• 検索結果がありません。

世界初の技術で大気境界層のオゾンとその前駆気体を同時にリモートセンシング 国内の大気汚染対策に新たな観測事実

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "世界初の技術で大気境界層のオゾンとその前駆気体を同時にリモートセンシング 国内の大気汚染対策に新たな観測事実"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

千葉大学環境リモートセンシング研究センターの入江仁士 准教授らは、世界に先駆けて地上リモートセン シングにより大気境界層(PBL)注 1)中のオゾン(O 3)とそれが生成される前段階となる気体(前駆気体)の 濃度を同時に観測する技術を開発しました。これを用いて、千葉市とつくば市において 2013 年より 7 年に 及ぶ長期連続観測を実施し、年々の濃度変動傾向を定量的に調べました。すると、千葉市において O3の前駆 気体の濃度は年率 6~10%の速度で急激に減少していましたが、O3の濃度には有意な減少は認められないこ とが明らかになり、より一層の国内の大気汚染対策が必要なことが示唆されました。本手法による観測結果に 基づき大気汚染対策を進めることで、脱炭素化も同時に進み、温暖化対策に貢献できるものと期待されます。 本研究成果は、2021 年 5 月 6 日に日本地球惑星科学連合(JpGU)の英文電子ジャーナル Progress in Earth

and Planetary Science (PEPS)に掲載されました。

■研究の背景 地球温暖化対策として、主要な温室効果ガスである二酸化 炭素(CO2)の削減が不可欠ですが、CO2と大気汚染物質の発 生源を考えると、共通して化石燃料の燃焼等の産業活動に由 来するものが多くあります。そのため、大気汚染対策を進め れば温暖化対策になるという相乗効果(コベネフィット)に 注目して対策を進めることが重要です。 このような認識の下、短寿命気候汚染物質(short-lived climate pollutants; SLCPs) 注 2)のひとつである対流圏(PBL を含む)中のオゾン(O3)濃度の減少が求められてきました。 O3 は化石燃料の燃焼等の産業活動に由来する前駆気体であ る窒素酸化物(NOx = NO + NO2)や揮発性有機化合物 (VOCs)から生成し、光化学オキシダントとして人体や植物 に悪影響を及ぼします。そのため、NOx と VOCs の排出規 制が進められてきましたが、それらの濃度低下が示されつつ も、O3 の濃度は有意に減少しないという矛盾が報告されて きました。その要因として、中国大陸からの越境汚染の影響 が特に数値モデルを用いた解析から強調されてきました。 ■研究の成果 研究グループはまず、人工衛星搭載センサーOMI 注 3) よる観測データを解析したところ、2013 年~2019 年の 7 年間に中国を含む東アジアの対流圏中の NO2量が急激に減 少していたことを明らかにしました(図 1)。これは、アジ ア大陸から日本への越境汚染の影響が、抑制されていた、或 いは、ほとんど変化しなかったことを示唆します。 この特異な期間に、千葉市とつくば市において、独自の技 術である多軸差分吸収分光法(MAX-DOAS 法)注 4)を用い た地上リモートセンシング(図 2)により、PBL 中の O3、二 酸化窒素(NO2)、ホルムアルデヒド(HCHO)濃度の連続観

測を実施しました。NO2と HCHO はそれぞれ NOx と VOCs

の濃度変化の指標とみなすことができます。その結果、千葉

ニュースリリース

世界初の技術で大気境界層のオゾンとその前駆気体を同時にリモートセンシング

国内の大気汚染対策に新たな観測事実

令和3年 5 月 13 日 国立大学法人千葉大学 図 2 千葉大学西千葉キャンパス内で稼働中の MAX-DOAS 装置 の外観。千葉市では 4 台の MAX-DOAS 装置をそれぞれ異なる 方位に向けた同時観測を行い、精度を高める工夫を施した。 図 1 中国(赤)、日本(黒)、韓国(青)上空の対流圏中の NO2量 の年平均値。単位はキロトン。NO2量は OMI センサーが上空 を通過する 13:45(地方時)頃の量。

(2)

市においては NO2と HCHO 濃度が年率 6~10%の急激な減少を 示しましたが、O3濃度は有意な減少を示しませんでした(図3)。 この新しい観測事実は、千葉市では O3の生成速度が VOCs 濃 度で律速されている一方で、NOx 濃度の減少が NO によるタイト レーション効果注 5)を抑制するメカニズムが顕著に起きているこ とを示します。越境汚染の影響ではなく、このメカニズムが、前駆 気体の減少による O3 の減少量を打ち消したと考えられます。ま た、MAX-DOAS 法による PBL 観測は、VOCs 律速領域において、 HCHO と NO2の濃度比がどの月においても 1 以下の値を示すこ とも分かり、大気汚染対策に役立つ指標となることを提案しまし た。これらの結果から、MAX-DOAS 法は、大気汚染対策に役立つ 指標としての HCHO と NO2の濃度比とともに、PBL 内の O3の変 動を解析するためのユニークな観測手法であることが分かりまし た。 ■今後の展望 本研究の結果から、O3 濃度の減少にはさらなる前駆気体の濃度 の減少が不可欠であり、一層の国内の大気汚染対策が必要であるこ とが示されました。大気汚染対策を進めることは脱炭素化を促進 し、温暖化対策に貢献するといったコベネフィットが期待されま す。また、大気汚染対策を進めるために役立つ指標 (HCHO と NO2 の濃度比)が提案されました。この指標の妥当性を、新型コロナウイルスの影響で濃度変動が大きかった 2020 年などの新しく蓄積されているデータからも評価することにより、より効果的な環境対策への貢献を目指し ます。 ■用語解説 注 1)大気境界層(PBL):対流圏のうち、流体としての大気が地表面の影響を受ける高度 0-1 km の層をい う。地表面の影響をほとんど受けない自由対流圏と区別される。大気境界層内では自由対流圏に比べ人間活 動などの地表の影響が顕在化する。

注 2)短寿命気候汚染物質(short-lived climate pollutants; SLCPs):大気への放出後、気候に対する影 響が数日から 10 年程度の物質(短寿命気候強制因子(short-lived climate forcers; SLCFs))のうち、放射 強制力が正(温暖化を誘因)である物質のこと(国連環境計画の下で活動している「気候と大気浄化の国際 パートナーシップ(Climate and Clean Air Coalition; CCAC)」による定義)。具体的には、対流圏オゾン、 メタン、ブラックカーボンなどがある。

注 3) 人工衛星搭載センサーOMI:Ozone Monitoring Instrument の略。2004 年に打ち上げられた⽶国 NASA の衛星 Aura に搭載されているセンサー。オランダ、フィンランド、⽶国によって運用。地表や大気 で散乱される太陽光の可視領域を分光することで、NO2等の大気汚染物質の大気中カラム濃度を測定出来

る。空間分解能は、13 km × 24km(直下視の場合)。

注 4) MAX-DOAS 法:Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopy の略。NO2等の大気汚染

物質の大気中カラム濃度と鉛直分布データを得るための地上設置型のリモートセンシング装置またはその 技術。

注 5)NO によるタイトレーション効果:NO+O3 → NO2+O2の化学反応によって O3濃度が減少する効果の

こと。 ■研究プロジェクトについて 本研究は、環境再生保全機構の環境研究総合推進費、日本学術振興会の科学研究費助成事業、宇宙航空研究 開発機構の地球観測研究公募の支援を受けて遂行されました。 図3 千葉市(赤)とつくば市(黒)において MAX-DOAS 法で観測された PBL 内(高度 0-1 km)の NO2

濃度、HCHO 濃度、HCHO/NO2濃度比、O3濃度の

年変動。各年の数値は 3-10 月の平均値で示されて いる。

(3)

■論文情報

・論文タイトル:Continuous multi-component MAX-DOAS observations for the planetary boundary layer ozone variation analysis at Chiba and Tsukuba, Japan, from 2013 to 2019 ・掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)

・著者:Hitoshi Irie, Daichi Yonekawa, Alessandro Damiani, Hossain Mohammed Syedul Hoque, Kengo Sudo, and Syuichi Itahashi

・DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-021-00424-9

本件に関するお問い合わせ

千葉大学環境リモートセンシング研究センター・入江仁士 TEL: 043-290-3876 E-mail: [email protected]

参照

関連したドキュメント

本事業は、内航海運業界にとって今後の大きな課題となる地球温暖化対策としての省エ

 「世界陸上は今までの競技 人生の中で最も印象に残る大 会になりました。でも、最大の目

2013(平成 25)年度から全局で測定開始したが、2017(平成 29)年度の全局の月平均濃度 は 10.9~16.2μg/m 3 であり、一般局と同様に 2013(平成

なお,今回の申請対象は D/G に接続する電気盤に対する HEAF 対策であるが,本資料では前回 の HEAF 対策(外部電源の給電時における非常用所内電源系統の電気盤に対する

二酸化窒素は 2 時に 0.06ppm を超えたが、10 時までは 0.06ppm を超えなかった。11 時から上昇が始まり 15 時に最高 0.103ppm に達した後、24

(排出ガス試験法: WLTC(Worldwide Light vehicles Test Procedure)を含む WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test

二酸化窒素の月変動幅は、10 年前の 2006(平成 18)年度から同程度で推移しており、2016. (平成 28)年度の 12 月(最高)と 8

●大気汚染防止対策の推 進、大気汚染状況の監視測 定 ●悪臭、騒音・振動防止対 策の推進 ●土壌・地下水汚染防止対 策の推進