『アジア教育』第14 巻 2020 年 - 112 - で示されている。しかし、この箇所だけは回 答が実数で示されている。またこの章の中で、 ワークショップ参加者数は示されているが、 アンケートの地域別回答者数は示されていな い(中国76 人、香港 51 人、台湾 80 人、日 本 39 人というワークショップ参加者数合計 246 人はアンケート回答者数 243 人と合わな い)。「国家は過ちを犯さない」という回答に ついて、阿古は「国家も過ちを犯す。しかし、 弁護士は国家と闘ってはならない」という回 答について「中国でこの回答が他よりもずっ と多かったのは、(略)現在でも、弁護士や活 動家らに対して「国家政権転覆罪」などの政 治犯罪が頻繁に科されており、そうした状況 が学生たちの認識に影響している可能性も考 えられます」(同ページ)と分析しているのだ が、図表15 が示されただけでこの推論に至 るのは少し無理があるのではないかと思われ た。 私としては、上記のように学生の国家に対 する意識が興味深く、またそれが法や国家体 制の異なる日本、中国、台湾、香港の学生の 間で共通性を持っているということも興味深 いものであった。これだけの内容を4 地域で 実施するだけでも大変なこととは思うが、実 際の刑事法廷の傍聴も取り入れていれば、学 生たちの感想はどう変化しただろうか。 また、刑事冤罪の撲滅、そのための司法改 革にかける周防監督の思いも強く感じられる。 映画『それでもボクはやっていない』ファン のみなさまにはぜひ参照していただきたい一 書である。もちろん、まだ『それでもボクは やっていない』を見ていない方も本書に接す れば、今度はぜひ映画も見たくなることと思 う。 (現代人文社、2019 年 11 月、 207 頁、2,200 円+税) <図書紹介>
阿部洋編著『日本植民地教育政策史料
集成(台湾篇) 総目録・解題・索引』
呉 宏明(京都精華大学) 本書は全119 巻に及ぶ日本統治期台湾の教 育政策の資料・文献を体系的に、また多様な 視点から国内外において収集・編集したもの について「目録・解題・索引」を上・下2 巻 にまとめたもので、台湾教育史を研究する者 にとって有意義で役に立つ手引きとなってい る。 1.目的と意義 本書の「はしがき」によると本史料集成を 発刊した目的と意義は次のようなものである。 日本統治期の台湾教育史研究が朝鮮の教育史 より立ち遅れている理由の一つに関連資料・ 文献類を系統的に収集、整理するための組織 的努力が行われて来なかったことがある。そ こで、編者らは研究のかたわら永年にわたっ て蓄積してきた関係資料・文献類をもとに、 日本国内および台湾を中心として研究機関、 図書館、資料館などを集中的に訪問し、収集 した関連資料を加えて整理・編集し、『日本植 民地教育政策史料集成(台湾篇)』として刊行 することにした。そのことにより日本統治期 台湾教育史研究の今後の進展のため資料的手 がかりを提供しようと考えたのである。この 史料集成は渡部学・阿部洋共編の『日本植民 地教育政策史料集成(朝鮮篇)』全75 巻(1987-1991)龍溪書舎の姉妹編である。 2.構成と編集者 本史料集成は各種資料・文献類をただ単に 並べただけではなく、一応のまとまりをもつ よう次の12 部門に分類している。図書紹介 - 113 - 第1 集 : 教育要覧類 6 冊 第2 集 : 学事法規 10 冊 第3 集 : 教育施策関係資料 6 冊 第4 集 : 学校経営関係資料 5 冊 第5 集 : 台湾教育関係著書 8 冊 第6 集 : 教科書編纂、各科教育関係資料 (含:国語教育) 14 冊 第7 集 : 地方教育誌(含:原住民教育、対 岸教育、内地留学) 6 冊 第8 集 : 学校要覧類 22 冊 第9 集 : 学事統計類 9 冊 第10 集 : 社会教育関係資料 8 冊 別集(1) : 台湾教育関係公文書(『公文類聚』・ 『枢密院会議記録』・『拓務省記録』等所収) 12 冊 別集(2) : 『隈本繁吉文書(台湾教育関係)』 13 冊 【計119 冊】 これらの所収された資料を通じて台湾にお ける植民地教育政策の展開過程を制度・政策 レベルにおいては勿論のこと、地方における 教育政策の展開や学校レベルにおいても、そ の具体的な状況が考察できるような構成にな っている。本史料集成は 12 集からなってい るが、各集はそれぞれ「解題」および「資料 本文」の二部で構成されている。本書『総目 録・解題・索引』全2 巻には各集の解題がま とめて収録されている。編者代表は阿部洋で あるが、編集委員として上沼八郎、近藤純子、 佐藤由美、佐野通夫、弘谷多喜夫が関わって おり、編集助手として潘静、李吉魯が加わっ ている。編集代表をはじめとして、編者の多 くは日本統治期の台湾教育のみならず朝鮮教 育及び近代中国の教育を研究対象としている ので、幅広い観点と、興味深い考察が本史料 集成の解題の執筆に反映されている。 3.本史料集成の使用方法 日本統治期台湾教育政策に関する膨大な資 料を何から読みどう使えるのかを考えてみた。 119 巻(449 点)におよぶ史料・文献は 12 集 にまとめられているので、総目録をまず読み、 各集の中から興味のある資料を読むことは1 つの方法である。しかし、各集の始めに書か れた解題を全部通して読むことによって日本 統治期の台湾教育政策の全体像を把握するこ ともできるのではないかと思う。ここでは本 史料集成を5 グループに分けて考えてみた。 (1)まずはこの史料集成の第 5 集の「台湾教 育関係著書」を読むことが適切ではないかと 考える。特にここに紹介されている次の3 冊 の書物は台湾教育史研究上の基礎資料である ともいえよう。①台湾教育会編『台湾教育沿 革誌』昭和14(1939)年、②吉野秀公『台湾 教育史』昭和2(1927)年、③台湾教育会編 『芝山巖誌』昭和8(1933)年。 この他に注目すべき資料に Mosei Lin: Public Education in Formosa under the Japanese Administration, 1929 がある。こ れは林茂生の米国コロンビア大学の博士論文 として提出されたものである。 (2)第 2 グループは第 1 集「教育要覧類」、 第3 集「教育施策関係資料」そして、第 9 集 「学事統計類」である。日本統治期台湾の教 育政策の展開過程とその特質の概要を把握す るのに必要な史料が以上の各集に収録されて いる。台湾における日本の植民地統治の初期 には日本語教育を中心とした初等教育が始め られ、体系的な教育制度が制定され、国民学 校制度が発足した。義務教育制度の実施に向 けての過程を第1 集に収められた『学事要覧』、 『学事年鑑』等を通じて読み解くことができ る。第3 集に収録されている台湾教育会編『伊 澤修二先生と台湾教育』では、台湾における 日本統治期初期の教育制度の基礎づくりおよ
『アジア教育』第14 巻 2020 年 - 114 - びその活動が明らかにされている。これ以外 では第3 集に台湾総督府の同化政策に対する 批判の書 3 冊:①蔡培火『日本国民に與ふ』 昭和3(1928)年、②矢内原忠雄『日本帝国 主義下の台湾』(部分)昭和4(1929)年、③ 台湾総督府『霧社事件顛末』昭和 5(1930) 年、以上が紹介されている。 (3)第 3 グループは公学校を中心とするも のである。日本統治期台湾における教育政策 の中心は台湾人児童を対象とし、日本語を重 視した初等教育機関の普及にあった。第4 集 の「学校経営関係資料」には公学校を中心と した全体像が詳しく述べられている。台北師 範学校附属公学校研究部『公一の教育』昭和 8(1933)年は、公学校における学校経営の具 体例を知るうえで有用な書物である。台湾人 訓導と話し方研究部が協力して著わしたもの で、ペスタロッチの教育思想の影響が見られ る。第2 集「学事法規」は公学校に関する教 育法令を集めた資料である。 公学校は日本語を中心とした教育を行った が、教科書編纂及び教授方法に関する具体的 な教育内容は第6 集に集められている。公学 校における日本統治期台湾における日本語お よびその他の教科目の編纂過程およびその内 容が収録されている。また、公学校の日本語 教授法が台湾語による対訳法から出発して、 グアン法およびエスペルゼン法を用いた直接 法、談話と会話、聞き方と話し方を中心とし た構成式話し方教授法へと変遷したことを分 かりやすく説明している。第8 集(1)「学校 要覧類(上)」には公学校の『学校要覧』およ び『記念誌』が集められており、各学校の歴 史及び変遷が述べられ、在校生の作文、教師 および卒業生の思い出や感想が収録されてい て興味深い。 (4) 第 4 グループは教育機関の資料である。 第8 集(1)「学校要覧(上)」には、初等学校、 中等学校、女学校等の資料が、「学校要覧(下)」 には師範学校、高等専門学校、台北帝国大学 の資料が集められている。社会教育に関して は第10 集「社会教育関係資料」が詳しい。第 7 集には原住民教育に関する貴重な資料があ り、また、台湾の対岸の福州、厦門等の台湾 総督府設立の学校教育、および台湾人の内地 留学問題に関する資料が含まれている。 (5)本史料集成の最も注目すべき資料は第 5 グループで、別集(1)の「台湾教育関係公文書」 と別集(2)の『隈本繁吉文書』である。「台湾 教育関係公文書」には枢密院会議議事録が収 録されている。台湾の教育政策は台湾総督府 の独断ですべてが決められたと思われている が、帝国議会および枢密院で台湾・朝鮮の植 民地教育に関する議論がしばしば取り上げら れている。「台湾教育令」制定をめぐっては植 民地教育令の中で最初に枢密院の審議を得て いる。この史料は貴重なもので、台湾におけ る台湾人の教育要求が汲み上げられ、教育政 策に反映されていることが明らかにされてい る。台湾公立中学校設立運動との関連で「台 湾教育令」が制定されるが、『隈本繁吉文書』 には台湾公立中学校設立運動のプロセスが 『台湾公立中学校設置問題』、『学務部日誌』、 『「台湾教育令」制定関係』の中で鮮明に語ら れている。「隈本文書」の中でも、「欧米教育 視察」に関する隈本の観察と洞察が興味深い。 4.本書の意義と希望 日本統治期の台湾教育政策の展開と変遷を 研究するにあたってこれほど広範囲、体系的、 綿密に編纂された資料集はないと思う。編集 者の永年にわたる熱意と情熱に敬意を表した い。年齢を越えて国内外の研究者にとって貴 重な資料となろう。 日本統治期台湾の教育政策は主として台湾 総督府及び日本人の側からの視点で作成され
図書紹介 - 115 - ている。しかし、この資料集には多様な視点 から資料が収集され、また各集の解題におい ても台湾人の立場から見た教育に関する要望 や批判が多く盛り込まれている。それらの要 望や批判が教育政策の形成に汲み上げられ、 随時議論され改正され、全面的ではないが反 映されていることが明らかになっている点が 有意義である。 本書『総目録・解題・索引』の「解題」は、 台湾教育史の研究書としても存在価値がある と思うので、今後可能であれば多くの部数を 発行し、低価格で提供することによって個人、 大学図書館・研究室、公立図書館、研究機関 等が購入できることを希望したい。 (龍溪書舎、2019 年 12 月、第 1 巻 461 頁、 第2 巻 422 頁、40,000 円+税) <図書紹介>