資 料
円形のあみだくじ
内村桂輔 (昭和60年8月30日受理)
Circular Amida Lots
KeisukeUCHIMURA Abstract We define a circular Amida lot and evaluate the number of vertices of it needed to represent apermutation. 1. まえがき あみだくじの数学的な解析はいろいろ行なわれてい る。森口繁一教授1)は,あみだくじの確率論的な解析を して次のことを明らかにした。「1からnまでを出発点 とするあみだくじにおいて,その段数が少ないと,各 出発点パ1《i《κ)に対して,それの到達点の分布は 一様でない。」すなわち,1から出発した時は,その真 下の1に到達する確率が高く,nに到達する確率が低 い。[n/2]から出発した時は[n/2]に到達する確率が 高く,1やnに到達する確率は低く,その分布は正規分 布に似ている。 そこで森口教授1)はあみだくじの公平さを得るため に,「十字路」を許すことを提案している。これに関連 して,東工大の渡辺治氏2)はくもの巣状のあみだくじ を提案している。 ここでは,あみだくじの一つの変形として,円形の あみだくじを提案する。そしてこのあみだくじと置換 との関係をしらべる。 あみだくじと置換に関しても,岩堀長慶教授3),木村 良夫氏4)等いろいろな研究がある。任意の置換はあみ だくじで実現できることは良く知られている。彼らは 置換をあみだくじであらわす時の横線の数の最小値を 求めている。 本論は,置換を円形のあみだくじであらわす時の点 の数の上界と下界を求める。そして,円形のあみだく じをあらわす平面グラフの,複雑度(complexity)を グラフの点の数で評価した。 なお,置換とは,有限集合MからMへの単射のこ とである。 2.円形のあみだくじ 円形のあみだくじを次のように定義する。出発点と 到達点を兼ねる①から⑭までのn個の点を円周上に ならべる。その円の内部にm個の点をとり,それらm 個の点と円周上のn個の点とを合わせて適当に交差 しないように線で結び,平面グラフを作る。ただし, 円周の線は含まれない。線の結び方は,円周上の点の 次数(degree,枝分れの数)は1,または0になるよう にし,円内の点の次数は3となるようにする。このと き,円内のm個の点については,t’正の方向”か’ρ負 の方向”のどちらかの方向をつける(図一1参照。そこ では正の方向を+,負の方向を一であらわす)。 そして,円周上の各点⑦(ただし,次数が1)を出発 した道は,円内の点にゆくと道が二つに分かれる。こ のとき,各点につけられた方向にしたがい,どちらか の道を選択して進む。そして最終的に,点⑦から始っ 十 *計算機科学科,Department of Computer Science. 図一1 点の向きづけ Fig.1 0rientation of vertices
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円形のあみだくじ た道は円周上の点⑦に到達する。これは次のように示 される。点⑦から出た道が,円周内の点だけからなる サイクルになることはない。もし,点⑦から出た道が サイクルVl, v2,……, Vhに入ってしまうと仮定する。 v→Vlをサイクルに入る枝とする。すると, v→Vl→ V2, Vh→Vl→V2となり矛盾をひきおこす。故に,点⑦ から始った道は円周上の点⑦に到達する。 このように,各点②に対してその到達点⑦,∫=σ(i) が決る。前と同様に,写像σは単射であることがわか る。故に,写像σは置換となる。 このことより,円形のあみだくじは置換をあらわす ことがわかる。 ここで一つの単純な例として,図一2を考えよう。こ の図において①から出た枝は,円内の点にゆくとその 点につけられた負の方向により,②に続く枝に移り, ①から出た道は②に到達する。同様に,②を出発した 道は③に行き,③を出発した道は①に到達する。故に, 図一2の円形のあみだくじは置換(1,2,3)を表す。 〔定理1〕 {1,2,…,n}の任意の置換は,円の内 部に高々0(n2)個の点を持つ円形のあみだくじで実現 される。 (証明) まず{1,2,…,n}の任意の置換を普通の あみだくじで実現する。このとき次のことが知られて いる(岩堀3),木村4)参照)。 ある置換をあらわすあみだくじの横線の数の最小値 は,その置換の転位の数と一致する。 (”転位の数”については例えば,佐藤,永井5)を参 照のこと。) 転位の数は高々0(n2)であるので,{1,2,…, n} の置換は高々0(n2)個の横線のあみだくじで実現され ることがわかる。次にこのあみだくじを円形のあみだ くじに変形してゆく。その手続きをまず例で示そう。 図一3のあみだくじは図一4の円形のあみだくじに変形 図一2 円形のあみだくじ Fig.2 A circular Amida lot 1 2 3 図一3 置換(1,2,3) Fig.3 A permutation(1,2,3) 図一4 置換(1,2,3) Fig.4 A permutation(1,2,3) される。 一般の場合は次のようにする。あみだくじは1から nまでのn本のたて線と高々0(n2)個の横線でできて いるものとする。これを次の三つのステップで円形の あみだくじに変形してゆく。 Step 1. iが0からn−1まで動くとして,次のこと を実行する。 あみだくじのn−i番目のたて線の上と下を伸ばし て,円内に一つの閉路C。.iを作る。その際,疹1の時 は,n−i+1番目のたて線から作った閉路C。.i+1の外 f則にCn_,を作る。 Step 2.円周上の点⑭,(1<ん《η),をとる。∫=k, k−1,…,2として,次の手線きを考える。閉路C上 の,点⑧の近くの所に,二つの点V+(R,ノ,1)とV+ (fe,元, r)をとる。 V+(k,∫,1)は点⑫より見て左 側,V+(k,∫, r)は点⑫より見て右側にとる。
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昭和60年12月 山梨大学工学部研究報告 第36号 この二点に対応して,閉路G−、上に二点v−(k,∫− 1,1)とv−(k,元Ll, r)をとる。そして, v+(ん, ノ,1)とv−(fe,ノ’−1,1),zノ+(k,ノ, r)とv−(k, ∫−1,r)を結ぶ(この二本の線分は交わらない)。 ノ〉.3ならば,v−(k,∫−1,1)とv−(k,∫−1, r) の中間に,v+(k,ノー1,1)とv+(fe,∫−1, r)をと る。この二点に上の手続きを再び適用する。 まず∫=kとして上の手続きを次々とくり返し,最 後にv−(k,1,1)とv−(le,1, r)ができたら,そ の二点の中間に一つの点v+(k,1,c)をとる。そし て,v+(k,1, c)と点⑫を結ぶ。 Step 3.元からあるあみだくじの点については横線 の左側の点は負の方向をつけ,右側の点は正の方向を つける。また,点v+(k,∫,i),(i=1, r, c)には正 の方向をつけ,点V−(k,∫,i),(i=1, r, C)には負 の方向をつける。 このようにすると,任意のあみだくじを円形のあみ だくじに変形することができる。この際,何本かの枝 を新たにつけ加えなければいけない。新しくつけ加え られた枝の数は点⑲に関して,2k−1である。kを1か らnまで動かすと合計n2になる。 ゆえに,円形のあみだくじの全体の枝の数は0(n2) になる。各点の次数が3であることを考えれば,円の 内部の点の数は0(n2)個になる。ゆえに{1,2,…, n}の任意の置換は,円の内部に高々0(n2)の点を持 つ円のあみだくじで実現される。 (証明終) 定理1で,任意の置換は高々0(n2)の点を持つ円形 のあみだくじで実現されることが示せたが,次に円形 のあみだくじで実現するためには,0(n2)個の点が必 要な置換が存在することを示す。 〔定理2〕 {1,2,…,n}の置換の中には,それを 円形のあみだくじで実現するときに,どうしても0 (n2)個の点が必要なものがある。 (証明) まずnが偶数の場合を考える。そこで次の 置換を考える。 1,2,…tn/2,n/2十1,…,n σ= n/2十1,n/2一ト2,… , n , * ,… , * この置換σを円形のあみだくじで実現することを 考える。そこで1→n/2+1,2→n/2+2,…,n/2→ nを線で結ぶ(図一5参照)。するとその交点の数は,1+ 2十…十(n/2−1)となり0(n2)個となる。ここでで きた交点の次数は4である。このままでは円形のあみ だくじにはならない。 これを次数3の点に直しても基本的には,次数4の 場合と同じである。 まず,次の三つの性質が成り立つことに注意する。 図一5 置換σ Fig.5 A permutationσ (a)一本の枝は高々二本の道Pi, p2で(逆向きに)し か使用されない。なぜならば,第三の道p3がその枝を Piと同じ向きにとおるとすると,Piとp3の到達点は一 致するはずである。これは矛盾である。
(b)⑦から◎への道を,別の⑦から◆
の道が横切るときは,各点の次数が3であるから,少 なくとも一本枝を共有しなければならない。 (c)①から(葱≡)への道を,他のn/2−1本の,⑦から◎(念2),への道が劔らなけitc9“な
らない。②から㊨への道を,他のn/2−1本の道が横切
らなければいけない。以下同様にして,⑦から⇔への道を池のn/2一体の道力横切
らなければならない。 この(a),(b?,(c)より,最低1十2十…十(n/2−1) 個の点が必要となることがわかる。 ゆえに,置換σを円形のあみだくじで実現するため には,少なくとも0(n2)個の点が必要になる。 nが奇数の時も同様の置換を考えれば良い。 (証明終) 3. ま と め 本論は,円形のあみだくじと呼ばれる平面グラフを 定義して,それで任意の置換が定義できることを示し た。そして,その時に必要となるグラフの点の数は上 界,下界ともに0(n2)であることを示した。点の数 でグラフの複雑度(complexity)を計った。一128一
円形のあみだくじ 参考文献 1)森口繁一:あみだくじと酔歩の問題数学セミナー,1984年 9月号,pp.16−21(1984) 2)渡辺 治:くもの巣くじ,数学セミナー,1984年12月号,p, 112 (1984) 3)岩堀長慶:あみだくじと置換群,数学セミナー,1964年2月 号,pp.8−13(1964) 4)木村良夫:エレガントな解答を求む,数学セミナー,1985年 7月号,pp.106−108(1985) 5)佐藤正次,永井 治:線型代数学,p.10,学術図書(昭51)