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本論文の内容の要旨
「 在 宅 高 齢 者 の 自 己 実 現 尺 度 の 開 発 の 研 究 」
― 自 己 実 現 尺 度 開 発 と 自 己 実 現 概 念 の 操 作 的 定 義 ―Development of the Self-Actualization Scale for the Elderly Living at Home
ル ー テ ル 学 院 大 学 大 学 院 総 合 人 間 学 研 究 科 社 会 福 祉 学 専 攻 博士 後 期 課 程 清 重 哲 男 本 論 文 の テ ー マ に 自 己 実 現 を 取 り 上 げ た 理 由 は 、 高 齢 者 の 福 祉 サ ー ビ ス を 評 価 す る 概 念 と し て 、自 己 実 現 の 概 念 を 活 用 す る 必 要 性 が あ る と い う 理 由 か ら で あ る 。 本 論 文 は 、 在 宅 高 齢 者 を 対 象 と し た 「 自 己 実 現 尺 度 」 を 開 発 す る こ と を 目 的 と し た 研 究 論 文 で あ る 。 先 行 研 究 か ら 自 己 実 現 の 概 念 の 仮 説 を 立 て 、 仮 説 に 基 づ き 仮 尺 度 を 構 築 し 、 社 会 調 査 を 行 っ た 実 証 研 究 論 文 で あ る 。 社 会 調 査 で 得 ら れ た デ ー タ の 信 頼 性 分 析 、因 子 分 析 及 び 分 散 分 析 の 解 析 か ら 、17 項 目 よ り 構 成 さ れ る 自 己 実 現 尺 度 を 作 成 し た 。 作 成 し た 自 己 実 現 尺 度 を 共 分 散 構 造 分 析 ( Covariance Structural Analysis ) に か け 、 2 次 因 子 構 造 を 検 証 し 、 モ デ ル と の 適 合 性 が 十 分 で あ る こ と を 確 認 し 、「 自 己 実 現 尺 度 ( SAT-17)」 が 開 発 さ れ た 。 自 己 実 現 尺 度 の 信 頼 性 、 妥 当 性 は 十 分 満 足 で き る 内 容 で あ る こ と を 確 認 し た 。 開 発 し た 「 自 己 実 現 尺 度 ( SAT-17)」 の 因 子 構 造 か ら 、 操 作 的 に 自 己 実 現 概 念 を 定 義 し た 。 今 後 、 交 差 妥 当 性 な ど の 残 さ れ た 課 題 が 十 分 検 討 さ れ れ ば 、 本 尺 度 を 高 齢 者 福 祉 サ ー ビ ス の 効 果 測 定 の 道 具 と し て 十 分 活 用 す る こ と が で き る 。 第 1 章 で は 、 自 己 実 現 の 程 度 を 測 定 す る ス ケ ー ル を 開 発 す る 第 一 歩 と し て カ ン ト 、 ニ ー チ ェ 、 マ ス ロ ー 、 マ ッ ク ス ・ シ ェ ー ラ ー の 4 人 の 思 想 家 の 著 述 の 中 か ら 自 己 実 現 の 基 礎 概 念 に 適 用 で き る 理 念 を 抽 出 し た 。 こ れ ら の 抽 出 し た 理 念 に デ ン マ ー ク で の 自 己 実 現 先 行 調 査 か ら 得 ら れ た 自 己 実 現 生 活 の 実 例 な ど 、 ま た 高 齢 者 施 設 で の 実 務 経 験 の 中 か ら 得 ら れ た 思 想 を 取 り 入 れ 、 本 論 文 で 筆 者 が 論 じ よ う と す る 在 宅 高 齢 者 の 自 己 実 現 の 概 念 を 「 自 己 実 現 と は 、日 々 の 生 活 の 中 で 、自 己 の 新 し い 人 間 の 創 造 を 目 標 と し 、他 者 の 協 力 を 得 な
2 が ら 潜 在 能 力 を 生 か し 、自 己 を 成 長 さ せ 、自 由 に 生 き 生 き と 意 欲 的 に 生 き て い る 状 態 を い い 、そ の こ と を 通 じ 他 者 の 幸 福 に 貢 献 し て い る こ と 」 と 定 義 し た 。こ の 概 念 は 筆 者 が 先 行 研 究 か ら 経 験 的 に 定 義 し た 概 念 で あ る 。 次 に 、 第 1 章 で 論 じ た カ ン ト 、 ニ ー チ ェ 、 マ ス ロ ー 、 シ ェ ー ラ ー の 4 人 の 思 想 家 の 先 行 研 究 、 並 び に 第 2 章 で 論 じ た サ ク セ ス フ ル ・ エ イ ジ ン グ 、QOL 、 生 き が い 、 自 己 決 定 の 各 先 行 研 究 及 び 、 デ ン マ ー ク の 現 地 調 査 及 び 、 高 齢 者 施 設 で の 筆 者 自 身 の 勤 務 経 験 か ら 、 自 己 実 現 に 関 連 す る キ ー ワ ー ド を 4 5 1 個 抽 出 し た 。 こ れ ら の キ ー ワ ー ド を 元 に 、自 己 実 現 質 問 文 を 作 成 し 、老 人 ク ラ ブ の 3 人 の高 齢 者 及 びデ ィ ー サ ー ビ ス セ ン タ ー の 利 用 者 12 人、社 会福 祉の専 門家 に 依頼 し事 前 ワ ー デ ィ ン グ 検 討 会 を 4 回 実 施 し た 。 1 項 目 ご と に 慎 重 に 吟 味 し 、 内 容 が 重 複 し た 質 問 、 答 え に く い 質 問 、 わ か り に く い 質 問 文 な ど の 質 問 項 目 の 改 善 を 行 い 、 最 終 的 に プ リ テ ス ト に 使 用 可 能 な 仮 尺 度 50 質 問 項 目 を選 定 し た 。 質 問 文 の 回 答 方 式 は 、 5 点 式 リ ッ カ ー ト ス ケ ー ル と し た 。 プ リ テ ス ト で は 自 記 式 質 問 票 を C 市 在 住 の 無 作 為 に 抽 出 し た 65 歳 以 上 の 高 齢 者 110 人 に 郵 送 し 、4 2 の 有 効 回 答 を 回 収 し た 。 プ リ テ ス ト で 得 ら れ た デ ー タ の 項 目 削 減 と 質 問 項 目 の 最 終 表 現 の 確 定 の た め 、 新 た に 筆 者 を 加 え た 3 人 の 福 祉 系 大 学 教 員 の 4 人 の チ ー ム に よ る 2 回 の ワ ー デ ィ ン グ 検 討 会 を 実 施 し た 。 質 問 文 の 用 語 の 表 現 を 精 査 し 、 ま た 度 数 分 布 の 片 寄 り 、 欠 損 値 の 有 無 を 項 目 ご と に 審 査 し た 。 そ の 後 、 信 頼 性 分 析 、 因 子 分 析 を 繰 り 返 し 実 施 し 、 本 調 査 用 2 4 尺 度 項 目 を 選 定 し た 。 本 調 査 は 、 自 記 式 質 問 票 を C 市 在 住 で 無 作 為 に 抽 出 し た 65 歳 以 上 の 高 齢 者 1,120 人 に 郵 送 し 実 施 し た 。 有 効 回 収 数 4 1 3 ( 36.8% ) を 得 た 。 本 調 査 の 自 記 式 質 問 票 は 、 自 己 実 現 項 目 2 4 、 基 本 属 性 項 目 1 6 の 合 計 4 0 質 問 項 目 か ら 構 成 さ れ て い る 。 本 調 査 で 得 ら れ た デ ー タ か ら 、 全 項 目 が 度 数 が 正 規 分 布 と み な し て よ い こ と 確 認 し た 上 で 、信 頼 性 分 析 に よ る I T 相 関 、探 索 的 因 子 分 析 に よ る 遊 離 因 子 の 確 認 、 潜 在 因 子 へ の 命 名 の 容 易 さ な ど に つ い て 繰 り 返 し 審 査 し 項 目 削 減 を 進 め た 。 最 終 的 に 、自 己 実 現 尺 度 と し て 17 項 目 を 選 択 し た 。こ う し て 自 己 実 現 尺 度(SAT-17) を 開 発 し た 。 自 己 実 現 尺 度 (SAT-17) の全 ステ ー ト メ ン ト を次に示した。
3 表 5 - 1 0 自 己 実 現 尺 度 (SAT-17) 観 測 変 数 名 自 己 実 現 尺 度 17項 目 のステートメント 01 現 在 、どの程 度 趣 味 に取 り組 んでいますか 02 同 年 輩 の人 と比 べて、あなたは、現 在 、健 康 だと思 いますか 03 世 の中 のために、役 立 つことをしたいですか 04 毎 日 の生 活 の中 で楽 しいことがありますか 05 人 との出 会 いは、楽 しいと思 いますか 06 最 近 、お知 り合 いと一 緒 に過 す時 がありましたか 07 人 が困 っている時 に、何 かお手 伝 いをしていますか 08 あなたは、ご自 分 の、幸 福 な生 活 を希 望 しますか 09 ご自 分 の能 力 を生 かした生 活 をしていますか 10 人 より優 れた能 力 が何 かあると思 いますか 11 日 常 生 活 で、自 分 のしたいことが自 由 にできますか 12 あなたは、生 きていることに大 切 な意 味 があると思 いますか 13 ご自 分 の可 能 性 を、これから伸 ばしたいと思 いますか 14 日 常 生 活 上 の問 題 をご自 分 で処 理 できますか 15 ご自 分 の意 志 を家 族 や周 囲 の人 に伝 えて入 ますか 16 ご自 分 の将 来 の生 活 に、何 か希 望 を持 っていますか 17 ご自 分 のやりたいことをどの程 度 、実 現 できると思 いますか 仮 説 に 基 づ く 2 つ の 上 位 概 念 及 び 探 索 的 因 子 分 析 よ り 抽 出 し た 5 つ の 下 位 概 念 か ら 構 成 さ れ る 自 己 実 現 尺 度 の 因 子 構 造 の 検 証 の た め 、 確 認 的 因 子 分 析 を 行 い 、 3 つ の 適 合 度 指 標 CFI、 TLI、 RMSEA を 用 い 評 価 し た 。 CFI は 0.938 と 十 分 高 く 、 TLI も 0.926 と 十 分 高 い 値 で あ っ た 。 と も に 十 分 な 適 合 を 示 す 満 足 の い く 値 で あ っ た 。 モ デ ル と デ ー タ の 乖 離 を 示 す 指 標 の RMSEA は 0.065 で あ り ( RMSEA の 許 容 範 囲 は 0.08 以 下 ) 、 分 析 値 は ほ ぼ 十 分 な 適 合 を 示 す 結 果 で あ っ た 。 信 頼 性 の 確 認 は 、17 尺 度 項 目 の 信 頼 性 分 析 の 結 果 、 ク ロ ン バ ッ ク の α 係 数 が 0.9247( N = 386)で あ り 、統 計 学 的 に 十 分 に 高 い 信 頼 性 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 こ の 尺 度 の 妥 当 性 に つ い て は 、プ リ テ ス ト 前 の 段 階 で 4 回のワ ーデ ィング 検討 会 を 実 施 し 、 さ ら に 、 本 調 査 前 に は 福 祉 の 専 門 家 4 人 の チ ー ム で の 2 回 の ワ ー デ ィ ン グ 検 討 会 を 実 施 し 、 詳 細 に 精 査 し て い る こ と か ら 、 表 面 的 妥 当 性 は 十 分 確 認 さ れ た と い え る 。 確 認 的 因 子 分 析 に よ り 検 証 さ れ た 2 次 因 子 モ デ ル の 2 つ の 上 位 概 念 と 5 つ の 下 位 概 念 か ら 構 成 ら れ 因 子 構 造 よ り 、自 己 実 現 概 念 を 、『 自 己 実 現 と は 「個 人 の生 活 」 と「 他 者 との 関 係 性 」 の 2つ の 上 位 概 念 か ら 構 成 され る 。上 位 概 念 の 「 個 人 の 生 活 」 は 「希 望 を実 現 する意 欲 」と「主 観 的 健 康 度 」及 び「自 分 の人 生 を大 切 に考 える」の3つの 下 位 概 念 から構 成 される。もう1つの上 位 概 念 の「他 者 との関 係 性 」は「能 力 の社 会 的 活
4 用 意 欲 と活 用 度 」と「毎 日 の生 活 を楽 しんでいる程 度 」の 2つの下 位 概 念 から 構 成 され る。』 と 操 作 的 に 定 義 し た 。 分 析 結 果 を 考 察 す る と 、ス テ ッ プ ワ イ ズ に よ る 分 散 共 分 散 分 析 に よ り 、「 自 己 実 現 トータルスコア」 の 高 い 高 齢 者 は 「 判 断 力 」 の 機 能 が 高 く 、「 電 話 や メ イ ル 」 の 回 数 と 収 入 が 同 じ で あ れ ば「 同 居 人 数 」の 数 は 、独 立 的 に「 自 己 実 現 トータルスコア」を 高 め る こ と が 確 認 さ れ た 。つ ま り 、「 電 話 や メ イ ル の 回 数 」と「 同 居 人 数 」は と も に「 他 者 と の 関 係 」 を 示 す 指 標 で あ る と い え る こ と か ら 、 上 位 概 念 の 1 つ で あ る 「 他 者 と の 関 係 」 の 頻 度 の 多 さ は 、「 自 己 実 現 トータルスコア」 を 高 め る 重 要 な 要 因 で あ る と い え る 。 ま た 、「 自 己 実 現 トータルスコア」を 従 属 変 数 と し 、「 最 終 学 歴 」を 最 初 の 独 立 変 数 と し 、 「 男 」「 女 」 を 別 に し た 場 合 、 男 女 そ れ ぞ れ の 「 最 終 学 歴 」 の 高 さ は 、「 自 己 実 現 トータルスコア」 に 統 計 的 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ す こ と が 明 ら か と な っ た 。 本 研 究 の 自 己 実 現 ト ー タ ル ス コ ア の 平 均 値 は 、44.3 点 であり 、最 高 点は 65 点 で あ っ た 。 本 自 己 実 現 尺 度 を 用 い る こ と に よ り 、 一 人 ひ と り の 自 己 実 現 ト ー タ ル ス コ ア ー を 測 定 す る こ と が で き る 。 今 後 の 課 題 は 、 本 研 究 で 得 ら れ た 自 己 実 現 尺 度 ( SAT-17) を 、 地 方 小 都 市 や 農 村 部 な ど の 地 域 で 継 続 調 査 を 行 い 、 地 域 的 な 交 差 妥 当 性 を 検 証 す る こ と で あ る 。 積 み 残 し た 大 き な 課 題 は 、 P G C モ ラ ー ル ス ケ ー ル や 人 生 満 足 度 尺 度 な ど と の 比 較 検 討 で あ り 、 今 後 こ れ ら の 尺 度 と の 相 関 の 程 度 や 各 種 の 独 立 変 数 と の 関 連 性 の 相 違 を 調 べ 、自 己 実 現 尺 度( SAT-17)の 固 有 の 性 質 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。 こ う し た 課 題 を 検 討 し 、 完 成 度 の 高 い 自 己 実 現 ス ケ ー ル が 確 認 さ れ れ ば 、 各 種 福 祉 サ ー ビ ス の 効 果 測 定 の 尺 度 と し て 活 用 す る こ と が で き る 。 高 齢 社 会 で は 、 高 齢 者 が 可 能 な 限 り 、 心 身 の 健 康 の レ ベ ル を 高 く 保 ち 、 自 立 し た 生 活 を 続 け る こ と が 期 待 さ れ て い る 。 現 在 ま で に 、 高 齢 者 自 身 の 身 体 的 健 康 を 増 進 す る サ ー ビ ス 評 価 に つ い て は 、 有 効 な 方 式 が ほ ぼ 確 立 し て い る が 、 自 己 実 現 な ど の 精 神 の 活 動 レ ベ ル を 含 め た 維 持 、 増 進 の た め の サ ー ビ ス 評 価 の 有 効 な 方 法 は 明 確 に な っ て い な い 。 自 己 実 現 尺 度 が 尺 度 と し て 完 成 し 、 精 神 の 活 動 レ ベ ル の 評 価 道 具 と し て 機 能 す る よ う 期 待 さ れ て い る 。