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IRUCAA@TDC : 「顎骨疾患プロジェクトからの情報発信」4.歯周炎の病因解析

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Title

「顎骨疾患プロジェクトからの情報発信」4.歯周炎の

病因解析

Author(s)

石原, 和幸

Journal

歯科学報, 118(6): 497-504

URL

http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.118.497

Right

Description

(2)

497

歯学の進歩・現状

「顎骨疾患プロジェクトからの情報発信」

4.歯周炎の病因解析

石原和幸

1)2)3) はじめに 顎骨疾患プロジェクトからの情報発信として本事 業の研究内容を含めた顎骨疾患に関わる情報をシ リーズとして紹介している。その4回目は,感染制 御・歯周病グループについて紹介する。本グループ では,歯周病の病因解析とその予防手段の解明を目 的とするプロジェクトとペプチド・作動性Cニュー ロンと破骨/骨芽細胞の共培養系を確立し,骨吸収 抑制標的シグナルの解明を試みる2つのプロジェク トによって形成されている。本稿では,歯周病の病 因解析とその予防手段の解明を目的とするプロジェ クトについて,現在行われている歯周病原細菌によ るバイオフィルム形成・病原性発現メカニズム解析 とマイクロバイオーム解析について紹介を行う。 人の体には人の細胞よりも多数の細菌が定着し複 雑なマイクロバイオーム(細菌叢)を形成している。 マイクロバイオームを形成している菌種は常在菌と して外来細菌の定着を阻害する役割も果たしてい る。腸内細菌でよく言われる“善玉菌”は,この代 表的なものである。口腔にも多数の菌種によるマイ クロバイオームが形成されている。 口腔環境とマイクロバイオーム 口腔内の環境は非常にユニークである。口腔全体 は粘膜に覆われた組織であり,そこに粘膜を貫いて 歯が萌出している。歯の萌出により歯肉溝が形成さ れる。さらに常に唾液によって洗い流されている。 この唾液中には,ラクトフェリン,リゾチーム,ペ ルオキシダーゼをはじめとする抗菌物質が含まれて いる1) 。酸素分圧は,外気よりも低く,大臼歯頬側 面で1%程度であり,歯肉溝内では1%を下回る。 また,食物の入り口であるため食物の温度の影響を 受け,粘膜の表面では温度が15.4℃-68.0℃の間で 変動する。これに対し歯肉溝では33.7℃-36.6℃と 変動が少ない。このようなユニークな環境であるた め,抗菌物質や温度変化にも適応した口腔独自の菌 種によるマイクロバイオームが形成されている。さ らに,頬粘膜,舌表面,歯肉溝等のように部位に よって環境の差があるため部位によってマイクロバ イオームが異なっている。これらのマイクロバイ オームは,外来の病原体感染に対して防御的な役割 を果たしているが,その組成が変化は,う蝕,歯周 病等の口腔疾患のリスクを上昇させる。 キーワード:私立大学研究ブランディング事業,顎骨疾患 プロジェクト,マイクロバイオーム解析,歯 周炎,歯周病原菌 1)東京歯科大学口腔科学研究センター 2)東京歯科大学研究ブランディング事業 3)東京歯科大学微生物学講座 (2018年11月27日受付,2018年12月6日受理) http : //doi.org/10 .15041 /tdcgakuho.118 .497 連絡先:〒101 ‐0061 東京都千代田区神田三崎町2-1-14 東京歯科大学微生物学講座 石原和幸

Kazuyuki ISHIHARA1)2)3) : “Report by the Jaw Bone

Dis-ease Project”4 : Etiology of periodontitis(1)Oral Health

Science Center, Tokyo Dental College,2)Tokyo Dental

College Research Branding Project,3)Department of

Mi-crobiology, Tokyo Dental College)

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498 石原:歯周炎の病因解析 歯周炎の病因解析 歯周病は,ヒポクラテスの時代から記述のある疾 患である。そもそも Leuven hook が1600年代に口 腔細菌を顕微鏡で観察しているにもかかわらず,そ の病因に細菌が関わることが注目されるようになっ たのは遅く,1960年代になってからである。この時 期に,健常者に3週間ブラッシングを止めさせ,デ ンタルプラークの増加に伴い歯肉炎が発症したこ と,さらに,プラークの除去,抗菌薬の投与により 炎症が治癒すること,歯肉炎の進行と共に菌叢が変 化するといった実験の結果が明らかにされた。これ によって歯周病と細菌の関係が注目され,その関 わりについての解析が行われるようになる。解析 の進行と共に歯周炎の病因としては,red complex と呼ばれる Porphyromonas gingivalis,Tannerella for­

sythia,Treponema denticola の三菌種がその病因に

重要な役割を果たしていると考えられるようになっ た2-6) 。 それぞれの菌種の解析とは別に,2000年頃になる とバイオフィルムという概念もこれに加わった。以 前の研究では,浮遊した状態の細菌について解析を 行ってきたが,自然界では,多くの菌種が,物体の 表面に,菌とそれが産生する高分子化合物によって 形成される塊,“バイオフィルム”を形成している 事が明らかにされた。つまり,デンタルプラークも 台所の配管のぬめりも菌とその産生する高分子化合 物によって形成されたバイオフィルムということに なる。バイオフィルムを形成した時の病原性は浮遊 しているときと異なっている。例えば,細菌がバイ オフィルムを形成すると,バイオフィルムの奥の方 までは分子量の大きなものが浸透するのが難しくな るため,浮遊している細菌に比べ,バイオフィルム 中の菌に対する薬剤の効果が低下する。さらには, 菌を貪食する白血球も,バイオフィルムを形成して 自分より大きな塊になってしまった菌を貪食できな くなってしまう。また,バイオフィルムを形成して いる細菌は,近接して存在している細菌間での化学 物質によるコミュニケーション“クオラムセンシン グ”によって細菌の遺伝子発現を変化させる。一部 の菌種ではバイオフィルムを形成することによって 病原性が強くなることが報告されている。そのた め,バイオフィルムの性質が注目されてからは,細 菌の病原性の解析について,細菌間の相互作用につ いての解析が増加している。 現在までに歯周炎の病態と関わる可能性のある菌 種として表1に示す様な菌種が報告されてきた7) 。 現在では,これらの菌種のうち特定の菌が関わると 言うよりも,マイクロバイオームの組成が健康な状 態のものから歯周病原性菌を含むものに変化するこ とによって歯周炎が引き起こされるという考え方が なされている。このようなマイクロバイオームの変 化をディスバイオーシス(dysbiosis)と呼ぶ。さら には,そのマイクロバイオームのディスバイオーシ スを引き起こす細菌が P. gingivalis であるという仮 説が提唱されている。しかし,このように種々の概 念を取り込みながら解析が行われてきたが,そのメ カニズムは未だ解明されていないのが現状である。 解明が困難な理由としては,歯周炎病巣に多様な菌 種が存在することである。その多様さは,個人間で 異なる。ヒト口腔に存在する菌は700種を超すとさ れ,その全体を解析することは困難なため,従来は 研究者によって選択された菌種の解析がほとんどで あった。これに加えて歯周炎には,これら菌種に対 する宿主の免疫応答の多様性がまた歯周炎の病因に 関わっており8,9) ,さらに喫煙の様な生活習慣も影響 を与える。また,その疫学解析についても難しい点 がある。歯周炎の多くはそのプロセスが長い慢性疾 患である。その病因となる菌種は,その発症すると 表1 歯周病関連細菌(文献7より改変) Aggregatibacter actinomycetemcomitans Porphyromonas gingivalis Tannrella forsythia Eubacterium dodatum Fusobacterium nucleatum Prevotella intermedia Treponema denticola Campylobacter rectus Dialister pneumoniae Eikenella corrodens Filifactor alocis Parvimonas micra Selenomonas species ‘Streptococcus millari’ group Treponema socransky

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499 歯科学報 Vol.118,No.6(2018) きに増加し歯周組織に影響を与える必要があるが, それを解析するためには,歯周炎が始まる時期にサ ンプリングする必要がある。しかし,そこを見つけ てサンプルを採取することは難しく,多くの場合, 歯周炎になってしまっている部位からサンプルを取 ることになる。この場合,歯周炎を起こした菌叢な のか,炎症がおきた事によって形成された菌叢なの かが分からなくなってしまうという問題点も存在す る。歯周病の原因については,これらの問題を克服 しつつ病因を解明していく必要がある。 歯周病原細菌による バイオフィルム形成・病原性発現解析 デンタルプラークは複数の菌種によって構成され るバイオフィルムであり,その形成には,すでにデ ンタルプラークに定着した細菌に対し他の細菌が付 着すること(共凝集)が重要な役割を果たす。その形 成プロセスで歯周病原菌の定着が起こり,その占め る割合の増加(ディスバイオーシス)が起こると歯周 炎のリスクが高まる。我々は,歯周病原性菌がデン タルプラークに定着するメカニズムを解析する目的 で Red complex の三菌種間で認められる共凝集に つ い て 解 析 を 行 っ て き た。 T. denticola と T. for­ sythiaの菌体を試験管内で混合すると,Fig.1Aの ように菌体同士が共凝集し沈殿を引き起こし,細菌 Fig.1 A:共凝集 試 験 管 内 に 菌 を 懸 濁 し,放 置 す る と T. denticola と T. forsythiaそれぞれは,単独では1時間程度は濁ったままで いる。2種の菌種を混合すると,共凝集が起こり,菌種間 の付着により細菌が大きな塊を作るため,15-30分程度で 菌体が沈殿を始める。 B:タンパク分解酵素活性の違いによる共凝集活性の違い Dentilisinの活性は, T. denticola ATCC 35405株>ATCC 33520株>ATCC 33521株であることが分かっており,共 凝集活性は dentilisin 活性と同じ傾向が認められた。 間で付着していることが分かる。そのメカニズムを 解析すると Fig.1Bのように dentilisin 活性の強さ と共 凝 集 の 強 さ に 関 連 が 認 め ら れ た。さ ら に T. denticola表層の dentilisin を失うと共凝集が認めら れなくなることから,この2菌種間の共凝集には dentilisin が関わっている事が明らかになった10) 。 また, P. gingivalis と T. denticola 間でも共凝集が認 められている11) 。これを解 析 す る と, P. gingivalis のタンパク質分解酵素が関わっていることを明らか になった12) 。Fig.2に示すように P. gingivalis は, RgpA,RgpB,Kgp の3つのタンパク質分解酵素 を持ちこれらの酵素は本菌の重要な病原因子として 知られている。このうち RgpA と RgpB はアルギ ニンのところでタンパクを切断する活性を持ち, Kgp は,リシンのところでタンパクを切断する活 性を持つ。これらの酵素のうち RgpA と Kgp は, 付着機能に関わる赤血球凝集/付着ドメインを持 つ。これら2つのタンパク分解酵素の赤血球凝集/ 付着ドメインと,赤血球凝集因子(HagA)にすべて に Hgp44P 又 は そ れ と 類 似 し た 部 分 が 認 め ら れ る。Fig.3のグラフにように,Kgp 欠損,それに 加えて RgpA 欠損,さらに HagA を欠損の順で遺 伝子の欠損を加えていくと共凝集活性がそれにとも なって低下していく事から Hgp44の部分が共凝集

Fig.2 Gingipain と HagA

P. gingivalisは,表層に gingipain(gp)と呼ばれるタンパ ク分解酵素を持つ。ジンジパインにはアルギニンのところ でタンパクを切断する Rgp とリシンのところでタンパク を切断する Kgp が存在する。Rgp には,赤血球凝集/付着 ドメインを持つ RgpA と 持 た な い RgpB が あ る。RgpA と Kgp の赤血球凝集/付着ドメインには,Hgp44という共 通の部 分 が 存 在 す る。さ ら に Hgp44に 類 似 す る 部 分 か は,赤血球凝集因子(HagA)と呼ばれる分子にも複数存在 している。 ― 3 ―

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500 石原:歯周炎の病因解析

Fig.3 Hgp44の欠損が P. gingivalis と T. denticola の共凝集 に与える影響 Hgp44をもつタンパクを順に欠損させていくと,共凝集 活性もそれに従って低下している。 に関わっている事が明らかになった。さらに,Hgp 44のどの部分が付着に関わるかをさらに明らかにす るため Hgp44の組み替えタンパクを作成し,解析 を行った13) 。419アミノ酸によって構成される Hgp 44から,Fig.4のように全体と,アミノ酸残基1- 124,1-199,1-316,199-419,124-198,199 -316の部分の組み替えタンパクを作成し,どの部 分が付着に関わるかについて解析を行った。その結 果,r-Hgp44(全 体),r-Hgp44(1-316)and r-Hgp3 44(199-316)の部分が他に比べ T. denticola に強い 付 着 性 を 示 し た。さ ら に r-Hgp44の 部 分 の 添 加 6 6 は,Hgp44全体 の 添 加 に 次 い で, T. denticola と P. gingivalisの共凝集を低下させた(Fig.5)。これら の結果は,アミノ酸残基199-316の領域が T. denti­ colaへの付着機能を司ることを明らかにした。これ らの結果は, T. denticola がバイオフィルム内へ定 着すると, P. gingivalis や T. forsythia の定着を誘導 し,red complex の菌種の増加を促すことを示唆し て い る。さ ら に,プ ラ ー ク の 主 要 な 細 菌 で あ る Capnocytophaga ochraceaを用いバイオフィルムの 形成メカニズムとバイオフィルム内でのクオラムセ ンシングについて解析を行った。 C. ochracea は IX 型タンパク分泌機構を持っている。まずこのシステ ム が, Flavobacterium johnsoniaeの 様 に14) 本 菌 の gliding による運動に関わることを明らかにし,こ れがさらにバイオフィルム形成に関わるかどうかに ついて検討を加えた。IX 型分泌機構を構成するタ ンパク(GldK,sprT)お よ び gliding に 関 わ る タ ン パク(SprB)を欠損させた菌株では,バイオフィル ム形成量,その厚さの平均が野生株の半分以下に減 少していた(Fig.6)。これらの結果により,IX 型 分泌機構は,本菌の gliding のみならず biofilm の 形成に関わっていることが明らかになった15) 。IX 型分泌機構を持つ Prevotella でも XI 型分泌機構の 低下によってバイオフィルム形成能が低下すること から16) ,本システムは,歯周病原性菌のバイオフィ ルム形成に重要な役割を果たすと考えられた。現在 はこのシステムによるバイオフィルム形成が他菌種 とのバイオフィルム形成の時に示す相乗効果の解析 を行っている。バイオフィルム内でのクオラムセン シングについては,レンサ球菌については詳細に研 究されているが,歯周病原性菌が属するグラム陰性 桿菌においてはあまり解析されていなかった。その ため, C. ochracea を用い,クオラムセンシングに Fig.4 組換え Hgp44 Hgp44の付着活性を持つ部分を明らかにするため,Hgp 44の一部を含む r-Hgp44から r-Hgp44の組み替えタンパ1 6 クを作成した。 Fig.5 r-Hgp446添加が共凝集に与える影響 Hgp44の6種の組み替えタンパクのうちでは,r-Hgp44 が最も共凝集を阻害した。 ― 4 ― 6

(6)

501 歯科学報 Vol.118,No.6(2018) Fig.6 IX 型分泌機構構成タンパク(GldK,SprT)と gliding を行うタンパク SprB の欠損に よるバイオフィルム形成性の変化 GldK,SprT の欠損は著しくバイオフィルムの形成を抑制した。 ついて解析を行った。クオラムセンシングに関わる 物 質“オ ー ト イ ン デ ュ ー サ ー”を 産 生 す る 酵 素 (LuxS)を欠損させると,Fig.7に示す様に野生株 に比べバイオフィルムの厚さが不均一になり,密度 が低下しており,LuxS がバイオフィルム形成に関 わる事を明らかにできた。しかし,今までの報告の ようにオートインデューサー2がバイオフィルム形 成に関与している可能性に加え,LuxS の欠損によ る代謝サイクル“activated methyl cycle”に 対 す る障害がその原因となる可能性も考えられた17) 環境への適応 微生物が歯肉溝内のバイオフィルム内に定着し, 生存していくためにはその環境に適応する必要があ る。そのために細菌は,環境ストレスに対応して遺 Fig.7 オートインデューサー2とバイオフィルム形成 オートインデューサー2を合成する LuxS の欠損によっ てバイオフィルムの均一性が失われ,密度が低下してい る。Hosohama-Saito, et al. PLoS One(2016)より引用

伝子の発現を調節する必要がある。この調節機構は 歯周病原性菌の病原性発現とも関わっている。これ を明らかにするために本プロジェクトでは,歯周病 原性菌の遺伝子発現調節についても解析を行ってい る。 T. denticolaは,その発育に血清を必要とする。 歯肉溝には常に歯肉溝滲出液が遊離されているが, 定着プロセスにおいて必ずしも常に血清が十分であ るとは限らない。本菌の血清獲得のプロセスを明ら かにするために血清を制限した条件下での遺伝子発 現について解析を行った。血清制限下において遺伝 子発現に変化が認められた18) 。血清を10%から1% または0%に下げる事によって細胞膜における物質 の取り込み,排出を司る ABC transporter と代謝 に関 わ る 遺 伝 子 の 増 加 を 認 め た。こ の 結 果 は T. denticolaが血清の不足に対し取り込みを促進すると 共に代謝を変化させている事を示唆している。また 菌体外の栄養を感知するセンサータンパクの発現が 低下し,血清抑制条件下ではその働きが低下する事 を明らかにした。さらに従来報告されていたペプチ ドに結合し ABC transporter で取り込み栄養源を 獲得するシステムに加え,それと逆の向きに存在す る新たな取り込みシステムを司る遺伝子群を明らか にした。このシステムの欠損により菌の増殖が低下 することから,菌の栄養源獲得・増殖に重要な役割 を果たしている遺伝子群である事が明らかになっ た19) 。 細菌の外部環境からのストレスに対する遺伝子発 現調節に関る因子には ECF シグマ因子がある。 P.

gingivalisは , SigP , SigCH , PGN _0450, PGN _

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502 石原:歯周炎の病因解析 0970,SigH の6つ の ECF シ グ マ 因 子 を 持 つ。 P. gingivalisの環境に対する遺伝子発現調節を解析す る目的でこれらの機 能 に つ い て 解 析 を 行 っ た。 ECF シグマ因子を欠損することによって複数の性 質に変化が認められた20) 。SigP の欠損により菌体 の自己凝集の減少,赤血球凝集能の低下,Kgp, Rgps 活性の低下が認められた。さらに SigP の欠 損株では,菌体表層の vesicle の増加が認められて いた。他の ECF シグマ因子の欠損によっても Rgp の活性が50%程度減少していた。SigH を欠損させ ると Kgp 活性の著しい減少が認められた。これら の結果は,ECF シグマ因子は,環境への適応と共 に,その病原性発現に重要な役割を果たしている事 を示すとともに ECF シグマ因子の阻止による創薬 の可能性も示唆している。以上の事より,デンタル プラークを構成している歯周病原菌はそれぞれの環 境適応システムを用いながらバイオフィルム形成を 行い,時にそれがバイオフィルム形成の相乗効果や 病原性の発現に関わっている事を示している。これ らの環境適応の解析はマイクロバイオームのディス バイオーシスの解明に繋がると考えられる。 次世代シークエンサーによる マイクロバイオーム解析 バイオフィルム中での細菌間の相互作用,遺伝子 発現の調節を解析していくためには,バイオフィル ムの構成する細菌の情報を加え。それによってモデ ルを作り,解析を行う必要がある。腸内細菌では以 前から,抗菌剤の投与によって腸のマイクロバイ オームが変化し下痢を引きおこす等の現象はよく知 られており,このような現象等の解析から,腸管で は病原体の定着・過度の増殖を腸管の常在菌が阻止 していることが明らかになっている21,22) 。これらの 細菌間の作用については,免疫応答の調節,腸内細 菌の上皮バリア作用の亢進,病原体との栄養獲得の ための競合等があるが,多くは間接的なもので腸内 細菌の直接作用によって起こるものはあまり明らか にされていなかったが,現在,このような現象にお ける細菌の関与を明らかにしているのが次世代シー クエンサーによる解析である。 次世代シークエンサーの出現は,生物集団の解析 に飛躍的な進歩を引き起こしている。それまでの DNA の塩基配列決定法は,dideoxy 法が用いられ ていたが,この方法では,1サンプルから1分子の DNA の500bp 程度の塩基配列を決定することがで き る。も し,3-4Mbp の 細 菌 の 遺 伝 子 配 列 を dideoxy 法で決定しようとすると少なくとも8000回 程度の反応を行う必要がある。細菌の様に遺伝子の 小さな生き物でさえもこれだけかかるため,高等生 物ではさらに回数が必要となる。また,生態系の生 物解析においてもこの方法で扱える生物数は少な い。そのためには,もっと早く多数の遺伝子配列を 決定できる方法が必要となる。 DNA の塩基配列を用いた生物の同定は,細菌の 16S リボゾーム RNA(rRNA)配列を細菌分類から発 展してきている。細菌の分類は,生化学性状による 分類,血清学的性状による分類等が用いられてきた が,現在では16S rRNA の相同性に基づいた分類と 染色体 DNA の定量的類似性を用いる遺伝学的方法 と表現形質による分類で行われている。ここで用い られている16S rRNA の塩基配列は,リボソーム機 能に関わる RNA なので進化速度が比較的遅く,配 列の保存性が高く,種レベルで高い相同性を示し, 関係の遠い菌種間でも配列の比較が可能である。こ の16S rRNA 配列のような,その生物群の情報を重 点的に蓄積する遺伝子領域をバーコード領域と呼 び,その部分をもとにした生物同定手法を DNA バーコーディングと呼んでいる。DNA バーコー ディングによってその生物の一部の遺伝子配列を読 むことによってその生物を同定することが可能とな る。 DNA バーコーディングによる生物同定を並列で 多数同時に行える様にしたのが次世代シークエン サーである。次世代シークエンサーによる細菌叢解 析ではサンプル中細菌の16S rRNA の細菌に共通な 配列を用いてその一部を増幅する。16S rRNA に は,V1-V9までの領域があるが,解析には一般 に V1-V2領域,V3-V4領域等が使われてい る。次世代シークエンサーでは,増幅した DNA の 塩基配列決定を同時並行で行うことが可能になって いる。そのために,それぞれのサンプルを増幅する ときにその両端に既知の塩基配列を付加し,多数の サンプルの塩基配列を同時に決定した後,付加した 塩基配列によって得られた塩基配列をサンプルごと ― 6 ―

(8)

503 歯科学報 Vol.118,No.6(2018) にソートする。これによって,1回の反応で多菌種 を含むサンプルを多数同時に解析することができる ようになり,多菌種によって構成されているマイク ロバイオームの解析が可能となる。 メタゲノム,メタトランスクリプトームによる 口腔マイクロバイオームの解析 歯 周 炎 の 病 因 と し て は, Porphyromonas gin­ givalis,Tannerella forsythia,Treponema denticola 等 の菌種がその病因に重要な役割を果たしていると考 えられきた2-6) 。しかし,最初に述べたように,歯 肉構内細菌の多様性,サンプリング時期の難しさが マイクロバイオームの詳細な解析の障害が原因の決 定の障害となっていた。次世代シークエンサーよる 解析は,培養不可能な菌種の解析,多数の菌種の全 体像の解析を可能とし,同じプラットホームで比較 可能な big data の蓄積をもたらすことができる。 当然,同時に多数のサンプルを処理できるので,サ ンプリングのポイントが増加してもサンプル処理の ための仕事量はそれ程増えず対応する事が可能であ り,サンプル採取の問題についても解消できる。現 在我々も歯周炎へのディスバイオーシスに関わる細 菌間の相互作用や病原性発現解析を行うため,次世 代シークエンサーによる解析を行い,歯周炎発症ま でのマイクロバイオームの変化について解析を行う とともに,特定菌種を用いた解析と細菌叢解析の データの統合を試みている。最近,口腔に存在する Fusobacterium nucleatumと大腸癌との関わり23) につ いても報告されている。これは次世代シークエン サーにより腸管内で今まで手が届かなかった菌種ま での解析が行われつつあることを示している。これ らの次世代シークエンサーを用いた解析によって今 後オーラルマイクロバイオームの持つ病原性につい ての解析がさらに広がってくると考えられる。 文 献 1)奥田克爾,石原和幸,加藤哲男:最新口腔微生物学 2 版,一世出版,東京,2009.

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