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〈著書紹介〉 野田尚史 編『日本語教育のためのコミュニケーション研究』

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国立国語研究所学術情報リポジトリ

〈著書紹介〉 野田尚史 編『日本語教育のためのコ

ミュニケーション研究』

著者

野田 尚史

雑誌名

国語研プロジェクトレビュー

3

2

ページ

103-104

発行年

2012-10

URL

http://doi.org/10.15084/00000712

(2)

103

国語研プロジェクトレビュー Vol.3 No.2 2012 NINJAL Project Review Vol.3 No.2 pp.103―104(October 2012)

国語研プロジェクトレビュー  〈著書紹介〉

野田 尚史

野田尚史 編 『日本語教育のためのコミュニケーション研究』 2012 年 5 月 くろしお出版 A5 判 vi+223 ページ 2,400 円+税

1.この本の目的

この本は,コミュニケーション重視の日本語教育をするためにはどのような研究が必要で あるかを示すことを目的に編まれた。 コミュニケーション重視の日本語教育というのは,「聞く」「話す」「読む」「書く」という 言語活動に必要な技術を習得してもらう教育である。日本語学や言語学によって体系化され た知識である「助詞の使い方」や「基本的な語彙」などを順に教えていく教育ではない。 この本では,コミュニケーション重視の日本語教育をするためには大きく分けて次の3 つ の研究が必要であるとして,それぞれの研究の具体例を示した。 (1) 母語話者の日本語コミュニケーションの研究 (2) 非母語話者の日本語コミュニケーションの研究 (3) 日本語のコミュニケーション教育の研究 たとえば(1)の例として,医師が患者の日常的行為を禁ずる場面で,教科書では「風呂 に入らないでください」のような文がよく出てくるが,自然発話データでは「やめといてく ださい」「やめときましょうか」「しないでもらえますか」のような文が多いといった研究を 示した。それによって,実際の母語話者の日本語を観察し,分析することの重要性を訴えた。

2.この本の構成

この本は,次のような10 本の論文で構成されている。    日本語教育に必要なコミュニケーション研究(野田尚史)  第1 部 母語話者の日本語コミュニケーション    非 母語話者にはむずかしい母語話者の日本語コミュニケーション(カノックワン・ ラオハブラナキット・片桐)    日本語教師には見えない母語話者の日本語コミュニケーション(清ルミ)    母語話者には意識できない日本語会話のコミュニケーション(宇佐美まゆみ)  第2 部 非母語話者の日本語コミュニケーション    非母語話者の日本語コミュニケーションの問題点(奥野由紀子)    非母語話者の日本語コミュニケーションの工夫(迫田久美子)    非母語話者の日本語コミュニケーション能力(山内博之)

(3)

野田 尚史

104

国語研プロジェクトレビュー Vol.3 No.2 2012  第3 部 日本語のコミュニケーション教育    コミュニケーションのための日本語教育の方法(品田潤子)    日本語のコミュニケーション教育を阻む要因(徳井厚子)    日本語教師に求められるコミュニケーション教育能力(嶋田和子) 執筆者はいずれも,「日本語教育をコミュニケーション重視のものにするには,その目的 に合わせた研究が必要だ」と考えている日本語教育分野を代表する研究者である。

3.この本の意義

これまでの日本語教育は,コミュニケーション重視というスローガンを掲げ,表面的には コミュニケーションを重視しているように見せかけながらも,実際には「文法を教える」「文 字を教える」といった性格を強く持っていた。これは日本語教育に限ったことではない。英 語教育をはじめ,どの言語の教育でも似たような状況だろう。しかし,多くの教師はそのこ とに気づかず,コミュニケーションの教育をしていると思い込んでいる。 私は長く現代日本語の文法を研究してきた。そういう目で日本語教育を見ると,日本語教 育の中に「聞く」「話す」「読む」「書く」という言語活動にはあまり役立たない「文法の論理」 が広く深く入り込んでいるのがわかる。それは,あたかも日本語教育が日本語学や言語学の 植民地になっているようなものである。 この本では,日本語学や言語学の論理に振り回されない,日本語教育のためのコミュニケー ション研究の具体例を示した。そのような研究は,結果的には,文法より語彙や談話,語用 論などを重視したものになる。また,言語の構造や体系を静的に分析するものではなく,社 会の中で人間と人間が交流するときの言語の運用を動的に分析したものになる。 この本で示したことは,これから国立国語研究所日本語教育研究・情報センターで展開し ようとしている研究の一例になっている。今後,多くの人の協力を得て,そうした研究を進 めていきたい。

野田 尚史

(のだ・ひさし) 国立国語研究所日本語教育研究・情報センター教授。博士(言語学)(筑波大学)。大阪府立大学名誉教授。大阪外国語 大学助手,筑波大学講師,大阪府立大学助教授,同教授を経て,2012 年 4 月より現職。 主な著書・論文:『日本語教育のためのコミュニケーション研究』(編著,くろしお出版,2012),『なぜ伝わらない,そ の日本語』(岩波書店,2005),『コミュニケーションのための日本語教育文法』(編著,くろしお出版,2005),『日本 語の文法 4 複文と談話』(共著,岩波書店,2002),『日本語学習者の文法習得』(共著,大修館書店,2001). 受賞:第 4 回日本語教育学会奨励賞(日本語教育学会,2006). 社会活動:日本語学会理事,日本語教育学会理事,日本語文法学会副会長,日本言語学会評議員,社会言語科学会学会 誌編集副委員長,言語系学会連合副運営委員長,日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員.

参照

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