはこれまでの話し合いの研究を概観し、グ ラウンド・ルールの要点として以下の5点にまとめている(「全員が話し合いに参加するこ と」、「相手を尊重すること」「発言には理由をつけること」「建設的な意見交換がなされる こと」「意見交換を通して全員が同意すること」)。しかしながら、そうしたルールを身に着 けるための具体的な指導法は十分に確立されていない。小学校国語科の「話すこと・聞く こと」の領域において、「話し合い」が取り上げられているが、そうした内容や指導法は、 現時点において体系的ではなく、探究的な話し合いの仕方の指導が必要とされる。 4.本研究の目的  以上に、自己表現と協調性に関わる研究の概観を見てきたが、ここで、対話的な学びの 指導について問題点を2点指摘することができる。  第1に、「理想の子ども像」の研究において、「人に迷惑をかけない」「社会のきまりを守 れる」という公共性を重視することは示されたが、「現代の教育において、自己表現と協調 性の両方が重視されている」ということが明確にされていない点である。住田らの調査で は、自己主張と協調性の項目のどちらかを選択するという強制選択の質問紙になっており、 両方求められているということは示されていない。そこで、自己主張と協調性のそれぞれ を単独の質問項目として検討する必要がある。そうすることによって、自己表現と協調性 に関して、子どもに求められるコミュニケーション能力が明確になると思われる。  第2に、探究的な話し合いのためのルールを身につけることが重要であるが、そのルー ルの内容やルールを身につけるための具体的な学習指導が確立されていないのが現状であ る。したがって、対話的な学びの指導について探索的に検討する必要があると考えられる。  上記2点の問題より、本研究では、自己表現と協調性に焦点をあて、「子ども観(理想の 子ども像)」を調査することにより、教育において重要とされるコミュニケーション能力 や保育・教育の方向を明確にし、さらに、グループディスカッションを通して、対話的な学 びの具体的な指導を探索的に検討することを目的とする。 Ⅲ.研究方法  以上の論考に基づき、本研究では、教職を目指す学生を対象に、「子ども観(理想の子ど も像)」と「対話的な学びの指導」の2つの調査を行うことにする。 1.「子ども観(理想の子ども像)」の調査  教職を目指す学生たちの理想の子ども像を調査することにより、教育において重視され る子どものコミュニケーション能力を明確にすることを目的とする。 調査協力者:教職を目指す大学生173名(T大学116名, O大学 57名)

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調 査 時 期:2018年1月 調 査 方 法:教職の授業の一環として行った。筆者が作成した質問紙を各自が記入した。 記入後に、質問紙の感想を数名の学生に述べてもらった。後日、筆者が質問紙の詳しい分 析を行った。 質問紙の内容:  「自己表現」に関する2項目(Q1:みんなの前で自己主張できる, Q2:何かを決める時、自 分の思いや考えと違っても自己主張できる)、「協調性」に関する2項目(Q6:集団場面で、 みんなに合わせた行動をとれる, Q7:何かを決める時、自分の思いや考えと違ってもみん なが賛成することに合わせられる)の他に「積極性(例:Q3:自分で課題を選び、積極的に 取り組める)」「仲間関係(Q4:仲間と仲良く遊べる, Q5:仲間を思いやることができる)」「公 共性(Q8:人に迷惑をかけないようルールや決まりを守れる)」「リーダーシップ(Q9:リー ダーシップをとれる)」「競争心(Q10:競争心が強い)」の6項目を加えた。この6項目を加 えた理由は以下のとおりである。教職の授業の中で、「どのような子どもに育ってほしいの か」というテーマでグループワークを行ってもらうと、「思いやりのある子ども」、「人に迷 惑をかけないようにルールを守れる子ども」、「何事にも積極的に取り組む子ども」が毎回 上がってくることが多いが、「リーダーシップ」や「競争心」といった特性はあまり聞かない。 そこで、こうした内容を含む6項目と比較することによって、「自己表現」と「協調性」の特 徴を明確にしたいと考えたからである。回答形式は、 そう思う ややそう思う あまり思 わない 思わない の4件法である。 2.対話的な学びの指導  「探究的な話し合い」を導くための学習指導について、グループディスカッションを通し て模索することを目的とする。 調査協力者:教職を目指す学生112名(T大学) 調 査 時 期:2018年7月 調 査 方 法:教職の授業の一環として行った。まず、筆者が前述したグラウンド・ルールの 5つの要点について学生たちに説明した。次に、筆者が作成したワークシートを各自が記 入した。さらに、数名のグループに分かれて、グループディスカッションを行い、グループ の代表が主な意見とディスカッションの内容を発表した。 ワークシートの内容: 探究的な話し合いにするために重要だと考えられる以下の3つの態度を児童・生徒にどの ように伝え、指導したらよいかということについて自由に記述するものである。 ①(自己表現)自分の考えを大切にする。自分の意見を言う。 ②(協調性)相手の考えを大切にする。相手の意見を尊重する。

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0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Q10:競争心 Q9:リーダーシップ Q8:公共性 Q7:協調性② Q6:協調性① Q5:仲間関係② Q4:仲間関係① Q3:積極性 Q2:自己主張② Q1:自己主張① 表1.理想の子ども像 そう思う ややそう思う あまり思わない 思わない 図 1 理想の子ども像 Ⅳ.結果 1.「子ども観(理想の子ども像)」  質問紙の10項目それぞれについて、該当するものの割合を集計した結果は、図1のよう になった。「そう思う」と答えた割合が最も高かったのが、「仲間を思いやる(Q5: 80.9%)、 仲間と仲良く遊べる(Q4: 70%)」であり、次に、「人に迷惑をかけないようにルールや決 まりを守れる(Q8: 65.9%)」、「積極的に課題を選び取り組める(Q3: 56.1%)が続いた。「自 己主張できること(Q1: 30.1%, Q2: 22%)」と「集団場面で合わせること(Q6: 37%, Q7: 22%)」とは、似たような割合であることが示された。「リーダーシップをとれる(Q9: 14.5%,)」「競争心が強い(Q10: 12.1%)」は、「そう思う」と答えた割合が他の項目に比べて 低く、「思わない・あまり思わない」の割合が3∼ 4割であった。  質問紙記入後の感想では、「自分を主張することも、集団に合わせられることも大切」、「自 分はこれまで周りに合わせるように教育されてきたが、これからの子どもは自己を表現す ることも重要」、「幼児教育の現場では、自己表現と集団行動のどちらを重視するかは、園 長先生の教育方針が表れやすい」等、自己表現と協調性についてのさまざまな意見が出さ れた。 2.対話的な学びの指導  各自が記入したワークシートとクループディスカッションの要点を筆者がまとめた結果 は、表1のようになった。話し合いの指導においては、「自分一人の考えを整理する時間を 作り、次に、4人程度のグループに分かれ、司会者などの役割分担をきめ、さらに、話し合 いにおけるルールや注意事項を伝える」、という一連の流れが必要であることが明らかに された。ルールや注意事項については、「話し方」、「聞き方」、「質問の仕方」、「反対意見の

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表 1 話し合いにおける指導 ---1.話し合いの指導における流れ ① 自分一人の考えを整理する(ノート、ワークシート) ② 次に、グループ(4人程度)に分かれ、司会者、書記、時間管理係、等の役割を決め る ③ 話し合いの前にルール、注意事項を伝える (教師が話す、プリント配布、掲示、お手本を見せる) ---2.ルールや注意事項 ・ 一人ずつ自分の考えを発表する ・ 人の話は最後まで聞く ・ 批判だけをしない ・ 「ひやかし」、「やじ」はしない ・ 反対意見を言うときは、言葉づかいに気をつける ・ 否定的な言葉は使わない(どんな意見も否定しない) ・ 感情的にならないようにする ・ 思ったこと、考えたことは、理由をつけて相手に伝える ・ 疑問に思ったことは質問する ・ 前に話した人の意見について、共感できること、賛成すること、反対することなど を話す ・ 前の人の意見と同じところ、違うところをはっきりさせて意見を言う ・ 時間を決めて話し合う(時間配分に気をつける) ・ 話し合った内容について整理する(どんな意見がでたかを整理する) ・ 人と意見が違うのは当然であることを伝える ・ 話し合いの中の意見は、よりより結論を見つけるためのものであることを伝える ---3.反対意見の述べ方 ・ 相手の意見を一度認めてから、自分の意見を言う ・ 相手の発言の良いところをあげてから、自分の意見を言う 具体例:以下のような「クッション言葉」を用いてから、自分の意見を言う 「そうだね。そういう意見もあるよね。」 「その考え方もあるね。」「いいね。」

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述べ方」、「時間配分」、「話し合った内容の整理」などを子どもたちの発達段階や理解度に 合わせて伝えることが示された。グループディスカッションの中では、「反対意見の述べ方 の指導」が話題にあがっていた。学生たち自身の経験として、「○○さんの意見に反対です。」 と言われることが、話し合いが嫌いになったり、自分の意見を言うことを控えたりするこ とにつながる、という意見が多かった。他者の意見を聞いて、「○○さんに反対です。」と言 うのではなく、「そうだね。そういう意見もあるよね。」、「その考え方もあるね。」、「そうい う考えかたもありますね。」等というようなクッション言葉を用いてから自分の意見を言 うようにすると良いという意見があげられた。 Ⅴ.考察 1.「子ども観(理想の子ども像)」  理想の子ども像の分析より、現在の日本社会が子どもに要求するコミュニケーション能 力や保育・教育の方向が示された。自己表現に関する2項目と協調性に関する2項目が、同 様な割合であったことより、教育においては、自己表現と協調性の両方が重視されている ことが推測される。仲間を思いやることや仲間と仲良く遊ぶこと、人に迷惑をかけないよ うにルールや決まりを守れることは、自己表現や協調性よりも重視されていることが示さ れた。一方、リーダーシップをとることや競争心を持つことは、あまり重視されていない ことが示唆された。こうした視点より、まず、その子どもが所属する集団のルールや決ま りを守り、仲間を大切にすることが基本となり、その上で自分を表現したり、人と協調的 に関わったりすることが要求されているように考えられる。  現代の日本社会においては、前述したように、自己表現と協調性を状況に応じて柔軟か つ適切に使い分けることができる対話的なコミュニケーション能力が求められている。こ うしたコミュニケーション能力は、対話的な学びによって育まれる。それ故に、対話的な 学びが必要とされている。教育において自己表現と協調性の両方が重視されているが、そ うした2側面が人々の対話的なコミュニケーションに十分に生かされていないということ が、今の日本社会におけるコミュニケーションの難しさにつながっているのではないかと 思われる。21世紀に入り、人々の価値観、ライフスタイルは多様化し、家族の在り方、働 き方、役割、立場、余暇の過ごし方も複雑で様々となっている。こうした多様な人々と「う まくやっていく」ためのコミュニケーション能力が必要となってくる。その場その場の状 況に応じて、互いの立場や考えを大切にして、互いに納得できるように自己表現と協調性 を使い分けていく能力を身につける必要があると思われる。こうした対話的なコミュニ ケーション能力を以て、多様で複雑な社会状況の中でも、それぞれの立場や考え方を互い に尊重し、対話を通して、妥協点を見つけたり、新しいアイディアを生み出したりするこ とができると考えられる。対話的なコミュニケーションでは、自分を表現し、相手の意見 を聞き、自分の考えが変わることも、相手の考えが変わることも、新しいアイディアが生

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まれることもあろう。時には、互いに納得できなくて、時間をかけて説明や説得し合う中で、 合意点を見つけ、相手や集団に合わせることもあるだろう。平田(2012)や齋藤(2004)は、 こうした対話的なコミュニケーション能力は、技術として「教育、訓練、慣れ」等によって 身につけることができると指摘している。したがって、幼少期の頃から、対話的なコミュ ニケーション能力を育む教育が必要だと考えられる。さらに、そうしたコミュニケーショ ン能力を育むための具体的な指導法を確立していくことが望まれる。 2.対話的な学びの指導  グループディスカッションより、探究的な話し合いにおける具体的な指導の方向が示さ れた。「自分一人の考えを整理する時間を作り、グループに分かれ司会などの役割分担を決 め、話し合いにおけるルールや注意事項を伝える」という一連の流れが必要であることが 示唆された。子どもたちの発達段階や理解度に合わせて、「話し方」、「聞き方」、「質問の仕 方」、「反対意見の述べ方」、「時間配分」、「話し合った内容の整理」について指導することの 重要性が示された。「自分一人の考えを整理する時間を作る」や「一人ずつ自分の考えを発 表する」等の指導は、「自分の考えを大切にする」ことを育成すると思われる。「人の話は最 後まで聞く」、「批判だけはしない」、「ひやかし、やじはしない」、「反対意見を言うときは言 葉づかいに気をつける」、「否定的な言葉は使わない」等の指導は、「相手の考えを尊重する こと」につながる。話し合いが苦手になる理由として、多くの学生が否定的なことを言わ れたことをあげており、「相手の意見を認め、相手の意見の良いところをあげてから、自分 の意見を言う」ように指導することの大切さが示唆された。特に反対意見の述べ方につい ては、「クッション言葉」を用いるなどの工夫し、相手の意見を認め、相手の意見の良いと ころをあげてから、自分の意見を言うように指導することが、探究的な話し合いを導くこ とにつながると考えられる。また、「前に話した人の意見について共感できること、賛成す ること、反対することを話す」、「前の人の意見と同じところ、違うところをはっきりさせ て意見を言う」、「話し合った内容について整理する」、「話し合いの中の意見は、よりより 結論を見つけるためのものであることを伝える」等の指導は、対話する中で、「自分の考え がより深まり、新しいアイディアが生まれること」につながると思われる。こうした対話 的な学びの指導を通して、児童・生徒が「いろんな人の考えが聞けて勉強になった」、「面白 い発見があったね」、「また、話し合いをしたいね」、「楽しかったね」と思えるようにしてい くことが大切であると考えられる。 Ⅵ.まとめと今後の課題  本研究は、教職を目指す学生を対象に、自己表現と協調性に焦点をあて、対話的な学び

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と協調的に関わることができるための学習指導として、話し合いの指導が検討された。「自 分一人の考えを整理する時間を作り、グループに分かれ司会などの役割分担を決め、話し 合いにおけるルールや注意事項を伝える」という一連の流れと子どもたちの発達段階や理 解度に合わせて、「話し方」、「聞き方」、「質問の仕方」、「反対意見の述べ方」、「時間配分」、「話 し合った内容の整理」について指導することの重要性が示された。本調査は、教職を目指 す大学生たちを対象とした探索的な調査であるため、今後は、子どもの発達段階に応じた 指導法の検討が望まれる。 引用文献 1) 平田オリザ(2012)『わかりあえないことから −コミュニケーション能力とは何か−』講談社現 代新書 2) 今井むつみ(2016)『学びとは何か −<探究人>になるために−』岩波新書 3) 木内亜紀(2018)「青年期の友人関係と学習 ―友人関係の質と対話的な学び−」桜美林大学教職 課程年報, 12, 146-150. 4) 木内亜紀(2017)「現代青年の友人関係(2) −友人グループと心理的距離(中・高・大)−」日本 人間関係学会第25回大会発表論文集, 51-52. 5) 木内亜紀(2016)「現代青年の友人関係 −友人概念の明確化と関係性の変化(中・高・大)−」日 本人間関係学会第24回大会発表論文集, 48-49.

6) Kiuchi, A. (2006) Independent and interdependent self-construals: Ramifications for a multicultural society. Japanese Psychological Research, 48, 1-16.

7) Mercer,N., Wegerif,R., & Dawes,L. (1999) Children’s talk and the development of reasoning in the classroom. British Educational Research Journal, 25, 95-111.

8) 日本経済団体連合会(2017) 『2017年新卒採用に関するアンケート調査結果』 9) 齋藤孝(2016)『新しい学力』岩波新書 10) 齋藤孝(2013)『人はチームで磨かれる −職場を元気にする72の質問−』日本経済新聞出版社 11) 齋藤孝(2004)『コミュニケーション力』岩波新書 12) 住田正樹・中村真弓・山瀬範子(2008) 「教育者の『子ども観』に関する研究 −教師・保育者を中 心に−」放送大学研究年報, 26, 15-24. 13) 富澤(猿山)恵未・佐藤浩一・石川克博(2015) 「小学校国語科における話し合いを深めるための 学習指導 −Thinking Together Programme の導入を通して−」群馬大学教育実践研究, 32, 173-188.

表 1 話し合いにおける指導  --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------1.話し合いの指導における流れ ①  自分一人の考えを整理する(ノート、ワークシート) ②  次に、グループ(4人程度)に分かれ、司会者、書記、時間管理係、等の役割を決め る ③  話し合いの前にルール、注意事項を伝える (教師が話す、プリント配布

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