中学校における人間関係学習プログラム : 総合的な学習「ベース」の計画,実施と評価の検討
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第58巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.58,No.1. 平成19年8月 August,2007. 中学校における人間関係学習プログラム ー総合的な学習「ベース」の計画,実施と評価の検討−. 戸田 まり・市川 恵幸*・三浦 英悟*・喜多山 篤*・佐藤 郁子*. 北海道教育大学札幌枚心理学研究室 *北海道教育大学附属札幌中学校. LearningInterpersonalRelationshipsinJuniorHighSchool: Design,Exercises,andAssessmentof“BASE”programasapartofPeriodofIntegratedStudy. TODAMari,ICHIKAWAYoshiyuki*,MIURAEigo*,KITAYAMAAtsushi*,andSATOIkuko*. DepartmentofPsychology,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *sapporoJuniorHighSchooIAttachedtoHokkaidoUniversityofEducation. 概 要 総合的な学習の時間を利用し,中学校において生徒の人間関係形成力を高めるための実践を行い,その成 果と課題について検討した。すべての内容を終えた時点で,授業を受けた生徒,および関わった教師に対し て半構造化面接を行い,このようなプログラムの影響と自分の変化等についてたずねた。面接より,こうし た授業の導入によって生徒の行動が目に見えて大きく変化することはないが,「こうした方がよい」という 知識は確立されることが示された。そのことが繰り返し意識にのぼること,およびこの授業だけでなく学校 全体の研究主題が「協同」「学びあい」を重視したものであったため,相乗的に効果が現れ,全体的として 暖かく落ち着いた集団の雰囲気が形成されるのではないかと考察された。. 問 題 近年,学校で,児童生徒の人間関係能力を高め るために,さまざまな実践が試みられている(戸. 田,2006)。構成的グループ・エンカウンター (SGE)(国分,1972など),社会的スキルトレー. ともと個人あるいはグループでのカウンセリング. などで用いるよう開発された手法が,各地の学校 で授業あるいは課外活動などの一環として取り入 れられつつある。 このような動きの背景には,現場の教員が,子 どもたちの人間関係を築く力が低下しているので. ニング(SST)(佐藤・相川,2005など),アサー. はないかと危惧している実態があると考えられ. ション・トレーニング(平木,1993など)等,も. る。たとえばわが国の不登校率はここ数年,横ば. 295.
(3) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子. いで減少の傾向が見られない。数値の上では減少. かの詳細については明らかにならない。また,ア. しているように見えるが,子どもの数自体も減っ. ンケート項目が既に設定されていることも多く,. ているため,例を挙げれば中学校においては2.8%. 決まった内容についての暫定的変化しか捉えられ. 内外でほぼ一定の割合を占めている(学校基本調. ないことが欠点といえる。こうしたプログラムを. 査(平成18年度確定値),2006)。これは約36名に. 実施することで,児童生徒のどのような部分に影. ひとり,つまり各クラスにひとり程度は不登校の. 響が及んでいるのか,何が変わり,何は変わらな. 生徒がいることをあらわす。/ト学校から中学校に. いのか,弊害はないのか等の点について細かな検. 進学する際,不登校が激増する傾向も変わってい. 討を行うことは急務と思われる。. ない。また,深刻化するいじめが一因と考えられ. 本研究では以上のような問題意識から,中学校. る自殺も多々報道されており,対策が急がれてい. の「総合的な学習の時間」において人間関係形成. る。さらに少年刑法犯も不登校同様,数値的には. 力を高めるための学習を行った実践を報告し,担. 減少しているが,比率自体は10万人あたり1400名. 当した教諭と参加生徒への詳細なインタビューを. 程度で,ここ10年ほどは大きな増減なく推移して. 通して,プログラムの成果と課題について検討す. いる(平成18年版犯罪白書,2006)。. ることを目的とする。. こうした,いわゆる「問題」とされる行動をあ らわさない児童生徒であっても,子ども間,ある 授業の立案と実施. いは子どもと大人との間の人間関係がスムーズに 進まない印象は学校関係者の間に広がっている。 なんとなく人間関係がぎくしゃくする,トラブル. 1 研究実施校の総合的な学習について 研究実施校(以下,実施校と記載)の総合的な. が多い,友人をうまく作ることができず,大人の. 学習では,「人間関係形成力」と「情報活用能力」. 手助けが必要だといった,日常感じる人間関係調. の育みを軸としてカリキュラムを構成している。. 整能力の低下があり,このような感覚が各学校で. これらの能力は研究実施校生徒に限らず,また中. の取り組みを広げていると考えることができよう。. 学生に限らず必要となる能力であり,積極的に育. このような対人関係や人間性に関することがらは,. み,あるいは高めていかなければならないもので. 学校であれば,これまでは教科の授業や特別活動. ある。ここでの総合的な学習のねらいは表1の通. の中で,「自然に」身につけるものであった。しか. りである。. しそれだけでは足りない,あるいは今後,問題が. 広がるのを防ぐために,予防として積極的に人間. 表1研究実施校の「総合的な学習」のねらい. 関係についての学びを取り入れようとしているの が,近年の一部の学校の姿と見ることができる。. 先行する全国の学校では,さまざまな立場に基 づく多くの実践が行われているが,その評価は必 ずしも明確に行われているわけではない。おおむ ね良い効果が報告されているが,中には授業実践 だけで,評価自体がないものもある。大多数はプ ログラムを行った事前事後に参加者にアンケート. への記入を求め,その間の変化を検討する形を. 自分を取り巻く様々な情報に着目,活用する 中から課題を見出し,それを積極的に追究し,. 自己の主張を他者に向けて発信していく諸能力 や態度を身につける。また,社会や他者とのか かわりが自他の学びに有効であることを認識す る中で,自己を真撃に見つめ,自己の生き方を 考え,自己枠を拓きながら生きてはたらく力を 培うことができるようにする。. 取っているが,こうした形では一時的な変化の様 子を垣間見ることはできても,実際にその授業な りプログラムでどういう参加者の何が変容するの. 296. 実施校では,総合的な学習について,1年生は 「ベー ス」,2年生では「グロウ」,そして3年生.
(4) 中学校における人間関係学習プログラム. になると「リクエスト」という名称で学習をすす. ・他者とのかかわり合いの中から自己を見つめ直. めている。それぞれがねらいをもち,それを達成. すことを通して,「人間関係形成力」の育成を. するのに必要かつ効果的な活動を取り入れてい. 図る。. る。また「リクエスト」を学習の集大成の場と位 置づけ,「ベース」や「グロウ」はもちろんのこと, 必修,選択教科や道徳,特別活動との関連や系統 性なども考慮している。. ・生徒が主体的に行う問題解決のための体験的活 動を通して,「情報活用能力」の育成を図る。. 1年を前後期に分け,前期は「かかわるとはど のようなことか」をテーマに「人間関係形成力」. の育成を中心とした活動を取り入れる。そして, 2 1年生の総合的な学習「ベース」について. 後期は前期で培ったさまざまな知識や技能などを. (1)「ベース」創設の経緯. 積極的に生かしながら「情報活用能力」を高める. 「ベース」は,その言葉の意味が示すように,「人. ような手だてを組む。なお,本論文では,人間関. 間としてよりよい生き方をしていくための土台」. 係形成力についての部分を取り上げる。. や「中学校での全ての学習活動の土台」,さらに「2. (3)研究推進体制. 年生・3年生の総合的な学習の時間の土台」とな. 「ベース」を実質的に担当するのは1年生所属. る力を,他者とかかわり合いながら,さまざまな. の教師であるが,実施に至るまでの計画立案につ. 活動を通して生徒自身が身につけていく学習であ. いては,著者らが中心となって行った。 もちろん実施校全体の研究理論との整合性も図. る。. 平成16年皮までの1年生の総合的な学習の時間. る必要があるため,推進経過については実施校の. は「ツール」という名称で,情報活用能力を高め. 研究会議において報告している。また,その研究. るために必要な「リテラシー」を育む場としての. 成果を広く周知するため,実施校の研究大会や学. カリキュラムが組まれてあった。しかしながら,. 校説明会において授業を公開した。*1. 実施校の研究主題が「『共にあゆむ学び』をめざ して」となり,他者とのかかわりを通して学ぶこ とを重視されるようになるに伴い,人間関係を作. 3 人間関係形成力に関する授業計画 「ベース」の人間関係形成力に関する授業につ. り上げていく能力も高める必要がでてきた。それ. いては,以下の順で構成した(後述の表3参照)。. は,生徒の実情,つまり,「他者と上手に人間関. a)自己理解と自己・他者受容. 係を築くことができない」,あるいは「面倒くさ. 学年(中学校生活)の始まりにあたり,学級の. い(できれば,当たり障りのない関係でいたい)」. 人間関係がスムーズに進むよう,支持的風土を作. という傾向が見られること,そのために「他者は. ることを目的とする。各自が自分を振り返り,欠. 自分を必要としていない」という自己有用感が低. 点ではなく自他の長所に目を向けること,他者か. くとどまっていることを危惧してのものであっ. ら受容される体験をすることなどが盛り込まれて. た。そこで平成17年度から,情報活用能力を育む. いる。. ことと同時に,人間関係形成力を育むことも重視. b)「思いこみ」の修正. しなければならないということになり,新たに 「ベース」を創設することにしたのである。 (2)「ベース」のねらい 「ベース」のねらいは,以下の2点である。. *1. 些細なことで誤解を生じ,対人関係トラブルを おこしやすい時期であることをふまえ,異なった 立場を理解する(他者視点取得)ための活動を取 り入れる。. なお、読売新聞北海道版にて連載された「ベース」の取り組み(平成17年度の授業)については、『北海道の学校で』(読. 売新聞北海道支社・2006.5刊)にまとめられている。. 297.
(5) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子. C)アサーション・トレーニング. 相手を傷つけたり,必要以上に自分を抑制せず. あるいは人間関係の中の緊張をほぐす目的で行う. ものである。一方,生徒は「コミュニケーション. に自己主張する「アサーション」の考え方を学び,. を深めるもの」としてとらえているようである。. 身近な事例を通して疑似体験(ロールプレイ)を. このことは,アイスブレーキングの活動そのもの. 行う。. が,人間関係形成力を高めるひとつの手段として,. d)ストレス・マネジメント. 効果的に活用できているといえるだろう。. ストレスの機序や個人差について理解し,リラ. 1年生が行ってきた「アイスブレーキング」と,. クゼーションの方法を学ぶ。ストレス・マネジメ. その感想を紹介する。. ントについては,直接的に人間関係を円滑にする. [衰垂套可「同じ鼻歌を歌っている人を探そう!」. ための内容ではないが,よりスムーズな対人関係. 生徒全員に「誰もが知っている曲名」が善かれ. を導く基礎としてここで取り上げている。. たクジを引かせ,その曲を“鼻歌’’で歌い,同じ. e)協同作業. 歌を歌っている仲間を探す。生徒からは「人は個々. グループで協力しないと解決できない課題に取. が通じ合えば,言葉がなくても仲良くなれる!と. り組むことを通して,ランダムに組み合わされた. 気づいた」「とてもうれしい気持ちになれた。な. 他 者と協力して課題を達成する体験をする。. ぜなら学年でまだ一言もしゃべったことない人と. 「ベース」では大多数の授業において,導入と. しゃべれたから,しゃべったことによって知らな. してアイス・ブレーキングが活用された。また生. かった人が友達になるから」といった感想があっ. 徒は毎回,各授業ごとにA4版の「気づき・築き. た。. シート」に自由に感想や意見などを記入するよう. [衰垂套耳「この人は誰?」. 求められた。これには罫線だけが印刷され,日付. 教室内に散らばり,一対一で向き合いワーク. とその日の内容(タイトル),意見等を書き込む様. シートに善かれた質問(スポーツは好きか,楽器. 式になっている*2。授業はすべて第2∼第5著者. は演奏できるか)に合う人を探し,見つかったら. のいずれかにより立案され,当該学年の教諭全員. サインをもらう。生徒からは「自分の趣味や住ん. で討議し,実践,協力する形を取った。なお,「e). でいるところをお互いに聞きあったりして,たく. 協同作業」は,平成18年度のみの実施である。. さんの人とうちとけることができた」「いろいろ. な人に質問していると,いろいろ発見したりする 4 「ベース」の実践 ここからは平成17,18年反共通の「ベース」,. ことがあるので,同じものが好きということでな かよくなれるかもしれない」といった感想があ. 特に「人間関係形成力」の育成をめざした実践例. がった。. を紹介する。. [衰垂套耳「言葉を使わず誕生日順に並ぽう」. (1)活動をより効果的なものにするために∼アイ. 手と目と表情で,クラス全員が誕生日順に並ぶ。. スブレーキングを取り入れた実践([衰垂可∼. 生徒からは,アイスブレーキングを数回やってき. 懐践3)∼. た成果ともいえる,「人とのコミュニケーション. 授業の開始時に,しばしば「アイスブレーキン. ができてよかった」といった感想があった。. グ」を取り入れている。これは生徒の個々の緊張,. *2 「気づき・築きシート」については以下のようなねらいがある。. 学習の過程で、生徒は今まで意識していなかった自分自身の気持ちや考え方に気づいたり、相手の新たな面に気づいたりする。 そして、この気づきは自分の内面に「築いていく」ことになる。そこで「気づき・築きシート」を用いて学習の終わりに学び の足跡を残していくことにした。これはシートを適宜振り返ることで自分の成長を実感することができるという効果をうむ。. 298.
(6) 中学校における人間関係学習プログラム. (2)自己理解をすすめるための実践(直垂司∼. 自分をどう感じているか. ■よく恩う田ときどき思う □あまり思わないヨ全然恩わない. 懐践4). 3コマを前後半に分け,前半(1コマ)で「自 分自身を知ろう」,後半(2コマ)で「あなたの. 自分を成よさせたいと思う 今の自分が好き 自分の価■紳じている る る 人生うまくいってい う 自分のことをダメだなあと息 いるんなことに自信がある 別の人間に生まれまわりたい =■再〒がたくさんあ. よさ,自分のよさ」と題し,自己理解をすすめる ための学習を行った。 「自分自身を知ろう」でのねらいは,自分の性 格を振り返ることにより,自分自身をよりよく知 ることである。さらには,自己理解することの難. 0,(. 2引(. 5(】%. 75%. 100Ii. 図1 自分をどう感じているか. しさを実感することにある。 「あなたのよさ,自分のよさ」でのねらいは, 自分自身で考える「自分らしさ」と,他者からみ た自分への見方のズレに気づくこと,他者のよさ を見つけ認めることができること,そして他者か ら見た「あなたのよさ」を自分のよさとして受け. 止めることができることにある。 授業の導入において,「これからどのように他 者とかかわっていきたいのか」という題で書いた 作文(表2)と,4月に1年生全員(男子62名, 女子63名)に実施した「自分をどう感じているか」. というアンケートの結果(図1)を公表した。 [衰垂耳「自分自身を知ろう」. ①「自分らしさを書こう」という課題で,自分の 「性格」を10個ワークシートに記入する(図2)。 ②これこそ自分らしいと思う「性格」を3つ選び,. 図2 日」理解のためのワークシート. 短冊に書いて台紙に貼る。 ③生徒が3つの「自分らしさ」を紹介し,意見交 流する。図3に得られた気づき,感想の例を示す。 表2 生徒作文の例. …まず,自分の良いところ“長所”を見つけ, 私自身を知り私のことを好きになる。そうすれ ば同じ方法で,相手のことを知り相手のことを 好きになれるハズ。長所があれば頼所もある。 でも短所があれば長所がある巨相手をきらえ. ば,相手も私をきらう。なので相手の長所を探 し見つけ,好きになる。それが他者とかかわる うえで一番大切なことだと思います。(後略). 図3 生徒の意見・感想の例. 299.
(7) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子. ①については,生徒にとっては難しい課題だっ. でも班のメンバー全員に書くことであったが,班. たようである。適宜教師の指導援助が必要となっ. や学級の枠を越えて,たくさんの人にメッセージ. た。③については,「00くんらしさにぴったりだ」. を送りたいと希望する生徒が多く,活動を拡大し. 「いや何か違う」といった意見から,「自分が思っ. ていくことにした。. ている『自分』と,他者から見える『自分』は違. ④については,「今まで気づかなかったあなた. うのではないか」という疑問が生まれていた。こ. のよさ」を書くことから,書いてもらって自分が. れは次時へつながるものとして全体で取り上げる. 嬉しい気持ちと,他者を嬉しいと思わせる気持ち. ことになる。. の両方を味わっていた。. [衰垂套耳「あなたのよさ,自分のよさ」 ①6人のグループで,自分が選んだ「自分らしさ」. なお,この活動後に第一著者による「自己理解」 についての講義があり,学習活動の意義を成果を. について互いに3種類のシール(「あなたらし. 理解することとなった。. い!」には緑のシール,「えーそうかな?」に. (3)アサーティブな自己表現([衰垂憂耳∼. は赤シール,「わからないな…」には黄シール). 懐践8). を貼ることで評価し合う。その後グループで交. 自己表現の仕方として,「攻撃的」「受動的」「主. 流する。他者の様々な評価に,自分が思う「自. 張的」の大きく3種類に分けることができる。こ. 分らしさ」と他者から見た自分にはずれがある. こでは,望ましい自己表現である「主張的(アサー. ことに気づくことになる。. ティブな)自己表現」の仕方を,ロールプレイに. ②数名の生徒が,評価を受けて考えたことや感想 などを発表し,全体で交流する。 ③学年全体で,できるだけ多くの人に「00さん のよさ」をハート型の付箋に書いてもらい,背 中のボードに貼り合う。(写真1). ④貼られた付箋を見て,他者から見た自分のよさ. よって体験しながら,理解を深め,実生活におい て活用できるよう授業を組んでいる。 [衰垂套耳 3つの自己表現. ①ある漫画の一部分を読む。最後にある空白のふ きだしに自分ならどう言うかを考え短冊に書 く。(息子がプロ野球選手になることを夢見て. を知り,受け止め,自分を振り返りながら考え. いる父親が,漫画家志望の息子が描いた作品を. たことをワークシートに記入する。(写真2). 怒って破り捨てる場面であり,それに対して子. ①については,赤や黄色のシールが貼られるこ. どもがどう言うかを考えさせる。). とで,自分が思う「自分らしさ」と,他者から見. た自分にズレがあることに気づく。性格のプラス 面に緑が貼られたり,マイナス面に赤色のシール. ②男女2人でペアをつくり,考えたセリフを使っ てロールプレイを行う。(写真3) ③生徒個々が考えたセリフは多様であるが,数人. が貼られるならば,生徒にとっては嬉しい評価と. のロールプレイを見て自己表現の仕方は3つに. なる。しかし,その道であれば,自分の書いた「自. 大別されることに気づく(図4)。. 分らしさ」であっても,納得のいかない評価とな. ④3つの自己表現の特徴をとらえ,それにふさわ しい,ネーミングをつける。. る。 ②については,納得がいかない,あるいは残念. よ窟i;≡モ忠﹁りでー′=q自己卓心力. くぉら︰u〓=こ7要衝に克∋亡んて. ,具体的な表現で「いい. ところ」を書くようにする。最初の指示は,最低. 300. ・■■■.←− ∵l・■l・一こ ㌧ 与謀ょうルんの小よド 八こけ人伝′色や仇!. ◇でいい」というように. 打夢ⅥもL官オレに闇傾fiりkん・・. ③については,「00さんは□□なところが◇. いい棚減にレ㌔台労の壇捏だけ. な活動につなげる。. 押レフけん巧まげぞホて☆乞L. 思いに共感することで,その思いを軽減するよう. ノ百分の恵んだL夢荒漠かknオレ畠 ノ卑じ†れ′○. だという部分を発表するよう促し,全生徒がその. 図4 生徒の考えたセリフの分類.
(8) 中学校における人間関係学習プログラム. 写真1 実践5の③ 他者の「良いところ」をハート形の付箋に書き,. 相手の背中のボードに貼っていく。この時点では自 分がどんな風に善かれているかわからない。. 写真4 実践7の② 架空の物語を題材に,立場が異なるペア(教師と 生徒)のロールプレイを行う。演技の上手下手では なく,言いたいことが自己表現できるかを見るよう 指示。 【■ ● ‥. ■ノ /. .. ′一/. r ′. ′/. ∵... ノ. 写真2 実践5の④ 貼られた付箋を読み,他者から見た「自分の良さ」. を知る。. 写真5 実践7の③ ロールプレイの感想を交流,居丈高や攻撃的でな い自己主張の方法を考える。. ヅ. 廟痢. .納める ・朋子りろっ乳て晩出る ・新の立身(かかゎらす締葛生諷. し耳き、互い ・〉今勝て仏て底泥死線t耳る. ・姉ヒ弛も恥勃仝で索折る 写真3 実践6の② 漫画を題材とし,中に措かれた父と子の会話の続 きを考え,ロールプレイを行う。. こ−−−−・ .:l. _. ._. 写真6 実践8の② 対等な友人同士の間でのロールプレイを実施,改 めて上手な自己主張について考える。. 301.
(9) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子 [衰垂司 アサーティブな自己表現①. での学びが学校生括に活かされ始めていること. (丑「ある朝の教師と生徒の出来事」を読み,その. は,大きな成果である。. 文章の続きになる教師同士のロールプレイを見 る。 (教師のロールプレイは「攻撃型」−「受動型」. 「ベース」での学習内容が生徒一人一人の日常 生活と直接関わっていけるようにするためには,. 評価方法の確立が急務である。そして,「ベー. で行う。教師のロールプレイを見ての感想を数人. を確かな「人間としてよりよい生き方をしていく. に発表させ,ロールプレイの評価の視点を伝える。. ための土台としていくことが今後の課題である。. 演技の上手い下手ではなく,「攻撃型」や「受動型」 の自己表現ができているかを見る。) 授業の評価. ②4人でグループをつくり,教師が演じた部分の. シナリオを自分達で作り,ロールプレイをする。 ・1回目は「教師:攻撃型 一 生徒:主張型」 ・2回目は「教師:主張型 一 生徒:主張型」 *演じていない2人は評価を行う。(写真4). ③ロールプレイをしたり見たりして,考えたこと. 1 全体を通しての授業の構成 前節で述べたとおり,「ベース」の人間関係形 成力に関する部分の構成は,表3のようになる。. 異なる小学校から進学してきた者が一堂に会する という中学1年生の現状と発達段階を考え,自己. や感想を交流し,主張)型の自己表現に必要な. や他者を知ること,暖かいコミュニケーションを. ことを考える。(写真5). 通して学級や学年に支持的な風土を作ること,ス. [衰垂耳 アサーティブな自己表現②. 日常にある友達同士のトラブルの原因を考え,. トレスをさまざまな形で解消できるよう方向づけ. ること,後半では知らない者同士のグループでも. 具体的なトラブル場面の資料を読む。. ひとつの課題に向けて協力する機会を作るなどの. ①4人でグループをつくり,碇示した場面を想像. 点が考慮されている。. して即興でロールプレイをする。. ・1回目は「A:攻撃型 − B:受動型」 ・2回目は「A:主張型 − B:主張型」 ②ロールプレイをしたり見たりして,考えたこと. 2 授業の評価方法 「人間関係形成力」の部分がすべて終了した2006. 年12月∼1月に,このプログラムにかかわった教. や感想を交流し,主張型の自己表現に必要なこ. 諭および参加生徒に対し面接を行い,授業につい. とを理解する。. ての評価,授業による影響などをたずねた。面接. ロールプレイやその後の話し合い活動を通し. はすべて第一著者が行った。. て,生徒は確実に「より望ましい自己表現の仕方」 を体得し,理解を深めたのではないだろうか。(写 真6). (1)生徒面接の手順. 授業を受けた生徒を無作為に選び,放課後を利 用して4∼6名ずつのグループ面接を行った。面 接協力者は今年度授業を受けた1年生24名(男子. 4 成果と課題 「ベース」の授業の中では,以前に取り上げた 題材と関係を持たせた意見が多く出る。例えば, 「相手のいいところをもっと見つける」といった. 13名,女子9名)である。また昨年度の授業を受 けた2年生(男子名,女子名)計23名についても,. 1年前の授業について同様の面接を行った。1グ ループは男女混合の4∼5名で構成され,1回の. 内容は,「自己理解」や「アサーティブな自己表現」. 面接の所要時間は約20分であった。「ベースの授. など,どの題材においてもでている。それと同じ. 業改善のために,楽しかったこと,抵抗があった. ように日常生活においても,1日の目標が「主張. こと,自分への影響などについて意見や感想を聞. 型で生活する」という内容であるなど,「ベース・. かせて欲しい」という教示を行った。さらに成績. 302. ス」.
(10) 中学校における人間関係学習プログラム 表3 授業の大まかな流れ(平成18年度版) 学習内容. 番号 タイトル(目的) a) 自己理解①. 体験内容. 自分をどう感じているか 簡単な自己評価アンケート. 20答法(10答に変更). 自己評価アンケート. 10答法の記入. 自己評定について他者から評価 a) 自己理解②. b) 思いこみ①. 時数 例 1 実践4. 構成的グループ・エンカウ ンターのエクササイズを応 2 実践5 用. 他者の長所を探し,伝える実践 自己理解について講義 架空日記を題材に,「思いこみ」が 人間関係を悪化させる例を体験. 新規に作成した架空事例 前時を受け,誤解が広がる. の交流 偏見等のメカニズムについて. 経過やその時の気持ちを理 解する。 日常での具体例への般化を 促す. C) アサーティブな表現①. 自己表現の種類を理解 ロールプレイのルールの理解. ロールプレイ. 2 実践6. C) アサーティブな表現②. 具体的な例示場面を通して,親や教 師など目上への自己表現を練習する. ロールプレイ アサーション・トレーニング. 2 実践7. C) アサーティブな表現③. 具体的な例示場面を通して,友人同 士での自己表現を練習する. ロールプレイ アサーション・トレーニング. 2 実践8. d) ストレス①. ストレスについての理解 ストレス内容の個人差. ストレス・レーダーチャー トの作成 他者との比較. d) ストレス②. ストレス反応と対処の理解①. リラクゼーション. d) ストレス③. ストレス反応と対処の理解②. 「思いこみ」について,自らの体験. b) 思いこみ②. e)協同作業. 1. 1. ンル ̄プ殺人事件」滝. 2. ,. 表注)a)以前に「ベース」全体の目的や前年度の実践などについて理解する時間等が設定されている。実践1∼3,およ び同様のアイス・ブレーキングについては,各時間の開始時に随時,行った。詳細については,北海道教育大学附属学 校園協同教育研究会・北海道教育大学附属札幌中学校(2006)を参照。. とは関係なく,各自の発言も匿名性が守られるこ. 全体の構成がまだ固まっていなかった2年生の回. とを説明し,参加者全員の許可を得てテープ録音. 答は,やや否定的なものもあるが,今回報告した. を行った。. 内容で行った1年生については,肯定的な評価が. 面接内容として以下の5点を設定した。 ①現在記憶に残っているベースの内容. 多かった。. 記憶に残った内容としては,1年生では記憶が. ②楽しかった内容. まだ新しい協同作業,ストレスをあげる者が多. ③抵抗感や不快な気持ちを覚えた内容. かった。2年生は1年以上前のことを尋ねている. ④ベースで取り上げた内容の日常生活への影響. ため,明確な内容を挙げた者が少なく,グループ. ⑤ベースで取り上げた内容が友人に影響を及ぼし. の他のメンバーの発言に対し「自分もそうだった」. ていると思ったことはあるか. 「言われていま思い出した」等の回答が多かった。. 半構造化面接であり,ほぼこの順で質問を行っ. 授業の自分に対する影響については,やはり記. たが,発言や話題の内容と方向によって順番が異. 憶の新しい1年生の方がより多くの内容を述べ. なることもあった。. た。特に「教師から『ベースでやったね』という. (2)生徒評価. 意味のことを指摘されると,その時に思い糾して. 表4に生徒評価のまとめを示す。初年度で授業. 内容を反奏する」という内容は複数が指摘してい. 303.
(11) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子 表4 生徒面接の概要 質問内容. 記憶に残った内容. 主な回答(1年:平成18年度). 主な回答(2年:平成17年度). 自己理解(2名). 自己理解(2名). アサーション(1名). アサーション(8名). ストレス(5名). ストレス(4名). 協同作業(11名). 発表会(4名). 影響について述べた者8名 ・他者から指摘された長所を伸ばそうと 思った ・教師から言及されると思い出す ・日常でトラブルがあった時,ふと思い出. す ・学習した内容を日常で実感できた 授業の自分に対する影響. ・いずれも明確な回答ではない 「ない」「わからない」と答えた者9名. ・頭ではわかったが,実際に日常生活では. ・あったとしても自分も周囲も成長・変 化しているのでわからない ・一部は既に知っている内容だったので あまり影響がない. できない ・小学校時代の友人に変わったといわれた ・(ポジティブな内容が多いので)授業が 終わった後,プラス思考になる. ・先生から「ベースの学習が生きてるね」 と言われるが,自分たちでは自覚がない ・学んだストレス解消法を実行している (2名). 他者についてはよくわからないという回答 が主であった 授業の他者に対する影響. 「ない」「わからない」4名. 「影響を受けた人もいると思う」1名. 影響について述べた者2名. ・集団の中で課題達成に向かって努力しよ うと行動する人が出てきている 授業の目的がよくわからない 気づきシートやワークシートの記入時間が 授業への提言. (3名). 短い(3名) もっと(自己を見つめるよりも)学校外 今以上にいろいろな人との交流の場が欲し に出ていくような内容をやりたい(2名) しヽ 進度が遅い教科に時間を割いて欲しい (1名). 表注)全員が必ず何かを答えたわけではないので,人数の合計は面凝着数とは一致しない。. た。また,日常のさまざまな場面で学習したこと. 表5は,それぞれの授業に対する生徒の評価で. を思い出すという発言もあった。2年生では,プ. ある。どの内容についても「面白かった」「楽しかっ. ログラム全般に対する発言が多く,特に授業の目. た」と答える者と,「抵抗があった」「面白くなっ. 的がはっきりしないので否定的な気持ちを持つと. た」と答える者が存在する。協同作業について述. 答えた者が複数いた。これは初年度であったため,. べたのは1年生だけであるが,この課題について. 実施する教師側も手探りで授業を作り上げる段階. はほぼ全員が非常に評価が高く,やってよかった,. であったことが,生徒に影響したものと思われる。. 楽しかった,親しくない人とも協力しあって課題. まわりの友人など,他者に対する授業の影響は. に取り組めたという指摘が多かった。またロール. あまり考えられない,わからないと回答する者が. プレイを頻回に取り入れたアサーションでは,楽. 多かった。また授業への提言として,ワークシー. しかった,周囲もみな楽しんでいたという意見が. トなどの記入時間が短いという不満は多くの生徒. 多かった反面,一部に「自分のことを話すのに抵. が述べていた。2年生では,書くことへの面倒く. 抗がある」「ロールプレイを行うこと自体に抵抗. ささ・抵抗感なども言及された。. がある」と答えた者もあった。ただし,抵抗があ. 304.
(12) 中学校における人間関係学習プログラム 表5 各取り組みに対する生徒評価. a)自己理解 b)思いこみ C)アサーション d)ストレス e)協同作業 個人によりスト レスが違うとい うのが面白かっ た. 相手にしかわか らない自分がい たので面白かっ. すごく楽しかっ. た. 面白かった. 面白か. た. 共感できた. ロールプレイが ているかわかっ. 割に楽しかった わかった. 楽しかった. 指摘された自分 の長所をもっと 磨き上げようと 思った. 今まで話したこ とのない人と協 力できて面白か った. った理 なかったことが (種明かしが) を組んだので, 人によって感じ 由. 全般. 学年当初に仲の 方が違うことが よくなった人と 一緒にやれて良 かった で考えないよう 面白かった にしたいと思っ た ストレスデータ. インパクトがあ った. 一人ではやれな いことをみんな でやるというの が良かった 他者と協力でき たのが良かった 課題解決はでき. かし時間が短か った). なかったが楽し かった. この授業をきっ かけに友人がで きた. かった. ロールプレイを やってない人が いた. 自分のことを話 すのに抵抗があ. 抵抗が. あった. あまり他者から った 評価を受けない 人もいたので差 授業中に隣と情 ロールプレイ自 自分のことを話 別を助長するの 報交換し,事前 体に抵抗があっ すのに抵抗があ 自分はたくさん てしまったので 何のためにやる った(複数の意. 理由. 良かったが… ふざけたことを 書く人がいた. らなかった. 書くことが多く. て大変だった (発言多数). 道徳の時間との 相違がわからな しヽ. 何が評価される のかわからなく て,何もできな かった. 仲の良い人でな いとやりにくい 表注)「協同作業」では,抵抗があると述べた者はいなかった. る者には2年生が多く,1年では楽しいと回答し た生徒が大多数であった。この結果も,授業とし. あり,被面接者の許可を得てテープ録音を行った。. 教師に対する面接では,以下の5点について主. てこなれてきたかどうかと深く関わる部分である. としてたずねた。. と考えられる。. ①担当クラス(担任でない場合は,その学年全体). (3)教師面接. 教師面接は2006年12月下旬から2007年1月上旬 にかけて個別に行った。被面接者はこの授業を担 当した教諭,および当該学年の担任,元担任,計 6名である。各面接の所要時間は20分∼1時間で. の4月当初の雰囲気はどうであったか ②「人間関係形成力」についての授業をすべて終. えた時点で,その印象は変わったかどうか ③この一連の授業前後で,生徒の様子はどのよう. に変化した,あるいは変化しなかったと思うか. 305.
(13) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子 「ベー ス」で学習した内容が折にふれ言語化され. ④学級(学年)経営上,授業後に楽になった・難. て生徒の口から出るという発言も多かった。学習. しくなったと思われることはあるか. ⑤教科の授業をやっていて,他クラス生徒たちの 扱いが楽になった・. 難しくなったと思うことは. あったか. 内容が少なくとも知識的には身に付いているた め,キーワード的に使用することで全体がすぐに 理解できることも利点としてあげられた。. 生徒面接と同様の半構造化面接であり,ほぼこの. さらに,毎回,家庭を訪問したりして接触を続. 順で質問を行ったが,発言や話題の内容と方向に. けなければならない不登校の生徒が見あたらない. よって順番が異なることもあった。. ことも指摘されている。この点については年次変. (4)教師評価. 化の具体的な数値を得ることはできなかったが,. 表6に教師に対する面接の概要を示す。. 教員の印象として,そうした援助を必要とする生. たずねた内容は前項で示したように多岐にわ. 徒が近年はほとんど見あたらないという発言が複. たっているが,ここでは教師がとらえた生徒の変. 数聞かれた。. デメリットとしては,これも「ベース」の影響. 化,および学級担任や教科担任など,授業を行う. 者としてのメリット・デメリットについての回答. なのか,その年その年のカラーなのか区別ができ. を示す。. ないとした上で,暖かい雰囲気があるが,そのせ. 生徒の変化については,全員が「ベースの影響 かどうかはわからない」と前置きをした上で,「全. いで個性的なリーダーが育っていないのではない かという危慎も語られた。. 体の雰囲気が暖かくなった」「支持的な雰囲気が 出てきた」など,良い方向への変化を述べた。個々 全体的考察. の生徒の具体的な変化ではなく,全体としての「印. 象」であるという点が特徴的だと思われる。具体. 本研究では,敢えて他の先行研究のように設問. 的には,教科の中で共同作業を取り入れた時に特. に○×で回答する形式の事前事後アンケートを行. に問題もなくスムーズに進む,書くことを重視し. わず,実施者(教員)および参加者(生徒)に詳. たためか,他の教科にも良い影響があったという. 細な面接を行うことで授業の評価を試みた。. 生徒に対する影響では以下の二点が指摘され. 指摘があった。 また,行動としては特に目立った変化はないが,. る。第一に,授業により個々の生徒の行動が大き. 表6 教師による評価の概要 「ベー ス」で使用した用語などが日常的に使われている. 全般を通しての生徒の変化. 学級(学年)経営上のメリッ. ト・デメリット. 306. 他の授業でも,機会があると生徒の口からこの授業についての言及がある 行動は変わらないが,意識の上で大きな変化があったと思う 教師が考える以上に,生徒は「ベース」をさまざまなことに結びつけている 人間関係が良くなったという印象はある。「ベース」の影響かどうかはわからない 授業ごとに学級の雰囲気が良くなるという印象がある 当初,ぎくしゃくしていた学級が,お互いを受け入れる方向に変化した。ただしそ れが「ベース」の影響かどうかはわからない 対人関係でトラブルがあった時,「ベース」での既習事項をキーワード的に使うと, それだけで全員が理解できる 共同作業が楽にできるようになったが,「ベース」の影響かどうかはわからない 以前に比べ,不登校傾向の生徒が減少したように思う 教師が全面的に支えないと学校にとけ込めない生徒の数が減った印象がある 学年全体が暖かいが,同時に,突出したリーダーがいない印象がある.
(14) 中学校における人間関係学習プログラム. く変化するわけではないという点である。一部を. 授業ヤプログラムに抵抗を感じる者も存在する。. 除き,参加者である生徒自身はこのプログラムに. また,今回の面接では指摘がなかったが,何らか. よる影響をさほど大きくは感じていない。また教. の背景事情や障害のためにプログラムに参加する. 師側からも行動自体が劇的に変容したという指摘. だけの余裕のない者もあるだろう。そうした生徒. はない。しかし教師から見ると,「なんとなく全. たちにとってのメリットとデメリットを整理し,. 体に雰囲気が良くなった」「どこがどうとは言え. どこまでどのような形で参加を求めるかを考える. ないが,他者を受け入れやすい印象がある」といっ. ことも今後の課題のひとつである。. た言葉が何度か発言された。その根拠としては, 「授業で協同学習を行うのが楽になった」といっ. 最後に,マイルドな形での良い影響を示した今 回の人間関係形成力についての授業であるが,こ. た,「ベース」とは関係のない教科での授業の進. れが影響を持ち得た大きな理由を指摘しなければ. めやすさなどが挙げられた。この「何となく良い. ならない。実施校の研究主題は他者との関わりを. 雰囲気」の具体的な内容が何であるのか,今回の. 大切にして学習をすすめるという点を重視したも. 面接だけではっきり述べることはできないが,今. のであった。このことで,総合的な学習(ベース). 後,生徒の記述した各回の感想等を詳細に検討す. のみならず,すべての教科で「かかわり」「相互. ることで,より具体的に分析していきたいと考え. 作用による学び」が重視され,協同学習や学び合. ている。. いなどが奨励される結果となった。従って生徒が. 第二に,行動として表にあらわれる変化はさほ. 受ける他教科の授業が,全体として「協同」を強. どではなくても,生徒の意識の中にはここでの学. く意識したものとなり,このような科目に共通し. 習内容がかなり大きな位置を占めているという点. た基盤が「ベース」の影響力を強めた可能性があ. である。これは教師面接の中で「対人トラブルに. る。逆に言えば,単に今回のようなプログラムを. 際して,いちいち最初から説明しなくても,ベー. 導入しても,実践校のように学校全体として共同. スでやった内容について言及することで学級全体. や支え合いを重視していなければ,学習効果はさ. が即座に理解できる」「他教科の授業でベースの. ほど上がらないことも予想される。. 学習内容が生徒から自発的に言及される」「日常. 今回行った授業は,止解はないとしながらも,. のやりとりにべースでの学習内容が出てくる」と. 一定の「望ましい行動のあり方」を指し示す側面. いうような発言から推測される。この点が「雰囲. も持っている。授業が大きな影響力を発揮して多. 気が何となく良くなる」ことと結びついているの. くの生徒の行動をドラスティックに変革したとす. かもしれない。. れば,望ましい以上に危険であろう。行動変容の. 一方で,ロールプレイ,あるいは自分の特徴,. 心理学的手法は禁煙や生活習慣病の予防などの望. 感じるストレスなどの自己開示に抵抗を感じる生. ましい側面に使用される反面,悪用すればマイン. 徒が存在することも見逃してはならない点であ. ド・コントロールにつながる恐ろしさを持つ。人. る。むろん,数学が嫌いだから数学を勉強しない. 間関係についての学習を計画する際には,常に児. ということが許されないように,ある一定の「望. 童生徒の反応を確かめながら,過激な変化を目指. ましい人間関係」像を碇示することは必須であろ. さないよう意識する必要もあると考えられる。. う。辛辣で乱暴な言葉や態度が他者の気持ちを歪 ませ,人間関係を損なう原因となることは,誰も. が理解しなければならない内容である。また児童 期,思春期には,そのような基礎的な事実さえ認. 付 記 本研究は,平成18年度の北海道教育大学学術研. 識していない場合が散見される。しかし一部では. 究推進プロジェクト(学長裁量経費),共同研究. あっても,さまざまな個人的事情により体験的な. 推進経費の援助を受けて実施された。. 307.
(15) 戸田 まり・市川 恵幸・三浦 英悟・喜多山 篤・佐藤 郁子. 文 献. 学校基本調査 2006 文部科学省。平成18年度学校基本 調査(確定値). http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/06121219 /index.htm. 平木典子1993 アサーショントレーニング ー爽やか な自己表現のために一 日本・精神技術研究所 北海道教育大学附属学校園協同教育研究会・北海道教育 大学附属札幌中学校 2006 「共にあゆむ学び」をめ ざして<3年次> −「学びの文脈づくり」をすすめ る授業の探求一 研究紀要 第52集. 国分康孝(編)1992 構成的グループ・エンカウン ター 誠信書房 佐藤正二・相川 充(編) 2005 実践!ソーシャルス キル教育 図書文化 滝 充 2004 改訂新版ピア・サポートではじめる学 校づくり 中学校編 「予防教育的な生徒指導プログ ラム」の理論と方法 金子書房 戸田まり 2006 学校で実施する社会性及び人間関係の 学習プログラム 北海道教育大学紀要 第57巻,第1 号,123−134.. 308. (戸田 まり. 札幌校准教授). (市川 忠幸. 附属札幌中学校教諭). (三浦 英悟. 附属札幌中学校教諭). (喜多山 篤. 附属札幌中学校教諭). (佐藤 郁子. 附属札幌中学校養護教諭).
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