氏 名 田中 宏司 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第273号 学 位 授 与 年 月 日 平成25年9月26日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 環境社会創生工学専攻 学 位 論 文 題 目 ケーブル防護機能を考慮した通信管路の耐震対策 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 杉 山 俊 幸 教 授 鈴 木 猛 康 教 授 平 山 公 明 准教授 吉 田 純 司 准教授 齋 藤 成 彦 准教授 後 藤 聡 准教授 高 橋 良 輔
学位論文内容の要旨
通信管路設備は,地下に布設するケーブルを効率的に運用・保守するだけでなく,地震 時には管内に収容されたケーブルを防護する性能が求められる.通信管路に求められる耐 震性能は,これまでレベル1地震時は損傷しないが,レベル2地震時の損傷はやむを得ない との考えに基づいて設定されてきた.このため,中継ケーブルは原則として2ルート化され, 非常時の復旧回線を確保するための緊急オペレーション方法が複数構築されている.しか し,近年発生した大地震では,設備の損傷により冗長化されたルートが全て切断され,山 間部等で広範囲にわたり情報孤立エリアが生じ,救急活動をはじめ様々な復旧活動の障害 となったことから,通信設備の信頼性向上は社会的な要請となっている. 既往の通信土木設備の耐震対策は,1964年の新潟地震以降,地盤の液状化に対する耐震対 策を重要視して対策工法の開発が進められてきた.特に阪神・淡路大震災以降,レベル2 地震 動が土木学会で定義されたことから,新たな基準により通信土木設備の耐震性能評価および 対策工法の開発が進められた.しかし,これら耐震設備の適用は,道路を掘削して新たな耐 震設備に取り替える必要があることから新設時の適用にとどまり,耐震補強を目的とした既 存設備の更改までは行われていないのが実情である.一方,高度成長期に大量建設した管路 設備の老朽化が顕在化しており,古い設備を効率的に維持管理していく必要がある.したがって,既存の旧仕様設備のメンテナンスに合わせ耐震補強を行うことで,効率的に通信サー ビス全体の信頼性向上を図る必要がある. これまでの通信管路の耐震技術は,地震時の外力に対し伸縮性や可とう性を具備すること で管路自体の損傷を防止し,収容するケーブルには布設時以外は外力を作用させないことを 性能目標として開発を行ってきた.しかしながら大地震のように稀に発生する外力に対して は,ある程度の管路の損傷は許容するが,収容されたケーブルの変形を限界範囲内に制限し 通信サービスを確保することを性能目標とすることで,過度な耐震対策が不要となる. 本論文の目的は,レベル2地震時の既設管路の損傷に対する修復限界を長期信頼性は保てないが短 期的にサービスを維持できるレベルと定義することで,合理的に耐震補強を行う方法を提案するこ とである. 第1章では,序論として通信管路の既往の耐震対策技術について概要や問題点等の背景をまとめ, 上記で述べた本論文の目的・構成について整理した. 第2 章では,通信管路の地震時の修復限界を定義した.まず,新潟県中越地震の管路被災事例を 実験により再現することで,光ファイバケーブルに伝送障害が生じるメカニズムを把握した.次に, 光ファイバケーブルに作用する引張および曲げに対する伝送損失量を実験で確認することで,地震 時に光ファイバケーブルに作用する外力の限界状態を把握した. 第3章では,第2章で定義した通信管路の修復限界を確保することで,効果的に地下管路の耐震対 策を行う方法について具体例を示した.新潟県中越沖地震において被災した地下管路の損傷事例に ついて,現場検証および数値解析による被害再現を行い,地震時の地盤ひずみによる継手の損傷お よび盛土の崩壊に伴う継手の損傷について,離脱量や屈曲角の定量把握を行った.また,管内面に 自立型ライニング管を形成する二重管構造でケーブルを防護する工法について,通信管路の修復限 界の考え方に基づいて耐震性能評価を行った.二重管構造の解析は,1)損傷した地下管路(外管) とライニング管(内管)の拘束力特性を実験により把握し,2)地震による外管の変形を応答変位法 解析により求め,3)その外管の変形を内管へ作用する外力と捉え内管の応答解析を行うことで,内 管の挙動および収容されたケーブルに作用する外力の評価を可能とした.二重管構造の解析手法を 用いて,老朽化した金属管路の地震動による継手離脱量および屈曲角の最大値をシミュレーション により推定し,ライニング管に収容された光ファイバケーブルに作用する外力を修復限界範囲内に 抑制できることが確認できた.以上により,通信管路の老朽化対策に適用されている自立型ライニ ング工法を用いることで,既設管路を効率的に耐震補強できることが確認できた. 第4章では,橋梁に添架された管路の耐震対策について,修復限界を確保するための工法を検討 した.橋梁添架管路の中でも,特に大変形や屈曲が懸念される免震橋梁に添架された場合について 検討を行った.まず,通信管路が添架された既設免震橋梁の調査を行い,地震時変位量の最大値が 見込まれる橋梁について,地震応答解析によりレベル2地震時に生じる水平変位量を算出し,耐震
対策工法の目標値とした.次に,既存の橋梁添架管路設備が免震橋に添架された場合,どの程度の 変位まで追随することが可能であるかを確認し,既存橋梁添架管路の適用領域について整理した. また,既存仕様の管路では通信サービスが確保できない領域について,可とう管などの市販の管材 を利用した経済的な添架管耐震対策案について検討を行い,繰り返し変形試験や実地震波による振 動実験を実施して,対策案の性能評価を試みた.対策案は,2章で提案した管路の修復限界を満足 しており,大掛かりな耐震対策がなくとも合理的に通信途絶を回避できることが確認できた. 第5 章では,本研究の結論として,修復限界確保を目標とする耐震対策を推進することで,通信 途絶被害や地震直後の混乱期での応急復旧を最小限に抑え,安定期になってから損傷した管路を計 画的に現行規格管に更新する合理的な耐震補強が可能であることを取りまとめた.
論文審査結果の要旨
通信管路設備は,地下に布設するケーブルを効率的に運用・保守するだけでなく,地震時には管 内に収容されたケーブルを防護する性能が求められる.通信管路に求められる耐震性能は,これま でレベル1地震時は損傷しないが,レベル2地震時の損傷は止むを得ないとの考えに基づいて設定さ れてきた.このため,重要ケーブルは原則として2ルート化され,非常時の復旧回線を確保するた めの緊急オペレーション方法の構築に重点が置かれてきた.しかし,近年発生した大地震では,通 信管路の損傷により冗長化されたルートが全て切断され,山間部等で広範囲にわたり情報孤立エリ アが生じ,救急活動をはじめ様々な復旧活動の障害となったことから,通信管路の地震時の信頼性 向上は社会的な要請となっている. 本論文は,通信管路の耐震性能目標について,レベル2地震時において管路に収容されたケーブ ルに影響のないレベルを確保することを修復限界と定義し,地震時にケーブルに作用する外力と通 信障害の関係を被災再現実験により明確にすることで,管路の修復限界値である損傷度合いを示し ている.具体的には,新潟県中越地震の管路被災事例を実験により再現することで,光ファイバケ ーブルに伝送障害が生じるメカニズムを把握した後,光ファイバケーブルに作用する引張および曲 げに対する伝送損失量を実験で確認することで,地震時に光ファイバケーブルに作用する外力の限 界値を把握している.これと並行して,定義した修復限界を耐震性能目標とすることで効率的に耐 震対策が可能となることを,新潟県中越沖地震において被災した地下管路を具体的な対策事例とし て取り上げ,地震時の地盤ひずみによる継手の損傷および盛土の崩壊に伴う継手の損傷に関して, 離脱量や屈曲角の定量的な把握を行うことにより検証している.地下管路のような耐力の低い構造 物の耐震対策について,収容物であるケーブルに作用する外力や変形を許容範囲内に制限する観点 から検討された研究は前例がなく新規性が認められる.また,地下管路の耐震対策の検討では,管内面に自立型ライニング管を形成する二重管構造でケ ーブルを防護する工法を対象として,地震動による地盤ひずみによるライニング補強管路の挙動推 定を,1)損傷した地下管路(外管)とライニング管(内管)の拘束力特性を実験により把握し,2) 地震による外管の変形を応答変位法解析により求め,3)その外管の変形を内管へ作用する外力と捉 え内管の応答解析を行うという独自の解析方法の提案により実現しており,実被害事例との比較や 室内実験により精度確認がなされていることから十分な信頼度があると判断される. さらに,免震橋に添架された管路の耐震対策の検討では,これまで橋梁本体の地震時挙動につい ては多くの研究がなされているが,ライフライン設備等の付帯設備に対する安全性については検討 事例が殆んどなく,本研究で提案した可とう管などの市販の管材を利用した経済的な耐震対策の検 討および安全性検証実験による成果は工学的貢献度が高いものと判断できる. 最終審査においては,審査委員ならびに聴講者から様々な質問が出されたが,これらに対して的 確な回答がなされ,申請者が背景を含めて研究内容を十分に理解していることが示された. 以上の通り,本論文は新規性・信頼度・工学的貢献度の観点から博士(工学)の学位論文として十 分に値することから、審査委員全員一致で合格と判断した.