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がん対策立案・評価における意思決定に寄与するマイクロシミュレーションの構築:大腸がんを事例に

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原 著

がん対策立案・評価における意思決定に寄与する

マイクロシミュレーションの構築:大腸がんを事例に

Microsimulation model for evaluating the effect of cancer

control program: example for colorectal cancer

加茂憲一*1・福井敬祐*2,* 3・坂本 亘*4・伊藤ゆり*3

Ken-ichi Kamo*1, Keisuke Fukui*2, *3, Wataru Sakamoto*4 and Yuri Ito*3 *1札幌医科大学 医療人育成センター

*2広島大学 先進理工系科学研究科 *3大阪医科大学 研究支援センター *4岡山大学 環境生命科学研究科

*1CenterforMedical Education, Sapporo Medical University

*2Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University *3Research & Development Center, Osaka Medical College

*4Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University e-mail : [email protected]

In this paper, we implement a micro-simulation (MS) model for colorectal cancer and report the process of the MS model applying to Japanese data. As an advantage of MS, it is possible to evaluate the effects of interventional cancer control program based on various scenario setting. Although there are many advanced MS projects in policy making in other countries, they are still on the way of developing in Japan. Then, we have tried to construct a colorectal cancer MS model in Japan. The purpose of this paper is to describe the process of colorectal cancer MS in Japan as a useful manual for future reference, and to introduce an on-going research project and future possibility of research extensions.

Key words: micro-simulation, colorectal cancer, CAMOS-J CRC. cancer screening, cancercontrol 1.はじめに 1. 1 マイクロシミュレーションの定義 マイクロシミュレーション(MS)とは,個人・世帯・企業などの個体を最小単位として扱うシ ミュレーション手法である.MS の中で個体は一意な ID 番号を持ち,各々の属性(個人であれば, 性別・年齢・婚姻・雇用状況.世帯であれば,居住環境・収入など)が与えられる.個体は決め られたルールに基づき,ある状態から別の状態(例えば,健康から疾病へ,非喫煙者から喫煙者

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へ)に遷移する.遷移のルールは決定的な場合(例:18 歳になり選挙権が与えられる)もあれば, 集団ごとに確率的な場合(例:選挙権を持った人が選挙に行くか否か)もある.健康科学におけ る MS では,一個体ずつ誕生から死亡までを時系列にシミュレートし,人口集団の多様性や行動 の変化(例:喫煙・飲酒など生活習慣),人口の推移,個体間の相互作用(例:ウィルス感染)を 反映させる.この手法により,任意の時点での様々な要因を反映しつつ,疾病の発生から進展, その後の転帰までの一連の病態のプロセスを表現することが可能である. MS は以下の三つの状況への適用が推奨されている(Spielauer, 2010). 1. 集団が異質(Population heterogeneity):対象集団を構成する個体が多様であり,各個体の属 性の種類が多く,組み合わせが無数になる場合. 2. 集計が困難(Problem of aggregation):扱うべき個体の行動が複雑で,マクロレベルではと らえられない場合. 3. 個体のヒストリーを扱う(Individual history):喫煙ヒストリーが死亡に与える影響といった 個体の行動ヒストリーが重要となる場合. MS では,個体の行動のヒストリーを扱うことが可能なため,ライフコースの視点で様々な交 互作用を組み込み,複雑な現象が表現可能であるという理論的な利点がある.また,“仮想の社会” を用いた予測を通して,政策介入の効果が検討可能であるため,社会の情勢や人口などの大きな 変化も考慮に入れられる実用的な利点もある.その一方で,異なるデータソースを根拠とするパ ラメータの値を用いる点や,シミュレーションにブラックボックス部分が多い点,予測結果やパ ラメータの推定精度の検証不足,高いプログラミング能力を有するマンパワーおよび大型計算シ ステムの必要性といった様々な課題も指摘されている(Simms et al., 2019). MS は,対象とする集団(Population)において,疑似的な介入に対する結果の予測も可能なた め,社会における複雑な事象・介入を想定することで,保健医療分野や税制の変更,人口推移, 都市計画など様々な政策課題に対する意思決定に活用されてきた.近年では,COVID-19 の感染 拡大に伴う感染者数・死亡者数のシミュレーションを通じて,様々なシナリオの下に想定される 将来の状況を表現することにより,政策決定に利用された例は記憶に新しい. 1. 2 がん対策におけるマイクロシミュレーション がんは世界的に罹患者・死亡者が多く,制圧の必要な疾患である.そのため,発がんプロセス や早期発見といった研究が活発であり,コホート研究や無作為化比較試験(RCT:randomized control trial)に よ り,多 く の エ ビ デ ン ス が 得 ら れ て き た.ま た,住 人 ベ ー ス の が ん 登 録 (population-based cancer registry)が古くから整備されており,人口センサス(National Census)

や死亡統計(vital statistics)と合わせて活用すれば,がんの発生数・率(incidence),有病数・率 (prevalence),生存率(survival),診断時進行度(stage distribution),死亡数・率(mortality) が網羅的に把握可能である.更に,喫煙や飲酒習慣,栄養といったがんの危険因子に関する情報 を経時的に収集している国も多く,海外ではがん対策における MS が政策決定に積極的に活用さ れてきた実績が十分にある.がん検診を例にとると,受診すべき対象集団・検診手法・受診頻度 など,財政や結果に影響を与える条件が複数存在するが,その条件ごとに RCT の結果を得てか

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ら政策導入することは現実的でない.このような問題点の解決に向けて,米国でのがん検診にお けるガイドライン策定に MS が活用されてきた.

1980 年代に MS を用いたがん対策に関する学術論文が発表され(Parkin, 1985),その後 2010 年頃から論文数が増加してきた.がん種別では大腸がんに対する適用事例が多い.2017 年以降 では子宮頸がんを扱う事例が増え,主にヒトパピローマウイルス(HPV)感染やワクチンを扱っ た論文が増加してきた(Tam et al., 2018;Smith et al., 2019).子宮頸がんは HPV 感染を伴うこと から,年齢を考慮したワクチン導入や検診の併用といった複雑な事象を扱うため,特に MS の活 用が有効である.また,肺がんはたばこ対策に特化したものを含めると,大腸に次いで適用事例 が多いがん種である.たばこ対策は,政策的な介入に反応する集団が異なり,CT 検査による肺 がん検診は喫煙者に対象を絞るといった層別化された対策が主流であるため,肺がん対策におい ても MS は有効である(Tomonaga et al., 2018;Kang et al., 2019).最近の論文では,遺伝子型に 応じた分子標的薬の費用対効果など「個別化医療(personalised medicine)」に関連した研究も増 えている(Horster et al., 2017;Maciosek et al., 2017;Criss et al., 2018,2019;Sarkar et al., 2018; Weaver et al., 2018).また,がん種や介入を限定せず,予防医療介入を比較するなど,政策の優先 順位付けのために MS が活用された研究成果が発表されている.

米国がん研究所では CISNET(Cancer Intervention and Surveillance modeling NETwork)プ ロジェクトにおいて,がん種ごとの研究グループが発足し,MS モデルに関する研究に資金を提 供している(Grossman et al., 2018).この資金提供は 2000 年から 5 年単位で実施されており,乳 がん・子宮頸がん・大腸がん・食道がん・肺がん・前立線がんの各がん種に 5〜10 の研究グループ が構成され,様々なアプローチで各種の研究テーマに取り組んでいる.それらの研究成果は,米 国 USPSTF(United States Preventive Services Task Force)で引用され,各種がん検診の方法に 応じた検診受診間隔や年齢の下限・上限の決定に使用されている(Moyer, 2014;Lin et al., 2016; Siu., 2016;Gauvreau et al., 2017).

カナダでは OncoSim(前身は CancerRisk Management Model)においてがん種ごとの MS モ デルが設計され(Evans et al., 2012;Hennessy et al., 2015;Miller et al., 2015;Goffin et al., 2016; Cancer, 2018;Tam et al., 2018),カナダ全土の州ごとの国民のデータに基づいた意思決定を行え るツールが提供されている.このツールを用いて,カナダ統計局では全国民のデータを MS によ り再現することにより,がんのみならず様々な政策決定に活用可能なインフラが整っている.健 康関連の MS を包括的に行う POHEM(The Population Health Model)の枠組は OncoSim の発 展にも大きく影響している(Will et al., 2001;“有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン(完 全版)”,2005). 1. 3 本研究の位置づけ 日本ではこれまで CISNET や OncoSim のような MS に基づくがん対策の立案・評価は行われ てこなかったが,MS の有する様々なメリットや諸外国の状況や実績を鑑み,日本においても自 国のデータに基づく MS モデルの構築が望まれるようになった.MS モデルは,各対象集団の遺 伝子的・生理学的といった内因的特徴だけでなく,各独自の文化・環境・医療・政策といった外

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的要因にも強く依存する.そのため海外の MS モデルを日本に適用する際には注意が必要であ る.2007 年に議員立法により成立したがん対策基本法に基づき,国のがん対策推進基本計画が開 始し,5 年ごとに第二期,第三期と計画の立案・評価が国全体および都道府県単位でなされること となった.平成 24 年に第二期がん対策推進基本計画が開始した後,科学的根拠に基づくより精 緻ながん対策の企画・立案・評価が急務とされ,日本版のがん対策を扱う MS モデルを構築する CAMOS-J(CancerModeling and Simulation group Japan)プロジェクトが開始した(加茂,2016).

CAMOS-J において最初に取り組んだ部位は大腸である.大腸がんは日本でのがんの部位別罹 患数第一位(2016 年全国がん登録:Cancer Registry and Statistics. Cancer Information Service, National CancerCenter, Japan.),死亡数第二位(2018 年人口動態統計:Vital Statistics Japan)で あり,早急な対策が必要な部位である.MS モデル構築目的の一つである介入効果の評価に関し ても,大腸がんは検診効果が大きい部位である(Hiwatashi et al., 1993;Saito et al., 1995, 2000)に もかかわらず,日本では未だ制圧段階に至っていない状況である.また,上記の海外での先行研 究(CISNET や OncoSim)では,MS が最初に導入されたがん種であり,数理モデルなど解析に 必要なソースが先行研究において比較的オープンになっている. 本論文では大腸がん MS に関する海外での先行研究を参考に,日本固有の要因やデータなど 様々な条件を組み込むことにより日本版の大腸がん MS を構築し,日本での大腸がん対策におけ る各種事例へ適用した. 1. 4 本研究(CAMOS-J CRC)と先行研究のモデルの比較 CISNET においては,大腸がんに関して ・MISCAN-Colon ・SimCRC ・CRC-SPIN という 3 種類の MS モデルが設定されている(各モデルのマニュアルは https://cisnet.flexkb. net/mp/pub/cisnet_colorectal_joint_profile.pdf#pagemode=bookmarks を参照).これらのモ デルの特徴を,本研究のモデルとの比較の形で表 1 に示す.これらの MS モデルは全て後述の自 然史に基づいて構築されているが,利用データや仮定に関して相違が存在する.例えば,腺腫の サイズは,MISCAN-Colon および SimCRC ではカテゴリー化(<5 mm, 5-10 mm, >10 mm)され ている一方で,CRC-SPIN では連続変数として設定している.あるいは,腺腫の進行に関しては, MISCAN-Colon では進行性と非進行性を区別している一方で,SimCRC は全ての腺腫においてが ん化の可能性を仮定している.これらのモデルを比較した研究として,例えば Lansdorp-Vogelaar et al.(2014)は,検診における利益・不利益バランスを評価指標とし,モデル間の差異 が微小であることを示している.また,Prakash et al.(2017)は,新たに「CMOST」というモデ ルを構築する際に,上記 3 種類のモデルとの比較検討を行っている. がんに関する MS は次の 4 段階のプロセスを経て実装される. ・自然史モデルの構築 ・自然史の構成要素に対する数理モデルの構築

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・シミュレーションの実装 ・キャリブレーション

ここでのキャリブレーションとは,MS の妥当性および再現性を確保する作業(パラメータ同 定を含む)を意味する.以降において CAMOS-J CRC(Colorectal Cancer)における上記各プロ セスを 2〜5 節に記述する.6 節では適用事例と今後の課題について報告する. 2.自然史モデル 自然史モデルとは,がんの発生,進展,死亡に至る変遷を表現し,MS の方針を決定するもので ある.具体的には,発がんに関連する「段階」を複数設定し,「状態」から「状態」への遷移の可 能性を表現したものである.自然史モデルは,発がんに関する全ての可能性を網羅することが目 的でなく,シミュレーションの実装およびリサーチクエスチョン(例えば介入効果の評価),更に は実際に活用できるデータ等を鑑みて,必要最低限な形で設定することが望ましい点に注意が必 要である.このことは,システムの安定化にも繋がる重要な点である. CAMOS-J に お い て は,大 腸 が ん の 発 生 に 関 し て CISNET で の 大 腸 が ん 自 然 史 モ デ ル (Edwards et al., 2010)と同様に adenoma-carcinoma sequence 仮説を採用し,腺腫(adenoma)を 経て腫瘍が発生する自然史モデルを図 1 で設定した.腺腫から腫瘍に進展した後は,診断前(前

CISNET における 3 つのモデル(MISCAN-Colon,CRC-SPIN,SimCRC)および CAMOS-J のモデルに関す る特徴の比較.「〇」は各モデルにおいて考慮されている項目を表す.例えば,治療に対する効果については, MISCAN-Colon と SimCRC においては考慮されているが,CRC-SPIN と CAMOS-J においては考慮されてい ない.ここで「リードタイム」とは,検診による診断日と症状発現による診断日の差の期間のことを意味す る.

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臨床段階)と診断後(臨床段階)の 2 段階が設定されている.ここで前臨床段階とは,検診などで 発見可能な状態に進展した腫瘍であるが,未だ診断に至っていない状態を意味する.一方で臨床 段階とは,腫瘍が診断された後の状態を意味する. CAMOS-J におけるシミュレーションで先行研究と大きく異なる点は,前臨床および臨床段階 内でのステージ設定と,腺腫や腫瘍のサイズについての 2 点である.まずステージ設定に関して は,先行研究では UICC ステージ(病期)分類が使用されているが,本研究ではがん登録で使用さ れている臨床進行度を用いた.具体的には,「限局(腫瘍の進展が当該がんの臓器内に留まる)」, 「領域浸潤(以降,領域.隣接臓器への浸潤や所属リンパ節への転移がみられる)」,「遠隔転移(以 降,遠隔.所属リンパ節の範囲を超えたリンパ節や臓器にも転移がみられる)」の 3 段階(国立が ん研究センター.がん情報サービス.院内がん登録実務者のためのマニュアル.部位別テキスト 「大腸」:https://ganjoho.jp/data/reg_stat/cancer_reg/hospital/info/colon201905.pdf)である. この設定は,前臨床内での状態遷移に関わるデータの制約(Sekiguchi et al., 2016)に対応してい る.コンパートメントが先行研究と比較すると 1 つ少なくなっているが,本質的には同様の設定 である. 次に,腺腫や腫瘍のサイズについては,先行研究では成長モデルを用いて腺腫や腫瘍の成長を シミュレートし,それらのサイズに依存して様々なリスクが変化するものと設定している.この 点を再現するためには,腺腫や腫瘍の時系列観察か,サイズ別の情報(例えばサイズ別の遷移確 率)が必要となるが,日本ではこれらに関するデータは小規模なものしか存在しない.従って, 本論文におけるシミュレーションでは,腺腫や腫瘍の成長は直接組み込まず,経過時間で代用可 能と考えた. 図 1. 大腸がん自然史モデル(CAMOS-J CRC) 病変なしから死亡まで,大腸がんに関連する状態遷移の図説.この自然史モデルを基にシミュレー ションが構築される.

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3.数理モデル 自然史モデル(図 1)における遷移は,基本的には遷移確率をモデル化することにより制御され る.具体的にモデルの構築が必要な個所は図 1 における (A)他死因による死亡 (B)腺腫の発生 (C)前臨床段階への推移 (D)前臨床段階内におけるステージ推移 (E)臨床段階への推移 (F)大腸がん死亡 の 6 つである.以降,これらを構成するモデルについて記述する. 3. 1 他死因での死亡(図 1(A)) 他死因(大腸がん以外)での死亡は図 1(A)に対応し,生命表を用いて算出される他死因死亡 確率を用いる(加茂他,2005;Kamo et al., 2008).年齢階級を実データに即して 5 歳階級とし,各 階級の開始年齢を表すインデックスを t=0, 5, 10, ⋯ とする.また,実データの年齢階級 t におけ る 人 口 を Pop(t),全 死 亡 数 を Mor(t), 大 腸 が ん 死 亡 数 を Mor(t) と す る と,全 死 亡 率 は

α(t)=MorPop(t) , がん死亡率は β(t)=(t) MorPop(t) と表される.これらの情報から,下記の帰納的手(t)

法により生命表を作成する.年齢階級 t の初年人口を q(t) とすると,次の年齢階級の初年人口は

qt+5=qteで推定される.また,年齢階級 t における生命表上での他死因死亡数(a(t)

とおく)およびがん死亡数(b(t) とおく)はそれぞれ

(1) at=qt

1−e

1−α(t)β(t)

, bt=qt1−eβ(t)

α(t) と推定される.これらは 0 歳人口 q(0) を与えれば,帰納的に推定することが可能である.最高 齢の階級では「丸められた」情報となるが,その階級での計算法は(加茂他,2005)を参照頂き たい.なお,以上の数式は,「罹患・死亡ハザードは同一年齢階級内で一定(指数分布に従う)」 および「他死因死亡について,罹患群と非罹患群における差異は無視できる」という仮定の下で 導出されている. 3. 2 腺腫の発生(図 1(B)) 腺腫の発生は,図 1(B)に対応し,その発生確率は消化器がん検診全国集計データを用いるこ とを前提に推定する.年齢階級 t における大腸がん発見数,腺腫発見数,FOBT 受診者数,精密 検査(今後「精検」と記す)受診割合をそれぞれ,CRC(t), Aden(t), FOBT (t), Prop(t) としたと

き,年齢階級 t における腺腫発生確率 P(t) は,大腸がん罹患数を含めた腺腫罹患数を精検受

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(2) P(t)= CRC(t) Se + Aden(t) Se FOBT (t) ×Prop(t) と推定される.ここで,Se および Seはそれぞれ FOBT 検診における大腸がん,腺腫の 感度(疾患有りを正しく疾患有りと判断する確率)である.感度についての詳細は付録の前半部 分を参照いただきたい.ここでは,FOBT 検診で見逃される症例(偽陰性)を考慮するため,大 腸がんおよび腺腫の発見数(CRC(t), Aden(t))をそれぞれの感度(Se, Se)で除すること により,大腸がん・腺腫の罹患数を算出している. 3. 3 前臨床段階への推移(図 1(C)) 腺腫が腫瘍に遷移する際には,未だ診断されていない状態である前臨床段階の「限局」に遷移 するものとする(図 1(C)).その遷移確率は腺腫発生と同じく消化器がん検診全国集計データを 用いることを前提に,年齢階級 t での前臨床段階への推移確率 P(t) を以下で算出した: (3) P(t)= CRC(t) Se CRC(t) Se + Aden(t) Se . ここで,Seおよび Seはそれぞれ大腸内視鏡検査における大腸がん,腺腫の感度である. 上記の式は,大腸がん罹患数を大腸がん罹患数と腺腫罹患数の合計で除することで推定すること を意味している.ここでも腺腫の発生の場合と同様に,大腸内視鏡検査で見逃される症例を考慮 するために,大腸がんおよび腺腫の発見数をそれぞれの感度で割ることにより,大腸がん・腺腫 の罹患数を算出している. 3. 4 前臨床段階におけるステージ推移(図 1(D)) 「限局」の腫瘍はその後「領域」「遠隔」の順に状態遷移してゆく(図 1(D)).これらの推移 は,診断に至らない状態である前臨床段階内でのみ発生する.ここでの遷移確率については,直 接利用できるデータが存在しないことから,MS 全体をコントロールするパラメータと見做して 推定した.具体的には,限局から領域,領域から遠隔という 2 つの遷移確率に対する候補値の組 を設定して MS によるグリッドサーチを行い,年齢別・性別の累積罹患率および死亡率が実測値 に最もよく適合するものを採用した. 3. 5 前臨床段階から臨床段階(図 1(E)) 前臨床段階の腫瘍は,検診受診や症状発現による医療機関の受診により診断され,臨床段階へ 推移する(図 1(E)).ここで,前臨床段階に腫瘍が留まる期間(発見可能な腫瘍サイズになって から診断されるまでの期間)は Sojourn time(ST)と呼ばれる(Walterand Day, 1983).これま での遷移は,その遷移確率をモデル化していたが,ここでは ST をモデル化するのがこれまでと

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異なる点である.ST に関する先行研究(Spratt et al., 1986;Parmigiani and Skates, 2001)と同様 に,本論文においても ST は対数正規分布に従うと仮定した. 3. 6 大腸がん死亡(図 1(F)) 臨床段階へ推移した腫瘍を有する個人は,大腸がん死亡リスクが発生する(図 1(F)).その際 には,他死因死亡による競合リスクの問題を考慮しつつ,大腸がん死亡と治癒の影響のみに着目 した治癒モデル(伊藤他,2011)を用いる.治癒モデルは π を治癒割合,S(t) を全体の生存関数, S*(t) を治癒群の生存関数,S(t)S*(t) を治癒しない群における生存関数として (4) St=S*t{π+(1−π)S(t)} と表現される.ここで S(t) に対して Weibull 型の生存曲線(Weibull, 1951) (5) St=exp (−λt) を仮定し,パラメータ λ, γ, π に対して,λ と γ には対数リンク,π にはロジットリンクを適用し, 年齢と進行度を説明変数とする線形回帰構造を仮定する. 4.シミュレーションシステム 前述した数理モデルの実装には R を用いた.また,推定等に用いるデータは,基本的に 2011 年のものに統一した.MS では初期人口を設定し,そこからの加齢に応じてシミュレートするが, 本研究における初期設定としては,性別に病変なしの 30 歳 100 万人とした.30 歳をシミュレー ション開始年齢とした理由は,大腸がんの罹患死亡に大きな影響を与える検診に関するデータが, 30 歳以下のものが存在しないためである.また,上記の(A)−(F)はそれぞれ独立にシミュレー トされる. 4.1 検診効果 自然史モデルで用いるパラメータは実データから推定するが,大腸がん検診が大腸がんの挙動 に大きな影響を与えること,そして既存のデータは検診が実施されている下で得られていること を鑑みると,検診状況に関する調整が必要となる.本論文では大腸がん検診の一次検診の手法と して FOBT,そして FOBT で陽性となったケースを対象に大腸内視鏡検査による精検を仮定し た.FOBT における感度は,Sekiguchi et al.(2016)を参考にキャリブレーションを行い,腺腫に 関しては低リスクで 0.2(論文中の 10 mm 未満に対応),高リスクで 0.5(論文中の 10 mm 以上に 対応),大腸がんに関しては「限局」と「領域」で 0.7, 「遠隔」で 0.8 と設定した.特異度の算出 に関しては,付録に詳細を示した.また,FOBT 受診については大きく二種類の由来(職域検診 と自治体検診)が存在するが,その受診状況については,田淵他(2012)の情報および「受診せ ず÷(自治体検診+受診せず)=0.2」というルール(常に一定割合の生涯未受診者が存在する)に 基づいて,性・年齢別に表 2 のように設定した. 解析に用いる実データは,全て表 2 の受診率の下で得られているものとした.

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4.2 他死因死亡(図 1(A)) 図 1(A)に対応する他死因死亡率を推定するには,性別・年齢階級別の人口および死亡数(全 死亡と大腸がん死亡)が必要である.これらについては人口動態統計の 5 歳階級別データを用い た.他死因死亡率を他死因死亡が発生する確率とした二項乱数を用いて他死因死亡を仮想的に発 生させた. 4.3 腺腫発生(図 1(B)) 他死因死亡しなかったケースに関して,3.2 節に記した方法により腺腫を発生させた(図 1(B)). 具体的には,他死因死亡と同様に,発生確率に基づいた二項乱数を用いて腺腫を発生させた.そ の際に,腺腫の保有にかかわらず新規の発生は独立であるとした.従って,一個人が腺腫を複数 保有することもあり得る.実際に,消化器がん検診学会の集計(2012 年)においては,5.6 % が複 数の腫瘍を有するという報告がなされている.なお,腺腫保有者が検診を受診した場合には,上 で設定した感度および精検受診率に基づいてその発見をシミュレートし,発見された場合の腺腫 は全て内視鏡により除去され,個人としては再び病変なしの状態に戻るものとした. 4.4 前臨床段階への遷移(図 1(C)) 3.3 節に記した腺腫から前臨床段階への遷移については,個人が複数の腺腫を保有する可能性 を鑑み,個人から腫瘍へとシミュレーションの仕様を変更する.各腺腫に対して式(2)によって 前臨床への遷移確率を推定し,二項乱数によって前臨床段階への遷移を発生させた. 4.5 前臨床段階の状態遷移と臨床段階への遷移(図 1(D)と(E)) 3.4 節に示した通り,診断前の前臨床段階において「限局」の腫瘍は「領域」へ,更に「領域」 の腫瘍は「遠隔」へ遷移する可能性を有する.限局から領域,領域から遠隔へ推移する割合はキャ リブレーションにより,それぞれ 0.22, 0.28 /年と推定した. 上記の遷移は,前臨床段階に留まる期間内に限定されるため,3.5 節に示した通り前臨床段階に 要する期間である ST を推定する必要がある.ST については,日本では利用可能なデータが見 当たらなかったため,海外(ドイツ)の文献ではあるが Brenner et al.(2011)の情報に基づき, ST は平均 5 年,標準偏差 0.2 の対数正規分布に従うものとし,前臨床の腫瘍毎に ST を推定した. この ST 期間内に FOBT 検診を受診した場合には,前出の FOBT 感度と精検受診率に基づいて 受診率のパーセンテージは,性・年齢階級別に「職域+自治体+なし=100 %」 となる形で表現している. 表 2. 受診率

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検診発見をシミュレートし,発見された段階(限局,領域,遠隔)に応じて臨床段階へ遷移する (診断される)ものとする.つまり,検診による早期診断により臨床段階での予後(生存率)が良 くなる効果が期待される. 4.6 大腸がん死亡(図 1(F)) 3.6 節に示した大腸がん診断後の臨床段階から大腸がん死亡までに関しては,治癒モデル(4), (5)を用いた.治癒モデルにおけるパラメータの推定には,長期生存率が計測可能な 6 府県の地 域がん登録資料である J-CANSIS(Ito et al., 2014)を用いた.これは,1993 年から 2006 年までに 大腸がんと診断された患者を 5〜10 年予後追跡したものである. 説明変数の性別,年齢,ステージはダミー変数で設定した.男性,65 歳以上,領域,遠隔をそ れぞれ「1」に設定した際のパラメータを表 3 に示す. 4.7 シミュレーションの実行例 自然史モデル(図 1)を基にした MS について,個人レベルでの実行例を図 2 に示す. 図 2 では,同一個人について,検診を受診しない状況下において大腸がんの自然史を経過する 一生涯(シナリオ①検診なし:上部)と,45 歳で検診を受診する状況下において大腸がんの診断・ 治療を受ける一生涯(シナリオ②検診あり:下部)の 2 種類のシナリオに基づく生涯履歴を記載 している.同一個人に対して①と② 2 種類のシナリオ設定で MS を実行する. いずれのシナリオにおいても 30 歳で病変のない状態を起点とした.まずシミュレーションの 最初の段階で,図 1(A)の部分について,大腸がんを発症しなかった場合の他死因死亡年齢を, 一般集団の生命表に関する 3.1 節の理論に基づいた 4.2 節の方法を用い 85 歳と割り当てた.その 後,各個人に 3.2 節および 4.5 節の方法を用い腺腫の発生を割り当てるが,この事例では 35 歳で 1 番目,38 歳で 2 番目の腺腫が発生した.検診を受診しないシナリオ①では,1 番目の腺腫は発 見されることなく成長し,43 歳に限局の臨床進行度の腫瘍となった.この時点で 3.5 節および 4.5 節の方法を用い ST として 20 年を割り振り,20 年後までは症状が発現しない腫瘍として体内 で成長する.2 番目の腺腫は 1 番目の腺腫より成長が速く 41 歳で腫瘍となり前臨床段階に遷移 した.この腫瘍は症状発現に至るまでの ST を腺腫 1 と同様の手法を用い 15 年と割り振り,ス テージ遷移に関する 3.4 節および 4.5 節の方法を用いると,48 歳で領域,51 歳で遠隔と進展する が症状発現前の前臨床であり,最終的に ST として割り振られた 15 年が経過した 56 歳の時点で 式(5)に含まれるパラメータの J-CANSIS データに基づく推 定値.性別・年齢・ステージはダミー変数であり,女性,65 歳 以上,領域,遠隔を「1」に設定した. 表 3. 治癒モデルにおけるパラメータの推定値

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症状発現により臨床段階に遷移した(つまり症状発現により受診し診断された).この時点で予 後の悪い(5 年生存率 20 % 以下)遠隔の臨床進行度で診断され,生存率に関する 3.6 節および 4.6 節の方法を用い 60 歳で大腸がんにより死亡した.このように複数の腫瘍が存在する場合,発現 時の進行度が重篤な方で診断される設定とした. 次に,同じ自然史をもつ事例が,4.1 節に示した内容に即して 45 歳で検診を受診した場合のシ ナリオ②(図 2 下部)を見ていく.寿命や腺腫発生・成長速度はシナリオ①と同様である.しか し 45 歳に FOBT で要精検となり,大腸内視鏡による精検を受診することで,限局の進行度の大 腸がんと診断され臨床段階に遷移した.シナリオ①において ST は各腫瘍それぞれ 15 年と 20 年 であり,最初に症状が発現するのは 56 歳であったが,その前の 45 歳での検診受診により限局の 臨床進行度で診断され,4.6 節に示した限局における生存関数のパラメータが適用された.限局 の予後は良い(5 年生存率 95 % 以上)ため長期生存が可能であり,大腸がんによる死亡年齢は 90 歳となるが,シナリオ①において既に寿命が 85 歳と推定されているため,85 歳で他死因によっ て死亡した.従って,この場合の検診受診による寿命延長効果は,検診を受診しないシナリオ① が 60 歳での死亡であるため,その差の 25 年となる.なお,検診により診断された時期と症状発 図 2. MS のコンセプト 一個人に対して,{検診有り・無し}2 種類の設定における{個人・腫瘍}に対するデータベースを 作成する.検診無し状態で最も大腸がん死亡率の高い状況を作成し,そこに検診情報を被せて現状 を再現する.一個人が複数の腫瘍を有する可能性があるため,個人と腫瘍の 2 種類のデータベース が必要となる.

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見により診断された時期の差をリードタイムという. このように,一個人に対して検診のない状態を先にシミュレートし,それを基本情報として様々 な検診受診の状況のシナリオを適用する形で MS を実行している.この方法を性別に 100 万人 実行し,集団全体に対する大局的な結果を得る. 5.妥当性の検証 2011 年の実測値と 2011 年データに基づいた MS での数値の整合性により,構築された MS モ デルの内的妥当性を検証した.実データから直接的に推定できないパラメータである前臨床段階 内での状態遷移(図 1(D))については,この段階でキャリブレートした. 検証例の一つとして,MS 全体を総合的に判断できる指標である大腸がん累積罹患・死亡リス クを性別に算出した結果を図 3 に示す.累積リスクの具体的な算出方法は加茂他(2005)を参照 頂きたい.ここで,罹患データに関しては,国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・ 統計」において公表されている地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(https://ganjoho. jp/reg_stat/statistics/dl/index.html)を用いた. 図 3 において,実線が実測値,破線が MS により得られた数値である.男女ともに実測トレン ドを MS によりほぼ再現できていることが分かる.しかしながら,30 歳直後の初期段階におい て MS による結果が過小評価されている傾向が伺える.罹患では,男性で 75 歳の階級,女性で 65 歳の階級で,死亡では男性で 70 歳の階級,女性で 60 歳の階級で実測とシミュレーション値が 逆転した.この原因としては,MS における人口の設定が 30 歳で病変無しと設定しているのに 図 3. 累積リスク 横軸は年齢,縦軸は累積リスク,実線が実測値,破線が MS により再現された挙動を表す.

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対し,実際のデータには 30 歳での腺腫保有者が含まれるため,シミュレーション初期段階では罹 患・死亡ともに実際のリスクに比して過小評価されると考えられる.一方,全体としての適合バ ランスを保つために高齢部分で過大評価になる傾向が窺える.これらの問題点に関しては,0 歳 から 30 歳における腺腫の情報が存在すれば「0 歳病変無し」を起点にしたシミュレーションが可 能となり,解決可能と考えられる. 他の内的妥当性の検証例として,検診と発がん両方を観察できる「検診受診者中の腺腫保有割 合」に関する年齢階級別の結果を図 4 に示す.実測値は消化器がん検診全国集計データであり, MS で得られた数値を併記し比較した.最高齢の年齢階級以外では,MS による腺腫保有割合が 僅かに過小評価されていることが分かる.このことは,先の例での考察と同様に,MS において 「30 歳腺腫無し」を基点とすることによる可能性が考えられる.他にも,個人の属性に応じた検 診受診状況(例えば,大企業に所属するため,毎年がん検診を欠かさず受診するといった個々の 特性やその分布)を現時点では厳密には反映できていないことに原因がある可能性もある.しか しながら,全体的には年齢に依存する特徴を MS により再現できていることが分かる.他にも内 的妥当性については検診受診率・要精検率・精検受診率・診断時進行度分布による確認を行った. 最後に,MS に含まれるパラメータおよびそれらの推定において用いたデータソースを表 4 に 示す. 図 4. 検診受診者中の腺腫保有割合 検診受診者中での腺腫保有割合について,年齢階級別の挙動を実測値(消化器がん検診全国集計データ)と MS での値を併記する.

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6.適用事例と今後の課題 6.1 FOBT による大腸がん検診・精検受診率の向上による死亡率減少効果 FOBT は,1990 年代から住民対象に実施されてきた厚生労働省が推奨する大腸がん検診であ る.しかしながら,2013 年における FOBT による大腸がん検診受診率は,国民生活基礎調査 (https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html)によると,男性 45 %,女性 35 % と低い.ま た,FOBT による一次検診で要精密検査となった対象は,大腸内視鏡検査を受診することになる が,その受診率についても男女ともに 65 % と低く,多くの要精検者が高リスクであるにもかかわ らず診断・治療に繋がる機会を逃しているのが実情である.そこで,第三期がん対策推進基本計 画において,受診率の目標値が FOBT による一次検診で 50 %,精検で 90 % と設定された(https: //www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html).検診受診率の向上による効果 は大きく 2 つ考えられ,1 つは腺腫の段階で発見され除去されることにより大腸がんの罹患を減 らす効果,もう 1 つは前臨床段階で症状が発現する前に早期発見されることにより,治癒可能な 進行度での診断・治療による死亡率減少効果である. 受診率向上の効果が反映される指標のうち,大腸がん死亡率の減少効果を CAMOS-J CRC に より推定した.上記の目標値を達成した場合,大腸がんでの 75 歳未満の年齢調整死亡率は男性 で 9.4 % 減,女性で 6.2 % 減と試算された.この内容は厚生労働省における第 63 回がん対策推進 協議会(第 63 回がん対策推進協議会資料 11:がん対策推進基本計画の全体目標(片野田参考人提 CAMOS-J 大腸シミュレーションにおいて用いたデータ一覧 表 4. データソースとパラメータ

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出 資 料)http://www. mhlw. go. jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkou zoushinka/0000148815.pdf)でも報告され,第三期がん対策推進基本計画における,死亡率減少に 関する具体的な数値目標設定の基礎資料としての採用が期待されたが,残念ながら死亡率減少の 目標値自体が設定されなかった.その一方で,第三期大阪府がん対策推進計画においては,MS モデルによる大腸がん死亡率減少効果の推定結果が活用され,大阪府がん対策における死亡率減 少の目標値が具体的に設定された(大阪府.第 3 期大阪府がん対策推進計画(資料編)2018:http: //www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/keikaku/). 6.2 大腸がん検診の年齢上限の設定 大腸がん検診において,一次検査の FOBT では侵襲が少ないが,大腸内視鏡検査は,体への侵 襲が大きく,腸壁穿孔などの有害事象が発生することがある.このようにがん検診には利益だけ でなく,不利益が付随する.特に高齢になるほど,検診の不利益を被る可能性がある.そこで, CAMOS-J CRC を用いて検診の年齢上限設定を主目的とした議論を進めた(中山富雄,2017). 具体的には,大腸がん検診の実施による利益(延命効果など)と不利益(有害事象の発生など) に対し,双方のバランスを様々な設定の下でシミュレートすることにより最適な上限年齢の設定 を探索した.この研究班において検討された結果はがん検診の検討会での参考資料として使用さ れる予定である.今後の展開としては一次検診から内視鏡検査を取り入れるといった検診手法間 の比較や,それに伴い検診受診間隔の吟味を取り扱えるように MS を拡張し,検診政策全体に関 わる最適化をシミュレートすることなどを最終目標としている.一方で,がん対策においては, その費用対効果も重要な要因となることから,例えば Gini et al.(2017);Arrospide et al.(2018); Naber et al.(2018, 2019);Meester et al.(2019)のような検診実施のコストの概念を導入した議論 も必要である. 6.3 CAMOS-J CRC モデルの限界 現時点での CAMOS-J CRC モデルが抱える課題も存在する. まず,CAMOS-J においては,腺腫や腫瘍のサイズを考慮していない点が CISNET と大きく異 なる点である.この問題は利用可能なデータの種類に依存しており,腫瘍成長に関する実データ が存在しないため,サイズのモデル化が不可能となっている.腫瘍成長をモデル化するためには, 腫瘍を放置した経時的な成長データが必要であるが,倫理的な観点からもそのような観察研究は 困難と考えられる.しかしながら,もし腫瘍サイズのモデル化が実現すれば,CISNET で実行さ れているようなサイズ依存のリスク評価が期待できる. 次に,一個人における複数の腺腫の取り扱いが課題となっている.腺腫の発生は生活習慣に依 存すると考えられるため,一度腺腫が発生した個人には,追加の腺腫が発生しやすいと考えられ る.あるいは,検診発見により腺腫を取り除いたとしても再発しやすい個人的な特徴も考えられ る.しかし,これらに関しても利用可能なデータが無いため,本シミュレーションにおいては腺 腫の発生は腺腫毎に独立であると仮定し,検診発見により腺腫を取り除く際には取り残しは発生 しない,また取り除いて病変なし状態に戻った後には再発しないと仮定した.これらの仮定の再

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考が今後の課題である. 以上はデータに依存する課題であったが,シミュレーションに依存する課題も存在する.その 一つが,前臨床段階の腫瘍を検診で発見した際には早期に臨床段階に遷移するが,臨床段階での 生存率が低いことから,シミュレーション上では検診しない状態より早いタイミングで死亡する 「逆転現象」である.このような逆転現象は実際にはあり得ないため,シミュレーション上では, 検診のない状態での寿命と等しく扱っている.他にもシミュレーション上発生する現実との不整 合は,強制的に現実に即す設定を施している.これらが発生する状況は特殊であり,全体に比し て極めて小さいサンプルでのみ発生するため,現時点においては全体的な挙動には影響を与えな いと考えているが,改良の余地が残されている課題である. MS の妥当性検証について,内的妥当性について 5 節で紹介したが,今後は数値的なアプロー チも有効であると考えている.例えば,図 1 に示す自然史モデルにおいて個別データが得られる コンパートメントでは,ブートストラップ・リサンプリングによりパラメータを推定することに よる MS の乱数改良が可能である.あるいは,クロスヴァリデーションによってパラメータ推定 の安定性を観察することにより内的妥当性が深まる可能性もある.一方で,米国やカナダでは MS の外的妥当性について議論されることが多い.政策決定者や臨床医などに MS の妥当性に関 して理解を得るためには,RCT を MS により再現することが効果的である.しかし,本邦で実施 された大腸がん検診の RCT は存在しないため,現時点での同様のアプローチは不可能である. 一方で,ある地域で検診導入前後の変化など過去の実例データを用いるなど,ヒストリカルな状 況設定での妥当性の検証は今後の課題である. MS モデルは,対象となる事例に対応するために,常にモデルのアップデートが必要となる. 疾患の病態や診断・治療に関する新たな知見が得られた場合,モデルの枠組みを大幅に変更する 必要性を考慮しなければならない.本報告で紹介した CAMOS-J CRC についても,今後も対象 とする事例に応じた更新と発展が必要となる. 6.4 今後の展開 本報告で構築した MS は,他のがん種や他疾患への適用が幅広く期待される.現在,大腸がん 以外にも胃がん・肝がん・肺がん・乳がん・子宮頸がん・前立腺がんなどのがん種横断的にモデ ル構築に基づく研究活動を行っている(片野田,2016).また,同じく基盤研究(A)「健康政策を 効果最大化と格差縮小の両軸で評価するためのツール開発:肺がんを事例に」(研究代表者:祖父 江友孝 2019-2023 年)においては,健康格差評価に特化した肺がん MS モデルを構築し,健康格 差縮小に向けた介入効果の検証により,政策における意思決定を実施するためのツール開発を 行っている(祖父江,2019). 開発した MS の積極的な利活用という点に関しては,プログラムコードの公開や政策決定に関 わるユーザーが容易に操作できるアプリケーションの開発も必要となってくる.CISNET にお いては web 上での操作により様々なアウトプットが得られるシステムが構築されている.例え ば,米国ではたばこ税や受動喫煙防止の法律やたばこ対策への支出,喫煙開始年齢など,2200 を 超える政策シナリオに基づいた州別の喫煙率・死亡回避数・獲得生存年の変化が Web ベースで

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提供されている(https://tobaccopolicyeffects.org/).カナダの OncoSim においても,MS の結 果を各州のがん政策担当者が容易に使用できる Web ベース(公開ではなく,登録により使用可 能)のツールが公開されている(https://www.partnershipagainstcancer.ca/tools/oncosim/). 現在,本研究のシミュレーションは R 言語を用いて実装されているため,プログラミングの専 門知識を有する一部の利用者に限定されている.この点について,例えば付随する Shiny パッ ケージを用いて双方向型のインターフェイスを作成し,米国やカナダと同様の形式で公開するこ とにより,政策担当者が手軽に活用できるツールが提供可能である. 7.おわりに 本研究においては,日本版の大腸がん MS モデル(CAMOS-J CRC)を構築し,がん対策の各事 例へ適用を行った.MS モデルは,最新データやエビデンスの導入・拡張,社会変化との整合調 整,プログラムの最適化・高速化といった点について逐次更新・改良を繰り返す必要がある.実 際に,CISNET や OncoSim においても,これまでに 10 年以上継続的に改良が進められてきた. 本報告は,日本で初めて構築された大腸がん MS の実際について,活用事例を含め政策決定者・ 行政担当者・関係研究者への理解を促すことを目的に,可能な限り詳細に記載するよう留意した. 本 MS を様々なリサーチクエスチョンに対応できるように更新し,それらを用いたアウトプット を実際の政策立案・評価において活用したい. 謝 辞 本稿を丁寧に査読いただき有益なコメントをいただいた査読者の方々に感謝申し上げたい.本 研究は,以下の研究費の助成を受けている: ・厚生労働省科学研究費「がん対策推進基本計画の効果検証を目標設定に関する研究」(代表:加 茂憲一,2014-2016 年度) ・厚生労働省科学研究費「科学的根拠に基づくがん種別・年代別検診手法の受診者にわかりやす い勧奨方法の開発に関する研究」(代表:中山富雄,2017-2019 年度) ・厚生労働省科学研究費「都道府県がん登録の全国集計データと診療情報等との併用・突合によ るがん統計整備及び活用促進の研究(H29-がん対策-一般-016)」(代表:松田智大,2017-2019 年度) ・文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(B)「集団における疾病の罹患・死亡状況の要因分析 と介入効果の予測研究」(代表:片野田耕太,2017-2020 年度) ・厚生労働省科学研究費「がん対策の進捗管理のための指標と測定の継続的な発展に向けた研究 (H29-がん対策-一般-020)」(代表:東尚久,2017-2019 年度) ・文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(A)「健康政策を効果最大化と格差採取の両軸で評価 するためのツール開発:肺がんを事例に」(代表:祖父江友孝,2019-2023 年度) ・国立がん研究センター研究開発費「シミュレーションモデルに基づく個別化がん予防アプロー チの効果検証研究(31-A-20)」(代表:齋藤英子,2019-2021 年度)

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(23)

付録

腺腫あるいは大腸がんの保有状況と FOBT の診断結果に基づき,FOBT 受診者は以下の 4 カ テゴリーに分類される.

・腺腫か大腸がんを保有し,FOBT 診断結果は陽性:真陽性(True positive) ・腺腫か大腸がんを保有し,FOBT 診断結果は陰性:偽陰性(False negative) ・腺腫も大腸がんも保有せず,FOBT 診断結果は陽性:偽陽性(False positive) ・腺腫も大腸がんも保有せず,FOBT 診断結果は陰性:真陰性(True negative)

TP,FN,FP,TN をそれぞれ,真陽性,偽陰性,偽陽性,真陰性者数とすると,次の表 5 は n 人の FOBT 受診者を上記の区分で表す分割表である. ここで,大腸がん保有者数を a, 腺腫保有者数を aとしている.まず,FP は精密検査受診で異常 なしの数と精密検査非受診で異常なしの数の和により求まる.次に,FOBT の特性を表現する指 標として,感度 Se と特異度 Sp を以下で定義する. Se=TP+FN , Sp=TP FP+TN .TN いま,Seと Seをそれぞれ大腸がんと腺腫に関する感度とすれば FN=a1−Se Se + a1−Se Seを得る.表 5 より,FN+TN= n−TP+FP であるので,上記の FN,TP,FP,n を用いること で,TN および特異度が計算可能となる. しかしながら,精密検査非受診者における大腸がん保有者数(aの一部)・腺腫保有者数(aの 一部)は実際には観測されない.そこで,精密検査非受診者における大腸がん保有者数・腺腫保 有者数の分布は,精密検査受診者の分布と等しいと仮定することにより,精密検査受診者と等し い割合で精密検査非受診者数への重みづけを行う.つまり,a, a, aをそれぞれ,精密検査受診 者における大腸がん保有者数,腺腫保有者数,異常なし数とし,a, a, aをそれぞれ,精密検査非 受診者の大腸がん数,腺腫数,異常なし数とする(a+a=a, a+a=a).このとき,非精密検 査受診者の数を b とすると, a= a   a×b, =1, 2, 3 となる. 表 5. 真陽性,真陰性,偽陽性,偽陰性に関する分割表

表 1. CISNET の 3 モデルと本研究(CAMOS-J)のモデルの比較

参照

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