社会の秩序と進歩のための教養
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(2) 甲南女子大学研究紀要第 40号. 文学・文化編 (2004年 3月. ). こ とを見落 と し,欲 望 を追 求す るあ ま り前後 の 見境 が. う普遍 的 な根拠 を持 っていて ,欲 望 や情 に惑 わ され な. つ か な くな り,け じめ をつ ける こ とを知 らない 。大抵. い 強 い連帯感 になる。 思考力不足 で欲望 と情 が際立 った人 は,欲 望 で排他. の欲望 は金 銭 で満 たす こ とがで きるか ら,欲 望 しか眼. 的 であ り情 で 自己 中心 的 で視野 が狭 い 。視野 が狭 い 人. 中 にない 人は金銭が最高 の価値 であ る と思 い こむ。 情 は ,情 に働 きかける対象 に依 存す る とい う点 で. が 多 い社会 は ,欲 望 や情 で対 立 の果 て に,閥 の よ うな. ,. 受 身 であ る。受 身 であ る人 は情 に働 きかける対 象 の表. 小社 会 に分裂す る。思考力不足 の 人で構成 され る小社. 面 的 な こ とに しか注 目 しない。表面 的 な対 象 は,受 身. 会 は,論 理 はな く義理 ,人 情 が まか り通 り,進 歩 はな. である人の主 観 に適 ってい る ときその人 に直観 的 に受. く習慣 ,前 例 や既 得権 が まか り通 る。小社会 の寄 せ 集. け入れ られるが ,主 観 に適 ってい ない とき直観 的 に受. めで あ る社会 は小社会 と同様 で論理 と進歩 が ない 。. け入 れ られ ない 。情 が 際 立 った 人 は ,自 分 の 直観 的 な. 人間は ,長 所 ,短 所 を併 せ 持 った未完成 な存在 で あ. 主観が 中心 で あ り,自 己 中心 的 で あ る。社会 を進歩 さ. る。人 に よつて異 なる長所 ,短 所 を合 わせ 持 った 人間. せ る ような新 しい考 えは,受 身 で あ る人の主観 に適 わ. は本来千差万別 な存在 で あ る。思考力不足 で小社会 に. ず ,そ の 人 に受 け入れ られ ない 。情 は ,個 人 の範 囲 で. 埋没 した人は ,内 面 的 で大事 な こ とと,表 面 的 で些 細. は人 間関係 を円滑 にす るため に欠かせ ないが ,人 を自. な こ との 区別 が つ け られず ,些 細 な こ とを と りあげ て. 己 中心 的 に させ 自他 の 間 にけ じめ をつ け させず ,内 面. 騒 ぐ。月ヽ 社会 に分裂 した社会 は,千 差万別 な人 たちの. が 見 えず普 遍性 を欠 くた め 社 会 の 規 範 とは な りえ な. 間 で些 細 な こ とで対立 して混乱 し,い ざ こ ざが絶 えな. い。. い. 人間 の欲望 と情 は ,大 古 の昔 か ら変化が ない ,す な. 。. 論理 で あ る言語 を使 える人間は誰 で も論理 的思考 の 潜在能力 があ る。論 理 を伝 え よ う とす る人 も伝 え られ. わ ち進歩が ない。 内面 的 な思 考 は ,観 察 ,整 理 ,分 類 ,洞 察 へ と進 め. る人 も,論 理 的思考が で きる人で なけれ ば,論 理 は伝. られ ,思 考 の対象 の原点 にい たる。原点 を追 求す るた. わ らない 。情 とは次元 が異 なる論理 的思考 の結果 は. めの思 考 は ,与 え られた問題 を解決す るための思 考 よ. 情 が際立 った相手 に受 け入 れ られず ,相 手 に伝 わ らな. りも,高 度 な思 考 で あ る。原点 を追求せず に進 め る表 面 的 な思考 は,迷 路 に入 りこんで どこへ 向 か って考 え. い 。 そ のため ,意 見 の対立 が いつ も話 し合 いで解決 で. が進 むかわか らず ,無 意味 で あ るだけで な く失敗 の原. る人 と伝 わ らない 人 に分化 す る。. ,. きる とはか ぎらない 。社会 は論 理 的思考 の結果 が伝 わ. 因 となる。原点 か らの思 考 は,表 面 のみ な らず内面 を. 多 くの 人が気 にす る人 間 の頭 の よさは ,記 憶 力 ,頭. も見通す こ とがで きる普遍性 があ り,際 限が な く広 く. の 回転 の速 さお よび思 考力 で あ る。記憶 は思考 のため. て深 い 内面 で ,け じめ をつ ける こ とを教 える。. の予備知識 を収納す る ことで あ る。記憶 す べ きこ とは. 欲望 ,情 お よび思 考 は,そ れぞれが単独 で表 れ る こ. 先 人が 考 えたか または行 な った過去 の事実 であ る。思. ともあ る し,た が い に関連 して表 れ る こ ともあ る。 た. 考 を伴 わ ない記憶 は過去 に とどまった ままで進歩が な. とえば ,欲 望 を満 足 させ るた め に は 思 考 が必 要 で あ. い。頭 の 回転 の速 さは原点 か らの思 考 を省略 し同 じと. る。欲望 の対 象 の原点 を追 求 してか ら進 め る思 考 は. ころ を回転す るだけで進歩が ない 。結局 ,原 点 か らの. ,. 誰 も考 えつ か ない考 えにた ど りつ けば ,自 分 の欲望 を. 思考 だ けが 人間 を進歩 ,成 長 させ る。 しか し,記 憶 力. 満足 させ ,社 会 の秩序 を乱す こ とな く社 会 を進歩 させ. に優 れ頭 の 回転 の速 い 人 は , と りあ えず実務 だけは遂. る こ とがで きる。低度 な思 考 であ る思 いつ きの 浅知恵. 行 で き,表 面 的 に 自立 で きて い るかの ご と く見 える。. で 手 っ取 り早 く欲望 を満 たす な らば ,あ る人の欲望 の. 人間 に とって最 も大事 な こ と,す なわち人 間 の原点. 満足 が 周 囲 の 人 に しわ よせ される。思 いつ きの 浅知恵. は,未 完成 な人 間 を進歩 ,成 長 させ る内面 的 な思 考 で. に よる欲望 の満足 は ,社 会全体 と して進歩が ない だけ. あ る。 一 人 の考 えが進 めば ,他 の 人が そ の進 んだ考 え. で な く,周 囲 の 人が しわ よせ された結果社会 の秩序 を. を ヒン トに して さらに考 えを進 め る。原点 か らの思 考. 乱す こ とが 多 い。. だけが ,複 数 の 人間 の 間 に生ず る相乗効 果 で思考 を進. 情 と情 が通 じ合 った直観 的 な共感 に よって ,連 帯感. 展 させ ,社 会 を進歩 ,発 展 させ る こ とがで きる。. が 得 られ る ことが ある。 しか し,思 考 を伴 わな い 共感 に よる連帯感 は,普 遍的 な根拠 を欠 い て いて ,欲 望 に. 社 会 の 原 点 か ら教 養 ヘ. 対 して全 く無力 であ り簡単 に壊 れ る。原点 か らの思考 と思 考 をつ き合 わせ互 い に納得 した共感 は,原 点 とい. 人間が社会生活をするためには,ル ール とい う拘束.
(3) 遠山. 尭 :社 会 の秩序 と進歩 のための教養. 113. が必 要 で ある。社会 のルールは,千 差万別 なす べ ての. めの統治 の方法 で あ る。大 きな潜在 的力 を持 った社会. 人が納得 で きる,普 遍 的 な人 間 と社会 の原点 を追 求 し. は,大 勢 の 人 の知恵 と判 断 と納得 が 得 られ なければ. た うえでの ,普 遍 的 な ルールで なければな らな い 。. 混乱す るだけで秩序 が な く,大 きな慣性 の力 で進歩 に. 大 きな潜在 的力 を持 ってい る社 会 は ,社 会 を構 成す る視野 が広 く考 えが 深 い 人 々の知恵 と判 断 と納得 で. ,. ,. 抵抗す る。 思考力不足 で小社会 に分裂 した社 会 では,分 裂 した. 秩序 を乱す こ とな く進歩 ,発 展す る ところで あ る。 こ. 意見 を持 った多数 の 政党 が乱立 し離合集散 を くりか え. れが 本 来 の社会 の原点 であ る。. す。小社 会 に分裂 した社会 での意見 の相違 は,欲 望 か. 視 野 を広 くす る ときに注意 しなければな らない こ と. 情 の違 い程度 の相違 であ って ,大 きな相違 はない 。 し. は,自 分 ,自 分が所属す る組織 ,自 分 を含 めた社会 ヘ. か し,意 見 の対 立 が ,人 間 と社会 の原点が わか らない. と考 えを進 め る と,ど こ まで考 え を進 めて も自分 中心. 人 たちの小 さな相違 をめ ぐって ,い つ まで もつづ く。. に考 える こ とで あ る。視野 を広 くす る こ とは,些 細 な. 思考力不足 の人 は,論 理 的思考 とは次元 が異 なる欲望. ことや損得 に とらわれ ず ,世 界的規模 の社会全体 か ら. や情 で 具体 的 な各論 だ け に注 目 し,議 論 を混 乱 させ. 社会 の原点 を追 求 し,社 会 の原点 を把握 してか ら現実. る。普遍性 を欠 く欲望 や情 は補足 に しかな らず普遍 的. の社会 へ と,考 えを進 め る こ とで あ る。 い くらで も出. な論理 に先 行 してはな らない 。小 社会 に分裂 した社会. て くる普遍性 を欠 い た些 細 な こ とや損得 に とらわれ る. は,大 勢 の 人 の知恵 と判 断 を結集 で きず ,人 々の納得. 人は,い つ まで も社 会 の全体像 はつ かめず ,普 遍 的 な. が 得 られず秩序 と進歩が な く,民 主主義社会 の対極 に. 社会 の原点が追求 で きな い。. あ る,本 来 の社会 と異 な った社会 で あ る。. 人 間 と社 会 の 原 点 を追 求 して 次 ぎに なす べ き こ と. 単純 で ほ とん ど変化 が ない 農業社会 では ,人 間 と社. は,分 業化 して複雑 になった社会が混乱 しない よ う. 会 の原点が追求 で きて い ない社会 のルール に よつて. 社会 にけ じめ をつ け筋 を通す こ とがで きる,す べ ての. 支障 が 表面化す る こ とはなか った。思考 で最 も早 く進. 分野 の 人 に共通す る社 会的 に価 値 の あ る普遍的 な教養. 歩す る科学技術 を基礎 とす る工 業 は ,人 々の思考 で進. ,. ,. を探 る こ とで ある。 そ のため には,歴 史 を含 めて現実. 歩 して経済 を先 導 し,社 会 を豊 か にす る一 方複雑 に し. の社会 の概観 が必 要 で あ る。成功 に終 わ った結果 よ り. 早 く大 き く変化 させ る。複雑 で早 く大 き く変化す る工. も失 敗 に終 わ った結果 の方 が 多 い歴史的事実 は ,そ の. 業社会 のル ー ルは,迷 路 に入 りこ まない ため ,社 会 の. まま鵜呑 み に してはな らず ,人 間 と社 会 の原点 の追求. 変化 に よらない普遍 的 な人間 と社会 の原点 を追 求 した. とい う過程 を経 なければ現 在 に生 か され ない 。. うえで思考 で進歩 しなければ ,思 考 に よる工 業 の進歩. 分業化 して複 雑 になった社会 は,社 会 をま とめ る機. に取 り残 され る。改 革 を怠 って 取 り残 され た ル ー ル. 構 であ る政 治 を必 要 とす る。社会 は,長 所 ,短 所 を併. は,進 歩 した工 業社会 か ら乖離 し,古 い考 え と新 しい. せ 持 った未完成 な存 在 で あ る少数 の 人 間が 社会 を と り. 考 え を混 在 させ ,社 会 をひいては社会 の一 部 であ る経. しきって も,未 完成 の ままで進歩が ない 。国家がす べ. 済 を混迷 させ る。古 い考 え と新 しい考 えの混在 は,け. て を と りしきる政 治 は,単 純 で変化 が ない農業社 会 で. じめ を欠 き無秩序状態 と同 じこ とで あ る。 工 業社 会 の. は支障 を表面化 させ る こ とはなか ったが ,複 雑 で早 く. ル ール は,人 間 と社会 の原点 が追 求 で きて い ない ,社. 大 き く変化す る工 業社会 には適 わない 政治であ る。社. 会 の進歩 と進歩 のための改革 は念頭 にない ,情 と情 の. 会 は少数 の 人で は不可能 な こ とを可能 にで きる大 きな. 共感 に よる連帯感 を基 と した ,農 業社 会 のル ールの 延. 潜在 的力 を持 つ 。古今東西 にわた り,大 きな潜在 的力. 長線 上 で考 えてはな らない 。. を持 った 国家 的規模 の社会 を少 数 の 人で取 り仕切 る試. 思考 で先導 された経済 の発展 が最 も早 い 。 人心 は経. みは ,取 り仕切 る側 と取 り仕切 られ る側 とが衝 突す る. 済 の 発 展 で ひ とまず 安 定 す る。 しか し,経 済 の 発 展. か ,社 会 が 停滞す るか または暴走す るかの いず れかで. は,社 会 の発展 した部分 と発展 しなか った部分 の 間 で. あ り,強 大 な権 力 を行 使 して も失 敗 に終 わる。す なわ. 格差 を生 み ,社 会 に歪 を残す。立法 は,経 済 の発展 に. ち,視 野が広 く考 えが 深 い大勢 の 人 の知恵 と判 断 と納. よって生 じた社 会 の歪 を緩和 し,社 会 の秩序 を回復 さ. 得 は権力 に勝 る力 で あ る。. せ る こ とを 目的 と して ,先 走 らず に経 済 の後 か らつ い. 大 きな潜 在 的力 を持 った社会 の秩序 と進歩 の ため に は,大 勢 の 人 の知恵 と判 断 と納得が必 要 で ある。民主 主義 は,大 勢 の 人 の 知 恵 と判 断 を政 治 に結 集 させ. ,. 人 々の納得 の もとに,社 会 に秩序 と進歩 を もた らす た. て行 け ば よい。行政 は立 法 が 決 め た こ とを実施す れば よい 。 人 間 は,論 理 的 な存在 であるが ,人 間 と社 会 の原 点 が追 求 で きた と して も,社 会 の将来 を見通す こ とは難.
(4) 114. 甲南女子大学研究紀要第 40号. 文学・文化編 (2004年 3月. ). しい 。 人 々が人間 と社会 の原点 か ら思 考 を重 ねて社 会. 象 は ,多 くの 人 に注 目の 的 に され争 いの対 象 とされや. を進歩 させ る。思考 は,思 考 を重 ねてみ なけれ ば , ど. す く,社 会 の秩序 と進歩 の妨 げ となるこ とが 多 く,最. の方 向へ 進展す るか見通 せ ない。大勢 の千差万別 な人. 高 の価値 で は あ り得 ない。す べ ての分野 の 人 に共通す. の 思 考 は なお の こ とどこへ 向 か って 進 む か わ か らな. る内面 的 な教養 は ,普 遍的 な人間 と社会 の原点 を追 求. い。人間 は長所 ,短 所 を併せ持 った未完 成 で 能力 に限. した ,社 会 に秩序 と進歩 を もた らす論理 で あ り,分 業. 界 がある存在 で ある。人 間 の 能力 の 限界が念頭 にない. 化 して複雑 になった社会 にけ じめ をつ け筋 を通す こと. 人は,先 走 った とき社 会 の予想外 の展 開 によつて大 き. が で きる,最 高 の価値 であ る。. な失敗 をす る。 自 由 主 義 ,民 主 主 義 と教 養. 複雑 で早 く大 き く変化す る工 業社会 の立 法 は,単 純 で変化 が ない 農業社会 の立 法 の延長線上 にあ つてはな らず ,大 勢 の 人 の知恵 と判 断 と納得 を要す る普遍 的 な. 人間 は ,永 い歴史 の 間 に大 きな犠 牲 を払 い ,試 行錯. 社会 のル ール に関 わる立 法 と実務 に関 わ る立 法 に,分. 誤 を繰返 しなが ら,社 会 を統治す る方法 を模索 して き. 業化 され なければな らな い 。. た。複雑 で早 く大 き く変化す る工 業社会 に とつて適 切. 予算 を配分す る行政 は ,思 考力不足 で金 銭 が 最高 の. な統治 の 方法 は,広 い視野深 い考 えで普遍 的 な人間 と. 価値 であ る人が 多 い社 会 で は,主 導権 を握 る。主 導権. 社会 の原点 を追求 した教養 に適 っている,工 業 の進歩. を握 った行 政が規則 や規制 で権力 を強化す る こ とは. に伴 う よ う社 会 を進 歩 させ る こ とが で きる,自 由主. ,. 社会 の分業化 に逆 行 し,社 会 の秩序 と進 歩 に必 要 な大. 義 ,民 主主義 で あ る。混迷 した 自由主義 ,民 主主義社. 勢 の 人 の知恵 と判 断 と納得 は得 られず ,社 会 を混乱 さ. 会 は,実 務 の ための表面的 な法律 だけで は社会 の秩序. せ 停滞 させ る。複雑 で早 く大 き く変化す る工業社 会 の. が維持 で きず ,複 雑 な社会 にけ じめ をつ け筋 を通す. 行 政 は,単 純 で変化 が ない 農業社 会 の行政 の 延長線 上. 社会全体 のための 内面 的 な教養が不可欠 であ る こ とを. にあ つてはな らず ,普 遍 的 な社会 の ルールに関 わる分. 示 して い る。法律 に反 しな い こ とがす べ て許 され とは. 野 と実務 の分野 に分業化 されなければな らない 。普遍. 限 らない 。. ,. 的 な社会 のル ール は高度 な思考 を要す る。高度 な思考. 自由主義 のね らい は ,思 考 の妨 げ になる先入観 ,習. を要 しない実務 は分業化 で 能率 が上が る。 しか し,け. 慣 ,前 例 の よ うな拘 束 か ら人 々 を解放 し,思 考 で個 人. じめ を欠 い た分業化 は 自己 中心 的 な人 たちの主 導権争. をひい ては社会 を進歩 させ ,進 歩 のため に不可欠 な新. い や癒着 で 混乱 し能率が上が らない 。異 な った範疇 の. 陳代 謝 である改革 をさせ ,社 会 にけ じめ をつ け させ る. 分野 の 混在 は ,け じめ を欠 い た形 だけの分業化 で未発. こ とであ る。思考力 は,他 か ら強 い られて備 わるので. 達 な ままの行政 を,ひ い ては社会 を混迷 させ る。. はな く,本 人 の 自由な意思 に よってのみ備 わる。他 か. 教育 の 目標 は,社 会 の一 員 と して分業化 した社会 の 一 部 を受 け持 つ ための ,実 務能力 を生 徒 に身 につ け さ. ら強 い られた思 考 は,人 を思 いつ きの浅知恵 に向かわ せ ,か えつて社会 の秩序 と進 歩 の妨 げ となる。. せ るだけで な く,視 野 を広 く考 えを深 くして人間 と社. 民主 主義 のね らい は ,よ り多 くの 人 の思考力 を結集. 会 の 原点 を追求 し,そ こか ら社会 の秩序 と進 歩 につ い. させ るため ,す べ ての人 にあ らか じめ権利 と平等 を認. て考 え られ る能力 で あ る,社 会的 に価 値 の あ る普遍 的. め ,で きるだけ多 くの 人 を政治 に参加 させ る こ とであ. な本来 の教養 を生徒 に身 につ け させ る こ とであ る。 普. る。人 間 と社会 の原点 を追求 した普遍 的 な社会 のル ー. 遍性 を欠 い た,知 識 を誇示す る よ うな 自己満足 の ため. ル に関 わ る高度 な思考 には時 間 を要す るか ら,一 人 の. の 自己 中心 的教養 は ,社 会 に とっては ど うで もよい こ. 考 えはなか なか進 まない。他 の 人 の考 えが ヒン トにな. とであ り,学 校 で教育す る必 要 はな く自分 で 身 につ け. れば ,一 人 の考 えは進 む。社 会 は大勢 の 人が ヒン トを. れば よい 。複雑 で 早 く大 き く変化す る工 業社会 の教 育. 出 し合 い大勢 の 人が考 えれば進歩す る。人 々が知恵 を. も,単 純 で 変化 が ない 農業社会 の教育 の延長線 上 にあ. 結集 させ 世論 を進歩 させ政治 を先導す る。 これがで き. って は な らず ,生 徒 を よ り視 野 を広 く考 え を深 くさ. るだけ大勢 の 人 を政治 に参加 させ る民主 主 義 であ る。. せ ,教 養 を身 につ け させ ,人 間 と して進歩 ,成 長 させ. 小社 会 に分裂 した社 会 は,小 社会 に埋没 して い る少数. る教 育 で なければな らない 。. の 人 々の思考 は進 まず ,思 考 が進 まない小社 会 の寄 せ. 以上 の概観 の ご と く,社 会 の主 役 は ,教 養 を身 につ け る思 考 であ り,社 会 に とつて副次 的 な金銭 や社会的 地位 で はない。金銭 や社会的地位 の よ うな表面的 な対. 集 めであ る社会全体 として知恵 を結集 で きず ,政 治 が 人 々 に先行す る社会 に逆 転す る。 普遍 的 な 自由 ,権 利 お よび平等 は,社 会 を構成す る.
(5) 遠山. 尭 :社 会 の秩序 と進歩 のための教養. 個 人 に与 え られてはい るが ,社 会 の秩序 と進歩 ,お よ び進歩 のための改革 を念頭 にお い た社 会 に重 点 を置 い た考 えであ る。. 115. させ る。 社 会 環境 は す べ ての人 に快 適 で あ る とは か ぎ らな い 。人 間 の苦悩 は対 人関係 を含 め社 会環境 か ら生 ず る. 人 間 は,本 来人 に よって異 なる長所 ,短 所 を併 せ 持. こ とが 多 い 。宗教 は人 間 の苦悩 を和 らげイ 固人 の幸福 を. った千差万別 な存 在 で あ り,人 間 と社会 の原点 を追 求. 求 め る こ とを一 つ の 日標 とす る。 したが って ,宗 教 は. してか ら考 えを進 め ,一 層千差万別 になる。人 間 と社. 人 間 と社 会 の 原 点 を追 求 した哲 学 で な けれ ば な らな. 会 の原点 を追 求 した,考 えの出発 点 が 同 じであ る千差. い 。人 間 と社会 の原点 か ら乖離 した ,単 なる願望 にす. 万別 は,混 乱 の ない千差万別 で あ る。人 間 と社会 の原. ぎない観念 的倫 理 は,ど こへ 向 か って考 えが進 むかわ. 点 を追 求 し,社 会 にけ じめ をつ け筋 を通す教 養 を身 に. か らない 。最悪 の場合 ,閉 鎖 的 ,狂 信 的 な教 団 が ,観. つ けた千差万別 な人 々が ,普 遍 的 な 自由 ,権 利 お よび. 念 的倫 理 に浅 知恵 に浅知恵 を重 ねた挙句途方 もない結. 平等 で思考す るな らば ,社 会 は秩序 を乱す こ とな く進. 論 に至 り,そ の結論 を実行 して社 会 を混乱 させ る。信. 歩す る。. 教 の 自由 は,人 間 と社会 の原点 を追求 した ,教 養 を出. 社 会 を統 治 す べ き 自由主 義 ,民 主 主 義 の た め の 自. 発点 とす る教義 を持 った宗教 のための 自由 である。. 由,権 利 お よび平等 が ,社 会 の秩序 と進歩 は念頭 にな. 人 々が ,人 間 と社 会 の原点 を追求 し,人 間 と社会 の. く,義 務 と普遍性 を欠 い た ,千 差万別 な人 の 自己 中心. 原点 か ら思 考 を重 ねて ,学 問 を進歩 させ る。 したが つ. の野放 図 な 自由 ,権 利 お よび平等 と勘違 い され るな ら. て ,学 問 の進歩 の成果 は社会 に還元 され なければな ら. ば,社 会 の混迷 と停滞 は必然 の成 り行 きである。. ない 。学 問 の 自由 は,人 間 と社 会 の原点 を追求 した教. 自由 は ,教 養 を身 につ け るため に必 要 で あ り,教 養 を身 につ け てか ら,社 会 の秩序 と進歩 に向け さらに思 考 を進 め るため に必 要 であ る。 自由主義社 会 の 人 々は 教養 を身 につ け られ るだ け の思考力が求 め られ る。. 養 を出発 点 とし,進 歩 の成果 を社会 に還元 で きる学 問 のための 自由 であ る。 基本 的人権 は,強 大 な権力 を持 つ 国家 とい え どもこ れ を侵 す こ とはで きない ,す なわち国家 と個 人 の 間 に. 自由主義 ,民 主主 義社会 の社会人 は,選 挙 に際 して. け じめ をつ け,大 勢 の 人 の知恵 と判 断 と納得 の もとに. 等 し く一 票 の権利 が 与 え られて い る。 自由主義 ,民 主. 社会 を進歩 させ るため に認 め られ る。権利 は思 考 のた. 主 義社会 の社会 人 は,当 然教養 を身 につ け てい る とい. めの 自由 と平等 を妨 げない よ うけ じめ をつ け る こ とで. う前提 での ,等 しい一 票 の権利 で あ る。等 しい一 票 の. あ る。 どち らか一 方 の権利 が他 方 の権利 よ りも強 くな. 権利 を含 め 権 利 には,教 養 を 身 に つ け る とい う義 務. れば ,強 くな った権利 は,け じめ をつ け る こ とにな ら. が ,果 た されて い なければな らない 。. ず ,他 方 の 自由 と平等 を圧迫 し思 考 を停止 させ ,社 会. 民 主主義社 会 にお け る平等 は,教 養 を身 につ け るた. を混乱 ,停 滞 させ る。 け じめ をつ け るための権利 は. ,. め に必 要 な思 考 のための機会均等 と しての平 等 で なけ. 分業化 して秩序 を乱す こ とな く進歩す る社会 に とつて. ればな らない 。民主主義 に よる政 治 は多数決 で 決議 さ. 不可欠 で あ る。. れるか ら,教 養 ,少 な くとも教養 を理 解 で きる程 度 の. 巷 間 よ く主張 され る結果 としての平等 は,結 果 にい. 教養 は,民 主主義 国家 の 国民 的課題 で あ って,少 数 の. たる までの過程 を問 わない平等 で あ り,人 を手 っ取 り. 特別 な人 の課題 で はない 。. 早 い思 いつ きの浅知恵 に向 かわせ ,思 考 に よる進歩 を. 以上 の こ とが理 解 で きず教 養 が 身 につい て い ない 人. 妨 げ ,社 会 に混乱 と停滞 を招 く平等 となる。. は,普 遍性 を欠 い た 自己 中心 的 自由 ,権 利 お よび平等. 社会全体 に関 わる普遍 的 ル ー ルの ための 自由 ,権 利. に よって ,社 会 のい たる ところで混乱 を引 き起 こす。. お よび平等 は,原 点 か ら思 考す るための 自由 ,権 利 お. 言論 の 自由 は,社 会 に秩 序 と進歩 を もた らす教養 を. よび平等 であ って ,原 点 か らの思 考 とは次元 が異 なる. 出発 点 と した意見 で あ って こそ の 言論 の 自由 で あ っ. 欲望 ,情 のための 自由 ,権 利 お よび平等 で はない 。個. て ,教 養 が 身 につい て い ない 人が思 いつ きを言 う自由. 人 のための 自由 は ,周 囲 に迷 惑 をかけなければ認 め ら. で はない 。情 が 際立 った人 の意見 は,内 面が見 えず 表. れ るが ,社 会 の普遍 的 な ル ールの ための 自由 としては. 面 だ け を見 た思 いつ きであ り,見 落 と しが ある。人 間. 認 め られ ない 。人 間 の原点 は社 会 の原点 とは異 なる。. と社 会 の原点 か ら乖離 した,理 想 の社 会 を希求す る よ. したが って ,個 人 の ための 自由 は社 会 の普遍 的 な ルー. うな一 見 もっ ともらしい 意見 は,教 養 が 身 につい て い. ルの ための 自由 とは異 なる。思考 は思 考 を進 めてみ な. ない 人 の情 に訴 えるが ,教 養 を身 につ け た人の納得 は. け れば どの方 向 に向か って進 むかわか らない 。 したが. 得 られず ,普 遍性 を欠 き多 くの 人 を惑 わせ 社会 を混乱. って ,自 由 は思考 のための 自由 で あ って ,思 考 の結果.
(6) 甲南女子大学研究紀要第 40号. 文学 ・文化編 (2004年 3月. ). につ い ての 自由 で はない 。思考 の結果 は,社 会 の秩序. 継続 され なければな らない ,す なわち学校 だけの教育. と進歩 に適 ってい るか ど うかで ,改 めて判断 され なけ. で はな い。 生徒 は教養 を身 につ けるた め には 自ら考 えな くて は. ればな らない。 人間 と社 会 の原点 を追求 してか ら進 め た思 考 の結果 が ,誤 って直観的 ,自 己中心 的 に解釈 され るな らば. ,. な らない 。そ の ため に教 員が なす べ きこ とは ,生 徒 に 結論 を教 える こ とで な く,基 礎知識 の説 明 の後興味 や. 誤 った解釈 は,人 間 と社会 の原点 か ら乖離 した ,社 会. 疑 間 を生徒 か ら引 き出 し,ヒ ン トと時 間 を与 え生 徒 に. を混乱 させ停滞 させ る解釈 とな り,け じめ を欠 い た無. 考 える よう仕 向け る こ とであ る。生徒 は,推 理 の過程. 法状態 と同然 の社 会 にす る。教養 を身 につ け た人 だけ. を経 ず に結論 を教 え られ る と,推 理す る楽 しさを奪 わ. が ,自 由 ,権 利 お よび平等 を主 張 で きる。. れ授 業が つ まらな くな り,そ こか ら先 へ 考 えを進 め よ. 誰 とも接触 せ ず 一 人で生 きる人間は ,自 分 の生 命 を. う と しな くなる。生徒 は,些 細 な こ とで も自分 で考 え. 維持 す るだけで精 一 杯 であ り,生 活 に余裕 はな く進歩. て結論 を出 した嬉 しさを経験 す れば ,つ ぎへ 推理 を進. は望 め ない 。役割 を分担 しそれぞれ の分野 で 能力 を発. め ようとす る。思考 力 は,教 員が教 えて備 わ る もので. 揮 し社 会生活 を営 む人間は ,生 活 に余裕 がで き,一 人. な く,生 徒 自身が 自発的 に思 考 に取 り組 んで備 わる も. で は不可能 な こ とを可 能 に し進歩す る。 人間 は社 会 の. ので あ る。. 中 で生 きて こそ人間 と して生 きられ る。 したが つて. ,. あ らゆ る分野 の こ とを憶 えなけれ ばな らない詰 め込. 社会 の普遍 的 な ルールの ための 自由 ,権 利 お よび平等. み教育 は ,複 雑 で早 く大 き く変化す る工 業社 会 で は. は,教 養 を身 につ けた人 で あ つて も,個 人 の ための 自. 時 間 ばか り要 して非能率 的 な教育 であ る。能率 的 な教. 由 ,権 利 お よび平等 に優先す る。 これが ,個 々の 人間. 育 は ,各 分野 で必 要 なだけ の基礎 知識 を生 徒 に憶 え さ. と社 会 の 間 にけ じめ をつ けるた めの ダブ ルス タ ン ダー. せ ,あ らゆる分野 で威力 を発揮 で きる思 考力 で ,生 徒. ドであ り,社 会 の秩序 と進歩 の ため に不可 欠 であ る。. を自ら進歩 ,成 長 させ る教育 であ る。. ,. 思考 と記憶 の結果 を合計 し,総 点 の高 い方 か ら合格 全. 人. 教. 育. させ る入試 の方法 は,一 考 を要す る。 この方法 が入試 に採 用 されれば ,受 験 生 は手 っ取 り早 い記憶 に取 り組. 思考力 が 備 わるか否 か は義務教育終了 までで ほ とん. み 時 間 を要す る思 考 をお ろそか にす る。思考 は記憶 と. ど決 まる。論理 であ る言語 を使 える こ とは論理 的思考. は異 質 で ある。異 質 な ことの加算 は無意味 であ る。思. がで きる こ とで あ る。幼児 が 言葉 を話 せ る よ うにな つ. 考 は,複 数 の 人 間 の 間 で 相 乗 効 果 で 進 み ,社 会 を進. た ときが 幼児 に思 考力 を培 わせ るチ ャ ンスで あ る。 し. 歩 ,発 展 させ る こ とがで きる。記憶 は,複 数 の 人間 の. たが って ,思 考力 を培 わせ る教育 は親 が半分以上 の 責. 間 で相乗効果 が 現 れず ,社 会 を進歩 ,発 展 させ る こ と. 任 を負 わ なければな らない 。内面 的 で あ る思 考 は ,表. はで きな い. 面 にあ らわれやす い欲望 や情 の よ うに,周 囲 の 人 を真. 全 人教育 を目標 とす る教育 は個 々の科 目に も指針 を. 似 て 自然 に備 わる こ とは期待 で きな い 。家庭教育 と義. 与 える。社会 は複雑 であ り具体 的 な対 象 が ない か ら. 務教育 の思考力 を引 き出す教育 は ,こ の 時期 を逸すれ. 社会科 を教 える こ とは難 しい 。 そ の ため ,考 える こと. ば取 り返 しが つ か ず ,子 供 の一生 を左 右す るほ ど大事. は い くらで もあるに もかかわ らず ,社 会科 は安易 に暗. であ る。 人間は ,ま ず幼 年期 に人間 と して最 も大事 な. 記科 目 に されて い る。生徒 は,社 会科 の試験 を暗記 で. 思考力 を備 え,次 ぎに思春期 に身体 的 に成長す る。 人. 乗 り切 って しまえば 目的 を達 した こ とにな り,後 は社. 間 の原点 である思考力が備 わ らず 身体 的 に成長 した人. 会 につい て何 も考 えない。社会科 を暗 記科 目にす るこ. 間 は ,け じめのための 自己抑制 が で きず ,反 社 会的 な. とは,社 会科 をひい ては社会 を思 考 の対 象 か ら外 し. 行動 を とる こ とが あ り,一 生 そ の 可能性 を引 きず る。. 教 養 を身 につ け させ る教育 に反す る こ とで あ る。. ,. ,. 教育 の 目標 の一 つ は ,子 供 たちに 自由主義 ,民 主主. 工 業 に関 わる人の思 考 の結果 は工 業社会 を複雑 に し. 義社会 にお ける社 会生活 の準備 をさせ る こ と,す なわ. 早 く大 き く変化 させ る。 工 業社 会 のルールは ,人 間 と. ち,子 供 たちに思 考力 を培 わせ 教養 を身 につ け させ る. 社会 の 原点 を追 求 した うえで思考 で進歩 しなければ. こ とであ る。 したが って ,教 育 の 目標 は ,子 供 たちに. 思考 に よる工 業 の進歩 に取 り残 され る。対象が複雑 で. 実務能力 を習 得 させ教養 を身 につ け させ るこ と,す な. あ るが 具 体 的 で な い 社 会 の ル ー ル に 関 わ る社 会 科 学. わ ち全 人教 育 であ る。思考 に長 い 時 間 を要す る教養 を. は ,対 象 が 具体 的 な 自然科学以上 に進 歩 に不可欠 な思. 身 につ け させ る教 育 は ,家 庭教育 に始 ま り,社 会 で も. 考 を必 要 とし,巷 間伝 え られ る よ うな暗記科 目で あ っ. ,.
(7) 遠山. 尭 :社 会 の秩序 と進歩 の ための教 養. こで ,日 本 人 は ,和 魂 洋才 と言 い訳 しなが ら,と りあ. てはな らない 。 言語 は思考 を進 め るための手段 であ り思考 の結果 を. えず欧米 の文化 の 中 で対 象 が 具体 的 な 自然科学 だけ を. 伝 えるため の手段 で あ る。国語教育 は,教 養 を念 頭 に. 習得 し,対 象 が具体 的 で ない 人 間 と社 会 の原点 を追求. 置 い て ,文 章 か ら他 人 の思考 の結果 を読 み取 る こ と. しなけれ ば な らな い ,教 養 に つ い て の 考 察 は 先 送 り. 自分 の思考 の結果 を他 人 に伝 える こ とに重 点 を置 くほ. し,教 養 が欠落 した まま現在 に い た つてい る。. ,. うが よい 。文学作 品 か ら情 を読 み取 る教育 は,必 要 な. 日本 の文化 は,原 点 を追求す る文化 で はな く,す べ. らば思 考 の 結 果 の伝 達 に習 熟 してか ら取 り組 め ば よ. て をあ るが ま まに表面 的 に受 け入 れ る 情 の 文 化 で あ. い 。教 養 を念 頭 に置 い た教育 はす べ ての人 に必 要 で あ. り,必 ず しも人間 と社会 の原点 の追求 を必 要 と しな い. る。文学作 品 か ら情 を読 み取 る教 育 はす べ ての 人 に必. 文学 ,芸 術等 に向 か った偏 った文化 で ある。欧米 の 文. 要 で はない 。. 化 は,人 間 と社 会 の 原 点 を追 求 した思 考 的 文 化 で あ. 数学 ,物 理学 の教 育 は,公 式 を与 え計 算 の結果 で あ. り,宗 教 ,政 治 ,経 済 ,自 然科学等 を含 め あ らゆ る分. る数字 を求 め る教 育 に終始 して い る。数字 を求 め る教. 野 に,原 点 の追求 とい う共通点 があ る。その結果 , 日. 育 は,数 字 が 得 られた ら目的 を達 した と思 い こみ ,生. 本 の文化 と欧米 の文化 の 間 には,教 養 とい う大 きな壁. 徒 はそ こか ら先 へ 考 えを進 め よ う とせ ず ,原 点 を理 解. がで きた。世界 的規模 で視野 を広 くす る理 由 は以上 の. す るにい た らない 。計算 は数学 ,物 理学 に とって 目的. こ とを読 み 取 るためで あ る。思考 は個 々の 人 間 を進. ではな く手段 にす ぎない 。進歩 の ため には ,ど の分野. 歩 ,成 長 させ る。先 人たちの思考 と知恵 の集積 であ る. の学 問 であれ ,ま ず原点 を追 求す る とい う手順 を踏 ま. 文化 は ,社 会 を進歩 ,発 展 させ る。. なければな らない 。. あ らゆる分野 の 中 か ら,工 業 の基礎 である科学技術. 学 問へ の取 り組 み 方 は分野 に よらず 同 じであ る。す. だ け を取 り入 れた こ とは,間 違 いの もとではなか った. べ ての学 問 は,思 考 の対 象 の原点 を追求す るこ とか ら. のだろ うか 。 工 業 で 日本 人 の先輩 で ある欧米人 は,複. 始 ま り,そ の原点 か ら人 々の思考 で進歩す る。以 上 の. 雑 な工 業社 会 の 早 くて 大 きい 変 化 に対 処 す る うえ で. ことはか つ ての大学 の教養部 にお け る一 般教育 で 習得. も, 日本 人 の先輩 であ る。原点 を追 求 した政治 ,経 済. され るべ き こ とで あ った。 しか し,学 問 の哲学 とも言. 等 は,欧 米 で は社 会 の秩序 と進歩 のため に有効 な手段. える一 般教育 は,そ の意義が追求 され る こ とな く目標. であ る。原点 を追 求 せ ず制度 だ け を表面 的 に取 り入 れ. が理 解 され ない まま,一 部 の大学 で廃止 に追 い込 まれ. た政 治 ,経 済等 は, 日本 で は社 会 の秩序 と進歩 のため. た。. に有効 な手段 にな らな い 。. 教育 に関 わる人 に とつて必須 の条件 は,偏 った先入. 欧米 の 制度 は,原 点 か らの思 考 と思 考 をつ きあ わ. 観 に とらわれず視野 を広 く考 えを深 くし,人 間 と社会. せ ,互 い に納得 した共感 に よる連 帯感 を基 とした ,社. の 原 点 を追 求 し教 養 を 身 に つ け ,自 ら人 間 と して進. 会 にお け る存在意義 を明確 に定 め た ,機 能体組織 で運. 歩 ,成 長す る こ とである。. 営 され る。思考力不足 で 自己 中心 的 な人が機能体組織 を運営す れば ,組 織 は,表 面上機 能体 で あ るが ,実 質. 欧 米 の 文 化 と 日本 の 文 化. 共 同体 にな る。本 来機 能体 で な け れ ば な らな い 組 織 が ,自 己中心 的 な人 の情 と情 の共感 に よる連帯感 を基. 文化 は先 人 たちの知恵 の集積 であ る。幼児 は,家 族. と した共 同体 に変質す れば,そ の組織 は ,社 会 にお け. や周 囲 の 人 たちの 習慣 や前例 の 中 で育 つ ,す なわち文. る存在意義 を見失 い迷走す る。共 同体 の集 ま りで あ る. 化 を刷 りこ まれて育 つ 。 したが って ,文 化 は世代 が 変. 日本 の 世 間 は機能体 の集 ま りで あ る本来 の社 会 とは次. わって もなか なか 変化 しない 。文化 は世代 が 変 わ って. 元が異 なる。. も変 化 しな い こ とを考 えれ ば,後 世 に残 す べ き文 化. 太平洋戦争 と平成不況 を含 め ,明 治維新 以 後 の 日本. は,人 間 と社 会 の原点 を追 求 した ,社 会 の変化 を越 え. の社 会 を混迷 させ た原 因 は,日 本 人 の教養 の 欠落 で あ. て普遍 的 な文化 で なけれ ばな らな い。. る。軍部 や官僚 が ,人 間 と社会 の原点が見 えず ,最 高. か つ ての 日本 の よ うな 自然 の影響 を強 く受 け る農耕. の価値 で あ る教養 が 見 えず ,人 間 の 能力 の 限界 が見 え. 社会 は ,知 恵 と工 夫 で大 き く進歩す る こ とはない 。進. ず ,社 会 の一 部 を分担 して い るこ とを忘 れ社会 の頂点. 歩 が ない社会 の人 間 の思考力 は等 閑視 されて きた。や. に達 した と錯覚 し,社 会 に通すべ き筋 とけ じめ をつ け. がて 日本 は欧米 の文化 に接 したが , 日本 人 は, 日本 の. る こ とを知 らず ,国 民 を納 得 させ る こ とが で きず ,権. 文化 と対極 にある欧 米 の文化 が理 解 で きなか った。 そ. 力 をふ りか ざす。大 きな潜在 的力 を持 つ 国家 を背 景 と.
(8) 甲南女子大学研究紀要第 40号. 文学 0文 化編 (2004年 3月. ). す る彼 等 は ,自 分 た ちが大 きな権 力 を持 った と錯 覚. 教養 を身 につ けた人 は,相 手 の言動 か ら,相 手 に教. し,社 会 の秩序 と進 歩 に不可欠 な国民 の知恵 と判断 と. 養が身 につい て い るか否 かが わか る。欧米人 は , 日本. 納得 は念頭 にな く,権 力 で 国家 を取 り仕切 ろ う と し独. 人 に教養 が 身 につい て い ない こ とを見抜 い て い る。教. 走 して大 きな失敗 をす る。小社会 に埋没 し,金 銭 ,社. 養 の 欠落 はいか に表面 を取 り繕 って も見抜 かれ る。教. 会的地位 で 自己満足 し教養が見 えない 国民 は,軍 部 や. 養 の 欠落 は 日本 の社会 を混迷 させ そ の うえ欧米 の信用. 官僚 を批 判 で きず ,政 治 に先 を越 され彼等 の独走 を許. を失 わせ る八 方塞 の原 因 であ る。人 間 と社会 の原点 を. し,大 きな失敗 の付 け を払 わ され る。個 人 の教養 の 欠. 追 求 した教 養 は 時代 を越 え民 族 を越 え た 普 遍 性 が あ. 落 は個 人 の失敗 に終 わる。国家的規模 の教養 の 欠落 は. る。 日本が国際 的孤 立状態 か ら抜 け出 し欧 米人 の信用. 国家的規模 の失敗 に終 わる。. を回復 す るため になす べ きこ とは,日 本 人が教養 を身. 社 会 は少数 の 人で は不可能 な こ とを可 能 にで きる大. につ け る こ と以外 に方法 が ない 。. きな潜在 的力 を持 つ 。 この 力 が他 の社会 の否定 に向け. 人間 と社会 の原点 を追 求 し教養 を身 につ けた人 は. られ た とき,戦 争 が勃発す る。教養が身 につい て い な. 社会 の 中 の 自分 を明確 にで きる,す なわち 自我 を確 立. い 人が多 い社会 は,教 養 を身 につ けた人 の考 えが理解. で きる。 自我 を確 立 で きた人 は,他 人か ら自由 ,権 利. で きな くて話が噛 み 合 わず ,一 部 の 人が社会 の大 きな. お よび平等 とい う自分 の領域 に侵入 され た くない 。 自. 潜 在 的力 を誤用 し実力行使 に踏み きる心 配が ある要注. 我 を確 立 で きた人は,自 分 の意思 で行動 し,成 功 す れ. 意社会 であ る。 これが 太平洋戦争 の 反省 で あ る。思考. ば成 功 の結果 は 自分 の もので あ り,失 敗す れば 自分 で. を怠 って教養 が見 えず軍部 の独走 を許 した国民 も,軍. 責任 を とる,す なわち 自立す る。. ,. 部 と同様 に戦 争 の責任 を負 わなければな らない 。 一 国. 人間 と社会 の 原点が追求 で きず教養が 身 につい て い. の 政治 はその形態 を問わず 国民 の 意思 の 反映 で あ る。. ない 人 は,社 会 の 中 の 自分 を見失 い ,自 我 が確 立 しな. 思考力不足 に よる教養 の 欠落 は戦争責任 の 免罪符 には. い。 自我 が 確 立 して い な い 人 は,他 人 か ら金 銭 や情. な らない 。. で ,自 由 ,権 利 お よび平等 とい う自分 の領域 に侵 入 さ. 日本 は ,湾 岸戦争 の 際 , 日本国民 の ための 日本 国憲. れて もあ ま り気 に しない ,金 銭 ,同 情 や権力 で ,他 人. 法 を盾 に,金 銭的支援 しか しなか った。 日本 人 は金 銭. の領域 に侵 入 して も許 され る と思 ってい る。 自他 の領. 的支援 に対 す る欧 米諸 国 か らの 謝意 が ない こ とが理 解. 域 が明確 で な い 人 は け じめ をつ け る こ とを知 らない 。. で きなか った 。金銭 的支援 は教養 を最高 の価値 とす る. け じめが ない社 会 で は ,自 我 が確 立 して い な い 人 は. 欧米 人 に とって二 次 的 な支援 で しか ない 。 日本 か らの. 周囲 の 人 に倣 って行動 し,成 功 す れば成 功 の結果 は皆. 多額 の拠 出金 に もかかわ らず ,国 連 の常任理事 国 に推. の もので あ り皆 に分配 しなければな らず ,失 敗 す れば. 薦 され な い理 由 は, 日本 人 に世 界的規模 の社会 にけ じ. 皆 でかば って くれ るか ら責任感 はない ,す なわち 自立. め をつ け筋 を通す ,教 養 が 身 につ い て い ない こ とであ. しない 。. る。. 思考力不足 で 自立 で きて い ない 自己中心 的 な人 は. ,. ,. 日本 はか つ て工 業生産 で 欧米先進 国 の工 業 を圧倒 し. 自らの知恵 と工 夫 で利益 を得 る こ とがで きず ,思 いつ. た。失業者 が増 加 した欧米諸 国 は ,た ま りかね て 日本. きの 浅知恵 で社会 か ら利益 の分 け前 に与 ろ う と し,経. 人 の労働 時 間 を欧 米 人並 に減 ら し,欧 米 と対等 の 条件. 済 と社会 を混乱 させ る。経 済 は人 々の欲望 を満 たす た. で競争す る よ う日本 に訴 えた。 これ に対 し当時 の 日本. めの営 みで あ る。内面 的 な豊 か さである教 養 を身 につ. は,欧 米 人 は 日本 人並 に労働 時 間 を増 や した らよい と. けた人 の 自立 は,欲 望 と直結 して い る経済 に とつて必. 応 じた。金銭が最高 の価値 で あ る 日本人 は,教 養 を最. 須 の 条件 で あ る。歴 史 は,二 面性 を持 つ 豊 か さの うち. 高 の価値 と しそのため に思 索 の ための 時 間的ゆ と りが. の表面 的 な豊 か さに しか注 目 しない社会 は,束 の 間 の. 欲 しい ,欧 米 人 の 言 い 分 が理 解 で きなか った。 日本. 繁栄 の後 ,衰 亡 の道 を辿 る こ とを教 える。. は,教 養 の 欠落 に よる価値観 の相違 で ,欧 米 の文化 を 否定 し欧米 の信用 を失 った。 多 くの 人 に被 害者意識 を与 えた ジヤパ ンバ ッシ ング は, 日本 一 国 の経 済成長 よ りも世界的規模 の経 済秩序 を優先 させ る とい う, ダブ ルス タンダー ドの発想 に よ る論理 で あ り,日 本経 済 の一 人勝 ちに対 す るねたみ の 感情 で はない 。. 参考文献 阿部謹也 (1997)教 養 とは何か 講談社現代新書 鷲田小爾太 (1997)欲 望の哲学 講談社 源 了回 (1999復 刻版)義 理 と人情 中公新書 加藤秀俊 (1966)人 間関係 中公新書 西村貞二 (1966)教 養 としての世界史 講談社現代新書 長谷川三千子 (2001)民 主主義 とは何なのか 文春新書.
(9) 遠山. 尭 :社 会 の秩序 と進 歩 のための教養. 鹿 嶋 春 平 太 (1994)聖 書 の 論 理 が 世 界 を動 か す. 新潮選. 渡部昇一 (1987)ア ングロサクソ ンと日本人 新潮選書. 新書. 治 (2001)戦 略 思 考 が で きな い 日本 人. ち くま新. 圭. 圭. 小泉信三 (1966)福 沢諭吉 岩波新書 佐藤淑子 (2001)イ ギ リスのいい子 日本 のいい子. 中山. 119. 中公. 西尾幹 二 (1969)ヨ ーロ ツパ の個 人主義 講談社現代 新 圭 堺屋太一 (1999)組 織 の盛衰 PHP文 庫 中西輝政 (1998)な ぜ 国家 は衰亡す るのか.
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