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(1)

中国国際私法における公序の概念について

著者

徐 瑞静

著者別名

XU Ruijing

雑誌名

アジア文化研究所研究年報

50

ページ

134(213)-126(221)

発行年

2016-02-29

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00008038/

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1 はじめに  国際私法上の公序は,本来,法廷地国裁判所 が適用すべき外国法であるにもかかわらず,法 廷地国の重大な利益,基本的な政策,道徳の基 本理念,法律の基本原則と抵触する理由で,当 該外国法の適用を排除する法制度として,法廷 地国の利益を守る重要な役割を果たしている。 今日,諸国の国際私法の立法,学説,実務にお いては,同様に,国際私法における一つの重要 な法制度として,公序則が認められている。公 序秩序について,フランス法においては公共秩 序(ordre public),ドイツ法においては留保条 項(Vorbehaltsklauseln), 英 米 法 に お い て は 公共政策(public policy)と呼ばれ,そして, 中国法上においては,民法通則が制定されて以 来,「公共秩序」と呼ばれている。  国際私法の理論からみると,国際私法におけ る公序制度は,準拠法の決定のための柔軟性を 有する法制度であり,個別具体的な法律関係の 適切な準拠法の選定の役割を果たしている。し かし,国際私法上の公序は,国際的に確立され た概念ではなく,むしろ,柔軟性を有する概括 的な概念である考えられているため,公序の意 味があまりに概括的なものであると,裁判官が 法を適用するとき,公序則をもって,恣意的に 外国法の適用を排除する可能性がある。もとよ り,公序の概念については,その曖昧性を否め ないところがある。裁判官の恣意による外国法 の適用の排除が,公序の概念の不明確さに起因 するものであり,今日における渉外私法関係の 正常な発展のため,公序の概念の明確性が重要 であることは改めて述べるまでもないであろ う。このような事情は,中国国際私法に関して も例外ではない。そこで,この小稿は,とくに, 2010年10月に全人代によって採択された中国国 際私法中の公序則に関し,渉外民事関係法律適 用法第5条を中心として,国際私法上の公序則 ないし公序概念について若干の考察を試みよう とするものである。 2 国際私法上における公序をめぐる中国学説 (1)公序の意義  まず,公共秩序(公序)の意義に関して,中 国の国際私法研究者は,それを静態と動態との 二つに区別している。静態の公共秩序とは,国 家及び社会の重大利益または法律及び道徳の基 本原則を指している(1) 。動態の公共秩序とは, 専ら,国際私法によって選定された外国法の適 用を排除できる基本原則,すなわち,公共秩序 制度を指しており,そして,静態の公共秩序の 立場から外国法の域外効力を排除することとさ れている(2) 。  また,中国学説においては,公共秩序を広義 のそれと狭義のそれとの二つに区別している。 前者の公共秩序は,法廷地国の裁判所におい て,その抵触法により,いずれかの渉外民商事 関係へ外国法を適用すべきである場合に,当該 外国法が適用されると,当該法廷地国の公共秩 序との矛盾が発生することとなる場合であっ て,そこには,当該外国法の適用を排除するこ とのほか,法廷地国のいずれかの規定が,国家 利益,基本政策,道徳,法律の基本原則をもっ て,直接的に渉外民商事関係に適用されるべき

徐   瑞 静

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効力を有すること,すなわち,強行的に適用さ れて,その結果,外国法の適用が排除される場 合も含まれている。この意味の公共秩序は,公 共秩序の機能からみると,消極機能ないし否定 機能を有しながら,なおかつ,積極機能ないし 肯定機能をも有している。前者の場合が消極機 能ないし否定機能の秩序に関するものであり, 後者の場合が,積極機能ないし肯定機能の秩序 に関するものである。換言すれば,広義の公共 秩序が外国法を否定する機能,及び,内国法を 肯定する機能を有する。それに対して,狭義の 公共秩序は,何れかの法廷地国の裁判所の抵触 規則に従い,本来,いずれかの渉外民商事関係 に外国法を適用すべきであるところ,その適用 が法廷地国の公共秩序と抵触する虞れがあるた め,当該外国法の適用を排除することを可能と するものである。すなわち,狭義の公共秩序は, 消極機能ないし否定機能のみを有する公共秩序 であり,外国法を排除する機能のみを有する(3) 。  中国の研究者が公共秩序の意義について論議 するとき,従来から,狭義の公共秩序の定義が 援用されることもあるが,一般的に,広義の秩 序の立場からこの制度が理解されており,公共 秩序の制度については,次の3つの意味を有す るものと考えられている。(ⅰ)法廷地国又は 条約の抵触規則に従い,本来,いずれかの国の 実質法を準拠法とするが,それを適用すると, 法廷地国の重大な利益,基本的な政策,道徳の 基本的観念及び法律の基本的原則と抵触する畏 れがあるため,その適用を排除する制度,(ⅱ) 法廷地国の法律が渉外民商事関係へ直接的に適 用される効力を有すると考えて,その結果,外 国法の適用を排除する制度,そして,(ⅲ)裁 判所が外国裁判所又は外国仲裁機関による判決 や判断の承認・執行を求められたとき,当該承 認・執行を認めたならば,裁判地所在地国の公 共秩序に違反する可能性がある場合に,当該外 国司法機関の承認・執行を認めない制度であ る(4) 。上述のように,公共秩序問題は,主に外 国法の適用や外国裁判所による裁決の承認・執 行の2つの状況から発生することとなる。 (2)公序則の立法問題  次に,公共秩序の立法問題に関する中国学説 に言及すれば,まず,公共秩序に関わる立法上 の表現として,例えば,公共秩序の立法では, 公共秩序と善良風俗,社会・政治制度と法律原 則,法律秩序原則,国家と法律秩序の基礎,法 律の基本原則,憲法に定める社会組織の基本原 則,国際公共政策又は善良風俗,公共政策,法 律政策などの呼び名があり,公共秩序に関する 立法上の用語は統一されていない(5) 。また,公 共秩序の立法方式に関しては,間接的制限の立 法方式,直接的制限の立法方式,併合的制限の 立法方式がある(6) 。そして,公共秩序の立法基 準については,主観的基準及び客観的基準があ る。これに対して,例外的基準及び原則的基準 とする学説も見られる。公共秩序を理由として 内国利益を損なう外国法を排除することは,今 日の社会において,1つの例外として扱われて おり,公共秩序の立法基準は,主に客観的基準 における結果基準であるとすることに中国学説 の支配的な態度を見い出すことができる(7) 。 (3) 公序則の適用問題  さらに,公共秩序の適用問題について,中国 学説においては,次のような点が留意されるべ きとされている。すなわち,(ⅰ)国内外の民 商法上における公共秩序を区別すべきであるこ と,すなわち,国内民商法は純然たる国内民商 事関係に適用され,国外民商法は渉外民商事関 係に適用されるため,後者は前者に比べてその 適用範囲は狭く,適用条件も相対的に厳格なた め,それぞれの適用の基準も異なっている。そ のため,実務においては両者を区別する必要が あると考えられている。(ⅱ)内国国際私法を 適用するときに,他国の主権と抵触してはなら ない,つまり,一国が公共秩序を適用すること は当該国の主権の行使を意味しており,国家主 権原則により,他国の主権を尊重し,その国の

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主権を侵してはならない。そのため,内国の公 共秩序を適用し他国の主権を侵すことは,明ら かに国家主権原則に反し,公共秩序留保の濫用 と見られる。(ⅲ)内国公共秩序を理由として, 条約の効力を抑止することができるとする中国 学説が有力である。(ⅳ)適用されるべき外国 法が排除された後,法廷地国の国内法が一律に 代替的に適用されてはならない(8) 。国内民商法 上における公共秩序は国際私法上の国際私法と 区別すべきであり,外国法の適用が排除された 後,一律に法廷地法を適用すべきでないとの考 え方は,公序秩序による制限を慎重に行うべき との中国学説における考え方を反映するもので ある。 3 渉外民事関係法律適用法第5条の解釈  渉外民事関係法律適用法第5条は,「外国の 法律の適用が中華人民共和国の社会公共の利益 を侵害することとなるときは,中華人民共和国 の法律を適用する。」と規定している。そこに おける「社会公共の利益」とはいかなる概念で あろうか。  第5条については,以下のように解釈するこ とができる。第1に,当該条文を適用する前提 となる根拠を認めるためには,中国抵触規則の 指定によって何れかの外国法を適用する際に, 当該外国法の適用が中国の「社会公共の利益」 に違反するか否かについて考慮することが必要 となる。例えば,その適用の結果が損害を惹起 することが判明したときは,その適用を排除 し,それに代えて,中国の関連する実質法を適 用しなければならない。損害を惹起しない場合 には,指定された当該外国法が直接的に適用さ れなければならない。第2に,中国の立法中に おいては,公共秩序の表現として,「社会公共 の利益」が用いられている。「社会公共の利益」 は代表的な用語の1つであり,公共秩序のあら ゆる内容を代表していて,狭義に理解すること はできない。一般的に考慮されうる要素は,社 会公共の利益の他,国家主権の利益,公序良俗, 憲法原則等がある。第3に,公共秩序の基準に おいて,中国が依拠しているのは前記の結果説 である。この立場からは,外国法の適用結果が 「中華人民共和国の社会公共の利益」を侵害し てはならないが,その外国法の内容それ自体が 問題とされるわけではなく,当該外国法の適用 の結果に関する問題である。外国法の適用を排 除することが,単に当該外国法の内容と法廷地 国の公序秩序とが抵触しているからか,それと も,当該外国法の適用の結果が法廷地国の公共 秩序に違反しているからかという点について, 本条の規定が強調しているのは,外国法を適用 した結果の危険性であり,その外国法の内容自 体の不適切性ではない。更に,このような結果 の危険性は一種の合理的判断であり,実際的な 結果の発生を意味するものではない。第4に, 本条が規定している公共秩序による留保の制度 は,外国法だけを制限しているから,国際慣例 は含まれない。従って,抵触規則の指定によっ て外国法を適用する際には,中国社会公共の利 益が侵害されるか否かについて判断することが 必要となるが,それに対して,国際慣例の適用 の際には,当該制度を適用して排除する必要は ない。なお,これは,「民法通則」第150条に規 定されている内容と若干の違いがある。同条 は,「本章の内容によって外国法又は国際慣例 を適用するとき,中華人民共和国の社会公共の 利益に違反してはならない。」と定めている。 公共秩序による留保の制度の中に国際慣例を含 めるべきか否かは,学界及び実務界においてか なり論議されている問題の1つであるが,公共 秩序による留保の制度の利用により,国際社会 において普及的に認められ,かつ,適用されて いる国際慣例を排除することは,根拠が乏しい ばかりか,社会的な効果も好ましくない。従っ て,渉外民事関係法律適用法上の規定は,それ について意図的に改正していると言うことがで きる。渉外民事関係法律適用法及び民法通則の 2つの条項の適用上の抵触については,新法が 旧法に優先するという原則を根拠とすれば,国

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際慣例の適用の排除は,公共政策が想定すると ころではない。第5に,中国が公共秩序による 留保の制度を利用して外国法を排除した後,中 国法をもって代替し,中国の実質法を適用する ことにより,渉外民事関係が規律されることが 定められている。そして,第6に,渉外民事関 係法律適用法に指示された社会公共の利益と は,中国社会の公共利益であり,他の国家のそ れとか,国際公共政策ではない。公序則の発動 に際し,拡大解釈が行われてはならない(9) 。  渉外民事関係法律適用法第5条とその公布前 における中国公共秩序留保制度を規定している 民法通則第150条とを比較すると,次のように 整理することができる。先ず,両者は,公共秩 序の表現として,何れも「社会公共の利益」を 用いている。次に,公共秩序の基準上,何れも が結果説を採用している。更に,公共秩序留保 の範囲について,前者は国際慣例を含まない が,後者は,明文をもって国際慣例の適用をも 排除することができると定めている。そして, 外国法の適用の排除後,前者が,「中華人民共 和国法の適用」を規定しているのに対して,後 者は,何れの国の法を適用すべきかについて具 体的な規定を置いておらず,学説又は司法実践 によって判断する他はなかった。そのような意 味において,渉外民事関係法律適用法に定めら れている公共秩序留保条項は,民法通則に比し て,更にその操作性を増している(10) 。  それでは,「公共秩序」の概念は,いかなる ものと考えられているか。それについて国際的 に統一された定義とか基準は存在せず,前述の 通り,諸国は立法上及び実践上において異なる 表記及び認定を採用している。因みに,『当代 社会科学大詞典』(南京大学出版社,1995年) によれば,「外国法の適用又は外国法に従って 生じた権利が法廷地国法上の国家利益又は道徳 観念に違反することが認められるとき,裁判所 は,当該外国法がその所在地国の公共秩序に違 反するという理由で,当該外国法の適用,又は, 当該外国法上によって生じた権利の承認を制 限,変更又は完全排除する。」と解説されてい る(11)。より具体的には,「人民主権原則」,「基 本人権原則」,「法治原則」,「権利制限原則」の 4つの基本原則や「公民の基本的権利」,「男女 平等原則」,「児童保護原則」等のような中国憲 法上の原則,「善良の風俗」及び「誠実信頼原 則」のような中国民法上の原則,更に,「主権 原則」のように,中国が承認する国際法上の原 則が,「公共秩序」の概念を構成すると言われ ている(12) 。  上記のように,公共秩序に基づいて設定され た留保制度をいかなる状況の下に運用するかに ついて,統一的な基準を有することは非常に困 難であり,通常,異なる国家の政策及び裁判官 の判断に依拠して決定されることとなる(13) 。し かしながら,いくつかの明確な結論がある。そ れらは,第1に,公共秩序留保が,中国を含め, 諸国に普遍的に承認され,採用されている国際 私法上の制度であり,その役割は外国法の適用 を排除又は制限して,法廷地国の根本的な利益 を保護する役割を担っているということであ る。第2に,公共秩序留保は政策及び利益を根 拠として解釈し,また,いかなる場合に適用す るかは,裁判所がその所在地国の利益及び具体 的な事案に基づいて決定するということであ る。そして,第3に,公共秩序の留保は濫用さ れてはならず,厳しく慎んで適用すべきである ということである。さもなければ,渉外民事関 係の正常な交流及び安定に悪い影響を及ぼし, 国際私法を害するか,または,国際私法の存在意 義そのものを否定することとなるからである(14) 。 4 若干の考察 (1)公序概念の特性  公序概念については,まず,その広汎性が指 摘されるべきであろう。国際社会において,諸 国は政治体制,社会の仕組みや歴史文化等の面 において,それぞれ,その独自性を有している。 公序は,一貫して,諸国の政治,経済,道徳観 念等と密接な関連性を有すると同時に,法律概

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念であり,また,政治概念でもある。その結果, 公序則の目的ないし本質は,内国の現存政策を 徹底して貫くことである。かような理由によ り,諸国に共通する公序概念を形成することは 困難であり,そして,公序概念も概括性を有す るものと認識され,明確に表現することが難し い状態を招くこととなる(15) 。  次に,公序概念について指摘されるべきは, その多様性である。法は,それが所属する国家 の実情を反映するものであり,そして,国家は, そのものの実情に基づいて公序秩序の意味を定 めるため,それぞれの国が規定する公序秩序に は,自ずから相違が存在することとなる。また, 諸国の実情は,時代によっても,それぞれ,そ の政治情勢,経済制度,社会風習が変化するこ とが考えられる。同一の国家であっても,国際 的・国内的環境の変化に応じて,公序秩序の意 味が変化する可能性があることは否定できな い。このように,公共秩序が有する相違性及び 変更性の特性が,諸国の公序秩序が有する概括 性ないし曖昧性を助長する結果となっている(16)  さらに,公序概念については,その具体性を 指摘することができる。元来,公序秩序が曖昧 な法制度であるため,裁判官が抵触法に基づい ていずれかの外国法を適用し,そして,当該外 国法の適用を排除するとき,その根拠となるの は具体的な公序秩序であり,それによって公序 則の発動を明確化することとなる。公共秩序 は,特定の国家ないし地域,又は,特定の時代 の存在を前提として確定されるものであるか ら,諸国が公序秩序の意味を確定する際には, 上述の具体性との関連における概括的な規定を 設定することが必要とされるため,そのこと が,公序秩序の意味を不明瞭にする原因となる ことも考えられる。いずれかの国家の立法が公 序秩序に関し,明確かつ具体的な規定を定めた 場合には,かような公序秩序は,当然に,その ような場合と異なる時代,政治・経済環境や国 内外の状勢の変化にも等しく対応することは困 難である。そして,実際には,いずれの国家の 公序秩序も普遍性を有する完璧な公序概念を有 するものと認められる可能性はないというべき であろう(17) 。  諸国の理論及び実務からみると,公共秩序制 度が国際社会においてほぼ認められるように なっているが,公序秩序の内実及びいかなる状 況の下に適用するかについては,理論上,諸説 が見られるほか,諸国の実務の対応においても 異なっていることは明らかである。元来,公序 秩序制度の実態は,諸国がその国家利益を守る ために存在するものであり,そのための防波堤 として位置づけられ,外国法を適用されて自国 の利益が損なわれることの歯止めとして利用さ れている。しかし,一国の国家利益はいかなる ものであるか,また,外国法を適用すると国家 利益が損なわれるとする判断基準をいかように 設定すべきかの問題については,理論的にも, また,実務上においても把握し難いものである から,伝統的な意味における公共秩序を一束に まとめ,それをもって国家利益を守るための基 準として理解することは,理論的にも,実践上 においても,難しい問題であると言わざるをえ ないであろう(18) 。  しかも,伝統的な公序秩序については,裁判 官により,恣意的に適用される恐れがある。国 際私法の本来的な主旨は,公平かつ合理的に渉 外民商事法律関係の規律を図ることを役割とす るが,いずれかの国家の国際私法における公序 秩序制度は,結局のところ,当該国家の国家利 益を追求するに過ぎない。また,公序秩序制度 自体が概括な性質を有するため,裁判官は,公 共秩序条項を適用するとき,過大な自由裁量権 を有するばかりか,その裁量権は,裁判官にお ける国家主義の立場から,公序秩序を利用し恣 意に外国法の適用を排除することに加担する傾 向があることは否定できない。その他,自由裁 量権を有する裁判官にとって,当然のこととし て,公序則を適用する際,法廷地国の国家利益 等の顧慮を優先することとなり,国際社会発展 の立場から公序秩序を考えることを期待するこ

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とは困難である。公共秩序の意義の曖昧性を抑 制する規定を有する立法例は存在しておらず, 裁判官の自由裁量権を制限する規定も存在しな いことから,公序則を積極的に援用ないし濫用 する虞が全くないとは言えない(19) 。恣意に公序 則を適用することは,国際私法の渉外民商事抵 触問題を調整する役割を低減し,国際私法の公 平,平等に内外国法を適用する主旨を損なう虞 を発生させるものであり,とくに,国際民商事 交流の安定と予測性を妨げ,国際民商事秩序を 破壊する問題を生じるとするのが支配的な見方 となっている(20) 。  今日,平和と協調を主軸とする国際関係の中 にあって,諸国が生存と発展のため,諸外国と の民商事の交流と協力を希求することの趨勢に おいて,国際私法上の公共秩序理論も国際関係 の発展の需要に応じる方向を目指しているよう に見られる。現代の国際社会において,政治政 策の多様化や経済のグローバル的な発展を背景 として,諸国国際私法上においても,立法及び 実務の両面において,公序条項による措置を制 限する方向へと方針が変化しつつあることが看 取される。もとより,国際私法の基本理念は, 渉外民商事関係において,外国法の域外的効力 を認め,また,抵触規則に基づいて外国法を適 用するということである。それに対して,公序 条項は,外国法の適用が内国法や道徳の基本原 則に抵触する結果に着目して,外国法の適用を 排除することを役目としている。このように, 国際私法は,一方において,外国法を適用する ことに努め,また,他方において,公共秩序制 度を通じて,外国法の適用を排除ないし制限す ることにも努めているという,相矛盾する両面 性を同時に備えている(21) 。  しかしながら,今日における国際私法の発展 の趨勢から見ると,このような矛盾点はサヴィ ニー(Savigny)以来の諸国法の平等の理念に 反するものであり,また,外国法文化に対する 信頼の高まりと同時に,諸国における公共秩序 概念の明確化の促進により,徐々に,伝統的な 公共秩序制度における不合理な点が減少してい ることは否定できないであろう。国際社会の現 状は,互いに牽制し合いながらも,連携を求め る社会となろうとしている。いかなる国家も, 過度に自国の利益のみを重視して利益を求める 行為を慎むことが要請されている。このような 動向にあって,公共秩序の留保に関しても,そ れをできるだけ制限的に利用すべきとすること が国際社会の共通認識となっていると言っても 過言ではないであろう。そのことをより具体的 に言えば,公序の概念の範囲を限定し,その明 確さを高めることをもって国際的協調へ向けた 公序概念の調整を図ろうとする機運が急速に高 まっていると見られる(22) 。国内民法上の公共秩 序と国際私法上の公共秩序とを区別して,国際 私法上における公共秩序の意味の制限を通じ て,公序則の適用が制限されている。そして, 公序則によって外国法の適用を排除した後,当 然に法廷地国法をもって代替適用すべきとする 立場も衰退し,新たにより密接な関係を有する 法への連結を試みようとする立場への傾倒が見 られている(23) 。 (2)日本国際私法における公序概念  以上におけるように,中国国際私法における 公序概念については,闊達な学説上の論議の進 展にもかかわらず,必ずしも十分に明確な状態 であるとは言い難い。しかし,そのような状態 は,「法の適用に関する通則法」第42条におけ る公序概念に関する日本学説についても,公序 則の発動の是非が具体的事案との兼ね合いにお いて判断されるべきとする立場が確立されてい る点において,ほぼ同様の状態にあると言える であろう。すなわち,公序則の発動基準につい ては,必ずしも明確ではなく,寧ろ,具体的な 事案との兼ね合いにおいて考慮されるべきで あって,一定の明確な基準を設定することは妥 当ではないという風潮や,さらには,その設定 は不可能であるという諦観が支配的であると言 えなくもない。しかし,実定法規定としての公

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序条項のあり方として,具体的妥当性の確保に よる正義の実現のみならず,ある程度まで明確 な判断基準の設定は必要であり,それなくして は,法の目的である法的安定性は確保されない ことになるという立場から,そのような不明瞭 性は払拭されなければならないとするの笠原俊 宏教授の所論である(24) 。そこで,最後に,その ような所論を手懸りとして,日本国際私法上の 公序概念にも論及しておきたい。  従来から,公序概念の確定において消極的で あった学説の中にあって,笠原教授は,「公序 則の発動の是非が具体的事案との兼ね合いにお いて判断されるべきとしても,具体体に公序に 言及している個々の判例から一般的・抽象的に 公序則の発動の基準を推定することは,例え ば,同じく韓国民法の適用に関する3つの最高 裁判所判決の内容の検討により,必ずしも不可 能ではないと思われる。」として,次のような 結論を導いている。すなわち,最高裁昭和50年 6月27日第二小法廷判決は,死後認知の出訴期 間を父又は母の死後を知った日から1年に限定 する韓国民法第864条の適用の結果を公序に反 しないとし,又,同昭和52年3月31日第一法廷 判決は,離婚の際,母が未成年の子の親権者と して指定される余地がない当時の韓国民法第 909条(その後,1990年に改正)の適用を公序 に反するとした。このように判断が分かれた理 由については,次のように考えることができ る。前者の場合,死後認知の出訴期限を3年と 定める日本民法第787条に比して,韓国法上, 子による認知請求の権利は制限されることとな るが,死後認知の訴が全く認められないわけで はなく,その出訴訟期限を1年に制限しても, それが不当に短いとは言えない。それに対し て,後者の場合,父母の協議又は裁判所の決定 により,そのいずれか一方を親権者と定める日 本民法第819条に比して,母が親権者に就く権 利は認められておらず,そのような限度は存在 しない。つまり,準拠外国法上の立場が日本法 上の立場とは多少異なっても,類似の制度ない し権利が認められる場合には,公序則の発動を 要するには至らず,他方,日本法秩序から見て 当然に求められるべき制度ないし権利が全く認 められていない場合には,公序則に触れるもの と考えられていると推定され,それが,公序則 の発動の基準となるものと指摘されている。ま た,離婚に伴う財産分与請求権を認めていな かった当時の韓国法上,財産分与と実質的に同 一の結果を生ぜしめる慰謝料請求の権利が認め られることをもって,類似の制度が存在するも のと考えられ,その結果,同法の適用が直ちに 公序に反するものではないとした最高裁昭和59 年7月20日第二小法廷判決についても,以上の ような基準から矛盾なく説明することができ る。そして,離婚を一切許さないフィリピン法 の適用を公序に反するとした東京地裁昭和56年 2月27日判決を始めとする一連の裁判例,強制 認知を認めないアメリカ・コロラド州法の適用 を公序に反するとした名古屋家裁昭和49年3月 2日審判,養子離縁を認めないアメリカ・テキ サス州法の適用を公序に反するとした那覇家裁 昭和56年7月31日審判などについても同様であ る(25) 。  笠原教授はまた,上記に判断基準を検証する ために行われた先例の分析から,日本法上にお ける当事者の権利又は一定の法制度の堅持が, 外国法の適用を排除するまでに優勢になってい る場合,それらの殆どが,弱者利益の保護や両 性平等,あるいは,一定の身分関係ないし法律 関係の保護という現代法上の視点に立脚した規 定ないし規則を根拠としており,そして,とく に,それに反する外国法の適用において,公序 則の発動が顕著となっていることも,同時に明 らかにされている(26) 。 5 おわりに──中国国際私法上の公序概念の 展望  以上において概観された中国学説や立法か ら,中国国際私法においては,理論と立法との 両面において,以下に述べるように,合理的に

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中国の公共秩序の意義を確定する必要があると いうことが結論として導かれることとなるであ ろう。  まず,理論の面からは,国家利益,法律と道 徳の基本原則に対して段階化や細分化を行わな ければならない。公共秩序の内実は国家利益及 び人民の重大かつ根本的な利益を守ることであ り,国家利益,法律と道徳等の基本原則の境目 の曖昧さを避けるため,また,中国が渉外民商 事活動において,正確に公共秩序の留保を適用 するため,中国の原状に基づいて,現段階の国 家利益,法律と道徳の基本原則を細分化し,特 に中国の現時点における国家利益の段階化分析 が行われなければならないであろう。国家利 益,法律と道徳の基本原則の定義は,確かに抽 象的であるが,しかし,現時点における中国の 国家利益,法律と道徳の基本原則をより明瞭に 確定することは必ずしも不可能ではないであろ う。中国の国家の重大かつ根本的な利益の意義 について,ある程度,包括性や曖昧性を持ちな がらも,その可及的な確定性を図ることが必要 であろう(27) 。  次に,中国は,立法においても,さらに,公 共秩序保留制度を改善する必要があるように思 われる。そもそも,中国における公共秩序の実 態を見ると,伝統的な公共秩序制度は,ある程 度,関連国家との間,又は,国家利益と個人利 益との狭間において生じる産物であり,かよう な礎の上にできた伝統的公共秩序制度自体に合 理性を見い出すことは困難である。すなわち, 内国の抽象的な国家利益を守るために,他国の 個人利益を犠牲することの不当性が認識され始 めているように思われる。中国の改革開放が実 施されてから,すでに30年が経過し,中国は経 済大国として大きく発展し,成果を成し遂げた と言えるが,その一方において,立法の現状を 見れば,公序概念の定義の曖昧さは,今も残さ れており,裁判官が公序則を適用する際に必要 な制限はなおざりにされたままである。公序則 の適用範囲を狭めて,それを適用する機会を少 なくすることにより,公共秩序制度も益々精緻 な制度へと変容するものと考えられる。それゆ え,立法をもって,合理的に公序概念の曖昧さ を制限する規定を設ければ,法的安定性にも寄 与する公共秩序制度を実現することができるこ ととなり,そして,かような方法をもって公共 秩序制度を実現することにより,中国国際私法 上の公平や公正が飛躍的に向上することなるこ とは言を俟たないであろう(28) 。 <注> ⑴ 马德才『国际私法中的公共秩序研究』(法律出 版社,2010年)212頁参照。 ⑵ 马・前掲書213頁参照。 ⑶ 马・前掲書213頁参照。 ⑷ 马・前掲書213頁参照。 ⑸ 马・前掲書215頁参照。 ⑹ 韩德培主编『国际私法(修订本)』(武汉大学 出版社,1989年)73頁以下参照。 ⑺ 马・前掲書216頁参照。 ⑻ 韩主编・前掲書81頁参照。 ⑼ 黄進「序言」黄進=姜茹嬌主編『中華人民共 和国渉外民事関係法律適用法・解釈與分析』(法 律出版社,2011年)27頁以下,笠原俊宏「中華 人民共和国の新しい国際私法『渉外民事関係法 律適用法』の解説(3)」戸籍時報699号60頁以 下参照。 ⑽ 黄=姜主編・前掲書28頁以下,笠原・前掲61 頁以下参照。 ⑾ 黄=姜主編・前掲書31頁以下,笠原・前掲62 頁以下参照。 ⑿ 杜濤『渉外民事関係法律適用法評釈』(中国法 制出版社,2011年)73頁,笠原・前掲62頁以下 参照。 ⒀ 黄=姜主編・前掲書32頁以下,笠原・前掲62 頁以下参照。 ⒁ 黄=姜主編・前掲書32頁以下,笠原・前掲62 頁以下参照。 ⒂ 孙建「国际私法上公共秩序含义的模糊问题」 中国国际私法与比较法年刊2011年14卷212頁以下

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参照。 ⒃ 孙・前掲212頁参照。 ⒄ 孙・前掲213頁参照。 ⒅ 孙・前掲213頁参照。 ⒆ かつて,国際私法規則の硬直的,概括的な法 選択規則の機械的な適用から生じる妥当でない 結果を回避する手段として公序条項を利用すべ きであるとして,公序条項の積極的活用を提唱 したいわゆる機能的公序論については,木棚照 一=松岡博=渡辺惺之『国際私法概論(第5版)』 (有斐閣,2007年)91頁以下(松岡)参照。 ⒇ 孙・前掲214頁参照。  孙・前掲215頁参照。  孙・前掲215頁参照。  笠原俊宏『国際私法原論』(文眞堂,2015年) 111頁以下参照。  笠原俊宏「わが国際私法における基本原則の 今後の課題」同編『日本法の論点第一巻』(文眞 堂,2011年)271頁以下参照。  笠原・前掲書110頁以下参照。  笠原俊宏「わが国際私法における公序概念に ついて」大東ロージャーナル7号25頁参照。  孙・前掲219頁以下参照。  孙・前掲220頁参照。 (客員研究員 東洋大学非常勤講師)

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