1.研究の経過と課題意識
(1)研究の経過 ①「ふきだし法」について 「ふきだし法」は、ノート指導と板書法、内 省的記述による教材研究、指導と評価の一体化、 カウンセリングマインドによる子どもとの関わ りをトータルに構想した授業デザインである。 (亀岡 1990、1992、1994、1996、1999)この指 導法の「ふきだし」記述は内省的記述表現活動 と位置付けられ(二宮 2009)、その指導法的意 義についてメタ認知的支援の観点から考察を加 えてきた。(亀岡 2009、2010) ②メタ認知的支援について 自立学習への認知心理学知見による支援法の 一つとして、認知カウンセリングの手法が開発 されており、面談・相談・指導を通じて、メタ 認知を育成する個別支援の在り方が提起されて いる。(市川 1991)そこではⅰ.自己診断:「ど こが/何がわからないのか」を表現させる ⅱ.仮想的教示:概念や方法を、知らない人に 教えるつもりで表現させる ⅲ.診断的質問: どこまでわかっているかを試すための質問を用 意する ⅳ.比喩的説明:概念の本質を比喩で 説明する ⅴ.図式的説明:概念間の関係を整 理して図式化する ⅵ.教訓帰納:「なぜ解け なかったのか」という教訓をひきだすことを促 す という技法が検証されている。また、授業 後の学習感想(算数作文)の分析から、メタ 認知の働きと知識変容のプロセスは、重松 et al.(2002)により明らかにされており、勝美 (2007)は、学習状況の変化には、子どもの認 知活動を制御するメタ認知が重要な役割を果た していること示唆している。 ここでは、子どもの「メタ認知形成」にかか わる支援を「メタ認知的支援」と定義する。 ③ メタ認知的気づきのある(metacognitively aware)教授法 メタ認知は、「メタ認知的知識」(認知につ いての知識)と「メタ認知的活動(経験)」(認 知のプロセスや状態のモニタリング及びコント ロール)に分類される(三宮 1996)。 算数・数学の学習の不振には、メタ認知的要 因が多く影響しているとされる(重松 1994) ことから、算数学習の授業デザインとして、い かにして「メタ認知」を形成させていくかとい うことが課題となる。 「メタ認知技能は、熟達した活動の中ではふ つうは目に見えない潜在的なものである。従っ て、メタ認知技能とその使い方を教えるために は、教授者はメタ認知を目に見える明示的なも のにする必要がある」(ブルーアー「授業がか算数科におけるメタ認知形成方略としての
「ふきだし法」に関する研究(1)
― プロセスレコードによるメタ認知形成過程の考察 ―
亀 岡 正 睦・神 保 勇 児
論 文
わるー認知心理学と教育実践が手を結ぶとき」 1997)と指摘される知見によると、「ふきだし 法」は、認知のプロセスや状態のモニタリング 及びコントロールについて、簡便にメタ認知を 可視化することのできる「メタ認知的気づきの ある(metacognitively aware)教授法」(ブ ルーアー 前掲書による)であると意義づける ことができる。 (2)課題意識 ①ロジャーズの「意味のある学習」 C.R.ロジャーズは臨床心理学的知見を教育 の場に応用し「意味のある学習」が成立するた めのクライエントの心理療法的変化の条件とし て次の 5 つを挙げている。ⅰ.問題への直面、ⅱ. 一致、ⅲ.無条件の肯定的配慮、ⅳ.共感的理 解、ⅴ.セラピストの一致と受容と共感のクラ イエント側の認知。この 5 つの観点と「ふきだ し法」の関連性については、亀岡(2011)で考 察したが、子どもと教師のメタ認知形成に着目 した、双方の自己覚知の過程の捉えの実証は未 着手であった。本研究では、次のようなモデル 図を提案しプロセスレコードによって考察を加 えるものである。 ② 「ふきだし法」によるメタ認知形成モデル 図(図 1 モデルⅠ・自力解決場面) ③プロセスレコードについて プロセスレコードは、看護学の研究者 E. ぺ プロウが、看護士の患者との相互作用過程を振 り返る技法として創案したもので、臨床経験を 省察することによって、患者との「あいだ」の 間主観性的な場(山口 2004)において成立す る相互関係の意識化過程の記録様式である。こ の技法は、看護臨床のみならず、教育実習の省 察にも効果をあげている。山口らはプロセスレ コードのリフレクションアスペクトとして(ⅰ) 対象・状況に関する振り返り、(ⅱ)自己の意 識・行為に関する振り返り、(ⅲ)自己と対象・ 状況との関係性に関する振り返り の 3 つを提 出している。(山口 et al.2007) 本稿では、この手法を算数指導の場面に応用 し、教師のメタ認知と、児童のメタ認知形成と ඹឤⓗ⌮ゎࡢ⎔ቃ ࣓ࢱㄆ▱ⓗᨭ ⮬ᕫぬ▱ࡢ ᩍᖌࡢ⮬ᕫぬ▱ 㐣⛬ ᩍᖌ ᩍᖌࡢ࣓ࢱㄆ▱ ᙧᡂ Ꮫ⩦⪅ࡢ ࣓ࢱㄆ▱ ᩍᖌࡢ୍⮴ ᙧᡂ ࡩ ࡁ ࡔ ࡋ ࡼ ࡿ ෆ ┬ⓗグ㏙⾲⌧ ┬ ᭩ࡃ グ㏙⾲⌧ࡢኚᐜ࣭ቑຍ ඹឤⓗ⌮ゎࡢ⎔ቃࡢ୰࡛ ࠕࡩࡁࡔࡋグ㏙ࠖࡣࠊ࣓ࢱ ㄆ▱ࢆྍどࡋࠊᏛ⩦⪅ ⮬ᕫぬ▱ࢆಁࡍྠࠊ ᩍᖌࡢࠕ୍⮴ࡋࡓ࣓ࠖࢱㄆ ▱ᨭࢆಁࡍࠋᩍᖌࡀ࣓ࢱ ㄆ▱グ㏙ࢆཧ↷ࡍࡿࡇ ࡼࡗ࡚ࠊෆ┬ⓗグ㏙⾲⌧ ࡀኚᐜࡋ࣓ࢱㄆ▱ࡀᙧᡂ ࡉࢀࡿࠋ 図 1 モデルⅠ・自力解決場面
のかかわりを明らかにしようとするものである。 授業場面で、メタ認知の形成に課題のあると 思われる児童に着目し、可視化された「ふきだ し記述」というメタ認知に関して(a)指導状 況の振り返り (b)教師の意識と行為の振り返 り(c)教師自身の自己と児童との関係性の振 り返り を促す中で、子どもと教師の自己覚知 の過程がレシプロカルに影響しあい、メタ認知 形成に良い影響を与えるのではないかという仮 説の検証を試みる。 ④ 進行モニタリングシステムとしての「ふき だし法」 上田・勝美・重松(2012)は、算数作文の赤 ペン指導とメンターの活動によるメタ認知形成 と教師の指導観の変容を検証し教師の指導観変 容システムを提案している。岡本(2001)は、 モニタリングを機能的な側面から、課題を遂行 している最中のモニタリング(進行モニタリン グ ongoing monitoring)と課題が修了した後 に自己の認知活動を振り返るモニタリング(反 映モニタリング reflective monitoring)に分 類し、熟達化において重要なのは、進行モニタ リングによって得られるメタ認知である知見を 得ている。本稿では、「ふきだし法」はリアル タイムな進行モニタリングが内省的記述表現に よってなされ、学習者、指導者ともに意識化で きる特性を生かし、子どもと教師の「メタ認知 形成方略」という視点から、子どもの自力解決 場面での関わりを中心に分析しようとするもの である。
2.研究の目的
算数科の問題解決場面において課題のあると 考えられる子どものメタ認知形成過程を、「ふ きだし法」によってリアルタイムに関わりを進 め、プロセスレコードによって教師のメタ認知 形成・自己覚知によってなされる支援と評価の 最適化に関して考察を加える。3.研究の方法と内容
(1)対象児童 対象児童は国立大学附属小学校第 4 学年の 児童 1 名である.内省的記述表現の苦手な児童 M児を対象とした。М児の算数科における学 力は、下位層にあたりこれまでの筆算の学習に おいても、定着していない。メタ認知形成と問 題解決力を観点として、M 児を対象とした経 緯を以下に示す。ここでは、前単元「わり算の 筆算」学習(2012 年 6 月 19 日、25 日)につい て、学習をした際の問題、M 児のふきだし記述、 解決過程を示す。(図 2、3) 2012 年 6 月 19 日 734 まいの色紙を 5 人で同じ数ずつ分けます。 1 人分は何まいで、何まいあまりますか。 図 2 の M 児のふきだしは、「あまりますか だからあまりがつく。」 と「ふとったけいさん」 と書かれてある。まず、M 児は問題文の「1 人 分は何まいで、何まいあまりますか。」の「あ まりますか。」に着目し、「あまりますかだから、 あまりがつく」というふきだしを書いた。問題 図 2 実践前のふきだし 2012 年 6 月 19 日(M 児)文から、問題から余りがあることを把握してい ることが分かる。次に、M 児は筆算について、 これまで学習 2 けたの筆算に比べて 1 桁多く なっていることから、「ふとったけいさん」と いうふきだしを書いた。いずれのメタ認知も、 解法に向かう方略決定には到っていない。また、 自力解決場面では筆算や立式による解決は見ら れなかった。次に、次時である 2012 年 6 月 25 日の記述である。 2012 年 6 月 25 日 256 まいの色紙を 4 人で同じ数ずつ分けます。 1 人分は何まいになりますか。 図 3 では「あまりがないからかんたんそう」 と「枚を最後につける」とのみ記述されている。 「かんたんそう」は、見通しの萌芽ともいえる メタ認知が生まれ始めている。 M児のわり算の筆算の問題で書いたふきだ し記述では、筆算のアルゴリズムを獲得してい く思考過程、問題解決につながる方略のメタ認 知は見られなかった。このような M 児の思考 に着目し、本実践では、「倍」の小単元での M 児のふきだしに表れたメタ認知の形成過程をプ ロセスレコードによって考察する。 (2)手続き 倍の学習における、M 児のふきだしの形成 過程と変容を見取り、教師の関わりにより、問 題解決に必要な思考を獲得していく過程をプロ セスレコードから分析する。 〔指導計画〕 小単元の指導計画は以下の通りである。 第 1 時:倍を求める場合に除法を用いる 第 2 時:比較量を求めるには乗法を用いる 第 3 時: 基準量を求める場合には除法を用いる (3)研究の結果 2012 年 6 月 26 日、7 月 2 日、3 日 の 学 習 に おける M 児のふきだし記述の変容は以下の通 りである。図 3、4、5 の①から⑤の番号は M 児に確認をとり、ふきだしをノートに書いた順 番に教師が番号を付けた。 まず、2012 年 6 月 26 日、第 1 時の問題と M 児のふきだし(図 4)である。第 1 時では以下 の問題を扱った、 2012 年 6 月 26 日 親のクジラの体長は 15m です。 子どものクジラの体長は 5m です。 親のクジラの体長は子どものクジラの体長の 何倍でしょうか。 机間支援の際に、教師が M 児の書いたふき だしを確認すると、既に①、②、③のふきだし をノートに書き終えていた。 ① 15 ÷ 3 をすればいいの。 ② あまりがない。 ③ 親のほうがこどもより、12 mも大きい。 ふきだし①、②から M 児のわり算を使って 解決を図ろうとしている様子がわかる。しか し、①のふきだしは「15 ÷ 3 をすればいいの。」 と間違えており、本来立式する 15 ÷ 5 でない。 また、③では体長の差を求めている。 M 児は ①から③までのふきだしを書いた時点で、思考 図 3 実践前のふきだし 2012 年 6 月 25 日(M 児)
が進まない様子である。そして、具体的な解決 方法には至っていないことが、プロセスレコー ド(表 1)の からもわかる。また、教師が 考えたことや教師の言動から、教師は M 児の 様子を見て、M 児に問題文をもう一度見させ、 式を考えさせようとし、 のように声をかけ た。ただ、分析と考察にもあるように、ここで は作図させるべきであったと考えられる。それ は、 で M 児の様子に変化が見られなかった ことや、 の言動からもわかる。 そこで、 では教師は M 児に図をかき解決することを助 言として行ったと考えられる。 表 1 から、教師は M 児に方略に関する具体 的な指導が必要であることを考えている。それ は、M 児に対する教師の言葉がけが、具体的 に方略を示そうとしているからである。教師は、 の前に「声かけが具体的ではなかった。M 児の思っていることを聞こう。」、「親と子ども の体長の関係がわかるように、図でかかせてみ よう。」と、具体的に方略を M 児に示し解決さ ノートの様子 子どもの言動 教師が考えたこと 教師の言動 分析と考察 ふきだしの③ま でかいている ふきだしを③ま でかき、止まって いる。 ①で 15 ÷ 3 としてい る が、 ③ で 親 と 子 ど も の 体 長 の 差 を 出 し ている。問題文に戻っ て考えさせよう。 「 何 倍 で す か 」 だ か ら、 何 倍 か わ か る よ う に し て い け ば い いんだよね。 声をかけが不十分であっ た。M児は既に、どうすれ ばいいかわからない状態 だからである。ここでは 作図させるべきであった。 声を小さくして うなずき、また止 まってしまう 声 か け が 具 体 的 で は なかった。M児の思っ ていることを聞こう。 どうしたの? M児の思いから、方略をう ながした方がM児にとっ て解決がしやすくなる。 「この後、どう したらいいか、浮 か ば な い。」 と、 困っている。 親 と 子 ど も の 体 長 の 関係がわかるように、 図でかかせてみよう。 じ ゃ あ、 図 に か い てみるといいね。 数直線をかかせるような 声かけの方がより具体的 で、M児にとっては解決 がしやすいと考えられる。 ④と⑤をふき だしに書く。 うん。明るい様 子で答え、数直線 をかいた。 よ か っ た。 少 し ず つ 解決に向かっている。 M児の数直線は、目盛 りの間隔が適切でない。 親が子どもより大きいと しか、捉えられていない。 わ か っ た。15 ÷ 3 でいいんだ。 式 が き ち ん と 出 せ て よかった。 答 え も し っ か り 見 直しておこう。 目盛りの間隔に着目する ことで、親が子どもの 5 倍であること気付くこと ができる。 表 1 「ふきだし法」プロセスレコード 2012 年 6 月 26 日(M 児) 㸯 㸰 㸱 㸲 㸳 図 4 授業後のふきだし 2012 年 6 月 26 日(M 児)
せようとしている。ただし、M 児のかいた数 直線は、目盛りの間隔が適切でないので指導を 行うことが適切であると考えられる。 また、⑤「前のわけるやりかたは、できな い。」について M 児は、前時である 2012 年 6 月 25 日の学習で等分除の問題を解決したこと を想起している。256 枚の色紙を 4 人で同じ数 ずつ分ける解決の仕方と、親のクジラの体長は 子どものクジラの体長の何倍かを求める解決の 仕方に、M 児は解決方法の違いを感じている。 そして、ふきだしの①から④を振り返り、「前 のわけるやりかたは、できない」と意識したと 考えられる。 また、教師の言動も、M 児の思 考過程を探りながら、M 児に対して方略に関 するメタ認知形成に必要な具体的な支援へと変 化していることがわかる。 2012 年 7 月 2 日 子どものキリンの身長は 180cm で、親の身 長は子どもの 3 倍です。 親の身長は何 cm ですか。 ① 400 いじょう 500 いか ②前回は÷ざんだけど、今回は×ざん。 ③(子どもと親のキリンの関係を表す数直線) ④ 180 × 3 = 5940 図 6 ③の M 児のふきだし(2012 年 7 月 2 日) 机間支援の際に、教師が M 児の書いたふき だしを確認すると、M 児は既に①、②、③の ふきだしをノートに書き終えていた。しかし、 第 1 時と異なる点は、①で答えの予想をしてい ること、②演算決定をしていること、③演算の 根拠を表す数直線をかけていることである。M 児は①のふきだしを書いた時点で、答えの見当 をしていたと考えられる。 ふきだし①、②、③から、M 児が演算決定 をしていることがわかる.しかし、ふきだしの ④で答えを間違っているため、演算結果を見直 す指導が必要であろう. また、M 児が自分の考えをどうまとめたら いいかわからない様子であったことから、教師 は自分の考えをノートに書けるような指導が必 要であると考えた。教師は M 児に、思考過程 の記述の仕方を示した。これは、M 児の記述 表現活動に対して、メタ認知を形成するための 支援をしている瞬間ととらえる。 図 5 ④のふきだし 2012 年 6 月 26 日(M 児)
第 2 時における教師のメタ認知的支援は、表 2 の分析と考察の「 をふきだしにして M 児 の思考過程をノートに書かせる」や「解決方法 を考える手順としては、わかっていることを 1 つずつ確認する」にも表れている。第 2 時の教 師のメタ認知的支援は第 1 時に比べ、M 児に 内省的記述表現活動を促している。 最後に、 2012 年 7 月 3 日、第 3 時についてで ある。この学習では、除法を用いて基準量を求 める。問題は以下の通りである。また、図 7 は 授業で M の書いたふきだし記述である。 2012 年 7 月 3 日 親のヒョウの体重は子どものヒョウの体重の 6 倍で 72kg です。 子どものヒョウの体重は何 kg ですか。 図 7 月日 ノートの様子 子どもの言動 教師が考えたこと 教師の言動 分析と考察 7 月 2 日 ①から③までの ふきだしをかけ ていた。 前 回 よ り も 図 ま で か け る よ う に な っ て い ることをほめたい。 今 日 は、 図 ま で し っ か り か け て い るね。 うん。嬉しそ うな表情をして いるが、すぐに ノートを見て止 まってしまう。 さ っ き は 気 付 か な か っ た が、 図 を か い た 後、 ど う す れ ば い いか、迷っている。 どうしたの? どうまとめた らいいかわから ない。 ま ず は、 わ か る こ と か ら か い て み よ う。 こ の 図 を み る と、 式 は わ か っ て そ う だ ね。 ど ん な 式 に な る か わ か るかな。 をふきだしにして M・Iの思考過程を ノートに書かせるべ きであった。 ⑦をふきだしに してノートにか かれた。 ⑦ 180 × 3 な る ほ ど、 式 と 答えがわかったね。 今みたいに、わかっ て い る こ と を 書 い た り、 途 中 で 文 章 や 式 が 終 わ っ て し まってもいいから、 思 い つ い た こ と を 書 い た り す る と い いね。 解決方法を考える手 順としては、わかっ ていることを 1 つず つ確認する方が簡単 である。
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表 2 ふきだし法プロセスレコード 2012 年 7 月 2 日(M 児)①さいごに㎏がつかないといけない。 ② 72 ÷ 6 ③ ぜんかいは×ざんだけどこんかいは÷ざん。 ④(子どもと親のヒョウの関係を表す数直線) ⑤ 72 ÷ 6 =?こたえがでる。 図 8 ③の M 児のふきだし(2012 年 7 月 2 日) 教師が机間支援の際に、M 児の書いたふき だしを確認すると、既に①から⑤のふきだしを ノートに書き終えていた。 また、第 2 時と同様、演算決定をして、答え を求めることもできていると考えられる。教師 は M 児の演算決定に至った経緯を確認すると、 M児は数直線をもとに、親は子どもの 6 倍に なっていることから、6 でわると演算決定した 経緯を話すことができた。 第 3 時における教師のメタ認知的支援は、表 3 の分析と考察の「 をふきだしにも書かせて おくと、M 児の思考過程を具体的にノートに 残すことができた。」とあるように、M 児に内 省的記述表現活動を促している。
4.考察
「ふきだし法」は、子どものメタ認知がリア ルタイムに内省的記述として表現される大きな メリットがある。今回の研究では、その「ふき だし記述」=内省的記述表現 が生まれる瞬間 をメタ認知の形成過程ととらえ、問題解決力に 課題のある子どもへのメタ認知的支援の在り様 を考察した。 月日 ノートの様子 子どもの言動 教師が考えたこと 教師の言動 分析と考察 7 月 3 日 ①から⑤までの ふきだしがかい てあった。 前 回 と 比 べ て、 図 や 式 も ふ き だ し に し て 書 い て あ る。 で き る よ う に な っ た こ と を ほめたい。 昨 日 に 比 べ て、 式 ま で 書 け る よ う に な っ た ん だ ね。 一 晩 で こ こ ま で か け る よ う に な っ た のはすごいな。 嬉しそうな顔 で こ ち ら を 見 る。 ど の く ら い わ か る よ う に な っ た の か 聞 い てみよう。 ど う し て、72 ÷ 6 になったの? 図や式でかけていて も、説明できない場 合 も あ る。 こ こ で、 M・Iに説明させた のはよかった。 数直線をみた ら、親は子ども の 6 倍になって い る か ら、6 で わ る と い い と 思ったから。 す ご い ね。 き ち ん と 説 明 ま で で き たね。 M・Iが立式までに 考えたことがわかっ た。 し か し、4 を ふ きだしにも書かせて おくと、M・Iの思 考 過 程 を 具 体 的 に ノートに残すことが できた。 表 3 ふきだし法プロセスレコード 2012 年 7 月 3 日(M 児)メタ認知的支援によって、M 児の内省的記 述表現は第 1 時と比較すると、第 2 時や第 3 時 では、解決への見通しや、前時との演算の違い に着目するなど、問題解決に向けた方略決定の メタ認知が形成されつつあることが分かる。 教師は M 児の「ふきだし」への直接的かか わりのみならず「ふきだし」を媒介としてメタ 認知や、M 児の様子をプロセスレコードに記 録することを通して反省的に振り返ることで、 教師の指導に関する自己覚知が促進され、より 最適な支援を模索しつつ子どもへの関わりを深 めっていったことが示唆される。 モデル図に示したように、「ふきだし」記述 を媒介とする教師と子ども相互の自己覚知過程 は、互恵的に教師と子どもの双方のメタ認知形 成を促していくものと考えられる。 本研究で得られた知見は次の 2 点である。 ①「ふきだし法」によって思考過程が可視化 され、学習者のメタ認知的気づきを促すととも に指導者側の子どもの思考に対するメタ認知的 気づきを促すことができる。 ②その学習者のメタ認知的気づきを、指導者 が把握し、反省的に関わることによって学習者 のメタ認知形成は促されると考えられる。
5.今後の課題
今回の研究で、「ふきだし法」で思考過程が 可視化され、その活動に指導者が認知カウンセ リング的かかわりを持つことによって、着目児 のメタ認知形成に影響を与えていることが明ら かになったが、実際の授業の中では、それぞれ の児童が、他の児童や教師との関係性の中で 様々なメタ認知的気づきが生まれ、内面にメタ 認知が形成されていっている。 本稿は、子どもと教師のメタ認知形成のメカ ニズムを自力解決の場面でプロセスレコードを 活用して考察した。今後は、問題解決型学習に おける集団解決場面においてのモデル図(図 9) も提出しつつ検証を深め、進行モニタリングに ついてメリットの多い「ふきだし法」のトータ ルなメタ認知形成方略としての授業デザインの 構築をめざしたい。また、形成されたメタ認知 をヒューリスティックの観点から整理し、より 有用なメタ認知的支援とはどのようなものであ るかについて考察を深めたい。 $ ඹឤⓗ⌮ゎࡢ⎔ቃ % Ꮫ⩦⪅ ᩍᖌࡢ୍⮴ ┦ὶ 3HHU /HDUQLQJ ࡩ ࡁ ࡔ ࡋ ࡼ ࡿ ෆ ┬ⓗグ㏙⾲⌧ ࡩ ࡁ ࡔ ࡋ ࡼ ࡿ ෆ ┬ⓗグ㏙⾲⌧ ⚾ⓗⓎヰ Ⓨゝ ⚾ⓗⓎヰ Ⓨゝ ᩍ ᖌ ࡢ ⮬ ᕫ ぬ ▱࣭࣓ࢱ ㄆ ▱ ᙧ ᡂ ࡼ ࡿ Ⓨ ၥ ࣭ ᣦ ♧ ࡢ ᭱ 㐺 Ꮫ ⩦ ⪅ ࡢ ⮬ ᕫ ぬ ▱ ࣭ ࣓ ࢱ ㄆ ▱ ᙧ ᡂ ࣭ ⪅ ࡢ ᛮ ⪃ 㐣 ⛬ ࡢ ྲྀ ࡾ ධ ࢀ ࣭ ෆ 㠃 ᭩ࡃ ┬ (図 9 モデルⅡ 集団解決場面)参考・引用文献
1.Carl R. Rogers 1957 The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change (Journal of Consulting Psychology vol.21、No2) 2.市川伸一 1995『現代心理学入門 3 学習と教育 の心理学』岩波書店 3.市川伸一 1995「心理学から見た数学教育」『心 理学者教科教育を語る』新しい教科心理学者の 会 北大路書房 4.上田喜彦 勝美義雄 重松敬一 2012「子ども の思考を生かした算数指導(27)- 授業における メタ認知的支援の具体化と授業改革―」第 94 回 全国算数・数学教育研究大会資料 5.岡本真彦 2001「メタ認知―思考を制御・修正 する心の働き」森敏昭編著『おもしろ思考のラ ボラトリー』北大路書房 所収 6.勝美義雄 2007「算数における児童の学習状況 曲線の開発とその分析」日本数学教育学会誌 89 巻 4 号 7.亀岡正睦編著 2009『算数科:言語力・表現力を 育てる〈ふきだし法〉の実践∼算数的活動と思 考過程記述のアイデア∼』 明治図書 8.亀岡正睦 1990「算数科教育における〈ふきだし法〉 の理論と展開」大阪教育大学数学教育研究 第 20 号 9.亀岡正睦 1992「〈ふきだし法〉による個への対応 に関する研究Ⅰ」日本数学教育学会誌 第 74 巻 第 4 号 10.亀岡正睦 1996「〈ふきだし法〉による指導と評 価の一体化に関する研究」日本数学教育学会誌 第 78 巻 第 10 号 11.亀岡正睦・船越俊介 1999「算数科における〈ふ きだし法〉の指導法的意義についてⅠ」神戸大 学発達科学部 人間発達学科児童発達論講座 児童発達論研究 第 2 巻 12.亀岡正睦 2009「算数科における「ふきだし法」 の指導法的意義についてⅡ∼自己概念の形成・ 変容過程と「ふきだし法」∼」神戸親和女子大 学「児童教育学研究」第 28 号 13.亀岡正睦 2010「算数科における「ふきだし法」 の指導法的意義について Ⅲ ∼教育的瞬間を とらえることの意味∼」神戸親和女子大学「児 童教育学研究」第 29 号 14.亀岡正睦 2011「算数科における「ふきだし法」 の指導法的意義についてⅣ ∼メタ認知的支援 の可能性∼」神戸親和女子大学「児童教育学研究」 第 30 号 15.三宮真智子編著 2008『メタ認知 - 学習力を支 える高次認知機能』北大路書房 16.三宮真智子 1996 「思考におけるメタ認知と注意」 『認知心理学 4 思考』東京大学出版会 17.重松敬一 1990「メタ認知と算数・数学教育」平 林一榮監修『数学教育学のパースペクティブ』 聖文社 所収 18.重松敬一 1992 「メタ認知の発達的変容」『数 学教育学の新展開』岩合一男先生退官記念出版 会編 聖文社 19.重松敬一 勝美義雄 上田喜彦 et al 1994「子ど もの思考を生かした算数指導(9)メタ認知の内 面化モデルとその検証―」)第 27 回数学教育論 文発表会論文集 20.重松敬一 勝美義雄 上田喜彦 et al 2002 「数学 教育におけるメタ認知の研究(17)―算数作文 による小学校中学年のメタ認知発達変容の分析 ―」第 35 回数学教育論文発表会論文集 21. 神 保 勇 児 2010「 児 童 の「 問 い 」 の 発 生 に 関 する研究」数学教育論文発表会論文集 43(1) pp.43-48 22.二宮裕之 2005『数学教育における内省的記述表 現活動に関する研究』風間書房 23.二宮裕之「数学教育における相互構成的記述表 現活動に関する研究―内省的記述表現の既定と 内省的記述活用学習の事例的分析―」2002 全 国数学教育学会誌 数学教育学研究第 8 巻 24.長谷川雅美・白波瀬裕美編著 2001「自己理解・ 対象理解を深めるプロセスレコード」日総研 25.A.L. ブラウン 1984『メタ認知―認知についての 知識』サイエンス社 26.ブルーアー 1997「授業がかわるー認知心理学 と教育実践が手を結ぶとき」松田文子・森敏昭 監訳 北大路書房 27.山口美和、越智康詞、山口、 恒夫 2007「教師教 育におけるリフレクション方法の検討 : 「プロセ スレコード」による事例の振り返りを通して」 信州大学教育学部紀要 119 号 pp.79-90 28. 山 口 美 和・ 山 口 恒 夫 2004「 教 師 の 自 己 リ フ レクションの一方法としてのプロセスレコード ー看護教育及び看護理論との関連から」 信州 大学教育学部紀要 112 号 29.C.R. ロジャーズ 1967『カウンセリングと教育』ロ ジャーズ全集 5 畠瀬稔編訳 岩崎学術 出版社
Abstract
A Study on Balloon Method as a strategy
of the formation of metacognition in arithmetic (
1)
― A research on the process of the formation of
metacognition through process record ―
Masayoshi KAMEOKA, Yuji JINBO
Abstract :In this study, by applying the method of process record which has often been used in the science of nursing to the child in the 4th grade (who is not good at reflective writing expression), the author found that the child s reflective writing expression and the teacher s involvement with counseling relation reciprocally have effect on the formation of metacognition of the child and the teacher.
On the basis of the fact that the change of the metacognition of both the child and the teacher was recorded through what was written in the Balloon Method when the child intended to solve the problems by himself, a model figure of the formation of meta-cognition was drawn up.
It is considered that writing in the Balloon makes the metacognition visible, and lets the teacher do the congruent metacognitive support as well as has the children aware about themselves in the environment of empathetic understanding.
It is suggested that the metacognitive support by the teacher stated above can promote the children s formation of metacognition and their reflective writing expression.