平成12年10月1日 心膜由来と考えられた肉腫型悪性中皮腫の一例 山梨県立中央病院 外科 奥田純一 千葉成宏 赤池英憲 宮内善広 岡田治彦 武藤俊治 中込博 三井照夫 芦沢一喜 中沢美知雄 内科 宮下義啓 病理科 小山敏雄 要旨 心膜由来と考えられた悪性中皮腫の一例を経験した。症例は50歳、男性。不明熱の 精査中、CTで縦隔腫瘍を指摘された。 CT,MR1で腫瘍は、上行大動脈右縁にmassを形 成し、上大静脈を背側に圧排していた。腫瘍の一一一部は上行大動脈前面から左側にも存在 していた。術前の胸腔鏡下腫瘍生検では悪性線維性組織球腫が疑われた。手術所見では 心膜由来の腫瘍と考えられ、大動脈基部まで腫瘍が浸潤していたため、腫瘍の完全切除 は不可能であった。切除標本の病理組織学的検査では、H.E像では悪性線維性組織球腫 様にみえたが、CAM 5.2強陽性で電顕像も腫瘍細胞は長い微絨毛を有しており、肉腫型 の悪性中皮腫と診断された。我々の調べ得た範囲では、心膜由来の肉腫型悪性中皮腫は 本邦報告例がなく、極めて稀と考えられた。 Key words:心膜由来、悪性中皮腫、肉腫型。 はじめに 悪性中皮腫の発生部位は胸膜、腹膜が大部分を占め心膜由来のものは稀である。また 組織学的には上皮型、2相型、肉腫型の順に多いが、心膜由来の悪性中皮臆で肉腫型の 本邦報告例は我々の調べた限りではない。今回我々は心膜由来と考えられた肉腫型悪性 中皮腫の一例を経験したので報告する。 症例 症例150歳、男性。 既往歴:47歳時より気管支喘息。 家族歴:特記すべきことなし。 職業:ガス会社役員。 現病歴11999年7月上旬より37℃台の発熱あり、近医で不明熱で経過観察されていた。 10月1日のCT検査で縦隔腫瘍を指摘され、10月4日当院内科入院となった。10月19日 胸腔鏡下に右胸腔より腫瘍浸潤部の縦隔胸膜の生検を施行した。生検では悪性線維性組 織球腫が疑われた。11月11日、手術目的で外科転科となった。 入院時身体所見:体温37.8℃。表在リンパ節は触知せず。浮腫も認めなかった。呼吸音 は正常であった。 血液検査所見(内科入院時):WBC 11400/mm3, CRP 12.47 mg/dl,Fibrinogen 800mg/dtと炎症所見を認めた(表1)。 胸部単純X線所見(内粍入M時):右第一弓の縦隔陰影のわずかな突出を認めた(図1)。
山梨肺癌研究会会誌 13巻2号 2000 胸部CT所見:上行大動脈右縁に径3cm大の低吸収域の腫瘍を認めた。同腫瘍は背側で 上大静脈を圧排し、一部で上行大動脈の前面から左縁で肺動脈との間に回り込む様に存 在していた(図2)。MRIも同様の所見であった。 上大静脈造影所見:上大静脈は圧排は受けているものの、圧排部より末梢の静脈の拡 張はなく、血流は維持されていた(図3)。 10月19日胸腔鏡下に右胸腔より腫瘍浸潤部の縦隔胸膜の生検を施行した。生検では悪 性組織球腫が疑われた。 手術所見:1999年11月17日胸骨正中切開で手術を施行した。術中所見では、胸腺背 側、大動脈起始部の心膜が腫瘍に置き換わり心膜内側で大動脈起始部に浸潤し、心膜外 側では胸腺に浸潤していた。さらに背側では上大静脈に浸潤、大動脈前面より大動脈左 側に回り込み、肺動脈との間に浸潤していた。右側では右の縦隔側壁側胸膜に達してお り、胸腔鏡下に行った腫瘍生検の部位と思われる壁側胸膜に右肺上葉の一部が癒着して いた。同部位は壁側胸膜とともに右肺上葉の部分切除を行った。当初上大静脈の人工血 管置換術を含めた腫瘍切除を予定していたが、大動脈起始部に浸潤していたため、根治 的切除は不可能と判断し、浸潤をうけた上大静脈の壁を残し腫瘍を可及的に切除した。 腫瘍は、大動脈起始部、上大静脈前面、大動脈左縁に残存した(図4)。 摘出標本所見:胸腺浸潤部の胸腺とともに腫瘍を摘出。全体として約10x8x5cm程 のmassを形成していた。前方から見て胸腺背側の大動脈基部で心膜は腫瘍に置き換わ り、胸腺に浸潤していた。背側からみると腫瘍の右側は縦隔側壁側胸膜に達していたが、 腫瘍が胸膜に露出していたのは、肺を部分切除した生検部のみであった(図5)。発生 部位は肉眼所見からも胸膜とは考えにくく、心外膜の壁側葉を広く巻き込んでいたこと から、心膜原発と考えられた。 病理組織学的所見:H.E染色では多形性に富む紡錘状細胞やpol ygonalな大型の腫瘍細 胞がstoriform pattern様の構造をとっていた。腫瘍内にはリンパ球や形質細胞の浸潤 が目立っていた(図6)。また場所によっては淡明で豊富な細胞質をもつbi zarreな大 型細胞が主となっており、mitosisも多く見られた。腫瘍辺縁では胸腺組織や脂肪組織
に腫瘍の浸潤が認められた。術前の生検組織と同様な所見で、H.Eのみからは
malignant fi brous hi stiocytoma(MFH)が最も考えられた。しかし、免疫染色で は上皮性のマーカーであるCAM 5.2陽性(図7)の他cytokeratinが陽性でepithel i al 起源のMFHと類似の組織像を呈する疾患として、 mal i gnant mes ot hel i oma,thymi c carcinemaが鑑別となり、電顕を施行した。 電顕所見:ごく部分的に基底膜様物質が認められ、細胞間には小型の未熟な接着装置 が少数認められるが、明らかなdesmosomeはなかった。腫瘍細胞には細長いmicro v川iが散見され、このようなsarcomatousな細胞に細長いmicrovi川が認められ点で 腫瘍の存在部位と合わせmalignant mesotheliomaと診断された(図8)。 術後経過:術後経過は良好で、残存腫瘍に対し1ineacを開始し1999年12月3日退院。 外来と合わせtotal 40Gy縦隔に照射した。退院後再度発熱が見られ2000年1凋13日再 入院となった。再入院後施行したCT検査で、上大動脈左縁に残存した腫瘍の増大、胸 水とともに、両肺に渡る多発肺転移、肝転移、腹水貯留が認められた(図9)。その後平成12年10月1日 全身状態も急速に悪化し3月29日永眠された。 考察 悪性中皮臆は稀な疾患で100万人に1∼2名が本症で死亡していると推定されている1)。 悪性中皮腫は被膜に覆われ限局性に発育し比較的予後の良い限局性悪性中皮腫と、本症 例のような極めて悪性の経過をたどるびまん型悪性中皮腫に分類され、さらに組織学的 形態より上皮型、肉腫型とそれらが混合した2相型に分類される2)。びまん型悪性中皮 腫は40から60歳の男性に多いとされ2)、ほとんどアスベスト曝露が関係していると言 われている3)。本症例ではガス会社を経営しており、若年時より何らかのアスベスト曝 露があった可能性もあるものと思われる。診断は本症を疑った場合、上皮型には胸水中 のピアルロン酸高値が参考になるが4)、本症例のように術前胸水貯留がなく、肉腫型で は意義がないと考えられる。様々な画像診断を用いて部位診断は可能だが、確定診断に は生検が不可欠とされている5)。本症例の組織診断ではstoriform patternをとる sarcomatousな細胞の増生よりMFHとも考えられたが、 CAM5.2などの上皮性マーカー が陽性であった事に加え、電顕像で特徴的とされる長いmicroviIlin 4) eの存在を確認 したことより最終的に悪性中皮腫と診断した。発生部位は胸膜、腹膜で959似上を占め 心膜由来のものは数%にすぎない6) n。この中でも肉腫型は少なく10から20%の頻度で あった6)。私たちの調べた限りでは、本邦に心膜由来の肉腫型悪性中皮腫の報告例はな く、本症例は極めて稀な症例と思われた。予後は極めて不良で、化学療法、放射線療法、 手術療法を含め著効例はなく、平均生存期間は4から6カ月で最長生存期間が2年と言わ れている7)。本症例も腫瘍残存のためできる限りの事をしたいという患者さんの希望も あり、術後放射線療法を試みたが効果なく、約4カ月半で急激な経過をたどり死亡され た。 結語 極めて稀な心膜由来と考えられた悪性中皮腫の一例を報告した。 謝辞 電顕標本及び電顕写真を作成下さったBML総研に感謝いたします。 文献 1)Berry,G:Epi demiol ogy of mesothel i oma.(Tattersal 1,M. ed.)P revent i ng Cancer.Australian Professional Publications,Sidney,1988:35−44 2)Robbins,S:Basic Pathology. Saunders internal edition,1981:415−416 3)Selikoff,LJ. :Asbestos−associated disease.Public Health and Preventive Medi cine,11th ed.,(Last,J.M. ed、,) ApPleton−Century−Crofts,1980:568−644 4)西山みどり、山崎志寿子、高橋 剛、他:悪性中皮腫と肺腺癌の鑑別について、 日本臨床細胞学会雑誌 1996;35:409−418 5)森 公介、岸本卓巳:原発性心膜悪性中皮腹の一例、肺癌 1995;35:795−801 6)鈴木康之亮:びまん性悪性中皮腫、病理と臨床 1996;14:1433−1441 7)佐々木正道、北川正信、森永謙二:ぴまん性悪性中皮腫の病理、病理と臨床
1999;17:1111−1116
[1」梨目卍鼻言日ド究会会、じと、 13巻2 U’ 2000 TP AIb T.Bil D,Bil AST ALT ALP LAP r−GTP BUN Crtn Na K Cl 7.6 3,6 0.89 0.26 93110 2420 323 1590 18.5 0,57 134.4 4,5 97.4 血液検査所見 9/dl 9/dl mg/dl mg/dl lu/1 1U/l Iu/1 1U/l lu/l mg/dl mg/d「 mEq/l mEq/l mEq/1 表1 WBC RBC Hb Ht Plt HBs−Ag HCV−Ab 11400 3.40 11.0 32.9 210 (一) (一) AFP 1.6 PIVKA−1[ 10 CEA 2,3 CA19−9 ↑52.6 DUPAN−ll 140 SPAN− 1 32
1ぎ響雛:
103/mm3・驚「 . ng/ml mAU/ml ng/ml U/ml u/ml U/m1 る・ Il,1 忌 § 1 箔 c / さ図2
図1 :」 ; 硲 ” 1[ ぷs’ ∨ 9 騨灘、 F押 fii、3ぷ
ξ・ 墓「 惣 ユ塞芯[ 図3 ㌣ 籏 裂 て51 .、 tt [ シ、 澄灘 裟 楊 %濠多 図4廟
c、岐平成12年/0月1日 icAAI ∫μい 1“‘伽 叶