1. 緒 言 わが国は世界有数の高地震地帯である。数十年から百 年に 1 回程度の割合で M 78 クラスの巨大地震による大 災害が発生し,約 10 年から数十年に 1 回程度の割合で 比較的規模の大きい地震災害が発生している。小規模な 地震被害に至っては毎年発生している。このため,日本 では建築物には被害軽減を目的として耐震設計基準(建 築基準法)が設けられている。さらに,原子力発電プラ ント,電力・ガス系統施設,石油化学プラントなどの安 全上重要な施設ではそれぞれ独自の耐震設計基準が設け られている。 例えば,原子力発電プラントの耐震設計1)には一般建 築物よりはるかに厳しい条件が課せられている。特に, 重要な原子力機器については数千年から数万年に 1 回程 度起こりうる巨大地震を想定し,これに耐えるようにす ることが要求される。このため,このような機器に対し ては,支持する建物を十分剛な構造とし,これにメカニ カルスナッバやオイルダンパなどの耐震サポートの設置 や補強構造などを加えた剛構造設計が行われている。し かしながら,耐震設計条件は年々厳しくなる傾向にあり, 耐震コストが上昇したり,また,機器によっては構造や 機能上の制約から十分な対策をとりにくい場合がある。 一般の産業施設においてはコストや構造・機能上の制 約から十分な耐震対策を施していないものも多い。例え ば,最先端技術である半導体製造設備では,機能上から
産業施設における免震床の開発に関する研究
藤 本 滋 *
Studies on Development of Seismic Isolation Floors for Industrial Facilities
Shigeru FUJIMOTO*
This paper presents experimental researches for evaluating the isolation performances of three kinds of seismic isola-tion floors. These seismic isolaisola-tion floors have been developed to improve protecisola-tion against large earthquakes for im-portant industrial facilities and equipments in offices.
First, a horizontal seismic isolation floor was developed to reduce large earthquake motions in the horizontal direction for important computer systems and semiconductor manufacturing facilities. The seismic isolation floor was composed of the bearing units, the spring-damper units and the floor frame to support the industrial facilities. Secondly, a three-dimensional isolation floor was developed to protect the industrial facilities from large earthquakes with strong motions in the vertical direction. Vertical isolation devices were installed in the bearing units of the horizontal seismic isola-tion floor. Third, a seismic isolaisola-tion OA floor was developed to prevent overturns of the equipments and to protect work-ers in the offices from large earthquakes. This OA floor was composed of the floor supports with friction elements, the slide plates and the floor panels.
Seismic excitation tests using full scale models of these seismic isolation floors were carried out in order to evaluate the isolation performances. In these tests, actual process computer systems were installed on the horizontal seismic iso-lation floor model and the three-dimensional seismic isoiso-lation floor model. A Steel cabinet was put on the seismic isola-tion OA floor model. The seismic excitaisola-tion tests for these test models were preformed by using large earthquake simu-lators.
From these results, it was proved that these seismic isolation floors could reduce seismic motions enough to protect the industrial facilities and the office equipments from large earthquakes. The best seismic isolation floor can be selected among the three kinds of seismic isolation floors, judging from the seismic design conditions of the industrial facilities and the cost for the anti-earthquake countermeasures.
MEMOIRS OF SHONAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY
Vol. 39, No. 1, 2005
*機械デザイン工学科 教授
平成 16 年 10 月 8 日受付
湘南工科大学紀要 第 39 巻 第 1 号 設備自体が十分な強度的を有していないものが多く,ま た,構造上極めて脆弱な支持構造物上に設置されてい る。このため比較的小さな揺れの地震においても生産ト ラブルや被害が発生することがある。大地震では深刻な 被害が生じ,大規模半導体工場の場合には人的にも金額 的にも莫大な被害が発生することが予想される。 近年,このような問題を解決する方法の一つとして, 構造物や設備全体を基礎や床に設置したベアリングとば ね装置で浮かせ,構造物に伝わる地震力を低減する免震 構造が注目されている。この方法は柔構造設計の一つで, 特別なばね装置で支持することにより構造物の固有振動 数を低くして,地震動の卓越振動数との共振を避けるの が特徴である。この方法を用いると構造物に作用する地 震力を大幅に低減することができる。この方法を大型産 業プラント,半導体製造設備,コンピュータシステムお よびオフィス機器などに適用すると地震力を大幅に低減 できるので,耐震安全性が向上するとともに,耐震構造 の削減や地震力を意識しない標準設計による建設コスト ダウンが期待できる。さらに,地震による人や設備など の被害・損失を防ぐとともに地震後のプラント,工場, オフィスなどの迅速復旧が可能となる。 最近,ベアリングやばね装置の製造技術,信頼性が急 速に進歩し,製造コストも低下したことから普及に目処 が立ってきた。わが国では中層オフィスビルやマンショ ンなど建物全体を対象とした建屋免震方式やコンピュー タ室やプラント制御室など建物内の一部機器・設備を対 象とした床免震方式などに多数の実績が出てきている。 このような背景のもとで,筆者は,様々な機械構造物 を有する大型産業施設に適した免震用減衰装置の開発を 行ってきた2)–5)。また,原子力プラントにおいていくつ かの重要な設備・機器を免震することによりプラントシ ステム全体の耐震安全性を大幅に向上させることができ ることを示し,これら機器設備に適した 3 次元機器免震 装置を開発した6)–8)。さらに,高度産業施設において中 核設備であるコンピュータシステムや非常用設備などの 重要設備を地震から保護することを目的として,水平方 向免震床および地震上下動も低減できる 3 次元免震床を 開発9)–13)するとともに,OA ルームやオフィスルームに おける機器の転倒防止や業務従事者の人命保護に目的を 絞った簡易免震型 OA フロアの開発14)を行ってきた。 一般産業施設の場合,建物全体は従来建物とし内部の 重要な機器・設備のみを免震する床免震方式ほうがコス ト的に有利である場合が多い。さらに,床免震方式は既 存建物や施設にも適用が容易である。ここでは,適用範 囲が広い免震床および免震型 OA フロアに関して,これ までに研究した結果について述べる。 2. コンピュータシステム用水平方向免震床 地震によりコンピュータシステムが破損すると,高額 のハード自体の損失だけでなく,長期間のシステムダウ ンやデータ消失などによる企業活動停止がさらなる損失 や社会的混乱を招く。また,プラントを制御するコン ピュータシステム破損の場合はプラントの安全上重大な 影響が出る。現在では,一企業だけではなく社会全体に とって,これらコンピュータシステムの耐震性向上は必 須となっている。筆者らは,このような背景のもとで, 筆者らはコンピュータシステムに適した水平方向免震床 を開発した9)–12) 。ここでは,その特徴と性能について述 べる。 2.1 構造の特徴と作動原理 免震床をコンピュータ室に適用した場合の設置概念を 図 2.1 に示す9) 。建物床上にベアリングユニットとスプ リングダンパユニットからなる免震装置を複数配置し, その上にコンピュータシステムを搭載する免震床を載せ た二重床構造となっている。図 2.2 にベアリングユニッ トの構造例を示す。ベアリングユニットは滑らかなボー ル受け鋼板とボールベアリングからなり,免震床および 設置物全体の重量を支えるとともに,地震時には免震床
Fig. 2.1. Overview of seismic isolation floor in com-puter room.
産業施設における免震床の開発に関する研究(藤本) を水平方向に滑らせて地震の揺れを遮断するように働く。 図 2.3 にスプリングダンパユニットの構造例を示す。ス プリングダンパユニットにおいては,ストッパを挟む二 つのスライダーにはコイルばねにより常に一定の引張力 が作用している。地震の揺れが小さく,免震床に接合し たスライダーに作用する地震力がばねの引張力より小さ い場合は免震床が建物に固定された状態を保つ。このば ねの引張力より大きな地震力が発生した場合には,ばね が引き伸ばされて免震床をゆっくりとした動きに変えて 地震力を低減する。このような機能をトリガー機能とい う。さらに,ばねと平行して取り付けられたダンパは免 震床の揺れのエネルギーを吸収し,床変位が過大になる のを抑える。このスプリングダンパユニットは作動方向 と直行する床の動きを拘束しない構造となっており,設 置するスプリングダンパユニットを同数ずつ互いに直交 するよう配置することにより,水平面内の任意方向の免 震が可能となる。 このような構成による免震床は次のような特徴をもつ。 ① 小さな地震や人が歩き回る際の作用力では免震床 は動かず,中規模の地震の揺れ以上で作動し,地震後は ばねの引張力により元の位置に復帰する。 ② 簡素かつコンパクトな構造で作動信頼性が高い。 2.2 実規模免震床を用いた免震性能の実証 原子力プラント用コンピュータシステムと免震床とを 組み合わせて大地震に対し機能が正常に維持できること を確認するための実証試験が(財)原子力発電技術機構 により実施された10),11) 。実証試験に用いられた免震床は 上記 2.1 で述べた水平方向免震床が採用された。 2.2.1 試験体構造 使用された大型免震床と設置した実機コンピュータシ ステムの構造概要を図 2.4 に示す。免震床は床フレーム とフロアパネルとで構成されている。試験用に試作した 免震床は広さ 12.912.9 m,高さ 0.5 m の大きさを持ち, コンピュータシステムを含んだ全体質量は約 36,400 kg で ある。これを支持する免震装置として図 2.2 および図 2.3 に示されるベアリングユニット 25 体およびスプリングダ ンパユニット 12 体が設置された。これら免震装置の配 置状況を図 2.5 に示す。この状態で,ベアリングユニッ トおよびスプリングダンパユニットの作動性を確認する ために静加力試験が実施された。床全体を油圧シリンダ にて水平方向に低速度で押し引きを行い,その反力と床 変位を測定した。この時の免震装置全体の水平方向復元 力と床の水平方向変位との関係を表す復元力特性を図 Fig. 2.3. A structural example of spring-damper unit
for computer systems.
Fig. 2.4. Overview of seismic isolation floor test model with process computer systems in nuclear power plant.
Fig. 2.2. A structural example of ball bearing unit for computer systems.
湘南工科大学紀要 第 39 巻 第 1 号 2.6に示す。復元力特性が若干の履歴を描くのは,スチー ルプレートに対するボールベアリングの転がり摩擦によ るものであり,摩擦係数は約 0.005 である。ばねの引張 力は免震床が動き始める加速度が 0.2 m/s2 となるよう設 定された。また,スプリングダンパユニット全体のばね 定数は 75.2 kN/m である。この時,免震床の固有振動数 は約 0.23 Hz となる。設置されたダンパによる免震床の減 衰比は約 0.09 である。 2.2.2 振動試験および結果 上記に示した試験体を大型振動台に設置し振動試験を 実施した。加振する地震波は設計で想定される最も厳し い人工地震波を用いて免震床の構造健全性,免震性能お よびコンピュータシステムの機能維持性を実証した。水 平方向地震波加振結果の例として,図 2.7 に振動台加速 度および免震床の応答加速度と応答相対変位の時刻歴を 示す。加振試験の結果,最大加振加速度が約 4.7 m/s2に 対して免震床上の最大応答加速度は約 1.5 m/s2 に低減さ れた。これは汎用コンピュータシステムの耐震基準であ る 2.5 m/s2 を十分下回っている。また,免震床の応答加 速度に対する加速度床応答スペクトルおよび許容設計加 速度床応答スペクトルを図 2.8 に示す。免震床加速度床 応答スペクトルも加振結果は設計値をはるかに下回って おり,周波数領域における免震性能も良好であることが 確認された。さらに,振動試験においては搭載されたコ ンピュータシステムは地震波加振の際にも正常に稼働し, なんら異常がないことが確認された。 2.3 まとめ コンピュータシステムに適した水平方向免震床を開発 Fig. 2.5. Locations of ball bearing units and
spring-damper units.
Fig. 2.6. Restoring force property of the seismic iso-lation floor.
Fig. 2.7. Response time histories of the seismic isola-tion floor for the design art wave excitaisola-tion.
産業施設における免震床の開発に関する研究(藤本) した。原子力プラント用コンピュータシステムにこの免 震床を適用した耐震実証試験が(財)原子力発電技術機 構により実施された。振動試験の結果から,開発した免 震床は,原子力プラントのコンピュータシステムに課せ られた耐震基準を十分クリアできる免震機能を備えてい ることが確認された。本免震床は,各種産業分野におけ るコンピュータシステムや大型重要機器・設備の地震時 の信頼性向上に大きく貢献すると期待される。 3. 3 次元免震床 1995年に発生した兵庫県南部地震では,多数のオフィ スビルにおいてコンピュータ室やオフィスルームにも大 きな被害が生じた。コンピュータ室ではアクセスフロア が大規模に剥がれ落ち,コンピュータシステムの転倒や 破損が生じた。この時に観測(神戸海洋気象台観測波) された地震動の水平方向最大加速度は 8.18 m/s2 ,上下方 向最大加速度は 3.32 m/s2であった。水平方向加速度は従 来の一般建築の耐震設計基準の約 2.0 m/s2 をはるかに上 回り,また,設計基準では考慮されていなかった上下動 は予想以上に大きいものであったことが注目された。建 物においては床の上下(面外)方向は上下振動があると 増幅しやすく地震被害を増長させると考えられている。 この地震では水平地震動の揺れによる被害だけでなく上 下地震動が原因と考えられる被害が報告されている。こ のため,この兵庫県南部地震を契機に地震上下動対策が 注目され始め,コンピュータシステムやプラント機器用 制御システムなどを保護する免震床についても本格的な 地震上下動対策が望まれている。筆者は 2 章で述べた水 平方向免震床を発展させ,地震上下動も低減できる 3 次 元免震床を開発した13)。ここでは,その特徴と性能につ いて述べる。 3.1 構造の特徴と作動原理 3次元免震床の構造概念を図 3.1 に示す。床フレーム と水平免震装置であるベアリングユニット,ボール受け 鋼板およびスプリングダンパユニットの基本構造は 2 章 で述べた水平方向免震床と同じである。ここでは,上下 方向の地震動を低減するためにベアリングユニットを床 フレームから切り離し,上下免震装置としてベアリング ユニットと床フレームとの間にコイルスプリングとダン パを上下方向に設置した。このような構成により,地震 時の床全体の水平方向慣性力は水平免震装置が上下方向 の慣性力は上下免震装置が互いに干渉せず独立に受けも つことができる。また,上下方向のダンパは床全体の上 下振動低減だけでなく,床全体のロッキング振動も抑制 するように適切な減衰容量が設定された。このため,特 別なロッキング抑制装置が不要となりコンパクトな上下 免震装置構造とすることができる。 3.2 実規模免震床を用いた免震性能の実証 3次元免震装置が地震に対し機能が正常に作動するこ とを確認するために実規模の 3 次元免震床を用いた振動 試験を実施した13) 。 3.2.1 試験体構造 製作した 3 次元免震床の広さは 3 m2.9 m,高さは 0.5 mである。床上には小規模コンピュータシステムを設 置した。設置物を含む床全体の総質量は約 3000 kg であ る。ベアリングニット,上下免震装置およびスプリング ダンパユニットはそれぞれ 4 体ずつ設置された。製作さ れたベアリングユニットとボール受け鋼板,ベアリング Fig. 2.8. Acceleration floor response spectrum of the
floor frame in the horizontal direction for the design art wave.
Fig. 3.1. A basic structure of the 3-dimensional seis-mic isolation floor.
湘南工科大学紀要 第 39 巻 第 1 号 ユニットと上下免震装置,および,スプリングダンパユ ニットの写真をそれぞれ図 3.2,3.3 および 3.4 に示す。ス プリングダンパユニットにおいてばねの引張力は免震床 が動き始める加速度が 0.2 m/s2となるよう設定した。ま た,免震床の水平方向振動特性においては固有振動数を 0.29 Hz,減衰比 0.35,また,上下方向振動特性において は固有振動数を 1.5 Hz,減衰比を 0.45 とした。 3.2.2 振動試験および結果 上記に示した試験体を振動台に設置し振動試験を実施 した。振動試験は水平および上下方向の同時加振とし, 用いた加振波形は観測地震波およびこれらの地震波に対 する低層ビルの揺れを模擬した建屋応答波とした。観測 地震波は El Centro 地震 NS/UD 波,TAFT 地震 EW/UD 波,十勝沖地震 EW/UD 波,兵庫県南部地震神戸海洋気 象台観測波 NS/UD 波を用いた。低層ビルは,水平方向 については固有振動数 3 Hz,減衰比 0.05 をもつ 1 自由度 振動系,また,上下方向については固有振動数 7 Hz,減 衰比 0.05 をもつ 1 自由度振動系で模擬した。建屋応答波 は観測地震波に対するこれらの振動モデルの地震応答解 析を行うことにより得た。なお,加振時の最大加速度は 振動台の加振可能な範囲で設定した。 観測地震波加振試験結果の例として,El Centro 地震 NS/UD 波の水平・上下同時加振を行った場合の振動台加 速度および免震床応答加速度について水平方向および上 下方向の時刻歴をそれぞれ図 3.5(a)および図 3.5(b)に示す。 また,各建屋応答波形を用いた水平・上下同時加振試験 の場合の振動台加速度および免震床応答加速度の振幅最 大値をまとめたものを図 3.6 に示す。これらの試験結果 より,観測地震波に対する免震床の加速度低減効果は水 平方向で 1/51/4,上下方向で 1/41/3 であった。建屋 応答波最大加速度に対する加速度低減率は水平方向で 1/71/6,上下方向で 1/41/3 であった。また,床全体の ロッキング振動は非常に小さく無視できる範囲であった。 この振動試験においては免震装置の機能や免震床全体の 構造には何ら異常はなく,免震床は正常に作動した。 3.3 まとめ 地震上下動対策を施したコンピュータシステム用 3 次 元免震床を開発した。免震性能を実証するために実規模 3次元免震床を用いた振動試験を行った。その結果,開 発した 3 次元免震床は十分な水平および上下方向の免震 機能を備えていることが確認された。この免震床は直下 型地震のような上下動も大きい地震動に対する重要設備
Fig. 3.4. Spring-damper unit. Fig. 3.2. Ball bearing unit and steel plate.
Fig. 3.3. Vertical isolation device and ball bearing unit.
産業施設における免震床の開発に関する研究(藤本) の耐震性向上に大きく貢献すると期待される。 4. 簡易免震型 OA フロア 兵庫県南部地震 (1995) では,OA 室やオフィスルーム においてもフロアパネルの大規模な剥がれ,OA 機器, 各種情報・通信機器,机やキャビネットなどの落下,転 倒など大きな被害を受けた。この地震が業務時間中に発 生していれば,従業員の生命にも多大な影響を及ぼす可 能性があった。 近年では,一般オフィスビル内の重要な機器・設備の 耐震対策は免震床が用いられる場合が多いが,一般オ フィスルームに関しては設置スペースやコストの制約に より免震床の導入が困難な場合が多く,十分な耐震対策 が行われていないのが現状である。今後,ますます OA 機器や情報・通信機器の高度化が進みつつある中で OA ルームやオフィスルームには低コストで実用的な耐震対 策が望まれている。 筆者らは,大地震時のオフィスビル内の OA 機器や各 種設置機器の転倒防止および業務従事者の人命保護を目 的として,建物床に滑らかな金属板を敷き,OA フロア パネルを支えるフロア支柱の底部に摩擦要素を取り付け た簡易免震型 OA フロアを開発した14) 。ここでは,この 簡易免震型 OA フロアの特徴について述べるとともに, 適用性評価のために行った振動試験結果について述べる。 4.1 構造の特徴と免震機能の考え方 試作した簡易免震型 OA フロアを用いた試験体を例に 構造の特徴と免震機能の考え方を説明する。試験体の構 造概要を図 4.1 に示す。振動台上に固定されたベース板 上にステンレス製の滑り板が 9 枚取り付けられ,この上 に免震型 OA フロア試験体が設置されている。 免震型 OA フロアは 4 枚の500 mm 木製フロアパネル と 9 個のアルミ製フロア支柱から構成されおり,これら フロアパネルの四隅はフロア支柱により連結,支持され ている。フロアパネル上には免震対象となる内部に錘を Fig. 3.5(a). Horizontal response time histories of the
3D seismic isolation floor for E1 Centro NS wave ex-citation.
Fig. 3.5(b). Vertical response time histories of the 3D seismic isolation floor for E1 Centro UD wave exci-tation.
Fig. 3.6. Maximum horizontal and vertical response accelerations of the 3D seismic isolation floor for seismic building response waves.
湘南工科大学紀要 第 39 巻 第 1 号 設置したスチールキャビネット(以下,キャビネットと する)が置かれている。免震型 OA フロアの質量および キャビネットの質量はそれぞれ 25.1 kg,133.2 kg である。 キャビネットの重心位置は,高さ方向,水平断面方向と もほぼ中央にある。免震装置となるフロア支柱の構造を 図 4.2 に示す。上部がねじ構造になっている逆コマ型の 支柱脚(ペデスタル)がゴムパッドを介してフロア支柱 の脚部底板を貫通し,ナットによりフロア支柱に固定さ れている。支柱脚の下面には摩擦パッドが貼られて,こ の摩擦パッドとステンレス板が接することにより適切な 滑りが生じる。摩擦パッドに用いる摩擦材は,その摩擦 係数が 0.150.25 の範囲にあり比較的安定した摩擦特性 をもつテフロン系摩擦材を選定した。以上の構成により 次のような特徴・機能が得られる。 (1) 免震装置はステンレス板と摩擦部材だけの構成な ので大幅な省スペース化,低コスト化が可能である。 (2) 摩擦材の摩擦係数を比較的大きく設定するため免 震機能は低下するが,免震機能が作動し始める加速度レ ベルは 1.52.5 m/s2程度であるため,机上にあるパソコ ンや OA 機器の致命的な損傷や転倒を防ぐことが可能で ある。このような構成により最小限の免震機能を確保し, 業務中の作業者の人命を保護することが可能である。 (3) 摩擦力が大きいため減衰能力は大きく,地震時の 過大な応答変位を抑制できる。 4.2 免震型 OA フロア試験体を用いた免震性能の実 証 免震型 OA フロアが地震動に対し機能が正常に作動す ることを確認するために試験体を用いて各種試験を実施 した14) 。 4.2.1 試験方法 免震型 OA フロアの力学的特性および免震性能を把握 するために静加力試験および振動試験を行った。以下に 試験方法の概要を述べる。 まず,免震型 OA フロアの免震装置である摩擦パッド の摩擦特性を把握するために静加力試験を実施した。油 圧シリンダにより OA フロア全体を水平方向に低速度で 押し引きし,摩擦パッドとステンレス板との間に発生す る摩擦力と変位の関係を計測した。このためフロア支柱 には加力方向に変位計が,また,フロア支柱には油圧シ リンダと連結した試験治具を介して荷重計が取り付けら れている。 次に,免震型 OA フロア試験体を振動台に設置して正 弦波掃引加振,正弦 20 波加振および地震観測波を用い た地震波加振を行い,免震型 OA フロアの基本振動特性 および免震性能を評価した。さらに,免震型 OA フロア の免震機能を確認しやすくするためにキャビネットを振 動台に直置きし,非免震の状態での振動試験も行い,両 者の試験結果を比較した。振動試験では各部の振動状態 を把握するために,振動台,OA フロアの中央部とフロ Fig. 4.1. Test model of seismic isolation OA floor and
measurement positions
Fig. 4.2. Floor support structure.
産業施設における免震床の開発に関する研究(藤本) ア両側,および,キャビネットの底部および頂部の水平 方向および上下方向の加速度が計測された。また,OA フロアの水平方向変位も計測された。 4.2.2 試験結果 (1) 静加力試験 試験体を低速度で 3 サイクルの押し引きを行った。約 100 mm の振幅で試験を行った場合の摩擦力と滑り変位 の関係を図 4.3 に示す。この時の動摩擦係数 mDの平均値 は約 0.16,また,滑り速度方向が変化する時の摩擦係数 の最大値は約 0.19 であった。摩擦履歴特性は,滑り変位 に対して再現性があり安定していることが確認された。 (2) 正弦波掃引試験 キャビネット単体および免震型 OA フロア試験体の基 本振動特性を把握するために加振振幅 0.2 m/s2 の正弦波 掃引加振試験を行った。その結果,キャビネットを直置 きした場合の水平方向 1 次共振振動数は 15.5 Hz であっ た。また,免震型 OA フロア上に設置した場合のキャビ ネットの水平方向 1 次共振振動数は 8.6 Hz であった。 (3) 正弦 20 波加振試験 大振幅入力に対する免震型 OA フロアの基本的免震特 性を把握するため,水平方向正弦 20 波加振試験を実施 した。キャビネットを振動台に直置きした場合(非免震) および免震型 OA フロアに設置した場合(免震)の試験 を実施し,これらの応答を比較した。加振振動数は低層 ビルの卓越振動数領域である 3 Hz とした。 図 4.4 に加振振幅が約 4 m/s2 の場合における振動台の 水平方向加振加速度 (AH0),非免震時のキャビネット頂 部 加 速 度 (AH5), 免 震 時 の キ ャ ビ ネ ッ ト 頂 部 加 速 度 (AH5),フロア中央部加速度 (AH1) および免震型 OA フロ ア滑り変位 (DH1) の時刻歴を示す。また,図 4.5 に加振 振幅に対する非免震時のキャビネット頂部応答加速度 (AH5),免震時のキャビネット頂部応答加速度 (AH5),免 震型 OA フロア中央部応答加速度 (AH1) の最大応答を示 す。免震型 OA フロアが滑り始める加振振幅約 2 m/s2 か ら免震効果が現れ始める。加振振幅が約 4 m/s2を超える と,非免震時のキャビネット転倒寸前のガタ振動を伴う 大きなロッキング振動が生じ,その応答加速度は大幅増 加する。これに対して,免震されたキャビネットは,加 振振幅が増加しても OA フロアとともに一体で動き,そ の応答加速度は約 5 m/s2 を越えることはなく明らかな免 震効果が得られた。これらの結果から,免震型 OA フロ アは,摩擦パッドの摩擦係数に対応する入力加速度約 2 m/s2前後で滑りが生じ始め,免震床として作動するこ とが確認された。 (4) 地震波加振試験 地震波に対する免震型 OA フロアの免震性能を確認す Fig. 4.3. Friction characteristics of isolation OA floor.
Fig. 4.4. Response time histories of test model under 20 cycles of 3 Hz sinusoidal wave (comparison of non-isolated cabinet responses with isolated cabinet responses).
湘南工科大学紀要 第 39 巻 第 1 号
るため,地震観測波を用いた加振試験を実施した。キャ ビネットを振動台に直置きした場合(非免震)および免 震した場合の試験を実施し,これらの応答を比較した。 地震波形は,El Centro 地震 NS 波,Taft 地震 EW 波,十 勝沖地震八戸 EW 波,兵庫県南部地震神戸海洋気象台 観測波 NS 波および EW 波を用いた。各波とも加振振幅 レベルを数ケース変えた試験を実施した。 地震波加振試験の例として,兵庫県南部地震・神戸海 洋気象台観測波形(NS 波および UD 波同時加振:最大 加速度 5.0 m/s2)を用いた加振試験における図 4.4 と同様 の測定点の時刻歴を図 4.6 に示す。非免震時のキャビ ネット頂部の最大応答加速度は 17 m/s2を上回り,大幅 なロッキンング・ガタ振動が発生し転倒寸前であった。 免震時のキャビネット頂部の最大応答は約 6 m/s2で 1/3 程度に低減し,キャビネットは OA フロアと一体となっ て動いており良好な免震効果が得られた。 地震波加振試験における非免震時のキャビネットおよ び免震時の OA フロア,キャビネット頂部の最大応答を まとめたものを表 4.1 に示す。これらの地震波加振にお いても入力加速度レベルが約 2 m/s22.5 m/s2を超えると 免震型 OA フロアが滑り始め,免震 OA フロア上に設置 されたキャビネットは,入力加速度レベルが増加しても その応答加速度は約 5 m/s26 m/s2 を超えることはなく OA フロアと一体となって動き,良好な免震効果が得ら れた。また,水平方向加振のみの場合と水平・上下同時 加振の場合の各部の応答には有意な差はなく,上下動の 影響は小さい。これらの結果から,免震型 OA フロアは, 摩擦要素の摩擦係数に対応する約 2 m/s2 前後がトリガー 加速度となり,それ以上の地震波加速度に対して機能す る免震装置であることが確認された。 4.3 試験まとめ OA ルームやオフィスルームの耐震対策として,やや 大きい摩擦係数をもつ摩擦要素のみを用いた低コストで 省スペース型の免震型 OA フロアを開発し,その免震性 能を確認するためも各種試験を実施した。その結果,次 のような結果が得られた。 (1) 免震装置である摩擦要素に用いたテフロン系の材 料の摩擦係数は 0.160.19 で繰り返しの滑り変位に対し Fig. 4.5. Maximum acceleration responses of test
model under 20 cycles of 3 Hz sinusoidal wave (com-parison of non-isolated cabinet responses with iso-lated cabinet responses).
Fig. 4.6. Response time histories of test model under Hyogo-ken Nanbu Earthquake NS/UD wave (com-parison of non-isolated cabinet response with iso-lated cabinet response).
産業施設における免震床の開発に関する研究(藤本) ても安定しており,十分適用可能な材料であることを確 認した。 (2) 免震型 OA フロアは,摩擦要素の摩擦係数に対応 する約 2 m/s2 がトリガー加速度となり,それ以上の加速 度入力に対して作動する免震装置としての機能を有し, 大振幅入力に対しても設置機器の転倒を防ぐことを確認 した。 以上より,開発した簡易免震型 OA フロアは,一般業 務室における大地震用の水平方向免震装置として十分適 用できることが実証された。OA 室や一般業務室の耐震 性向上に大きく貢献するものと期待される。 5. 結 言 建物内に設置されたコンピュータシステムや各種機 器・設備を対象にした免震装置として,水平方向免震 床,3 次元免震床および簡易免震型 OA フロアを開発し た。これら 3 種類の免震装置については,全て実規模の 試験体を用いた振動試験を実施し,その免震性能を実証 した。その結果,それぞれ目的に応じた免震装置として 十分な性能と耐久性を有していることが確認できた。 対象とする機器・設備の耐震設計条件あるいは対策の ための費用に応じて,これら 3 種類の免震装置の中から 適した免震装置を選択することが可能である。例えば, 水平免震床および 3 次元免震床はコンピュータシステム やプラント制御システムなど高い耐震性が要求される設 備あるいは半導体製造設備のような地震に対して脆弱な 機械構造物に適している。また,簡易免震型 OA フロア は OA ルームやオフィスルームでの大地震時の被害軽減 Table 4.1. Maximum seismic responses of test model in typical seismic excitation tests (comparison of non-isolated
cabi-net response with isolated cabicabi-net response).
Seismic wave Direc.
Max acc. Non-isolated Isolated floor
(m/s2)
Cabinet Cabinet OA floor Floor disp. AH0, AZ0 AH5 (m/s2) AH5 (m/s2) AH1 (m/s2) DH1 (mm)
NS 6.12 21.67 5.44 4.73 73.7 EL Centro NS NS 3.57 4.53 4.27 3.05 12.9 NS 3.58 4.06 4.36 2.96 12.3 UD 2.27 — — — — EW 4.54 5.77 5.01 3.66 40.1 Taft EW EW 1.74 2.48 2.57 1.78 0.7 EW 1.79 2.55 2.53 1.87 0.5 UD 1.07 — — — — Hachinohe EW EW 2.47 2.69 2.94 2.39 3.0 EW 1.83 2.09 2.20 1.86 0.7 UD 1.34 — — — — Kobe NS NS 5.05 10.29 5.91 4.80 77.7 NS 4.94 17.42 6.23 5.42 83.4 UD 2.46 — — — — Kobe EW EW 5.11 8.73 5.43 4.35 95.9 EW 5.44 9.13 5.60 4.67 100.7 UD 2.50 — — — —
湘南工科大学紀要 第 39 巻 第 1 号 用に適している。これら 3 種類の免震装置を適切に組み 合わせることにより,様々な重要な機器・設備からオ フィス機器までの耐震性を大幅に向上させ,さらに,地 震後のプラント操業や業務の早期立ち上げに寄与するも のと期待される。 これら免震床の開発に当たっては,東京大学生産技術 研究所の藤田隆史教授に有益なご助言をいただいた。こ こに感謝いたします。 参 考 文 献 1)(社)日本電気協会,原子力発電所耐震設計技術 指針 (JEAG 4601), 1987. 2) 藤田ほか,産業施設に適した建屋免震構造の基礎的 研究(第 1 報 履歴ダンパを用いた場合の免震性 能),日本機械学会論文集(C 編),Vol. 53-491, 1987-7, Pp. 122–130. 3) 藤田ほか,産業施設に適した建屋免震構造の基礎的 研究(第 2 報 粘性ダンパを用いた場合の免震性 能),日本機械学会論文集(C 編),Vol. 53-491, 1987-7, Pp. 131–137. 4) 藤田ほか,産業施設に適した建屋免震構造の基礎的 研究(第 3 報 免震性能に及ぼすエネルギー吸収装 置の影響,日本機械学会論文集(C 編),Vol. 53-496, 1987-12, Pp. 138–144.
5) 藤本ほか,Seismic Isolation Industrial Facilities Using Lead-Rubber Bearing, JSME International Journal Series III, Vol. 33, No. 3, 1990-7, Pp. 122–130.
6) 藤 本 ほ か , Seismic Isolation Structure for Pool-type LMFBR-Isolation Building with Vertically Isolated Floor for NSSS, Transactions of the 9th International Confer-ence on SMiRT, 1981-7, Pp. 743–748. 7) 蛯沢ほか,3 次元機器免震試験システムの動的挙動 および免震効果,土木学会 第 2 回免震・制振コロ キウム講演論文集,2000-11, pp. 75–82. 8) 蛯沢ほか,確率的手法による機器免震性能評価設計 及び有効性評価手法,JCOSSAR 2003 論文集(日本 材料学会),2003-11, Pp. 829–836. 9) 藤本ほか,原子力プラントにおける免震床および制 振装置,東芝レ ビュー ,Vol. 50, No. 5, 1996-5, Pp. 411–416.
10) 藤本ほか,Seismic Proving Test of Process Computer Systems with a Seismic Floor Isolation System, PVP-Vol. 319, Seismic, Shock & Vibration Isolation, ASME, 1995-8, Pp. 198–204. 11) 原子力発電技術機構,原子力発電施設信頼性実証 試験の現状 平成 5 年,1993, Pp. 15–48. 12) 群安ほか,免震技術の現状と展望 II. 原子力施設に おける免震技術:原子力発電所計算機システムへの 免震技術の適用,原子力工業,Vol. 40, No. 8, 1994-10, Pp. 72–77. 13) 藤本ほか,3 次元免震床に関する研究(1),日本原子 力学会 1996 秋の年会 G52, 1995-9, P. 395. 14) 藤本ほか,やや大きい摩擦係数を持つ摩擦要素を用 いた簡易免震型 OA フロアの地震応答特性,日本機 械学会 Dynamics and Design Conference 2000 論文集, No. 00-6, 2000-9, Pp. 295–301.