甲状腺におけるインターフェロンγの細胞内情報伝達系の役
割の研究
著者
森 弘毅
甲状腺におけるインターフェロンγの細胞内情報伝達系の役割の研究
研究課題番号 12671073 平成1 2-1 3年度科学研究費補助金(基盤研究(C) (2)) 研究成果報告書 平成14年3月 研究代表者 森 弘毅 (東北大学大学院医学系研究科助手)目次
1.はしがき 2.研究組織 3.交付決定額 4.研究発表 5.研究成果による工業所有権の出願・取得状況 6.研究成果 7,論文別刷 2貢 3頁 3貢 4頁 4貢 5-8頁1. はしがき
バセドゥ病や橋本病は代表的な甲状腺疾患であり、特に橋本病は潜在例も含めると成人女 性の5-1 0%に認められるとされ、日常の診療で多くのこれらの患者に遭遇する。これ らはいずれも臓器特異的自己免疫疾患であり、その病態形成にリンパ球やインターフェロ ンなどのサイトカインが重要な役割を演じていると考えられているoこれまで実に多くの
研究がこれら自己免疫性甲状腺疾患(autoimmune thyroid disease;AlTD)の病態の解明の ためになされてきたが、.未だ不明な点が多いのが実情であるo特に甲状腺におけるサイト カインの作用に関しては、甲状腺機能にどのような影響をもたらすかを検討したものがほ とんどで、どのような細胞内情報伝達系を介して作用がもたらされるかを検討したものが ほとんどなかったo例えばinterferon・γqFNγ)はJak・STAT系の活性化を介してその作 用を発現することが血液細胞などで明らかにされているが、はたして甲状腺でも同様であ ろうか亡.AlTDにおいて特異的に活性化される経路が明らかにされれば、AlTDの病態-の理解が深まるとともに、このことが甲状腺機能異常の発症の予防や、新たな治療法の開 発につながることが期待される。上記のように多くのAlTDの患者がいることを考慮する と、この領域の研究の進歩は日常臨床に大きく貢献すると考えられるo 以上の観点から本研究では甲状腺細胞におけるIFNγ誘導性細胞内情報伝達系の解析を行 なった。われわれはこれまでラット培養甲状腺細胞FRTL5において、 IFNγがSTAT・1 の活性化を、腫疲壊死因子αCrNFα)がNFKBの活性化を介して、 IFN誘導性遺伝子で
ある転写因子interferon regulatory factor・1 qRF・1)の遺伝子発現を誘導することを明らか
にした(J. Ceu. Biochem. 74‥ 211, 1999)oこのことはIRF・1が甲状腺細胞の機能の調節や
AlTDの発症に関与する可能性を示唆している。しかしIRF-1がAlTDの発症に関与する かは明らかではないoさらに甲状腺細胞内でIFNγにより活性化される情報伝達系につい ては、 Ja女_STATやIRF・1以外のものも検討する必要がある。そこで本研究では橋本病の
モデルの1つであるnonobese diabetic (NOD)マウスのIRF・1を欠損させたものを用いて、
リンパ球性甲状腺炎0ymphocyticthymiditiS; LT)の発症頻度や重症度を検討したoさらに 抗ウイルス活性や細胞機能の調節に関与するIFN誘導性二本鎖RNA依存性プロテインキ ナ-ゼ肝KR)の甲状腺細胞における発現についても検討したo
2.研究組織
研究責任者:森 弘毅(東北大学大学院医学系研究科分子血管病態学分野 助手) 研究分担者:吉田克己(東北大学大学院医学系研究科免疫・血液病制御学分野 助教授) 研究協力者: 東北大学大学院医学系研究科分子血管病態学分野:谷 淳一、中川吉則、星川佐依子、小 松亜由美、伊藤貞嘉 同分子代謝病態学分野:中揮哲也、高橋和真、佐藤 譲 同先進外科学分野:金 仲田、里見 進 同腫疲外科学分野:藤盛啓成 同免疫・血液病制御学分野:佐々木 毅 同分子診断学分野:賀来満夫william J. DeVito・. Division of Endocrinology, University of Massachusetts Medical
Center
3. 交付決定額(配分額)
(金額単位:千円)直接経費間接経費 綿リxヌb
平成12年度 テ 1,900 平成13年度 テ# 1,200 総計 テ 3,100 34. 研究発表
1.学会誌等
MoriK, Yoshida K, Tani J, Nakagawa Y・ Hoshikawa Sand Ito S・ Double・stranded RNA・induced interferon regulatory factor- 1gene expression in FRTL15 ratthymid cells・ Mol. Cell. Endocn'nol. 184: 77-86, 2001.
2.口頭発表
谷淳一、査_」基盤、中揮哲也、佐藤譲、星川佐依子、中里直樹、中川吉則、伊藤貞嘉、 五里基亘‥ NODマウスの自然発症リン/噸性甲状腺炎にinterferon regulatory factor・1 oRF・1)は関与しない0第7 3回日本内分泌学会学術総会(京都) (平成1 2年6月)
Mori K, Yoshida K, Nakagawa Y, Hoshiknwa S and lto S・ Double-stranded RNA-induced expression of type I interferon in FRTL-5 rat thyroid cells・ 12th lnternational Thymid congress (京都) (平成1 2年1・0月)
金 仲田、査_」基盤、星川佐依子、藤盛啓成、佐藤 譲、伊藤貞嘉、宣邑墓亘=Interferon regulatory factor-1 qRF-1)ノックアウトNODマウスにおけるthyroglobulin免疫による
リンパ球性甲状腺炎。第44回日本甲状腺学会(那覇) (平成13年1 1月)
5. ,研究成果による工業所有権の出願・取得状況
なし
6.研究成果
A. IRF-1のAITDの病態形成における役割の検討
IFN γは甲状腺ベロキシダーゼ(thyroid peroxidase; TPO)やthyroglobulinぐrg)などの発現
を抑制するなど、甲状腺に対し抑制的に作用するとともに、 MHC class II抗原などの発現 を誘導し、炎症の形成や維持に関与すると考えられている。 IFNγはそのレセプターに結 合すると、 Jak-STAT系を活性化し、その作用を発現すると考えられている。 IFN誘導性 転写因子であるIRF・1もまたIFNγの作用発現に関与すると考えられている。われわれは ラット培養細胞FRTL5において、 IFNγはSTAT・1を活性化L IRF・1遺伝子の発現を誘 導することを明らかにした(J. Cell. Biochem. 74: 211・219, 1999)。このことより甲状腺 IRF.1は存在し、甲状腺におけるIFNγの作用の発現やAITDの病態形成に関与する可能 性が示唆される。しかし、実際にIRF-1がAITDの発症や病態形成に関与するかは不明で ある。 IRF・1欠損マウスではコラーゲン誘発性関節炎(ヒトの慢性関節リウマチのモデル) の発症頻度、重症度ともに著しく低下すると報告されている。さらにNODマウスにおい
てIRF11をノックアウト(KO)すると、 insulitiS及び糖尿病の発症を認めなかった。 NOD マウスはリンパ球性甲状腺炎Oymphocytic thyroiditis; IiT)を発症し、橋本病のモデルとし て多用されている.そこでIRF11のAlTD発症における役割を明らかにする目的で、 IRF・ 1KONODマウスを用いて、 LTの発症について検討した. NODマウスにヨードを負荷するとLTの発症頻度、重症度ともに上昇するため、 NODマ ウスにヨードを8週間投与し、 LTの発症をIRF・1の遺伝型ごとに比較したoその結果、 生後1 4週の時点でIRF11+/+及び+/・マウスはいずれも8 0%以上でLTを発症したが、 -/-マウスは全く発症しなかった(表1)o +/+マウスと+/・マウスではLTの重症度に差はなか った.一方無処置で24週齢まで飼育したマウスでは、 IRF・1に関わりなく、約50%の マウスでLTを認めた,,さらにマウスにTgを免疫して甲状腺炎を誘導させた場合四AT;
exper血ental aubimmlme thyroiditis)、生後1 4週の時点で7 0
%以上のマウスがIRF-1に関わりなくEATを発症していた(表2)。この機序を解明するため、マウスの牌細胞 の表面マーカーをフローサイトメトリーで検討したところ、処置や週齢にかかわりなく IRF-1 -/-マウスではCD8+T細胞が著しく減少していた(表3)。また甲状腺炎を発症した ./.マウスの甲状腺では、 CD8+T細胞の浸潤は認めなかった。またconcanaval血Aで刺激 された牌細胞からのIFNγの分泌は、 I/・マウスで著しく低下していた(図1)., 以上をまとめると、 1. IRF-I ・/・ NODマウスはヨード負荷によるLTを発症しない0 -方自然発症LT及 びTg免疫によるEATは一/-マウスも+/+、 +/-マウス同様甲状腺炎を発症する。 5
2. IRF_1./_マウスではCD8+T細胞が減少し、 Thl反応も減弱しているo甲状腺炎 を発症していても、甲状腺内-のCD8+T細胞の浸潤は認めない。. このことより、ヨード負荷によるLTの発症にはIRF・1が不可欠で、これにはCD8+T細 胞の減少、 Thl反応の減弱が関与する可能性が示唆された。この結果はこれまで提唱され てきたAlTDの発症メカニズムの説を支持するものである。一方、自然発症LTやEATの 発症においては、 IRF・1の関与、さらにはCD8+T細胞、 Thl反応の役割は小さいと考え られ、これまでの知られているもの以外の発症メカニズムが存在する可能性が示唆された。 また橋本病のモデルとしてヨード負荷によるLTとTg免疫によるEATは多用されている が、以上のようにこれらは別の機序によるものとして分けて考える必要があると思われる。 このように今回検討したIRF・1欠損NODマウスは、 AITDの病態解析モデルとして有用 であることが示された.以上の結果は現在投稿中である。
B.甲状腺細胞におけるPKR及び二本鎖RNA依存性細胞内情報伝達系の検討
前述のように、 IFNγはJak-STAT系やIRF-1を活性化し、その作用を発現すると考えら れているが、それ以外のIFNγ誘導性細胞内情報伝達系の関与については検討されていな い,,そこで今回われわれは抗ウイルス活性や細胞増殖・機能の調節に関与し、 IRF11の活 性化にも関連するといわれているPKRや二本鎖RNA(dsRNA)依存性細胞内情報伝達系に ついて甲状腺細胞で検討した。 ラット培養甲状腺細胞FRTL-5において、 dsRNAで自己リン酸化されるPKRが存在し、 さらに細胞をdsRNAで刺激すると、PKRの基質であるeukaryotiCinitiation factor2 (eIF2 α)がリン酸化を受けたoまたdsRNA刺激によりiKBαのリン酸化、 NFKBの活性化が もたらされ、さらにSTAT-1αのリン酸化、 IRF11の遺伝子発現が誘導された. DsRNAに ょりタイプⅠインターフェロン、特にIFNβ遺伝子の発現が誘導され、時間的な関係より 甲状腺細胞では、 dsRNAによりNFKBの活性化、それによるIFNβの誘導が起こり、そ の結束STAT-1が活性化されIRF・1遺伝子が誘導されるものと考えられた. 以上の結果より、甲状腺細胞においてもPKR及び二本鎖RNA依存性細胞内情報伝達系が 存在し、この経路が甲状腺機能の調節や甲状腺炎の病態形成(特にウイルス感染が病因と して考えられている亜急性甲状腺炎において)に関与する可能性も検討する必要があるこ とが明らかとなった.:.このようにこれまで甲状腺では検討されていなかった情報伝達系に 関する新しい知見を得ることができ、今回の研究の成果が今後の甲状腺学の進歩に貢献で きるものと考えられる.ン以上の結果はMolecular and Cellular Endocrinology誌上で発表された(図表の後の論文別刷参照)0
Group IRF-1 +/+ IRF-1 +/- IRF-1 -/-mO. hcide血Ce Of I Tbyrqiditis(%) MTgAb (OD : 450mm) 0.23±0.06 0.28±0.20 0.24±0.16 T4 (pg/dl) 4.7±0.3 4・ 2±0・5 4・4± 1・O Ghcose(Tug/dl) 173 ± 29 1 66 ± 30 166 ±4 nO. Incidence of 2 Thyroiditis(%) MTgAb (OD : 450mm) T4 (pg/dl)
Gluco se(m g/dI)
0.31±0.24 0.37±0.54 0.26±0.14 3.7±0.6 3.7±0.7 3.7±0.5 196±23 179±20 188±25 表1.対照群(Groupl)とヨード投与群(Group2)の1 4過齢における甲状腺炎の発症 頻度と血清抗サイログロブリン抗体、 T4、グルコース値 Group IRF-l +/+ +/- 1/-1 20 (1/5) 50 (4/8) 20 (1/5) 2 71.4(5/7) 100(5/5) 100(5/5) 表2.対照群(Group 1)とthyroglobulin免疫群(Group 2)の1 4週齢における甲状腺 炎の発症頻度(%) 7
CD8 CD4/CD8 B220■■ 丁■=.______■ 18.1 ±1.9 4.1 ±0.4 27.4±4.0 5.1±1.6* 17.4±4.1* 27.9±6.3 1 7.9±3.1 4.4±0.8 30.8±2.7 4.4±1.1* 21.7±5.4* 28.7±3.0
=iiiii__i
(Group 2)の1 4週齢における牌臓のCD4+及 Group IRF-1 CD4 1 +/+ 73.3 ± 2.4 -/- 84.9±5.3* 2 +/+ 77.3±4.0 -/- 91.3±3.1* llll■■lllllll■l■■■■■■■■■■■■■■■l■lll■llll■lllllllll■■■l■■■■■■■■■■■■■■■■■lllllll■lllllllll■l■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■-表3.対照群(Groupl)とヨード投与群 びCD8+T細胞とB細胞の含有率(%) (DE/mll 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 IRF_l +/+ -/- +/+ -/-Group 1 2図1.対照群(Group 1)とヨード投与群(Group2)の1 4週齢におけるconcanavalinA
刺激牌細胞からのインターフェロンγの分泌
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