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子どもの自然遊びに関する社会学的研究

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1.はじめに  「子どもの自然体験」が語られる場合、大き く2つの側面が取り上げられることになる。 まず、生涯学習審議会(文部科学省)の答申 (1999年)において「自然体験が豊富な子ど もほど、道徳観・正義感が充実」しているこ とが挙げられている。ここでは、「チョウやトン ボ、バッタなどの昆虫をつかまえたこと」、「太 陽が昇るところや沈むところを見たこと」、「夜 空いっぱいに輝く星をゆっくり見たこと」と いった直接的な体験として「自然体験」とい う言葉が使われている。そして、このような 「自然体験」は生活体験とも関連しており、「自 然体験が豊富な青少年ほど、生活体験も豊富 な傾向が見られ」(国立青少年教育振興機構 ,2015)るという指摘もなされている。  また、子どもの自然体験について、同答申 において、1999年の時点で「これまでは学校 引率中心の自然体験プログラムが広く見られ ました」と指摘され、これからの体験活動に ついて「地域社会が担い手となる子どもたち の活動は、自然体験の先輩である地域社会の 大人たちとの交流や学年を超えた異年齢の子 どもたちが一緒に活動できるといった観点か らも、優れた内容を提供することが可能」で あると述べられている。これが「自然体験」 の二つ目の側面であり、自然体験における「関 係性」に言及しているものといえるだろう。 また、この「自然体験」の関係性に関するも のとして、家族の影響も指摘されている。山 本氏(2005)は幼稚園の子どもの自然体験の 特徴の一つとして、「(調査対象の幼稚園の保 護者が)自然体験活動に対する関心が高く、 子どもたちにより積極的に自然体験活動を行 なうよう促している」ことを明らかにしてい る。  この「自然体験」の二つの側面の関係性を 整理しながら、自然との関わりの中で「体験」 が保障され、子どもの自立的行動が生成され てくる過程を明らかにすることを最終的な目 的とし、本報告では、現代の子どもの自然遊 びを維持する構造の整理と自然体験活動にお ける子どもの自立的行動の状況について参与 観察の資料をもとに解釈し、「自然遊び」が生 成、維持される関係性について考察をおこなう。

子どもの自然遊びに関する社会学的研究

清 水 一 巳

The Sociological Study on “The Children’s Nature Play”

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2.研究の枠組みと方法 1)先行研究の検討  これまで自然体験の範疇にある「野外活動」 や「キャンプ活動」についての様々な実践や 研究報告がなされている。原口氏(2004)や 小池氏(1999)、石井氏(2014)の実践報告注1) では、自然体験活動をとおして、「自然との関 わり」や「自然の中での人との関わり」、「遊 び文化の継承」といった活動の中で、子ども の主体的選択や自由性といったものの重要性 を再認識している。しかし、原口氏が課題と 揚げるように、参加者が限定的で活動の広が りがみられないという問題がある。 また、近年の野外活動の教育的意義について の報告注2)をみると、小泉氏ら(2013)や池 田氏(2010)のように生活域の自然の観察・ 体験による「自然への気づき」が必要である とされている。  野井氏ら(2013)や平野氏ら(2002)は野 外活動の生体へ及ぼす影響を明らかにしてい る注3)  また、叶氏ら(2000)は、キャンプ活動、 特に出会いのころや雪洞泊という高い不安の プログラムを通して、友人コンピテンスや状 況的な効力感を培うという心理的な効果を明 らかにしている。 このように野外活動の経験が参加者(子ども) に及ぼす影響は、生理的、心理的側面において、 その効果が示されてきている。安波氏(2005) は、さらにキャンプ・プログラムのタイプに より、自然体験効果に違いがみられ、その中 でも「アウトドア・スポーツ活動」は「他の 全てのプログラムタイプよりも有意に高い効 果が認められた」という。 しかし、このように野外活動を細分化したプ ログラム種別の効果というものは、前述の実 践報告において重視されている子どもの主体 的選択や自由性の体験の次元とは異なるもの であるといえる。自然という「いま、ここ」 での体験を再現することの難しさがあり、自 然の中での活動は、日常生活における生活活 動のように、行為を分割して捉えることがで きないのが自然体験活動といえるのではない だろうか。それぞれの活動種別という枠組み よりも、どのように活動(自然)に関わって いるのかその意味を捉える必要がある。 2)「自然体験」を捉える枠組み ①体験の捉え方  本稿では、矢野氏(2003)が「経験には『経験』 と『体験』という相異なる次元が存在」して いると指摘し、「『経験』は子どもの能力の発 達を実現」するものとして、「『体験』は子ど もの能力の発達とは直接に結びつかず、前も って計画することもできず、外部の観察者に よって客観的に評価することもできない」も のであるという見方を示している。矢野氏は、 「体験」の意味するものとして、バタイユが「蕩 尽」と呼ぶ行為と関連させ、「有用性に回収さ れない消費」をあげている。また、「体験」は、「自 己と世界を隔てる境界が溶解してしまう陶酔 の瞬間や脱自的な恍惚の瞬間を生み出す」と して、「意味として定着できないところに、生 成としての『体験』の価値がある」と指摘し ている。  日下氏(2010)は、子どもの自然遊びにつ

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いて「信頼できる仲間と屋外に出て(自然を 背景に)、(遊ぶ対象としての)自然を感じ、 ありのままの自分自身を感じとる。それは、 子どもが身(からだ・こころの全体)をもっ て『感じる』意識下の体験である」と述べて いる。そしてこの時の基調となるものが「体感」 であると指摘している。自然体感とは、「両義 性」、「多様性」をもつものであり、豊かな身 体図式を形成し、「『感受性』を豊かにし、「ゆ とり」の幅を広げる」ものであると位置づけ ている。  本稿では、この「経験」と「体験」という 枠組みを用い、自然の「直接的」体験が、子 どもの自然の中での活動において影響及び変 容しているのかについて考察していく。 2)子どもの遊びの現状  2013年に実施した「大人のあそびへのまな ざし調査」注4)によると、子どもの遊びは、体 験としての「遊び」の枠組みではなく、必要 なモノとしての「自然」、「生き物」、「伝統」 との関わりの活動として、「子どもの遊び」が 捉えられていることが指摘された。まず、こ の調査結果を概観し、現代の大人の抱く「子 どもの遊び」への視点を明らかにしておく。 a.調査対象の位置づけ  調査対象の8割以上が、30歳から44歳の 層であった。子ども期の遊びについて回想法 にてきいている為、ここでの「子ども期」は 1970年代∼1980年代のことを指しているこ とになる。 b.子どもの遊び(形態)に対する価値観  全体では、①昔から伝わる(87.3%)、身体 を使う(97.9%)、⑤自作のおもちゃ(53.5%)、 ⑥自然に触れ合う(94.2%)、⑧生き物と触れ 合う(81.5%)事が肯定的に捉えられている。 c.親世代の子ども期と現在の子どもとの遊び  大人の子ども期の遊びについて、全体の1 割を超える回答があったものをみていく。全 体でみていくと、小学校入学以前では、①ま まごと遊び(30.7%)、②お絵かき(ぬりえ)(20.8 %)と半数を占めている。そこから、小学校 低学年で①かくれんぼ(11.0%)が最も多くな り、ついで②野球(キャッチボール)(9.8%) と増えている。そして、小学校高学年の①野 球(キャッチボール)(18.2%)、②家庭用ゲー ム機(据え置き型)での遊び(13.7%)と変容 してくる。身近な模倣遊びから、集団での遊 びを介して、競争を基礎とする近代的な遊び

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(スポーツ型、ゲーム機型)へと移行している といえる。性別でみると女性では、ままごと 遊び、お人形さんごっこといった身近な模倣 遊びが小学校低学年まで継続されている。男 性では、小学校低学年からスポーツ型の遊び が増えており、男性の遊び経験において、ス ポーツという競争を基盤にした、近代的遊び への移行が小学校低学年から急激に始まって いるといえる。  現在の子どもとよくおこなう遊びについて、 全体で、よくおこなう遊び(NO.1)で最も多 く挙げられていたのが①お絵かき(22.9%)で あり、ついで②ままごと遊び(9.5%)、③サッ カー(ボール蹴り)(9.0%)となっていた。  子どもとおこなっている遊び(NO.1)で、 最も多いのは、男女に共通して①お絵かき(ぬ りえ)であるが、女性は次に、②ままごと遊び、 ③折り紙となっており、男性は②サッカー(ボ ール蹴り)、③携帯用ゲーム機遊びと続いてい る。このことは、前述の子ども期の遊びにお ける、女性の小学校低学年まで継続する、「身 近な模倣遊び」と、男性の小学校低学年から 急激な移行をみせる、「競争を基盤とする近代 的遊び」という特徴とも一致するものと考え られる。 d.親自身の生活体験  生活体験(25項目)について、親世代の子 ども期の経験と現在の子どもとの経験につい てみていく。最も経験の割合が低かったもの は屋外のテントで寝ること(56.9%)、ついで、 タガメ、ゲンゴロウ取り(59.0%)であった。 このように、親世代の子ども期の自然、生き物、 伝統的遊びの経験は高い割合を示していた。  現在の子どもと一緒に行なった活動では、 第一子が3歳以上であるという親を抽出し、 子どもと一緒に行なった活動についてみてい く。25項目の中で経験有が5割を超えていた のは11項目で、8割を超えているのは、シャ ボン玉遊び(98.1%)、星空を眺める(82.7%) の2項目のみであった。残りの14項目では、 子どもとの経験が無いというのが5割を超え、 そのうち経験無しが8割を超えているのは、 タガメ、ゲンゴロウ取り(84.9%)、屋外のテ ントで寝る(83.4%)、竹水鉄砲(81.3%)サ サ舟つくり(80.7%)の4項目となった。 親世代が、子ども期に経験していない、テン ト泊、タガメ、ゲンゴロウ取りは、現在の子 どもとの経験でも無い割合が高くなっている。 全体的にみても子ども期に体験した事が、そ のまま、現在の親子で一緒に経験されている ということではなさそうである。 e.遊びの経験と「子どもの遊び」のズレ  遊びの経験では、女性では、ままごと遊び、 お人形さんごっこといった身近な模倣遊びが 小学校低学年まで継続され、男性では、小学 校低学年からスポーツ型の遊びが増えており、 この傾向は、現在の親と子の遊びでも同様の 傾向が見出された。  自然や生き物、伝統的遊びでは、親世代は 子ども期には多くが経験しているが、現在の 子どもと一緒に経験しているという割合は高 くは無かった。  このことから、自然や生き物、伝統的な遊 びが、親子で共有される遊びではなく、「特定

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の体験活動」として遊びとは異なる枠組みに おかれているとみることができるのではない だろうか。幼稚園教諭への聞き取り調査注5) おいて、「子育て情報誌や雑誌の影響が強く、 母親は経験したことのないキャンプや野外活 動に子どもを参加させようと時間的、金銭的 負担が大きくなっている」という意見が聞か れた。自身の体験としての「遊び」の枠組み ではなく、必要なモノとしての「自然」、「生 き物」、「伝統」との関わりの活動として、「子 どもの遊び」が捉えられているのではないだ ろうか。前述の子どもの遊びの価値観におい て、昔から伝わる遊び、身体を使う遊び、自 作のおもちゃでの遊び、自然に触れ合う遊び、 生き物と触れ合う遊びが大切だとされるのも、 この必要充足の視点からではないだろうか。  しかし、「ほんらいの意味での遊びは、実際 生活の強制や拘束を離れた自由で主体的な活 動であり、またそれ自体を目的として行なわ れる自己完結的で非生産的な活動である」(井 上,1981)ものであり、「社会的な意義づけや 価値づけを拒否するところに遊びの本領があ る」(井上)という視点から、現在の「子ども の遊び」をみていくと、そこには大人により 変容された限定的な「遊び」が用意されてい るといえる。また、藤本氏(1990)は、子ど もの遊びの復権の為には「仲間集団に遊びの 方法が豊かに伝承されていて、それを子ども たちが共通理解していること、遊びに対する 心理的拘束がないことなども重要な条件であ る」と指摘している。つまり、大人の視線や 期待というものが子どもを取り巻くことによ り、さらに「遊び」が限定的なものとされてしまう。 3.子どもの自然遊びの分析視点  元森氏(2006)は、子どもの自由という視 点から、そこには、「大人の不断の配慮という 不自由さ」か「大人の恣意の発見」という隘 路を指摘する。そして、プレーパークを事例 に、「『子ども』も『大人』も〈自由〉を実感し、 その非対称性を強く意識しなくなる場」とし て大人と子どもの関係性の可能性を見出して いる。この考えを参考とし、自然遊びを保障 する場としての「子どもキャンプ・プログラム」 の可能性を探ることを目的とする。  ここでは、キャンプ参加者の幼児期から児 童期の子どもと自然環境との関係性、そして、 子どもと支援員(大人)との関係性において 「自然」がどのように意味づけられているのか、 行為と言説の文脈から明らかにしていく。 ①調査の方法  子どもを対象とし、自立的行動を引き出す ことを目的として、人的環境、物的環境が設 定された野外キャンプ・プログラムの記録を 資料とする。そこでの参与観察おける記述記 録およびビデオ記録から子どもの行動の意味 を解釈していく。 ②自然体験プログラムについて (1)調査対象:「子どもの自立キャンプ」プ ログラム (2)実施主体:NPOケアラボ(ファミリー コーチプログラム) (3)実施期間:平成27年8月19日∼21日 および平成26年8月20日∼23日。今年度で 7回目となり、昨年までは3泊4日のプログラ

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ムで実施していた。 民間学童保育の特別プログラムとして、別料 金となっている。 (4)参加者:2才(親子)から12歳の子ど もの参加者(12名)、学生サポーター(4名) スタッフ(野外活動関連資格者2名)、事務サ ポートスタッフ(2名)学童保育スタッフ(1名、 保育士)。この他にも、山中散策時には、地元 の山野草に詳しいボランティア、創作活動で は地元の陶芸家のサポートを受けた。 (5)活動目的:子どもの自立的行動を引き 出すことを目的とし、子どもが直接的自然体 験をできるように環境整備をスタッフが担当 し、衣、食、住の生活行動をおこない、選択 的に関わってきた子どもと一緒に、活動する ことを行動原則としている。支援者の学生は、 それ以外の遊びに対しても関わりを持つが、 子どもと一緒に遊びを選択するということに 注意しながら参加している。 (6)調査方法:参与観察および記録(主に ビデオにて記録をおこなった)、子どもへの聞 き取り調査 4.自然体験プログラムにおける子どもの活 動の観察  キャンプ・プログラムの観察から子どもの 自然遊びの体験につながる事例をもとに考察 を行う。事例1、2は、自然に囲まれた環境に 入った初期の段階から、野菜の収穫、虫の採 集などの行為を通して、子どもの遊びに変化 がみられてきた事例になる。これらの事例を 読み解くことにより、子どもと自然、大人の 三項がどのように絡み合いながら子どもの体 験が生成されているのか探っていく。 1)生活体験の中の遊びと身体感覚 [事例1] 平成27年8月19日∼21日(2泊3日) Kちゃん(6才、女)、Rちゃん(7才、女) 1日目:(キャンプ施設の畑で、なす、ズッキーニ、 ピーマン、トマト、かぼちゃを収穫) K:ねーみてみて。おっきなかぼちゃ。野菜こ んなにいっぱいあったよ R:これどうすればいい。いっぱいとれちゃっ た。 S1:カレーにするから、洗っておいて。 K:切るのも私がやりたい。 R:ねーもっととってきていい。もっととりた い。 S1:いっぱい食べて、たらなくなったらね。 R:はやくたべたーい  1日目の昼食が終わり、キャンプ施設の周 りを散策していると、畑があるのを見つけて 支援員と一緒に、野菜の収穫を行なってきた。 支援員は、成熟している野菜の大きさや形を 見ながら大きくなっている野菜から収穫する ことをつたえ、数や種類を指定することは無 かった。食べられる野菜の状態を聞きながら 収穫がなされた。Kは「おっきなかぼちゃ」 を自分で収穫することのできたことがうれし く、畑にいなかった支援員(特に成人の支援員) にみせてまわっていた。生活活動の野菜の収 穫と調理(切る)が、大きなものを多く獲得(処 理)するという「大きさ」や「数」を競う(評

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価される)という価値観に支えられていると いえる。Rの「はやくたべたーい」という返 しは、「もっととりたい」ために、支援員(S1) の「食べて、たらなくなったらね」という条 件を満たす為のものと解釈することができる。  しかし、実際には、食事をした後に、畑に 野菜の収穫にいくことはなかった。子どもは みんな1回以上おかわりをし、普段より満腹 感を得ていた。このことが「たりている」こ とを満腹感として感じ、「大きいものを多く」 収穫する遊びを終わらせたのではないだろう か。2日目には、残っている大きい野菜が少な いこともあり、「どれがおいしいかな」と収穫 の視点に変化が見られていた。 2)遊びの価値観の転換 [事例2] 平成26年8月20日∼23日(3泊4日) Eちゃん(5才、女) 1日目:午前11時30分にキャンプ施設に到 着し、13時までの間に荷物の整理、昼食を済 ませると林の中や花壇の周りを散策し、チョ ウとバッタを見つける。 E:ちょうちょがこんなにちかくにいるのはじ めてだよ S1:チョウのほかには、 E:バッタもいた。でも、ちょうちょがいい。(手 のひらにチョウを捕まえてきている) S1:虫かごと虫取り網があるよ。 E:ちょうちょ、いっぱいつかまえてくる。み てて。 (14頭のチョウを虫かごの中にいれ、近くにい る支援員にかぞえてみせる) 2日目:Eのテントの外に虫かごを置いていた のを、目覚めたらすぐに確認し、あわてて支 援員のところへもってくる。 E:動かなくなってるよ。 S3:窮屈すぎたんじゃないかな。死んでるの? どうしよう、お花のところへかえそうか。 E:(お墓のように花のそばに死んだチョウを おき、まだ生きているチョウを放して) 元気になってねー。つかまらないようにねー。  午後になると、チョウが飛んでいるのがみ られ、Eもチョウを探し始める。そして、チョ ウの動きに合わせながら、ゆらゆらと身体を 揺らしながら追いかける。花壇をでて、チョ ウが高く舞い上がるのを見計らって、網を伸 ばし捕獲しようとする。うまく捕獲できたチ ョウはその場で、網から放している。これを Eは、一人で繰り返している。  Eは、1日目のチョウの捕獲−収集(遊び) を通して、遊ぶ(遊ばれる)相手の喪失を体 験している。そのことにより、チョウを追い かけること自体を遊ぶことをはじめる。キャッ チ・アンド・リリースともいえる遊びであるが、 ここに「追いかける−捕獲−放す」ことの繰 り返しによる、Eの身体とチョウの動きの同 調をみてとることができる。 5.考察  自然遊びにおける体験の位置づけをとらえ るために「経験」と「体験」の枠組みをとり、 子どもの野外キャンプ活動での「遊び」の場 面の分析をおこなった。

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 事例1)の「おっきなかぼちゃ」、「もっと とりたい」としていた子どもが、満腹感を感 じることにより「大きいものを多く」収穫す る遊びを終わらせたことと、事例2)の「い っぱいつかまえてくる」という虫捕りから、「チ ョウの死」を経た「チョウとの遊び」へと変 容していったこととには共通する「体験」を みて取ることができる。自然と対峙すること により「数」に限りがあり、その中で「創造 的に働きかけること」で遊びをつくりあげな ければ「遊び」が終了してしまうということ を体験していることである。藤本氏(1990)は、 「原っぱとかあき地といった自由空間は、不潔 でまがまがしくはあるが、まさに主体的で創 造的な遊びが成立する場である」と位置付け る。 子どもが「大きさ」、「数」という獲得するモ ノの単位として「野菜」を位置付け「収穫」 を競うこと(遊び)から、収穫した野菜によ る「満腹」という身体感覚により、その遊び を一端終了したところ(事例1)に、自然遊 びの「体験」における子どもの主体性を見る ことができるのではないだろうか。  また、チョウも獲得数を競う遊びの単位と して位置づけられていた。そこから、チョウ の死という、遊ぶ(遊ばれる)相手の喪失と いう体験により、遊びの変容がみられた。キ ャッチ・アンド・リリースという「追いかけ− 追いかけられる」こと自体を遊ぶという、チ ョウと子どもの同調関係をつくりだす遊びが 成立してきた(事例2)。日下氏(2010年)は「自 然体感は『直接的』体験である。山や海に遊 ぶ子どもの身体と自然は、直接、『地続き』と なる」として、「自然との『感応』である」と 表現している。チョウとの関わりが、チョウ 収集−死をとおして、直接的になることによ って、「ゆらゆらと身体を揺らしながら追いか ける」(チョウはゆらゆらと逃げる)という繋 がりとなっているといえる。 矢野氏(2003)は「遊びに深く没頭している とき、(中略)死や性といったおぞましいもの やエロティシズムに接したとき、日常の禁止 は侵犯され、自己と自己を取り囲む世界との 間の境界線が消える『体験』をすることがある」 と言い、そして「『体験』はこのような自己と 世界とを隔てる境界が溶解してしまう陶酔の 瞬間や脱自的な恍惚の瞬間をうみだす」こと になると指摘する。このような体験へと入り 込むためには、まずは、日常の中で付与され た「遊びの価値」をいったん終了させる体験(満 腹という身体感覚の体験、遊び相手の喪失体 験)の必要性を示唆することができるのでは ないか。  自然活動プログラムにおける子どもの自然 遊びの分析からみえてきたことは、①子ども の自然「体験」を支えるのは、食事の為の収 穫ではない散策(遊び)により獲得した野菜 を食べるという体験であるということ。同時 に、そこには野菜を受け入れ調理、保管する という日常生活の知識・技術を活用した大人 の遊びが介在しているといえる。そして、② チョウを収集するという遊びの失敗(深まり) を経て、追いかけ続ける遊びへ変容するのに 充分な時間が確保されていたことにより、子 どもとチョウの身体的同調をつくりだすこと につながっていた。

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 大人の関わりを最小限に抑えた、「子どもと 自然の」時間と空間であり、そこに「自然を 遊ぶ」「自然と遊ぶ」といった自立的行動の芽 生えをみてとることができた。 そして、それを支えるのは、大人が意図的に「日 常の思惑」を最小限に抑え、遊びとしての「自 然の」時間と空間を保障することにある。 今後は、このような遊びの場が形成される社 会構造(大人−子ども、熟練−初心者)につ いて分析を進めていく。 (注) 注1)  原口氏(2004)は、「自然と遊ぼう『ありん こクラブ』」を主宰することにより、五感を働 かせ自然を感じるゲームや農作業や火を使っ た料理などを取り入れた場の提供を行ってい る。小池氏(1999)は、「学校的な日常を強化 させての生活体験」における躾や集団規律訓 練とは異なる、「自分で考え、行動し、気付く 体験」をすることを優先させたキャンプ活動 を支援している。そこでは、「子どもたちが一 人または、集団で、好きなことに打ち込んで いる(表現している)姿」があり、子どもが 変わるのは、「スタッフや仲間に受け入れられ、 信頼されているとき」だという声を拾い上げ ている。石井氏(2014)は「いま、ここ」と いう視点から野外活動を企画し、時間や空間 が限定されることによる「リアルなコミュニ ケーションの現場で明確なリアクション」が なされると報告している。 注2)  小泉氏ら(2013)は野外文化教育と教科教 育(理科・社会科)の視点から野外活動の教 材開発をおこなっている。そこでは、カモシ カとの出会いの体験は効果的であったとしな がらも、観察教材の再現性が難しいという課 題をあげている。また、生活域と野外活動の 対象域のつながりが重要であると指摘してい る。池田氏(2010)は、小学生を対象とした キャンプ・プログラムでの自然体験の効果と して「自己判断力」、「対人関係スキル」、「自 然への感性」において有意性を見出している。 注3)  野井氏ら(2013)は長期キャンプの参加者 のメラトニン代謝の変化を検討し、キャンプ 開始後3日目までの期間に急増したこと、キ ャンプ終了後は14日後以内にキャンプ前の水 準に戻ることを明らかにした。平野氏ら(2002) は、go/no-go課題実験を用い、「握り間違い数」 の減少があることを確認し、「キャンプ経験が 抑制機能を向上させる可能性がある」と述べ ている。 注4)  2013年6月および11月に実施千葉県内の 都市部及び郊外、農漁村部の幼稚園、保育所 を通し、保護者に対して質問紙を用いて調査 を実施した。回収数882部(回収率63.50%) 質問項目等の詳細は、「大人のあそびへのまな ざし∼子どものあそびと大人のかかわり∼」 『千葉敬愛短期大学紀要第36号』を参照され たし。 注5)  上記注4)の調査の一部として、幼稚園教 諭2名に聞き取り調査を行った。

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(参考・引用文献) 安波雄三、岡村泰斗、山田誠、芦田哲「兵庫県  自然学校におけるプログラムタイプが参加児童 の自然体験効果に及ぼす影響」『野外教育研 究9』2005、日本野外教育学会 藤本浩之輔『子どもの遊び空間』1990、日本放 送出版協会 原口サトミ「自然体験活動の報告」、『生活体験学 習研究第4号』2004、日本生活体験学習学会 平野吉直、篠原菊紀、柳沢秋孝、根本賢一、田 中好文、寺沢宏次「子どものキャンプ経験が 大脳活動に与える効果」『野外 教育研究6』 2002、日本野外教育学会 池田拓人「地域との協働による青少年野外活動プ ログラムの開発と実践」、『和歌山大学教育学 部教育実践総合センター紀要20』2010、和歌 山大学 井上俊『遊びと文化―風俗社会学ノート−』1981、 アカデミア出版社 石井晴雄「親と子の野外活動ワークショップ・フォ レスト、ながくてピクニック、無形のデザイン」、 『デザイン学研究特集号21』2014、日本デザ イン学会 叶俊文、平田裕一、中野友博「自然体験活動が 児童・生徒の心理的側面に及ぼす影響」『野 外教育研究4』2000、日本野外教育学会 小池祐介「自然とのふれあいのなかで」、『児童文 化研究所所報21』1999、上田女子短期大学 小泉祥一、長島康雄「野外文化教育活動としての 学習プログラム」『東北大学大学院教育学研究 科研究年報62』2013、東北大学大学院教育 学研究科 国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等 に関する実態調査 平成24年度調査報告書』 2014 文部科学省,生涯学習審議会『生活体験・自然 体験が日本の子どもの心をはぐくむ(答申)』 1999 元森絵里子「子どもへの配慮・大人からの自由」、 『社会学評論57(3)』2006、日本社会学会 野井真吾、鹿野晶子、土田豊、小澤治夫「長期  キャンプ(30泊31日)が子どもの生体リズム に及ぼす生化学的影響」『発育発達研究58』 2013、日本発育発達学会 清水一巳「遊び観への生活経験の影響について」 『千葉敬愛短期大学紀要37号』2015、千葉敬 愛短期大学 山本裕之他「幼児期に豊富な自然体験活動をした 児童に関する研究」『国立オリンピック記念青 少年総合センター研究紀要』2005 矢野智司「『経験』と『体験』の教育人間学的考 察」『経験の意味世界をひらく』2003、東信堂

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