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2011~2019年の間に当院が施行した歯科訪問診療の概要 ―介護老人福祉施設と介護老人保健施設の比較―

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調 査 報 告

2011~2019 年の間に当院が施行した歯科訪問診療の概要

―介護老人福祉施設と介護老人保健施設の比較―

Visit Dental Treatment Performed by Our Dental Clinic in the Period from 2011 to 2019:Comparison between Nursing Welfare Facility for the Elderly and Nursing Health Care Facility for the Elderly

斎藤

1,2)

,髙橋 耕一

1)

,牧野 秀樹

1,2)

山崎

2)

,栂安 秀樹

1,2)

Tohru Saito1,2), Koichi Takahashi1), Hideki Makino1,2)

Yutaka Yamazaki2)and Hideki Tsugayasu1,2)

抄録:本調査報告では,2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が歯科訪問診療を施行し た介護老人福祉施設(特養)および介護老人保健施設(老健)の入所者の概要および歯 科治療の内訳を比較した。 同期間に当院が歯科訪問診療を施行した症例(新患数)は 6􀀬303 例であり,特養およ び老健の症例はそれぞれ 1􀀬742 例(27􀀮6%),1􀀬082 例(17􀀮2%)を占めていた。初回訪問 診療時の平均年齢(標準偏差)は,特養 86􀀮0 歳(7􀀮8 歳)と老健 85􀀮4 歳(8􀀮1 歳)の間 に有意差は認められなかった。しかし,歯科訪問診療をするにいたった医科原疾患とし て,特養では老健と比較して,認知症(62􀀮5% vs 53􀀮8%,p<0􀀮001),肺炎(16􀀮5% vs 5􀀮7%,p<0􀀮001)および脳性麻痺(9􀀮9% vs 4􀀮3%,p<0􀀮001)の症例の比率が有意に高 かった。他方,特養では老健と比較して,歯周治療を施行した症例の比率(58􀀮0% vs 62􀀮0%,p<0􀀮05)は有意に低かったが,摂食機能療法を施行した症例の比率(32􀀮3% vs 12􀀮1%,p<0􀀮001)は有意に高かった。しかし,義歯新製,義歯調整・修理,抜歯,歯 冠補綴,根管治療などの他の歯科治療を施行した症例の比率は,特養と老健の間で有意 差は認められなかった。 キーワード:歯科訪問診療,高齢者,特養,老健,歯科治療 緒 言 わが国では急速に高齢化が進行しており1),介護 老人福祉施設(特養),介護老人保健施設(老健), 有料老人ホームなどの高齢者介護施設の入所者が増 加している2)。高齢者介護施設では歯科医療機関へ の通院が困難な入所者も多く,高齢者介護施設への 歯科訪問診療の需要も今後さらに高まると考えられ る。高齢者介護施設に対する歯科訪問診療の取り組 みが報告されており3,4),当院もこれらの施設への 訪問診療を積極的に行っている5)。しかし,施設の 種類により入所者の介護度や施設職員の職種の構成 などが異なっている2)ため,必要とされる歯科介入 の内容は施設の種類により一様ではないと考えられ る。 特養と老健はともに介護保険施設であり,高齢者 介護施設のなかでは有料老人ホームとともに入所者 の多い施設である2)。特養が身体介護や生活支援を 受けながら長期にわたって生活する施設であり終身 利用できる6)のに対し,老健は在宅復帰に向けたリ ハビリを受ける施設であり退所することが前提とな っている7)。特養と老健では入所条件の要介護度が 1)北海道(医療法人社団秀和会つがやす歯科医院) 2)北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者 歯科学教室

1)Hokkaido Prefecture(Tsugayasu Dental Clinic,

Medical Corporation Shuwakai)

2)Gerodontology, Department of Oral Health Science,

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異なり6,7),また,医科原疾患の内訳や口腔内の清 掃状態も異なっていることも報告されている3)。特 養と老健では必要とされる歯科介入の内容も異なっ ていると考えられ,施設や入所者の状況に即した歯 科介入を行う必要がある。 本調査報告では,特養と老健への歯科介入の内容 の異同を明らかにすることを目的として,当院がこ れらの介護保険施設に対して施行した歯科訪問診療 の症例の概要と歯科治療の内容を比較した。 対象および調査方法 ⚑.特養および老健に対する当院の歯科訪問診療の 体制 レセプトカルテシステム Opt.one(オプテック, 東京)を用いた後ろ向き調査にて,2011 年 1 月~ 2019 年 12 月の間に当院が歯科訪問診療を施行した 特養 1􀀬742 例および老健 1􀀬082 例の入所者を調査し, 年齢分布,医科原疾患の内訳および歯科治療の内容 などを比較した。 特養および老健への当院の歯科訪問診療は,主治 医あるいは看護師などの施設職員からの依頼により 行っている(図 1)。依頼時に原疾患や血液検査デ ータ,服薬情報などの詳細が確認できれば,これら の施設を訪問し歯科治療を開始する。依頼時にこれ らの情報の詳細が確認できなければ,施設への訪問 時に確認し歯科治療を開始する。必要であれば,歯 科治療開始前に医科主治医に病状やこれらの情報の 詳細を書面で確認している。 当院が歯科訪問診療を施行しているこれらの介護 保険施設では,原則的に他の歯科医療機関の介入は ない。また,摂食機能療法に関しては,主治医,あ るいは管理栄養士や看護師などの関連職種の会議に て当院への訪問診療依頼の是非を決めている。 ⚒.調査方法 レセプトカルテシステム Opt.one にて検索された 以下の項目について,個人情報が特定できないよう に匿名化したデータベースを用いて検索した。①新 患症例数(再新患は含まず),②新患症例の年齢分 布,③訪問診療先の医療・介護機関の種類,施設数 および症例数,居宅への訪問診療症例数,④医科原 疾患の内訳,⑤歯科治療の内訳。 集計した歯科治療は,高齢者に対する歯科治療に 関する先行研究5,8,9)に基づき,歯周治療,義歯新 製,義歯調整・修理,抜歯,摂食機能療法,歯冠補 綴,インレー修復,レジン・グラスアイオノマー充 塡,抜髄および感染根管処置とした。歯周治療およ び摂食機能療法については,前期高齢者(65~74 歳),89 歳以下の後期高齢者(75~89 歳)および超 高齢者(90 歳以上)の各年代での症例数も集計し た。 統計解析用のソフトウェアはエクセル統計 2012 (BellCurve,東京)を用いた。特養と老健入所者の 平均年齢の差の検定には Mann-Whitneyʼs U 検定 を,また,これらの施設間の男女比,各年代の新患 症例の比率,医科原疾患の比率および歯周治療,義 歯調整などの歯科治療を施行した症例の比率の差の 検定にはχ2検定を用い,有意差水準は 0􀀮05 とし た。 本調査報告は,北海道大学大学院歯学研究院臨 床・疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行った (承認番号 2020 第 5 号)。 結 果 ⚑.訪問先の医療・介護施設の種類と施設数,およ び訪問先の施設と居宅の症例数 訪問先の主な施設の種類と施設数は,特養 20 施 設(地域密着型特養を含む),病院 10 施設,老健 6 施設,グループホーム 45 施設であった(表 1).新 図 1 特養および老健に対する当院の 歯科訪問診療の流れ

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患症例数(再新患は除く)は特養が最も多く 1􀀬742 例(27􀀮6%)を占めていた(表 1)。次いで,病院 1􀀬484 例(23􀀮5%),老健 1􀀬082 例(17􀀮2%),グルー プホーム 767 例(12􀀮2%),有料老人ホーム 492 例 (7􀀮8%)であった。また,居宅への訪問診療を行っ た症例は 487 例(7􀀮7%)であった。 ⚒.特養および老健に対する歯科訪問診療における 男女別新患症例数,年齢分布および歯科訪問診 療をするにいたった医科原疾患の内訳の比較 特養および老健に対する歯科訪問診療の新患症例 における男女の比率は,特養(男 33􀀮4%,女 66􀀮6%) と老健(男 34􀀮8%,女 65􀀮2%)の間で有意差は認め られなかった(表 2)。また,新患症例の平均年齢 (標準偏差)も特養 86􀀮0 歳(7􀀮8 歳)と老健 85􀀮4 歳 (8􀀮1 歳)との間に有意差は認められなかった(表 2)。 90 歳以上の超高齢者の比率は特養(36􀀮1%)では 老健(31􀀮4%)と比較して有意に高かったが,他の 年代(75~89 歳,65~74 歳,64 歳以下)の占める 割合は,特養と老健との間に有意差は認められなか った(表 3)。 歯科訪問診療をするにいたった医科原疾患として は,特養では老健と比較して,認知症(62􀀮5% vs 53􀀮8%),肺 炎(16􀀮5% vs 5􀀮7%)お よ び 脳 性 麻 痺 (9􀀮9% vs 4􀀮3%)の比率が有意に高かった(複数の 疾患を罹患している症例あり)(表 4)。しかし,他 の医科原疾患の比率は特養症例と老健症例との間に 有意差は認められなかった。 ⚓.特養および老健に対する歯科訪問診療における 歯科治療の内訳の比較 特養および老健ともに,歯周治療(特養 58􀀮0%, 老健 62􀀮0%),義歯調整・修理(特養 33􀀮2%,老健 34􀀮1%),義歯新製(特養 26􀀮9%,老健 27􀀮7%)お よ び レ ジ ン・グ ラ ス ア イ オ ノ マ ー 充 槇(特 養 23􀀮8%,老健 22􀀮0%)は 20%以上の症例で施行され ていた(複数の種類の歯科治療を施行された症例あ り)(表 5)。しかし,歯冠補綴(特養 3􀀮5%,老健 4􀀮7%),イ ン レ ー 修 復(特 養 0􀀮2%,老 健 0􀀮5%), 抜髄(特養 1􀀮9%,老健 1􀀮7%)あるいは感染根管処 表⚒ 2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が施行した歯科訪問診療におけ る特養および老健の男女別新患症例数と年齢の比較 a)再新患は除く。 b)χ2検定による。 c)Mann-Whitneyʼs U 検定による。 ns 有意差なし。 表⚑ 2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が歯科訪 問診療を施行した施設の種類と施設数,および 各施設と居宅の新患数 a)2019 年 12 月現在の施設数。 b)再新患は除く。 c)地域密着型介護老人福祉施設を含む。 d)サービスまたは介護付き有料老人ホーム。

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置(特養 1􀀮2%,老健 2􀀮4%)を施行された症例は両 施設ともに 5%以下であった(表 5)。 特養では老健と比較して,歯周治療を施行した症 例の比率(58􀀮0% vs 62􀀮0%)は有意に低かったが, 摂食機能療法を施行した症例の比率(32􀀮3% vs 12􀀮1%)は有意に高かった(表 5)。しかし,他の歯 科治療を施行した症例の比率は特養と老健の間で有 意差は認められなかった。特養症例では老健と比較 して,90 歳以上,75~89 歳,65~74 歳および 64 歳以下のすべての年代で摂食機能療法を施行した症 例の比率が有意に高かった(表 6)。しかし,年代 別の歯周治療施行症例の比率は,特養と老健との間 に有意差は認められなかった(表 6)。 考 察 本調査報告から,歯科訪問診療を施行した症例で は,特養では老健と比較して 90 歳以上の超高齢者 および認知症,脳性麻痺,肺炎の比率が有意に高い ことが認められた。また,特養では老健と比較し て,歯周治療を施行した症例の比率は有意に低かっ たが,摂食機能療法を施行した患者の比率は有意に 高かった。しかし,他の医科原疾患の比率や歯周治 療と摂食機能療法以外の歯科治療を施行された症例 の比率に,特養と老健の間に有意差はなかった。 特養と老健は介護保険施設であり,有料老人ホー ムとともに入所者の多い高齢者介護施設である2) 特養と老健の間で大きく異なる点は,特養が身体介 護や生活支援を受けながら長期にわたって生活する 施設である6)のに対し,老健は在宅復帰に向けたリ ハビリを受ける施設であり,3~6 カ月ほどの入居 期間で退去することが前提となっていること7)であ る。特養に入居するには原則として介護保険の要介 護認定で「要介護 3」以上の認定を,また,老健で は「要介護 1」以上の認定を受けている必要があ る6,7)。入居年齢は両施設ともに 65 歳以上が基本だ が,悪性腫瘍などの特定疾病で要介護認定を受けて いる場合に限り 40~64 歳でも入居できる6,7)。両施 設ともに看護師と(管理)栄養士が配置されてい る6,7)が,老健では医師や理学療法士などのリハビ リテーション職員も配置されており,多職種で構成 されるチームケアが行われ,できるだけ早期の退所 を目指している7) 介護保険施設では,摂食嚥下機能になんらかの問 題を有する入居者は増加傾向にあり10~12),摂食嚥 下障害がある入居者の 3~4 割は低栄養リスク者で 表⚓ 2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が施行し た歯科訪問診療における特養および老健の年代 別新患症例数の比較 a)再新患は除く。 b)χ2検定による。 ns 有意差なし。 表⚔ 2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が施行し た特養および老健に対する歯科訪問診療におけ る医科原疾患の内訳の比較 a)疾患の重複症例あり。 b)χ2検定による。 c)誤嚥性肺炎を含む。 d)固形癌,白血病,悪性リンパ腫および多発性骨髄腫。 e)再新患は除く。 ns 有意差なし。

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表⚕ 2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が施行した特養および老健に 対する歯科訪問診療における歯科治療の内訳の比較 a)歯科治療内容の重複症例あり。 b)χ2検定による。 c)義歯新製症例は除外した。 d)全部鋳造冠,前装鋳造冠および CAD/CAM 冠,ならびにブリッジなどの 歯冠補綴物。 e)再新患は除く。 ns 有意差なし。 表⚖ 2011 年 1 月~2019 年 12 月の間に当院が施行した歯科訪問 診療における特養および老健の歯周治療および摂食機能療 法の年代別施行症例数の比較 a)χ2検定による。 b)再新患は除く。 ns 有意差なし。

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あることが報告されている13)。他方,菊谷ら14)は, 栄養支援を行った特養の入所者 50 例中,栄養アセ スメントにて高リスクと判定された 4 症例すべてが 介入後には低リスクに改善されたと報告している。 佐々木ら15)も,栄養支援を行った特養の入所者 31 例中,摂食量および体重が増加した症例はそれぞれ 7 例(22􀀮6%),24 例(77􀀮4%)であり,栄養支援前 後の 31 例の Body Mass Index(BMI)の平均(標 準偏差)が 19􀀮6(3􀀮2)から 20􀀮0(3􀀮2)と有意(p< 0􀀮05)に増加したことを報告し,特養入所者に対す る栄養支援の重要性を指摘している。 本調査報告では,特養では老健と比較して,摂食 機 能 療 法 を 施 行 し た 症 例 の 比 率 が 64 歳 以 下 (38􀀮5% vs 0􀀮0%, p<0􀀮05),65~74 歳(32􀀮8% vs 12􀀮5%, p<0􀀮005),75~89 歳(32􀀮5% vs 13􀀮2%, p< 0􀀮001)および 90 歳以上(31􀀮6% vs 10􀀮6%, p<0􀀮001) のすべての年代で有意に高かった。歯科訪問診療を するにいたった医科原疾患としては,特養では老健 と比較して認知症(62􀀮5% vs 53􀀮8%,p<0􀀮001), 脳性麻痺(9􀀮9% vs 4􀀮3%,p<0􀀮001)および肺炎 (16􀀮5% vs 5􀀮7%,p<0􀀮001)の比率が有意に高かっ た。認知症16)や脳梗塞17)を併発している症例では摂 食嚥下障害の発症率が高いことが,また,脳性麻痺 の患者でも小児のみならず成人でも摂食嚥下機能が 低下することが報告されている18)。本調査報告で は,特養では老健と比較して認知症と脳性麻痺の入 所者の比率が高かったことも,摂食嚥下機能が低下 した入所者が多かった一因であると推測される。特 養では老健以上に摂食機能療法や食形態の評価など を含めた「食支援」や,誤嚥性肺炎予防のための口 腔衛生管理などを励行する必要があると考えられ る。しかし,本調査報告は当院のレセプトカルテシ ステムを用いて検索しえた摂食機能療法の施行症例 の集計に基づくものであり,摂食機能療法の内容 (口腔機能維持訓練あるいは口腔機能改善を目的と した訓練など)は検索しえていない。今後,特養と 老健との間での摂食機能療法の内容の異同について も検索する必要がある。 他方,高齢者では若年者と比較してうḝ歯数およ び欠損歯数が多く,残存歯の歯周病も進行する19,20) ことが報告されており,高齢者では若年者と比較し て歯科治療の必要性が高くなる。また,兵頭ら は,歯科治療や指導が必要な症例の割合は要介護高 齢者および自立高齢者ではそれぞれ 88%,79%と ともに高かったが,実際に歯科治療を行っていた患 者の割合は要介護高齢者 34%,自立高齢者 11%と 低かったことを報告している。高齢者では,要介護 度や自立度にかかわらず必要な歯科治療が行われて いない場合が多いと考えられ,特に,歯科医療機関 への通院が困難な要介護高齢者に対する歯科訪問診 療体制を充実する必要がある。 本調査報告でも,特養および老健ともに多くの入 所者に対して,歯周治療,義歯調整・修理,義歯新 製などの多様な歯科治療が行われており,特に,歯 周治療を施行した症例が多かった。高齢者では若年 者と比較して歯周病が進行した症例が多いことが報 告されており19,20),また,歯周病の進行が誤嚥性肺 炎の発症と関連することも指摘されている22,23)。高 齢者に対する歯周治療は,単に歯周病を改善するの みならず誤嚥性肺炎の予防にも寄与すると考えら れ,当院では要介護高齢者に対しても歯周治療を積 極的に行っている。 歯周治療と摂食機能療法以外の歯科治療を行った 症例の割合は,特養と老健との間で有意差は認めら れなかった。しかし,抜髄を行った症例は特養 1􀀮9%,老健 1􀀮7%のみであり,また,感染根管治療 を行った症例も特養 1􀀮2%,老健 2􀀮4%と少数であっ た。要介護高齢者では認知機能や日常生活自立度 (ADL)の低下により口腔清掃状態が悪化するこ と4),また,入所・入院先の介護施設や病院でも口 腔衛生管理が必ずしも十分に行われていない場合も 多いことが報告されている3)。その結果,歯周病や うḝの進行をきたし,抜歯を余儀なくされた症例も あると考えられる。さらに,意思の疎通が困難な要 介護高齢者に対する根管治療,特に大臼歯の根管治 療など,診療設備に大きな制限がある歯科訪問診療 では対応が困難な治療内容もあり,本来根管治療の 適応であるにもかかわらず抜歯を選択せざるをえな い場合も多々あったと考えられる。 全部鋳造冠などの歯冠補綴を施行しえた症例も特 養 3􀀮5%,老健 4􀀮7%と少なく,さらに,インレー修 復を行った症例は特養 0􀀮2%,老健 0􀀮5%にすぎなか った。訪問診療で全部鋳造冠やインレーなどの小さ な補綴物や充塡物を,口腔内で調整し装着すること

(7)

は困難である。本来歯冠補綴やインレー修復の適応 であっても,より簡便で治療中に誤嚥や誤飲の危険 性の少ないレジンやグラスアイオノマー充塡にせざ るをえなかったと考えられる。 本調査報告から,特養では老健と比較して 64 歳 以下,65~74 歳,75~89 歳および 90 歳以上のすべ ての年代で摂食機能療法を施行した症例の割合が有 意に高く,「食支援」を必要とする患者が多いこと が認められた。他の高齢者介護施設の間でも歯科介 入の内容が異なる可能性があると考えられる。特養 や老健以外の高齢者介護施設に対する歯科訪問診療 でも,歯科治療の内容や患者の医科原疾患の内訳な ども分析し,それぞれの施設の状況に即した歯科介 入を行う必要がある。 本調査報告において,開示すべき利益相反状態はな い。 文 献 ⚑)総務省統計局「国勢調査」,国立社会保障・人口問 題研究所「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」 出生中位・死亡中位推計. ⚒)社保審―介護給付費分科会 第 100 回(H26􀀮4􀀮28) 資料 4-2:施設・居住系サービスについて,p.1~34. ⚓)上林豊彦,中野 公,桐田忠昭,下岡尚史,杉村 正仁:要介護高齢者の口腔内実態調査―第 1 報 特 別養護老人ホームと老人保健施設との比較―,老年 歯学,11:203~209,1997. ⚔)中島 丘,岡田春夫,遠見 治,中島俊明,磯部 博之,加藤喜夫:介護老人保健施設入所者を対象に した訪問歯科診療―身体機能の自立度,全身疾患, 服薬情報,申込み理由,口腔内状況,処置内容につ いて―,老年歯学,18:139~145,2003. ⚕)斎藤 徹,白波瀨龍一,砂川裕亮,松下祐也,髙 橋 耕 一,牧 野 秀 樹,石 田 瞭,栂 安 秀 樹:2011~ 2018 年の間に当院が施行した 5􀀬473 症例に対する歯 科訪問診療の概要,老年歯学,34:510~517,2020. ⚖)社保審―介護給付費分科会 第 143 回(H29􀀮7􀀮19) 参考資料 2 介護老人福祉施設(参考資料),p.1~45. ⚗)社保審―介護給付費分科会 第 144 回(H29􀀮8􀀮4) 参考資料 2 介護老人保健施設(参考資料),p.1~51. ⚘)久保金弥,伊藤正樹,岩久文彦:老人保健施設入 所中に歯科受診した老年患者の実態,老年歯学,15: 288~292,2001. ⚙)鶴巻 浩,勝見祐二,黒川 亮:歯科口腔外科を 有する病院併設の介護老人保健施設入所者に対する 歯 科 治 療 の 実 態 調 査,老 年 歯 学,26:362~368, 2011. 10)大前由紀雄:高齢患者の有する摂食上の問題点と 対応(3)嚥下障害とその対応,栄評治,21:47~50, 2004. 11)横山通夫,加賀谷 斉,才藤栄一,藤井 航:高 齢者の嚥下障害,総合臨床,57:138~139,2008. 12)巨島文子:高齢者の嚥下障害と誤嚥性肺炎,京都 医会誌,57:11~14,2010. 13)杉山みち子,清水留美子,若木陽子,中本典子, 小山和作,三橋芙佐子,小山秀夫:高齢者の栄養状 態の実態―nationwide study―,栄評治,17:553~562, 2000. 14)菊谷 武,高橋賢晃,福井智子,片桐陽香,戸原 雄,田村文誉,青木徳久,桐ヶ久保光弘,小山 理, 腰原偉旦:介護老人福祉施設における栄養支援―摂 食支援カンファレンスの実施を通じて―,老年歯学, 22:371~376,2008. 15)佐々木力丸,高橋賢晃,田村文誉,元開早絵,鈴 木 亮,菊谷 武:介護老人福祉施設に入居する要 介護高齢者に対する栄養支援の効果について,老年 歯学,29:362~367,2015.

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Theodorou, S. J., Beris, A. and Fotopoulos, A. D.: Versatility of repetitive transcranial magnetic sti-mulation in the treatment of poststroke dysphagia, J. Neurosci. Rural Pract., 9:391~396, 2018.

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