1. は じめに コメを知 っていて も稲 を知 らない子 ども達が いるという話を聞いたのは, もうかなり昔のこ とである.山 も田も畑 も,ただ見ているだけで 何 も知 らない,知 らされなければ自分か ら知 ろ うとしない,そういう子 ども達を増や してはな らない. また,日本 は今 「飽食の時代」のなかにある. しか し, 自分達の豊かな食卓の基 になっている 農作物 に対す る関心 は逆 に希薄になり,生産の 場 と消費の場のかい離が大 きな問題 となってい る.生物 (作物や家畜など)の最終生産物の恩 恵に浴 しなが ら,それ らについて興味 ・関心を 持たずに過 ごして しまうことは非常 に残念なこ とである.幸 い本校には自然や農業 について興 味 ・関心 を持 って入学 して くる子 ども達が多 い.そこで,農業 (自然)教育の教材 として, 専門科 目 「畜産
」
「課題研究」の授業のなかで, 「ミツバチ」を取 り上げ,その生理 ・生態,利用 法 を理解 させ, 自然 と農業 との関わ りにつ い て,より深 く興味 ・関心 を持たせ,生徒 にとっ 図 1 蜜源植物の調査 て魅力ある授業を展開す ることを目的に実施 し ている取 り組みについて,その概要を報告する.2.
方 法 (1) 蜜源植物の分布調査 ミツバチの活動期間 にお ける飼育予定地域 の,蜜源植物の開花状況を調べ,飼育に適 して いる地域であるか推測 した.校内の巣箱設置場 所を中心 に半径2km について季節毎 の開花状 況を調査 し,蜜源マ ップを作成 した (図1
)
.
(
2
)
ミツパテの導入 ・飼養管理 ① ミツパテの導入 専門業者か らセイヨウ ミツバチ (ゴールデ ン イタリア種)を一群導入 し,文献の飼育 マニュ アルに従い,季節 に応 じた管理作業を行 った. この種 は,蜜を集める能力が特 に優れ,病気に 強いという特長があり,初心者の教材 には適当 と判断 し選定 した.定期的な内検 により,女王 蜂の存在,蜜の貯蔵状態,産卵の様子をチェッ クし,必要 に応 じて,巣枠製作,継 ぎ箱設置, 給餌,外敵対策を行 った (図 2).巣枠製作 は必 要資材を購入 し,手作 りとした (図3). 図2 内 検30 図 3 巣枠 の製作 i-ILr l _ 図4 蜜 の分離 ②採 蜜 内検により,十分な貯蜜を確言忍後,採蜜作業 を実施 した (図 4).採取 した蜜 は蜜櫨器 を通 し,巣の破片 ・蜂児を取 り除いた.その後,糖 皮,色,香 り,味について市販の純粋蜂蜜 と比 較検査を行 った (図 5). (3)蜜の商品化 と生産物の利用 (D販 売 蜜を販売用の ビンに充填後,販売用オ リジナ ルラベルを作製 し,文化祭や地域 とのふれあい 市で販売 し,後 日,購入者か ら蜜の品質につい て聞 き取 り調査を行 った (図 6). ②生産物の利用 ハチ ミツを各種加工品,食材 としての活用を 試みた.巣の有効利用 として,蜜 ロウの利用に もチ ャレンジしてみた, (4)増殖技術 群の状態,季節を考慮 し,分封群回収法,王 図6 販売用 ラベル貼 り 台利用法,変成王台形成法 による増殖法を試み た. (5)高級蜜源植物の栽培 水田裏作 ・飼料畑の活用,景観植物の栽培 に より,蜜の品質,採蜜量の向上を図 った.
3.
結 果 (1)蜜源植物の分布調査 ミソバチは巣か ら約2km 四方を飛 び回 り, 蜜 を集 め ることが知 られて いる.巣箱周辺 に は,春には レンゲや自生のナタネ,ニセアカシ アが,夏にはク リやヌルデ,秋 には-ギやセイ タカアワダチソウが群生 していた.季節 ごとの 蜜源 マ ップを作成 し,採蜜 の指標 と した (図 7).その結果,学校周辺部では十分に ミツパテ 飼育が可能であると推測 された.(
2
)
飼養管理 ・採蜜 定期的な内検 により,季節毎の個体数,産卵,図7 塞源マ ップ (春季) 貯蜜の状況がよ く把握で きた. しか し,毎年, 暑 さにより,群の勢 いが弱 って くる 7月には-ギイ タダニの発生, 10月 にはスズメバ チの襲 撃があ ったが,早期 に発見で き,殺虫剤 や捕獲 器設置によ り,被害 は最小限に食 い止めること がで きた. しか し,H10年度 はスム シの被害を 受 け,1群を失 った.他の群 はすべて越冬 に成功 し,翌年2月下旬 には元気 に巣か ら飛 び立 った. この教材 に取 り組み始 めてか らの採蜜量 は表 1のよ うにな った. 品質 は市販の純粋蜂蜜 と比較 してみると,樵 度 は
7
8
度 とほぼ同 じレベルであ ったが,色が やや濃 い物であ った. しか し,味や香 りは特 に 問題 はなか った (図 8).(
3
)
蜜の商品化 と生産物の利用 本校産の蜜 は, いろいろな花の蜜が混 じり合 ってで きたいわゆる 「百花蜜」 と呼ばれる物で あるが,販売後,感想 を聞いてみると 「市販品 よ りこくがあっておい しい」,
「混 じり物 な しで 図9 販売風景 図8 十分な貯蜜 表 1 採蜜量の推移 年 次 H9 10 11 13 14 探蜜豊 10.5 10.3 20.5 10,5 165 採蜜量の単位はkg (H12は筆者転勤のため実施せず) 安心 して食べ られ る」 という意見が多 く寄せ ら れた (図 9). 採取 された蜜 を使 い,各種加工品を製造 した (図10).ハ ニーキ ャラメル は蜜 に乳脂肪 を加 え加熟 し, カラメル化 させた ものを成型,冷却 し製品 とした.-ニーバ ターは乳脂肪 にチ ャー ニ ング, ワーキ ングを行 い,バ ター製造後,低 温で加熱 しなが ら蜜を加 え混合 し製品 と した. 季節 のフルーツを蜜 に漬 け込みハニー シロップ 香,蜜 と牛乳, フルーツを ミキサーで混ぜ合わ せたハニー ミルクを製造 した. また,砂糖の代 替品 と してケーキ, ビスケ ッ トに も利用 した. ミツロウは,採蜜時に破損 した巣牌や ムダ巣 を利用 し,融解後,不純物 を取 り除 き, ロウソ 図10 各種加工32 図11 ロ ウ ソ ク クの材料 として利用 した (図11). ミツバチの ロウは,すすが発生せず, きれいな炎が楽 しめ ることか ら,その商品価値が期待 される. 健康食品 として評判の高 いプロポ リス,花粉 については,試験的に採取 してみるとまとまっ た量が確保で き,今後の活用法が検討 される. また,生産 ・販売量か ら経営分析 ・試算を行 っ た.蜜 は
1
kg
当たり1
,
500
円で販売 し,それに かかる蜂導入費,必要器材, ビン代, ラベル代 等を差 し引き,単純 に粗収益を算出 した.その 結果,導入初年度 は,多額のマイナスになるも のの,2年 目か らはわずかなが ら収益があ り, 年次最高収益 は,1
2,
000
円 (平成1
0
年度) と なった. これをベースに年次を追 って経営試算 してみると,1群で始 めて も,4年後には 30万 円近 い粗収入が計上 された (但 しこの数字 は, 毎年蜂群 は2倍 に増殖で き,蜜源植物の開花, 害虫発生状態 は現状維持 とした,非常 に甘 い試 算である). ヒ∴ _iJJで 1-L:ニ-写 恩 i_----⊥-I・・ 【 -il ■ , 、了 . . , 't. ■リ ノ11 人 .ト か叫 .. メ -も ・I I ・]息 に 1 ▲t 1 図13 レンゲの播種 図1
2
分蜂群 の回収(
4
)
増殖技術 3方法 (分蜂群回収法,王台利用法,変成王 台形成法)を試みた. どの方法において も群を 増殖す ることには一応成功 したが,変成王台法 は新女王の産卵状態あまり旺盛でな く,群の充 実に時間を要 した.分蜂回収法は,分封の遅れ や分封群の集結位置が高所である場合があり, 何度か失敗 したが,回収で きた群は強勢群であ り,その後の集蜜成績が良好なものが多い傾向 であった (図1
2)
.
王台の利用は内検回数の少 なさか ら王台形成を見逃す ことがあり,何群か は分蜂を許 したが, この方法による増殖が最 も 容易に成功 した. (5)高級蜜源植物の栽培 本校の位置する地域 は,県下では有機農法が 盛んな地域で,地力増進を目的に レンゲ栽培が 盛んに行われている.また近隣には秀吉の水攻 めで有名な高松城祉公園や,吉備 自然公園があ り,景観植物 として, さまざまな草花が広い面 u .一 .F .I .i [T t A l i ∴ 叫 ・.. ;,i. .I,.:.こ_yI・_.._ 図 14 養蜂 家見学4.考察 ・まとめ
生徒達 の この取 り組 み につ いての主 な感想 は,次の3つである. 「分離器の取 り出 し口か ら蜜が流れ出 した瞬 間,それまでの苦労が吹 き飛 びま した.念願の 蜂蜜を手 にす ることがで きたのです.」,
「私達 は, このプロジェク トを通 じて,多 くの人達 と 会いました.また,楽 しさもいっぱい知 りま し た.地域 に生かせる新 しい農業分野の開拓の楽 しさ,地域の環境を知 る楽 しさ.そ して,なに よりも勉強にな ったことは, 自然 と人 と ミツバ チが一つになって, さまざまな恵みが与え られ るすぼ らしさ.」,
「この夢 のあるプロジェク ト を,後輩達に託 し,今後 さらに充実 させ,地域 に貢献で きる新技術の確立を目指 して もらいた いと思います.
」
生徒達にとっては何 もか も未知の ものへのチ ャレンジであった.最初 は文献 に頼 ってのスタ ー トであったが,数々の問題点 に直面 していっ た.その度,近隣の養蜂家やイ ンターネ ッ トを 駆使 Lで情報を収集 し, 目の前の課題を克服 し ていった.次第に,生徒が中心になって活動を げて くれた時,分離器か ら蜜が流れ出 した時, 購入者か ら「おい しか ったよ.
」と声をかけられ た時,その瞬間,生徒達の顔が本当に生 き生 き としていたように感 じられた. この取 り組みは,生徒 自身, まとめとしてそ の年毎 に 1冊 の フ ァイルにまとめて いる (図 15). さらにプ レゼ ンテーションソフ トを利用 して,10分程度の内容 に要約 し,3学期に他の 研究 とともに発表を行 っている.H14年度 は, 岡山県農業高校プロジェク ト発表会の出場を目 指 し,4名の生徒が約 1ヶ月間発表準備 ・練習 を行 った.その努力が実 り,最優秀賞を獲得 し た.また,岡山市役所主催の環境保全型農業パ ネル展や,県庁での農業後継者実績発表会への 参加 など, 自分たちの学習活動が校内のみなら ず,広 く校外 で一般 の人 々に評価 された こと は,生徒にとって大 きな自信 になったと思われ た (図16). 指導の立場か ら述べると,教師自身が今回の 取 り組みを通 じて, ミツバチの持つ大 きな能力 に驚 き, また人類が蓄積 してきた知識 と技術 に 敬服 した.多 くの先人が研究 し,実践 してきた 結果に触れ,その功績 には圧倒 されるものがあ34 った.蜂達 は独 自の社会を作 り,それぞれが一 つの目的に向か って役割を果た してい く.何か 人間社会 に も共通 した ものを感 じさせ られた. 生徒 とともに蜂の導入か ら,採蜜,販売の過程 を経験 し,普段何気 な く利用 している食品につ いての興味関心を持つ ことがで きた. また理科 の教科書 に出て くる
「
8
の字 ダ ンス」 や 「単為 生殖」
「社会性昆虫」 につ いて も実際に観察で き,農業分野のみな らず広 い知識が得 られた と 思われ る. また,専門高校 の立場で考えてみる と,専門科 目 「畜産」
「課題研究」のなかで,従 来の ウシ, ブタという家畜の範 ち ゅうを広 げ, 昆虫を飼育 し,利用す ることも畜産業であるこ とも再認識 されたと思 う. 授業展開は, まず ミツバ チの生理生態 につい て哩解,次 いで一連 の管理作業,製品化 とした. 動物 を教材 にす ることによ り,視覚,感覚的な 興味 ・関心がわ き,生徒達 は飽 きることな く, 学習 に取 り組 めて いた と思 う.育 て るよろ こ び,作 るよろこび,そ して人 とのつなが りが総 合的に体験でき, はば一年間で教育活動が終了 で きることも,教材 と して取 り上 げやすいもの とな った.文部科学省の唱える,
「生 きる力の育 成」,
「総合的な学習」の実践 に十分適す る内容 で,加えて,専門高校 と しての,専門知識技術 の学習,勤労観,経済観念の育成,農業の養蜂 分野の位置づ けの理解,進路決定の指標 などさ まざまな教育的効果が得 られる教材 となった. 今後 は安全面 に十分注意 し,採蜜 目的以外の 利用 (ポ リネーション,副産物の利用,蜜源植 物栽培 による校内環境美化等)に も取 り組み, さらに充実 した教材 に して いきたいと考えてい る. そ して,生物 と自然 を見 る目を養 い, 自然 と農業 との関わ りが生徒達 に伝え られ る教材 に に発展 させてい くことが望 まれる. 末筆 なが らこの取 り組みについて多大 なる技 術指導,助言を賜 りま した,原瀬農園,野 々垣 養蜂園,金友写真館の方 々に厚 く感謝申 し上 げ る.本研究の一部 は (財)福武教育振興財団教 育研究助成 による. (〒701-1334 岡山市高松原古才336-2 岡山県立高松農業高校) 参考文献 D.Mブルーム.1987.動物大百科 (家畜).小芋賂 兼松仁郎.1981. 協. 松香光夫.1998. 岡田一次.1975. 角田公次.1997. 吉田忠晴.2002. 渡辺 寛 ・渡辺 会 . 渡辺 孝.1972. KEllCHIHAR人 生きものを教える (基礎編).農文 ミツバチ利用の昔と今 農文協. ミツバチの科学.玉川大学出版部. ミツパテ.農文協. ミツバチの絵本.農文協. 孝.1994.近代養蜂.日本養蜂振興 ミソバチと人間.日本養蜂振興会. Beekeeping as an lntegrative teachingmaterlalinSeniorhighschoolf orAg-riculture.Honeybee Science (2003)24(1)29-34. Takamatsu AgricLllture High School, 336-2, Takamatsu-harakosai, Okayama, 701-1334 Japan.AnIntensivebeekeepingtralningwasexperi -mentally introduced Into the curriculum of anlmalhusbandry"and Hassignments"ofthe agricultural education course. The contents were1)surveyofdistributionandphenologyof melliferousnora(honey plants),2)keeping bees (Apismellifera),3)selling harvestedhoneyand relatedbeeproductslikebeeswax,4)reproduc -tive managements and multiplication of coレ onies,and5)propagationofsomemajorhoney plants.
Students were actively involved,concerning in evel-y Step Of beekeeping and tried to managethepro)ectprofitableintheend.Kee p-ingbeesmadethestudentsawareoftheirsur -roundingsin widerview,and thepotentlalof utilizing itwith beesand theirproducts.The trialwasasuccessinvariouspolntSOfview,to getthe bestaward ln the AgrlCulturalhigh schoolprojectcompetitionofOkayamaPref.
Astheeducationalmatel`ial,honeybeeandltS beekeepillg CanO庁errange ofinterests,from pure biology orapplled entomology,to food processing,marketingandenvlrOnmentalissues. Annua)cycleofthecolony would beanother merltaS the integrative teaching materialat school.