MEMOITts OF SHO 闘AN INSTITUTE
OF
TECHNOLOGY VoL
31
,
No.
1,
1997異 言
語
文 化
に
お け
る
音
の
意
味
:
日
本 語 話 者
か らみ た
英
語
の
オ
ノ
マト
ペ川 北 直 子
*Aural
Images
in
Different
Cultures
:Onomatopoeia
in
English
as aForeign
Language
Naoko
KAwAKITA
The
vocabulary referring to sound,
onomatopoeia,
can be semantically analyzed into morphemicelements
。
The
analysis of the onomatopoeia leads us to find that speakers in different languagecultures take
different
meanings from each soundbased
ontheir
auralimages .
This
paper observesform
−
meaning correspondences inEnglish
onomatopoeiafrom
the viewpoint of L21earners,
comparingthem with those
in
Japanese
,
in
order tofigure
out some differences of aural images perceivedby
English speakers and
Japanese
speakers.
Culturaldifferences
in
auralimages
arebasically
causedby
two backgrounds : 1)lack Qf formal
distribution
in
eitherlanguage
and2
)1inguistic
experiences ofspeakers
.
The
latter
would be harder but important for L21earners to丘nd,
such as subtle distributionaldifferences
in
articulatory places between English plosives and thosein
Japanese,
the meanings of [±voiced ]
in
eitherlanguage,
and so on.
0
,
は じ め に 外 国 語と して ある言 語を学 習する と き, 規 則 的な文 法 を 習 得 し た り単 語 を 記 憶 し た りする こ と は さ ほ ど困難な こ とで は ない。 外 国語学 習におい て 学習者が最 も気づ き に くいが,
最 も大 きな壁 とな るの は,
対 象 言語 文化と 第一
言 語 文 化に おけ る感 覚 的 相 違で ある。
単 語 レ ベ ル で例 をあげる と,
英 語のtiberty
とfreedom
は ど ち ら も 日本 語で は 「自 由 」 と同 じ訳が な さ れ る。 しかし,
英 語で は こ の 2語は 同じ意味で はない。
また,
四季の ない国の学 習 者に春・
夏・
秋・
冬とい う言 葉を教えて も, その感 覚 をつ か むこ とは困 難であるし,
色彩,
数の概念 な どは文 化に よっ て 多 様に異 な るの で あ る。 言 語 音の レベ ル に も同 種の壁 が あ る。 音 が 象 徴 す る意 味,
っ まり音 象 徴 と呼ば れ る領 域で,
ある言 語 音か ら話 者は共 通 した 二.
ユ ア ン ス を 感 じ と り, しばしばそ れ は言 語 を 超 えて共 通 する。
し か し, 言語 構造が異なれば,
各 言語がもっ 音 体 系も異な り,
従っ て個々 の言 語音が もつ 象 徴 的 意 味 も多 少 ず れて く る は ずであ る。 本 論文で は, * 教 養 課 程 非 常 勤 講 師 (兼 子助 教 授 紹 介 ) 平 成 8 年 10 月 14 日受 付 異な る言 語 文 化にお ける言 語 音の もつ 意 味の差 異に着眼 点を し ぼ り,
言 語 話 者の 音 感 覚の ず れにつ い て 考 察 す る。 こ こ で音 感 覚とい うの は,
「母 語 話者の 直 観 的 判 断に よ る言 語音の象徴 的意 味 」を さすことにする。 そこ で,
本 研 究の議 論に適 当と思われる英 語の オノ マ トペ を 分 析 対象と し, 母 語である 日本語と対 照さ せなが ら観 察し て い く。 観 察に入る前に,
本 稿で扱 うオノ マ トペ の タイ プを 限 定 してお く。 ま ず,
声 帯 模 写の よ うに実 際の音 を 忠 実に 真 似た よ う なもの はオ ノ マ トペ か ら除 外 する。
ま た,
オ ノ マ トペ は , 聴覚 的経 験を言語音 化し た一
次 的オノ マ ト ペ と,
非 聴 覚 的経 験を表した2
次 的オノマ トペ に分 類さ れ る (Ullman,
1964 )が,
本 稿で は,
前 者を擬 音 語,
後 者 を 擬 態 語 と 呼 び,
同 じ現 象 音 をコー
ド化 すると きにおこ る違い に考 察 を 限 定 する た め,
擬 音 語に対 象 語 彙 を しぼ るこ と にする。 従っ て, 英 語の‘
dither,
dodder,
quiver,
slink’
や,
日本語の 「だ ら だ ら と仕事を す る 」 「う ろ う ろ 歩 く」とい っ た擬 態 語は対 象か ら外 す こ とに す る。 ま た,
も と も と声帯に よ る音をコー
ド化し た ような人 間。
動 物 の 声を表す語彙は (これ ら を限 定 して擬 声 語と呼ぶ こ と にす る) 考 察 対 象か ら外 す。 聴 覚イ メー
ジに関する判 断湘南工科大学紀 要 第
31
巻 第1
号 は,
日本 語にっ い て は主 と して著 者の 内 省 的観 察, 英 語 にっ い て は英 語を第 1言語 と す る イ ン フ ォー
マ ン トの 協 力1に よる もの で ある。 まず,
次 節で は,
オ ノマ トペ の超 分 節 構 造と各 部 分の 意味役 割にっ い て言 及 す る。1
.
晤基の超分節 構 造 と 意 味 役 割英 語の擬 音 語の 語基は, 通常 Onset
,
Nucleus , Codaから成 る単音 節で で きて おり
,
音節の下 位 構 造が それぞ れ意 味 機 能を もっ 。 例え ばOnset
は,
音を発す る物質を質的に範 疇化 す る機 能 を 果 た す。 /p/で始 まる擬 音 語
t
ρOP,
ping,
Pat
Poing
)は,
弾 力 性の あ る物が たて る音を表す し, /sp1/で 始まる擬 音 語(sptash , SPIosh , sptudge , sptoosh )は水 な どの 液体が 音を立 て る と きに用い ら
れる。 ま た
,
/p/で 始ま る音よ り/t/,
/k
/で始 ま る音(tOng
,
tonk,
tinle,
leong
,
加 醜 )の方が より固い素 材をイ メー
ジさせ る。 Nucleus に は主に母 音が占め,
音が どの よ うに響くか (明るい,
暗い,
大 きい,
小 さい,
鋭い,
鈍い な ど)を表 す。 ま た,
母 音の長 さに よっ て音の響 鳴 時 間が表 され る。 Coda に は,
Onset と同様の子音が用い ら れ る が,
先 行する子 音(Onset
)と母 音 (Nucleus
)に付 随 して 音の性 質 と時 間 を 表 す。 先に述べ た よ うに,
音の響 鳴 時 間は母 音その もの で表さ れ る が,
Coda の子 音 は音の余韻的な 部 分を担 う。 例え ば, 英語の伽一
と い う音はCoda
子 音 に よっ て音の終 結部分が 表される。
(1
)Coda
hz
一
音 終 結の型一
C
[−
son,
十cont ] 加一
一 オー
プ ン /・
1
/fizate
−
……
か漸 減 的
一
C
[−
son,
−
cont ]ノizat
/d
一
はっ き り した区切り
いわば
,
Coda の表 す部分は時間分類 辞の よ う な機 能を 果たす。日本 語の擬 音 語
・
擬 態 語にお けるCoda
にっ い て も類 似 し た機 能 が み ら れ る こ と が あ り,
Waida (1984 ),
Hamano
(1986 ), 田守 (1993 )は Onomatopoeic mar一
kers と して 次の ように分類して い る。 「っ 」 語 末 パ チ ッ
,
サ ッ,
カ タッ,
クル ン ッ,
パ ラ ッ 語 中 バ ッ タ リ, ゴ ッ トン,
ポ ッ タポ ッ タ 「ん」 語末 バ ン, ボン, カ タン, ド カン,
パ リン 語 中 ほ んわ り,
ふ ん わり 「り」 ゴ ト リ,
すっ ぱ り,
ドッ キ リ,
じりじ り 瞬 時 性・
ス ピー
ド感 強 調 共鳴 強 調 ? ゆっ たりし た感 じ ま た英語で は, Coda も質 的な様態に関わ る が,
Onset がCoda
に優先さ れ る。(3} schlash /sPlash
,
sPlosh,
sPlt“tge,
sPloosh sPliShschlurp
(4) ガus 瓱 clash
,
bash brush,
lush
(5) *sPrash
,
*sPrush (6
)fursh
.
whoosh (3
)の よ うに,
onset が sch−,
sPl一
の形 をとるときは問 題 な く水や風を表す。 し か しt (4)に示した音 源は,
水や風 に分 類さ れ る よ うな物で はない。 こ の場 合,Onset
に よっ て分 類 され た主 題 となる 物が動い た結 果,
接 触 する 水ま た は風が音をた て, そ の 音・
様態が coda 子 音に よっ て表さ れ る, と い う解 釈が できる。 また,
(5)の よ う に onset の sPr一
はバ ネの よう なイメー
ジを与え,
coda が 水 ま たは風 を 表 す 場 合,
両 者の イメー
ジの 衝 突が両立 を許さず,
擬 音 語 と して 形 成さ れ な い こ と も あ る。一
方,
(6)に分 類さ れ る擬 音語は,
onset とcoda に強い質的 イ メー
ジの 対 立 がなけ れ ば,
coda が範 疇 化を よ り具体 的 にす ることも ある,
とい う もの で あ る。 もっ と も, こ こ で は比 較 的わ か り やすい例を提示 して あ る が,
個 別の 例 をそ れ ぞ れ明確に分 類することは難 しい。 しか しこ こ で 重要なことは, 音・
動 き を 起 こす 主 題 的 存在 物を質 的に 範疇 化す る際,
onset >coda とい うラ ン ク付け が背 後に あ る, とい う ことである。
次節で 各分 節 音の もっ 意 味にっ い て ふれる前に
,
英語 の形態・ 音 韻 構造にっ いて図 示 して お く。 (7
) 英語擬 音語の 音韻一
意 味の 関 連 構 造 語 基 。∠
音節構造ONSETRHYME
\
器:
員
EUS 文機 能 的 構造 意 味 役 割1
三三
華
孅
:
三
lll
鞄
丶\
2
)質一242 一
異 言 語 文 化における音の意 味: 日本 語 話 者からみた英 語の オ ノ マ トペ (川北 直子) 英 語の 擬 音 語の 各 内 部 構 造 は
,
(7)の ように文機 能的構 造と平 行 性が あり,
意味役 割を もっ 。 日本語の 擬音語 も,
単 音節語基をもつ もの に関 して は英 語と同 様の構 造 を も つ とい っ て よい と考え る。 ち なみに 日本 語にお ける擬 音 語は単 音 節 語 基で ない もの (パ タ,
コ トッ な ど)の方が 圧倒的に多い ので, その場 合こ の ように意味 構造へ と結 び付け る に は,
英 語に比べ て かなり複 雑なプロセ ス を経 な け れ ば な ら な い。 本 稿で 扱 う 日本 語の擬 音 語 は,
子 音 ま た は子音 連 鎖の 意 味を抽 出する た め の もの で ある た め,
で きる だけ 単 音 節 語 基を もつ擬 音 語を比 較 対 象とす る。
2.
子 音の持つ 意 味 2rO Onset 前 節で述べ たよ うに,
擬 音 語の Onset は,
主に音 をた て る主 体 的事物の質的 範疇化 を 行 うと 仮 定 する。
従っ て, 母語話 者が もつ 各 子 音の質的イメー
ジを考察する に は,Onset
子 音を比 較 する方 法が考え ら れ る。 英 語と 日 本 語の音の持つ 意味の 差異が 生 じ る最 も よ く わ か りや す い要 因 は,
片 方の言 語に お け る特 定の音 素の 欠 落 や,
音 素 配 列の違いか ら くるもの で ある。
しか し,一
見 同 じ音 素が両 方の言 語に存 在 するの にも か かわ らず, その音に つ い て英 語 話 者と 日本語 話 者が感 じ るニ ュ ア ン スが異な るこ と が ある。 2.
0.
1で は先 行 研 究に おける記 述に触れ,
2
.
2.
0 と2.
2.
1で は,−
ump,−
oom とい うrhyme を 例に と り,
onset 子 音の違い に よ る意 味へ の影 響にっ い て観 察 する。 2.
3 で は, (1)破 裂 音の位 置と(2)有声 音。 無 声 音を中心 に, 破 裂 音につ い て 日英比較を行う。
2.
1 先 行 研究による 記 述例 え ば
,
Bloornfield(1933 )はsn一
で始 まる擬 音 語は,
「息の音 」(sniff
,
snuff,
snore,
snort ),
「素 早 く離 れる音 や素 早 く動 く音」 (snip
,
snaP,
snatch ),
「這 う音」 (snahe,
snait,
sneak )を表す,
と述べ て い る (Uliman
1964
)。 最近で は
,
英 語に お け る聴覚イメー
ジを分 析し たRhodes
(1994 )が,
音の 振 幅の推 移か ら擬 音 語の 音節を onset,
shoulder
,
decay
の3
部 分に分 け,
onset をベー
ス に次の よ うな分 類 して い る。 10
−
um(
8
)a.
突 発 的な開始 音/P
・
/ PeeP,
ping.
pitterPatter.
Po
ρ,
Pow
/
b
ゾ beeP, bang,
b(涯/P1
−
/Pling
」ptop,
ptunk
/k且
一
/ ctich.
clznla clang.
ctunh/
kr−
/ crca尾 crack,
crunch
b.
不規則な開始 音/6
−
/ chirP,
cheeP,
chitter,
chatterc
.
聴 覚 的 判 断で は 記 述 困 難な開 始 音 /θ一
/ thwac島 thumP,
thun尾 thud/W
−
/ω惚,
whacll,
wham , whaP/z
−
/ zip,
zing,
anp,
zak,
zot,
zoom(
Rhodes .
1994,
p.
282−
283 ) Rhodes (1994 ) は,
/p−,
b−,
pl−
/を 瞬 間 的 頭 子 音,
/k1−,
kr・
/を きっ い頭 子 音 と して区 別 し,
ま た /p−
/は /b−
/よ りも比 較 的 小さい音,
/p1−
/は,
比 較 的小さい瞬間的 頭 子 音で, 音の開 始か らピー
クの 間に 「肩」 と よばれ る若 干の移行 部分が あ る と して,
onset の間で の微 妙な対 照 につ い て 分 析して い る。 ま た, /dr−,
sl−,
fl−,
m−
/は液 体を 表す 分類 辞で あ ると述べ て い る。(9〕a
.
/dr−
/ d7ip,
df「ain,
drop,
drizzleb
.
/sl−
/ slop , slush , slurr ツt stuicec
.
/fl−
/ ガoω,
fiush
」70
αd.
fluid
d.
/m−
/mud,
mush,
mire,
marsh侭hodes 1994 ) これ らの う ち
,
a.
/dr−
/ と c.
/fl・
/は液 体の 動 き を 示 し,
b.
/s1−
/や d.
/m−
/は液体の混 乱した様を表す, と分 類 して いる。 次に,
英語の擬 音 語よ り2
種 類の rhyme を例に とり, 音 節の 他の環 境 を 揃えて語 頭 子 音と その意 味の 対 応 関 係 を 全 体 的に観 察 して お くことにす る。 観 察 方 法として,
英 語の母 語 話 者に架 空の語 も含めて擬 音 語 を 示 し,
そ の 音か ら感 じ ら れ る イ メー
ジを答え て も らっ た。2.
2
英語 の子 音体系 と意 味2.
2.
0
事 例 観 察・
1:Cosump
下の例の rhyme で あ る一
umP は, 物の衝 突を表す 英 語音で あ る。 前節の仮 定が正 し け れ ば,Onset
に どの 子〜
i
ρumPbumP m 撹m 『fumP
*vumP th[θlamP
* tumP (dumP ) *?sumPzumP *lnum *shumPffump 丿 * ?humPCPgump
) clumP *?hum 少 whu2nP湘南工科 大 学 紀 要
第 31 巻
第
1
号 音が用い られる か に よっ て,
どの よ うな性 質の物が衝突 を起こすの かが わ か る はずで あ る。 そこで, 英 語母 語 話 者に下の擬 音 語 をひ とっ ひ とっ 見せ,
連 想さ れ る現象に っ い て答えて もらっ た。 な お,
*印のっ いた語は,
筆 者 による造 語で あ り, 実際に は使 わ れていない。 ま た, ( ) は擬音 語 以外の用法が定着してい るもの , ?は母語話者 が連 想が難しい と答え た もの につ け てい る。 英 語 話者に よ る解 答をまと め ると,
下の通りで あ る。PumP
あま り音と して使 わ れない。
血液が押し出さ れ る よ う な感じ。 (著者注; こ の解答は,
動 詞・
名詞用法からの イメ
ー
ジ で あ る可能性が強い。) bumPdump tumPhumP 9ttmpclumPfump thumP sumP aumPshumP 弾力 性のあ る 物 がぶ っ かる音 注意せずに物を ド サ ッ と降ろ す と きに使 うが,
音と して で なく動詞として用い られ る。 dumP と似て い るの で,
独 立して は使わ ない。 clumP に吸 収され, 使わ れ ない 。 イメー
ジも区 別で きな い。leumP
と同じ。 象が歩 く よ う なの ろ く重 い音。
使わ れ ない。 イ メー
ジはthumP に近 く,
覆わ れ た ような音。 心臓の ド キ ド キ などの体内 音の よ うに,
何か に 包 ま れ たよ うなイ メー
ジ。 名詞として実 在 する語なので,
音として は使わ れ ない。
音の イメー
ジ と して は zump に比べ , 鋭 す ぎる。 濡 れた感 じや機 械 音を連想さ せ る。
s−,
z一
に比べ て水の量 が多 くなり,
よ り重い感じ。 whumP 重 く,
かな り強烈な音。 「モ グモ グ食べ る音」を表すmumP もあるが,
鼻 音は破 裂音・
摩 擦 音で始ま る音に比べ,
か な り突発性が薄れ,
何か が落 下・
衝 突する音, とい う一
umP の もっ 中心的意 味 も薄 れて くる。 この節の例を 全 体 的にみる と,−
umP の 典 型 的 な意味が ドサ ッ と落ち る音と考え る と,
onset 子 音が鼻 音・
流 音・
半 母 音 な どになる と , rhyme の もっ 意味が婉 曲的に な る と推 察できる。 onset 子音とrhyme の形態 との形 式 的関 係に帰因 する擬 音 語の意 味 連鎖・
拡1100m
張につ いて はこ こ で は立 ち 入らないが,
考察に値 す る 問 題であろ う。.
2.
2.
1
事 例観察一
2:COns噸 OM−
oom は長 く響 く音 を 表 す。
特に,−
ara)m に比べ て,
音 が 比 較的遠 くか ら聞 こえ る。
以 下,
前 節 と同 様に分布 ((11))と話者が感 じたニ ュ ア ン ス につ い て ま とめる。Poom
boom
と似 す ぎて い て,
独 立 し た擬 音 語に はな ら ないが,
bo(un よ り は軽い感 じ。 boom 遠 くか ら聞 こえ る爆発音の よ うな音。 ものす ご く大 きなエ コー
が感 じ ら れ る。fbomvoomvroomthoom
soomzoom shoomhoom あ まり音 を立てずに爆 発する音,
燃え上が る音 vroom に似てい る。 違い は特に感 じ ら れ ない。 バ イ ク・
車などの モー
ター
音。 イ メー
ジ し に く い が,
長 く,
何かに覆わ れ た よ う な音。 何か鋭い感 じ。 擬 音語と して は使わ ない。
広い意味で機 械 的な もの が 擦 れ る音だ が,
か な りス ムー
ズ な感 じ が す る。 例えばモー
ター
ボー
ト な どの音 を 連 想 させ る。
使 わ ない 。 onset が柔ら か す ぎて,・
oom に何も意 味を加え ない。 whoom 大 量の 薪に火をボ ツと燃や す よ う な 重 い 感 じの 音。
2.
2.
2 まとめ本 節で は
,2
つ の個別 観 察か ら導き出さ れ る特 徴を簡 単にまとめ て お く。 まず,
表の横 軸に みて い く と,
特に 破 裂 音は有 声と無 声音の 対 が 両 方 分 布 す るこ と が少な い。 対が ある場 合は,
比 較 的 無 声 音の方が軽い質 感を与 える。
ま た,
摩 擦 音は一
般に何か で覆わ れ た ような質 感 を 与え る。 特に歯茎 音から囗蓋 音に か けて は特に水や風 を 連 想さ せ る が,
有 声 歯 茎 摩 擦音/z/は機 械 音をイ メー
ジ させ る。
摩擦 ・ 抵 抗は,
調音 位置が後 方にあ るほ うが より大き く感じ られる傾 向 が ある。 表の縦 軸を み ると,
破裂 音→ 摩 擦 音→
鼻 音と , 子音 性が低い (ソ ノ リテ ィー
が低い) と鋭 さ・
瞬時 性は失わ れ る。2.
3
議 論:日英 比 較 * Poomboom *foom
*財12[θ]oom *voom*th [∂扣o鋭 *
6toom
) *rdoom
) *soom 起oom *shoom 瞥oo〃3 *rcoomJ
* goom whoom *hoom VTVOM一244 一
異 言 語 文 化に お け る音の意味: 日本 語 話 者からみ た英 語の オ ノ マ トペ (川北 直 子 ) 日英 語間 で共通 す る 主 な音感覚 と して
,
次の よ う な点 が考えられ る。 a 子 音 性が 高 くな る と瞬 時 性が高 く な り,
子 音 性が 低 く なる にっ れて鈍い音になる。b.
破 裂 音/p−
t−k,b−d−
g/をonset に持っ 擬 音 語が欠 落 すること なく分 布 して いれ ば,
調 音 位 置 が 後方になる に つ れ,
比 較 的 音が よ り固 く弾 力 性が薄れ る。 特に,
無 声 軟口蓋 音は金 属 質の音を連 想 させ る。
(12
) 日本 語:ボン/トン/コ ン ,ボ ン/ドン/ゴ ン英 語 : ρ0 漉
一
’0 醜一
leonle,
bonle−
donle・
・
gonkc
.
口蓋 摩 擦 子 音は,
水や風の音を連 想 させ る。(
13
) 日本 語: シ ュ ワー
ッ,
ジ ャー
ッ,
シ ュー・
ソ etc.
英 語 :shoop
,
shoosh.
sho(嵯shOO反 対に
,
英 語 と日本 語の 音 感 覚の 差 異 につ い て考え る。
まず,
英 語の 子 音分布は 日本語よ り豊富で あ る為,
日本語の 各 子.
音が分 布の欠 落 をカバー
す る 場 合が多い と 考え られる。 こ の ような音素 分 布 上の違いが 特 徴 的に表 れ る もの と して,
主 に摩 擦 音・
流 音の 分 布が挙げ ら れ る。 (14
>摩 擦 音の分布の相 違 英 語 :/f
/,
/vノ,
/θ/,
/δ,
/S/,
/Z/,
/∫/,
/3/,
/h
/ 日本語 :/Φ/ノs/ノzろ /∫/,
/d3
/,
/h
/ (15
) 流音 英語 (〃,
/r/lvs
.
日 本 語 (/f/〉 英 語摩 擦 音で表さ れ る音を日本語で表すと き, どの よ う に表さ れ る の だ ろ う か。 英 語の/f
/を例に とっ て 日本語 の対応 語を示 して お く。 (16)fit
−
jit
プ如jizzle
FFFFfoom
fbef
foing
FSST
fumP
fursh
も ちろ ん,
シ ャ ッ シ ャ ッ , シ ュ・
ソ シ ュ ッ シ ュー
t シ ュ ワ シ ュ ワ, シ ュ ッ,
ジュー
シ ュー,
ジュー
フー ・
ソ,
シュー
ッ,
ピ ピ ツ シ ュー
ッ,
ビ ュー
ン,
ボ ッ,
バ ッ,
ボ ワー
ン フー
ッ,
ビュー
ッ,
ヒュー
ツ ボ ワー
ン, ポ ワー
ン, ポ イー
ン シ ュー
ッ バ サ ッ,
ド サ ッ シ ヤー
ッ,
ジヤー
ッ1
対1
で きれ いに対応 する わ けで は ないが,
こ の 例 を 見 る 限 り気づ くこ と は,
英 語の ノf
/に し ば し ば 日本 語の /∫/が 対 応 す る,
とい うことである。 調音 位 置 的に は,
/φ/,
/p/の方が 〆f/に近い ので,
必ず し も位置 的に近い音と対 応 する と は限 らな い,
とい うこ と に な る。 日 本 語 の /∫/ は,
英 語の摩 擦 音に広く対 応 して い る。 例えば,
日本語の /∫/は英語の /s/,
/∫/に も対 応 す る。 (17)sisss.
.
SSST
sss .
.
.
(18
) shoo shoof shoop shush シ ュー・
ン シ ュー
ツ シ ュー
シー
ッ,
シー
一,
シ ャー、
シ ュー
シ ュー
ッ,
シ ャー
ッ,
ビュー
ン シ ュー・
ソ,
シ ュ ル ル ッ シ ッ , シー
ッ , シ ャ ッ,
シュ
ッ,
ゴ シ ゴ シ と こ ろ が,
英 語 摩 擦 音の うち,
位 置 的に は/f/と /s/,
/∫/の間に あ る/θ/は, 日本語の /∫/で は な く, 破 裂 音 に対応す るこ と が多い。 (19)tha(c)k グス ッ,
ガス ッ,
ガッ ッ,
ガ シ ッ thochthonkthud thukthumP thunk thutch ガツ ン, ゴン, ズバ ッ ガ ツ ン,
ゴ ツ ン,
ガー
ン,
ズー
ン ズシ ン.
ドー
ン,
ド サ ッ,
ド カ ッ,
ド カ ン,
ド シ ン,
ド ス ン,
ブス ッ グサ リ,
グサ ッ,
ズ ブッ,
プ ス リ ゴン,
ゴッ ン,
ドン,
ドン ン,
ドス ン,
ド カ ン,
ド キ ン,
ズキ ン ガー
ン,
ガツ ン,
ゴ ツ ン,
グサ ッ,
ズー
ン,
ズシ ン,
ドー
ン グサ ッ, ブス ッ, バ シ ッ , ピシ ャ リ 流 音にっ いて も少し触れて おくこ とに する。 英 語の /r/に は,
日本 語の破 裂 音・
摩 擦 音が 対 応 するこ とが多い。 (20
)RRR .
.
mtm−
mtm rub一
α一
dub rumbte ruttlerustle ゆ rattle raP ガー
ッ,
ゴー
ッ,
ブー
ッ,
プル ル ル ダ ダ ダダ ダ ダ ダン,
ド ド ドン, ドコ ドコ, ド ン ドン,
ドロ ドロ ゴ ロ ゴ ロ,
ゴ ゴー
ツ,
ド ドー
ツ,
グー
グー
カ タカ タ, カ ラカ ラ, ガ タガ タ カ サ カサ, ガサ ガサ, ゴ ソ ゴ ソ,
サ ラ サ ラ,
シ ャ ッ シ ャ ッ バ リバ リ , ビ リッ, メ リメ リ コ トコ ト,
ガラ ガラ,
ガタ ガタ,
ゴ ト ゴ ト,
ゴ ロ ゴ ロ,
バ タバ タ コ ン, コ ッ コッ,
コ ン コ ン,
トン ト ン湘 南工科大 学 紀 要
第 31 巻
第
1
号 英語の /r/に 日本 語の /f/が対応 する例も あ る が,
そ の数は少ない。 (21
}ring/醒’
リー
ン,
リIJン 対 応の 少な さにつ い て は, /r/を onset に とる 日本語 の擬音語が そ も そ も少ない ことに も一
因 が ある。
また, 流 音が破裂 音に対応 す るこ と が多い の は一
見 不 思 議な感 じがする が, 米語の ρ砲 Cttttilrg な どの /t
/の音が[t] に な る こ と を考え る と,
さほど不 可解な 現象で はない の か も し れ ない。 また,
英 語話者の コ メン トの中で,
擁 は語 彙 と して確 立 してい る が,
音と して はrrrr)i
,rgの方 が よい と感 じる,
とい う もの が あ っ た。 後者を 実 際に発 音 して も ら うと, /r/で は な く,
/r/に近い。 こ の点に おい ては 感覚 的に は英 語 話 者と日本語話者の相違は結 局 み られ なか っ た。英語の /レ で始 まる擬 音 語は少ない。 ど ち ら か とい う と, 子音 連 鎖による
Onset
の中に現れ るこ と が多い子 音 で ある。 例を挙げて お く。
(22
)/1−
/(稀 )1
αp
ピチ ャ ピ チャ, ペ ロ ペ ロ 如sゐ サ ッ,
ヒュ ッlumber
ゴ ト ゴ ト,
ド シ ン ド シ ン, ド タドタ,
ドス ン バ タン(
23
)/spl−
/一
/∫1−
/ sρloosh
/schloosh sρlup
/Schlup
/sl一
ノ cf.
*stoosh slup *?loosh
*tup
(23
〕の /spl−
/,
/∫1・
/は,
前に も述べ て い る通 り, 水や風 を表 す onset である。 sPloosh は,
より固い もの が水に 落 ち る音をイ メー
ジ さ せ,
schloosh やschtup の /schl・
/ は長 く水を含ん だ物の 音をイ メー
ジ さ せ る。 例え ば schloosh は長 く濡 れた物 を 落 と したときの音, schlup は長い麺 を す す る よ う な音である。 /s1・
/の 組み合わせ は,
/splゾ,
/∫ 1−
/に比べ る と悪い場 合が多 く, slup にっ い て は 「schlup とイ メー
ジ は変わ らない」 が,
slOosh に つ いて は 「耳で 聞く擬音語 として は適 切で ないが,
綴り を見る と イメー
ジはでき る」 とい う答えを得た。 ま た, 単独の /1−
/で始ま る架 空の擬音 語につ いて (exJ *loosh,
*IUP
}英 語の母 語話 者に 印 象 を 尋ね て み る と, 「始 点が はっ きりせず,
音 と して何 か 不 完 全な感じ が す る」「音と して 聞こえ ない」 と答 えた。 /1
/が他の子音とセ ッ ト に なっ て onset と して の機 能を 果たすの は こ の為で あろ う。 /l/の示 す音とし ての不完 全さ は, 1.
0
の (2)で示 し たよ うに,Coda
に お け る/1
/の機 能に も現れ てい る。
音の終点 は漸減 的消 失で も よいが,
onset には始点を 比 較 的明 確にする ような子 音が必 要 なので ある。
こ こま で は, 音素分 布の欠 落 か ら起こ ると思わ れ た音 感覚の相違の有無にっ い て記 述 してきた が, 外 国語と し て言 語に接す る場 合
,
もっ と気づ き に く い の が,
共通 し た子 音分 布があるの に意 味 や用法が異なる場 合で ある。 第 1に,
英 語 に も日本語 に も /pノ,
/t/,
/k
/,
/b/,/d/,
/g/ とい う破 裂 音分 布が見ら れ る。 そ して,
(12)に示 し た ように,
これ らの破 裂 音を onset に も ち,
rhyme の音 形が共 通 する擬 音語が欠落 すること な く分 布す れ ば, 調 音 位置が後 退するにつれて語 頭 子音の表す物質は弾力 性 が薄れ, 固い感じに な る。 ところ が,
よ く観 察す る と,
こ れ らの子 音は英 語 と日本 語でぴっ たり対 応して い る わ けで は ない ことが分 かる。 もっ と言え ば,
それぞれの子 音がもつ ニ ュ ア ン ス が多少 異な る, とい うことに な る。 ま ず,
(12)の 類 例を探してみる と,
日本 語に は比較 的 沢 山 見つ かる のだが,
英語で は特に /k
/−
rhyme が欠 落し て い る こ と が多い。(24)日本語: ボン
,
ト ン,
コ ン,
ボ ン, ドン, ゴ ン パ ン,
タン,
カ ン,
バ ン,
ダン,
ガン ポロ , トロ, コ ロ , ポ ロ,
ドロ,
ゴ ロ パ ラ,
タ ラ , カ ラ, バ ラ, ダラ,
ガラ ピ リ,
チ リ, キ リ,
ビ リ,
ジ リ,
ギ リ ピー
,(チー
),
キー,
ピー,
(ジー
),
ギー
(25)英 語:Ponk,
donle,
konle
/clon1 :,
bonle,
donle,
*gonk
ρα
,
如 *leang
rclang
丿,
bang,4
α,
*gang
pink,
tinle
,
*観 肋rclinle
),
bink,
dink,
顴 漉 も ちろん例外がない わ けで はない。 例え ば
,
日本 語で は /t
/,
/d
/で始ま る擬 音 語が欠 落しやすい とい う傾 向があ る2。 (26
)パ リ,
* タ リ,
カ リ,
バ リ , *ダ リ,
ガ リ パ チ,
*タ チ,
カ チ, バ チ, *ダ チ , ガチ ポ リ, * ト リ,
コ リ,
ポ リ,
*ドリ,
ゴ リ ポキ,
* ト キ,
コキ,
ボキ,
ドキ,
ゴキ ポチ, *トチ , コチ, ? ボ チ,
*ド チ,
ゴチ ま た,
英 語にっ いて も (10
>(11
)の 図に あ るように,
欠 落 してい るの は 必 ず し も/k
/,
/g
〆で始 まる擬音語だ け で は ない。 しか し, 少なく と も,
鳴 き声 や喉か ら出る音を 除く と/k
/や/g/で始 ま る擬 音 語は他の 破裂 音に比べ て使用数が極めて少ない のである。 それ なら, 類 似 音を 衷す 日本 語と英 語の対 応 関 係はどうなっ てい るの か。 (27
)少α ジャー
ン,
ガシ ャー
ン一246 一
異 言語文化にお け る音の 意 味: 日本 語 話 者からみた英 語の オノマ トペ (川北 直子 )
Pongtongtangkongbang
bongdo
90
一
ン ガ つ コ 若 力 呂 ド→ ン ろ ガ 呂 ン
一
ド ガ ゴ ズ一
若,
呂 ゴ ガ払
蔦
∴
学
→∵
∵
菰
璃朔
一
力冖
シ (,
冖
一
冖
プ ボ ビ バ バ ン ボ ド ゴ (28)ボ ン :Ponk.
poP
, 》
lunh
, bob,
tip・hOP
トン :
bob,
tac尾 taP,
to(C)k.
tip,
trip,
chonk,
hop,
raP
コ ン :
Plock
,
tack,
to(C)k,
tonh幽
click,
clock,
cough
,
ん0L6にhonk,
hack,
raPボ ン :bo短
,
clap,
clooPドン :
bom ,
bonk
,donk
, stamP,
ctunk,
whomPゴ ン :
bam ,
donk,
thock,
tonle,
clunk上の例は
,
擬 音 語 辞 典 から,
訳 語 と して記 述 が あっ た も の を 全て あ げ た ものである。 かなり音の ば らっ き が 見 ら れ るの で す っ きり と し た結論は得 ら れ ないが,
英 語の破 裂音に対応 する日本語破裂 音は後ろよ りが (比較 的) 多 く,
日本語 に対 応する英語の子音は逆に前よ りが (比較 的) 多い。 こ の傾向は,
擬音語 以外に お け る言 語 活 動に おい て も 平行 性が み ら れ る。 Lee (1990
)は, 日本 人の英 語 破 裂 音 知 覚に お け る誤答 分析に お いて, 日本人は英語の破裂 音 を 前寄りに誤 っ て 知覚す るこ と が多い,
と述べて い る。(29)The direction of perceptual errors made by
Japanese
speakers maybe
termed “
Progressive
”in
that
posterior articulation is almost exclusively Pe「’
ceived as anterior articulation
.
That
is,
velark
is
misheard as alveolar t or
labial
p,
and t as p.
(Lee,
1980) 英 語と日本 語で共通 し た音 素が分 布する に もかか わ ら ず
,
擬 音語の分 布に違いが見ら れ る も うひ とっ の 例と し て, 破裂音の有声 ・ 無声の対比が あ る。
日本語の擬 音語 に は,
次の ように清 音と濁 音の対が非 常に多 く見 ら れ,
濁音は比較 的大きい,
重い,
きた ない,
不 快な感 じを も た ら し,
清音は比較的 小さい,
軽い, き れい な二=
ア ン スを 与 える。 (森下・
池1992,
金 田一 1982
) (30
)カ ンノガ ン,
コ ロ/ゴロ,
トン/ドン,
クル/グル, プル /ブル,
キ ン/ギ ン,
パ ン/バ ン,
ボー
ン/ボー
ン,
カ ラ ン/ガラ ン, パ ラ ッ /バ ラ ッ英 語にも破裂 音に は有声
・
無声の対立が あ るの に もか か わ らず,
擬音 語の分 布 を みると,
日本語ほど有 声無 声 の 対が 揃わ な い こ と が わ か る。
(
31
}Ponk
/donk,
Poom
/boomt tongtdong,
PeePfbeeP,
々o 惚 o
(32}
ipump
/bumP,
*tumP/?
dumP ,
*tash/
d
αsh toot/ *dOOζ clomP /*glemP.
ctump /aEglumP.
konh
/*gonk
,
*Pash
/
hash
tom
/*dom
(
31
)の よ うに,
対が揃っ て い る ケー
ス も あるが, (32)の よ う に片 方が欠落する例が日 本 語に比べ る と か なり多 い。 ま た,2
っ の事 例 観 察の過 程で,
英 語 母 語 話 者はし ば しば, 有声破裂 音と無 声 破裂 音に よっ ての み対 立 する 2 っ の擬 音語 を, 「= ユ ア ン ス が区別で き ない」と答えて い る。 この こ と は,一
般に言わ れて い る 「有 声 閉鎖音より無 声 閉鎖 音の方が強い」 (Hooper
l976,
Foley
1977,
Brakel
1979
他 )とい う主張や,
「日本語に関 して は有声 音 と無 声 音の差が生 じにくい」 (村田1983
他 ), とい う 議 論 と矛 盾 して い るよ うに見 える。 しか し,
村田 〔1983 ) で は,
これ に対し, 次の よ う に説明を加えて い る。 (33
) 日本 語の 有 声 音 と無声音の 差が生 じに くい理 由 と して,
英語な ど と比 較 して,
無 声 閉 鎖 音は帯気 性が弱 く,
ま た, 連濁 (常々, 近々等 )に よっ て後 半部の子 音 が有 声 化される現 象に慣 ら さ れ て い る こ と が考え ら れ る。
その ため,
日本 語オノ マ トペ に関 し て は,
予 想と逆 に清音 (ぱらぱら)より濁音 (ば らばら)の方が大き く 重い印象を与え る と いうの が普通の説明で あ る。 (村田 1983,
83) こ の説 明 が 正 しい と す れ ば,
日本 語の擬 音 語の有 声 破 裂 音 と無 声 破 裂 音 との間の意 味の相 違は,
日本 人 が 言 語 体験から得た感 覚とい うこ と に な る。 また,
英語の観察 結 果の説 明として可能 性が あ る とすれ ば, 日本語の場合 と逆に,
擬 音 語 以 外の語 形におい て 日本 語の連 濁の よう に母語 話者に意識される よう な有声 化が見 られ ない,
と い う言 語体 験に よ る, とい うこ とで あろう か。 デー
タか らの決 定 的証拠が今の ところ ない ため,
こ の説明 はここ で は推 察にす ぎない が,
こ こ で の ポ イン ト は, 少なくと も日本 語 話 者 と英 語 話 者 とで は有 声・
無 声の対立につ い て異な る音感覚を もっ てい る, とい うこ と で あ る。 そ し て こ うい っ た例は, 物理的 音 声特 徴と心理的 音声 特 徴が 矛盾す る例であり,
母 語 話者の 日常の言 語 体 験に よ る音 声分野へ の影 響の1
っ と して 考 え られ る。湘 南工科 大 学 紀 要 第
31
巻 第 1 号 本節で は, 擬 音語の語 頭 子 音の分 布とそ の機 能か ら,
英 語の子 音の もっ 意 味にっ いて 日本 語 話 者の 目から論じ て き た。 最 後に,
本 稿で は詳 し く扱われて いない時 間 的 分 類 辞と して のCoda
子音につ い て,
補 足 的に スケ ッ チ する。 擬 音語に お け るCoda
は, (1
}(2
)で示 した よ うに 音の時 間 的 側 面の分 類 辞と して の機能と,
質 的 範 疇 化の 補 助 的 役 割を果たす,
と述べ た。 子 音に よ っ て時間 的 長 さ を 表 現 するもっ と も一
般 的な方 法は sss,
u z,
fsst
と い っ た連 鎖に よ るもの で あ る が, どの単 音を用い る かに よっ て も, 時間的な差を感 覚 的に与えるこ とが で き る。 (1
)で触れ た よ うに,
音の 持 続感 が 短 い順 にCoda
は /−
t/,
/−
d/〈/・
1/</・
s/,/・
z/とな る。 破 裂 音で終わ る音は 調 音 位置に関わ ら ず, 音の 瞬間 的持 続 感を表す (Plop,
Phut
Plunla
dab ,
chud,
‘ }。鼻 音も, 終 点の 長 さに関 与 す る。
Poom
とPoomP
を比較する と
,Poom
の方が音 は 比 較 的 長 く持 続 す る。 従っ て,
語 尾 の /−
m /は 破 裂 音 語 尾よ り長い 音 を 表 し,−
ng([η])は もっ と長 い 音を表す (
bam
/bang,
PamfPang
)。 /
・
m /,
/−
O/は, /−1
/に比べ る と音の終 点を は っ きり表 す。 ま た, 同じ摩 擦 音で も/−f
/,
/・
∫/で 終わ る音は /−
s/,
/−
z/語 尾 と比べ る とか な り はっ き り と した終 点を表す。3
. 母音
の持
つ意味
:Nucleus
前述 し た よ う に,
擬 音語の母 音は,
音の響 き を 担 う部 分で ある。 母 音の相 対 的 価値にっ いて は, 子 音に比べ て 記 述 が 多 く見 ら れ る。Jakobson
&Waugh
(1979
)他で は,
母 音の相 対 的 価 値にっ い て, 「高。
低 大・
小,
鋭・
鈍, 重・
軽, 明・
暗, 強・ 弱」とい っ た もの を あ げて い る。 こ の意味の相 対 関係に対 応さ せ る音声学 的 相 対 関 係 へ の ア プロー
チ として,
村田(1983 )はハ イ エ ラー
キ (音 声の 強 弱 差 ) を とりあ げ, 少なく と も心理的 実在と し て の 日本語母 音ハ イエ ラー
キ はi
〈u<e<a<o で あ る と して い る。 た だ し,
物理的 開口度,
フ t ル マ ン ト周波数, ソ ノ リテ ィー
など,
母 音ハ イエ ラー
キにっ いて は, ア プ ロー
チに よ り結 論は異なっ て い る, とい うのが現 状で あ る。 そ こで, 日本語話者と英語 話 者 との 間で感 覚の ズレ が生 じ る と思わ れ る例を 最 後 に2
つ 挙 げて お く。1
っ は,
後 舌 高 母 音の /U/の意味で ある。 (34
)日本 語 :ブー
ンCf.
バー
ン 英 語 :boomCf.
baam
日本 語で は, 後 舌 高 母音は相 対 的に小さ さ,
暗 さ,
弱 さ を表し, 「ブー
ン」は飛行 機が離れ た所を飛んで いる音か ら蚊や蝿が飛ぶ か細い音まで表 すこ と がで きる。一
方,
boom か ら は飛 行 機が飛んで く る音 は想 像で きて も,
蚊 や蝿が飛ぶ よ うな小 さい 音 は 決 して連 想 さ せ ない。baam
よりboom
の 方がよ り重 く響 く音であり,
音の 強 さ と して は baam とほ とん ど変わ ら ない。 この ように,
日本 語 話者と英 語話 者で は篌 舌 高 母 音に対する イメー
ジ が異な る。
た だ し,
英 語の 後 舌 高 母 音は 円唇を伴 い,
日 本 語で は非円 唇音なの で,
[± round ]が 対 立の 理 由 と し て考え ら れ る。 も う1っ は, 前 舌 高母 音の長 母 音 化につ いて で あ る。 高 母音日本語 も英 語も, 「短母 音は音の短さ・
小さ さを 表し,
長母 音は音の長さ・
大きさを表す 」とい うこ と は 容 易に理 解で きるだろ う。 ただ し,
英 語の /i
/は この原 則に従 わない こと が あ る。 (35) 日本 語: ピ ッ・
ピー
ッ,
チ リン ・ チ リー
ン 英 語:sptiSh/警sρ伽 sゐ 日本語で は, ピッ より もピー
ッ の方が長く比較 的大きい 音を連 想 さ せ る が,
*sPleesh は sPlish よ り大 きい音に は な らない。 英 語 話 者の解答は, /i
/ とい う音は そ もそ も 小 さい 音な の だか ら,
[i:]と な っ て も変 化は ない か ら spteesh は使わな い, とい う もので あ っ た。 [i
],
[i
:]につ い て は,
日本 語の方が は っ き り 区 別 して い る と考え られ る。 言語間で共通 した音 象 徴の例と し て母 音はしば しば と り あ げ られるが, よ く観 察する と,
異な る言語文 化間で は母音の もつ 意 味に もズ レが あるの である。4 .
結 び 拙 稿で は,
.
英 語の擬 音 語の分析を通し て, 日本 人が も っ 音 感 覚 と英 語の母語話 者の 音感 覚の相 違へ の アプロー
チ を試み た。 現 実 世 界に おける全 く 同じ音を, 異 言語文 化に おける言 語 音で表 す と き,
形 式 的 相 違 が 起 こ る理 由 に は,
言 語 構 造の違い に よ る直接 的 制 約と, 言語経 験に よ る間接 的 要 因が あ る。 両者は明 確に区 別で き る もの で はない が,
外 国語と して の言 語 学 習 者に とっ て特に知 覚 が困 難なの は,
後者の方である。 本 稿で は,
子 音に重点を おい た分 節 音や素 性レベ ル を 対 象 範囲と して, 特に学 習 者が気づ きに くい音の意 味 的 差異を見出す こ と を目 標 に した が,
こ の よ うな議 論 を もっ と拡 張 する と,
そ れ ぞ れの母 語話 者が異 言 語文化に 触れ た と きに感じる よ り広い意 味で の音 感 覚の違い に議 論 を 発 展 さ せるこ とが可能であろう。 つ まり, 素 性レ ベ ルから音 節,
韻 律 レ ベ ル まで を 含 む 音韻構 造の 体 系 的相 違が,
母 語 話 者・
外国語学習者に与え る感 覚的 ・ 文 化的一 248 一
異言語 文化に お け る音の 意 味: 日本 語 話 者か ら み た英 語の オノ マ トペ (川北 直 子 ) 影 響にっ いての説 明は
,
今 後の課 題 と し て残 さ れ る とこ ろで あ る。注
1 イ ンフ ォー
マ ン ト は, イギ リス人,
カ ナダ人,
ア メ リ カ人の3
名 か ら調 査 を とっ た。 いず れ も20 〜30
歳の 男 性である。 個 人 的な感 覚の ば らつ き,
とい う 問 題 は あ る が,
これ にっ い て は今 後よ り多くの イ ン フ ォー
マ ン トを 対 象に調査する必要が あ る。 2 日本 語 擬 音 語に お け る タ行 分 布の欠 落に っ い て,
形 式 的に は p−
k の中 間 的 存在で あ ると い うこ と.
意 味 的に は [p]は弾 力 性の あ る も の,
[k
]は金属 的で固い もの,
とい うは っ き りし た質 感を与え るの に対 し,
[t]は や は り中 間的存 在で あるこ とが ひとつ の理 由で は ないか と推 察 する。一
方,
英語のk
の欠 落につ い て は別の 説明を しなけ れ ばならない。 擬 音 語に おける英語の
k
の 用法に,
特に強い.
音を表す k−,
ka・
,
ker一
とい っ た接 頭 辞的 用 法が あ る。
k は 日常 的な音 を 表 すに は,
他の語 基 を 形 成 す る子 音に比べ て強 すぎ るの で は ないだ ろ う か。 音だけで なく,
視覚的な問 題も あ り, 同一
の発音 で もk よ りは c の方がよ い,
とい う判 断も あっ
た。 cl−,
kl一
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k
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