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教員採用試験における教職教養の傾向に関する考察

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Academic year: 2021

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教員採用試験における教職教養の傾向に関する考察

著者

布村 育子

雑誌名

埼玉学園大学紀要. 人間学部篇

20

ページ

233-244

発行年

2020-12-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1354/00001339/

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 たしかに、実施問題を見る限り、択一問題 がほとんどであり、例えば、教育原理の中で 出題される教育学者は限定されていて、その 著作、代表的教授方法、名言を暗記していれ ば解ける問題がほとんどである。それらは、 大学の授業で紹介される教育学者の著書を読 まなくても、また、その思想体系や歴史的な 背景等を学んでいなくても、解答できる出題 である。  おそらく、一般的な了解としての採用試験 における教職教養とは、旧教育職員免許法の 「教職に関する科目」で学んだ知識等を問う ものであり、上記にあげた教育原理、教育心 理等の各名称は、「教職の意義等に関する科 目」「教育の基礎理論に関する科目」等の枠 組みの中で、各大学が開講している授業名を あてはめたものであろう2)。しかし、大学で の授業内容と採用試験とでは、授業名とその カテゴリーの名称は似ていても、内容におい ては性質を異にしているということである。  このような状況自体は、近年の傾向ではな い。すでに1950年代に、採用試験の実施問題 の問題集や解説本をシリーズでまとめていた 藤尾孝治は、教職教養の試験傾向について「大 1.はじめに  公立学校教員採用候補者選考試験(以下、 採用試験)における一般選考では、すべての 自治体において、受験者に筆記試験が課され ている。大手受験情報誌を参照すると、その 内容は、教職教養、一般教養、専門科目に区 分されている1)。教職教養の領域は、教育原 理、教育心理、教育史、教育法規、教育時事 と大別できるようである。では、この筆記試 験の中で、どういった性質の問題が出題され ているのだろうか。  白石は、大学の教員養成における教職教養 を「教職のための体系的な教育や学問、修養な どを通して養われる、教職生活において国際 的・歴史的・多元的に思考・判断するために 必要な教職文化に関わる知識や、倫理的・主 体的な資質、能力、態度、感性、価値観、も のの見方などの総体といえる」と定義してい る(白石、2019、5頁)。そして、この定義を 採用試験区分の教職教養に照らした場合、両 者は「性質を異にする」ものであるとしてい る。「単に暗記知識を問うような教職教養は、 大学でなくても教えられる」ということである。 キーワード : 教員採用試験、教員養成、教職教養

Key words : teachers’ employment examination, the subjects concerning teaching profession, teacher - training course

A Study on the Tendencies in “the Subjects concerning the Teaching Profession”

in the Teachers’ Employment Examination

布 村 育 子

NUNOMURA, Ikuko

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枠組みの中で、どんな性質の問題が出題され ているのかという傾向を捉えたのちに、その ことがはらむ課題を提示し、今後の教員養成 と教員採用との関係性について考察すること を目的とする。 2.先行研究の検討と本稿の構成  教員採用試験の出題問題を対象にした研究 は少なくはない。出題された過去問の傾向を 分析した、萩生田(2004)、鈴木(2007)荻 野(2008)などの研究をあげることができる。 近年では、相馬ら(2018)、吉野(2018、2019) のように、実施された試験問題の分析にとど まらず、得られた知見をもって採用と養成と の課題にまで踏み込んで分析している研究も ある。  例えば相馬ら(2019)は、西洋教育史の範 囲において出題率の高い、ルソー、ペスタロッ チ、デューイが、どのような傾向で出題され ているのかを丁寧に分析したうえで、択一問 題であっても、「良問」があることを示してい る。さらに研究者が、教員採用試験の問題を チェックする必要性を述べている。その根拠 には、①教員養成教育と採用試験の内容が乖 離することで、教員養成教育の意義が失われ てしまうこと、②教員採用試験に事実の誤認 に基づくような内容があれば、それらは是正 していかなければならないという問題意識が ある。  吉野(2018)は、小学校の教員採用試験に おける、実技試験の傾向を、文部科学省の統 計「公立学校教員採用選考試験の実施方法」 から導き出し、水泳や音楽に関する実技試験 が減少し、かわりに、外国語活動を教えるた めの能力を見ようとする実技試験を課す自治 体が増えていることを指摘している。吉野は、 学教育の目的が達成されたかどうかが評価で きるような問題は、採用試験に出題されてい ない」と断言している(藤尾、1956、55頁)。 ただし、ここでおさえておくべきは、当時と 現在とでは、教員養成をめぐる状況が、様変 わりしている点であろう。  藤尾が参考書等を書いていた当時の大学の 教員養成は、採用試験からは自律的であった と思われる。少なくとも、大学に在籍する受 験生のために、大学が資格講座を紹介したり、 学内に講座を開設したりすることはなかった。 また、大学での教職関係の授業でも、採用試 験を意識した授業などは、行われてはいな かったのではないか。しかし現在では、教職 課程コアカリキュラムが示すように、教員養 成における授業内容は、細かに規定されるよ うになっている。2018年度に行われた再課程 認定によって、あらかじめ指定されたカリ キュラム内容を、シラバスに組み込まなけれ ばならなかった経験を、教員養成に携わる大 学教員は共有している。仮に教員採用試験が、 各自治体の出題ではなく、共通問題として出 題されるようになれば、コア・コアカリキュ ラムの内容にそって、採用試験問題が作成さ れるということもあり得るだろう。そうなれ ば、採用試験を意識した授業が、大学で公然 と行われるようになることもあるだろう。広 田(2019)が指摘するように、大学の授業が、 いわゆる「学び続ける教師」に必要な、基礎 的な力を身につける場として機能しなくなる おそれがある。教員養成に携わるものとして は、このような事態を食い止めるためにも、 現在の教員採用試験の課題をきちんと指摘し ておくべきであると思われる。  本稿では、その課題をとらえるためのひと つの試みとして、試験区分の教職教養という

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すべて集め、教育原理、教育法規、教育心理、 教育時事、教育史に分類している。さらに、 その各カテゴリーの出題問題を領域ごとに細 分化し、どの領域の出題が高いのかを、全国 的な傾向と各自治体の傾向とに分けて公表し ている。例えば、教育原理のカテゴリーで言 えば、学習指導要領、生徒指導、特別支援教 育、学習指導等の中で、最も出題されたのは、 どの領域であるかといったような点が、一目 でわかるように図表を用いて工夫して説明し ている。受験生にとってみれば、教職教養の すべてを網羅的に学習するよりも、自身が受 験する自治体の傾向にそって、重点的に学習 ができるということになる。加えてこの特集 記事は、教員採用試験を研究対象にするもの にとっても得難い調査結果である。  第一に、教師になっていくものが勉強して いる教職教養とは、大学の教員養成で行って いる授業内容と重なるものであるのか否かを 把握できる。白石が指摘したように、採用試 験の性質が「単に暗記知識を問うような」出 題を特徴としているのであれば、事実として 何を4 4暗記しているのかという点を整理するこ とができる。  第二に、この特集は継続的に行われている ため、教職教養という区分の中で、何が出題 されてきたのかの、時系列的な変化を把握で き る。 4 章 で は、 こ の 特 集 記 事 を 用 い て、 2019年度に行われた教職教養の性質を整理す るとともに、2009年度との比較を行うことで、 その変化をみていくことにする。この二つの 結果を通して、採用試験における教職教養が、 大学の授業とは、異なる性質をもっているこ とを、実証的にあきらかにできると考える。  終章では、ここまでの整理を小括した後に、 今後の教員養成と教員採用との関係性につい 教員採用試験を滞りなく進めて行かなければ ならない教育委員会の制約を一定程度認めつ つも3)、学校現場では必要であるにもかかわ らず、それが採用段階で確認しえないことを 問題化している。「試験で問われないながら 実務には必要であるならば、必然的に養成段 階での育成の徹底が求められる。しかし、試 験で課されないという事実は、学生のモチ ベーションにも影響を与えるのであって、必 要ならば試験で課すことには一定の意味があ ると言わざるを得ない」(吉野、2018、162頁)。  このような立場は、採用の在り方が、養成 を規定して行くことを危惧している立場であ るといえる。つまり、教員採用のイニシアチ ブが教育委員会にあるがゆえに、その在り方 に大学があわせていかざるを得ない構図が存 在しているのである。本稿はこの点に問題意 識をもって、以下、試験区分である教職教養 について論じるものである。  本稿の構成は以下の通りである。3章では、 教員採用試験の実施に際して、願書と共に受 験生に配布される「公立学校教員採用候補者 選考試験実施要項」(以下、実施要項)の内 容を整理し、各教育委員会が「教職教養」と いう区分をどのように名称し、説明している のかを見ていくことにする。このことによっ て、採用試験実施者が捉えている教職教養と いう枠組みが、少なからず明らかにされるだ ろう。そこに何らかの課題があるのか、また は、全国的な傾向や共通性はあるのだろうか。  4章では、実際に出題された試験問題を対 象として、教職教養という枠組みで、何が問 われているのかを整理する。この整理には、 時事通信出版局の月刊誌『教員養成セミナー』 の特集を参照する。『教員養成セミナー』は、 毎年、全国で行われた採用試験の実施問題を

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前年度のままにひきつがれている可能性があ る。  第二に、その「教職教養」について、どの 自治体も出題内容をそれほど丁寧には説明し ていないことがわかった。説明を全くしてい ない自治体もある。各自治体は、採用試験に 先立ち、受験者向けの説明会などを行ってい る。願書とともに、実施要項も配布されるた め、その場で、試験範囲の説明を行っている のかもしれない。また、採用試験問題は、現 在公表されるようになっている。実施された 問題を教育委員会のサイトで公表している自 治体もある。受験者は、こうしたサイトを参 考にし、大手受験情報誌や予備校等の説明に 頼りつつ、教職教養という枠組みの中で何が 問われているのかを、自ら確認するというの が、現在の受験勉強の在り方となっていると いえるだろう。  第三に、冒頭では、旧教育職員免許法の枠 組みで、教育法規、教育原理、教育心理、教 教育史、教育時事に区別していることを述べ たが、自治体によっては、このカテゴリーす べてを出題しているわけではないことが明ら かになった。例えば北海道は、「教職教養は学 校教育関係の法規及び教育原理、教育心理、 道徳教育等について、教員として必要な知識 や理解をみる」とされていて、教育史につい て触れられていない。千葉県は、「学習指導要 領に関する事項・教育法規に関する事項・千 葉県・千葉市の教育に関する事項・一般教養 (教育時事を含む)」といったように、教育原 理や教育心理といった区分については触れて いない。一方、こうしたカテゴリーの説明に は触れずに、例えば東京都では「東京都公立 学校の教員として職務を遂行する上で必要な 教育に関する法令や理論等に関する問題を出 て考察する。 3.実施要項に表れた教職教養の定義  教員採用試験で出題される教職教養という 名称は、全国で共通のものだろうか。採用試 験とは、各自治体が行う試験であり、その出 題については、各自治体に任されている。教 職教養という区分は、あくまでも、受験情報 誌等で区分されている名称であるため、自治 体によっては、教職教養と名称されていない 場合もあるかもしれない。  表1は、2020年度の採用試験の実施に際し て、各自治体が受験生のために配布した実施 要項を集め、掲載されている筆記試験区分の なかで、教職教養に関する内容を扱っている 部分を引用し、表として整理したものである。 ここからは、以下の点が明らかになった。  第一に、教職教養という名称は全国共通で はないという結果である。教養、教職専門科 目、教養科目、総合教養といった区分で試験 を行っている自治体があり、必ずしも「教職 教養」という名称を使用しているとは限らな かった。また、試験区分を「教養」とし、そ の説明の中で、教職教養の名称が述べられて いたり、一般教養の区分の中に、教職科目を 加えたりしている自治体など様々であった。  布村(2014)は、教員採用が「選考」で行 われるにも関わらず、実施要項には競争試験 と選考との区別を行っていない点について、 教育委員会にヒアリングを行っている。教育 委員会からは、過去に実施された内容、配布 された要項を毎年度踏襲しているため、その こと自体を問題視したことはないという回答 を得ている。おそらくは、試験区分の名称も、 当初は何らかの意味づけがあったかもしれな いが、現在では、特段の意味をもっておらず、

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表1 実施要項に示された「教職教養」の区分とその説明(2020年実施) 都道府県 区分 説明 北海道 教養検査(一般・教養) 教職教養は学校教育関係の法規 及び教育原理、教育心理、道徳 教育等について、教員として必 要な知識や理解をみる。 青森県 一般・教職教養試験 一般教養及び教職教養における 知識、理解力、思考力等に関す る資料を得るため、一般・教職 教養試験を行う。 岩手県 教職専門科目 教育学、教育課程、教育法規等の基礎知識 宮城県 教養 教員として必要な教養が習得できているか。 秋田県 総合教養試験・一般教養試験 総合教養試験は教職教養と時事 問題により構成されます。一般 教養試験は時事問題と法規及び 秋田県の教育施策等により構成 されます。時事問題は、国内外 の時事的な事象について出題し ます。教職教養については、秋 田県の教育施策も含まれます。 山形県 教職教養・一般教養 説明なし。 福島県 教職教養試験 説明なし。 茨城県 一般教養・教職専門 説明なし。 栃木県 一般教養(教職専門を含む) 説明なし。 群馬県 一般教養・教職に関する科目 説明なし。 埼玉県 一般教養・教職科目 説明なし。 千葉県 教職教養 学習指導要領に関する事項・教 育法規に関する事項・千葉県・ 千葉市の教育に関する事項・一 般教養(教育時事を含む)に関 する事項 東京都 教職教養 東京都公立学校の教員として職 務を遂行する上で必要な教育に 関する法令や理論等に関する問 題を出題する。 神奈川県 一般教養・教職専門試験 人文・社会・自然科学等に関す る一般教養試験 教育原理・教 育心理・教育関係法規等に関す る教職専門試験 新潟県 教職教養及び一般教 説明なし。 富山県 教養(Ⅰ) 一般教養及び教職教養(教育心理、教育方法、教育史、教育制 度等)の内容より出題する。 石川県 総合教養 説明なし。 福井県 一般 ・教職 一般教養および教職専門の試験 山梨県 一般教養・教職教養検査 説明なし。 長野県 一般教養(教職に関するものを含む。) 説明なし。 岐阜県 教職教養 新型コロナウイルス感染症の感染予防及び拡散防止の観点から 実施の取りやめ 静岡県 教職・一般教養 説明なし。 愛知県 教職・教養 教職に関する基本的知識及び一般教養 三重県 教養 「筆答試験(教養)」の試験内容 は、教職教養(教職に関する知 識と理解、学校教育に関する課 題への認識等)及び一般教養な どです。なお、生徒指導、特別 支援教育、人権教育を含みます。 都道府県 区分 説明 滋賀県 一般教養・教職教養 教養に関するマークシート方式の問題 京都府 一般教養 教育公務員として必要な教養及び知識について 大阪府 筆頭テスト 教職教養、教育関連の法規、教 育公務員の倫理(服務規律)、 教育時事、思考力・判断力を問 う問題 兵庫県 一般教養に関するも 英語の運用力をみる問題、情報 機器等の利用についての問題、 教職教養に関する問題、時事問 題を含む。 奈良県 一般教養 教職教養と時事問題を出題し、マークシートで解答します。 和歌山県 教職専門 説明なし。 鳥取県 専門試験 志願する試験区分・教科(科目等)及び教職教養に関する筆記 試験 島根県 筆記試験 中学校教諭として必要な各教科の専門的知識や教養 岡山県 教職教養試験 説明なし。 広島県 教職に関する専門教育科目 教育原理、教育法規等に関する専門的内容についての筆記試験 山口県 教職専門 教育法規、教育心理、教育原理、 生徒指導、人権教育、特別支援 教育、一般教養 評価の観点(教 員として必要な教職専門分野の 知識及び理解) 徳島県 筆記試験(教養) 教育公務員として必要な教養及び知識について審査 香川県 総合教養 社会人として身につけておくべ き一般的知識・教養及び日本と 国際社会との関わりや資源・環 境問題など地球的視野に立って 行動していくための基本的な知 識・教養・資質並びに教職教養 についての基本的な知識 愛媛県 教職専門科目 説明なし。 高知県 教職・一般教養 教員として必要な教職教養や一般教養に関するもの 福岡県 教職教養 教職教養は、教育原理、教育心理、教育法規等及び一般教養か ら出題します。 佐賀県 一般・教職教養試験 教育原理 教育心理教育法規人権 教育ICT教育関係時事英語佐賀 県に関すること高校卒業程度の 一般常識に関すること 長崎県 教職・一般教養 教育原理・教育心理・教育法規等教職に関するもの、及び教員 に必要な一般的教養 熊本県 教職科目 説明なし。 大分県 教養試験 人文・社会・自然科学に関する基 本的な一般教養・教育原理・教 育心理・教育法規等に関する基 本的な教職教養(答申・学習指 導要領を含む。) 宮崎県 教職教養 教育関係法規、教育原理、教育 心理、国の教育施策、本県の教 育・歴史・文化等に関すること 等、教職全般に関する内容(学 習指導要領を含む)とします。 鹿児島県 教職教養(一般教養を含む。) 説明なし。 沖縄県 教職教養 教職教養は、教育法規、教育原理、教育心理、学習指導等の分 野から出題する。

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にはならなかった。ただし、学問的な背景よ りも、各自治体の意味付けが、教職教養を定 義づけているということは、言えそうである。  次章では、実際に教職教養では、何が問わ れているのかを明らかにしていく。 4.教職教養で何が出題されているのか 4-1.教職教養の領域別出題率  ここからは、教職教養の区分では、何が出 題されているのかを、先に示した時事通信出 版局の雑誌『教員養成セミナー』の特集記事 からみていくことにする4)  図1は、2019年度に実施された採用試験の 出題のうち、教職教養の範囲として分類した 題する」、徳島県では、「教育公務員として必 要な教養及び知識について審査」というよう に、「公務員」を強調するかのように説明され ている。当然、大学における教職関連の授業 は、教育公務員に必要な知識のみを扱ってい るのではない。したがって、この記述には、 非常に限定された能力を見ようとする意図が あるようにも読みとれる。  表から得られた、教職教養の性質をまとめ るならば、およそ以下のようにいえるだろう。 採用試験における「教職教養」とは、受験情 報誌等での区分であり、各自治体での名称は 様々で共通するものではなかった。さらに、 旧教育職員免許法という枠組みから、「教職教 養」のカテゴリーを考えることは可能ではあ るが、実際は、各自治体によって出題される 範囲は限定されていた。ただし、その内容に ついては詳細に説明されておらず、ある種、 暗黙の了解のようなかたちで、受験者は教職 教養の出題範囲を把握するというような構図 になっていた。  実施要項を整理する限りにおいては、白石 が述べていたように、大学で学ぶ教職教養と 採用試験の教職教養との性質の差異は、明確 図1 2019年実施試験 領域の出題率(%) 図2 領域の出題率の変化 2009→2019(%) 教育原理, 22.6 教育法規, 37.5 教育時事, 15.4 教育心理, 14.5 教育史, 10.0 34.1 37.5 23.3 22.6 12.9 15.4 15.3 14.5 14.4 10.0 教育法規、35.6 教育原理、25.5 教育時事、11.6 教育心理、15.8 教育史、11.5 0% 20% 40% 60% 80% 100% 2009 2014 2019

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育法規が全体の40%程度の出題であったこと を伝えている(佐野、1976、177頁)。  最近10年間の変化、という視点で図2を見 てみると、劇的、というほどの変化ではない が、教育法規の出題が一層多くなり、2009年 度には、3番目に出題率が高かった教育心理 が、4番目の出題率となっている。すなわち、 教育法規、教育時事の出題率が高くなり、教 育原理、教育心理、教育史が、減少している ことになる。この点をどのように捉えたらよ いだろうか。  そもそも、教育時事というカテゴリーの中 で、何が出題されているのだろうか。まずは この点を押さえてみる。表2は、2019年度の 特集記事をもとにして、教育時事に分類され た出題内容をまとめたものである。これによ れば、中央教育審議会答申、各種報告書、通 知文書等の出題が教育時事に分類されている 特集記事を参照し、教育原理、教育史、教育 心理、教育法規、教育時事の5つの領域の出 題率としてグラフにしたものである。  図2は、2009年度、2014年度実施の採用試 験で得られた同様のデータを、時系列的にま とめたものである。これらの図から、採用試 験の教職教養では、どの分野の出題率が高い のかを見ることができる。  2019年度に実施された、教職教養では、教 育法規→教育原理→教育時事→教育心理→教 育史の順に出題率が高かった。教職教養の出 題の中では、圧倒的に、教育法規の出題率が 高い。この傾向は、2009年度、2014年度も同 様だった。ただし、教職教養の中で、教育法 規の出題が高いのは近年のことではないよう である。佐野(1976)は、教員採用試験が非 公開であった時期に、昭和35年からの各府県 の採用試験問題を「可能な限り集めて」、教 表2 教育時事の出題として分類された答申・報告書等(2019年度) 答申・報告書等の名称 自治体数 他分野との重なり 重なる領域 各都道府県の教育施策 24 いじめの問題に関する報告・通知・資料 16 教育原理 生徒指導 「教育振興基本計画」および関連答申 14 教育法規 基本理念 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習 指導要領等の改善及び必要な方策等について」 14 教育原理 学習指導要領 「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の 構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策 について」 10 教育法規 学校管理・運営 学校安全・学校防災に関する資料等 9 教育法規 学校管理・運営 不登校に関する報告・通知・資料 8 教育原理 生徒指導 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方につい て」関連報告書 5 教育原理 生徒指導 「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について ~学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて ~」 5 教育法規 教職員 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築の ための特別支援教育の推進共」 5 教育原理 特別支援教育 「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」 4 教育原理 学校・学級経営 「学校評価ガイドライン(改訂)」 2 教育原理 学校・学級経営

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ことがわかる。  筆者はこの分類について、仮にこれらの出 題を、他のカテゴリーとして考えた場合、ど こに分類できるのかを右欄に示してみた。例 えば、「いじめ問題に関する報告・通知・資料」 であれば、教育原理の領域「生徒指導」とし ても見ることができる、という意味である。 この作業の結果、各都道府県の教育施策は別 にして、他の出題は、教育法規と教育原理に 分類することができた。つまり、「教育時事」 とは、国や自治体が公表する文書等を切り分 けた区分といえるようである。したがって、 教育時事の出題率が伸びているということは、 従来のカテゴリーで問われていたテーマが、 実務的な性質をもって出題されるようになっ た、ということではないだろうか。  この点を、もう少し掘り下げていくために、 教育原理の出題の変化を時系列的にみていく ことにする。 4-2 教育原理の領域ごとの変化  図3は、教育原理というカテゴリーの中で、 何が出題されているのかを、2009年度、2019 年度の特集記事からまとめたものである。  教育原理では、学習指導要領、特別支援教 育、人権同和教育、生徒指導の出題率が高い。 2019年度では、従来出題されていた、教育の 意義、教育課程、生涯学習、学校・学級経営 からの出題がなくなり、上記の4つの領域に 出題は集中している。これらの領域は教育学 においても重要なテーマであろうが、しかし、 限定的なテーマに偏り過ぎているという印象 をうける。  さらに、領域ごとに丁寧に出題傾向をみて 図3 教育原理の出題傾向の比較(2009→2019)% 0.0 0.0 0.0 0.0 0.5 3.6 7.2 14.0 14.4 17.6 42.8 0.7 3.2 4.0 1.8 1.1 2.2 7.2 9.4 10.1 23.8 36.5 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 教育の意義 教育課程 生涯学習 学校・学級経営 道徳教育 社会教育 学習指導 生徒指導 人権同和教育 特別支援教育 学習指導要領

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いくと、興味深い点に気付く。図4、図5、 図6は、特別支援教育、人権・同和教育、生 徒指導の領域で、何が出題されていたのかを、 2009年度と2019年度の比較でまとめたもので ある。  図4の特別支援教育について、最も変化が あった点は、教育課程(特例)からの出題が 飛躍的に増加している点である。具体的に、 図4 特別支援教育出題傾向の比較 2009→2019(%) 図5 人権・同和の出題傾向の比較 2009→2019(%) 図6 生徒指導の出題傾向の比較 2009→2019(%) 0.0 2.6 2.6 10.3 12.8 17.9 20.5 33.3 7.6 1.5 13.6 7.6 21.2 12.1 28.8 7.6 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 教育機関 障害の種類 歴史・就学の猶予免除・関連法 指導の形態 定義・指導法 教基法・学教法等 関連報告書 教育課程(特例) 2019 2009 6.3 0.0 0.0 93.8 14.3 3.6 14.3 67.9 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 その他 同対審答申 歴史 基本方針 2019 2009 3.2 0.0 0.0 6.5 90.3 11.5 11.5 69.2 7.7 0.0 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 その他 原理 具体事例 教育相談 生徒指導提要

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出題内容を説明するならば、学習指導要領の 総則の規程、自立活動の内容、特別の教育課 程、教科書使用の特例を答えさせる問題が増 加しているということになる。  図5の人権・同和教育の領域については、 歴史、同和対策審議会答申は出題されなくな り、基本方針が出題の90%を占めるように なっている。  基本方針とは、国や各自治体のこの領域に 関する教育基本方針であり、中でも、「人権教 育の指導方法等の在り方について(第三次と りまとめ)」からの出題が多いとされている。  図6の生徒指導の領域については、具体的 な事例や、生徒指導の原理は出題されなくな り、『生徒指導提要』からの出題が90%以上を 占めるようになっていた。生徒指導提要とは、 2010年に発表されたものであり、生徒指導の 原理から事例までを網羅的に扱っている「基 本書」という位置づけではあるが、教育原理 における生徒指導が、生徒指導提要の内容を もって代替できるとするならば、それは非常 に偏りのある出題傾向である。  これらの結果から、以下の点を指摘するこ とができるのではないか。  第一に、教育原理の領域の出題は、非常に 限られたテーマからの出題であり、偏りがみ られること。当然、その出題テーマは、大学 の授業で扱う教育原理と比較するならば、ほ んの一部分に過ぎない程度の出題であった。  第二に、その領域の範囲についても、出題 の傾向に偏りがあった。例えば、人権・同和 教育では、「人権教育の指導方法等の在り方」 を精読し、生徒指導については、「生徒指導提 要」を勉強すればよいといったような状況に なっているということになる。  これらの出題の傾向を、前述の教育時事に 分類された出題傾向(表2)と合わせて考え てみるならば、現在の採用試験における、教 職教養の出題は、国や各種自治体の公表する 文書、報告書、通知文書、関連法規等を確認 し、そのキーワード等をおさえておけば、点 数がとれるということになる。  すなわち、教員採用試験が、「単に暗記知識 を問うような」試験であるというとき、受験 生は何を暗記しているのかといえば、教育史、 教育心理、教育原理の範囲で、教育学者や心 理学者の名前、その著書の名称、名言、学習 理論、心理療法等の名称の暗記をしていると いうよりも、むしろ近年では、答申や通知文 書、自治体の公表する報告書や教育施策の方 針を暗記しているということになるだろう。 教職教養の実務志向化とでもいう状況が広 がっているということである。  また、このことをもって、採用試験におけ る教職教養の性質をまとめるならば、現在の 教職教養とは、教育公務員としての実務をこ なせる教員の教養であると、定義できるので はないだろうか。 5 おわりに  佐野(1976)は、教職教養の試験で、教育 法規の出題率が高いことを、三つの理由から 説明していて興味深い。  第一には、教育法規の理解が、教育現場で 必要度が高いという理由である。第二には問 題作成の難易を考えた場合、教育法規の出題 は、正誤を明確にだすことができるという理 由である。第三に、問題作成を、各自治体の 指導主事が行っており、指導主事には教育法 規に精通した人が多いという理由である。  これらの理由は、教育法規の出題にかぎら ず、教職教養の設問全体においても、妥当で

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あろう。採用試験の実施問題が公表されるよ うになり、採用試験後すぐに大手受験情報誌 は試験問題を手に入れて問題を解き、今年度 の出題傾向を分析したうえで特集を組んでい る。このような状況で、いわゆる「トンデモ 問題」が出題されるようなことがあれば大き な批判を受けることになる。それを回避する ためにも第二の理由である、正誤の明確な問 題を出題するという傾向は強まっていると思 われる。  第三の作問者については、平成30年度に行 われた、独立行政法人教職員支援機構のアン ケート結果が参考になる。図7は、「教員採用 選考試験の共通問題等に関するアンケート」 (2018)の集計結果を参照し、教職教養の作 問者を、筆者が円グラフにまとめたものであ る。教職教養は現在でも、指導主事が作問し ている割合が高かった。  ここで、特に拘っておきたいのは、第一の 理由、「教育法規は教育現場で必要度が高い」 という点である。必要度が高いというのは、 実務的な意味合いで捉えるならば、妥当であ ろう。  ただし、強調しておきたいのは教育法規だ けでなく、教職教養全体が、実務的な出題に 流れているという点である。  学校教育法で禁止されていることを知って いても、体罰をする教師はいる。教育基本法 で教育の機会均等が定められていることがわ かっていても、現実には教育格差が存在して いる。いじめ防止対策推進法に「いじめを行っ てはならない」と書いてあることを知ってい ても、いじめをやめない子どもはいる。こう した点は、教育現場で必ず教師が出会う現実 である。法令の条文や関連した文書等を暗記 していても、目の前にいる子どもたちに、何 をどう教育するかについて、答えがでてくる わけではない。「必要度が高い」知識とは、 この答えのでない現実にどう向き合うのかを、 自ら考えられる知識でもあると思う。  実務志向の出題が一層増えていくことに際 して、大学の教職課程の教員がなすべきは、 採用試験の対策をするといったような授業か らは、距離を置くことではないだろうか。教 員を目指す学生には、教員採用試験で問われ る教職教養と、学問を背景にした教職教養と は別物であること、学問としての教育学は、 教育公務員の実務のみを目指す学問ではない 図7 教職教養作問者 指導主事 39% 管理主事 22% 校長教頭 10% 外部の業者 15% その他 14% 教育支援機構「教員採用選考試験の共通問題等に関するアンケート」 ※その他とは、「教育委 員会の幹部職員、県立学 校教諭、その他の機関勤 務者」であった。

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ことを、授業を通して伝えていかなければな らない課題が生まれているように思う。 1)教員採用試験の受験冊子では、1976(昭和51) 年創刊の協同出版『教職課程』と1978(昭和53) 年創刊の時事通信出版局『教員養成セミナー』を あげることができる。ともに、現在も継続して刊 行されている月刊誌である。なお、教職教養、一 般教養、専門科目の3つが必ずしも出題されては いない。一般教養を課さない自治体もある。 2)市川ら(1976)も、「教職教養は、教育職員免許 法でいう「教職に関する科目」の学力を見ようと するものである」(158頁)とし、「教育原理、教育 心理学・教育関係法規・道徳教育等」の分野が主 として出題されているとしている。 3)布村(2014)も、教育委員会に対するヒアリン グ調査を行い、その結果から、採用試験担当者は、 問題のない採用試験の履行には腐心するものの、 試験内容の改善や選考の意義というような点を問 い直す機会をもたず、採用の原理的な課題への対 応が置き去りにされている状況を指摘している。 4)本稿では、2009年12月号の特集、「過去5年間の 出題分野をチェック!都道府県市別出題傾向分析 一覧〈教職教養編〉」と、2014年2月号の特集、「最 新5カ年全国出題頻度表2011→2015教職教養編」、 2020年2月号の特集「毎年大好評!出るとこグラ フ」と「オール自治体出題トレンド」とを参照した。 引用文献 市川照午・下村哲夫・牧昌見編『教師になるまで― ―教員採用試験必携――』明治図書、1976年。 荻野清「教員採用試験に関する研究復元状況、指導 要領、指導法問題について」『鎌倉女子大学紀 要』第15号、2008年、52-61ページ 『教員養成セミナー』2020年2月号、時事通信出版局。 『教員養成セミナー』2009年12月号、時事通信出版局。 『教員養成セミナー』2015年2月号、時事通信出版局。 佐野朝生『教員採用試験 教育法規問題の徹底的研 究 全国試験問題の傾向と対策』学陽書房、 1976年。 白石崇人「教職教養としての教育史」広島文教女子 大学高等教育研究センター『広島文教女子大学 高等教育研究』5号、2019年、p.1-13 時事通信出版局・筑波大学附属学校教育局産学連携 セミナー編『試験問題から見る教員採用試験の 現状と課題-教員採用試験における“良問”・“悪 問”とは何か?』時事通信出版局、2005年 鈴 木 そ よ 子 他(2007)「 教 員 採 用 試 験 問 題 研 究  2000 ~ 2006年の一般教養・教職教養・専門教 養問題」『神奈川大学心理・教育研究論集 第 26号』 相馬伸一・室井麗子・椋木香子・小山裕樹・生澤繁 樹「教員採用試験における教職教養分野の特質 と課題――教育思想史分野を中心に――」『広 島修大論集』第58巻第2号、2018年、 p.117-159 独立行政法人教職員支援機構「教員採用選考試験の 共通問題等に関するアンケート(集計結果)平 成30年12月4日」(2020年9月21日閲覧)(https:// www.nits.go.jp/research/result/003/files/index_ result_20181204_001.pdf) 布村育子「教員採用における教育委員会の役割―― ヒアリング調査の結果から――」『埼玉学園大 学紀要. 人間学部篇』第14号、2014年、p.29-38 荻生田伸子(2004)「テキスト・マイニングによる 教員採用試験問題の分析」『埼玉大学紀要 人 文・社会科学 第53巻第2号』 広田照幸『教育改革のやめ方』岩波書店、2019年。 藤尾孝治『教員採用試験問題とその対策――教員試 験の手引――』大阪教育図書、1956年。 藤尾孝治編『教員採用試験 教育法規の研究』大阪 教育図書、1968年。 吉野剛弘「教員採用試験の試験科目の変遷(1)小 学校の実技試験の実施状況」『埼玉学園大学紀 要. 人間学部篇』第18号、2018年。p.159-171 吉野剛弘「教員採用試験の試験科目の変遷(2)小 学校の面接・模擬授業・場面指導の実施状況」 『埼玉学園大学紀要. 人間学部篇』第19号、 2019年、p.141-153

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