現代日本語における名詞の非飽和性の研究
著者
羅 漢
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301
1 博 士 学 位 論 文 要 約
現 代 日 本 語 に お け る 名 詞 の 非 飽 和 性 の 研 究
東 北 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科 言 語 科 学 専 攻 国 語 学 研 究 室 博 士 課 程 後 期 3 年 の 課 程 羅 漢目 次
第 1 章 序 論 1. 本 論 文 の 目 的 2. 本 論 文 の 構 成 と 各 章 の 概 要 第 2 章 非 飽 和 性 の 捉 え 方 の 諸 問 題 1. 非 飽 和 名 詞 の 論 理 的 ・ 操 作 的 定 義 2. 先 行 研 究 2.1. 非 飽 和 性 を 意 味 論 の 中 で 捉 え る 立 場 2.2. 非 飽 和 性 を 語 用 論 の 中 で 捉 え る 立 場 2.3. 非 飽 和 性 を 認 知 言 語 学 的 に 捉 え る 立 場 3. 問 題 点 4. 本 論 文 の 課 題 第 3 章 名 詞 句 「 NP1 の NP2」 か ら み る 非 飽 和 性 1. は じ め に 2. 西 山 ( 2003) の 名 詞 句 分 類 3. NP2 の 非 飽 和 性 テ ス ト 4. 百 科 全 書 的 知 識 に よ る NP2 の 解 釈 5. 非 飽 和 性 に 関 す る NP2 の 位 置 づ け2 6. ク オ リ ア 構 造 に よ る 「 NP1 の NP2」 の 意 味 分 類 7. お わ り に 第 4 章 飽 和 か ら 非 飽 和 へ の 意 味 拡 張 と そ の 制 約 1. は じ め に 2. 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 多 義 語 に つ い て 3. 先 行 研 究 と そ の 問 題 点 4. 類 似 性 に 基 づ く 比 喩 的 拡 張 5. 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 多 義 語 の タ イ プ 分 け 6. 役 割 の 知 識 と シ ス テ ム 性 原 理 7. お わ り に 第 5 章 非 飽 和 名 詞 の 飽 和 化 と そ の 生 起 要 因 1. は じ め に 2. 非 飽 和 名 詞 の 飽 和 化 に つ い て 3. 飽 和 化 の 生 起 要 因 ― そ の 1 4. 飽 和 化 の 生 起 要 因 ― そ の 2 5. 飽 和 化 か ら み る 非 飽 和 性 の 決 定 要 因 6. お わ り に 第 6 章 構 文 的 現 象 か ら み る 非 飽 和 性 1. は じ め に 2. 先 行 研 究 2.1. カ キ 料 理 構 文 と 非 飽 和 名 詞 2.2. 飽 和 名 詞 が 出 現 す る カ キ 料 理 構 文 に つ い て 2.3.「 X を Y に 、 … す る 」 構 文 と 非 飽 和 名 詞 2.4. 飽 和 名 詞 が 出 現 す る 「 X を Y に 、 … す る 」 構 文 に つ い て 3. 分 析
3 3.1.「 に と っ て 」 の 意 味 か ら み る 両 構 文 の 成 立 条 件 3.2. 非 飽 和 性 の 捉 え 方 に つ い て 4. お わ り に 第 7 章 本 論 文 の ま と め 1. は じ め に 2. 各 章 の ま と め 2.1. 第 1 章 の ま と め 2.2. 第 2 章 の ま と め 2.3. 第 3 章 の ま と め 2.4. 第 4 章 の ま と め 2.5. 第 5 章 の ま と め 2.6. 第 6 章 の ま と め 3. 本 論 文 の 意 義 と 今 後 の 課 題 3.1. 本 論 文 の 意 義 3.2. 今 後 の 課 題 本 論 文 の 各 章 と 既 発 表 論 文 と の 関 係 参 考 文 献
4 1. は じ め に 日 本 語 の 名 詞 に は 、 そ れ 自 体 で 自 立 的 な 意 味 概 念 を 表 す タ イ プ と 、 意 味 的 に 自 立 せ ず 、「 ~ の 」と い っ た 補 足 表 現 を 要 求 す る タ イ プ と が あ る 。前 者 に は 「 鉛 筆 」「 パ ソ コ ン 」 の よ う な 、 物 事 の 属 性 や 種 類 を 表 す 名 詞 が 入 っ て お り 、 後 者 に は 「 母 」「 叔 父 」「 息 子 」 な ど の 親 族 名 詞 や 「 婚 約 者 」「 ラ イ バ ル 」「 親 友 」 の よ う な 関 係 名 詞 が 代 表 的 で あ る 。 西 山 (1990、 2003) は 、 そ れ ぞ れ の 名 詞 の タ イ プ を 「 飽 和 名 詞 」(saturated noun) と 「 非 飽 和 名 詞 」( unsaturated noun) と 呼 ん で い る 。 例 と し て 飽 和 名 詞 の 「 既 婚 者 」 と 非 飽 和 名 詞 の 「 配 偶 者 」 を 比 較 し て み よ う 。 あ る 人 が 既 婚 者 か ど う か を 判 断 す る に は 、 そ の 人 の 結 婚 相 手 を 特 定 す る 必 要 は な い 。 そ の 人 が 結 婚 さ え し て い れ ば 、 既 婚 者 の カ テ ゴ リ ー に 属 す る と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 こ の よ う な 名 詞 は 、 意 味 的 に 充 足 し て お り 、 外 延 (extension) の 決 定 に 関 し て 補 足 表 現 ( complement) を 要 求 し な い 点 で 「 飽 和 状 態 」に あ る と 言 え る た め 、飽 和 名 詞 と 呼 ば れ る 。一 方 、あ る 人 に 向 け て 、 「 あ な た は 配 偶 者 で す か 」 と 尋 ね て も 、 答 え る こ と は 難 し い 。 そ の 人 が 配 偶 者 か ど う か は 、 彼 ( 彼 女 ) の 結 婚 相 手 で あ り う る 人 物 を 特 定 し な い 限 り 定 か で は な い か ら で あ る 。こ の よ う な 名 詞 は 、「 誰 の / 何 の 」と い っ た 意 味 的 な 空 所 を 内 部 に 含 ん で お り 、 そ の 空 所 が 他 の 要 素 に よ っ て 埋 め ら れ な い 限 り 、 そ れ 単 独 で は 「 非 飽 和 状 態 」 に あ る と 言 え る た め 、 非 飽 和 名 詞 と 呼 ば れ る 。 こ の 飽 和 名 詞 / 非 飽 和 名 詞 と い う 概 念 上 の 区 別 は 、カ キ 料 理 構 文(「 カ キ 料 理 は 広 島 が 本 場 だ 」 構 文 ) を は じ め と す る 様 々 な 言 語 現 象 の 記 述 ・ 説 明 に 有 用 で あ り 、 包 括 的 な 文 法 理 論 に と っ て 不 可 欠 な も の で あ る と 考 え ら れ る ( 三 宅 2000 等 )。 し か し 、 両 者 の 区 別 が ど の レ ベ ル ( 言 語 領 域 ) で 規 定 さ れ る べ き か に つ い て は 、先 行 研 究 の 間 で 意 見 が 分 か れ て い る よ う で あ る 。西 山(2003) を 代 表 と す る 立 場 で は 、 あ る 名 詞 が 飽 和 名 詞 か 非 飽 和 名 詞 か と い う こ と 、 す な わ ち 、 非 飽 和 性 が 、 文 法 ま た は レ キ シ コ ン に お い て 指 定 さ れ る よ う な 意 味 論 的 性 質 で あ る と さ れ て い る 。 一 方 、 大 島 (2010) の 立 場 で は 、 適 切 な 文 脈 設 定 が で き れ ば 、 飽 和 名 詞 と 思 わ れ る も の で も 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る
5 場 合 が あ り 、 そ の 場 合 に お け る 非 飽 和 性 が 文 脈 を 含 め た 語 用 論 の 中 で 決 ま る と さ れ て い る 。 ま た 、 氏 家 (2017) の よ う に 、 飽 和 / 非 飽 和 の 区 別 を 、 意 味 論 か 語 用 論 の ど ち ら か の み に お い て で は な く 、 両 者 を は っ き り と 峻 別 し な い 認 知 言 語 学 の 視 点 か ら 捉 え よ う と す る 立 場 も あ る 。 そ こ で 、 本 論 文 で は 、 本 来 飽 和 名 詞 で あ る も の が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 、 ま た そ の 反 対 の 言 語 現 象 を 分 析 す る こ と に よ り 、 名 詞 の 「 非 飽 和 性 」 が ど の よ う な 影 響 に よ っ て 成 立 す る の か 、 そ の 要 因 を 詳 ら か に す る こ と を 目 的 と す る 。 2. 本 論 文 の 構 成 と 各 章 の 概 要 本 論 文 の 目 的 を 達 す る た め に は 、 次 の 手 順 を 踏 ま え て 考 察 を 進 め て い く 。 ま ず 、 第 1 章 ( 序 章 ) で 本 論 文 の 目 的 と 構 成 に つ い て 紹 介 し た 後 、 第 2 章 で 名 詞 の 非 飽 和 性 の 捉 え 方 に 関 す る 先 行 研 究 を 概 観 し 、 先 行 研 究 に お け る 問 題 点 を 指 摘 し た 上 で 、 本 論 文 の 課 題 を 提 示 す る 。 そ し て 、 第 3 章 で 飽 和 名 詞 が NP2 を 担 う( 1)の よ う な 名 詞 句「 NP1 の NP2」が 、な ぜ 非 飽 和 名 詞 が NP2 を 担 う 場 合 の そ れ と 類 似 し た 意 味 解 釈 を 持 つ の か 明 ら か に す る 。 ( 1) 風 邪 の 薬 、土 鍋 の 蓋 、研 究 室 の 窓 、自 転 車 の ペ ダ ル 、言 語 学 の 入 門 書 、 花 子 の キ ス マ ー ク 、 次 郎 の 手 、 洋 子 の 髪 、 高 層 ビ ル の 影 、 セ ミ の 抜 け 殻 、 狐 の 化 け 物 、 お 寺 の パ ン フ レ ッ ト な ど 西 山 (2003) に よ れ ば 、( 1) の よ う に NP2 が 飽 和 名 詞 で あ る 場 合 の 「 NP1 の NP2」は 、通 常 、文 脈 次 第 で 多 様 な 意 味 に 解 釈 さ れ う る と さ れ る 。例 え ば 、 「 田 中 さ ん の 本 」 と い う 名 詞 句 は 、 文 脈 次 第 で 「 田 中 さ ん が 所 有 す る 本 」 に も 「 田 中 さ ん が 書 い た 本 」 に も 解 釈 さ れ う る 。 し か し 、(1) の 名 詞 句 は 、 通 常 の 場 合 と 違 っ て 、文 脈 と 関 係 な く 一 義 的 に 解 釈 さ れ る 。例 え ば 、「 風 邪 の 薬 」 は 特 殊 な 文 脈 を 想 定 し な い 限 り 、「 風 邪 を 治 す 薬 」と い う 意 味 に し か 解 釈 さ れ な い 。 こ の よ う な 解 釈 は 、NP2 が 非 飽 和 名 詞 の 場 合 の そ れ と 類 似 し て い る 。
6 こ の よ う な 先 行 研 究 の 例 外 現 象 を 観 察 す る こ と で 、 飽 和 名 詞 が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 要 因 に 迫 る こ と が で き る と 考 え ら れ る 。 続 く 第 4 章 で は 、 本 来 は 飽 和 名 詞 で あ る が 、 比 喩 的 に 拡 張 さ れ て 使 用 さ れ る う ち に 非 飽 和 名 詞 と し て の 語 義 を 獲 得 し た と 思 わ れ る 、(2) の よ う な 多 義 名 詞 に 着 目 し 、 そ れ ら が 飽 和 名 詞 か ら 非 飽 和 名 詞 へ と 意 味 拡 張 を 行 わ れ る 際 に 、 ど の よ う な 制 約 が 存 在 す る の か を 考 察 す る 。 ( 2) 武 器 、 舞 台 、 懐 刀 、 試 金 石 、 踏 み 台 、 モ ル モ ッ ト 、 潤 滑 油 、 代 名 詞 、 道 標 、 物 差 し 、 赤 信 号 、 癌 、 贅 肉 、 骨 格 、 あ け ぼ の 、 結 晶 、 爪 痕 、 卵 な ど 西 山(2003)、山 泉( 2013)に よ れ ば 、大 多 数 の 名 詞 は 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の い ず れ か に 属 す る が 、「 子 ど も 」の よ う に「 児 童 」( 飽 和 名 詞 )に も「( 誰 か の )息 子 や 娘 」( 非 飽 和 名 詞 )に も 解 釈 さ れ う る 多 義 的 な 名 詞 も 量 的 に 限 ら れ て い る も の の 存 在 は す る と さ れ て い る 。し か し 、筆 者 の 調 査 に よ れ ば 、(2) の よ う に 比 喩 的 な 意 味 拡 張(metaphorical exten sion)に よ っ て 非 飽 和 名 詞 と し て の 語 義 を 持 つ に 至 っ た 多 義 名 詞 は 数 多 く 存 在 す る 。例 え ば 、「 武 器 」と い う 語 は 、「 戦 い に 用 い る 種 々 の 器 具 」 を 指 す 場 合 は 飽 和 名 詞 で あ る が 、「 誰 か に と っ て の 有 力 な 手 段 」 を 表 す 場 合 は 非 飽 和 名 詞 で あ る と 考 え ら れ る 。 こ の よ う な 名 詞 の 生 成 過 程 を 分 析 す る こ と に よ り 、 飽 和 名 詞 が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る こ と の 一 端 を 垣 間 見 る こ と が で き る と 予 測 さ れ る 。 続 く 第 5 章 で は 、 飽 和 名 詞 が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る の と 反 対 に 、 非 飽 和 名 詞 が 飽 和 名 詞 と 同 様 の 振 る 舞 い を す る 、言 わ ば「 非 飽 和 名 詞 の 飽 和 化 」 と い う 現 象 を 対 象 に そ の 生 起 要 因 に つ い て 論 じ る 。 ( 3) 「 家 族 を 失 っ た 人 を 見 る の は 辛 い 。 僕 も 子 を 持 つ 父 親 だ か ら 、 そ の 気 持 ち が 痛 い ほ ど わ か る 。」 と 語 っ た ジ ャ ッ キ ー (BCCWJ、 Yahoo!ブ ロ グ ( OY11_00530)
7 ( 4) お 前 が 社 長 だ か ら と い っ て 、 ま わ り の 者 に 対 し て 威 張 れ る と 思 っ た ら 大 間 違 い だ 。 (BCCWJ、 盛 田 昭 夫 他 『 メ イ ド ・ イ ン ・ ジ ャ パ ン 』( OB3X_00138)) (3) に お い て 「 父 親 」 は 、「 誰 か の 父 親 」 を 指 す と い う よ り 、 子 ど も を 持 つ 男 性 一 般 の こ と を 表 し て い る と 思 わ れ る 。(4)の「 社 長 」も 同 様 に 、「 ど こ か の 社 長 」 を 指 す と い う よ り 、 職 場 の 中 で 最 も 高 い 権 限 を 持 っ て い る 人 の こ と を 意 味 し て い る 。 つ ま り 、 こ れ ら の 例 は 、 本 来 非 飽 和 名 詞 と 考 え ら れ る も の で も 飽 和 名 詞 と 同 様 に 用 い ら れ て い る こ と を 示 し て い る 。 こ れ ま で の 研 究 が 問 題 に し て き た の は 、 飽 和 名 詞 が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 現 象 の み で あ っ て 、 上 記 例 の よ う に 逆 の 方 向 か ら 問 題 と な る 「 非 飽 和 名 詞 の 飽 和 化 」 と い う 現 象 は 取 り 上 げ ら れ て こ な か っ た 。 こ の よ う な 現 象 を 観 察 す る こ と に よ り 、 名 詞 の 非 飽 和 性 を 決 定 す る 要 因 を よ り 包 括 的 に 捉 え る こ と が で き る と 考 え ら れ る 。 最 後 の 第 6 章 で は 、 非 飽 和 名 詞 に 基 因 す る と 思 わ れ る 構 文 ( カ キ 料 理 構 文 と 「X を Y に 、 … す る 」 構 文 ) に 飽 和 名 詞 が 生 起 す る と い う 先 行 研 究 の 例 外 現 象 を 対 象 と し 、 当 該 構 文 に お い て 飽 和 名 詞 が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 要 因 に つ い て 検 討 す る 。 ( 5) a. 今 の 若 者 は 、 ス マ ー ト ウ ォ ッ チ が 目 覚 ま し 時 計 だ 。 ( 作 例 ) b. こ の ロ ケ ッ ト は 、 液 体 水 素 が 燃 料 だ 。 ( 作 例 ) ( 6) a. 自 分 の 血 を イ ン ク に 、 裸 の 腹 を キ ャ ン バ ス に し て 、 体 に 単 純 な 象 徴 を 描 い た の だ 。 (BCCWJ、『 ダ ・ ヴ ィ ン チ ・ コ ー ド ( 上 )』( OB6X_00010)) b. NHK の テ キ ス ト を 教 材 に 会 話 を 習 得 。 (BCCWJ、『 新 潟 日 報 』( PN2i_00007))
8 従 来 の 分 析 で は 、 こ れ ら の 構 文 が 構 築 で き る の は 、 特 定 の 位 置 に あ る 名 詞 ( 下 線 部 名 詞 ) が 非 飽 和 名 詞 の 場 合 の み で あ る と さ れ て い る 。 し か し 、(5) (6)の 各 文 は 、下 線 部 名 詞 で あ る「 目 覚 ま し 時 計 」「 燃 料 」「 イ ン ク / キ ャ ン バ ス 」「 教 材 」が 飽 和 名 詞 で あ り な が ら 、当 該 構 文 と し て 成 立 し て い る 。つ ま り 、 こ れ ら の 文 に お け る 下 線 部 名 詞 は 、 本 来 飽 和 名 詞 で あ る が 、 当 該 環 境 に お い て 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ て い る の で あ る 。 こ れ ら の 例 外 的 な 文 を 含 め 、 対 象 構 文 の 成 立 を 可 能 に す る 統 一 的 な 条 件 を 考 え る こ と で 、 非 飽 和 性 を 決 定 す る 上 で ど の よ う な 要 因 が あ る の か と い う 問 題 の 解 決 に 寄 与 で き る と 考 え ら れ る 。 以 上 の よ う に 、 本 論 文 は 、 飽 和 名 詞 が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 、 ま た そ の 反 対 の 言 語 現 象 を 対 象 に 、(1)~( 6)に 示 さ れ る よ う な 現 象 を 分 析 す る 。 従 来 に お け る 非 飽 和 性 の 捉 え 方 を 再 検 討 し 、 名 詞 の 非 飽 和 性 を 影 響 す る 意 味 論 的 ・ 語 用 論 的 な 要 因 を 明 ら か に し て い く 。 3. 本 論 文 の ま と め 3.1. 第 1 章 の ま と め 第 1 章 で は 、 本 論 文 の 導 入 と し て 、 非 飽 和 名 詞 と そ の 概 念 規 定 に つ い て 紹 介 し 、 そ れ を 踏 ま え て 本 論 文 の 目 的 や 方 法 を 提 示 し た 。 な お 、 本 論 文 の 目 的 を 達 す る た め の 課 題 や 各 章 の 概 要 に つ い て も 述 べ た 。 3.2. 第 2 章 の ま と め 第 2 章 で は 、 飽 和 名 詞 ・ 非 飽 和 名 詞 の 論 理 的 ・ 操 作 的 定 義 を 紹 介 し た 後 、 こ れ ま で の 研 究 に お い て 、 名 詞 の 非 飽 和 性 が ど の よ う に 捉 え ら れ て き た か を 概 観 し た 。 先 行 研 究 の 諸 説 は 、 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 区 別 を 純 粋 に 意 味 論 ( 言 語 的 知 識 ) の 中 で 捉 え る か 、 語 用 論 ( 言 語 外 的 知 識 ) の 中 で 捉 え る か 、 そ れ と も 、 両 者 を 連 続 体 と 見 な し 認 知 言 語 学 的 に 捉 え る か に よ っ て 3 つ の 立 場 に 大 別 で き る 。 諸 立 場 の 異 同 に つ い て 以 下 の 表 1 に ま と め ら れ る 。
9 表 1 非 飽 和 性 の 捉 え 方 の 諸 立 場 の 異 同 非 飽 和 性 が 決 ま る レ ベ ル ( 共 通 点 ) 非 飽 和 性 を 持 つ 言 語 表 現 ( 相 違 点 ) 西 山 (1990) 意 味 論 ( 純 粋 な 言 語 的 知 識 ) ○ 語 レ ベ ル 、 ○ 句 レ ベ ル 三 宅(2000)、西 山 (2012) ○ 語 レ ベ ル 、 ×句 レ ベ ル 西 山 (2003) ○ 語 レ ベ ル 、 △ 句 レ ベ ル 山 泉 (2013) ○ 語 レ ベ ル 、 ※ 句 レ ベ ル 大 島 (2010) 語 用 論 ( 純 粋 な 言 語 外 的 知 識 ) 氏 家 (2017) 意 味 論 と 語 用 論 の 連 続 体 ( 言 語 的 ・ 言 語 外 的 知 識 ) そ し て 、 い ず れ の 立 場 に も 問 題 点 が あ り 、 そ の ま ま 踏 襲 す る こ と は で き な い が 、 以 下 の 2 点 に つ い て 共 通 の 課 題 と し て 残 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。 ( 7) a.飽 和 名 詞 で あ る も の が 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 、ま た そ の 反 対 の 言 語 現 象 を ど の よ う に 説 明 す る の か 。 b.あ る 語 が 飽 和 名 詞 か 非 飽 和 名 詞 か を 決 定 す る に は 、ど の レ ベ ル( 言 語 領 域 ) の ど の よ う な 要 因 が 働 い て い る の か 。 (7a) は 、 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 と が 一 定 の 条 件 下 で 相 互 に 移 行 す る 可 能 性 を 問 う も の で あ る 。(7b)は 、そ の よ う な 可 能 性 が あ る 、あ る い は な い と す れ ば 、 ど の よ う な 理 由 が 考 え ら れ る の か を 問 う も の で あ る 。 両 者 は 表 裏 一 体 の 関 係 を な し て い る と 言 え る 。 3.3. 第 3 章 の ま と め 第 3 章 で は 、 一 部 の 飽 和 名 詞 が NP2 を 担 う 名 詞 句 「 NP1 の NP2」 が 、 非 飽
10 和 名 詞 が NP2 を 担 う 場 合 の そ れ と 類 似 し た 意 味 解 釈 を 有 す る 、と い う 問 題 に つ い て 考 察 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、1) 対 象 名 詞 句 の NP2 に 相 当 す る 名 詞 が 非 飽 和 性 テ ス ト で 飽 和 名 詞 と 判 定 さ れ る も の の 、 非 飽 和 名 詞 と も 類 似 し た 性 格 を 有 す る こ と 、2) 対 象 名 詞 句 の 意 味 解 釈 が そ の NP2 に ま つ わ る 辞 書 的 知 識 ( 言 語 的 知 識 ) と 百 科 全 書 的 知 識 ( 言 語 外 的 知 識 ) と の 両 方 か ら 生 じ た も の で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、当 該 の 問 題 を 通 じ て 、3)飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 が 截 然 と 二 分 さ れ る 概 念 で は な く 、段 階 性 を 有 す る 連 続 的 な 存 在 で あ る こ と 、4)名 詞 の 非 飽 和 性 を 決 定 す る に あ た っ て 、 純 粋 な 言 語 的 知 識 の み な ら ず 、 当 該 名 詞 に ま つ わ る 百 科 全 書 的 知 識 も 重 要 な 要 因 と し て 関 与 し て い る こ と が 分 か っ た 。 な お 、 対 象 名 詞 句 「NP1 の NP2」 に つ い て 、 百 科 全 書 的 知 識 を 名 詞 の 言 語 的 知 識 に 取 り 込 ん だ 語 彙 表 示 と 目 さ れ る ク オ リ ア 構 造(qualia structure)の 観 点 か ら 適 切 に 分 類 ・ 記 述 で き る こ と を 示 し た 。 3.4. 第 4 章 の ま と め 第 4 章 で は 、「 武 器 」「 舞 台 」「 赤 信 号 」の よ う に 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 に 関 し て 多 義 的 な 名 詞 を 対 象 に 、 そ れ ら の 名 詞 が 飽 和 か ら 非 飽 和 へ と 比 喩 的 な 意 味 拡 張 を 行 わ れ る 際 の 制 約 に つ い て 考 察 し た 。 ま ず 、比 喩 表 現 約 5000 語 を ジ ャ ン ル ご と に 分 類 配 列 し た『 分 類 た と え こ と ば 表 現 辞 典 』 お よ び 、 筆 者 の 手 元 に あ る 新 聞 や 書 籍 を 使 っ て 比 喩 的 拡 張 に よ る 多 義 名 詞 の 調 査 を 行 っ た 。 そ の 結 果 得 ら れ た 140 語 の 多 義 名 詞 を 「 役 割 の 知 識 」「 構 成 の 知 識1」「 変 化 ・発 展 の 知 識2」と い う 順 に 整 理 す る と 、以 下 の 表 2 に な る 。 1 あ る も の と そ れ を 構 成 す る 部 分 と の 関 係 ( 材 料 、 材 質 、 内 容 、 ~ の 一 部 分 と い っ た 性 質 ) に 関 す る 知 識 。 2 あ る も の と そ の 発 生 ま た は 落 着 に 関 す る 事 柄 と の 関 係( そ の も の を 生 み 出 す 行 為 や 原 因 、 成 り 立 ち 、 出 処 、 あ る い は そ の も の が た ど り つ く 所 、 行 く 先 、 成 長 し た 姿 ) に 関 す る 知 識 。
11 表 2 飽 和 と 非 飽 和 の 多 義 語 の タ イ プ 分 け 役 割 の 知 識 (98 語 ) 70% 赤 信 号( - )3、足 か せ( - )、障 壁( - )、墓 場( - )、汚 点 ( - )、 致 命 傷( - )、 不 協 和 音( - )、 青 信 号 、 座 標 軸 、 引 き 金 、 導 火 線 、 起 爆 剤 、 口 火 、 誘 い 水 、 呼 び 水 、 嚆 矢 、 受 け 皿 、 階 段 、 道 、 鍵 、 架 け 橋 、 糧 、 金 箱 、 ド ル 箱 、看 板 、腰 巾 着 、差 し 金 、試 金 石 、決 ま り 手 、 四 十 八 手 、潤 滑 油 、捨 て 石 、爪 牙 、代 名 詞 、助 け 舟 、 盾 、 紐 帯 、 蝶 番 、 接 ぎ 穂 、 道 具 立 て 、 狼 煙 、 柱 、 火 元 、 舞 台 、 懐 刀 、 踏 み 台 、 宝 庫 、 防 波 堤 、 道 標 、 妙 薬 、 用 心 棒 、 坩 堝 、 記 念 碑 、 犬 、 武 器 、 鏡 、 指 針 、 足 が か り 、 歯 車 、 物 差 し 、 実 験 台 、 方 程 式 、 鋳 型 、 駒 、 青 写 真 、 綾 、 操 り 人 形 、 傀 儡 、 椅 子 、 餌 食 、 大 掃 除 、絆 、橋 頭 堡 、切 り 札 、金 字 塔 、食 い 物 、潮 時 、 洗 礼 、 宝 、 玉 手 箱 、 宝 石 箱 、 知 恵 袋 、 手 品 、 天 国 、 奴 隷 、縄 張 り 、 明 星みょうじょう、亡 者 、分 か れ 道 、リ ト マ ス 試 験 紙 、 レ シ ピ 、 ス パ イ ス 、 ア ク セ ン ト 、 ベ ー ル 、 モ ル モ ッ ト 、 ダ ー ク ホ ー ス 、 メ ッ カ( 固 )4、 黒 船( 固 ) 構 成 の 知 識 (27 語 ) 19.3% 癌( - )、 贅 肉( - )、 ア キ レ ス 腱( - )、 礎 、 骨 、 骨 格 、 骨 組 み 、 餡 子 、 あ け ぼ の 、 暁 、 曙 光 、 大 綱 、 眼 目 、 瀬 戸 際 、醍 醐 味 、潮 流 、渦 巻 き 、辻 褄 、横 綱 、尻 尾 、 心 臓 、 オ ア シ ス 洪 水( - )、 淵( - )、 林 、 い ろ は 、ABC 変 化 ・ 発 展 の 知 識 (15 語 ) 10.7% 芽 、 卵 、 泉 、 揺 籃 落 と し 子 、 垢 、 足 跡 、 爪 痕 、 抜 け 殻 、 脱 皮 、 置 き 土 産 、 化 石 、 結 晶 、 権 化 、 二 番 煎 じ 3 右 肩 に( - )が 付 い た 語 は 、 通 常 の 役 割 で は な く 、 マ イ ナ ス 的 な 役 割 、 す な わ ち 妨 げ を 表 す も の で あ る 。 例 え ば 、「 高 血 圧 は 健 康 の 赤 信 号 だ 」 と い う 文 で は 、「 赤 信 号 」 の 指 示 対 象 で あ る 「 高 血 圧 」 が 「 健 康 」 の 妨 げ に な っ て い る 。 4 右 肩 に( 固 )が 付 い た 語 は 、 固 有 名 詞 で あ る 。
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表 2 に リ ス ト さ れ た 多 義 名 詞 に つ い て 詳 し く 分 析 す る と 、 次 の 点 を 明 ら か に す る こ と が で き た 。
( 8) a.非 飽 和 名 詞 の 背 後 に あ る 意 味 拡 張 は 、対 象 レ ベ ル の 類 似 性( object-level similarity)に 基 づ く の で な く 、関 係 レ ベ ル の 類 似 性( relational similarity)、 も し く は そ れ と プ ラ グ マ テ ィ ッ ク な 類 似 性 ( pragmatic similarity) と の 両 方 に 基 づ か な け れ ば な ら い 。 b. 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 多 義 語 の 意 味 拡 張 に は 、 各 語 の 意 味 の ベ ー ス に あ る 役 割 の 知 識 、 構 成 の 知 識 お よ び 、 変 化 ・ 発 展 の 知 識 が 大 き く 関 与 し て い る 。 c. 役 割 の 知 識 に 基 づ い て 拡 張 さ れ た 多 義 名 詞 が 最 も 多 く 見 ら れ る の は 、 そ れ ら の 語 が 意 味 の 拡 張 を 行 わ れ る 際 に 、 シ ス テ ム 性 原 理 (systematicity principle ) を 満 た し て い る か ら で あ る 。 3.5. 第 5 章 の ま と め 第 5 章 で は 、 一 部 の 非 飽 和 名 詞 が 飽 和 名 詞 と 同 様 の 振 る 舞 い を す る 、 言 わ ば 「 非 飽 和 名 詞 の 飽 和 化 」 と い う 現 象 に 着 目 し 、 そ の 生 起 要 因 に つ い て 考 察 し た 。 そ の 結 果 、 以 下 の 2 つ の 要 因 が 存 在 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ( 9) a.「 代 理 母 」 を 代 表 と す る 一 群 の 非 飽 和 名 詞 ( 表 3) が 不 特 定 多 数 の 対 象 と 関 連 付 け ら れ る こ と に よ り 、 パ ラ メ ー タ に あ た る よ う な 特 定 の 指 示 対 象 と の つ な が り が 弱 く な り 、 単 純 に 職 業 を 表 す 飽 和 名 詞 と 理 解 さ れ る 。 b.「 父 親 」「 社 長 」 を 代 表 と す る 一 群 の 非 飽 和 名 詞 ( 表 4) が そ の 背 後 に あ る 複 数 の 出 来 事 や 性 質 が 世 の 中 に あ る 多 数 の 個 体 に 共 通 に 見 ら れ る こ と で 、 一 つ の カ テ ゴ リ ー を 形 成 し 、 パ ラ メ ー タ に あ た る よ う な 独 立 し た 概 念 と 関 係 づ け ら れ な く な り 、 種 類 を 表 す 飽 和 名 詞 と 理 解 さ れ る 。
13 表 3 飽 和 化 す る 非 飽 和 名 詞 の リ ス ト ― そ の 1 専 門 的 ・ 技 術 的 職 業 家 庭 医 、 ホ ー ム ド ク タ ー な ど 密 偵 、 ス パ イ 、 間 者 、 間 諜 な ど サ ー ビ ス 守 衛 、 ガ ー ド マ ン 、 看 守 な ど ボ デ ィ ー ガ ー ド な ど 執 事 、 ハ ウ ス キ ー パ ー な ど 代 理 母 、子 守 、乳 母 、ベ ビ ー シ ッ タ ー な ど 人 物 人 質 、捕 虜 、俘 虜 、と り こ 、奴 隷 な ど 表 4 飽 和 化 す る 非 飽 和 名 詞 の リ ス ト ― そ の 2 親 ・ 先 祖 父 親 、 母 親 な ど 夫 婦 奥 さ ん 、後 添 い 、後 添 え 、本 妻 、正 妻 、 正 室 、 側 室 、 わ ら わ ( 妾 ) な ど 子 ・ 子 孫 嫡 子 、嫡 出 子 、嫡 男 、長 子 、長 男 、長 女 、 末 っ 子 、 末 娘 な ど 連 れ 子 、養 子 、養 女 、落 と し 子 、申 し 子 な ど 職 位 知 事 、 市 長 、 学 長 、 社 長 、CEO な ど 教 授 、 プ ロ フ ェ ッ サ ー 、 助 手 な ど 3.6. 第 6 章 の ま と め 第 6 章 で は 、 非 飽 和 名 詞 が 要 件 と し て 関 わ っ て い る と 思 わ れ る 構 文 ( カ キ 料 理 構 文 と 「X を Y に 、 … す る 」 構 文 ) に 飽 和 名 詞 が 出 現 す る と い う 先 行 研 究 の 例 外 を 指 摘 し た 上 で 、 そ れ ら の 構 文 を 包 括 的 に 捉 え ら れ る 条 件 を 複 合 助 詞 「 に と っ て 」 の 意 味 か ら 記 述 し た 。 そ の 結 果 は 以 下 の よ う に 示 す こ と が で き る 。
14 ( 10) カ キ 料 理 構 文 と 「 X を Y に 、 … す る 」 構 文 の 成 立 条 件 a. 指 定 文 「 A が B だ 」 に お い て B の 外 延 が 可 変 的 ・ 相 対 的 な も の で 、 そ れ を A に 限 定 す る 限 ら れ た 範 囲 が 「 ~ に と っ て 」 に よ っ て 指 定 さ れ る 。 b. 上 が 保 証 さ れ た 場 合 、「 ~ に と っ て 、 A が B だ 」 と い う 意 味 関 係 が 可 能 に な り 、 当 該 構 文 が 得 ら れ る 。 ま た 、 上 記 の 成 立 条 件 を 通 じ て 、 対 象 構 文 を 名 詞 の 非 飽 和 性 と 関 連 付 け て 説 明 す る た め に は 、 従 来 の よ う に 非 飽 和 性 を 純 粋 な 言 語 的 知 識 、 す な わ ち 、 意 味 論 の レ ベ ル に 限 定 す る の で は な く 、 百 科 全 書 的 知 識 や 文 脈 を 含 め た 言 語 外 的 知 識 も あ る 程 度 入 れ て 捉 え る 必 要 が あ る 、 と い う こ と を 述 べ た 。 4. 本 論 文 の 意 義 と 今 後 の 課 題 以 上 、第 1 章 ~ 第 6 章 に 至 る 各 章 の 概 略 を ま と め て き た 。以 下 で は 、問 題 点 を 振 り 返 り な が ら 改 め て 本 論 文 の 意 義 を 述 べ 、 ま た 本 論 文 で 論 じ き れ な か っ た こ と や 今 後 の 課 題 に つ い て 述 べ る 。 4.1. 本 論 文 の 意 義 本 論 文 の 意 義 と し て は 、 ま ず 、 本 論 文 の 全 体 に 関 わ る こ と と し て 、 純 粋 な 意 味 論 と 語 用 論 の 連 続 体 と し て 名 詞 の 非 飽 和 性 を 捉 え た こ と で あ る 。 名 詞 の 非 飽 和 性 の 研 究 に は 、西 山(1990、2003)、三 宅( 2000)に 始 ま る 一 定 の 蓄 積 が あ る 。 一 方 、 坂 原 (2005)、大 鹿( 2006) な ど で も 指 摘 さ れ る よ う に 、カ キ 料 理 構 文 を は じ め と す る 言 語 現 象 の 成 立 条 件 を 「 飽 和 名 詞 / 非 飽 和 名 詞 」 の よ う に 截 然 と 二 分 さ れ る 概 念 に よ っ て 述 べ て し ま っ て は 、 飽 和 名 詞 で あ り な が ら 非 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 現 象 が 扱 い に く い 。 こ れ は 、 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 区 別 を 純 粋 に 意 味 論 的 な も の と し て 捉 え る の に 限 界 が あ る か ら で あ ろ う 。 本 論 文 は 、 段 階 性 の あ る 百 科 全 書 的 知 識 を 非 飽 和 性 の 概 念 に 取 り 込 む こ と で 、 当 該 の 概 念 の 言 語 現 象 に 対 す る 応 用 可 能 性 を 高 め る こ と が で き た
15 と 考 え ら れ る 。 ま た 、 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 と の 相 互 移 行 の 可 能 性 、 と り わ け 非 飽 和 名 詞 が 一 定 の 条 件 下 で 飽 和 名 詞 と し て 用 い ら れ る 可 能 性 に つ い て 、 こ れ ま で の 研 究 に お い て ほ と ん ど 取 り 上 げ ら れ て い な か っ た 。 し か し 、 本 論 文 が 明 ら か に し た よ う に 、 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 と が 相 互 に 移 行 す る こ と が 可 能 で あ り 、 そ の 移 行 過 程 に お い て 言 語 使 用 者 が 持 つ 百 科 全 書 的 知 識 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 名 詞 の 非 飽 和 性 の 研 究 を 今 後 さ ら に 発 展 さ せ て い く た め に は 、 非 飽 和 性 と 辞 書 的 知 識 の 関 係 に と ど ま ら ず 、 語 に ま つ わ る 百 科 全 書 的 知 識 や 発 話 状 況 と い っ た 観 点 か ら の 分 析 が 欠 か せ な い 。 本 研 究 の 成 果 に よ り 、 今 後 、 名 詞 お よ び 名 詞 句 の 研 究 に 対 し 、 こ の よ う な 非 飽 和 性 の 捉 え 方 を 応 用 し う る 可 能 性 が 示 さ れ た と 言 え る 。 4.2. 今 後 の 課 題 前 節 ま で は 、 本 論 文 の 各 章 の 概 要 と 本 研 究 の 意 義 に つ い て 述 べ て き た 。 以 下 、 本 研 究 で 論 じ き れ な か っ た 主 な 課 題 に つ い て 言 及 す る 。 (a) 日 本 語 以 外 の 言 語 を 対 象 と す る 非 飽 和 性 の 研 究 (b) 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 相 互 移 行 の 要 因 や 制 限 (c) 非 飽 和 性 の 名 詞 句 以 外 の 言 語 単 位 へ の 適 用 可 能 性 (a)に 関 し て 、日 本 語 を 対 象 と す る 非 飽 和 性 の 研 究 に つ い て は 、既 に 様 々 な 知 見 が 蓄 積 さ れ て い る が 、 山 泉 (2013) な ど で 指 摘 さ れ る よ う に 、 日 本 語 以 外 で は 非 飽 和 性 の 研 究 が ほ と ん ど な さ れ て い な い よ う で あ る 。 他 の 言 語 に お い て は 、飽 和 / 非 飽 和 の 区 別 が 存 在 し な く て も 不 思 議 で は な い し 、「 作 曲 家 」 と 「 作 曲 者 」 の よ う に 飽 和 と 非 飽 和 だ け で 意 味 が 対 立 し て い る 名 詞 の ペ ア の 存 在 も 必 然 的 で は な い 。 ま た 、 筆 者 の 観 察 に よ れ ば 、 中 国 語 や 英 語 に も 飽 和 / 非 飽 和 の 区 別 が 存 在 す る が 、 そ れ ら の 言 語 に お け る 両 者 の 区 別 も 日 本 語 と 同 様 に 決 定 さ れ る と は 限 ら な い 。 こ れ ら の 課 題 に つ い て は 、 今 後 の 研 究 に 委
16 ね た い 。 (b)に 関 し て 、第 4 章 ・ 第 5 章 の よ う に 、百 科 全 書 的 知 識 や 文 脈 環 境 が 名 詞 の 非 飽 和 性 の 決 定 に 影 響 を 与 え る こ と が あ る と い う こ と は 、 こ れ ま で 言 及 さ れ な か っ た 。 飽 和 名 詞 と 非 飽 和 名 詞 の 相 互 移 行 の 要 因 を 考 え る 際 に 、 言 語 外 的 知 識 と の 影 響 関 係 を 考 え る と い う 新 し い 視 点 を 与 え る こ と が で き た と 言 え よ う 。 そ の た め 、 言 語 外 的 知 識 に 由 来 す る 非 飽 和 性 に つ い て さ ら に 考 察 を 深 め る こ と が 必 要 で あ る と 考 え る 。 (c)に 関 し て 、非 飽 和 性 の 概 念 を 名 詞 ま た は 名 詞 句 以 外 の 言 語 単 位 に も 適 用 で き る か ど う か に つ い て は 、 本 論 文 中 で は 明 ら か に す る こ と が で き な か っ た 。例 え ば 、井 門(2017)な ど で 指 摘 さ れ た「 買 い 物 難 民 」「 ネ ッ ト カ フ ェ 難 民 」 の よ う な 「 ~ 難 民 」 や 、「 戦 争 ポ ル ノ 」「 フ ー ド ポ ル ノ 」「 愛 国 ポ ル ノ 」 の よ う な 「 ~ ポ ル ノ 」 と い っ た 新 造 語 ・ 複 合 語 の 内 部 関 係 に つ い て も 非 飽 和 性 と い う 概 念 を 用 い て 記 述 ・ 説 明 で き る か 、 今 後 さ ら に 検 討 が 必 要 で あ る 。 参 考 文 献 井 門 亮 (2017)「 第 5 章 多 義 語 の 分 析 と 語 用 論 」 中 野 弘 三 ( 編 )『 語 は な ぜ 多 義 に な る の か ― コ ン テ キ ス ト の 作 用 を 考 え る ― 』 朝 倉 書 店 . 氏 家 啓 吾(2017)「「 地 図 を た よ り に 」構 文 と 非 飽 和 名 詞 」『 東 京 大 学 言 語 学 論 集 』38、 287-301. 大 鹿 薫 久(2006)「<書 評 >西 山 佑 司 著『 日 本 語 名 詞 句 の 意 味 論 と 語 用 論 ― 指 示 的 名 詞 句 と 非 指 示 的 名 詞 句 』」『 日 本 語 文 法 』6( 1)、 130-138. 大 島 資 生 (2010)『 日 本 語 連 体 修 飾 節 構 造 の 研 究 』 ひ つ じ 書 房 . 坂 原 茂(2005)「<書 評 >西 山 佑 司 著『 日 本 語 名 詞 句 の 意 味 論 と 語 用 論 ― 指 示 的 名 詞 句 と 非 指 示 的 名 詞 句 』」『 日 本 語 の 研 究 』1( 2)、 98-104. 中 村 明 (2014)『 分 類 た と え こ と ば 表 現 辞 典 』 東 京 堂 出 版 . 西 山 佑 司 (1990)「「 カ キ 料 理 は 広 島 が 本 場 だ 」 構 文 に つ い て ― 飽 和 名 詞 句 と 非 飽 和 名 詞 句 ― 」『 慶 應 義 塾 大 学 言 語 文 化 研 究 所 紀 要 』22、 169-188. 西 山 佑 司(2003)『 日 本 語 名 詞 句 の 意 味 論 と 語 用 論 ― 指 示 的 名 詞 句 と 非 指 示 的
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