小野 正人
4年 に一度の間隔で開催 されている標記の国 際会議が, 日本学術会議 と日本昆虫学会 との共 催 により,2002年 7月 27日 (土)∼8月 3日 (土) にかけて, 北海道大学で開催 された (図 1).世界30カ国か ら約 500名の研究者が参集 し,連 日最先端の研究発表 と論議が繰 り広げ ら れた. 筆者 は, 1997年 4月に発足 した誘致委 員会 よ りその運営 に関わ って きたが,本稿 で は, 日本が開催国 として決定 されるまでの経緯 なども含めて,会議の概要 を報告 したい. 1.日本開催に向けて 国際社会性昆虫学会 (InternationalUnion fortheStudyofSociallnsects:IUSSI)は, 1951年 に設立 され,その第 1回大会が,1952 年 にフランスのパ リで開催 されて いる. 日本 は,その設立当初か らメ ンバーに名を連ね,宿 動 の中核を担 い,過去4回の大会 に遡 っては, 毎 回二桁 の参加者 を送 り出 して きた.ちなみ に, 玉川大学か らも, 第10回の ミュン- ン大 会 より,毎回必ず参加者を出 して積極的に研究 1LLI_Ll-J11=tf-t'Ⅹ
I
I
J
L
h
,TEAN
AT
IONALC
O
NGRES
S
OFI
U
SSI s.,u'poliOJAPAN ConfcJ・CLllCcl-hll olHl)l心 くtOUJliversaly図1
I
US
SI札幌大会の ロゴマーク 図 2 松本忠夫大会会長の挨拶 発表を展開 して きた. このような状況の中にあ りなが らも, 日本が大会のホス ト国を務めた経 験 はなか った. しか し,機 も熟 した1997年, 「IUSSI会議 日本誘致委員会」を発足 させ,その 開催候補地を札幌市の北海道大学 と定めて,吹 期 開催地 と して正式 に名乗 りをあげた.そ し て,遂 に前回のアデ レー ド (オ-ス トラリア) 大会における次期開催国選考委員会での投票に より,見事 E]本 (札幌)開催が正式 に決定 され るに至 ったのである. 東京大学の松本忠夫教授 を大会会長 に,北海 道大学 の東正剛教授 が大会事務総長 を担 当 さ れ, 日本学術会議か ら12名, 日本昆虫学会か ら26名の研究者が組織委員会を形成 して,大 会の運営にあたった. さらに,東研究室の学生 諸氏が会場,受付,案内などの実務を実 に献身 的に担当 し,大会の運営に大変な功労をされた のは,特筆すべ き点であった. 玉川大学か らは,松香光夫,吉田忠晴,佐々 木正己教授,そ して筆者が組織委員に加わ り, 大会の運営に携わった.さ らに,今年3月大学 院を修了 し,文学部 に職を得た市川直子助手を 加 えた5名が参加 した.また,応用動物昆虫科 学 に所属する5名の大学院生が参加 し,交流の 場を広げた.同時に,多 くの学部生 も参加 して 著名な研究者の講演に聞 き入 っていた. 2.オープニングセ レモニー 7月 28日 15:00,会議の幕 は,京王プラザホ テル札幌で,華やかに切 って落 とされた.実 は, 前 日の27日より,「ミツバチの分子生物学」と 題するサテライ トミーティングが,東京大学の 久保健雄教授をオーガナイザーとしてスター ト137 図3Jeanne教授 の特別講演 してお り,一部では既 に大 きな盛 り上が りをみ せていた.本大会のメイ ンテーマとして 「遺伝 子 と社会性昆虫」が掲 げ られているが,それは, 近年急速 に発達 した高度 な分子生物学的テクニ ックを馬区使 した研究によ り,カース ト分化など のような表現型 に見 られ る多型の制御機構に鋭 いメスが入れ られ,次々と新知見が明 らかにさ れている現状を脱んでのことである. この研究 分野 は, まさに日本が得意 とす るところであ り,分子 レベルで社会性昆虫の特性を紐解 くと いう点で,今後の研究展開の大 きな分岐点を与 えることが期待 される.そういった意味で も, このサテライ トミーティングは多 くの関心を集 めていたものと思われる. さて,その熱気 も冷めや らぬ中,松本大会会 長によるウエルカムア ドレス, ご来賓の方々の 挨拶が始まり,会議 も順調な滑 り出 しを見せた (図 2).続 いて,恒例のスペシャルプ レナ リー 講演が始め られた.今回は,松本会長が,会長 講演 と して 「日本 お ける社会性昆虫研究 の変 遷」に関 して,体系的な研究史の紹介をされ, 詳細 にまとめ られた日本 における社会性昆虫研 究の伝統 に聴衆 は聞 き入 っていた.二番手 とし BEL4 アリの神秘を紹介するKaufmann博士 図5 歓迎パーティーで再会を喜ぶ て登壇 されたのが,米国 ウィスコンシン大学の Jeanne教授で,「-チ目昆虫の社会の複雑性一 特 にカ リバチに注 目して」 という講演の中でき わめて多様性 に富む-チの社会を紹介 した (図 3).最後に, ドイツのゲーテ大学の Kaufmann 博士 とMaschwitz教授 による 「ア ジア熱帯多 雨林に見 られるア リと植物の共生」に関す る講 演が続 いた.Maschwitz教授 が講演 を され る 予定 であ ったが体調 を崩 され,共 同研究者 の Kaufmann博士 によ る発表 とな ったが,熱帯 アジアにおけるア リと植物の極めて密接な共生 関係の紹介に,会場のいたるところでどよめき が起 こっていた (図 4). 当 日は,18:00より,歓迎パ ーティーがあり, 多 くの研究者が, 日本での再会を喜 び,交流の 時を楽 しんでいた (図 5). 3.発表会場の運営 翌29日か らは,北海道大学の学術交流会館 と百年記念会館に場を移 し,毎 日朝2題の基調 講演 と,その後 に5つの会場 に分かれて数題の シンポジウムが展開された.今回の大会では全 部 で 33題 の シンポ ジウムが計画 され,各 々7 題か ら14題の口頭発表 により構成 されていた. ポスター発表 に関 して も,各 シンポジウムこ とにまとめ られて特設会場 に掲示 され,訪れた 聴衆 と討論する形態がとられた. ポスターは会 期中掲示することができ, 8月2日には一切の 口頭発表を行わない時間帯 も作 ることで,全参 加者 に見て頂 けるような配慮 もなされた. 今回 とくに注 目されたのは,パ ワーポイ ント による講演を可能 とした点であり, 口頭発表を された90%以上 の研究者が,その発表形態 を 希望 されたということである. タイムスケジュ
に,講演者より事前 に発表用のイメージを納め たメディアを預か り, 講演順 にパ ソコンの
HD
に コ ピー してお くなどの処置 を徹底す ること で,会期中に大 きな トラブルは全 く起 きなか っ た. これには,参加者 は大変驚 き, また,その 実務を担当されたのが,北海道大学の学生諸氏 のボランテ ィア活動であることが,最後のさよ な らパーティーの会場で紹介 されたときには, 会場全体が拍手の渦で包 まれた.一 日の会議 日 程が終了 してか らも,次の 臼の準備のために連 日徹夜 に近 い状態で取 り組んで くれた彼 らの頑 張 りが無 げれば,今回の会議の成功 も成 し得な か ったのではないか と思われる. 4.基調講演 さて,本会議では,一里塚を築かれた重鎮だ けでな く,近年 エポックメイキ ングな発見をさ 図7 真社会性のエビを発見したDuffy博士 にあげ,従来知 られていた5つの化学物質のブ レン ドだけではな く,単体では生物活性を示 さ ないい くつ ものマイナー成分 との共存により, 働 き蜂に対する生理活性が飛躍的に高 まる事実 を紹介 した. Duffy博士 (ウイ リアム&メア リー大学 :図 7)「テ ッポウエ ビの生態 と真社会性の進化」, 熱帯の海で海綿 と共生 しているエビの一種 に分 業を伴 うカース ト分化があることを発見,その 興味深い生態を紹介. 7月30日Whe
e
l
e
r
教授 (ア リゾナ大学 :図 8)「カース ト分化- この1
0
0
年の取 り組み」, 同 じゲノム のセ ッ トをもちなが ら,女王 とワーカー,ある いはソル ジャーと表現型が多様化 し,それが仕 事の分担 にも関係するハチやア リの社会に見 ら れるカース ト分化が,科学者たちにどのように 捉え られていたのか,20
世紀 の1
0
0
年間を レ ビュー した. 久保教授 (東京大学 :図 9)「ミツバチ社会の分 子生物学的解析」,セイ ヨウ ミツバチの多様で 適応的な行動 に関 しての研究 は数多 くあるが, その分子生物学的バ ックグラン ドの解析 は皆無 といって も過言ではない.そのような状況の中 で,世界最先端の分析技術 と優秀な研究チーム により,主に情報制御の中枢である脳で発現 さ139 図9 最先端の研究成果を披露する久保教授 れる遺伝子群 に注 目 した従来 にはない斬新 な研 究成果を紹介 し,世界の研究者の注 目を集 めた. 8月 1日 Boomsma教授 (コペ ンハーゲ ン大学)「社会 共生 と社会寄生 :種 レベルの対立 と協力」,ハ ミ ル トン教授 の血縁選択説 と包括適応度 とい う概 念の提 出によ り,昆虫社会 に見 られ る対立 と協 力が説 明 され るよ うにな った.最近
1
0
年間 に 展開 された研究の レビューを行 った. Queller教授 と Strassmann教授 (ライス大 学 :図1
0)
「細胞性粘菌 の社会 における利他性 と対立」,従来社会性生物 の代表格 は- チ とア リであ ったが,近年,それに加 えてアブラムシ, アザ ミウマ,- ダカモグラネズ ミなどなど次々 とニューフェースが発見 されている.本講演で は, アメーバ に見 られ る真社会性 の紹介 とその 解析が生物の社会性進化 に対す る新 たなモデル を提供す る可能性 を示唆 した. 8月 2日 青木教授 (立正大学 :図11)
「アブラムシ社 会 に見 られ る兵隊カース ト分化 と利他的分散」,1
9
70
年代 の後半, アブラム シに真社会性が進 図10 Queller教授とStrassnlanll教授 図11 兵隊アブラムシの発見者,青木教授 図12異種生物の相互作用を説 くPlerCe教授 化 していたことを世界 に先馬区けて発見 した演者 自身 によ り,その後 に新 たに生 じた疑問 と仮説 に関 して,主 に虫 こぶを形成 しソル ジャー もも つ種で, その兵隊が同 じコロニーの仲間 とよそ 者 を識別で きる能力を もっているか という点を 中心 に紹介 した. Pierce教授 (- ーバー ド大学 :図 12)「共生か ら寄生へ :シジミチ ョウとア リの相互作用の進 化」,極 めて多様 な生活史 を進化 させて いる シ ジ ミチ ョウ科 において, ア リと密接 な共生関係 にある種 に注 目 して,その異種間相互作用がど のよ うに進化 して きたのか解説 を行 った. 8月 3EI Seeley教授 (コーネル大学 :図 13)「コ ミュ ニケー ションの研究が どこまで ミツバチ働 き蜂 の心 を明 らかにで きるか」,良 い餌場 か ら巣 に 戻 った採餌蜂が,仲間にその情報 を伝達す る様 相 を克明に観察 した最近 のデータに基づ く解説 がなされた. Kaib教授 (ベイルース大学 :図 14)「シロア リ における対立 と協力」,社会性昆虫 における生 殖 に対 しての対立 に関す る理論的なバ ックグラ図13 働き蜂の情報戦略を語るSeeley教授 図14 シロアリ研究の大御所 Kalb教授 ン ドは,単倍数性 の性決定様式 を もつ- チ目昆 虫 で論 じられ る ことが多 か ったが,本 講 演 で は,雌雄 ともに2倍体 であ る シロア リの社会 に 着 目 し, コロニーの発達段階 に応 じて, その制 御要因が異 なる可能性 を示唆 した. いずれの基調講演 も時節 を得 た素晴 らしい も ので,聴衆 の心 に残 る ものであ った ことは間違 いない.
5
.研究分野 を広 く網羅す る シンポ ジウム 会期 中 に開催 され た シ ンポ ジウムは,33題 で250以上 の口頭発表が な された.本大会 の 目 玉であ る分子生物学 は もちろんの こと,系統, 分類,行動,生理,生態,生化学 とすべての研 究分野 をカバ ーす る多様 な テーマが設定 されて お り,会場 にいれば必要 な情報 をすべて生 で入 手 で きるとい う環境が提供 されていた.紙面 の 那合上, 前号 23巻 2号 で紹介 された各 シンポ ジウムの紹介 は割愛 させて いただ く.本会議 に は実 に多方面 の方 々か ら温 か いご寄付 を賜 った が, そのお陰で多数 の研究者 を招待講演者 と し 図15 Martin博士と高橋君 図16 Koenlger博士に説明する綾部さん て招碑 す ることが可能 とな った ことに も, この 場 を借 りて,是非触 れ させていただ きたい. 6.学生 の活躍- ポ スター発表 日本 で開催 され る国際会議 の場 は,学生 にと って も世界 に研 究 交流 を広 げ るチ ャ ンスで あ り, 日頃取 り組 んで いる研 究 テーマの成果 を発 表 す る絶好 の機会 である.各国か らの研究者 に 混 ざって 日本 の大学 の学生 も,各 々の研究成果 を一枚 の ポス ターにまとめて,発表 にチ ャレン ジ して いた.玉川大学か らは4名 の大学院生, 高橋純一 (博2:図15),綾部斗清,笠原麗美 (修2:図16),岡本 明久 (修 1)が発表 し,学 会誌 の論文 な どでその名 を知 る憧 れの研究者 と 生で討論す る好機 を得ていた. 7.エクスカー シ ョンと日本語講演会 会期の中 日にあた る7月31日は, エクスカ ー シ ョンに当て られていた.参加者 は,有珠 山, 洞爺湖,昭和新 山を訪 れ北海道 の 自然 を堪能 し た.丁度, その 日に,札幌市民向 けに日本語 の 講演会 も開催 された.北海道大学学術交流会館1L11 図17 黒揮映画への協力も交えた山岡教授の話 の大講堂で,山岡亮平教授 (京都工芸繊維大学 : 図17)「ア リはなぜ一列 に歩 くか ?」,青木重幸 教授 (立正大学)「働 くアブラムシ
」
,そ して私 「スズメバチ,ミツバチ,マルハナバチー蜂の機 能を科学す る」の3題が行われ,参集 した大勢 の市民の皆 さん と和やかな親睦を もつ ことが出 来た. 8.閉会式 とさよならパーテ ィ-最終 日の8月3日は,所 を再 び京王 プラザホ テル札幌に移 して,4
つの シンポ ジウムが行わ れた.その内の一つは, ミツバチ関係者 にとっ てほお馴染みの Koeniger教授 がオーガナイザ ーを担当された 「ミツパ テの多様性 と進化生物 学」 と題す るもので,玉川大学で学位 を取得 さ れた Deowanish博士 (チュラロンコー ン大学 : 図 18), Smith博士 (カ ンサス大学), Moritz 教授 などの面 々が講演者 と して名を連ねた. そのまま同 じホテルで, 18:00よ り閉会式 と さよな らパ ーティーが開かれた.東正剛大会事 務総長 の司会の もと,松本会長の挨拶 に続 き, 次期開催地 として,米国 ワシン トンDCが決定 された旨の報告がなされた. また,学会事務総 図18 オオミツバチの遺伝的多様性の発表 図19 閉会式にて,左から東教授,Breed教授,松本 教授,Kirchner教授 図20 餅っ さを体験す るCrozler教授 図21 さよならパーティーでの- こま (左か ら: Schmld-Hempel,Gadagkar,West-Eberhard, Turlllazzl各教授)長が Breed教授か らKirchner教授へ と引 き継 がれた (図19).会場 に参集 した研究者 たちは, 日本独樽の餅つ きを体験 した り,円卓 に運ばれ て くる料理 に舌鼓 を打 ちなが ら,仲間 との楽 し い談笑 のひと時を もっ ことがで きた (図 20). そ して,会議の終了 を名残惜 しみなが ら,今後 の研究の進展 を誓 い,また 4年後の再会を約束 した (図21). (〒194-8610 町田市玉川学園6-1-1 玉川大学 ミツバチ科学研究施設)