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規則―不規則合金系の熱力学過剰量に基づいた新たな溶液論の展開

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(1)

規則―不規則合金系の熱力学過剰量に基づいた新た

な溶液論の展開

著者

渡邉 学

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第18805号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127557

(2)

平成30年度 博士学位論文 要約

規則―不規則合金系の熱力学過剰量に

基づいた新たな溶液論の展開

指導教員: 福山 博之 教授 東北大学大学院 環境科学研究科 先進社会環境学

渡邉 学

(3)

1

1. 緒論

溶融状態の金属および合金の挙動を理解するためには、密度や表面張力を始めと する溶融状態の金属および合金の熱物性値が必要である。特に近年、コンピューター の計算能力の向上による数値シミュレーション技術の発達に伴い、1990 年ごろから産 業分野において、鋳造、溶接、3D プリンティングのプロセスの最適化が数値シミュレ ーションを用いて行われている [1.1-1.5]。これら数値シミュレーションの精度は、金 属の溶融状態の熱物性値に基づいた入力パラメーターに依存する。Fig. 1.1 に、数値シ ミュレーションにより得られたタービンブレードの鋳造プロセスの際の温度分布を示 す[1.6]。また Fig. 1.2 には、2005 年に Wunderlich らによって行われた、ヨーロッパの製 造業における材料の融体の熱物性値の需要の調査結果を示す[1.7]。この図より、溶融金 属の密度、粘性係数、表面張力、熱容量や熱伝導率といった熱物性値が、産業界から 広く要求されていることがわかる。 上記のとおり溶融金属の熱物性値の需要は高い。しかしながら、一般に、溶融金 属は化学的活性が高い為、密度測定に用いられるアルキメデス法、密度および表面張力 測定に用いられる静滴法等、従来の測定法では基板、容器および雰囲気ガスなどとの反 応に起因する測定の不確かさが生じる。 上記の問題を解決するために、当研究室では電磁浮遊法に静磁場を組み合わせた

静 磁 場 印 加 電 磁 浮 遊 装 置 “ PRoperties and Simulations Probed with Electromagnetic Containerless Technique ” を 開 発 し 、 1 0 年 以 上 研 究 を 行 っ て い る [1.8-1.11] 。 こ の”PROSPECT”では、電磁浮遊法を用いることにより、容器を用いずに溶融金属の熱物 性値を測定する事ができる。また、超伝導マグネットを用いて電磁浮遊している試料に 対して静磁場を印加することにより、交流磁場に起因する試料の液滴表面振動、並進運 動や内部の対流を抑制することができるため、高精度な熱物性値の測定が可能になる。 また、電磁浮遊法では試料と容器との接触が無い為に不均一核生成が抑制される。その

(4)

2

ため、融点および液相線温度以下でも液体状態を保持する過冷却状態を容易に達成する

ことが可能である。

Fig. 1.2 Required thermophysical properties in industries [1.7]. Fig. 1.1 Simulation of temperature distribution in casting of a

(5)

3 1.1 溶液モデルに関する既往研究 上記のとおり溶融金属の熱物性値は、産業分野において非常に重要である一方、 測定が困難である為に、熱力学関数に基づいた理論的および経験的アプローチによる 熱物性値の推算も行われている。ここでは、従来提案されてきた溶融合金の溶液モデ ルについて説明する[1.12、1.13]。

1.1.1 理想溶液モデル(Ideal solution model)

溶液モデルの中で最も単純化されているのが、理想溶液モデルである。実在溶 液は理想溶液に従わないことが多い。しかし、実在溶液の熱力学的性質は、実測の熱 力学関数と理想溶液との差である過剰関数で表されるため、理想溶液は非常に重要な 溶液モデルである。以下に理想溶液モデルについて説明する。 まず、初めに A および B 成分の完全気体を混合する場合を考える。その時、系全 体の圧力 ptotは以下に表すことができる。

𝑝

tot

= 𝑝

A

+ 𝑝

B

(1.1)

ここで、piは i 成分の分圧である。また完全気体の方程式は以下のように示すこと ができる。

𝑝 =

𝑛𝑅𝑇𝑉

(1.2)

ここで、p は気体の圧力、n はモル数、R は気体定数、T は温度、V は体積である。 (1.1、1.2)式より、混合ガスの体積 Vtotは以下のように表される。

𝑉

tot

= 𝑛

A

𝑉

A

+ 𝑛

B

𝑉

B

(1.3)

(6)

4 上記式の、niは i 成分のモル数、Viは i 成分のモル体積である。完全気体の混合の 場合、pAはモル分率 xiを用いて以下の形で表すことができる。

𝑝

A

= 𝑥

A

𝑝

tot

(1.4)

また、圧力 p における完全気体の化学ポテンシャルは以下のようになる。

𝜇(𝑝) = 𝜇

0

(𝑝

0

) + 𝑅𝑇 ln (

𝑝 𝑝0

) (1.5)

ここで、標準化学ポテンシャル()は、標準圧力(=1 bar)における完全気体のモルギ ブズエネルギーである。(1.5)式より、完全気体 A の化学ポテンシャルは、

𝜇

A

(𝑝

A

) = 𝜇

A0

(𝑝

A0

) + 𝑅𝑇 ln (

𝑝𝑝A 𝐴0

)

= 𝜇

A0

(𝑝

A0

) + 𝑅𝑇 ln 𝑝

A

(1.6)

と表すことができる。は pが 1 bar の時の完全気体 A の化学ポテンシャルであ る。完全気体の混合の場合、ptot=p=1 bar であるので、(1.4)式を用いて

𝜇

A

(𝑥

A

) = 𝜇

A0

+ 𝑅𝑇 ln 𝑥

A

(1.7)

と表すことができる。これらの関係式は、固体および液体にも適応することがで きる。 ここからは、液体の場合を考える。すると上記の(1.7)式は、純粋な液体 A の化学 ポテンシャルと蒸気圧 pを用いて以下のように表すことも出来る。

𝜇

A

(𝑥

A

) = 𝜇

A∗

+ 𝑅𝑇 ln

𝑝𝑝A A∗

= 𝜇

A

+ 𝑅𝑇 ln 𝑥

A

(1.8)

(7)

5 次に Fig. 1.3 に示す A、B の溶液を混合する場合を考える。 その場合、混合のモルギブスエネルギー(ΔmixG)は、

mix

𝐺 = 𝑥

A

(𝜇

A

− 𝜇

A0

) + 𝑥

B

(𝜇

B

− 𝜇

B0

) (1.9)

で表される。したがって、理想混合の場合の混合のモルギブスエネルギー(ΔmixG ideal ) は、(1.7)式をもちいて

mix

𝐺

ideal

= 𝑅𝑇(𝑥

A

ln 𝑥

A

+ 𝑥

B

ln 𝑥

B

) (1.10)

となる。また、ΔmixG は、混合のモルエンタルピー(ΔmixH)および混合のモルエント ロピー(ΔmixS)との間に以下の相関がある。

mix

𝐺 = ∆

mix

𝐻 − 𝑇∆

mix

𝑆 (1.11)

理想溶液における ΔmixS

idealおよび

ΔmixH

idealは以下のように表される。

mix

𝑆

ideal

= − (

𝜕∆mix𝐺

ideal

𝜕𝑇

)

𝑝,𝑥A,𝑥B

= −𝑅(𝑥

A

ln 𝑥

A

+ 𝑥

B

ln 𝑥

B

) (1.12)

mix

𝐻

ideal

= ∆

mix

𝐺

ideal

+ 𝑇∆

mix

𝑆

ideal

= 0 (1.13)

また、混合前のモル体積 (V)を Vi として

𝑉

𝑖

= 𝑥

A

𝑉

A

+ 𝑥

B

𝑉

B

(1.14)

混合後の V を Vf とすると、

(8)

6 ここで、Vi *は i 成分の部分モル体積である。この時の混合のモル体積(Δ mixV)は以下 のようになる。

mix

𝑉 = 𝑉

𝑓

− 𝑉

𝑖

= 𝑥

A

(𝑉

A

− 𝑉

A∗

) + 𝑥

B

(𝑉

B∗

− 𝑉

B

)

= 𝑥

A

mix

𝑉

A

+ 𝑥

B

mix

𝑉

B

(1.16)

理想溶液の場合の混合のモル体積(ΔmixV ideal )は、ΔmixG idealは圧力に依存しないので

mix

𝑉

ideal

= (

𝜕∆mix𝐺

ideal 𝜕𝑝

)

𝑇

= 0 (1.17)

また、理想溶液からのずれを考慮するものとして、過剰関数が挙げられる。過剰 関数 X は以下のように定義される。

𝑋

E

= ∆

mix

𝑋 − ∆

mix

𝑋

ideal

(1.18)

ここで、ΔmixX は実在溶液の混合の熱力学関数、ΔmixX idealは理想溶液の混合の熱力 学関数である。 これらを用いて過剰ギブスエネルギー(GE )は以下のように表すことができる。

𝐺

E

= ∆

mix

𝐺 − ∆

mix

𝐺

ideal

= 𝑅𝑇(𝑥

A

ln 𝑎

A

+ 𝑥

B

ln 𝑎

B

) − 𝑅𝑇(𝑥

A

ln 𝑥

A

+ 𝑥

B

ln 𝑥

B

) (1.19)

ここで、ΔmixG は実在溶液の混合ギブスエネルギー、aiは i 成分の活量である。

活量の意味は、“実効モル分率”である。

(9)

7

𝜇

A

= 𝜇

A∗

+ 𝑅𝑇 ln 𝑎

A

(1.20)

とのようになる。また、実在溶液 A の活量 aAは、(1.8)および(1.20)式の比較により、以 下のように表すことができる。

𝑎

A

=

𝑝𝑝A A∗

(1.21)

(10)

8 1.1.2 正則溶液モデル(Regular solution model)

理想溶液と同様に、単純化された溶液モデル(Regular solution model)に正則溶液モ デルがある[1.12、1.13]。 正則溶液モデルは、1922 年に、J. H. Hildebrand によって経 験則から提唱された溶液モデルである[1.14]。正則溶液モデルは、A と B の 2 種類の原 子が乱雑に分布しているが、互いに異なる相互作用(A-A, B-B, A-B)を持つことを仮定し ている。式で表すと以下のようになる。

𝑆

E

= 0 (1.22)

𝐻

E

= ∆

mix

𝐻 − ∆

𝑚𝑖𝑥

𝐻

ideal

= ∆

mix

𝐻

= Ω𝑥

A

𝑥

B

(1.23)

𝐺

E

= 𝐻

E

− 𝑇𝑆

E

= Ω𝑥

A

𝑥

B

(1.24)

ここでは正則溶液定数もしくは、相互作用係数と呼ばれ、最も近接の原子間の相 互作用のみを考慮しており、以下の式で表すことができる。

Ω = zL {𝑢

AB

12

(𝑢

AA

+ 𝑢

𝐵𝐵

)} (1.25)

uijは、i―j 原子間の相互作用エネルギー、z が配位数、L がアボガドロ数である。 がの場合理想溶液を示し、A-B 間の相互作用は、A-A、B-B 間の相互作用の平均と同 等となる。の場合、混合は吸熱であり、A-B 間の相互作用は、A-A、B-B 間の相互 作用の平均よりも弱い。(1.24)式を用いて、が変化させた場合の GE の組成依存性を

(11)

9 Fig. 1.4 に示す。            

1.1.2.1Sub-regular solution model および Redlich-Kister 式

Fig. 1.4 からわかるように、正則溶液の場合、xA=0.5 を中心に G

Eの組成依存性は

対照的に変化することがわかる。しかし、実在溶液で GEが組成に対して線対称を示す

ことは少ない。そこで、提唱されたのが”Sub-regular solution model”である[1.12]。この

式は、A21および A12というパラメーターを追加しており、以下のように表される。

𝐺

E

= 𝑥

A

𝑥

B

(𝐴

21

𝑥

A

+ 𝐴

12

𝑥

B

) (1.26)

しかし、パラメーター2 つでも実在溶液を再現できない場合は、以下のようにパラ メーターを増やすことも提唱されている。

𝐺

E

= ∑

𝑥

A𝑖 𝑛 𝑗=1 𝑚 𝑖=1

𝑥

B𝑗

(1.27)

Fig. 1.4 Excess Gibbs energy of a regular solution A-B for different values of .

(12)

10 そ れ 以 外 に も 、 実 在 溶 液 を 再 現 す る モ デ ル と し て 、 提 唱 さ れ て い る の が Redlich-Kister 式である[1.15]。

𝐺

E

= 𝑥

A

𝑥

B

[Ω + 𝐴

1

(𝑥

A

− 𝑥

B

) + 𝐴

2

(𝑥

A

− 𝑥

B

)

2

+ 𝐴

3

(𝑥

A

− 𝑥

B

)

3

+ ⋯ ] (1.28)

Redlich-Kister 式は、パラメーター、および項の数に制限は無いため、実在溶液を 再現しやすく、過剰量の組成依存性を考察する際に比較的多く使用されている。

1.1.2.2 準正則溶液モデル(Quasi-regular solution model)

上記に記した、正則溶液、Sub-regular solution model および Redlich-Kister 式は、全 て SE =0 を仮定している。しかし実在溶液には、SE=0 が成立しない溶液も存在する。そ こで、提案されているのが準正則溶液(Quasi-regular solution) モデルである[1.12]。準正 則溶液で表される GEは以下の形で定義される。

𝐺

E

= Ω𝑥

A

𝑥

B

(1 −

𝑇𝜏

) (1.29)

ここで、はパラメーターである。また、(1.11)式より SEは以下のように表される。

𝑆

E

= 𝑥

A

𝑥

B

(

Ω𝜏

) (1.30)

1.1.3 剛体球モデル(Hard-sphere model) 1950 年以降、実在溶液もしくは気体を再現するモデルとして提案されたのが、剛 体球モデル(Hard-sphere model)である[1.16]。剛体球モデルは、液体もしくは気体中の原 子および分子を完全な剛体の球とし、その剛体は変形せず、かつ剛体間には相互作用 が生じず、液体もしくは気体内は剛体によって埋め尽くされていることを仮定してい

(13)

11 る。剛体球モデルでは、剛体球の半径の外側での相互作用は無いと仮定しているが、 実際の溶液には一般的に相互作用が生じるのが一般的である。そのずれを(1.31)式で示 した充填率Hで補正している。

𝜂

H

=

43

𝜋 (

𝜎2

)

3 𝑁𝑉H H

(1.31)

は剛体球の有効直径、NHは体積(VH)当たりの剛体球の数である。このHは、X 線 による構造解析もしくは中性子実験から得られる、構造因子をフィッティングするこ とにより得られる。 この剛体球モデルを用いると様々な熱物性値を表すことができる。その例を以下 に示す。

𝑈 = [

𝑀1𝐶P 𝐶V

𝑘𝑇 {

(1+2𝜂H)2 (1−𝜂H)4

+

2 3 𝑧𝐸F 𝑘𝑇

− 𝐴 (

𝑉m 𝑉

)

1/3 4 3 𝑘𝑇m 𝑘𝑇

}]

1 2

(1.32)

𝐴 ≡ 10 +

25

𝑧𝐸

F

(𝑇

m

)/𝑘𝑇

m

(1.33)

上記のモデルは、Ascarelli[1.17]によって提唱されたモデルである。 U は音速、M はモル質量、CPおよび CVは定圧および定積熱容量、z は 1 原子あたりの価電子数、EF はフェルミエネルギー、V はモル体積、k はボルツマン定数、下付きの m は融点の物性 値であることを意味している。 表面張力()に対しては以下の関係式が提唱されている[1.18]。

𝛾 =

9𝑘𝑇𝜂H2(1+𝜂H) 2𝜋𝜎2(1−𝜂H)3

(1.34)

粘性係数()に対しては、Longuet-Higgins によって以下の関係式が提唱されている [1.19]。

(14)

12

𝜂 = 3.8 × 10

−8(𝑀𝑇)1/2𝜂H 4 3(1−𝜂H2) 𝑉23(1−𝜂H)3

(1.35)

拡散係数(D)については、剛体球モデルを基に様々な関係式が提案されている。 Vadovic と Colver らは以下の関係式を提案している[1.20]。

𝐷 = 0.365𝑟

H

(

𝜋𝑘𝑇𝑀

)

1 2 𝜂Hm/𝜂 9.385(𝑇m𝜌𝑇𝜌m)−1

(1.36)

𝑟

H

= {

34

(

𝜂Hm𝑀 𝜋𝜌m𝑁A

)}

1/3

(1.37)

ここで、rHは剛体球の半径、NAはアボガドロ数である。 Faber は以下の関係式を示している[1.21]。

𝐷 = 0.365𝑟

H

(

𝜋𝑘𝑇𝑀

)

1 2 𝜂Hm/𝜂H 9.385(𝑇m𝜌 𝑇𝜌m)−1

(1.38)

Protopapas らは以下の関係式を示している[1.22]。

𝐷 = 𝜎𝐶

AW

(𝜂

H

) (

𝜋𝑅𝑇𝑀

)

1 2 (1−𝜂H)3 8𝜂H(2−𝜂H)

(1.39)

𝜎 = 1.126𝜎

m

{1 − 0.112 (

𝑇𝑇 m

)

1/2

} (1.40)

ここで、CAW()は Alder-wainwright 相互係数であり、Enskog 理論より考えられた係 数である。Protopapas らはHを 0.472 と推算した。その場合、mは以下のように仮定 することができる。

𝜎

m

= {6(0.472)𝑀/𝜋𝜌

m

𝑁

A

}

13

(1.41)

𝜂

H

=

0.472𝜌𝜎𝜌 3 m𝜎m3

(1.42)

(15)

13 Speedy は、剛体球モデルと分子動力学シミュレーションを組み合わせて以下の式 を導出した[1.23]。

𝐷 = (

𝜋𝐷0 6𝜂H

) (1 −

6𝜂H 1.09𝜋

) [1 + (

6𝜂H 𝜋

)

2

{0.4 − 0.83 (

6𝜂H 𝜋

)

2

}] (1.43)

𝐷

0

=

38

𝜎 (

𝜋𝑀𝑘𝑇 H

)

1 2

(1.44)

ここで、MHは剛体球の質量である。

その後、Yokoyama が上記の(1.43)式を Stokes-Einstein もしくは Sutherland-Einstein relation を基に発展させ以下の式を導出した[1.24、1.25]。

𝜂 =

2𝜋𝜎𝐷𝑘𝑇

(1.45)

上記の剛体球モデルを基に生み出された(1.32)、(1.34)、(1.35)、(1.36)、(1.38)、(1.43) および(1.45)式は、溶融金属および溶融スラグの表面張力、粘性係数、拡散係数の実測 値を大まかに再現することができる。しかし、熱伝導率に関しては、剛体球モデルを 基としたモデルは提案されてはいるが、実測値を再現できるものは今のところ見つか っていない。また金属成分ごとに充填率Hは異なる為、その都度構造解析実験等行わ なければならない。しかし、溶融液滴の構造解析実験は、合金化すると構造因子が複 雑化するため、充填率Hの決定は非常に困難である。 1.1.4 過剰体積と熱力学関数の相関 まず始めに N 元系合金のモル体積 (V) および過剰体積 (VE )の定義を以下に示す。

𝑉 = ∑

𝑥𝑖∙𝑀𝑖 𝜌 𝑁 𝑖=1

, (1.46)

(16)

14

𝑉

E

= 𝑉 − ∑

𝑥

𝑖𝑀𝜌𝑖 𝑖 𝑁 𝑖=1

(1.47)

ここで、 は密度、 xiは成分 i のモル分率、Mi は成分 i のモル質量、 i は純成分 i の 密度である。 1937 年に Scatchard[1.26]によって、過剰体積と熱力学関数の溶液モデルが提唱され る。Scatchard は、溶融金属の混合による体積変化は混合のエントロピーおよびエンタ ルピーに影響を与えるが、ギブスエネルギーへの影響は非常に小さいとしている。こ の Scatchard の報告を基に、1960 および 1961 年に Kleppa [1.27, 1.28]らは混合時の体積 の変化が熱力学関数に対して与える影響について以下のように数式化した。

∆𝑆

vol

≈ (

𝛼𝛽

) 𝑉

E

(1.48)

∆𝐻

vol

≈ 𝑇 (

𝛼𝛽

) 𝑉

E

(1.49)

∆𝐺

vol

≈ ∆𝐻

vol

− 𝑇∆𝑆

vol

(1.50)

ここで、ΔSvol、ΔHvolおよび ΔGvolはそれぞれ混合によるエントロピー、エンタル

ピーおよびギブスエネルギーの変化量であり、は熱膨張係数、は等温圧縮率、T は

温度である. しかし 1969 年に、 Predel and Eman [1.29]らが、25 種類の二元系合金につ

いて、VEと過剰エンタルピー(HE )および VEとΔSvolの相関性について調査した結果、式 (1.48)から(1.50)は VEが比較的小さな値を示す二元系合金には適応できるが、VEが比較 的大きな値を持つ二元系合金では適応できないことが明らかとなった。 1974 年、 Crawley[1.30]らは、二元系合金の VEと HE および VE と過剰エントロピー(SE )の間には相 関が無いと報告している。しかし、1977 年に Marcus[1.31]は 31 種類の固溶体および共 晶を形成する二元系合金の溶融状態での VE と SE には相関があると報告している。そ の後も 1979 年に Kubaschewski と Alcock[1.32]は 18 種類の二元系合金の溶融状態の SE と VE および HE and VEの間には大まかではあるが相関関係が存在すると報告している。 そして、1988 年 Iida と Guthrie [1.33]によって VEと熱力学関数の相関関係が以下のよ

(17)

15 うにまとめられた。状態図中に金属間化合物を形成する系においては、異種原子間に 引力相互作用が生じ、異種原子間の距離が近くなるため VE、HEおよび SE は負の値を 示す。一方、状態図中で”miscibility gap”などの非混和性の相が現れている系では、異種 原子間に斥力相互作用が生じており、異種原子間の距離は同種原子間の距離よりも遠 くなるため VE、HEおよび SE は正の値を示す。 1.2 本研究の目的 上記のとおり、VEと HEの相関関係の考察は多く行われてきた。Fig. 1.5 に 16 種類 の溶融2元系合金のモル分率 0.5 における VEと HEの相関関係について示す[1.11]。 Fig. 1.5 において、VEおよび HEが両方共に 0 となる溶液が理想溶液である。そして VEおよ び HEが、両方とも正の値または負の値になる象限(青色で示された部分)は、Iida と

Guthlie によって提唱される溶液モデルで説明することが出来る。しかし、Fe-Ni、 Au-Cu、

Fe-Co および Bi-Tl 系の溶融状態の VE は正の値を示すが HEは負の値を示し(赤い範 囲)、Cu-Ni の溶融状態 VE は負の値を示すが HEは正の値を示した。ここで筆者は、VE は正の値を示すが HEは負の値を示す系の状態図に共通点があることを発見した。Fig. 1.6-1.9 にこれら系の状態図を示す[1.20-1.23]。Fig. 1.6-1.9 からわかるように、これらは 低温で金属間化合物を形成し、温度上昇とともに固溶体を形成する系であり、いわゆ る“規則―不規則変態”を生じる系である。規則―不規則変態を生じる系の研究は現 在までに、格子定数、電子構造、熱膨張係数、熱容量、局所構造など様々な測定が行 われているが、それは規則―不規則変態温度および Curie 温度付近で測定されており、 液体状態での物性測定はほとんど行われていない[1.34-1.53]。 そこで本研究では、規則―不規則変態を生ずる二元系合金の液体状態に着目し、従 来の溶液モデルが適応できないことを明らかにし、さらに熱物性値、電子論および熱 力学関数に基づいた新たな溶液モデルを提唱することを目的とする。特に、垂直分光

(18)

16 放射率()および熱伝導率()は、電子論と密接に関係がある。また、密度() および定 圧熱容量(CP)は融体の構造と関係があり、CPはエンタルピーと相関がある。また、CP から得られる過剰定圧熱容量(CP E )は、(1.46、1.47)式で表されるため、過剰定圧熱容量 からギブズ-ヘルムホルツの式(1.48)式を用いて GE などの熱力学関数を算出すること が可能である。 𝑑 𝑑𝑇

𝐻

E

= 𝐶

PE

(1.51)

𝑑 𝑑𝑇

𝑆

E

=

𝐶PE 𝑇

(1.52)

𝐻

E

= −𝑇

2𝑑( 𝐺E 𝑇) 𝑑𝑇

(1.53)

Fig. 1.5 Correlation between excess volume and excess enthalpy of binary melts at 0.5 mol.

(19)

17

Fig. 1.6 Phase diagram of Fe-Ni systems [1.20].

(20)

18

Fig.1.8 Phase diagram of Co-Fe system [1.22].

(21)

19 1.3 本論文の構成 以下に、本論文のそれぞれの章の要約を示す。 第 2 章では、本研究で用いた、静磁場印加電磁浮遊装置“PROSPECT”の原理および熱 物性値の測定方法について説明する。 第 3 章では、本研究で得られた溶融状態の各熱物性値および測定不確かさについて考 察する。 第 4 章では、本研究で得られた溶融状態の各合金の熱物性値の結果を用いて、自由電 子論との比較および新たな溶液モデルの提案を行う。 第 5 章では、本研究の総括を行う。

References

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(25)

23

2. 静磁場印加電磁浮遊装置“PROSPECT”

2.1. 緒言

本研究では、静磁場印加電磁浮遊装置“PROSPECT”を使用し、規則―不規則変態 合金を始めとする溶融金属の熱物性測定を行った。本研究ではその規則―不規則変態

合金の中で、Fe-Ni、Pd-X(X=Fe, Cu)、Pt-Y(Y=Fe, Cu, Co および Ni)、Au-Z(Z=Pd, Cu)の 二元系合金を測定対象とした。また比較の為に、液相線直下で金属間化合物を形成す

る Ti-A(A=Cu, Ni)と、液相線直下で固溶体を形成し、さらに低温で相分離する Au-Ni 二元系合金の測定も行った。 2.2 では静磁場印加電磁浮遊法の原理について説明する。 2.3 では密度の測定原理および手順について説明する。 2.4 では垂直分光放射率の測定原理および手順について説明する。 2.5 では定圧熱容量の測定原理および手順について説明する。 2.6 では熱伝導率の測定原理および手順について説明する。 2.2. 静磁場印加電磁浮遊法の原理 本研究では、電磁浮遊法を用いて試料を浮遊させることで保持容器による試料の汚 染を回避し、さらに静磁場を印加することにより試料の振動や並進運動、内部対流を 抑制して溶融金属の熱物性測定を行った。ここでは、電磁浮遊法の原理および静磁場 印加の効果について述べる。 2.2.1 電磁浮遊法の原理 はじめに電磁浮遊法の原理に関して説明する[2.1-2.3]。電磁浮遊法の概略図を Fig. 2.1 に示す。コイルに高周波電流を流すことにより、交流磁場 H が発生し、コイル内に 置かれた試料の表面に電流密度 J で表される誘導電流が流れる。この誘導電流と交流

(26)

24 磁場との相互作用により、誘導電流にローレンツ力 F が働く。このローレンツ力の鉛 直上向きの成分が、試料が受ける浮遊力となる。 以下にマクスウェルの方程式を示す。

𝛁 × 𝑬 = −

𝜕𝑩𝜕𝑡

(2.1)

𝛁 × 𝑯 =

𝜕𝑫𝜕𝑡

+ 𝑱 (2.2)

𝛁 ∙ 𝑩 = 0 (2.3)

ここで,E は電場、B は磁束密度、D は電束密度、J は電流密度、t は時間。また、 磁束密度 B と磁場 H には以下の関係がある。

𝑩 = 𝜇𝑯 (2.4)

は試料の透磁率である。次に、流れ場中での電流密度を考える。磁束密度 B の中 に流速で流れがあると、電流密度はオームの法則に磁束密度により生じる項を加えて、

𝑱 = 𝜎{𝑬 + 𝝂 × 𝑩} (2.5)

と表現される。は電気伝導度である。ローレンツ力は、

𝑭 = 𝑱 × 𝑩 (2.6)

と表される。これらの式から、溶融試料に働く力を求める。 (2.2)式の右辺第一項は、変位電流に起因にして現れる項であり、コイルに流す交 流電流の周波数が十分小さい場合には無視することができる。本研究で用いた交流電 流の周波数は、約 260 kHz であるため、変位電流は無視することができ、(2.2)式は次の

(27)

25 ように簡略化できる[2.2]。

𝛁 × 𝑯 = 𝑱 (2.7)

次に、磁束密度 B について考える。(2.5)式の両辺の回転をとると、

𝛁 × 𝑱 = 𝜎{𝛁 × 𝑬 + 𝛁 × (𝒗 × 𝑩)} (2.8)

また、(2.4)と(2.7)式より、

𝑱 =

1𝜇

𝛁 × 𝑩 (2.9)

両辺の回転をとると、

𝛁 × 𝑱 =

1𝜇

𝛁 × (𝛁 × 𝑩) (2.10)

となる。(2.8)と(2.10)式より、

𝛁 × 𝑬 =

𝜇𝜎1

𝛁 × (𝛁 × 𝑩) − 𝛁 × (𝒗 × 𝑩) (2.11)

さらに、(2.1)式より、

𝜕𝐵𝜕𝑡

=

𝜇𝜎1

𝛁 × (𝛁 × 𝑩) − 𝛁 × (𝒗 × 𝑩) (2.12)

ここで、

[𝛁 × (𝛁 × 𝑩)]

𝑖

= 𝜀

𝑖𝑗𝑘

𝜕

𝑗

(𝛁 × 𝑩)

𝑘

= 𝜀

𝑖𝑗𝑘

𝜀

𝑘𝑙𝑚

𝜕

𝑗

(𝜕

𝑙

𝐵

𝑚

)

= 𝜕

𝑗

(𝜕

𝑖

𝐵

𝑗

) − 𝜕

𝑗

(𝜕

𝑗

𝐵

𝑖

) (2.13)

∴ [𝛁 × (𝛁 × 𝑩)] = 𝛁(𝛁 ∙ 𝑩) − 𝛁 ∙ 𝛁𝑩 (2.14)

より、(2.3)式を用いて表すと、

(28)

26 𝜕𝑩 𝜕𝑡

=

1 𝜇𝜎

2

𝑩 + 𝛁 × (𝒗 × 𝑩) (2.15)

となる。これが流れ場における磁束密度の拡散方程式であり、この式により試料 内部の磁束密度の分布を求めることができる。右辺第一項は拡散項、右辺第二項は対 流項である。磁束密度に対する試料内の対流の影響は小さいため、磁束密度は流れに よって変化しないとする。この時、(2.15)式は以下のように簡略化することができる。 𝜕𝑩 𝜕𝑡

=

1 𝜇𝜎

2

𝑩 (2.16)

この式を用いて、コイルに高周波電流を流した時の交流の磁束密度について考 える。Fig. 2.2 のように、試料の表面から中心に向かって x 軸をとり、磁束密度 B が z 方向である場合を考える。

𝑩 = 𝐵

𝑍

(𝑥)𝑒

𝑖𝜔𝑡

𝒆

𝒁

(2.17)

これを、(2.16)式に代入すると、次のような微分方程式が導かれる。 𝑑2𝐵 𝑧(𝑥) 𝑑𝑥2

− 𝑖𝜔𝜇𝜎𝐵

𝑧

(𝑥) = 0 (2.18)

ここで、BZ(x)に対して以下の境界条件を与える。

𝐵

𝑧

(𝑥) = 𝐵

0

(2.19)

𝐵

𝑧

(∞) = 0 (2.20)

この条件下で(2.17)式を解くと、

𝐵

𝑧

(𝑥) = 𝐵

0

𝑒

±(1+𝑖)√𝜔𝜇𝜎2 𝑥

(2.21)

となる。この式を書き換えると、次のようになる。

(29)

27

𝐵

𝑧

(𝑥) = 𝐵

0

𝑒

−(1+𝑖)𝑥 𝛿⁄

(2.22)

ここで、

𝛿 = (

𝜔𝜇𝜎2

)

1 2

(2.23)

である。は表皮厚さ(Skin depth)と呼ばれる。(2.22)式を(2.17)式に代入し、オイラ ーの公式を用いて整理すると次のようになる。

𝑩 = 𝐵

0

𝑒

−𝑥⁄𝛿

cos(𝜔𝑡 − 𝑥 𝛿

⁄ ) ∙ 𝑒

𝑧

+ 𝑖𝐵

0

𝑒

−𝑥⁄𝛿

sin(𝜔𝑡 − 𝑥 𝛿

⁄ ) ∙ 𝑒

𝑧

(2.24)

この実部が実際に発生する B となるので、コイルに高周波電流を流した際に発生 する試料内の磁束密度は、次式で表される。

𝑩 = 𝐵

0

𝑒

−𝑥⁄𝛿

cos(𝜔𝑡 − 𝑥 𝛿

⁄ ) ∙ 𝑒

𝑧

(2.25)

この式から導体内部の磁束密度は一様ではなく、試料表面で最大であり内部に行 くにつれて減少し、表面から内部の位置で 1/e となることが分かる。 次に、(2.25)式を用いてローレンツ力を求める。(2.6)式に、(2.9)式を代入すると、

𝑭 =

𝜇1

(𝛁 × 𝑩 ) × 𝑩 (2.26)

が得られる。 ここで、

[𝛁 × (𝑩 × 𝑩)]

𝑖

= 𝜀

𝑖𝑗𝑘

(𝛁 × 𝑩)

𝑗

𝑩

𝑘

= 𝜀

𝑖𝑗𝑘

𝜀

𝑗𝑙𝑚

𝜕

𝑗

(𝜕

𝑙

𝐵

𝑚

)𝐵

𝑘

= (𝛿

𝑘𝑙

𝛿

𝑖𝑚

− 𝛿

𝑘𝑚

𝛿

𝑖𝑙

){(𝜕

𝑙

𝐵

𝑚

)𝐵

𝑘

}

(30)

28

= (𝜕

𝑘

𝐵

𝑖

)𝐵

𝑘

− (𝜕

𝑗

𝐵

𝑘

)𝐵

𝑘

(2.27)

∴ [(𝛁 × 𝑩) × 𝑩] = 𝑩 ∙ 𝛁𝑩 −

12

∇|𝑩|

𝟐

(2.28)

より

𝑭 =

1𝜇

(𝑩 ∙ 𝛁𝑩) −

2𝜇1

∇|𝑩|

2

(2.29)

と変形できる。この式の右辺第1項は回転力すなわち撹拌に対応し、第2項は非 回転力すなわち圧縮力に対応している。第1項は試料長さ L を用いると式(2.25)より、 次のように近似することができる。 1 𝜇

(𝑩 ∙ 𝛁𝑩 ) ≈

𝐵02 𝜇𝐿

𝑒

−2𝑥 𝛿 ⁄

(2.30)

第2項を変形し、(2.25)式を代入すると、次式のようになる。

2𝜇1

∇|𝑩|

2

≈ −

1 2𝜇 𝑑𝑩2 𝑑𝑥

=

𝐵02 𝜇𝛿

𝑒

−2𝑥 𝛿 ⁄

(2.31)

(2.30)式と(2.31)式を用いて(2.30)式を書き換えると次式となる。

|𝑭| ≈

𝐵02 𝜇𝐿

𝑒

−2𝑥 𝛿 ⁄

+

𝐵02 𝜇𝛿

𝑒

−2𝑥 𝛿 ⁄

(2.32)

これが試料に働くローレンツ力であり、右辺第2項で表される圧縮力のうち、上 向きの圧縮力が浮遊力として働き、試料を浮遊させることができる。本実験で使用し ているコイルは上部に、下部コイルと逆巻きのコイル(電流の位相が 180°異なる)を 設置している為、下方向にもローレンツ力が生じ、これにより安定点が形成され、安 定浮遊させることができる。

(31)

29 2.2.2 静磁場印加の効果 電磁浮遊法により浮遊された液滴には、2.2.1 で示したローレンツ力により、Fig. 2.3 で表される表面振動、並進運動および MHD 対流等が常に励起され,これらは減衰しな い[2.4]。この表面振動や並進運動が物性値測定の不確かさの要因となる。そのため、本 実験では電磁浮遊している試料に静磁場を印加して、上記の問題の改善を行った。静

Fig. 2.1 Schematic illustration of a levitation coil.

(32)

30 磁場の効果に関して以下に記載する[2.5]。 まず、Fig. 2. 4(a)のように液滴の表面が振動した場合を考える。この場合,液滴の 赤道部が静磁場に対し垂直に移動している。すると振動によって試料貫く静磁場の強 度は増加する。その増加した静磁場強度を打ち消すために、試料に起電力が生じ、図 で示された表面電流が生じる。この表面電流と静磁場の相互作用により試料が移動方 向と逆向きにローレンツ力を受けることで振動が抑制される。 次に、Fig. 2. 4(b)のように液滴の対流が生じていた場合を考える。この場合、図 中で対流を示すループ状の矢印の上部および下部で導体が静磁場を横切るため、その 部分の自由電子がローレンツ力を受け、図で示される電流が生じる。その電流が対流 と逆方向にローレンツ力を受けるので、液滴内の対流を抑制することができる。 Fig. 2. 4(c)のように液滴が静磁場方向に対して垂直な軸の周りに回転した場合、 Fig. 2. 4(c)で示す誘導電流が生じ、静磁場との相互作用から、回転が抑制される方向に ローレンツ力が働く。また液滴の回転軸が静磁場方向と平行な場合、誘導電流が生じ ないため、回転を抑制することができない。 最後に、液滴が Fig. 2. 4(d)のように並進運動を起こした場合を考える。また、本 研究で使用した超伝導マグネットの磁束密度の分布を Fig. 2.5 に示す。Fig. 2.5 より、 マ グネットの中心から動径方向に進むほど、僅かではあるが静磁場強度が強くなること がわかる。これにより液滴が並進運動した場合、液滴が不均一な磁場を通過すること になり、液滴を貫く磁束は変化する。この磁束の変化により、液滴内に誘導電流が形 成され、進行方向と逆方向にローレンツ力が作用し並進運動が抑制される。 Fig. 2. 4(b)のように試料の内部対流に対する静磁場の効果を説明したが、実際の試 料内部の対流は、乱流が生じるなど複雑である。そのため実際に試料内対流が抑制さ れているかを把握する必要性がある。しかし、試料内部の対流を実験によって確認す ることは困難である。そこで、塚田らは数値シミュレーションを用いて、静磁場を印

(33)

31 加した際の試料液滴内の対流を評価した[2.5]。 溶融 Fe に対して行った流動解析の一例 を Fig. 2.6 に示す.Fig. 2.6 には 3 T と 10 T の静磁場印加条件下における溶融金属内の 対流と速度ベクトルが示されている。矢印が赤に近い程、強い内部対流が生じている ことを表している。3 T の静磁場印加では、対流が十分に抑制されておらず、融体内全 体に流れが残存していることがわかる。一方、10 T の静磁場印加では、赤道付近にわ ずかに流れが残っているものの、3 T の場合と比べて、垂直方向への流れが抑制されて いることがわかる。

(34)

32

(35)

33

Fig. 2.4 Classification of the motion of the levitated sample. (a) Oscillation, (b) convection, (c) rotation whose axis is perpendicular to static magnetic field, (d)

motion of the center of gravity.

(36)

34 2.3 密度測定の測定原理および手順 以下に密度の測定原理である浮遊液滴法および手順について示す。 2.3.1 浮遊液滴法 密度は試料の質量 m と体積 V を用いて以下のように定義される。

𝜌 =

𝑚𝑉

(2.33)

密度の測定法は大きく2つの方法に分けられ、体積を既知として質量を求める方 法と質量を既知として体積を求める方法がある。今回は、電磁浮遊法により浮遊して いる試料の画像を取得し、画像から試料形状を算出し体積求める “浮遊液滴法”を用 いて密度測定を行った。また質量は、浮遊前後にそれぞれ電子天秤を用いて測定し、 その平均値を密度の算出に用いた。

(37)

35 液滴の体積の算出方法を Fig. 2.7 に示す。取得した液滴画像の輝度変化が最大とな る位置をエッジとし、このエッジから重心を求める。その後重心からエッジまでの距 離すなわち試料半径をルジャンドル多項式 (2.34)式を用いてフィッティングする。

𝑟(𝜃) = ∑

5

𝑎

𝑛

𝑃

𝑛

(cos𝜃)

𝑛=0

(2.34)

ここで、r()は半径、ɑnは係数、Pn(cos)は Legendre 多項式である。浮遊液滴形状 は鉛直軸対称であると仮定して,得られた r()を用いて(2. 35)式により体積が求まる。

𝑉 = (

2𝜋3

) ∫ 𝑟

1 3

(𝜃)𝑑 𝑐𝑜𝑠𝜃

−1

(2.35)

また、画像中での実長さを得るため、標準球の画像撮影し、(2.34)式で試料と同様にフ ィッティングを行うことで、ピクセル当たりの長さを求めた。 密度測定では、液滴の形状を正確に測定する必要性がある。しかし、カメラのみ を用いて試料を直接測定した場合、試料の温度上昇とともに輝度が上昇し、試料のエ ッジの抽出が困難となる。そこで Ishikawa らはバックライト光源を用いて試料の影を 撮影し、試料の体積を取得する方法を提案している[2.7]。Fig. 2.8 の左図には、バック ライト光源を用いない場合および UV ランプをバックライト光源として用いて、試料を 温度上昇させた場合の試料の様子を示している。この図の比較より、試料の温度が上 昇するとバックライト光源を用いない場合では、試料の自己発光により背景と試料の 境界が分かりづらくなるが、UV ランプを用いた場合では、境界は変わらないことが分 かる。また Fig. 2.8 の右図には、バックライト光源を用いない場合と、UV ランプをバ ックライト光源として用いた場合の体積の温度依存性結果を示している。これにより、 バックライト光源を用いない場合、背景と試料の境界が分かりづらくなり、輝度が高 い場合に体積値を過大評価してしまうが、バックライト光源を用いた場合は、試料の 自己発光の影響を受けず正確に体積値を算出することが可能である。そのため本実験 では、バックライト光源を用いて試料の影を高速度カメラで撮影する方法を採用した.

(38)

36 2.3.2 密度測定手順 今回の密度測定に使用した実験装置の概略図を Fig. 2.9 に示す。 直径 3~5 mm の棒状試料を秤量し、アーク溶解炉を用いて合金化することで測定に 用いる試料を作製した。真空チャンバー内をロータリーポンプおよびターボ分子ポン プ(GDH-802 TMP303, Shimadzu) によって排気し、10-3 Pa 程度の真空状態にする。その 後、Ar-5 vol% H2混合ガスおよび He ガスを導入し、チャンバー内を大気圧に復圧する とともに、還元雰囲気にすることで測定中の試料の酸化を防止した。また、超伝導磁

石(Maximum intensity: 10 T、JMTD-10T 120SSFX、Japan Superconductor Technology) を用 いて、浮遊している試料に静磁場を印加することで試料の表面振動や並進運動を抑制

した。その後、高周波電源(EASY HEAT 8310, AMERITHERM) を用いて電磁浮遊コイル に 450~630A の電流を流し、BN 製のサンプルホルダーに設置した試料の位置をコイル 上部から徐々に電磁浮遊コイルの中心へ向かって下げることで、試料を浮遊、融解さ

せた。電磁浮遊コイルは銅管で作製し、管内に冷却水を流すことでコイルの温度上昇

を抑え、コイルの溶解および変形を防いだ。試料の温度は、試料の下部から放射温度

計(Wavelength: 1.6 m, IS-140, Impac Electronic)によって測定し、吹きつけるガスの流量 をマスフローコントローラにより調整することで制御した。試料温度が一定になった ことを確認した後に、密度の測定を開始した。 電磁浮遊している試料は、Fig. 2.7 に示すように、重力および電磁力により真球に ならず、鉛直方向に延びる。そのため、水平方向から試料の画像を撮影した.試料の 画像はハイスピードカメラ(MC1310, Mikrotron) を用いて撮影(512×512 pixels)した。こ の時、試料の重心移動や振動による画像のブレを抑制するため、カメラのシャッター スピードを 1/1000 sec に設定した。また、フレームレートを 300 fps、1 測定あたりの撮 影時間を 10 sec とした。バックライト光源には YAG レーザー(Wavelength: 532 nm,

(39)

37

Green Laser Sheet 50 m/G, Katokoken Co Ltd.)を用いた。ビーム整形器を用いて YAG レー

ザーの強度分布をガウス分布から連続一様分布に変化させ、ビームエキスパンダーを 用いてビーム径を拡張し、拡張したビームを試料に照射した。また、レーザー光の波 長のみを透過する干渉フィルターをハイスピードカメラとレンズ間に挿入することで 試料の輻射光を除去し、試料の影を撮影した。Fig. 2.10 にビーム整形器を使用した場 合と使用しなかった場合のビームの強度分布を示す。測定後、試料を冷却・回収した 後、画像内の実長さの決定のために直径 6.35 mm および 7.94 mm の真球ステンレスを 撮影した。

Fig. 2.7 Image of levitated iron and schematic illustration of determination of sample edge.

(40)

38

Fig. 2.9 Schematic illustration of thermophysical property measurement apparatus designed for density measurement [2.8].

(41)

39

(42)

40 2.4 垂直分光放射率の測定原理および手順 放射率は、物体の熱放射現象を支配する重要な値だけでなく、本研究における熱 容量の測定時においても必要となる物性値である。以下に、黒体および物体放射の原 理、測定手順について示す。 2.4.1 黒体の熱放射 すべての物質は、原子や分子の熱振動により、電磁波の形でエネルギーを放出し ている。この現象を熱輻射または熱放射という。熱放射を考える時、黒体という概念 が用いられる。黒体とは、完全吸収体もしくは完全放射体とも呼ばれ、その表面に入 射するあらゆる電磁波を吸収する仮想物体であり、その単位時間、単位面積当たりの 放射エネルギーすなわち黒体の単色射出能 Ebは黒体放射についてのプランクの法則

(Planck’s law of black body radiation)により、以下のように表される[2.9-2.11]。

𝐸

=

𝜆5{exp(C1C2 𝜆𝑇)−1}

(2.36)

 ここで、は波長、C1は第一放射定数、C2は第二放射定数である。(2.36)式より、 熱放射は物体の温度に依存し、波長分布を持っていることが示される。単色放出能を 全波長にわたって積分したものは全放出能と呼ばれ、黒体の全放出能 Ebは以下のよう に表される。

𝐸

b

= ∫ 𝐸

0∞ bλ

𝑑𝜆

(2.37)

(2.36)式を(2.37)式に代入すると、以下に示す Stefan-Boltzmann の法則が導かれる。

𝐸

b

= σ𝑇

4

(2.38)

(43)

41 ここで、は Stefan-Boltzmann 定数である。(2.38)式より、熱放射により放出される エネルギーは物体の温度の四乗に比例するため、特に高温領域においては、熱輻射が 熱輸送に大きく影響することが分かる。 2.4.2 一般的な物体の熱放射 実際に存在する物体では反射や透過が起こる為、黒体とは異なり、入射する全て の電磁波を完全には吸収しない。物体の放射能 E と同じ温度の黒体放射能 EBとの比を 放射率と呼び、以下のように定義される。

𝜀 =

𝐸𝐸 B

(2.39)

また、分光放射率は、単色放射能 Eおよび黒体の単色放射能 EB用いて、次のよ うに表される。

𝜀

𝜆

=

𝐸𝜆 𝐸B𝜆

(2.40)

放射率は全ての波長領域にわたって積分した値の比を表し、はそれぞれの波長 における値の比を表している。この違いを強調するために、は全放射率と呼ばれるこ ともある。放射率は各物質に固有のものであり、放射率を求めることにより、各物質 の放射エネルギーを、黒体を基準として表すことができる. 熱放射は物体の表面から種々の方向へ放射され,その放射率は、物質や表面性 状、温度ばかりでなく、放射方向によっても変化する。この場合も黒体を基準として、 物体の放射率を定義する。特定の立体角の方向に対する放射輝度 Lと同じ温度の黒体 の放射輝度 LBの比をとり、指向放射率を以下のように定義する。

𝜀

𝜙

=

𝐿𝜙 𝐿B𝜙

(2.41)

(44)

42 なお、表面に垂直方向の指向放射率を特に垂直放射率nといい、さらにその分光放 射率を垂直分光放射率nという。それぞれの定義を以下に示す。

𝜀

n

=

𝐿𝐿n B

(2.42)

𝜀

𝜆n

=

𝐿𝜆n 𝐿B𝜆

(2.43)

ここで、Ln、Lnおよび LBはそれぞれ、表面に垂直な方向の放射輝度、表面に垂直 な方向の単色放射輝度および黒体の単色放射輝度である。なお、黒体の放射輝度は方 向によって変化せず一定である。 2.4.3 熱放射の吸収率と放射率 放射エネルギーが物体表面に到達すると、その放射エネルギーは反射、吸収お よび透過される。その物体の分光反射率を R、分光吸収率をおよび分光透過率 tと すると以下のように表すことができる。

𝑅

𝜆

+ 𝛼

𝜆

+ 𝑡

𝜆

= 1 (2.44)

ただし、不透明な固体、液体の場合では、入射する電磁波は表面下のきわめて薄 い 領域 で吸 収さ れる 。そ のた め、 透過 につ いて は無 視で きる 。ま た黒 体では, Rt=0 となる。さらに、 Kirchhoff’s の法則より、透過を無視できる場合の放射 率と吸収率には次の関係がある。

𝛼

𝜆

(𝑇) = 𝜀

𝜆

(𝑇) = 1 − 𝑅

𝜆

(𝑇) (2.45)

このように、透過を無視できる場合のとは等しい。

(45)

43 2.4.4 垂直分光放射率の測定原理 定圧モル熱容量の解析の際、レーザーから試料に与えられる熱量を求めるため、 試料の垂直分光吸収率が必要となる。また、(2.45)式より、十分に厚い不透明な物質の とは等価である。そこで本研究では、試料のnを測定することでを得た。物体 の放射率は、(2.39)式の通り、同温度における試料と黒体の熱放射の比であらわされる。 一般に放射率を決定するには次の3つの物理量を決定する必要がなる。 1. 試料からの放射輝度:L 2. 温度: T 3. 黒体からの放射輝度: LB 温度 T における黒体の単色放射輝度 LBは、黒体の単色放射能 EBを用いて、

𝐿

B𝜆

=

𝐸B𝜆 𝜋

(2.46)

と表せる。EBは(2.36)式により求めることができるので、黒体を実測せずに LBを求め ることができる。しかし、放射輝度の絶対値の測定は、ミラーやウィンドウ等光路中 の部材の吸収を正確に求める必要があるため困難である。そこで本研究では,同じ光 学系を用いて L と LBを実測し,その相対強度から放射率を導出する。そのため、まず 疑似黒体を用いて光学分光器の補正を行った。 試料の放射輝度を算出するためには、光学分光器の出力カウントと放射輝度の関 係を求める必要がある。 出力カウント X と放射輝度 L には線形関係があり、以下のよ うに表せる。

𝐿 = 𝑎𝑋 + 𝑏 (2.47)

(46)

44 ここで a と b は測定条件や実験装置によって決まる定数である。この a と b を, 疑似黒体からの放射輝度を測定することで決定する。

𝐿

B

= 𝑎𝑋

B

+ 𝑏 (2.48)

ここで、XBは疑似黒体からの放射を測定することで得られる出力カウントであり、 その時の LBは計算により得られる。その結果を最小二乗近似し、a と b を求めた。上 記の手順で校正した光学分光器を用いて試料の単色放射輝度を測定する.試料の垂直 方向の単色放射輝度 Lnは疑似黒体を用いた光学分光器の校正により得られた a と b を 用いて、

𝐿

𝜆n

= 𝑎𝑋

s

+ 𝑏 (2.49)

と表せる。この式より,試料からの放射を光学分光器で測定して得られた出力カウン ト Xs から Lnを算出する。試料の垂直分光放射率nは、これらの関係を用いて、以下 のように表現することができる。

𝜀

𝜆n

=

𝐿𝜆n 𝐿B𝜆

=

𝑎𝑋s+𝑏 C1 𝜋𝜆5{exp(C2/𝜆𝑇)−1}

(2.50)

2.4.5 垂直分光放射率の測定方法 光学分光器の補正に使用した実験装置の概略図と疑似黒体の形状を Fig. 2.11 と Fig. 2.12 に示す。疑似黒体の穴の半径に対する深さの比は De Vos の既報研究[2.12]を元 に 10 とし、グラファイトを用いて疑似黒体を作製した。上部の穴を放射輝度の測定に 用い、下部の穴を温度測定に用いた。細穴の周囲は Cu または Ni で満たされており、

(47)

45 疑似黒体の均熱を図っている。また、Cu の融点および Ni-C の共晶温度を用いて、放射 温度計の温度補正を行うことができる[2.13]。 まず疑似黒体を用いた光学分光器の校正の手順を説明する。疑似黒体をチャンバ ー内に設置し、疑似黒体の上面が電磁浮遊時の浮遊試料の上面の位置と一致するよう に、疑似黒体の位置を調節した。その後、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプ を用いてチャンバー内を排気し、10-3 Pa 程度の真空状態にした。排気後、Ar-5 vol% H2 混合ガスおよび He ガスを導入し、チャンバー内を大気圧に復圧するとともに、還元雰 囲気にすることで、測定中の疑似黒体の酸化を防止した。 次に、高周波電源を用いてコイルに 100 A の高周波電流を流し、疑似黒体の誘導加 熱を開始した。その後、疑似黒体の温度が急激に上昇しグラファイトと Cu の熱膨張の 違いから疑似黒体が割れることを防ぐために、徐々に電流値を増加させ、210 A まで電 流値を上げた。疑似黒体からの光は、絞り、集光レンズおよびビームスプリッターを

介して光学分光器(NIR Near Infrared Fiber Optic Spectrometer USB2000, Ocean Optics Inc) に入射する。疑似黒体の温度が一定になった後、分光器の出力カウントが最大となる ように、グラファイト製の絞りの角度、光ファイバーの角度の順でそれぞれを調整し た。調整後、高周波電源の電流値を下げることで疑似黒体の温度を低下させ、それぞ れの電流値において温度が一定になった後、光学分光器の出力カウントを測定した。 溶融金属の放射輝度測定に用いた実験装置の概略図を Fig. 2.13 に示す。前述した密度 測定手順と同様の方法で試料を浮遊させる。この際、印加する静磁場の強度は、試料 の並進運動を抑制することができる 4T とした。試料の温度が一定になったことを確認 し、疑似黒体の放射輝度の測定と同様に光学系を調整し、試料の放射輝度を測定した。

(48)

46

(49)

47

Fig. 2.13 Schematic illustration of experimental set up for spectral radiance measurement [2.14].

(50)

48 2.5. レーザー周期加熱カロリメトリー法の原理 レーザー周期加熱カロリメトリー法の概略を Fig. 2.14 に示す。レーザー周期加熱 カロリメトリー法では、まず、試料を浮遊状態で保持し、誘導電流により発生するジ ュール熱により融解させる。その後、試料直上から正弦波に変調したレーザーを照射 する。レーザーからの入熱により、試料の温度が変化する。その温度応答を試料下部 から放射温度計により測定する。上部からレーザー照射により与えられた熱は、試料 の熱伝導率()や熱容量(CP)に依存した速度で試料下部に伝わる。また、その温度振幅 (ΔTac)も試料のや CPに依存する。そのためΔTacと位相差(Δs)を測定し、その結果を解 析することで、試料の Cpおよびを求めることができる[2.15, 2.16]。 2.5.1 定圧熱容量の測定原理 次に、定圧モル熱容量の測定原理について述べる。電磁浮遊させた溶融試料の 上部に角周波数で変調したレーザーを照射し、その温度応答を試料下部から測定する。 この時の熱収支を、Fig. 2.15, 2.16 で表すように試料がレーザーにより直接加熱されて いる,“レーザー加熱部”と、その他の部分である“レーザー非加熱部”に分けて考え

(51)

49 る。すると、それぞれの部分における熱収支は次のように表される。 レーザー加熱部:

𝑉

h

𝐶

P

𝑑𝑇

h

𝑑𝑡

= 𝑄

h

+ 𝛼

𝜆h

𝑆

h

𝐴𝑃

0

(1 + cos𝜔𝑡) − 𝑆

h

𝐴𝜀

T

𝜎(𝑇

h4

− 𝑇

∞4

)

−𝑆

h

𝐴ℎ

c

(𝑇

h

− 𝑇

) − 𝐾

c

(𝑇

h

− 𝑇

l

) (2.51)

レーザー非加熱部:

(1 − 𝑉

h

)𝐶

P

𝑑𝑇

l

𝑑𝑡

= 𝑄

l

− (1 − 𝑆

h

)𝐴𝜀

T

𝜎(𝑇

l4

− 𝑇

∞4

)

−(1 − 𝑆

h

)𝐴ℎ

c

(𝑇

l

− 𝑇

) − 𝐾

c

(𝑇

h

− 𝑇

l

) (2.52)

ここで、添え字 h, l はそれぞれレーザー加熱部、レーザー非加熱部を表し、Vi よび Siは i の体積分率および面積分率、nは垂直分光吸収率、Tiは i の温度、T∞は周 囲温度、 Qi はコイルからの入熱 、A は試料の表面積、T は全 半球放射率、は Stefan-Boltzmann 定数、hcはガスによる対流熱伝達、Kcは内部熱伝導の熱コンダクタン スである。 (2.51)式において、左辺はレーザー加熱部の温度変化、右辺第一項はコイルからの 入熱(ジュール熱)、第二項はレーザーからの入熱、第三項は放射熱伝達、第四項は雰囲 気ガスによる対流熱伝達、第五項は試料内の熱伝導を表している。(2.52)式についても 同様に、左辺はレーザー非加熱部の温度変化、右辺第一項はコイルからの入熱、第二 項は放射熱伝達、第三項は対流熱伝達、第四項は試料内の熱伝導を表している。 次に、温度 T を、初期温度 T0、レーザー照射の直流成分による平均温度上昇ΔTdc、 および交流成分による温度上昇ΔTac mdで表すと、

𝑇 = 𝑇

0

+ ∆𝑇

dc

+ ∆𝑇

acmd

(2.53)

Fig. 2.9 Schematic illustration of thermophysical property measurement apparatus  designed for density measurement [2.8]
Fig. 3.14 Temperature dependence of density of Fe-Ni melts [3.12]. MP:
Fig. 3.16 Composition dependence of molar volume of Fe-Ni melts. Black dashed  line indicates the ideal solution
Table 3.3 Density of liquid Fe-Ni binary alloys as a function of temperature.
+7

参照

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