K4格子構造のフェノール樹脂モデルの電気伝導性評価の予備的検討Preliminary study on electric properties of phenolic resin with K4 structure
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(2) HPCI Research Report 1. 研究の背景と目的 工業的なフェノールやエポキシ樹脂材料では、ガラスや金属などのフィラー充填剤を混ぜ、電 気伝導性や熱物性などの物性を調整している。高機能化やメカニズム解明を目指す計算材料研究 の視点では、樹脂とフィラー界面の相互作用の取り扱いの観点などから、DFT レベルの計算での 評価計算が望まれている。現時点でも、多数の原子数を扱う大規模計算は困難であることから、 できるだけ小さいモデルで検討できることが望ましい。配位数3のフェノール樹脂が理想的に架 橋した最小モデルとして K4 格子構造(SRS 構造)が考えられる。本研究課題では、予備的な計 算として、フィラーを含まない K4 フェノール樹脂モデルの最小モデル(最小原子数)で電子状 態のバンド図を評価し、K4 フェノール樹脂モデルの電気的性質が実験的に知られているように 絶縁体となることを確かめ、モデルの有効性を示すこととした。また、これまで Intel 系計算機で 予備検討を進めてきたが、平成 26 年度 HPCI 課題では計算資源として、北海道大学 情報基盤セ ンターの Hitachi SR16000 を割り当てて頂いたことから、Intel 以外の計算機での演算性能や最適 化の可能性を探るための検討も行うこととした。. 2. 計算モデル 2.1 計算対象とする構造モデルについて 将来的には、ネットワーク構造をもつフェノール樹脂に、ガラスや金属などのナノ構造体をフ ィラーとして含む大規模系で、電気伝導性や熱伝導性を系統的に評価したいと考えている。現状 では、計算規模の問題からは、架橋したフェノール樹脂についてなるべく小さい構造モデルがあ ると好ましいと考えられる。3配位まで結合できるフェノール樹脂は、等方的かつ均質なネット ワーク構造を持つ場合を想定すれば、全てが配位数3で作られる格子構造を理想的なバックボー ンの1つとして扱うことができる。純粋数学の離散微分幾何の観点では、3配位の結節点から成 るネットワークの強い等方性を持つ構造として、K4 格子が導出されている[1]。結果的には、結 晶学で発見されている Laves の 31 グラフが作る net(結晶を構成する球の中心と接触点を通過す る線)と同一のものであり、SRS 格子や Well’s (10,3)-a グラフと呼ばれるものである。なお、本 研究では、SRS 格子が SrSi2 という物質に由来する事実と、K4 対称性が均等性等方性に関する数 学条件に由来することを踏まえつつ、均等で等方的なゲル・ネットワークを検討する立場から、 K4 対称性の名に由来し、K4 格子構造のフェノール樹脂と呼ぶこととした。 K4 格子構造のフェノール樹脂では、炭素原子のネットワークは、K4 格子構造に由来した対称 性の高い構造を持つが、酸素原子は、1つの六員環に対し、3カ所の結合可能箇所のうち1つだ けにランダムに結合している。研究のポイントとしては、酸素の位置をランダムに変えるととも に、酸素の有無を考えることに意義あると考えられる。なお、酸素の位置がランダムである場合 を検討するためには、ランダムネスのため、比較的大きな計算規模を必要とすると考えられる。. 17.
(3) HPCI Research Report 図1(左)は、K4 フェノール樹脂の炭素と酸素でできた骨格構造である。六員環に1つ飛び出 た棒の先端が酸素の位置である。図1(右)は、 (六員環の)酸素を取り除いた簡易構造である。 ともに、一辺がユニットセルの2倍の大きさの図である。. 図1 K4 フェノール樹脂の骨格構造の概要. 以下では、 便宜上、 図1(左)の構造を Double K4 フェノール樹脂 (酸素あり) 、 図1(右)を Double K4 フェノール樹脂(酸素なし)と呼ぶことにする。また、入れ子格子の片側だけの場合を、Single K4 フェノール樹脂(酸素あり/酸素なし)と呼ぶことにする。. 2.2 計算手法について 本研究課題では、擬ポテンシャル法・平面波基底を用いた第一原理計算において、電気的性質 を調べるために、xTAPP(eXtended Tokyo Ab-initio Program Package)[2]を用いた。なお、xTAPP は、原子配置の構造最適化、電子状態密度(DOS、およびバンド構造)計算を得意としている。 擬ポテンシャル法・平面波基底を用いた第一原理計算においては、与えられた原子配置に対し て、 (構造緩和を行わず)電子状態計算のみを行うことができる。K4 格子構造および double K4 格子構造のフェノール樹脂等の初期配置については、一部パラメータ調整を行った GAFF 汎用ポ テンシャルを用いた古典分子動力学法(LAMMPS、OCTA/cognac を利用)で、十分長い時間緩和 させた原子配置を用いた。また、この古典 MD 計算で得られた原子配置は、非現実的な高密度と はならず、現実のフェノール樹脂に近いことを確認した。本研究では、この古典 MD で得た配置 を固定し、電子状態を評価した。 (本来は、この配置を initial guess とした構造最適化を行い、電 子状態を評価すべである。割り当てられた計算時間を踏まえ、計算の手順と性能最適化検討を優 先した。 ). 18.
(4) HPCI Research Report xTAPP によるこの系の計算では、計算精度と計算時間に関係する主要パラメータとして、下記 のものが挙げられる。 ・cutoff_wave_function: 波動関数を展開する平面波のカットオフ波数(カットオフエ ネルギーに対応。36Ry とする場合、波数 6.0 となる。 ) ・bz_mesh: ブリュアンゾーンの grid 分割数(k 点サンプリングの数に対応。 ) ・number_band: バンド数 なお、セルの大きさは、構造最適化せず、一定とした。ここでは、フェルミ面積分は、cos 展開 法を用い、ブリュアンゾーンは、1つのタイルでサンプルすることとし、mmm(1:3,2,*)=/2,2,2/で、 Gamma 点を含むように設定した。その他の主要な設定条件は、次のようにした。 ・対称性行列の数は、1 とした。 (原子配置としてはアモルファスに近い系を扱うため。 ) ・交換相関汎関数は、PBE を用いた。. 3. 並列計算の方法と効果(性能) 本課題では、 xTAPP が標準的に用意している MPI-OpenMP ハイブリッド並列を利用し、 BLAS、 LAPACK、FFTW3 のライブラリ利用のアプリケーション性能最適化を検討した。特に、プログ ラムコードの変更はしなかった。ターゲットとする計算対象について、プロファイラーベースの 性能把握を行い、ホットスポットなどの分析をし、最適化作業の方針を立てた。結果的には、 Hitachi SR16000 向けに最適化されている IBM ESSL 数学ライブラリを利用することで性能向上を 図った。 xTAPP は、Intel Compiler や Fujitsu コンパイラに対して、コード開発が行われている。FFTW3 の interface として、fortran 2003 形式が用いられていたため、Hitachi SR16000 で利用するために、 北海道大学で用意されたライブラリ(blas、lapack、fftw3)では古いため、lapack-3.5.0 や fftw-3.3.4 を独自にコンパイルして準備した。コンパイラは、IBM XL コンパイラを用いた。Hitachi SR16000 の4ノードを用いて、32MPIprocs – 2 OpenMP の条件で、計算時間と SCF 計算の収束回数の評価 を行った。ここでは、xTAPP は、140129 版を用いた。ここでは、主要な設定パラメータは、 cutoff_wave_function=10.0、bz_mesh=6 とした。なお、事前の予備検討で計算した Fujitsu CX400 の場合、band 数(number_band)の設定は、SingleK4 に対して 180、DoubleK4 に対して 360 とした。 一方で、Hitachi SR16000 の場合は、band 数(number_band)を増加させることで、収束させるこ とができた。 (この点からは、コンパイラでの最適化に起因した数値精度への影響などの恐れが 考えられ、詳細分析は今後の課題である。 ) 結果は、表2に示すとおりである。また、比較のために、名古屋大学 Fujitsu CX400 を用いた 準備的計算の結果も示す。 (この準備的計算では、xTAPP は 130701 版を用いた。 )両者の比較か らは、北大での最適化作業前では、明らかに Fujitsu CX400 の利用の方が望ましいという結果が 得られた。. 19.
(5) HPCI Research Report. 表1 SR16000 での ESSL ライブラリ利用前の計算時間と、SCF 収束回数と設定した band 数. Single K4 Double K4. 酸素なし 酸素あり 酸素なし 酸素あり. 原子数 北大 SR16000(4nodes) 名古屋大 CX400(4nodes) 108 4823 秒/20 回/240 1445 秒/23 回/180 116 6719 秒/21 回/280 1875 秒/24 回/180 216 33030 秒/22 回/360 7388 秒/22 回/360 232 63492 秒/56 回/480 18831 秒/43 回/360. その後、BLAS と LAPACK について、NAG SMP ライブラリと IBM ESSL ライブラリの利用で 最適化を行った結果は、表2に示すとおりである。 (band 数は、ESSL-lib 利用前と利用後で同一 となる値を設定した。 )高く性能向上することが分かった。この結果からは、北大 Hitachi SR16000 (980.48GFlops/node)と名大 Fujitsu CX400(518.4GFlops/node)は、FLOPS 性能は異なるものの、 1 ノードあたりの性能(計算時間)で、概ね同等と分かった。. 表2 SR16000 での ESSL ライブラリの計算時間と、SCF 収束回数. Single K4 Double K4. 酸素なし 酸素あり 酸素なし 酸素あり. 原子数 108 116 216 232. ESSL-lib 利用前 4823 秒/20 回 6719 秒/21 回 33030 秒/22 回 63492 秒/56 回. ESSL-lib 利用後 1832 秒/21 回 2334 秒/21 回 8428 秒/22 回 16567 秒/56 回. 4. 研究成果 本検討では、実際の材料特性を踏まえ、今回のフェノール樹脂モデルが絶縁体の性質を示すこ とを確かめることを目的とした。本来は、xTAPP で構造緩和させた後の原子配置で評価すべきで あるが、割り当てられた計算資源で実施することを踏まえ、 「古典 MD 法でサンプリングした構 造配置」と(別途) 「Quantum Espresso [3](PWscf)で k 点サンプリングを Γ 点のみとして構造緩 和した配置」の2つの配置を固定条件として、電子状態の SCF 計算を実施しバンド構造を評価し た。バンド図の作成では、xTAPP 付属の vbpef コマンドでバンド構造の情報を得て、xTAPP-util の vbpef2gp-lsda を用いた。ここで、対角化計算を行うバンドの数(trace band data セクションの number_band)は、main data セクションで指定したバンド数の 1.2 倍とした。 酸素のない2つの構造では、古典 MD 法で得た配置と、PWscf で Γ 点のみで構造緩和させた配 置に対するバンド図は、概ね同じ振る舞いをしていた。一方で、図2に示すように、酸素のある 構造に対するバンド図では、古典 MD 法で得た配置と PWscf の構造緩和で得た配置の間で明らか な差が見られた。これは、フェノール基にランダムに接続された酸素が存在する場合、古典 MD でサンプルした原子配置では揺らぎが大きく、バンド構造の評価が適切ではないと考えられる。 20.
(6) HPCI Research Report. 図2 K4 フェノール樹脂のバンド図 (L 点→Γ 点→X 点) 左は、古典 MD で得た配置。右は、PWscf で構造緩和(Γ 点のみ)した配置。 上の図は、SingleK4(酸素あり) 、下の図は、DoubleK4(酸素あり)に対応する。. 表3 K4 フェノール樹脂モデルのバンドギャップの大きさ. Single K4 フェノール樹脂 Double K4 フェノール樹脂. 酸素なし 酸素あり 酸素なし 酸素あり. PBC の一辺 10.311 A 10.534 A 12.887 A 13.222 A. 密度 0.94 g/cm3 1.06 g/cm3 1.06 g/cm3 1.21 g/cm3. 古典 MD 3.65 eV 2.25 eV 3.15 eV 0.475 eV. PWscf 3.70 eV 3.25 eV 3.55 eV 2.84 eV. 評価したバンド図のバンドギャップの大きさを評価すると、表3のようになった。古典 MD の 構造配置をそのまま用いた評価については、特に、酸素がある場合、 (バンド図も適切ではない が)バンドギャップは小さく、現実のフェノール樹脂材料から期待される絶縁体の挙動とは異な っていた。一方で、PWscf で構造緩和後(Γ 点のみ)の配置から評価したバンド構造からは、今 回扱ったフェノール樹脂モデルが絶縁体となることを確かめることができた。以上のことから、 酸素を含むフェノール樹脂材料モデルでは、古典 MD の原子配置に対する SCF 計算で評価した 電子状態のバンド図の評価は良くはなく、DFT 計算で構造緩和させることが必要であることを確 認した。 21.
(7) HPCI Research Report 5. まとめと今後の課題 本検討では、予備的な検討として、xTAPP の北海道大学情報基盤センター Hitachi SR16000 で の最適化を検討するとともに、K4 格子構造のフェノール樹脂モデルが絶縁体であることを確か めることができた。最適化の結果としては、Intel 系の計算機(名大 Fujitsu CX400)と同等の計 算時間となった。この結果から、当初の方針通り、プロダクトラン等においては、Intel 系の計算 機を中心に利用することが、ユーザー視点では便利であると考えられる。 今後は、フィラー入りのフェノール樹脂モデルについて電気伝導性の評価を実現するために、 2 unit cell(864 原子)などの大規模系の計算について実現性や妥当性を検討するとともに、1 unit cell の小さい系にフィラーを入れた場合の予備的な計算を進めていく考えである。特に、具体的 なフィラーの構造や組成を考慮した計算をするために、比較可能な材料実験の結果の調査検討を 慎重に進めたいと考えている。. 謝辞 北海道大学情報基盤センター Hitachi SR16000 と名古屋大学情報基盤センター Fujitsu CX400 を利用させていただいたことに感謝いたします。. 参考文献 [1] T. Sunada, Not. Am. Math. Soc. 55, 208-215 (2008). Correction, Not. Am. Math. Soc. 55, 343 (2008). [2] http://xtapp.cp.is.s.u-tokyo.ac.jp/ [3] P. Giannozzi, et al., J. Phys.: Condens. Matter 21, 395502 (2009), http://arxiv.org/abs/0906.2569. 22.
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