36
生活環境学研究 No.8 2020アトリエ併設型ショップの提案
ー持続可能な生産・販売システムー
キーワード:ショップ提案,ブランド企画,サステナビリティ,衣服制作
北井 結実子
[指導教員:武庫川女子大学准教授 坂口 建二郎]
1. 研究の背景と目的 我々は衣服に対してどれだけのお金を使うだろうか。近年 はトレンドを取り入れながら,安く早く衣服を提供できる ファストファッションが溢れ,人々は衣服にお金をかけなく なってきている。流行を追い求めただけの似たような衣服が 店頭に並び,それを使い捨てのように着用してはすぐに着な くなり手放してしまう。現在のアパレルメーカーは,それを 前提に大量生産を続ける。筆者は日本の衣服の質が低下し, 衣服を着用することについての考え方が希薄になってきてい るように感じる。 多くの人が企画からデザイン・パターンなどに携わり,一 つずつ人の手で縫製され,手間をかけて作られた衣服を大 切に扱ってもらいたいと筆者は考えるようになった。新しい ショップの在り方を提案することで,消費者の意識を少しで も変化させることができるのではないかと思い,この研究に 至った。 2. 研究の概要 2-1 アパレルの問題点 現在のアパレル業界では商品が売れ残り,在庫を沢山抱え ている企業が多い。ファストファッションは毎年9200万ト ンのごみを生み,毎秒ごみ収集トラック1台分の布地が捨て られているのだという。またファッションは,水の消費量が 2番目に多い産業である1)。また,縫製業者には低賃金しか 支払えず,国内の高水準の縫製技術は衰退している2)。 また,インターネットが発達し,衣服もECサイトで販売 することが主流になってきている。試着が必要な衣服の購入 を促すためにクーポンを配布したり,返品送料無料にしたり と簡単に購入できるようになったからこそ,衣服が雑に扱わ れやすくなったのではないか,と筆者は考える。 2-2 新しいアパレル しかし,これらの問題に対し危機感を覚え,様々な対策を とろうと試みている人たちもいる。企業は社会的責任を果た すためサステナビリティ3)やエシカル4)を掲げ,D to Cブラ ンド5)はその透明性を顧客に明示し大きく売り上げを伸ばし ている。これからのアパレルでは単純に服を作るだけでは太 刀打ちできなくなってきている。これらの問題を解決するに は何か特別な付加価値を商品以上に見出すことが大切になっ てくると考えた。また,アパレルの根本的な改善をするので あれば一人一人が手持ちの服を長く着ること,そして企業は 長く着ることのできる服を作ることが問題を解決する一番の 近道になる。 2-3 ブランド企画 このことから問題を解決するには①長く着用できる②生産 に対する透明性③無駄を減らす,の3つの要点が大切になっ てくると考えた。そこで筆者は,店舗内に衣服を制作できる アトリエを併設し,洋服のサンプルを春夏・秋冬でそれぞれ 20型のみ置く限定展開ブランドを提案する。店頭にはサン プルを展示し,受注生産性で在庫を持たず,併設されたアト リエで自分の購入する服が作られることで,生産に対する透 明性が付与される。また顧客のニーズに臨機応変に対応でき るため,一般的なアパレルブランドよりは返品が減ることが 予想され,衣服を大切にしたいと思う気持ちをたくさんの人 に持ってもらえるのではないかと考えた。 (1)ブランド名 「planta(プランタ)」 図1 planta ロゴマーク (2)ブランドコンセプト 「ミニマルモダンな暮らしを提案 し,ゆったりとした上質な生活をおくる」。ミニマルであり ながらもどこかモダンな雰囲気を醸し出し,シンプルな中に 生活に馴染むデザインを入れ込む。 (3)ターゲット 20代後半から30代女性 (4)ショップ構成 出店エリアは神戸元町に路面店で構え る。店舗の広さは90㎡である。その面積の半分以上はアト リエが占める。アトリエは店の外からも店内からも見える ように設計されており,実際に縫製している様子が客から見 えるようになっている。外を歩く歩行者には主にミシンが見 え,店内からはアイロン台が見えるよう配置し,興味を引き 立てる構造にする。 図2 店舗構成イメージ 卒 業 研 究 要 旨 ( 制 作 ) 04_卒業研究要旨.indd 36 04_卒業研究要旨.indd 36 2020/12/07 11:462020/12/07 11:4637
生活環境学研究 No.8 2020 3. 制作 過去5年間の神戸の気温から,カットソーからアウターま での20型の企画を行い,うちタートルネックセーター以外 の19着の制作を行った。制作時間を計測,費用を記録し, 販売価格は時間と費用から換算した。商品のプライスタグと ルックブックに時間と費用を記載することで,ここでも生産 に対する透明性を示す。デザイン面でもパーツ数を減らすこ とで生産時間を短縮し,シンプルな中にも生活に馴染むディ テールを取り込んだ。客のニーズに合わせることができるよ うに,デザインやパターンの面でもデザイン変更しやすい形 に考え,企画した。 4. 結論 本研究の目的は,消費者に衣服を大切に扱ってもらえるよ うな意識変化が期待できる衣服を作り,ショップを提案する ことであり,実際の衣服の制作過程を可視化させたことや, ショップの新しい一つのあり方が,今後のアパレル業界や消 費者意識に影響を与えるものとしての有意性が感じられた。 しかしながら,現実的に考えると生産効率が悪く採算が取 れないことが感じられた。実際に提案するのであれば,企業 がポップアップストアとして仮設店舗を作り,利益目的では なくCSR 6)の活動の一環として行うことを考える。もしく は,マルチカテゴリーに手をつけるのではなく,一部の商品 に特化したものを取り扱い,固定の機材を使用することで, 生産クオリティや利益面でも向上が見込めると感じた。 図3 制作物完成写真 ECサイトがより便利になり,家を出なくても人と会話を しなくても物が購入できる今の社会で,あえて他人と会話し 時間をかけて商品を購入することで,人が他人のために働き 物を作っていることを改めて実感することができ,感謝や働 く喜びを感じられるのではないだろうか。 注及び参考文献 1) ZARA,大胆な新サステナビリティ目標を発表, https://forbesjapan.com/articles/detail/28631(2019/09/10) 2) ファッション史上最悪の事故から5年,バングラデシュは変わっ たのか, https://www.fashionsnap.com/article/Rana-Plaza-collapse-5years/(2019/09/10) 3) 社会や地球環境に対し持続可能なモノづくりをすること。 4) 環境,労働,社会問題に配慮した素材の選定や購入,生産,販売 をすること。 5) Direct to Consumerの略で,主にウェブ上で宣伝から集客,販売 まで行う顧客直結型の販売方法。6) corporate social responsibilityの略で,企業が利益を追求するだ けでなく,倫理的観点から事業活動を通じて自主的に社会に貢献 する責任のこと。 ・ 北山晴一:衣服は肉体に何を与えたか 現代モードの社会学,朝 日選書,1999 ・ 小島健輔:店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る, 株式会社商業界,2018 卒 業 研 究 要 旨 ( 制 作 ) 04_卒業研究要旨.indd 37 04_卒業研究要旨.indd 37 2020/12/07 11:462020/12/07 11:46