Title
[総説]子宮頚癌とHPV : 検診とそしてワクチンと
Author(s)
青木, 陽一
Citation
琉球医学会誌 = Ryukyu Medical Journal, 26(3・4): 1-7
Issue Date
2007
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1910
子宮頚癌とHPV 検診とそしてワクチンと
青木陽一琉球大学医学部器官病態医科学講座女性・生殖医学分野
Cervical cancer and HPV. The role of HPV DNA testing and HPV vaccination
Yoichi Aoki
Department of Obstetrics and Gynecology, Faculty of Medicine, University of the Ryukyus
ABSTRACT
High-risk hu聖n papilloma virus (HPV) is the primary etiologic agent of cervical
cancer and dysplasia, which represents the most prevalent gynecological cancer m Japan. I summarize the link between HPV and cervical cancer, and review recent re-search on HPV DNA testing in adjunct to cytology for routine cervical cancer screen-ing and prophylactic HPV vaccination against the most common HPV types associated with the disease. Further, I describe the high prevalence rate of HPV infection m women of Okinawa, and trends in cervical cancer incidence in Okinawa prefecture, which has never decreased in these 20 years. I would like to mention strategy to
over-come cancer of the cervix in Okinawa prefecture. Ryukyu Med. J., 26(1,2)1-7, 2007
Key words: Cervical cancer, HPV, Vaccine, Screening
はじめに
これまでの基礎的,臨床的研究・検討により,子宮頚 癌の発生にHPV (human papilloma virus)ヒトパピ ローマウイルスが関与していることは間違いない.現在 子宮頚癌検診にHPV検査の導入が試みられ,さらに数 年後には日本でもHPVワクチンが子宮頚癌予防の強力 な武器として登場しようとしている.ホットな話題で賑 わうこの領域の概説と沖縄県における子宮頚癌 HPV 感染の現状について紹介したい.
1.子宮頚癌とHPV
1 ) HPVは子宮頚癌の原因ウイルス HPVは,約5,000塩基対からなる環状二本鎖のDNA ウイルスであり,遺伝子発現調節領域とウイルス遺伝子 の転写や複製に関与する初期遺伝子(El, E2, E4, E5, E6, E7),さらにウイルス殻をコードする後期遺伝子 (LI, L2)により構成されている.以前より皮膚や粘膜 に乳頭腫などの腫療病変を形成することが知られていた. 子宮頚癌組織からは1983年にzur HausenらによりHP V16型が初めて分離され,頚癌発生-の関与が注目され るようになり今日に至った HPV感染と子宮頚癌発 生の機序として, HPVのE6, E7タンパクが子宮頚部細 胞内の癌抑制遺伝子p53, Rbと結合し,その機能抑制が 発癌に大きく関与していることが明らかにされてい る2,3)これに加えて,遺伝因子,自己免疫能,環境因 千(喫煙,ビタミン摂取等)等が加わり子宮頚癌の発生 に至るとされている(Fig.1). Fig. 2に子宮頚部病変とHPV感染頻度を提示した4'. 正常細胞診者においても約10%程度のHPV陽性率を認 めるが,これが子宮頚部異形成上皮となると,途端に80 -90%にHPVが検出される.この事実もHPVは子宮頚 癌の原因ウイルスであることを支持している. 2) HPVは型により発癌リスクが異なる 現在HPVは約100種類の型が同定され,そのうち性器 感染に関与しているのは約40種類といわれている.発癌 に対する危険度の点でIow, probably high, high-risk HPVに分類される. Low-risk HPVは尖形コンジロー マの原因となるHPV6型, 11型が代表的であり,子宮頚 癌組織からの検出頻度が高いhigh risk HPVにはHPV子宮頚癌とHPV 検診とそしてワクチンと Table l 子宮頚癌発生の高リスクHPV Classification HPV types High-risk or carcinogenic Probably carcinogenic Low-risk , 45, 51/52} 56158} 59 26, 53, 3, 73, 82 6, ll, 40, 42, 43, 44, 54, 61, 70, 72, 81, くコ本邦でのハイリスクHPV Table 2 子宮頚癌発生とHPV ・子宮頚癌の99%以上が高リスクHPV感 染を原因とする ・多くのHPV感染は一過性 ・持続感染した一部が癌-進行 Fig. 1 HPV感染と細胞の癌化 16型, 18型, 31型, 33型, 35型, 52型, 58型などがある5) (Tablel ). HPVの型ごとのE6, E7タンパクの機能よ り,その癌化に対する影響,頻度が異なるとされている. Fig. 3に日本人女性1,126例の浸潤子宮頚癌から検出さ れたHPVの型別頻度を示した. HPV 16, 18型が高頻 度に認められ,両者で60数%を占めるが,世界の地域 により差がみられることが報告されている4). 3 ) HPVは性行為により伝播する これについてもすでに多数の疫学研究などにより,悼 交経験のない女性にHPVは発見されない,性交経験の ある女性の約10%に不顕性感染が認められる, HPV感
Munoz classification
Fig. 2子宮頚部病変とHPV感染頻度 染は20才代をピークとして以後漸減する,精液中の上 皮細胞にHPV-DNAの存在,などが報告され, HPVが 性交により感染することは明らかである6). 4)ハイリスクHPVの持続感染が子宮頚癌発生のリ スク 当然のことながら, HPVに感染したら必ず子宮頚癌に なるわけではなく,感染の中でhigh-risk HPVの持続感 染の一部が子宮頚癌-進行すると考えられる.一般女性 のHPV感染頻度は20才代で20-30%とピークで以後漸 減し, 30才代で約10%, 40才以降では 蝣7 %程度に陽 性であると報告されている7). HPVは感染しても排除さ れるのが普通であり, 20才代ではその2/3が, 30才代以降 では1/3が排除されている.また,排除までの期間はhigh-risk HPVでは約8か月, low-では1/3が排除されている.また,排除までの期間はhigh-risk HPVでは約4か月 とされる.この中で感染の持続したhigh-risk HPVの一 部が癌化-と導かれていく(Fig. 4, Table 2).2.沖縄の子宮頚癌
ここでは沖縄の子宮頚癌の現状について述べたい.疏 球大学での臨床統計 HPVに関する研究統計,沖縄県Fig. 3浸潤子宮頚癌におけるHVP type Fig. 4 HPV感染持続 の検診統計を全国からの報告,世界各国からの報告と比 較することにより,沖縄の子宮頚癌の発生基盤,罷患率, 検診等の特徴・問題点について考察したい. 1 )罷患率は約20数年間減少していない 琉球大学で治療した浸潤子宮頚癌(沖縄県の90%前 後に相当)の推移をFig. 5に示したが,治療症例数の 減少がみられていない.全国統計では罷患率が10万女 性あたり 7-8であるのに対し8),沖縄県では依然,概 算で12-13である(Fig. 5). 2 )進行例の比率が高い 全国統計の進行期ピークはIb期であるが,沖縄県では II-III期にピークが見られる(Fig. 6). Fig. 5琉球大学で治療した浸潤子宮頚癌症例数の年次推移 Fig. 6 子宮頚癌の進行期別頻度期 3 )子宮頚癌検診の偏り 琉球大学で治療した浸潤子宮頚癌症例において,全く の子宮癌検診未施行者, 5年以上の未施行者が70%を占 める(Fig. 7).また沖縄県の統計では30-50才代の検 診率が低く, 60, 70才代の検診率が高い. 4 )正常細胞診者のHPV陽性率が40才代以降で有意に 高率である9) 正常細胞診者の多数例を検討し報告されている金沢市 の統計10)との比較をFig. 8に示した. 20才代, 30才代 ではほぼ同等のHPV陽性率を示しているが,沖縄県で は40才代以降でも10%強の陽性率がみられ有意に高率 である. 5 )浸潤子宮頚癌で検出されるHPVの型が異なる 最も高頻度であるのはHPV 16型で全国データと同様で
4 子宮頚癌とHPV 検診とそしてワクチンと Fig. 7 最終癌検診の時期 Fig. 8 HPV陽性率(正常細胞診者) あるが, HPV 31, 33, 35, 58型の頻度が高く, HPV18 型の頻度が低い9)ため, HPV 16型+18型の頻度は52%と 世界の他地域や日本全国と比べ低率である(Fig. 9). 沖縄県の子宮頚癌の特徴をTable 3にまとめた.罷患 率を低下させるための戦略としては,検診の啓蒙が最も 大切であり,とくに30-40才代の検診率の向上させるこ とが重要である.様々な方策による啓蒙,メディアの利 用,さらに他の理由で婦人科を受診した際に積極的に検 診を行うことが肝要である.第一歩として,各診療施設 に妊婦の子宮癌検診勧奨をお願いすることから戦略を開 始した.また, HPV検査の検診-の導入, HPV自己検 診,さらに今後はHPVワクチンの積極的な導入を視野 に入れておく必要があるため,次項からこれらについて 概説したい. Table 3 沖縄県の子宮頚癌 . 罷 患 率 が 高い . 患者 数 は減 少 して いな い . 進 行 癌 が 多 い 3 0-50 才 代 の 検診 率 が 低 い 4 0-60 才 代 の H P V 感 染 率 が高 い . 感 染 H P V の 型 に差 が あ る Fig. 9 HPV型別頻度(浸潤子宮頚癌) 3. HPV検査の検診への導入 1 )スクリーニングでの細胞診とHPV検査 これまで細胞診とHPV検査の有用性を検討した報告 がいくつかみられる.現時点での結論は,細胞診との比 較でHPV検査は発癌のハイリスク例の検出の感度に優 れるが,特異性に問題があり, HPV検査単独でのスク リーニングは危険であろうということである.しかし細 胞診とHPV検査の併用により感度はほぼ100%となり, ともに陰性の場合,中等度異形成上皮以上の病変を見逃 す可能性は1/1,000例であると報告された11-13) 2)米国の子宮癌検診ガイドライン
American Cancer Society (ACS)からまず子宮頚癌 スクリーニングのガイドラインが提唱され14)っいでAmeri-can College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG)からほぼ同様のガイドラインが提唱された15) その流れをFig. 10に示した.検診は初交後3年から開 始. 30才以降は細胞診とHPV検査を併用する.細胞診, HPVともに陰性の場合, 3年後に細胞診とHPV検査. 細胞診が判定困難でHPVが陰性の場合, 1年後再検. 細胞診が陰性でHPV陽性の場合, 6 -12か月後再検. 細胞診が判定困難でHPV陽性の場合コルポスコピー・
Fig. 10 ACOG Guideline 2005年
生検-.また細胞診陽性者はHPV結果によらず,現状 と同様コルポスコピー・生検.これにより,精度の向上, コスト削減が達成可能であるとしている.一方United States Preventive Services Task Force (USPSTF) では検診にHPV検査を導入するにはエビデンスがまだ 不十分であるとしている. 3)本邦での現状 1999年厚生省班会議でHPV検査の子宮癌検診-の導 入についての報告を行い,当時の結果として検診のメイ ンは細胞診, HPV検査は二次スクリーニング,補助診断 として位置づけられていた.その後アメリカではACS, ACOGからHPV併用の検診ガイドラインが提唱されてお り,再度十分に検討を要する問題である.金沢市では平 成16年から20才以上の細胞診判定困難例に対し, HPV 検査を併用する検診方法を導入している10)また島根県 のある地域でも細胞診, HPV検査併用検診のプランが 練られている. 4) HPV自己検診 過去において,自己採取細胞診による癌検診が試みら れたが,細胞診検体の状態が不良であり,すでに捨て去 られている.近年HPV検体の自己採取によるスクリー ニング法が始められている.検診を受診できない方・し ない方に光明となりうるか,また一般の方の子宮癌への 興味を高揚させスクリーニングの一助となりうるか,こ の点において利点となりうることも考えられる.しかし ながら,今後様々な問題が出てくることも予想され,精 度面のみならず体制面からも十分な検討が必要と考えら れる. Table 4 予防的,治療的HPVワクチン 特徴 予防的ワクチン 治療的ワクチン 臨床投与可能時期 使用日的 投与法 効果持続 対象HPV type 効果発現メカニズム 安全性 2006年9月 (日本は314年後) 感染予防 初交前3回 5年以上 HPV 6/ll/16/18 中和抗体 確立 2010年以降 感染の免疫療法 未定 確立されていない HPV 16で検討中 細胞傷害性T細胞の誘導 未確立 4. HPVワクチン 1 )子宮頚癌の予防ワクチン 米国メルク社はhigh-risk HPVであるHPV 16, 18型さ らに症賓の病因であるHPV6, 11型も対象に,ウイルス殻 を形成するLlタンパクのみをrecombinant technologyに より作成したvirus like particle (VLP)を抗原として 中和抗体(Gardasil)を誘導した.抗体がHPVウイル スのLlタンパクに結合し,細胞内-の侵入を阻止し感 染を予防することが報告されている.大規模な臨床試験 によりHPV 16, 18型関連の子宮頚癌発症を100%予防 したことを示し, 2006年6月にFDAが認可し米国では すでに臨床投与が行われている略17)グラクソスミスク ライン社はHPV 16, 18型のみのLI VLPに対する抗体 (Cervarix)を誘導し,臨床試験により100%の予防効果 を示し,現在大規模臨床試験が展開されている18,19)覗 時点で副作用がほとんどなく安全に投与可能で,予防効 果が非常にすばらしいことが報告され,大いに期待でき るワクチンであると考えられる.投与は初交前が望まし く,米国では12才前後に6か月間に3回の筋肉内投与 が行われている.実際に効果が確認できるのは,子宮頚 癌発症の自然史からみて10-20年後であろう.本ワク チンは中和抗体による予防ワクチンであるが,治療的ワ クチンの開発も行われているが,実用化-の道のりは長 いと考えられている.予防的ワクチンと治療的ワクチン の違いをTable 4に示した20) 2)日本での現状 日本でも子宮頚癌に対する予防ワクチンの臨床II相試 験が行われており, 3 年後に臨床投与が可能とな るであろうといわれている.日本でのHPVワクチンの 導入に関しての問題点を挙げると,子宮頚癌の原因となっ ているHPV型が欧米ではワクチンのターゲットとなる HPV 16, 18型が70%以上であるのに対し,日本では60 %弱と低頻度であること,特に沖縄では52%とより頻度 が低いことが一つの問題である.また,何才時に接種し, 両親・本人-の説明と同意をどのようにしていくか.栄
子宮頚癌とHPV 検診とそしてワクチンと 国では性交経験が5 %となる12才を目安にその前後での 接種がなされているが,日本では15才前後の接種になる であろうといわれている.さらに費用(米国では360ドル) をいかにカバーしていくか,これらが日本での接種を行 う上で問題と考えられ,早急に対策を講じておく必要が あると考えられる. おわりに 子宮頚癌とHPV感染について概説した.さらに沖縄 県の子宮頚癌の現状について述べいかに罷患率を低下さ せるか,その戦略として子宮頚癌検診-のHPV検査の 導入,また近い将来導入可能なHPVワクチンという強 力な武器について紹介した. 文 献
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