処分性と手続
清
水
晴
生
一 はじめに 二 刑事手続は行政行為(処分)か 三 刑事処分を裁量行為として吟味して違法性を判断できるか 四 処分性と統治行為論 五 おわりに一
はじめに
本稿は、刑事手続と行政手続という異なる目的と枠組をもった公法上の手続の重なりと差異の分析を試みる机上の思
考実験であり、実践的意図に基づくものではない。
二
刑事手続は行政行為(処分)か
処分性については、法律の規定に基づいて特定の者の権利義務や地位に対して直接影響、変動を及ぼすものかどうか
ということが一般に問われる。
とりわけ刑事手続上の捜査における刑事処分に関して見れば、刑事訴訟法や警職法、警察法等の規定に基づいて、特
定の被疑者に対して任意ないし強制の処分を課すということは、すなわち被疑者の重要な法益に対して多かれ少なかれ
制約を加えるということであるから、まさに﹁法律の規定に基づいて特定の者の権利義務や地位に対して直接影響、変
動を及ぼすもの﹂にほかならず、つまり処分性は肯定されるということになる。
しかし刑事手続上の処分については、その不服申立ての手続に関して、行政処分に対するのとは異なる手続が刑事訴
訟法上用意されている。つまり処分性の要件を必要とする行政訴訟の対象とはならないのであるから、刑事処分につい
て行政法上の処分性を定義上、形式的に判断し肯定する実益がな
い
。
行政手続法も、三条一項五号で﹁刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分
及び行政指導﹂を適用除外としている。
これで一応の結論は導かれうる。
しかしさらに考えてみれば、両処分はともに憲法三一条の趣旨の下に置かれる一方で、それぞれ刑事法上の目的に基
づくかまたは行政法上の目的に基づくかの違いも存し、刑事処分は刑事法の目的の実現のため、行政行為は行政法上の
目的の実現・遂行のために認められるものである。
ここで例えば職務質問のような警職法上の任意処分には、行政行為的な性格は含まれていないのだろうか。あるいは
国税犯則手続上の処分に逆に刑事処分的な性格は含まれていないのだろうか。
こ
れ
ら
に
つ
い
て
も
実
体
法
的
な
考
慮
は
あ
ま
り
実
益
を
持
つ
ま
い。
と
い
う
の
も
い
ず
れ
も
そ
の
処
分
の
違
法
や
取
消
し
を
問
う
際
に、
個
別
の
手
続
が
定
め
ら
れ
て
い
る
か
ら
で
あ
る。
逆
に
言
え
ば
そ
れ
以
外
の
手
続
に
よ
る
救
済
が
認
め
ら
れ
て
い
な
い
と
考
え
ら
れ
る。個々に実質的に見ても、捜査手続の違法を行政訴訟で論じるのは遅きに失する。他方、犯則手続はその沿
革
を見て
も明らかに刑事訴訟法の性格を併有しており、現行法の手続は憲法三一条上の適正手続保障を不当に、実質的な理由も
なく緩めてい
る
点で違憲の疑いが強い。実態としては刑事上の捜査手続に関するのと同様の手続保障が必要とされなけ
ればならないが、現行法上は用意されておらず、かといって刑事手続の中で扱いうる法的根拠も欠く。つまり実質が認
められても手続が用意されていなければ絵に描いた餅である。個々の手続が憲法三一条の要求に実質において適うもの
であるかどう
か
、司法全体の中で真剣に検証されていかなければならない。
三
刑事処分を裁量行為として吟味して違法性を判断できるか
︵一︶
刑事処分は先に見たとおり処分︵行政行為︶の性質を併せ持つともいえる︵またその証左の一つとして国賠法
上の対象となりうる︶が、その違法は通常刑事手続上で吟味・評価される。
こ
こ
で
は
仮
に
行
政
訴
訟
に
お
い
て
刑
事
処
分
の
違
法
が
問
わ
れ
た
と
し
た
場
合
に、
例
え
ば
任
意
処
分
の
裁
量
処
分
性
や
そ
の
妥
当
性、合理性が問われたとしたらどのように判断されるかという思考実験を試みたい。
︵二︶
まず任意処分という呼称からもわかるとおり、警察官は法令︵警職法︶に基づいて職務質問等を試みることが
ある。
警職法の規定はそれができる場合について細かい基準を立てているわけではない。実務上の運用指針はありうるが、
結
局
は
現
場
の
警
察
官
の
必
要
性
判
断
に
基
づ
き
﹁
で
き
る
﹂
と
し
て
い
る
の
で
あ
る
か
ら
、
要
件
裁
量
が
認
め
ら
れ
て
い
る
と
も
い
え
る
。
ただしその処分の性質は侵害処分であるから裁量の余地は狭いはずであるが、警察官の専門技術的な判断を俟つとも
いえるから、総合すれば裁量はあるといえそうである。
︵三︶ではその妥当性、合理性を判断過程に着目して評価するとどうなるか。
すでに触れたとおりまずこの職務質問を行うかどうかの判断は専門技術的な判断であるから、重大な事実誤認や社会
通念上著しく妥当性を欠く場合でなければ違法性はない、というのが刑事裁判実務の評価基準に近いだろう。
しかしより審査を厳密化するならば、当該判断過程において考慮不尽や他事考慮がなかったかどうか、事実への法の
適用が合理的であったかどうかを問うという姿勢が求められよ
う
。
︵四︶以上のように、刑事処分にも行政訴訟法上の審理枠組が容易に適用・応用可能な場合がある。
このような考慮は、とりわけ刑事手続へと連なりうる行政不服審査等の手続において、対象者の行為に対する評価の
みならず、処分自体の違法性に対する慎重、厳密な吟味の必要性を示すものといえるだろう。
四
処分性と統治行為論
処分性要件が行政訴訟上の審理の対象となるかどうかの重要な基準であるのと同様に、統治行為性、政治問題性も憲
法九条に関わる憲法訴訟において司法審査の対象としない、つまり実質的な法的問題化を避ける実用基準として機能し
ている。裏を返せば一国の軍隊保持、軍隊整備といった防衛事項は本質において法的問題たりえず、常に政治問題であ
らざるをえないことを裁判所は明言し続けてきたのである。そのような背景の下では、解釈改憲といったことも政権の
指導下に容易になされうる。裁判所が政治に任せるとして憲法判断を放棄しているからであ
る
。
処
分
性
要
件
も
以
前
は
過
度
に
厳
格
な
認
定
が
な
さ
れ、
通
達
で
あ
れ
ば
直
ち
に
内
部
事
項
に
と
ど
ま
る
と
い
っ
た
判
断
が
な
さ
れ
た
が、最近ではその外部への影響の実質が問われるようになってきている。
政治問題性についても、十分政治問題として争点化され、政治的議論に晒され、民主的討議・熟議の検討を経たかど
う
か︵
考
慮
不
尽
や
他
事
考
慮
の
有
無
︶、
選
挙
に
よ
り
政
治
的
な
決
断
が
民
主
的
手
続
の
過
程
を
経
て
示
さ
れ
た
か
ど
う
か
と
い
っ
た
統
治行為の手続的側面については、裁判所が判断する余地が一定程度あるのではないかと思われる。憲法前文にも示され
る
平
和
主
義
や
国
際
協
調
主
義
と
い
っ
た
信
条
の
実
質
も、
こ
の
よ
う
な
手
続
が
尽
く
さ
れ
専
断
を
廃
し
た
も
の
で
あ
っ
た
か
ど
う
か
に
よって初めて有意なものとなるのではなかろうか。
五
おわりに
本稿が試みた思考実験は、手続の枠組みによって当該手続が実現しようとする実体法の実質までが規定され、例えば
国税犯則取締のような境界線上にある手続に関しては、名目上の性格規定が、つまり刑事手続ではなく行政手続である
という名目的な性格付け自体が、実体的な影響・作用、対象者に与える不利益・利益侵害を本質とは異なる法的性格の
ものであるとの強弁を許す結果となっていることを明らかにしようというものであった。
このような形式論理による国民の不利益は、対国家的手続に関わるものだけに国家サイドによる是正を期待すること
が容易でなく、相当に長い間、手続の対象者に不利益を強い続けてきている。刑事手続に行政手続よりも即時の是正手
続が保障されているのは、その手続の強力さによるものであり、そのことは憲法も定めるところである。そうであるな
らば、実質において刑事手続と同等の強力な作用を認める処分については、形式的な行政手続的性格を強調することは
許されず、実質に見合った保障を手続的に保障することが必要であるといわなければならないであろう。
註
︵ 1︶ 例 え ば、 捜 索・ 差 押 え の 令 状 請 求 の 認 容 の 裁 判 に 対 す る 準 抗 告︵ 刑 訴 法 四 二 九 条 一 項 二 号 ︶ の 可 否 に つ い て、 令 状 請 求 の 認 容 裁 判 は 国 家 機 関 相 互 間 の 内 部 的 な 行 為 に と ど ま る か ら 被 処 分 者 に は﹁ 直 接 影 響、 変 動 を 及 ぼ ﹂ さ な い と 考 え る 立 場 も あ り、 こ の 考 え 方 は ま た さ ら に、 認 容 裁 判 に 対 す る 準 抗 告︵ 刑 訴 法 四 二 九 条 一 項﹁ 裁 判 官 が 左 の 裁 判 を し た 場 合 に お い て、 不 服 が あ る 者 は、 簡 易 裁 判 所 の 裁 判 官 が し た 裁 判 に 対 し て は 管 轄 地 方 裁 判 所 に、 そ の 他 の 裁 判 官 が し た 裁 判 に 対 し て は そ の 裁 判 官 所 属 の 裁 判 所 に そ の 裁 判 の 取 消 又 は 変 更 を 請 求 す る こ と が で き る。 ﹂ の 二 号﹁ 勾 留、 保 釈、 押 収 又 は 押 収 物 の 還 付 に 関 す る 裁 判 ﹂︶ を 認 め る 実 益 は な く、 実 施 さ れ た 差 押 え に 対 す る 準 抗 告 ︵ 刑 訴 法 四 三 〇 条﹁ 一 項 検 察 官 又 は 検 察 事 務 官 の し た 第 三 十 九 条 第 三 項 の 処 分 又 は 押 収 若 し く は 押 収 物 の 還 付 に 関 す る 処 分 に 不 服 が あ る 者 は、 そ の 検 察 官 又 は 検 察 事 務 官 が 所 属 す る 検 察 庁 の 対 応 す る 裁 判 所 に そ の 処 分 の 取 消 又 は 変 更 を 請 求 す る こ と が で き る。 二 項 司 法 警 察 職 員 の し た 前 項 の 処 分 に 不 服 が あ る 者 は、 司 法 警 察 職 員 の 職 務 執 行 地 を 管 轄 す る 地 方 裁 判 所 又 は 簡 易 裁 判 所 に そ の 処 分 の 取 消 又 は 変 更 を 請 求 す る こ と が で き る。 三 項 前 二 項 の 請 求 に つ い て は、 行 政 事 件 訴 訟 に 関 す る 法 令 の 規 定 は、 こ れ を 適 用 し な い。 ﹂︶ を 認 め れ ば 足 り る と の 根 拠 も 伴 う。 こ の よ う に 財 産 権 や 身 体 的 自 由 権 に 対 す る 制 約 の 程 度 が 著 し く 大 き い 刑 事 捜 査 手 続︵ 国 税 反 則 者 に 対 す る 手 続 も 同 様 と い え る ︶ に つ い て は、 処 分 の 性 質 ば か り で な く、 そ の 違 法 に わ た る 場 合 の 是 正 を い か に 迅 速 に 行 い う る か と い う 視 点 が 重 要 に な っ て く る。 ︵2︶ 国税犯則規定を実質的に見て刑事訴訟法の特別法と捉えるとき、その歴史的性格がつかめてくる。 一 八 八 〇 年︵ 明 治 一 三 年 ︶ 治 罪 法 の 成 立 を 見 た の ち、 一 八 八 三 年︵ 明 治 一 六 年 ︶ に 間 接 国 税 の う ち の 酒 造 と 煙 草 に つ い て 特 別 な 取 締 り 規定が設けられたという。 その後、一八九〇年︵明治二三年︶には旧々刑事訴訟法︵明治刑事訴訟法︶が成立し、同年に間接国税犯則者処分法が成立。 一九〇〇年︵明治三三年︶に間接国政犯則者処分法は全文改正を見て現行法の基本的な内容を備えたとされる。一 九 二 〇 年︵ 大 正 一 一 年 ︶ に 大 正 デ モ ク ラ シ ー を 背 景 と し て 当 事 者 主 義 化 や 公 判 中 心 主 義 化 を 多 く 含 ん だ 旧 刑 事 訴 訟 法︵ 大 正 刑 事 訴 訟 法︶への改正を見る︵内田一郎﹁刑事裁判の近代化 │明治初期から旧刑訴まで│﹂比較法学三巻二号二二、 二三頁参照︶ 。 し か し そ の 後 ま も な く 一 九 二 五 年︵ 大 正 一 四 年 ︶ に は 治 安 維 持 法 成 立 を 見 る な ど、 大 正 刑 事 訴 訟 法 に お け る 近 代 化 や 当 事 者 主 義 の 実 現 は困難な情勢へと移り変わっていく。 そして戦後、一九四八年︵昭和二三年︶には国犯法の名称を得るという経過をたどっている。 こ の よ う に 歴 史 を 振 り 返 っ て 見 る と、 国 犯 法 は 大 正 デ モ ク ラ シ ー の 影 響 を 受 け た 大 正 刑 事 訴 訟 法 成 立 直 後 と、 戦 後 新 憲 法 下、 新 刑 事 訴 訟 法 成 立 時 の 二 度 の 決 定 的 な 近 代 化 の チ ャ ン ス を 逃 し、 な お 一 八 九 〇 年︵ 明 治 二 三 年 ︶ の 明 治 刑 事 訴 訟 法、 旧 々 刑 事 訴 訟 法 下 の 糾 問 主 義 的 で、 弁 護 人 依 頼 権 や 供 述 拒 否 権 と い っ た 刑 事 人 権 及 び 適 正 手 続 へ の 配 慮 も 大 き く 欠 い た ま ま の、 ま さ に 現 代 の シ ー ラ カ ン ス、 過 去 の 遺 物の亡霊のごときものというほかないことが明らかとなる。 近 代 化 の 機 会 を 取 り 逃 が し た 国 犯 法 に 関 し て、 な お 行 政 手 続 を 定 め る も の で あ る と い う 性 質 を 最 高 裁 判 例 が 繰 り 返 し 確 認 す る こ と で、 調 査 対 象 者 の 刑 事 人 権 や 犯 則 調 査 の 手 続 の 適 正 が い ま だ 不 当 に、 し か も 大 き く 損 な わ れ 続 け て い る こ と に も 驚 き を 禁 じ え な い。 と り わ け 刑事訴訟法研究者によるこれまでの批判的検討の不十分さも決して指摘しないわけにはいかないだろう。 ま た 例 え ば、 ﹁ 国 税 庁 監 察 官 の 行 う 捜 査 に 関 す る 刑 事 訴 訟 規 則 の 適 用 に 関 す る 規 則 ﹂︵ 昭 和 二 十 五 年 六 月 八 日 最 高 裁 判 所 規 則 第 十 九 号。 最 終 改 正、 平 成 一 二 年 一 二 月 一 五 日 同 第 一 五 号 ︶ も、 ﹁ 国 税 庁 監 察 官 の 行 う 捜 査 に 関 す る 刑 事 訴 訟 規 則 の 適 用 に 関 す る 規 則 を 次 の よ う に 定 め る。 ﹂ と し て、 ﹁ 国 税 庁 監 察 官 が 財 務 省 設 置 法︵ 平 成 十 一 年 法 律 第 九 十 五 号 ︶ 第 二 十 七 条 の 規 定 に よ り 行 う 捜 査 に つ い て は、 刑 事 訴 訟 規 則︵ 昭 和 二 十 三 年 最 高 裁 判 所 規 則 第 三 十 二 号 ︶ の 規 定 を 適 用 す る。 こ の 場 合 に お い て、 同 規 則 第 十 六 条、 第 十 七 条、 第 二 十 七 条 第 一 項 及 び 第 百 六 十 五 条 第 二 項 中﹃ 司 法 警 察 員 ﹄ と あ る の は、 ﹃ 国 税 庁 監 察 官 ﹄ と 読 み 替 え る も の と す る。 ﹂ と 規 定 し て お り、 実 質 的 な 同 質 性 を 示 しているものといえよう。 ︵ 3︶ こ の 問 題 性 は、 例 え ば、 税 務 調 査 と 犯 則 調 査 間 で の 調 査 内 容 の 流 用 の 場 面 な ど に と り わ け 大 き く 作 用 し て い る︵ 最 二 小 決 平 成 一 六 年 一 月 二 〇 日 刑 集 五 八 巻 一 号 二 六 頁 参 照。 第 二 小 法 廷 決 定 は、 当 時 の 法 人 税 法 一 五 六 条 に よ れ ば﹁ 同 法 一 五 三 条 な い し 一 五 五 条 に 規 定 す る 質 問 又 は 検 査 の 権 限 は、 犯 罪 の 証 拠 資 料 を 取 得 収 集 し、 保 全 す る た め な ど、 犯 則 事 件 の 調 査 あ る い は 捜 査 の た め の 手 段 と し て 行 使 す る こ と は 許 さ れ な い と 解 す る の が 相 当 で あ る。 し か し な が ら、 上 記 質 問 又 は 検 査 の 権 限 の 行 使 に 当 た っ て、 取 得 収 集 さ れ る 証 拠 資 料 が 後 に 犯 則 事 件 の 証 拠 と し て 利 用 さ れ る こ と が 想 定 で き た と し て も、 そ の こ と に よ っ て 直 ち に、 上 記 質 問 又 は 検 査 の 権 限 が 犯 則 事 件 の 調 査 あ る い は 捜 査 の た め の 手 段 と し て 行 使 さ れ た こ と に は な ら な い と い う べ き で あ る。 ﹂ と 判 示 し た ︶。 す な わ ち、 半 強 制 性 を 備 え る に も か か わ ら ず 税 務 調 査 に お い て 憲 法 上 の 手 続 的 保 障 を 受 け ら れ な い の は、 そ れ が 強 制 性 を 備 え る 犯 則 調 査 と は 実 質 を 異 に す る も の だ と 前 提 さ れ る か ら で
あ ろ う︵ 最 大 判 平 成 四 年 七 月 一 日 民 集 四 六 巻 五 号 四 三 七 頁︵ 成 田 新 法 事 件 ︶ 参 照。 大 法 廷 判 決 い わ く﹁ 憲 法 三 一 条 の 定 め る 法 定 手 続 の 保 障 は、 直 接 に は 刑 事 手 続 に 関 す る も の で あ る が、 行 政 手 続 に つ い て は、 そ れ が 刑 事 手 続 で は な い と の 理 由 の み で、 そ の す べ て が 当 然 に 同 条 に よ る 保 障 の 枠 外 に あ る と 判 断 す る こ と は 相 当 で は な い。 し か し な が ら、 同 条 に よ る 保 障 が 及 ぶ と 解 す べ き 場 合 で あ っ て も、 一 般 に、 行 政 手 続 は、 刑 事 手 続 と そ の 性 質 に お い て お の ず か ら 差 異 が あ り、 ま た、 行 政 目 的 に 応 じ て 多 種 多 様 で あ る か ら、 行 政 処 分 の 相 手 方 に 事 前 の 告 知、 弁 解、 防 御 の 機 会 を 与 え る か ど う か は、 行 政 処 分 に よ り 制 限 を 受 け る 権 利 利 益 の 内 容、 性 質、 制 限 の 程 度、 行 政 処 分 に よ り 達 成 し よ う と す る 公 益 の 内 容、 程 度、 緊 急 性 等 を 総 合 較 量 し て 決 定 さ れ る べ き も の で あ っ て、 常 に 必 ず そ の よ う な 機 会 を 与 え る こ と を 必 要 とするものではないと解するのが相当である。 ﹂と︶ 。 し か し ま ず も っ て、 憲 法 三 八 条 一 項 が﹁ 何 人 も、 自 己 に 不 利 益 な 供 述 を 強 要 さ れ な い。 ﹂ と し て 保 障 し て い る 自 己 負 罪 拒 否 特 権 が 明 ら か に罰則によって侵害されている以上、このような取扱いは違憲というほかない。 ま た、 調 査 さ れ る 側 か ら す れ ば、 そ し て 事 柄 の 実 態 か ら す れ ば、 税 務 調 査 と 犯 則 調 査 は 連 続 的・ 一 体 的 に 行 わ れ る。 ま し て や 税 務 調 査 の 内 容 が 犯 則 調 査 に 引 き 継 が れ る と す れ ば、 客 観 的 に も 実 質 に お い て も 両 者 の 一 体 性 は 否 定 さ れ え な い。 こ の 憲 法 が 憂 う べ き 事 態 は、 税 務 調 査 の 担 当 者 や 犯 則 調 査 の 担 当 者 が﹁ そ の つ も り は な か っ た ﹂ と 証 言 し、 そ の 脱 法 性・ 潜 脱 性 を 証 明 す る 明 白 な 客 観 証 拠 が 見 当 た ら な か っ た こ と で 看 過 さ れ て も 構 わ な い 程 度 の 事 態 で あ ろ う か。 法 が 税 務 調 査 を 犯 則 調 査 の た め に 行 っ て は な ら な い と 規 定 し て い る の は、 単 に 注 意 規 定 と し て、 努 力 義 務 を 定 め て い る に す ぎ な い の で あ ろ う か。 そ う で は な い の だ と す れ ば、 ﹁ そ の つ も り は な か っ た ﹂ か ら﹁ 流 用 ﹂ とはいえず﹁利用﹂しただけというのは、あまりに犯則調査を受ける者の憲法上の人権保障をないがしろにする態度といわざるをえない。 憲 法 が 憂 う べ き 事 態 を 正 し く 回 避 す る た め に は、 少 な く と も、 調 査 担 当 者 の 気 持 ち が ど う だ っ た か と い う 不 明 確・ 不 安 定 な 理 由 に 依 拠 す る の で は な く、 税 務 調 査 と 犯 則 調 査 の 予 定 や 日 程 の 連 続 性、 税 務 調 査 と 犯 則 調 査 そ れ ぞ れ に 割 り 当 て ら れ た 人 員 の 数、 税 務 調 査 の 内 容、 犯 則 調 査 の 程 度 や 中 身、 税 務 調 査 資 料 の 引 き 継 が れ 方・ 利 用 の さ れ 方、 事 実 を 客 観 的 に 見 て 半 強 制 の 税 務 調 査 が 令 状 主 義 を 回 避 す る 外 観 を 備 え た か ど う か、 平 均 的 一 般 人 が 調 査 さ れ る 立 場 に 立 っ た と し て 令 状 主 義 や 黙 秘 権 を 保 障 さ れ る こ と な し に 犯 則 調 査 へ 当 然 移 行 し うる税務調査を受けたと感じる事実が生じたかどうかといった客観的実質を問い、これに依拠して違法・違憲を判断すべきだろう。 ︵4︶ 例えば、国通法令三〇の三の﹁遅滞なく返還﹂の国税犯則手続への準用についても次のように考えることができよう。 国 通 法 令 の 規 定 は、 国 税 犯 則 手 続 上 の 任 意 手 続 や 強 制 手 続 の 対 象 者 に お い て も そ の 不 利 益 を 受 け る 立 場 に 変 わ る と こ ろ は な い の で あ る か ら、 準 用 を 見 な け れ ば む し ろ 憲 法 上 の 平 等 原 則 に 反 し、 ま た 公 正 を 害 す る が ゆ え に 個 人 の 尊 厳 を 害 し、 さ ら に こ れ ら の 意 味 に お い て 適 正手続にもとるといわざるをえまい。 そ し て こ の よ う な 準 用 の 正 当 性 を 支 え る 実 際 的 な 根 拠 と し て、 税 務 調 査 等 の 手 続 に お け る 領 置 等 と 刑 訴 法 上 の 領 置 物 の 返 還 と に 大 き く
異なる性質のあることが指摘されうる。 刑 事 手 続 に お け る 証 拠 物 の 場 合、 そ の 多 く は そ れ 自 体 が 証 拠 と し て 重 要 な 代 替 の 利 か な い 複 製 不 可 能 な も の で あ り、 ま た 危 険 物 で あ る ことも少なくない。 こ れ に 対 し て 国 税 犯 則 手 続 の 場 合、 領 置 物 の 主 要 部 分 は 電 子 デ ー タ や 書 類 が ほ と ん ど と い え、 こ れ ら は 中 身 の 情 報 が 重 要 で あ っ て そ の 物 自 体 の 保 全 が 必 要 な わ け で は な く、 同 時 に 複 製 が 容 易 で あ り、 ま た 複 製 さ れ た デ ー タ 自 体 に 危 険 性 や 有 毒 性 が あ る わ け で は な い か ら ﹁ 複 製 に よ る 遅 滞 な き 返 還 ﹂︵ デ ー タ や 書 類 の コ ピ ー︶ が 可 能 且 つ 容 易 で あ る。 し か も 刑 事 事 件 に お け る 証 拠 物 と 異 な り、 デ ー タ や 書 類 は 継 続 的 に 活 用 し ま た 保 管 す る こ と が 予 定 さ れ る も の で あ る か ら、 経 済 活 動 の 主 体 た る 調 査 対 象 者 に 調 査 期 間 を 超 え て さ ら に 不 要 な 不 利 益 を 与 え る こ と は﹁ 遅 滞 な く ﹂ の 趣 旨 に 反 す る。 事 業 活 動 継 続 の た め の﹁ 複 製 に よ る 返 還 ﹂ な ら 領 置 物 の 紛 失 の お そ れ も な く ま た 当 局 も 同 時 に 領 置 物 を 利 用 し う る の で あ る か ら、 書 類 の コ ピ ー の 手 間 や 立 会 い に は 時 間 等 か か る も の の、 特 に パ ソ コ ン の 電 子 デ ー タ の コ ピ ー は 手 間 も 時 間 も ほ と ん ど か か ら な い の で あ る か ら、 こ れ を 許 さ な い こ と は 領 置 を 調 査 目 的 で な く そ れ 自 体 を 不 利 益 処 分 と し て 課 す の と 変 わ ら ない事態を作り出すべくなしているというほかないことになろう。これはもはや﹁遅滞なく﹂とは明らかにいえない事態である。 ︵5︶ 最三小判昭和五二年一二月二〇日民集三一巻七号一一〇一頁︵神戸税関事件︶参照。 ︵ 6︶ 考 慮 不 尽・ 他 事 考 慮 に つ い て、 特 に、 東 京 高 判 昭 和 四 八 年 七 月 一 三 日 行 集 二 四 巻 六 ・ 七 号 五 三 三 頁︵ 日 光 太 郎 杉 事 件 ︶、 最 二 小 判 平 成 八 年 三 月 八 日 民 集 五 〇 巻 三 号 四 六 九 頁︵ 剣 道 実 技 拒 否 事 件。 第 二 小 法 廷 判 決 い わ く、 ﹁ 信 仰 上 の 理 由 に よ る 剣 道 実 技 の 履 修 拒 否 を、 正 当 な 理 由 の な い 履 修 拒 否 と 区 別 す る こ と な く、 代 替 措 置 が 不 可 能 と い う わ け で も な い の に、 代 替 措 置 に つ い て 何 ら 検 討 す る こ と も な く、 体 育 科 目 を 不 認 定 と し た 担 当 教 員 ら の 評 価 を 受 け て、 原 級 留 置 処 分 を し、 さ ら に、 不 認 定 の 主 た る 理 由 及 び 全 体 成 績 に つ い て 勘 案 す る こ と な く、 二 年 続 け て 原 級 留 置 と な っ た た め 進 級 等 規 程 及 び 退 学 内 規 に 従 っ て 学 則 に い う﹁ 学 力 劣 等 で 成 業 の 見 込 み が な い と 認 め ら れ る 者 ﹂ に 当 た る と し、 退 学 処 分 を し た と い う 上 告 人 の 措 置 は、 考 慮 す べ き 事 項 を 考 慮 し て お ら ず、 又 は 考 慮 さ れ た 事 実 に 対 す る 評 価 が 明 白 に 合 理 性 を 欠 き、 そ の 結 果、 社 会 観 念 上 著 し く 妥 当 を 欠 く 処 分 を し た も の と 評 す る ほ か は な く、 本 件 各 処 分 は、 裁 量 権 の 範 囲 を 超 え る 違 法 な も のといわざるを得ない。 ﹂︶参照。 ︵ 7︶ 裁 判 所 に は﹁ 民 主 的 契 機 が な い ﹂ と い わ れ る。 で は 民 主 的 契 機 が あ れ ば 積 極 判 断 を す べ き な の か。 そ も そ も 裁 判 所 は 民 主 的 契 機 を 持 つ べきなのか。 民 主 的 と は 言 い 換 え れ ば 党 派 的 と い う こ と で も あ り、 公 平 と は 対 極 に あ る。 民 主 的 で な い か ら こ そ 少 数 派 の 人 権 価 値 さ え 保 護 さ れ う る のである。 他 方 で、 最 高 裁 判 所 の 裁 判 官 を 任 命 す る の は 内 閣 で あ り︵ 憲 法 七 九 条 一 項﹁ 最 高 裁 判 所 は、 そ の 長 た る 裁 判 官 及 び 法 律 の 定 め る 員 数 の
その他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。 ﹂︶ 、内閣は国会に基礎を置くものである。 裁 判 を 理 由 と し て 批 判 さ れ た 内 閣 が 国 会 を 解 散 し て 選 挙 で 敗 れ た な ら ば、 最 高 裁 判 所 裁 判 官 は 総 辞 職 す べ き で あ る。 こ の よ う な 内 在 的 な民主的契機を含有する存在にほかならないのが裁判所である。