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人間環境科学の発展に神経科学はどこまで答えられるか

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Academic year: 2021

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メ\昆司王景土完本斗さき~aJ 多喜屋霊 6 こ干申*至不斗竺F:'まと、こま T士、 25 え ー ら オ1 る カ 〉 Neuroscientific approach to the aspects of human and environmental science 山 本 隆 宣 ( 帝 塚 山 大 学 ) Takanobu Yamamoto Key words; Stress/Fatique. Brain Serotonin. Homeostasis. Scientific Education 1 はじめに 近年の社会のスピード化、物質文明の優越化は人間そのものへの幸福に対する配慮を欠 如したものにしてしまっている。ある意味では学問は社会と深く接触しながら発展してい くことが必要であるのでこの時代にあってそろそろ人間とそれをとりまく環境との関連に ついて、問題点、の把握・解決する能力を養う学問分野があってもよいのではないか。そし てこれをスタートさせることは社会の要求に応えたものになるのではなし、かと考えます。 こうして人間環境科学がうぶ声を上げ多角的な学問視野から研究の糸口と「和」を見い出 そうとする試みは大変喜ばしいことであると考えます。 本研究所がアプローチしようとしている環境とは自然、社会、生命の3本柱を指してお り、著者は生命環境即ち、外界の人に対する働きかけ、変化が生体内(生命)環境に及ぼ す影響についてのメカニズムの解明が対処法にまで発展することを願ってやみません。 2 環 境 変 化 と 神 経 活 動 の 対 応 神経活動はまず外界の変化に対応していちはやく変化する部位です。いかに変化に対応 してホメオスタシス(恒常性)を維持して適応していくかが神経機能の重要な役割です。 現在社会に生きる私達はいつもストレスにさらされています。ストレスおよびそれをひ きおこす種々の要因がストレッサーですが、 20世紀初めにセリエというカナダの学者に より使われはじめた言葉で、す。セリエは生体がストレッサーにさらされると脳-副腎系が 冗進し、末梢に副腎髄質ホルモン(現在アドレナりンとして知られている)が放出され、 生体機能のたて直しにストレスに抗するための重要な反応であると予測していました。さ ら に 彼 は 脳 と 末 梢 組 織 を 仲 介 す る 物 質 と し て ス ト レ ス 時 に 放 出 さ れ る 副 腎 皮 質 ホ ル モ ン ( 現在 A C T Hとして知られている〉の存在もすでに推測していました。もしこの一連の反 応がなければ生体はストレスに抗することなく、死に至る結果を招くことになります。今 では日常生活でアドレナリンが出たということはストレスを感じたと同義語に使われてい るくらい、人々に理解されるようになりました。 図 1に生体のストレス反応を要約しました。ストレスを感じるとまず脳神経系が、次い で自律神経系が反応します。これに最近重要項目として新しくつけ加えられたのが免疫系 の反応です。この分野は現在のバイオサイエンスの最大のトピックスであり、とくにサイ トカインという物質の存在とその役割に注目があつまっています。遺伝子工学の高度な技 術の導入によって、次々と新しいサイトカインの単離と細胞・分子レベルでの役割につい

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広竺

3

副腎皮質 交 感 神 経 系 免 疫 系 副腎髄質

副腎皮質ホルモン アドレナリン放出 ノルアドレ (グルココルチコイド)ノルアドレナリン放出ナリン放出 エンケファリン放出 図1 ストレッサーと一連のストレス反応 ての新事実が見い出されてきており、将来この方面を中心に新しい生体反応系の研究が展 開されるでしょう。 3 日本神経科学学会の設立 平 成3年 7月に新たに日本神経科学学会が設立されました。これは神経のメカニズムに 関して幅広い視野・領域からアプローチし、神経機能を総合的に調べようとしているから です。これまで神経の研究といえば医学の生理系の領域(生理学、解剖学、薬理学など) からのものが主流でした。しかしコンビュータ科学の進歩により、これをバイオサイエン スに応用した生物・生体工学からの神経研究も盛んに行われるようになってきました。さ らに、バイオテクノロジーの進歩は神経を遺伝子学的に解析しようとする(遺伝子生物学) 方向へ導きはじめました。一方、神経科学へのアプローチは情報科学、生物科学、生物物 理学、心理学、体育学からも盛んになされるようになって、それぞれの観点から神経活動 における重要なそして価値あるデータを提供してきています。これらの分野が一同に会す る神経科学学会の会場は圧巻です。世界では米国に全米神経科学学会(Society for Neuro science)という日本の 10倍相当の大規模な学会がすでに設立されており、もう 2 2年の 歴史があります。年々発表者数が増えて(現在では 1万70 0 0人くらいの参加者にまで ふくれ上がっている)、発表の審査が年々厳しくなっています。当然発表分野も日本のそ れよりももっとバラエティーに富んでいます。他の分野から異なった発想や意義を学びと る機会に恵まれます。神経科学という複合領域の誕生は最近の急速なそして多様化した学 術研究の発展と学問分野の変化の典型的な例であり、この意味で人間環境科学も又、可能

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性を持っていると考えます。 4 神経薬理学及び神経化学的テクニックを使って生命と環境との関わりを科学すること 1 ) ストレスと視床下部ノルアドレナリン 神経細胞間の情報伝達は神経伝達物質を介して行われます。現在までモノアミン系、コ リン系、アミノ酸系などの分類とともに3 0種類以上の神経伝達物質が同定されています。 神経細胞は伝達方向にその長い軸索を伸ばしてその末端に神経伝達物質を貯蔵しています。 この貯蔵する伝達物質の種類により神経の名前が代わってきます。もし、ストレスなどの 刺 激 が 外 部 か ら 加 え ら れ る と 末 端 部 か ら 神 経 伝 達 物 質 が 放 出 さ れ て 神 経 細 胞 聞 の す き ま ( 間隙)に出て次の神経細胞膜上(レセプタ一部位)に結合します(図 2)。 神経インパルス 軸索

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ー 今 神経伝達 物質

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アミノ酸 シナプス

情報の伝達方向 図 2 脳神経系における化学伝達物質のプロセスとその調節にかかわる物質 アメリカのキッシンジャー博士は 1970年代にこの放出された神経伝達物質の量を誰に でも簡単に測定できる高速液体クロマトグラフィー電気化学的検出器を考案し、世界にま たたくまに普及するようになりました。神経伝達物質量の増減から数多くのインフォメー ションが得られるわけです。 ストレスがかかると脳内の神経はどう反応してそれは生体にとってどんな生理的意味を もっているのか大変興味あることです。 強制水泳ストレスというストレス負荷を動物にかける方法があります。しかしこれはス トレスの他に水泳という運動が加わっているので本当にストレスかどうかとてもむずかし いところです。そこで著者は水泳に慣れさせた(ストレス除去した)ラットとの脳内神経 伝達物質の動態を調べました。結論的にはストレス時に克進することがわかりました(表 1) 1)

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表1 ストレスおよび運動時の脳内モノアミンの変化の比較 (山本ら:体力科学 37(6). 1988年より) ス ト レ ス (2 h) ノルアドレナリン 大脳皮質 増加 線 条 体 視 床 下 部 著増 ドーパミン 大 脳 皮 質 線 条 体

*

視床下部 増加 セロトニン 大脳皮質 線 条 体 下公 視床下部 ヒスタミン 大脳皮質 線 条 体 視床下部 :変化なし 一 一 大 : プ ロ ベ ネ ン ド 処 置 ラ ッ ト で も 変 化 な し 運 動 (2 h) 増加 著 減 増加 増 加 増 加 一方、強制水泳への適応ラ y ト(運動負荷ラット)は線条体内のセロトニンとドーパミン 機能が抗括的に変化し、同じ水泳行動実験でありながら、明らかにストレス時とは異なる メカニズムを見い出しました。なぜストレス時の神経活動とくにノルアドレナリン神経活 動 が 視 床 下 部 に 働 き か け る 必 要 が あ る の か ? これは視床下部に多くのホルモン(ペプチ ドホルモン)を有しているのでノルアドレナリン神経の役割が存在していると理解したの です。 2 ) 身体・精神疲労と脳セロトニン神経 ストレスのくり返しから生じる疲労の研究も人間環境科学の大切な研究分野です。最近 精神(中枢)疲労および身体疲労に脳内セロトニン神経が関係するセロトニン仮説が提唱 されてきていますと)。著者は現在共同研究で(Department of Biochemistry. University of OXFORD; Dr. E. A. Newsholme)外科的手術などのヒトの極限におかれたストレス下で血し

ょう中free tryptophanが著明に上昇する事実を見い出したわこの free tryptophanは脳血 液関門を自由に通過して脳内でセロトニン(図3)を増やす(合成する)前駆物質なので、 脳内セロトニン神経の冗進がおこります。 serotonln

CH2CH2NH3+ セロトニン 図3 セロトニンの化学構造式

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そ し て こ の 元 進 は 手 術 後 の 中 枢 疲 労 を 引 き 越 こ し て い る 原 因 で は な い か と 著 者 ら は 推 測 し て い ま す 。 こ の 事 実 よ り 、 も し 脳 血 液 関 門 に て 競 合 す る 分 枝 鎖 ア ミ ノ 酸 を 生 体 内 に 投 与 し ておけば、 free tryptophanの脳内流入が抑えられて、中枢疲労が軽減するかもしれないと 考えています。 今 後 、 直 接 の 脳 内 薬 物 投 与 に よ る セ ロ ト ニ ン 神 経 及 び そ の レ セ プ タ ー へ の 特 異 的 、 選 択 的 操 作 な ど 神 経 薬 理 学 的 な 方 法 に よ り 、 一 層 証 拠 を 固 め て い く こ と が 研 究 課 題 と し て 残 さ れています。 5 神 経 科 学 を 通 じ て 学 生 に 生 命 と 環 境 と の 関 わ り を 実 証 科 学 的 に 学 習 さ せ る こ と 著 者 は 試 み に 環 境 生 理 学 演 習 ストレスと脳、そのメカニズムを分子レベルで探る を 開 講 し て 学 生 と と も に 一 年 間 実 験 教 育 を 行 っ た 経 験 を も っ て い ま す 。 半 分 は 生 理 学 の 基 本 学習に時間を裂きましたが、のこり 6カ月充実した実験が施行できました。ある者はラッ トを 30分 間 、 寒 冷 暴 露 (4

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)

にさらすストレスを行い、視床下部を摘出し、そのドー パミン(図 4) 含 量 の 変 化 を 測 定 し ま し た 。 又 あ る 者 は ヒ ト を 寒 冷 下 に 3 0分間暴露させ、 さ ら に 精 神 活 動 ( コ ン ビ ュ ー タ 操 作 の 作 業 を さ せ る ) の 負 荷 を か け さ せ 、 そ の 後 の 尿 中 の ノルアドレナリン (NA) とアドレナリン (AD) (図 4)を微量定量しました。 dopamine HO HO

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2CH norepinephrine HO HO

1HC削 H3 OH epinephrine H q f H 3 HO

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HC附 H2+ OH ドーパミン ノルアドレナリン アドレナリン 図4 モノアミンの化学構造式 図5と図6はそれぞれ学生たちが正確な測定に成功したクロマトグラムを示します。 学 生 た ち は 実 際 に 実 験 を 進 め て い く と 「 絵 に 書 い た モ チ 」 の よ う に 事 が な か な か 進 ま な いことを実感したようです。ある者は被検者集めに苦労し、その承諾に又気を使い果たし、 あ る 者 は 分 析 途 中 で 貴 重 な サ ン プ ル を ミ ス し て し ま っ た 者 、 そ し て デ ー タ 結 果 の 解 釈 に つ

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⑤ ③ ⑥ の スタンダード

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. .-、可=こ二コントロール③ L一 (表 111) 視 床 下 部 1gのDAの濃度 コントロール群 ストレス群 ① 24. 90 nmo 1/ g ④ 19.75 nmo1/g ② 36.01 nmo1/g ⑤ 23.58 nmo1/g ③ 52.14 nmo1/g ⑥ 24.18 nmo1/g 図 5 ラy ト へ の 寒 冷 暴 露 時 の 視 床 下 部 ド ー パ ミ ン 含 量 変 化 の ク ロ マ ト グ ラ ム

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被 研 者2 採 尿 ①

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図 6 コ ン ビ ュ ー タ 作 業 前 後 に お け る 尿 中 ノ ル ア ド レ ナ リ ン (NA) と ア ド レ ナ リ ン (A D)の ク ロ マ ト グ ラ ム 。 脳 神 経 活 動 は や が て 交 感 神 経 ( 末 梢 神 経 ) の 興 奮 と 副 腎 髄 質 機 能 の 克 進 を ひ き お こ し 、 そ れ ぞ れ の 部 位 か ら ノ ル ア ド レ ナ リ ン 、 ア ド レ ナ リ ン が 放 出 さ れ て 血 中 に 入 り 、 腎 臓 を 経 て 尿 中 に 排 出 さ れ る 。

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いても増加するものだと思いこんでいたのに減少を示し(図5) 、 悩 ん だ 者 。 と く に 最 後 の ケ ー ス は 仮 説 を た て て そ の 通 り の 結 果 が 出 な い 時 こ そ 重 要 な 生 命 の メ カ ニ ズ ム の 真 実 が か く さ れ て い る こ と に 気 づ く の で あ っ て 、 実 証 科 学 教 育 は 問 題 解 決 学 習 を 体 験 さ せ る 最 適 の教育方法であることを思いしらされました。 6 むすび ストレス時、疲労(身体及び中枢疲労)時の生命環境に及ぼす影響を神経科学の観点か ら研究することは、人間環境科学の発展に寄与できうる。その理由は近年のストレス社会 に 対 処 す べ く 科 学 的 な 知 恵 を 習 得 で き る 。 そ し て そ の 分 子 レ ベ ル で の メ カ ニ ズ ム 解 明 は 予 防、治療へ発展する可能性をもっ。さらに実証科学教育は問題解決学習を実感的に体得さ せうる特徴を有している。 7 文献 1 ) 山 本 隆 宣 、 体 力 科 学 (1988) 、 3 7 (6) 0 2) Blomstrand. E et a1..Acta Physio1. Scand. (1989). 136.

3) Yamamoto. T & Newsholme. E. A et a1.. Intensive Care and Emergency Medi-cine (1993). Abstract (in press).

8 Conclusion

10 study effect 00 homeostasis in human body during stress/fatique. by using neuropharmacology and neurochemistry. could be contribute to progress.of human and environmental science. In these reason. first. we can get the abi 1 i ty of resolution for the recent stress society using biological and physiological knowledge. Second. investigation of physiological mechanisms of stress/fatique have been present the scientific data to prevention and treatment for stress/fa-tique. Furthermore. practise education of biological science for the students are very valuable step that they are able to experiences with feeling in learning of the problem and i t' s resolution.

表 1 ストレスおよび運動時の脳内モノアミンの変化の比較 (山本ら:体力科学 3 7 ( 6 ) . 1 9 8 8 年より) ス ト レ ス ( 2 h)  ノルアドレナリン 大脳皮質 増加 線 条 体 視 床 下 部 著増 ドーパミン 大 脳 皮 質 線 条 体 視床下部 増加 *  セロトニン 大脳皮質 線 条 体 下 公 視床下部 ヒスタミン 大脳皮質 線 条 体 視床下部 :変化なし 一 一 大 : プ ロ ベ ネ ン ド 処 置 ラ ッ ト で も 変 化 な し 運 動 (2 h) 増加著 減

参照

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