27
スペイン語
児玉 悦子はじめに
第二外国語教育の推移 戦前からわが国の高等教育機関においては、英語に加えて他の外国語を履修することが 必要とされていた。これが、いわゆる「第二外国語」であり、現在の 4 年制大学における カリキュラムに継承されている。 戦前の高等教育機関における外国語教育に関して言えば、もっぱらドイツ語の履修が主 流であった。また、東京外国語学校、大阪外国語学校、また高等商業学校の一部では、中 国語、ロシア語、スペイン語などが教えられていたが、これらの言語は実用外国語と位置 づけられていた。確かに、スペイン語をはじめこれらの外国語は、貿易などの経済活動の 推進には適切なツールである。 昭和 24 年(1949)に新制大学が発足したが、当初の段階では第二外国語としてとりあ えずドイツ語だけを設置する地方大学が目立っていた。やがて新制大学の内容が充実する とともに第二外国語の選択肢も増えていったが、ドイツ語とフランス語が主流を占める時 代が続いていた。 その後、わが国における 4 年制大学の数が増加していくにつれ、第二外国語としてスペ イン語を設置する大学も増えていったが、昭和中期までの長い間、わが国の高等教育機関 の語学教育におけるスペイン語の位置はいわば片隅の存在だった。しかしながら、1970 年代後半以降スペイン語を履修する学生は全国的に増加していった。1.桜美林大学におけるスペイン語履修の現状
全国の大学における英語以外の外国語履修者は、まずスペイン語履修者が増加したのち、 やがて中国語そしてコリア語履修者の著しい増加傾向が続き、桜美林大学の場合も例外で はない。 現在、日本と中国の経済関係はきわめて密接であり、新興市場としての中国は今後も経 済成長の継続が期待されている。従って、中国語を履修しておけば、何れ役に立つ機会が28 2011 年度 Obirin TOday ――教育の現場から 28 到来するかもしれないと期待するのは当然であり、全国の大学において中国語履修者数が 多数を占めているという傾向に、桜美林の学生も対応している。 一方、韓国は日本に最も近い隣国であるという親近感に加えて、近年において衰えるこ とのない韓流ブームは今も続いており、コリア語受講希望者が多い理由も理解できる。 しかし、ヨーロッパ語系の他言語に比べてスペイン語受講生が目立って多い理由は、ど こにあるのだろうか。戦前の日本でスペイン語が教えられていた高等教育機関は極めて限 られていたが、それらは、いずれも現在の商学部、経営学部あるいは経済学部の課程に対 応している。戦前の日本にとって天然資源が豊富な中南米諸国は有望な市場であり、また 農業移民先としても魅力があった。当時にあっては、これらの国々の使用言語であるスペ イン語を習得することに実用的な価値があった。しかしながら、時代が大きく変化した現 在においては、スペイン語学習の実用価値は、相対的に低下している。にも関わらず、未 だに人気語学である理由は、はっきりとしない。 理由として考えられるのは、スペイン語母音の発音は、日本語の母音構造とほぼ同じと 言ってよいことである。そのため、日本人にとってスペイン語の発音は比較的、学習しや すいと言えるだろう。しかしながら、フランス語、イタリア語などと同じロマンス語系に 属する文法構造を持っているスペイン語は、理解の難しさにおいてはこれらの言語と異な らない。いずれにせよ、スペイン語の履修を希望する学生が多いという現状は、この言語 を担当する教員にとってこの上なく心強い。学生たちがスペイン語に寄せる関心の背景と、 この言語を学習しようとするモチベーションの根底にあるものを充分に理解し、今後もこ の好ましい傾向が持続するようこれからの授業の進め方にも反映してゆきたい。
2.これからのスペイン語教育への取り組み
(1) 問題点 2005 年~ 2010 年度におけるスペイン語の段階別履修者の推移を分析すると、スペイン 語 V 及び VI の上級クラスに進むにつれて受講生数の著しい減少傾向が顕著である。例え ば、2008 年度のスペイン語Ⅰの履修者数 450 名弱に対して、2010 年(学習を続けていれ ば履修するはず)のスペイン語Ⅴの履修者数は、一割にも満たない。 ここ数年は、Ⅴ・Ⅵの履修者数減少に伴い、隔学期開講(春にⅤ、秋にⅥを開講)とし ている。例え少人数であっても、続けて学習をしたいという希望者がいる場合は、これら の上級者クラスを開講すべきかどうか、検討の余地が残されている。 最高レベルであるスペイン語 VI の文法では接続法の理解が中心となっており、受講生29 スペイン語 の積極的な学習努力が要求される。接続法の各時制の文法構造を理解し、その用法を身に 付けるのは決して容易ではないが、外国語学習の課程において避けて通ることは出来ない。 したがって、上級クラスの継続した開講が望まれる。 一方、教材も接続法の理解に対応した内容になっているが、これにこだわることなく受 講生の興味を刺激し、学習意欲を向上させるテーマを取り上げるように心がけている。 (2) 教材選定のあり方 スペイン語学習課程が段階的に進んでゆくにつれて、広大なスペイン語圏地域の風土、 歴史あるいは文化的背景にも受講生が関心を抱き、理解を深めていくよう、教員は日常の 授業を通して心がけている。 今後は、スペイン語圏の文化的背景の理解を更に深めていくために、少なくともクラス V あるいは VI のレベルでは、スペイン文学及びラテンアメリカ文学の秀れた作品を取り 上げていきたいと考えている。 例えば、セルバンテス『ドン・キホーテ』のように世界文学における古典的名作として もよく知られているものや、ラテンアメリカ文学も取り上げたい。1970 年代以降、『ラテ ンアメリカ文学叢書』全 15 巻、『ラテンアメリカの文学』全 18 巻などが刊行され、更に 新潮社『現代世界の文学』シリーズにも数多くのラテンアメリカ文学作品が収められるな ど、日本でも広く親しまれるようになっている。 上級クラスの授業では、スペイン語文化圏で名作として知られている文学作品を紹介し、 たとえその抜粋であっても香り高い文学作品の魅力に直接触れさせることは、学生たちに とって極めて有意義であると考えられる。 スペイン及びラテンアメリカ諸国の数多い文学作品からの教材選定は決して恣意的であ ってはならない。また、これらの文学作品の多くがいずれも長編であり、セメスター制と いう授業構成を考えれば、その全編を教室で読み終えるのは不可能に近い。従って、教材 として選定された長編小説のどの部分を取り上げるか、その作品の全体の流れを把握しな ければならない。また、教材の選定に当っては、語学教育上の効果も充分に考慮する必要 がある。 文学作品を教材として選定する場合、先ず上記の基本的な問題点をクリアーしなければ ならない。そのため、各クラスの担当教員の意見を尊重し、また、受講生にとって教材と して妥当かどうか慎重に検討すべきである。こうした観点から、スペイン語各担当教員と の活発な意見交換を通して、語学教育的にも適切な教材を継続的に選定するシステムを確 立することから始めていきたい。 ところで、スペイン語 V あるいは VI のクラスまで進んできた受講生の学習意欲は、大
30 2011 年度 Obirin TOday ――教育の現場から 30 いに評価できる。これらのクラスの学生たちとの日常的なコミュニケーションを通して、 スペイン語学習に対する彼らの学習意欲の原点あるいは、スペイン語学習の目的などを把 握することは、今後の授業の進め方を考える上で重要である。また、こうして得られたデ ータの分析は、これからの教材選定においても大いに役立つと評価される。