『源氏物語』 にみる人間関係と表現の関連
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第57巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.57,No.1. 平成18年8月 August,2006. 『源氏物語』にみる人間関係と表現の関連. 山村 愛・斎藤 祥子* 北海道教育大学函館枚大学院修士課程 学校数育国語科研究科専修 *北海道教育大学旭川枚家政教育講座. ACorrelationbetweenHumanRelationsandtheirExpressionFoundin 乃β7七Jβq′Cβ如才. YAMAMURAAiandSAITOSachiko* GraduateStudent,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmenntofHomeEconomics,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本稿は,先行研究をふまえ,服色と人物表現の二方面に焦点を絞り,物語の文章表現上に登場人物の人間 関係による共通点や特徴の一致等に関連性があるのかについて考察していった. 方法は,『源氏物語』に記載されている服色名を抜き出し,それを個人別,さらに色彩系統別に分類した.. また,人間関係では個人別に人物表現の中の事物の性質・状態などを表す形容詞・形容動詞を抜き出し,分 類した.この二方面の結果が,親子や夫婦にあたる人物達の人間関係に当てはめた場合,文章表現上の特徴 が,みられるのかどうか分析してみた. 結果,『源氏物語』では,その人物同士の人間関係の中で,形式よりも精神的な結びつきの強い人物同士に, 服色やそこに使われている形容詞・形容動詞に同じ言葉が多く使われている傾向があることが明らかになった.. 1.目 的 『源氏物語』が著された10世紀以後の日本文化は,それ以前の8世紀末から9世紀末までの弘仁・貞観文 化と比較して大きく変化した.その特色は,生活の広い範囲にわたる国風化という点にあり,この時期の文 化は国風文化とよばれる.服飾形態も,それまでの唐風の服装から,日本人向きに作り変えられた優美なも のとなり,日本の着物の基がこの時期に生み出されたといえる. 当時の服飾の様子は様々な文学作品にも記述が残っており,この時代の文学作品は平安貴族の服装を知る 上でも,重要な資料であると言える.その中でも『源氏物語』は,登場人物が多く,様々な場面で服装の記 述がみられるので,この時代の日常,公式行事における服飾の特徴をみることができる文献として価値がある.. 以上から『源氏物語』に関する被服学分野には,特定の襲や色1),着装表現と身分の関係2)や人物の服装3)等,. 95.
(3) 山村 愛・斎藤 祥子. 多くの先行研究がある.また,国文学の分野では,作品中の人物表現を取り上げた研究4)がある.しかし, 服色と人物表現に人間関係が関連しているのかについての研究はみられない.. そこで本稿では,先行研究をふまえ,物語の中で服色と人物表現に人間関係が関連して記述されていると いう仮説をたて作品を分析し,『源氏物語』に関する文章表現の特徴の一部を明らかにしていくことを目的 とする.. 2.研究方法 資料は,光源氏の一生を描いた正編,「桐壷」から「幻」までに限定した.正編では,光源氏を取り巻く 登場人物が,ある程度一定していることがその理由である.「匂宮」から「夢浮橋」までの宇治十帖は,光 源氏の子,孫の時代であり,描かれた時代や登場人物も大きく変化するため,本ノ稿では除くこととした. 対象となる人物の選定は,服色,人物表現と人間関係との関連についての考察が可能になるようにする為,. 服色名の記述がなかったり,用例数の少ない人物は除いた.その結果,主要人物21名に絞りこまれ,その服 色と形容詞・形容動詞を抽出し,分析を行った.. 服色については,服色に関する色名を全て収集している.これは,着用回数を数えたのではなく,言葉と して色名があらわれたものを全て収集した.例えば,ある人物が「桜」を着用している一場面に,2回その 服色である「桜」が登場すれば,2回として数えている.. 人物の表現としては,その人物に関連する2例以上の形容詞,形容動詞を抽出していった.人物表現の範 囲は,その人物の容姿・人柄・身分・書・音楽に限定し,その記述の中の形容詞と形容動詞のみを収集して いった.これらの形容詞・形容動詞の訳は,鈴木一雄,他編『全訳読解 古語辞典』三省堂(1995)を参考 にした.. 以上の方法で,服色名と人物表現を抽出した結果,本研究で取り上げる人間関係を夫婦と親子を対象にし て,夫婦関係は,光源氏に対して,紫の上と女三の宮に絞り,親子関係は,光源氏,紫の上に加えて,明石 の中宮,明石の君を対象にすることにした.. なお,本研究の主な資料は,阿部秋生・今井源衛・秋山慶・鈴木日出男『新編日本古典全集』20∼23の『源 氏物語』小学館(1996)を用いた.. 3.考 察 (1)全文から. 第二部までに記述されている服色種は,41色あり,合計197色例あった.結果は,表1にまとめた. 白が最も多く23例,次いで桜が13例,紅が12例と続く.その他,二桁以上の用例数がみられたのは「鈍」「黒」. 「赤」「葡萄染」の4色であり,上位の3色を加えても,これら用例数の多い色は,ピンク系統,赤系統, 紫系統,ニュートラル系統のいずれかに属することが分かった.. (2)系統色名による分類 『源氏物語』の服色の傾向をとらえる為,色彩系統別に分類した.この時代の色は,かなり色幅があるが,. 本研究では,全服色を大日本インキ化学の『日本の伝統色』に従って分類している.ニュートラル系統の中 は「自」と「黒」の数が多くなる為,2つに分けた.これにより.仝服色の色名を,以下の①から㈹の系統 に当てはめた.. 96.
(4) 『源氏物語』にみる人間関係と表現の関連. ① ピンク系統−「紅梅」「桜」「薄紅色」「今様色〔薄紅〕」「聴色〔薄紅〕」 (彰 オレンジ系統−「萱草色」「丁子染」 ③ 赤系統一「赤」「紅」「蘇芳」 ④ 茶系統−「朽葉」 ⑤ ベージュ系統−「香染」 ⑥ 黄系統−「黄」「山吹」「梅子」 ⑦ 黄緑系統−「若葉」「萌黄」「柳」 ⑧ 緑系統−「緑」「青磁」 ⑨ 青系統−「青」「浅葱」「標」 ⑲ バイオレット系統−「藤色」「二藍」 ⑪ 紫系統−「紫」「濃き」「薄色」「薄(紫)」「葡萄染」 ⑫ ニュートラル系統−「自」「黒」「墨染」「鈍色」「青鈍」「紫苑」「橡」. 「聴色」について,平安時代の色彩では「薄色」「半色」「退紅」の3色がある.『源氏物語』における「聴. 色」がこのどれにあたるかは『源氏物語』(著者名等)第1巻P293注21,第2巻P213注20,第3巻P136注 19より,「退紅(薄紅)」をとることとし分類した.. また「今様色」は『広辞苑 第4版』1955年 新村出編 岩波書店 P179)には(「①当世風の濃い紅梅 色」とあり,『国語大辞典』(昭和56年 小学館 P181)では「①染色の名.平安時代,当世流行の,紅花 で染めた色」と記され「一説に,紅梅の濃い色.あるいは「ゆるし色」に同じという」ということにより,「薄. 紅」か「紅梅」であると推測されている辛が分かる.『源氏物語』では「今様色」は5例登場するが,『源氏 物語』(著者名等)第1巻P293注21,第2巻P213注20,第3巻P136注19,より「薄紅」を採用することに した.. さらに,紅はその濃淡によってピンク系統に分けられる場合,赤系統に分けられる場合,また紅や聴色, 今様色は黄が混じったものはオレンジ系統に分類される場合がある.表1では明確に薄紅と判別できる1例 のみピンク系統にした.また「黄がちなる」と記述がある聴色1例,今様色1例と「黄ばみたる」紅は,黄 の割合がどの程度混入していたのかが明確でないため,それぞれ聴色,今様色,紅のなかに分類することと した.. 以上を踏まえて分類を行った結果,系統別に見ていくと,ニュートラル系統が最も多く,次いでピンク系 統,紫系統,赤系統となっている.これは,具体的色名で2桁以上の用例数を持った色の系統と一致する. この結果から『源氏物語』にみられる服色として代表的なものは,ニュートラル系統,ピンク系統,紫系 統,赤系統と判断出来る.. 97.
(5) శḮ᳁. ⚡䈱. 䊆䊠 ⊕ 㤛 䊷䊃䊤 㪈㪋㩼 㪈㪋㩼 䊦 䊏䊮 㪎㩼 䉪 ⚡ 㪉㪉㩼 㪉㪈㩼 ⿒ 㪉㪉㩼. 䊆䊠䊷 䊃䊤䊦 㪉㪐㩼 ⚡ 㪈㪈㩼. 䊋䉟䉥 䊧䉾䊃 㪈㪌㩼. ᅚਃ䈱ች. ⊕ 㪈㪌㩼. 㤥 㪈㪎㩼 䊏䊮䉪 㪈㪐㩼. ⿒ 㪈㪈㩼. 䊆䊠䊷 䊃䊤䊦 㪈㪎㩼. 䊏䊮䉪 ♽⛔ 㪍㪍㩼.
(6) 『源氏物語』にみる人間関係と表現の関連. 紫の上の黄は幼少期(若紫)にのみ見られる色であるので,例外的に扱うとすると,成長した紫の上と光 源氏の用いる服色は,殆ど同系統となる.その中でも,ニュートラル系統は殆ど喪服として用いられており,. 規則として用いているので,自らの個性や好みを超えている.したがって,光源氏と紫の上は白,赤系統, 紫系統が基本的な服色であるといえる.. 光源氏と紫の上は夫婦として,同じ色彩系統を配する事で,二人が対になったような印象をうけ,その間 の繋がりをいっそう深く印象づけるように描いてあるといえるだろう.. 一方,女三の宮には,共通な服色が,多くは見られなかった.女三の宮は表からも分かるように,出家す るまでピンク系統の服色以外は用いていないのである.紫の上も服色にピンク系統を用いる辛が多いが,光 源氏と紫の上には赤系統や紫系統も見られるのに,女三の宮はピンク系統だけである.. またピンク系統の薄紅は,今様色として流行していた色ではあるが,光源氏が末摘花に逢った後,「なつ かしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖にふれけむ色こき花と見しかども」と書いているのを見て,命 婦が,「紅のひとはな衣薄くともひたすらきたす名をしたてずは 心苦しの世や」と触り言を言った,とい う例がある.「色の薄い」を「気持ちの薄さ」とかける和歌が存在しているということになる.このことから,. 光源氏からの気持ちの薄かった女三の宮にピンク系統のみが使われていたことと関連があると推測出来る. このように,服色からみると,光源氏の服色に対して,実質的には正妻である女三の宮の服色よりも,気 持ちの繋がりの強い紫の上の服色との間の方が,同系統で使われている色彩に共通の傾向がみられたという 結果となった.. そこで,次に2例以上の形容詞・形容動詞の用例からも,この3名の関係性を考察していく. 光源氏・紫の上・女三の宮の形容詞・形容動詞を抽出し,整理して表2にまとめた.. 99.
(7) 山村 愛・斎藤 祥子 表2 光源氏・紫の上・女三の宮の形容詞・形容動詞 <光源氏>. 形容詞. <紫の上>. 形容詞. 用例数. 用例数. 形容詞. 用例数. 形容詞. 用例数. めでたし. 24 かしこし. 4. うつくし. 27 気高く. 3. きよら. 17 あはれ. 4. らうたく. 20 たぐひなき. 3. なまめかし. 14 ことなり. 4. いみじ. 18 おとなび. 3. いみじ. 14 こよなし. 4. をかし. 17 いまめかし. 3. はづかし. 10 たとへん(ふ・へむ). 3. ありがたし. 12 いはけなし. 3. 若. 9 すぐれ. 3. めでたし. 10 あて. 3. 愛敬づく. 8 まばゆし. 3. 若. 9 あたらし. 2. にほひ. 8 めづらかなる. 2. あはれ. 7 忍びがたし. 2. あや. 8 うつくし. 2. きよら. 7 なまめかし. 2. をかし. 7 まめ. 2. 愛敬づく. 7 いとほし. 2. ゆゆし. 7 あて. 2. にほひ. 7 あらまほし. 2. なつかし. 7 限りなし. 2. すぐれたる. 6 はかなし(若). 2. たぐひなし. 7 おそろし. 2. ことなる. 6 見るかひあり. 2. 見るかひあり. 6 かかやく. 2. 限りなし. 5 ゆゑ. 2. ありがたし. 6 うるはし. 2. 何心なし. 4 かどかどし. 2. めづらし. 5 盛り. 2. よき. 4 おほどか. 2. 似るものなし. 5 きよげ. 2. おいらか. 4 はなやか. 2. 世になし. 4 あらまほし. 2. なつかし. 4 しづまり. 2. 盛り. 4 心にくし. 2. 幼き(若). 4 すずろ. 2. おもしろし. 3 自し. 2. はづかし. 3. <女三の宮>. 形容詞. 形容詞. 用例数. 用例数. 幼し. 13 心やすし. 3. 若. 13 片なり. 3. うつくしげ. おいらか. 3. らうたし. 7 心にくからず. 2. いはけなし. 6 うしろめたし. 2. あて. 6 かたじけなし. 2. をかし. 5 心もとなし. 2. おほどき. 5 後れ. 2. はかなし. 4 けざやか. 2. 何心なし. 4 細く. 2. あえか. 3 きよら. 2. はづかしげなき. 3 探きはあらず. 2. 小さき. 3 憎からず. 2. あはれ. 3 あさまし. 2. □のセル…三人の共通語 □のセル…光源氏と紫の上の共通語. 他の登場人物の形容詞・形容動詞からみても,光源氏と紫の上は,2例以上の形容詞・形容動詞の用例数 が,他の登場する者と比較して多く,様々な内容の形容詞・形容動詞で表現されていた.そして,表2にま とめた通り,その中に否定的形容詞が含まれないという共通点がみられる.その上,この二人は,共通する 形容詞・形容動詞が16例と多い.また,女三の宮にはなく光源氏と紫の上の2名に共通する形容詞・形容動 詞は「めでたし」「なまめかし」「にほひ」等,10例みられる.. 加えて,この二人は「光」に例えられる場合がある.これは,光源氏,紫の上,冷泉帝,夕霧にのみみら. 100.
(8) 『源氏物語』にみる人間関係と表現の関連. れ,最上の美質を持った人物達にしか与えられないまれな例えである.夫婦でこの例えを持つのは,光源氏 と紫の上の関係だけであると言える.. このように,光源氏と紫の上の夫婦関係には,形容詞・形容動詞にも多くの共通性がみられる.服色に同 じような色彩系統を配したように,形容詞・形容動詞にも共通するものが多いことで,いっそうこの二人の 相似性が強調されているといえる.. 一方,女三の宮を見ていくと,光源氏,紫の上,女三の宮の3名に共通する形容詞・形容動詞は「きよら」 「若」「をかし」「あはれ」「うつくし」「あて」の6例みられた.しかし,光源氏と紫の上の2名にのみ共通. する形容詞・形容動詞は,10例みられるのに対し,光源氏と女三の宮の2名にのみ共通する形容詞・形容動 詞はみられなかった.従って,光源氏と女三の宮は,形容詞・形容動詞の上でも,共通点が少ないといえる. そこで,女三の宮の人物表現の形容詞を詳しくみていくと,女三の宮は「幼し」「若」「いはけなし」等の 形容詞・形容動詞が用例数が多く,幼く頼りない様子である.その性質が「うつくし」「らうたし」にも繋がっ. ていく一面もあるが,「かたじけなし」「うしろめたし」「心もとなし」等の否定的な形容詞を導き出してい るとも言える.. また,朱雀院の皇女として「あて」ではあるが,「よしあり」や「ゆゑあり」などの知的な上品さ,教養 の高さ等を表す形容詞・形容動詞がないことが特徴的である.また,「なまめかし」や「にほひ」など艶の ある美しさを指し示す語がまったくないことにも注目できる.そのような女三の宮の性質が,赤系統や紫系 統などが一切みられず,年若い女性によくみられるピンク系統ばかりという服色表現にも関連していると考 えられる.. つまり,服色だけでなく,形容詞・形容動詞でも,光源氏に対して,女三の宮よりも,紫の上の服色との 間の方が,似た傾向がみられたという結果となった.この結果からみると,服色と形容詞・形容動詞は,関 係の深い人物間に共通性がみられるといえるだろう.. 次に,この服色,形容詞・形容動詞と人間関係との関連が,夫婦関係以外の人間関係でもみられるのかど うか,明らかにするために,親子関係について,みていく.. (4)親子関係から. 親子関係にある人物間の関連についても,服色と人物表現からみていく.光源氏とその唯一の娘である明 石の女御をめぐり,実の母である明石の君と育ての母である紫の上の服色を,色彩系統別に図2にあらわし た.. 101.
(9) శḮ᳁. ⍹䈱ำ. ⚡ 㪈㪎㩼 㤛✛ 㪊㪊㩼. 䊆䊠䊷䊃 䊤䊦 㪉㪐㩼. ⊕ 㪌㪇㩼. ⚡䈱. ⊕ 㪈㪌㩼 䊏䊮䉪 㪈㪐㩼. ⚡ 䊋䉟䉥 ⿒ 㪈㪈㩼 䊧䉾䊃 㪈㪈㩼 㪈㪌㩼. 䊆䊠䊷䊃 ⊕ 㤛 䊤䊦 㪈㪋㩼 㪈㪋㩼 㪎㩼 ⚡ 㪉㪈㩼. ⴊ✼㑐ଥ ⢒ߡߩⷫ ⍹䈱ᅚᓮ. ⚡ 㪊㪊㩼 䊏䊮䉪 㪍㪎㩼. 䊏䊮䉪 㪉㪉㩼 ⿒ 㪉㪉㩼.
(10) 『源氏物語』にみる人間関係と表現の関連 表3 明石の君・明石の女御・紫の上の形容詞・形容動詞 <明石の君> 形容詞. <明石の女御> 用例数. 形容詞. <紫の上>. 形容詞. 用例数. やむごとなき. 5. うつくし. 恥づかしき. 5. らうたし. 5. 気高く. 5. なまめかし. なつかし. 4. 用例数. 形容詞. 用例数. うつくし. 27 気高く. 3. らうたく. 20 たぐひなき. 3. 5. いみじ. 18 おとなび. 3. めでたし. 4. をかし. 17 いまめかし. 3. 19. なまめき. 4. にほひたる. 3. ありがたし. 12 いはけなし. 3. あて. 3. あはれ. 3. めでたし. 10 あて. 3. 心ばせある. 3. きよら. 3. 若. 9 あたらし. 2. 2. あはれ. 7 忍びがたし. 2. 3. 上衆めく. 3. 心にくし. 2. きよら. 7 なまめかし. 2. 心にくし. 3. 何心なし. 2. 愛敬づく. 7 いとほし. 2. めやすし. 3. 細く. 2. にほひ. 7 あらまほし. 2. ねた(げ). 2. すぐれたる. 6 はかなし(若). 2. こと. 2. ことなる. 6 見るかひあり. 2. 思ひあがり. 2. 限りなし. 5 ゆゑ. 2. めざましう. 2. 何心なし. 4 かどかどし. 2. ゆかし. 2. よき. 4 おほどか. 2. ゆゑ. 2. おいらか. 4 はなやか. 2. ねびまさり. 2. なつかし. 4 しづまり. 2. たをやか. 2. 盛り. 4 心にくし. 2. けぢめ. 2. 幼き(若). 4 すずろ. 2. あらまほし. 2. おもしろし. 3 自し. 2. はづかし. 3. [コのセル…三人の共通語 [コのセル…光源氏と紫の上の共通語. ■のセル…明石の女御と明石の君の共通語. 表3の形容詞,形容動詞では,まず,3名全員に共通する形容詞が「なまめかし」と「心にくし」の2例, 明石の女御と明石の君の2名に共通する形容詞は「よし」の1イ軋 明石の女御と紫の上の2名に共通する形 容詞は「うつくし」「らうたし」「めでたし」「にほひ」「あはれ」「きよら」「何心なし」の7例である.. 以上から,明石の女御は,明石の君よりも紫の上との間に共通の言葉が多くみられた.さらに明石の女御 と紫の上を形容する用例数からみても,一番多いのが「うつくし」次いで「らうたし」という順も共通して いることが分かった.この結果から,明石の女御は,服色だけでなく,形容詞・形容動詞の上でも,実母の 明石の君より,育ての親である紫の上と近しい印象を与えられていることが分かった.. 以上から服色,形容詞・形容動詞と人間関係との関連が,夫婦関係だけでなく,親子関係でも同様の結果 となったといえる.この結果から,服色と形容詞・形容動詞は,関係の深い人物間に共通する傾向がみられ るといえる.. ただし,親子関係においては,実の親子の間に,表現の関連が全くないというわけではない.明石の女御 と明石の君の間には,共通する形容詞は「よし」の1例がみられる.また,作品全体から見ても,頭中将, 柏木と玉馨の親子の間に「きらきらし」という形容詞がみられる.このように,少数だが実の親子関係の場 合にも,共通する言葉がみられる例もある.. 103.
(11) 山村 愛・斎藤 祥子. 4.まとめ 『源氏物語』の中で,服色名,形容詞・形容動詞からみていくと,事実上の夫婦関係や親子関係よりは,. 気持ちの上で繋がりの強い者同士にその表現上共通する言葉の一致点がみられるものがあった. 夫婦関係で言えば,正妻かどうかより気持ちのつながりの強い関係の方が,服色名,形容詞・形容動詞に 同じ言葉が使われている.. 同様に親子関係からみても,血のつながりがある親子関係より,育ての親でも気持ちの結びつきの強い親 子の方が服色名,形容詞・形容動詞に同じ言葉が多く使われていた.. このように,『源氏物語』では,その人物同士の人間関係の中で,形の上でなく,精神的な結びつきの渡 さの強い関係の方が,服色名や形容詞・形容動詞の一致がみられた.. 以上から,『源氏物語』では,服色と人物表現は,密接に関連があり,相互に影響しあっていた.服色に よりその人物の個性をより深め,場合によっては,その人自身や,人間同士の繋がりの深さをあらわす等の 役割を持っていた. よって,本研究でとりあげた人物間に見られた傾向からの報告である.. 本論文は,北海道教育大学函館校家政教育専攻の2003年庭草業論文,山村愛の「「服装と人物表現との関 連−『源氏物語』における場合−」について,同校大学院の授業科目「被服意匠学特論」「被服意匠学特別 演習」等の授業の一部で扱い検討を重ね作成したものである.なお,本論文の一部は,2005年5月 福岡市 における 日本家政学会第57回大会においてポスターセッション形式で報告した.. 参考文献 1)鳥居本幸代:重色目・桜に関する一考察一源氏物語を中心に−,神戸女子短期大学論致,125−134(1992) 2)鳥居本章代:『源氏物語』にみる光源氏の服飾,姫路短期大学研究結果報告第42巻第1号,133−139(1997) 3)鳥居本幸代:『源氏物語』に描かれた衣について,京都女子大学被服雑誌,p19−24(1985) 4)大石真弓:源氏物語における人物表現一石様の関する詳細な記述について−,緑岡詞林(1981) 5)近藤富枝:服装から見た源氏物語 朝日文庫(1987) 6)河鰭実英:きもの文化史.鹿島出版会.(1966) 7)長崎盛輝:色・彩色の日本史.淡交社.(1990) 8)江幡 潤:色名の由来.東京書籍.(1982) 9)上山六郎 山崎勝弘:日本色名大鑑.甲交社.(1950) 10)鈴木一雄 他編:全訳古語辞典.三省堂.(1996) 11)新詳説国語便覧.東京書籍.(1995) 12)稲賀敬二 竹森天雄 森野茂夫:新訂総合国語便覧.第一学習社.(1978) 13)国語大辞典:小学館.(1981). (山村 愛 函館校大学院生) (斎藤 祥子 旭川校教授). 104.
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