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密教文化 Vol. 2003 No. 211 003吉崎 一美「ネパールの仏塔双六について PL36-L63」

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全文

(1)

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

は じ め に

世 界 の、 と りわ け ア ジ アの 双 六 ゲ ー ム を概 観 す る と、 そ こに は地 域 特 有

の ス タ イ ル を持 った双 六 が あ る。 大 別 す れ ば、 それ らは宗 教 的 な もの と世

俗 的 な もの に分 類 され る。世 俗 的 な 双六 の例 で は、官位 や地 位 の昇 進 を争 っ

た り、 あ る い は ま た旅 行 の形 式 を 取 って 目的 地 へ の 素 早 い到達 が競 われ る。

ゲ ー ム の興 を盛 り上 げ る た め に、 一 足 飛 びの 飛 躍 や 転 落 を も た らす 工 夫 も

あ る。 本 稿 で 紹 介 す る、 ネパ ー ル の仏 塔 双六 は宗 教 的 な 双 六 に分 類 さ れ る

が、 そ れ は これ まで に ま った く知 られ て い な か った新 資 料 で あ る。 そ こで

は仏 教 の世 界 観 を 前 提 に して、 さ ま ざ ま な輪 廻 の段 階 を経 て、 この 世 の生

か ら悟 りに至 る まで を、 双 六 の ゲ ー ム に仮 託 して争 う。 ネ パ ー ル の 仏 塔 双

六 を検 討 す る にあ た り、 本 稿 は まず 資 料 とな る テ キ ス トの解 読 か ら始 め、

そ の全 容 を提 示 す る。 テキ ス トの資 料 的 な価 値 に注 目 し、今 後 の 研 究 方 向

を考 え る な らば、 本 稿 は最 初 にそ の 全 面 的 な解 読 に紙 数 を費 や さな けれ ば

な らな い。 そ して次 に、 資料 テ キ ス トで は明 確 で な い、 仏 塔 の傘 蓋 部 分 に

っ いて、 そ の意 味 を考 え る。最 後 に、 そ れ を チ ベ ッ トや イ ン ドの双 六 に対

比 し、そ の 特 徴 を論 じ る こ とに す る。 な お 本 稿 は、 平 成13年10月 に金 沢 大

学 で 開 催 され た 日本 南 ア ジア学 会 第14回 全 国 大 会 で の 簡 単 な紹 介([吉

2001b])を

全 面 的 に書 き改 め た も ので あ る(1)。

1. 資 料 テ キ ス トの 解 読

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(2)

密 教 文 化

ネパ ー ル の仏 塔 双 六 を論 じるに あ た り、筆 者 が入 手 した資 料 は次 の三 点

で あ る。

A: カ トマ ンズ国 立 博 物 館 所 蔵 仏 頂 尊 勝 仏 塔(USnisavijaya-caitya)

絵(仏 塔 双 六 絵: 仮 称)

彩 色 18世 紀 約55×80cm(図1)(2)

B: ア ー シ ャー ・サ フ ー ・クテ ィ所 蔵 仏 塔 双 六 絵(仮 称)

ハ ル タ ー ル

紙 に赤 と黒 の イ ン クに よ る、 伝 統 的 な手 書 き図 絵 線 描 約52×83cm

(図2)

C: ア ー シ ャ ー ・サ フ ー ・ク テ ィ所 蔵 仏 塔 双 六 絵(仮 称)

洋 紙 に赤 と

黒 の イ ンク に よ る ペ ン書 き図 絵

線 描

約49×105cm(図3)

ア ー シ ャ ー ・サ フ ー ・ク テ ィ(A6a

Saphu Kuthi, Asha Archives)

はカ トマ ン ズ市 内 の私 立 古 文 書 館 で あ り、今 日で はサ ンス ク リ ッ ト語 と ネ

ワー ル語 を 中心 に約 六 千 点 の写 本 を所 有 す る。 最近 にな って、 そ れ らの 写

本 はデ ジ タル 画 像 と して 公 開 され る こ と にな った([吉

崎2001c])。

筆 者

はす で にそ の写 本 カ タ ロ グ([Yoshizaki

1991])を

公 表 し、 ま た デ ジ タ

ル画 像 に よ る写 本 公 開 プ ロ ジ ェ ク トの た め の追 加 カ タ ロ グ([Yoshizaki

2002])も

作 成 したが、 今 回 の資 料 テ キ ス トは そ の い ず れ に も収 録 さ れ て

い な い。 そ の理 由 は、 写 本 の 価 値 に対 す る認 識 に比 べ て、 これ らの 図絵 の

意 味 が ネ パ ー ル で も まだ 十 分 に理 解 され て い な い か らで あ る。 同 じ こ とが

カ トマ ンズ 国立 博 物 館 の 仏 塔 双六 絵Aに も指 摘 で き る。 そ の 展 示解 説 に は、

長 寿 を司 る仏 頂 尊 勝 尊 の仏 塔 絵 との み あ る。 イ ン ドの仏 教 図像 学 テ キ ス ト

で は、 仏 頂 尊 勝 尊 は仏 塔 の ドー ム部 分 に住 み、 長 寿 を もた らす と さ れ る。

この絵 の仏 塔 の ドー ム部 分 に描 か れ て い るの は弥 勒 菩 薩 で あ るが、 そ れ は

無 視 され て い る。 そ して これ らが双 六 と して用 い られ て きた こ と も、ネパ ー

ルで は忘 却 され て しま った。 ネ ワー ル仏 教 の伝 統 が 衰 え た この百 年 ほ ど に

は、 こ う した忘 却 の事 例 が い くっ か報 告 され て い る。 こ の仏 塔 双 六 も、 そ

の 存 在 自体 が 埋 もれて しま い、 かっ て の名 称 も忘 れ 去 られ て し ま っ た の で

あ る。 そ こで 筆 者 は こ れ らの仏 塔 双 六 を再 発 見 す る意 図 を 込 め て、 それ ら

を ネ ワ ール 語 で 「チ ーバ ー ・カ サ ー」cibhah kasa(Caitya

Game[of

(3)

図1

カ トマ ンズ国立博物館所蔵

仏頂尊勝仏塔絵(学 習研究社提供)

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(4)

-79-密 教 文 化

Karma])と

呼 ぶ よ う に提 唱 した い。 ネ ワー ル 語 を 用 い た の は、 こ れ ら の

仏 塔 双 六 を生 み 出 した文 化 的 な背 景 が、 ネ ワー ル の仏 教 文 化 に あ るか らで

あ る。

本 稿 で は カ トマ ンズ 国立 博 物 館 の仏 塔 双 六 絵Aを 取 り上 げ、 資 料 と な る

テ キ ス トの解 読 を進 め る(資 料Aに 比 べ る と、 資 料BとCの

細 部 は、 多 少

の異 同 が あ る もの の、 ほ ぼ 同一 の 内容 を持 って い る)。 仏 塔 は 青 い 空 と緑

の 山野 を背 景 に 白 く浮 か び上 が り、空 に は供 養 の二 女 神 が 雲 に乗 って竜 を

呼 ぶ。 ま た二 羽 の鳥 が舞 う。 山野 に は狩 猟 と漁 猟 をす る者 が 見 られ る。 仏

塔 の基 礎 部 分 は七 層 か ら成 り、各 層 は下 か らそ れぞ れ八 ・七 ・五 ・五 ・七 ・

八 ・五 の 区画 に分 け られ、 そ れ らは合 計 して 四十 五 区 画 に な る。 基 礎 部 分

の上 に仏 塔 の ドー ム(覆 鉢)が

あ る。 ドー ム 中央 の区 画 で は弥 勒 菩 薩 が 椅

子 に座 り、菩 薩 の左 右 に は上 下 二 区 画 の計 四 区 画 が あ る。 それ で 区 画 の 総

図2 ア ー シ ャー ・サ フ ー ・クテ ィ 所 蔵 仏 塔 双 六 絵B(部 分) 図3 ア-シ ャー ・サ フ ー ・ク テ ィ 所 蔵 仏 塔 双 六 絵C(部 分)

(5)

-78-計 は五 十 に な る。 ドー ム の上 に は方 形 のハ ル ミカー(平 頭)が あ り、ネパ ー

ル の 仏 塔 に特 有 の 眼 が描 か れ て い る。,

さ らに そ の上 に は十 三 段 の傘 蓋 が あ

る。 基 礎 部 分 最 下 層 の左 右 に は、 ラ ン ジ ャ ナ 書 体 で"om

mani padme

hum"と"om

vajrapani"の

文 句 が記 さ れ て い る。

五 十 の 区 画 は そ れ ぞ れ さ らに七 っ の 小 区 画 に区 分 され、 中 央 の小 区画 の

周 囲 に六 つ の 小 区 画 が 配 置 され る。 中 央 の小 区 画 に は そ の場 所 の名 称 が記

さ れ、 周 囲 の六 っ の小 区 画 に は、 サ イ コ ロの 出 目 ご と に ネ ワ ー ル書 体 で行

き先 が指 示 され て い る。 サ イ コ ロの 目 はそ れ ぞ れ アa・ ガgha・

ダdha・

ハlha・

ヤya・

シ ャsaで あ る。 中 央 小 区 画 の各 場 所 は 地 獄 か ら始 ま る

仏 教 世 界、 な らび に声 聞縁 覚 か ら大 乗 仏 教 の諸 境 地 を表 して い る。 サ イ コ

ロ の一 振 りは一 度 の生 死 と再 生 を意 味 して お り、 出 目 はカ ル マ の 結 果 で あ

る と いえ る。 ゲ ー ム は死 と再 生 を繰 り返 しっ っ、 最 終 的 に悟 り に至 る まで

を競 うの で あ る。 な お この双 六 に附 随 す る サ イ コ ロや、 競 技 者 の 位 置 を 示

す の に用 い られ た はず の駒 な ど は確 認 され て い な い。

この カ トマ ンズ国 立 博 物 館 の仏 塔 双六 絵 につ いて、そ の五十 の区画 の一 々

を解 読 して い こ う。 た だ し紙 数 の制 約 か ら、(13)を

除 い て、 こ こで は 中

央 の小 区画 の み を 紹 介 す る。 周 囲 の 六 区 画 につ いて は、 筆 者 が便 宜 的 に附

番 した(1)か

ら(52)ま

で の カ ッ コ付 き の ラ ンニ ン グ ・ナ ンバ ー だ け を

挙 げ て、 次 の進 み 先 を 示 す。 た とえ ば 「a(9)」 は、 ア の 目 が 出 た ら、 ラ

ンニ ング ・ナ ンバ ーの(9)「 浄 面 」 へ進 む こ とを 意 味 す る。 そ れ ぞ れ の進

み 先 に は この双 六 に独 自の 附番 が あ る(た とえ ば(1)で

は53が そ れ で あ

る)が、

そ の番 号 か ら次 の進 み先 を探 し出 す の は容 易 で な い の で、 この よ

う に処 置 して お く。

や や 崩 れ たサ ンス ク リッ ト語 の表 記 は そ の ま ま提 示 す る。 こ の種 の サ ン

ス ク リッ ト語 に は、 ネ ワー ル文 化 の研 究 者 た ち の 間 で 「ネ ワー ル混 成 梵語 」

Newari Hybrid Sanskritの 名 称 が 定 着 しっ っ あ る。 これ を 「

標 準 的 な」

サ ンス ク リッ ト語 の 表 記 に 「

書 き改 め る」 作 業 は、 ネ ワー ル の 言 語 文 化 を

軽 視 して い る とい う批 評 を 受 け る こ と にな る。 実 際 の と こ ろ、 ネ ワ ー ル人

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(6)

密 教 文 化

研究 者 た ち は、 外 国 人 研 究 者 た ちが ネ ワ ー ル の写 本 を利 用 しなが ら、 そ れ

を伝 え て きた ネ ワー ルの 文 化 に理 解 を示 さ な い こ と に不 満 を抱 い て い る。

と はい え 「ネ ワー ル 混 成 梵 語 」 の 全 体 像 も解 明 され て い な い の で、 「〈 標

準 的 な 〉 サ ン ス ク リ ッ ト語 の 表 記 」 を重 視 し、「

写 本 を 伝 え て き た ネ ワ ー

ル の言 語 文 化 に理 解 を 示 さな い」 学 者 た ち に は、 「そ の ま ま 」 の 表 記 が 誤

解 を招 きや す い こ と も確 か で あ る。 筆 者 は この 問 題 を どの よ う に解 決 す べ

きか、 まだ最 終 的 な 結論 を 見 出 して いな い。 そ れ で も、 誤 解 を恐 れ ず に あ

りの ま まの表 記 を挙 げ る こ と は、 一 つ の 見 識 で あ る と 考 え て い る。 な お

[]内

は、原 文 が不 鮮 明 な た め に、 他 の 区 画 か ら補 った こ とを 示 す。

(1)〈仏 塔 基 礎 部 分 最 下 層 の 八 区 画: 右 か ら左 へ 〉 (1)Avici naraka 53 阿 鼻(無 間)地 獄

al gha 4 dha 6 1ha 3 ya 2 sa 5

thuli kayava sa gva 1 kayava sucimusa vane mala. 5

「以 上 を 出 し て か ら(す な わ ち ア を 一 回、 ま た は ガ を 四 回、 …)、 シ ャ を 一 回 出 して 〈 浄 面 〉(9)へ 行 か な け れ ば な ら な い 」。 こ れ は こ の 双 六 の 最 初 の ト ラ ッ プ に な る。 こ れ に っ い て は(13)を 参 照 の こ と。 (2)Asipatra naraka 52 刀 林 地 獄

a(9) gha(お 休 み: 「こ こ に 留 ま れ 」 と い う。 以 下 同 様) dha (10) lha(4) ya(お 休 み) sa(13)

(3)Agnighata naraka 51 猛 火 地 獄

a(4) gha (お 休 み) dha(9) lha(7) ya(2) isa(10) (4)Sltotaka naraka 50 冷 水 地 獄

a (11) gha (8) dha* (10) lha (3) ya (2) sa (10) *dhaは、 「畜 生 世 界 に 行 け 」 を 「馬 世 界sala lokaに 行 け 」 と 表

記 す る。

(5)Raurava naraka 49 叫 喚 地 獄

(7)

(6)Preta naraka 48 餓 鬼 地 獄

a (5) gha (12) dha (10) lha (9) ya (7) sa (13) (7)Camradaghata naraka 47 チ ャ ー ン ラ ー ダ ー ・ガ タ地 獄(資 料B

とCに は、 そ れ ぞ れCamdara narakaま たCamdakala narakaと あ る。) a(19) gha(31) dha(お 休 み) lha(13) ya(10) sa(41) (8)[Kr]imikito naraka 46 蛆 虫 地 獄(こ の 名 称 は 資 料 のBとCに は

見 え な い)

a(13) gha(15) dha(12) lha(4) ya(2) sa(17) (2)〈仏 塔 基 礎 部 分 の 下 か ら二 層 め の 七 区 画: 右 か ら左 へ 〉

(9)Suci mukha 5 浄 面

a (10) gha (6) dha (4) lha (21) ya (2) sa (13) (10)Pasu loka 4 畜 生 世 界

a(9) gha(お 休 み) dha(3) lha(31) ya(2) sa(17) (11)[Vam utta]ra kuru bhuvana 3 ヴ ァ ン、 北 倶 窟 洲

a(判 読 不 能) gha(10) dha(14) lha(お 休 み) ya(4) sa(18)

(12)Lam apara godavari pascima 2 ラ ン、 西 牛 貨 洲

a(19) gha(9) dha(14) lha(お 休 み) ya(5) sa(22) (13)[Ram]Jambudvipa manuksa loka 1 (ラ ン、[南])閻 浮 洲 ・人

間 世 界(こ こが ゲ ー ム の 振 り 出 し=開 始 地 点 に な る)

a mamtradipa sa hum 37 マ ン ト ラ ー デ ィ ー パ37に 行 けcf. (51) gha samksapta[sravaka]sa hum 13 略 声 聞13に 行 け(21) dha [ma]dhya pratyeka sa hum 41中 縁 覚41に 行 け(32) lha visnu loka sa hum 9 ヴ ィ シ ュ ヌ 世 界9に 行 け(19) ya samksapta yana sa hum 27略 乗27に 行 け(41)

sa tamtradipa sa hum 36 タ ン ト ラ ー デ ィ ー パ36に 行 けcf. (51) mamtradipaは 資 料Bに はmamtradipaあ る い はmamtradvipaと あ り、 資 料Cに はmamtradipaと あ る。 同 様 にtamtradipaは、 資 料Bで ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(8)

はtamtradvipaあ る い はtamtradvipaと あ り、 資 料Cに はtamtradipa と あ る。 資 料Aで は 両 者 の 位 置 が 不 明 で あ る が、 資 料Bお よ びCか ら、 そ れ は 色 究 寛 天(51)の 直 下 に あ る ハ ル ミ カ ー に 描 か れ た 眼 の 部 分 に 一 対 で 位 置 す る と 知 られ る。 っ ま り こ の 両 者 は、 ゲ ー ム 開 始 の 直 後 に、 た ち ま ち に 仮 の ゴ ー ル で あ る 色 究 寛 天 の 間 際 ま で 達 す る近 道 な の で あ る が、 しか し ま た そ の た め の リ ス ク も 大 き い。 資 料Bは、 タ ン ト ラ ー デ ィ ー パ に つ い て、 「誰 で も(こ こ に)到 っ て、 ア が 一 度 も 出 な い う ち に ヤ が 出 れ ば、 阿 鼻(地 獄)に 行 か ね ば な ら な い 」(Sum thaha vase a gva l madayekam ya vase avlci vane mala. )と い い、 マ ン ト ラ ー デ ィ ー パ に つ い て も、 「誰 で も(こ こ に)到 っ て、 ア が 二 度 出 な い う ち に ヤ が 出 れ ば、 阿 鼻(地 獄)に 行 か ね ば な らな い」(Sum thaha vases a gva 2madayekam ya vase avici vane mala. )と い う。 資 料Cで は 両 者 の 位 置 が 入 れ 替 わ り、 マ ン ト ラ ー デ ィ ー パ に つ い て、 「こ こ に 到 っ て、 ア が 一度 も 出 な い う ち に ヤ が 出 た な ら ば、 阿 鼻 地 獄 に 行 か ね ば な らな い」 (Thana sam thaha valasa a gola l makayekam ya valasa abhlci naraka sa vane mala. )と い い、 タ ン ト ラ ー デ ィ ー パ に っ い て は、 「こ こ に 到 っ て、 ア が 二 度 出 な い う ち に ヤ が 出 た な ら ば、 阿 鼻 地 獄 に 行 か ね ば な ら な い 」(Thana sam thaha valasa a gola 2 makayekam ya valasa abhlcl naraka sa vane mala. )と い う。 指 定 通 り に ア の 目 を 一 度 か 二 度 出 せ ば、 め で た く仮 の ゴ ー ル(色 究 寛 天)に 達 す る が、 ひ と た び 阿 鼻 地 獄(1)に 落 ち れ ば、 そ こ か ら抜 け 出 す の は 容 易 で な い。 「タ ン ト ラ ー デ ィ ー パ 」 と 「マ ン ト ラ ー デ ィ ー パ 」 で 示 さ れ る 密 教 の 道 は、 ゴ ー ル に 至 る 最 速 の ル ー トで は あ る が、 そ の リ ス ク も大 き い。 (14)dam purva videha 45 ヤ ン、 東 勝 身 洲

a (18) gha (19) dha (32) lha (30) ya (12) sa (17) (15)Suddha atma 44 清 浄 我

a(13) gha(お 休 み) dha(43) lha(17) ya(2) sa(34) (3)〈仏 塔 基 礎 部 分 の 下 か ら 三 層 め の 五 区 画: 右 か ら左 へ 〉

(9)

(16)Rupa dhatu 6 色 界

a(17) gha(15) dha(38) lha(お 休 み) ya(9) isa(43) (17)Daitya loka 7 阿 修 羅 世 界

a(19) gha 一 部 判 読 不 能: (21)ま た は(36)と 思 わ れ る dha (9) lha (32) ya (10) sa (27)

(18)Kinnara loka 8 緊 那 羅 世 界

a (14) gha (32) dha (21) lha (11) ya (10) sa (10) (19)Visnu loka 9 ヴ イ シ ュ ヌ 世 界

a (13) gha (16) dha (28) lha (20) ya (10) sa (23) (20)Arupa dhatu 43 無 色 界

a(36) gha(10) dha(お 休 み) lha(17) ya(6) sa(44) (4)〈仏 塔 基 礎 部 分 の 下 か ら四 層 め の 五 区 画: 右 か ら左 へ 〉

(21)Samksapta sravaka 13 略 声 聞

a(15) gha(13) dha(18) lha(お 休 み) ya(10) isa(25) (22)Maha sravaka 12 大 声 聞

a判 読 不 能 gha判 読 不 能(到 彼 岸) dha(26) lha(17) ya (13) sa(お 休 み)

(23)Madhya sravaka[11] 中 声 聞

a(40) gha(15) dha(18) lha(お 休 み) ya(25) isa(26) (24)Maha paramgata sravaka 10 大 到 彼 岸 声 聞

a (23) gha (27) dha (25) lha (35) ya (11) sa (42) (25)Maha dhyana sravaka 42 大 禅 定 声 聞

a (28) gha (34) dha (45) lha (32) ya (13) sa (42) (5)〈仏 塔 基 礎 部 分 の 下 か ら五 層 め の 七 区 画: 右 か ら左 へ 〉

(26)Maha dhyana paramgata sravaka[14]大 禅 定 到 彼 岸 声 聞 a (41) gha (24) dha (34) lha (21) ya (13) sa (33) (27)Mafia joga sravaka 15 大 ユ ガ 声 聞

a(42) gha(25) dha(お 休 み) lha(35) ya(30) sa(43)

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(10)

(28)Maha joga paramgata sravaka 16 大 ユ ガ 到 彼 岸 声 聞 a判 読 不 能 gha判 読 不 能 dha(22) lha(お 休 み) ya(19) sa(46)

(29)Maha jati smara sravaka 17 大 知 宿 命 声 聞

a (23) gha (32) dha (25) lha (26) ya (28) sa (48) (30)Ma[ha]vasistha sravaka 18 大 最 勝 声 聞

a7 gha 2 dha l lha 2 ya l sa 1 (41)

こ こ で は、 そ れ ぞ れ の 目 を 指 定 さ れ た 回 数 だ け 出 さ な け れ ば な ら な い。 そ の 後 に(41)に 向 か う と思、わ れ る。 こ れ は阿 鼻 地 獄(1)と 同 様 に、 ゲ ー ム に 仕 掛 げ ら れ た ト ラ ッ プ で あ る。 こ の 地 位 の 声 聞 は 他 者 の 利 益 に 関 与 し な い と非 難 さ れ る か ら で あ ろ う。 大 法 到 彼 岸 縁 覚(40)も ま た 同 じ理 由 で ト ラ ッ プ と な る。 (31)Samksapta pratyeka 19 略 縁 覚

a (27) gha (23) dha (41) lha (19) ya (2) sa (35) (32)Madhya pratyeka 41 中 縁 覚

a (43) gha (16) dha (36) lha (31) ya (18) sa (46) (6)〈仏 塔 基 礎 部 分 の 下 か ら六 層 め の 八 区 画: 右 か ら左 へ 〉

(33)Maha pratyeka 26 大 縁 覚

a (34) gha (19) dha (42) lha (16) ya (29) sa (41) (34)Maha paramgata pratyeka 25 大 到 彼 岸 縁 覚

a (13) gha (17) dha (33) lha (39) ya (10) sa (37) (35)Maha dhyana pratyeka 24 大 禅 定 縁 覚

a (25) gha (15) dha (49) lha (36) ya (27) sa (46) (36)Maha[dhyana]paramgata[pratyeka 23] 大 禅 定 到 彼 岸 縁 覚

a (25) gha (22) dha (41) lha (24) ya (13) sa (50) (37)Maha joga pratyeka 22 大 ユ ガ縁 覚

a (42) gha (22) dha (49) lha (22) ya (17) sa (25) (38)Maha joga paramgata pratyeka 21 大 ユ ガ 到 彼 岸 縁 覚

(11)

a (19) gha (29) dha (22) lha (32) ya (9) sa (44) (39)Maha jati smara pratyeka 20 大 知 宿 命 縁 覚

a (13) gha (16) dha (40) lha (41) ya (19) sa (43) (40)Maha dharmma paramgata pratyeka 40 大 法 到 彼 岸 縁 覚

a(お 休 み) gha(お 休 み)一dha(お 休 み) lha(お 休 み) ya (お 休 み) isa(41)

(7)〈仏 塔 基 礎 部 分 の 下 か ら七 層 め の 五 区 画: 右 か ら左 へ 〉 (41)Samksapta yana 27 略 乗

a (13) gha (47) dha (33) lha (32) ya (49) sa (44) (42)[Ma]dhya yana 28 中 乗

a判 読 不 能(到 彼 岸) gha判 読 不 能 dha(22) lha(お 休 み) ya(お 休 み) sa(41)

(43)Maha yana 29 大 乗

a (44) gha (19) dha (44) lha (46) ya(17) sa(50 ?) (44)Maha paramgata yana 30 大 到 彼 岸 乗

a(お 休 み) gha(お 休 み) dha(49) lha(お 休 み) ya(41) sa(43)

(45)Maha dhyana yana 31 大 禅 定 乗

a(47) gha(22) dha(お 休 み) lha(お 休 み) ya(お 休 み) sa(51)

(8)〈仏 塔 ドー ム 部 分 の 五 区 画: 右 下 ・右 上 ・左 下 ・左 上 ・中 央 〉 (46)Maha dhyana paramgata yana 34 大 禅 定 到 彼 岸 乗

a(お 休 み) gha(32) dha(22) lha(お 休 み) ya(お 休 み) sa(51)

(47)Maha joga paramgata yana 35 大 ユ ガ 到 彼 岸 乗

a(お 休 み) gha(お 休 み) dha(お 休 み) lha(お 休 み) ya (お 休 み) sa(51) (48)Maha[joga]yang[32] 大 ユ ガ 乗 ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(12)

a(お 休 み) gha(17) dha(お 休 み) lha(お 休 み) ya(22) sa(51)

(49)Maha jati smara yana 39 大 知 宿 命 乗

a(43) gha(お 休 み) dha(お 休 み) lha(お 休 み) ya (お 休 み) sa(51)

(50)Maitri Bhuvana[33]弥 勒 天

a(お 休 み) gha(お 休 み) dha(お 休 み) lha(お 休 み) ya (お 休 み) [sa](51) 弥 勒 の 住 所 は 兜 率 天(観 史 多 天)と い い、 欲 界 六 天 の 第 四 天 に あ た る。 チ ベ ッ トの 仏 教 双 六 で も、 大 乗 仏 教 を ス ー ト ラ乗 と タ ン トラ乗 に 区 分 し、 悟 りへ の 階 梯 が 速 疾 で は あ る が 危 険 を 伴 う タ ン ト ラ乗 と と も に、 時 間 は か か る が 着 実 な ス ー ト ラ乗 の 併 存 を 認 め る。 兜 率 天 は こ の ス ー ト ラ乗 の 最 初 の 目 的 地 で あ り、 ま た 来 世 に 成 仏 が 約 束 さ れ た 菩 薩 た ち は こ の 天 に 留 ま る と も い う。 (9)〈ハ ル ミ カ ー か ら傘 蓋 へ 〉 (51)Akanistha bhuvana[38]色 究 寛 天

色 究 寛 天 はハ ル ミカ ー の上 部 に位 置 す る。 こ こが ゲ ー ム の 当座 の ゴー

ル にな る。(45)か

ら(50)に 至 って、 シ ャの 目 を 出 した者 だ け が、 この

ゴ ール に到 達 で き る。 こと に大 ユ ガ到 彼 岸 乗(47)と

弥 勒 天(50)は

の レベ ル に逆 戻 りす る こと な く、 ゴー ル の色 究 寛 天 を 目指 す こ とが で き

る。 後 世 に展 開 した仏 教 の世 界 観 で は、 色 究 寛 天 は色 界 の最 高 所 と して

の 本 来 の 位 置 か ら移 動 して 仏 陀 の住 所 に編 入 され、 そ こで第 十 地 の菩 薩

は仏 陀 か ら最 後 の 教 え を 受 け る と され る([Tatz & Kent 1978: 35, 46])。

ハ ル ミカ ー の 本 体 に は一 対 の 眼 が 描 か れ て お り、 資 料BとCで

は、 こ の

部 分 に タ ン トラー デ ィ ーパ36と マ ン トラ ー デ ィーパ37が 位 置 した。 両 者

に つ い て は 「閻浮 洲 ・人 間 世 界 」(13)で

述 べ た通 りで あ る。なお ネ ワー

ル仏 教 に お け る壷 の 儀 礼(カ

ラ シ ャ ・プ ジ ャ)で は、 壷 の中 に そ の儀 礼

の本 尊 とな る神 仏 を迎 え入 れ る。 仏 塔 の ドー ム とハ ル ミカ ーが 作 り出す

(13)

壺 は、 そ の壺 を ス ケ ー ル ・ア ップ した も ので あ る。 そ こで は壷 の 内部 空

間(ま

た は そ の中 に満 た され た水)が 色 究 寛 天 に対 応 す るが、 こ こで の

よ う にそ れ が 壺 の 口 の部 分 に あた る と して も、 何 らの矛 盾 は な い。 両 者

は隣 接 して い るか らで あ る。 壺 の 口 の部 分 を 色 究 寛 天 とす る の は、 単 に

こ こで の 便 宜 的な表 現 で ある(cf. [吉崎1993: 5])。 また タ ン トラー デ ィー

パ とマ ン トラ ーデ ィ ーパ が色 究 寛 天 の 直下 に位 置 す る こ と は、 仏 の世 界

か ら呼 び招 か れ て来 下 す る神 仏 と、神 仏 を 呼 び招 く ヴ ァ ジ ュ ラ ー チ ャー

ル ヤ が この色 究 寛 天 に お い て対 面 す る とい う、筆 者 の 儀 礼 分 析([吉

1998: 174-175])に

も有 力 な傍 証 とな る。

(52)傘 蓋 とガ ジュ ー(ガ

ジュ ー ル と もい う): これ ら に っ い て は 次 節 で

考 察 す る。

2. 傘 蓋 と サ ン ヴ ァ ラ系 密 教 の 巡 礼 説

仏 塔 双 六 の傘 蓋 に は、下 か ら1∼13の 附 番 と、 そ れ ぞ れ に シ ャの 文 字 が

あ る の み で、 何 らの教 学 的 な意 味 づ け もな され て い な い。 しか しな が らそ

こ に は シ ャの 目を 出 して傘 蓋 を上 り詰 め(そ れ以 外 の 目 が 出 れ ば、 「お 休

み 」 と い う こ とで あ ろ う)、 最 終 的 に は先 端 の ガ ジ ュ ー に 達 す る 意 図 が 含

まれ て い る と見 な け れ ば な らな い。 そ の意 味 で は、 ガ ジ ュ ー こ そ この ゲ ー

ムの 最 終 ゴ ー ル で あ る。 とは い え ど もシ ャの 目 を十 三 回 も出 す と い う単 調

な 行 為 は、 明 らか に双 六 と して の興 趣 を そ ぐ。 そ れ が色 究 寛 天 を ゲ ー ム で

の 当座 の ゴ ール とす る所 以 で あ るが、 しか しま た そ こに は、仏 塔 双 六 の傘

蓋 部 分 に、 一 般 的 なゲ ー ム の参 加 者 に は うか が い知 れ な い、 何 か 特 別 な教

学 の意 味 づ けが あ る と も考 え な けれ ば な らな い。

そ れ を考 え る最 初 の 手 掛 か り は、近 世 の ブー タ ン版 双 六([Tatz

& Kent

1978: 12-13]お

よ び[Finkel

1995: 43])に

あ る。 こ れ は チ ベ ッ ト仏 教 系

の双 六 で あ るが、 そ こ に は十 三 の 層 が 付 け加 え ら れ て い る。 後 者Finkel

の例 で は そ の細 部 が 明 らか で な い が、 前 者 は そ こ に十 三 地 を配 す る。 す な

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(14)

わ ち 初 地sa-dah-pa、 第 二 地sa-gnis-pa、 第 三 地sa-gsum-pa、 第 四

地sa-bshi-pa、 第 五 地lha-pa hod-zer sbyah-ka(?)hi sa、 第 六 現 前(m)hon-du hgyur-ba地、 第 七 遠 行rih-du son-ba地、 第 八 不 動gyo-ba med-pa

地、 第 九 善 慧legs-pa blo-gros地、 第 十 法 界chos-kyi-dbyihs地、 第 十 一 法 雲chos-kyi-sprin地、 第 十 二 法 界 清 浄chos-dbyihs dag-pa地、 第 十 三

持 金 剛rdo-rje hdsin-pa地 で あ る。 初 地 か ら 第 四 地 ま で で は、 「ア(の 目) が 出 た ら 」 下 方 に あ る 特 定 の 区 画 に 逆 戻 り す る。 ヘ マ ラ ー ジ ・ シ ャ ー キ ャ

も ま た、 実 際 の 仏 塔 に 取 り 付 け ら れ た 十 三 段 の 傘 蓋trayoda6a catravali (or cakravall)に 十 三 地 を 当 て る が、 そ の 十 三 地 と さ菩 薩 の 十 地 に(11)

普 光samantaprabha、(12)離 喩nirupama、(13)有 智jnanavati(金 剛 地vajrabhumi)を 加 え た も の で あ る([Hemaraj NS. 1089: 117])。G. Roth

に よ れ ば、 そ れ は カ ラ ヴ ィ ー ラ ・ タ ン ト ラKalavlra-tantraに 依 拠 す る も の で あ る と い う(ち な み に、[Tri-6ull'1999: 34]は これ ら の 三 地 を 喩 伽 行 地yogacarya-bhumiと 総 称 し、 こ れ ら を 金 剛 乗 に 配 当 す る。 そ し て 「こ の シ ン ボ リズ ム は、 ネ パ ー ル で 作 ら れ た チ ャ イ トヤ の 最 上 部 に あ る ガ ジ ュ ー に の み 用 い ら れ る」 と す る)。 ま た 十 三 段 の 傘 蓋 に 対 す る 教 学 的 解 釈 の 伝 統 に は、 別 に 十 力dasa-balaと 三 不 共 念 住 triny avenika-smrty-upasthana-niを 配 当 す る こ と が あ る と い う ([Roth 1980: 196])。 こ の 教 学 的 な 伝 統 は、 す で に 十 二 ・三 世 紀 の ネ パ ー ル で 知 られ て い た ら し い ([江 島1978: 154, 156])。 し か し 図4 傘 蓋 の 秘 密 解 釈(リ ス ト(2))

(15)

なが ら傘 蓋 に対 す る教 学 的解 釈 は、近 代 以 後 に は十 三 地 が 有 力 で あ り、 そ

の一 方 で、 下 方 の基 礎 部 分 は三 十 七 菩 提 分 と須 弥 山 に比 定 され た(た

とえ

ば[Huntington

2002: 18,

Fig. 4]な

ど)。

と こ ろが 近 年 に な って、 これ らの傘 蓋 に は、 この よ うな十 三 地 の 解 釈 の

他 に、 さ らに い くっ か の教 義 が 附 さ れ て い る ことが 知 られ るよ うにな った。

ス ヴ ァヤ ン ブ ー の大 仏 塔 は、 盆 地 内す べ て の小 仏 塔 の モ デ ル と され る。 そ

の大 仏 塔 の修 復 を 記 す、 近 代 の複 数 の ネパ ー ル写 本 に は、 十 三 段 の 傘 蓋 に

対 して十 三 地 ・十 二 波 羅 蜜 ・十 二 巡 礼 地 ・十 智 を割 り振 った、 秘 密 解 釈 の

対 応 リス トが挙 げ られ て い る。 そ の リス トは以 下 の 三 種 で あ る(紙 数 の 制

約 か ら リス ト(3)は

省 略 す る。 全 体 と して リス ト(3)はリス ト(2)と

近 似 す るが、

そ の サ ンス ク リッ ト語 表 記 はか な り崩 れ て い る)。 引 用 に あ た って 各 段 の

数 え方 は下 か ら上 に変 更 す る。 サ ン ス ク リッ ト原 語 の バ リア ン ト等 は省 略

す る。 ま た下 線 は筆 者 に よ る。 リス ト(1)には対 応 す る訳 を 附 して お く。

〈 リ ス ト(1)〉([Kolver 1992: 48-49]) ガ ジ ュ ー sunyatavisuddhi usnisacakravartti 空 性 清 浄 仏 頂 転 輪 anuttarasamyaksamvodhijnana asphanakavisuddhi 無 上 正 等 正 覚 智 不 可 動 清 浄 第 十 三 段 vajrabhumi 金 剛 地

第 十 二 段 adhimukti bhumi upapitha ratna paramita jnanam 信 解 地 ウ パ ピ ー タ 宝 波 羅 蜜

第 十 一 段 iti pitha samamtaprabha bhumi ピ ー タ 普 光 地 vajrakarma paramita jrianam 金 剛 業 波 羅 蜜

第 十 段 iti upasmasana dharmamegha bhumi

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(16)

ウ パ シ ュ マ シ ャ ー ナ 法 雲 地 jnana paramita paracitta jnanam 知 恵 波 羅 蜜 他 心 知 第 九 段 iti smasana sadhumati bhumi シ ュ マ シ ャ ー ナ 善 慧 地 vala paramita samvrti jnanam 力 波 羅 蜜 世 俗 知 第 八 段 iti upamelapaka acala bhumi ウ パ メ ー ラ ー パ カ 不 動 地 pranidhi paramita anvaya jnanam

誓 願 波 羅 蜜 比 知

第 七 段 iti melapaka duramgama bhumi メ ー ラ ー パ カ 遠 行 地 upaya paramia dharma jnanam 方 便 波 羅 蜜 法 知

第 六 段 iti upacchandoha sudurjaya bhumi ウ パ チ ャ ン ドー ハ 難 勝 地 prajna paramita anutpada jnanam 般 若 波 羅 蜜 無 生 知

第 五 段 iti cchandoha abhimukhi bhumi チ ャ ン ドー ハ 現 前 地 dhyana paramita aksaya jnanam 禅 定 波 羅 蜜 無 尽 知

第 四 段 iti upaksetra arcismati bhumi ウ パ ク シ ェ ー トラ 焔 慧 地 viryya paramita marga lnanarp 精 進 波 羅 蜜 道 諦

(17)

ク シ ェ ー ト ラ 発 光 地 ksanti paramita nirodha jnanam 忍 辱 波 羅 蜜 滅 諦

第 二 段 iti upapitha vimala bhumi ウ パ ピ ー タ 離 垢 地 sila paramita samudaya jnanam 戒 波 羅 蜜 集 諦

第 一 段 iti pitha pramudita bhumi ピ ー タ 歓 喜 地 dana paramita duhkha jnanam 布 施 波 羅 蜜 苦 諦

〈 リ ス ト(2)〉([K61ver 1992: 51-53])(図4: [K61ver. 1992: 52]よ り転 載) ガ ジ ュ ー sunyatavisuddhi usnisacakra anuttarasamyaksamvodhi

[du]mi

camdram mali bhaga vi x dha asphanakavisuddha

第 十 三 段 vajrabhumi

第 十 二 段 a[h] adhimukti bhumi papi[tr]a ratna paramita 第 十 一 段 a[m]samamtaprabha bhumi pira vajrakarma paramita 第 十 段 au dharmamegha bhumi upasmasana

jnana paramita paracitta jnana 第 九 段 o sadhumati bhumi smasana vala paramita samvrti jnana 第 八 段 ai acala bhumi upamelapaka

pranidhi paramita anvaya jnana 第 七 段 e duramgama bhumi melapaka upaya paramia dharma jnana

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(18)

第 六 段 u abhimukhi bhumi upacchandoha

prajna paramita anutpada jnana 第 五 段 u sudurjaya bhumi cchandoha

dhyana paramita aksaya jnana 第 四 段 i arcismati bhumi upaksetra

viryya paramita marga jnana

第 三 段 i prabha. kari bhumi ksetra ksanti paramita nirodha jnana

第 二 段 a vimala bhumi upapitha

sila paramita samudaya jnana

第 一 段 a pramudita bhumi pitha dana paramita duhkha jnana

こ れ らの 対 応 リス トの 中 で、 本 稿 に 関 連 して 最 も興 味 深 い 点 は、 十 三 段 の 傘 蓋 に 対 応 す る形 で、 サ シ ヴ ァ ラ系 密 教 に 特 有 な ピ ー タ な ど の 巡 礼 地 説 が 認 め ら れ る こ と で あ る。 す で に 述 べ た よ うに、 サ ン ヴ ァ ラ系 密 教 は ネ パ ー ル に お け る密 教 の 主 流 を 占 め て い る([吉 崎2001: (24)])。 こ れ ら の 巡 礼 地 は、 実 際 の 巡 礼 を 前 提 に す る と い う性 格 の ゆ え に、 十 三 段 の 傘 蓋 を 上 り詰 め る 双 六 の 要 素 と し て も相 応 し い。 サ ン ヴ ァ ロ ー ダ ヤ ・ タ ン トラ は、 ピ ー タpithaと ウ パ ピ ー タupapltha以 下、 十 種 の 巡 礼 地 を 挙 げ る と と も に、 そ れ ら を 十 の 菩 薩 地 と対 応 さ せ る が、 そ の 発 展 形 態 で は さ ら に ピ ー ラ ヴ ァ pilavaと ウ パ ピ ー ラ ヴ ァupapilavaを 加 え た 十 二 の 巡 礼 地 を 挙 げ る。 リ ス ト(1)(2)(3)も十 の 巡 礼 地 に さ ら に 二 っ を 加 え て い る。 す な わ ち、 傘 蓋 の 第 十 一 段 と 第 十 二 段 に 対 し て、 リ ス ト(1)は第 一 段 と 第 二 段 に 登 場 した ピ ー タ pithaと ウ パ ピ ー タupapithaを 繰 り返 し、 リ ス ト(2)は ビ ラpiraと パ ピ トラ papi[tr]a(or papi[4]a)を 挙 げ、 リ 客 ト(3)([K61ver 1992: 58])は ピ ー ナpinaと パ ピ ナpapinaと す る。 こ れ ら は ピ ー ラ ヴ ァ と ウ パ ピ ー ラ ヴ ァ の 誰 り で あ る か、 あ る い は ネ ワ ー ル 仏 教 に 特 有 な 「ネ ワ ー ル 混 成 梵 語 」 の

(19)

影 響 を 受 け た バ リア ン トで あ る可 能 性 が 高 い(3)。

本稿 で 論 じた仏 塔 双 六 は、色 究 寛 天 ま で の領 域 で 一 旦 は仮 の ゴ ール を 設

定 して い た。 しか し リス ト(1)(2)(3)を

この双 六 に当 て はめ るな らば、 仏 塔 双

六 は さ ら に 傘 蓋 部 分 に お い て サ ン ヴ ァ ラ系 密 教 の 巡 礼 説 を 導 入 し、 さ ら に 第 十 三 地(場 合 に よ っ て は、 ガ ジ ュ ー を 第 十 四 地 と す る(4))を も加 え て、 最 終 ゴ ー ル の ガ ジ ュ ー に 向 か う こ と に な る。 ガ ジ ュ ー に は ア ー ス パ ー ナ カ (不 可 動)の 語 が 見 え る。 ス ヴ ァ ヤ ン ブ ー の 仏 塔 を 建 立 し、 ネ ワ ー ル 仏 教 の 始 祖 と さ れ る シ ャ ー ン テ ィ カ ラ ・ア ー チ ヤ ー ル ヤ は、 今 も シ ャ ー ン テ ィ プ ル の 霊 場 内 で こ の 名 を 冠 した 三 昧 に 入 っ て い る と さ れ る。 ネ パ ー ル の 仏 教 が 衰 退 す る 時、 彼 は そ の 三 昧 か ら立 ち 上 が り、 再 び こ の 世 に 現 れ る と い う。 こ の ガ ジ ュ ー の 解 釈 は(1)に も見 られ る か ら、 そ の 伝 統 は、 第 十 一 地 と 十 二 地 の 名 称 の 曖 昧 さ よ り は、 ず っ と確 実 に 定 着 して い た と 思 わ れ る。 傘 蓋 に は そ の 他 に も興 味 深 い テ ー マ が あ る。 例 え ば、 傘 蓋 の 数 に は い く っ か の バ リ エ ー シ ョ ン が あ り、 十 三 段 の 傘 蓋 は教 学 的 に は 持 金 剛 の 仏 塔 を 表 す([吉 崎1989: (92)])。 カ トマ ン ズ 盆 地 に は、 十 一 段 の 傘 蓋 を 持 っ 仏 塔 (カ トマ ン ズ の マ ハ ー ボ ウ ダ ・チ ャ イ ト ヤ)、 ま た 九 段 の 傘 蓋 を 持 っ 仏 塔 (旧 ス ヴ ァ ヤ ン ブ ー: プ ラ ー ン ・ シ ャ ン グ)が あ る([K61ver 1992: 41, 72, 133])。 プ ラ ー ン ・ シ ャ ン グ の 仏 塔 は ヨ ー ガ ー ンバ ラ 系 の 密 教 と 深 い 関 連 が あ る([吉 崎2001: (38)])。 ま た ネ パ ー ル の 仏 塔 建 立 儀 礼 で は、 建 立 予 定 地 の 四 方 に 四 十 本 の 杭 を 打 つ6そ れ らの 杭 は 十 二 地 ・十 二 波 羅 蜜 ・十 二 自 在 ・十 二 陀 羅 尼 の 一 部 と 思 念 さ れ る([吉 崎1991: 18])。 そ の 十 二 地 と 十 二 波 羅 蜜 の 名 称 は、 こ こ で の リス トに 一 致 す る。 さ ら に リ ス ト(2)(3)に見 ら れ る((1)に は 見 られ な い)十 二 母 音 グ ル ー プ は、 『ス ヴ ァ ヤ ン ブ ー ・プ ラ ー ナ」 と 『ナ ー マ ・サ ン ギ ー テ ィ 』 の 問 を 結 ん で い る。Kolverは こ の 関 係 に 注 目 し な い([K61ver 1992: 134-137])が、 Rospattは そ れ を 明 快 に 指 摘 し て い る([Rospatt 1999: 135-139])。 『ス ヴ ァ ヤ ン ブ ー ・ プ ラ ー ナ 』 に お い て、 ダ ル マ シ ュ リ ー ・ ミ ト ラ は こ の 秘 密 の 十 二 文 字 の 教 え を 求 め、 五 髪 山 に 文 殊 菩 薩 を 訪 ね る。 そ れ に 対 し て 菩 薩 ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(20)

は彼 に 『ナ ー マ ・サ ンギ ー テ ィ』 の教 え を授 け る。 ダ ル マ シ ュ リー ・ ミ ト

ラ は後 に シ ャー ンテ ィカ ラ ・ア ー チ ャー ル ヤ の 師 とな り、彼 に灌 頂 を授 け

る。 そ して シ ャー ンテ ィカ ラ ・ア ー チ ャー ル ヤ は、 ネ ワ ー ル仏 教 に お け る

最 初 の ヴ ァジ ュ ラー チ ャー ル ヤ と な って、 ス ヴ ァヤ ンブ ー を仏 塔 の形 に整

え た。 傘 蓋 部 分 に こ の十 二 文 字 の教 義 も附 与 され て い た とす れ ば、 この仏

塔双 六 の 意 味 は さ らに深 遠 に な る だ ろ う。

しか しな が ら、 こ う した傘 蓋 部 分 に対 す る解 釈 は、 一 般 的 な ゲ ー ム の参

加 者 に は 明 らか に され るべ きで な い。 それ は、 イ ニ シエ ー シ ョ ンを受 けた

ヴ ァ ジ ュ ラ ーチ ャール ヤの み が 知 るべ き ことが らで ある。 なぜ な ら、ネ ワー

ル仏 教 に お い て サ ンヴ ァラ系 密 教 の教 学 が 部 外 者 に は秘 密 で あ っ た よ う

に、 これ らの解 釈 も ま さ に 「秘 密 」 だ か らで あ る。 仏塔 双 六 の傘 蓋 部 分 に

1∼13の 附 番 と シ ャの文 字 が あ る の み で、 何 らの教 学 的 な 意 味 づ け が 明 ら

か に さ れ て い な いの は、 この よ うな 理 由 で あ った と想像 で き る。 傘 蓋 部分

は ヴ ァ ジ ュ ラー チ ャ ール ヤ た ちだ けが 遊 ぶ 領 域 で あ る と いえ るが、 実 際 の

双 六 と して の面 白 み に 欠 け る こ と は、 先 に も述 べ た通 りで あ る。 カ トマ ン

ズ国 立 博 物 館 の資 料Aに お い て、 タ ン トラー デ ィー パ とマ ン トラ ー デ ィー

パ の位 置 が不 明 で あ った理 由 に も、 同 じ意 図 が あ った と考 え な けれ ば な ら

な いか も しれ な い。

3.

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に 関 す る 考 察

ネパ ー ル の仏 塔 双 六 に 関 して は、 これ ま で の と ころ何 の研 究 もな い。 そ

の起 源、 ま た ど の よ うな環 境 で使 用 さ れ た の か な ど、 不 明 な こ とば か りで

あ る。 そ こ で本 稿 で は、 この双 六 に よ く似 た チ ベ ッ トの仏教 双 六 と対 比 し、

また イ ン ドの ヒ ン ドゥー教 系 双 六 も視 野 に入 れ て、 こ の仏 塔 双 六 の特 徴 を

考 え て み よ う。

チ ベ ッ トの仏 教 双 六(5)は、 十 三 世 紀 に サ キ ャ ・パ ン デ ィ ト(略

して サ

パ ン と も呼 ばれ る)の ク ンガ ・ギ ャル ッ ェ ンが、 病 身 の 母 を慰 め る た め に

(21)

創 案 した と い う([Tatz & Kent 1978: 1])。 彼 ら([Tatz & Kent 1978])

は、 七 十 二 区 画(八

×九)か

ら成 るサ パ ンの オ リジ ナ ル版 と、一 〇 四(八

×十 三)の

区 画 を 持 つ 現 在 の 普 及 版 の 各 区 画 を詳 細 に解 説 す る と と もに、

十 九 世 紀 の ネ パ ー ル版 双 六 も紹 介 す る。 そ れ は七 ×七 か ら成 り、 そ の 四十

九 区画 の名 称 を サ ンス ク リ ッ ト語 とチ ベ ッ ト語 で 併 記 して い る。 そ れ で彼

らは、 「こ の版 は サ ンス ク リ ッ トと チ ベ ッ トの両 要 素 を ネ パ ー ル風 に 特 徴

付 け て結 合 して い る。 ネ パ ー ル仏 教 は、 中世 に はサ ン ス ク リ ッ ト語 か らチ

ベ ッ ト語 に(経 典 を)翻 訳 した の で あ る が、 こ こで はそ の プ ロ セ スが 逆 に

な り、 チ ベ ッ ト文 化 が サ ンス ク リ ッ トの 工 芸 品 の 源 泉 に な っ た 」 と す る

([Tatz & Kent 1978: 13-15]カ

ッ コ内 は筆 者 に よ る。 以 下 同 様)。 しか し

な が ら こ こ に論 じて い る仏 塔 双 六 は、 サ ンス ク リ ッ ト語 に よ る術 語 を 用 い

て は い るが、 地 の 文 は ネ ワ ー ル語 で あ り、この点 で この双 六 は明快 に ネ ワー

ル仏 教 文 化 の 産 物 で あ る。 これ は こ の双 六 の大 き な特 徴 とい え よ う。

ま た この 双六 が 仏 塔 の 中 に描 か れ て い る点 も重 要 で あ る。 す で に 筆 者 が

諸 稿 で指 摘 した よ う に、 ネ ワ ー ルの 仏 教 儀 礼 にお いて、 仏 塔 の ドー ム とハー

ル ミカ ー は壺 の意 匠 を作 り出 し、そ の壺 は拡 大 と縮 小 を繰 り返 して、 そ の

中 に輪 廻 の世 界 を す っぽ り と収 め入 れ て い る。 仏 塔 の 中 に組 み込 ま れ た双

六 は、 ま さ に この世 界 観 に一 致 して い る。 これ も チベ ッ トの仏 教 双 六 との

大 き な違 い で あ る。 さ らに仏 塔 の傘 蓋 に秘 密 の解 釈 を 隠 して い る と推 測 さ

れ る点 も、 チ ベ ッ トの仏 教 双 六 に は見 られ な い特 徴 で あ る。

チベ ッ トの仏 教 双 六 が ど の よ うに使 用 され た か にっ いて は、 ダ ライ ・ラ

マ十 四 世 の 実 兄 に次 の よ うな少 年 期 の回 想 が あ る。 す な わ ち、 「

私 た ち は

余 暇 にゲ ー ム を して 過 ご した。 こ とに私 た ち はサ イ コロ ・ゲ ー ムが 好 きだ っ

た。 木 製 の サ イ コ ロ に は六 っ の面 が あ り、 そ の各 面 に は オ ン ・マ ニ ・パ ド

メ ・フ ンの 一 音 節 が 記 され て い た。 この ゲ ー ム に は大 きな 地 図 が あ り、 そ

こに は好 ま しい場 所 とそ うで な い場 所 が 記 さ れ て い た。 投 げ た サ イ コ ロに

した が って、 これ らの場 所 に進 ん だ。 好 ま しい場 所 に は ラサ や イ ン ドの巡

礼 地、 ま た シ ャ ンバ ラや デ ー ヴ ァチ ェ ンと い った、 多 数 の 不 思 議 な場 所 が

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(22)

密 教 文 化

あ った。 好 ま しか らざ る場 所 に は各 種 の地 獄 が あ り、不 運 に もそ こ に至 っ

た者 は相 応 の苦 難 を受 け た。 例 え ば そ こは耐 え難 い ほ ど に暑 か った り、 あ

る い は寒 か った り した。 勝 者 に は お菓 子 の賞 品 が あ った。 こ う した ゲ ー ム

は しば しば 何 時 間 も続 き、 時 に は騒 々 し く もあ った。 こと に良 い 目や 悪 い

目が 出 る と、 祝 福 や 落 胆 の声 が一 斉 に上 が った」([Norbu

1960: 93])。 こ

う した娯 楽 と して の 性 格 の ほか に、 この双 六 に は、 初 心 者 の仏 教 徒 に も面

白お か し く仏 教 の 教 理 や 世 界 観 を理 解 させ る と い う、 教 育 的 な一 面 も あ っ

た。 「

後 代 に な る と、 チ ベ ッ ト人 は この ゲ ー ム を教 育 の た め の ゲ ー ム と考

え る よ うに な った。 子 ど もの時 に仏 教 の世 界 観 を知 り、 カ ル マ(業)の

用 を 理解 す るの に、 そ れ はか っ こ うの もので あ った。 また この ゲ ー ム は娯

楽 で もあ った。 老 い も若 き も、僧 も俗 人 も、楽 しみ な が らカ ル マ の行 き先

にお ど け喜 ん だ。 チ ベ ッ ト人 は この ゲ ー ムを とて も好 ん だ ので、 時 に はそ

れ で賭 け事 も した。 僧 院 内 で は、 そ れ は年 長 の者 た ち に は休 日 の楽 しみ で

あ り、年 若 い者 た ち に は、 勉 学 や 儀 礼 の 後 の、 長 い午 後 の楽 しみで あ った」

([Tatz & Kent 1978: 1])と

い う。 こ う した使 用 法 はネ パ ー ル に お い て も

同様 で あ った と思 わ れ る。 しか しこの仏 塔 双 六 の伝 統 が忘 却 さ れ て しま っ

た現 在 で は、 そ れ が実 際 に どの程 度 まで ネ ワー ル仏 教 徒 に浸 透 して い た の

か は確 認 で きな い。

サパ ンの仏 教 双 六 に っ い て、 「お そ ら くサパ ンは キ ー ロ ン(カ

トマ ン ズ

盆 地 の北 に位 置 す る、 チ ベ ッ ト領 内 の都 市。 古 くか らカ トマ ンズ を経 由 す

る イ ン ド ・チ ベ ッ ト間 の交 易 中継 地 と して栄 え た)で 出会 っ た ヒ ン ドゥー

教 徒 た ちか ら、 そ の イ ンス ピ レー シ ョ ンを得 た の で あ ろ う。 あ る い は ヒ ン

ドゥー教 徒 た ちが チ ベ ッ トか らイ ン ドに もど る時 に、 彼 の ゲ ー ム を コ ピー

した のか も しれ な い」([Tatz & Kent 1978: 16])と

い う。 筆 者 に は そ の

起 源 を論 じる用 意 は な い が、 これ ま で の研 究 の大 勢 を ま と め れ ば、 イ ン ド

や ネパ ール の ヒ ン ドゥー教 双 六 が チ ベ ッ トで 仏 教 双 六 に改 変 され、 それ が

ネパ ール の 仏 塔 双 六 を成 立 させ た と い う こと に な るだ ろ う。 た だ しイ ン ド

の双 六 に は釈 尊 当 時 の仏 教 起 源 説([Shimkhada

1983: 322][Tatz

& Kent

(23)

1978: 15])も

あ れ ば、 そ れ に 対 す る否 定 的 な見 解([Topsfield

1985: 205,

n.

7])も

あ る。 ヒ ン ド ゥー教 の 双 六 に は、 そ の区 画 の分 け方 に各 種 の バ リ

エ ー シ ョ ンが あ る。 また双 六 の 全 体 が ロ ー カ ・プ ル シ ャや 神 聖 な建 築 物 で

囲 まれ る こと もあ る。仏 塔 に組 み込 まれ た双 六 に は、 これ らの影 響 が あ る

の か も しれ な い。

イ ン ドの一 般 的 な ヒ ン ドゥー教 系 双 六 は 「蛇 とハ シ ゴの ゲ ー ム」 と 呼 ば

れ る(6)。ヴ ィ シ ュ ヌ神 の 双 六 は、 特 に そ の住 所 と な る天 の名 か ら ヴ ァ イ ク

ンタ ・ケ ルVaikuntha-khel(ヴ

ィ シ ュ ヌ天 の ゲ ー ム)と

呼 ば れ る。 精 緻

な双 六 の各 区 画 に は、 ヒ ン ドゥー教 の神 々 や そ の哲 学 の重 要 概 念、 あ る い

は ま た イ ン ド国 内 の 有 名 な巡 礼 地 な どが 配 置 さ れ て い る。 そ れ らの 実 例 は

[Pargiter 1916][Shimkhada

1983][Topsfield

1985]ま た[Slusser 1982:

1: 220-221, II-plate 331]に

見 られ る。 プ レー ヤ ー は サ イ コ ロを振 って、

最 下 段 左 端 か ら上 段 中央 の最 高 神 の 世 界 を 目指 す。 区 画 の途 中 に はた くさ

ん の蛇 や ハ シ ゴが描 か れ て お り、 そ れ らの指 示 に したが って一 足 飛 び の上

昇 と下 降 が あ る。 上 向 きの矢、 あ るい は色 の 異 な る二 種 類 の蛇 の一 方 が ハ

シ ゴの 役 を果 たす こ と もあ る。

一 般 的 に言 って、 ヒ ン ドゥー教 系 の双 六 と仏 教 系 双 六 の 最 大 の相 違 は、

プ レー ヤ ー(ま た は そ の代 理 の駒)の 進 み方 に ある。前者 で は、プ レー ヤ ー

(の 駒)は

サ イ コ ロの 出 目の 数 だ け進 む に あ た り、牛 が 田 畑 を 耕 して 行 く

(黎 耕 体)よ

うに、 最 下 段 左 端 か ら右 方 に向 か い、 そ の 上 の 段 で は逆 に 右

か ら左 に進 む。 そ の 上 段 で は再 び左 か ら右 に 向 か う。 そ して そ の時 々 に 到

着 した 区画 に 附 随 す る蛇 や ハ シ ゴ に よ って、 一 足 飛 び の上 昇 や 下 降 を す る

こと に な る。 と こ ろが 仏 教 系 の 双 六 で は、 そ の 出発 点 で あ る人 間 世 界 の南

閻 浮 洲 は、 双 六 全体 の 途 中 部 分 に あ った。 ま た一 っ の 区画 に は次 に進 む べ

き六 つ の小 区画 が含 まれ て いた。 隣 接 す る区 画 同士 に は、 仏 教 の 教 理 と世

界 観 に基 づ く連 続 性 が想 定 で き る と は いえ、 プ レー ヤ ー が次 に進 む 区 画 は

そ れ と無 関 係 で あ る(各 層 で は左 方 に行 く ほ ど レベ ル が 高 くな る傾 向 が あ

る)。

ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(24)

密 教 文 化 一 足 飛 び の 上 昇 は、 ヒ ン ド ゥ ー 教 系 の 双 六 で は ハ シ ゴ に よ って 表 現 さ れ る こ と が 多 い。 例 え ば[Pargiter 1916: 541-542]で は、 区 画No. 68の Visnu-bhakti-prakarapah("excellence of loving faith in Visnu")に 達

した 者 は、 そ の 区 画 か ら伸 び る ハ シ ゴ に よ っ て、 直 ち に ゴ ー ル の 区 画No.

124 Sri-Para-Brahma-moksah("deliverance into the Supreme Brahma" に 到 る こ と が で き る。 そ れ に 対 して サ パ ンの ゲ ー ム で は、 「(出発 点 の)南 閻 浮 洲 か ら連 続 して 四 つ の ア を 出 す こ と で、 タ ン ト ラ の 道(正 し く は マ ン

ト ラ の 道snags-lam)を 経 申 し て、 決 勝 の ゴ ー ル で あ る 法 身 の 区 画 ま で 急 速 に 上 り詰 め る こ と が で き る。 こ の タ ン ト ラ の 道 は、 他 の 現 代 版 の ゲ ー ム よ り も早 く容 易 に ゴ ー ル に 達 し う る」([Tatz & Kent 1978: 12])と い う。 ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に も 同 様 の 工 夫 が あ り、 そ の い ず れ に も、 そ れ に 伴 う リス ク が あ っ た。 と こ ろ が、 こ う した リス ク(ト ラ ッ フ. )の 設 定 は、 ヒ ン ド ゥ ー 教 系 の 双 六 に は あ ま り 見 ら れ な い。 こ の よ う に ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に は チ ベ ッ トの 仏 教 双 六 と の 共 通 点 が 多 い。 チ ベ ッ トの 仏 教 双 六 は か な り整 備 さ れ た 教 学 と修 行 の 体 系 を 背 景 に 成 立 し て い る が、 そ う し た 事 情 は ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 も同 様 で あ っ た と思 わ れ る。 し か し な が ら、 チ ベ ッ トの 仏 教 双 六 と ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 の 各 区 画 に 記 さ れ た 術 語 を 比 較 す る な ら ば、 そ こ に は 全 く系 統 の 異 な る 体 系 が 見 出 さ れ る か ら、 両 者 の 間 に は別 個 の 伝 統 に 裏 打 ち さ れ た 教 学 が あ っ た こ と に な る。 ネ ワ ー ル 仏 教 は儀 礼 を 重 視 す る あ ま り に 教 学 的 な 発 展 を お ろ そ か に し た 一 面 が 否 め な い が、 そ れ に 対 し て こ の 仏 塔 双 六 は、 ネ ワ ー ル 仏 教 に お け る そ の よ う な 不 備 を 補 う基 礎 資 料 に な る か も し れ な い。 た と え ば、 仮 の ゴ ー ル で あ る色 究 寛 天 に 到 達 す る可 能 性 は(45)か ら(50)に 開 か れ て い る が、 大 ユ ガ 到 彼 岸 乗(47)お よ び 弥 勒 天(50)以 外 は、 そ れ と 同 時 に、 低 い レ ベ ル に 逆 戻 り す る可 能 性 も残 さ れ て い る。 こ の 双 六 に 仏 教 教 理 を 学 ぶ 教 育 的 な 一 面 が あ っ た と す れ ば、 ゲ ー ム の プ レ ー ヤ ー は、 そ の 教 学 上 の 理 由 を ゲ ー ム の 最 中 に 身 を も っ て 学 ん だ は ず で あ る。 筆 者 は、 こ の 仏 塔 双 六 に 登 場 す る 個 々 の 術 語 を 解 説 し た、 何 らか の 教 義 概 説 が あ っ た の で は な

(25)

い か と考 え て い る。 残 念 な が らそ う した テ キ ス トを 筆 者 は まだ 確 認 して い

な い(チ ベ ッ トに お い て も、今 の と ころ、 そ の 種 の テ キ ス トは報 告 され て

い な い よ うで あ る)が、

それ が 将 来 に 「

発 見 」 され る可 能 性 は大 きい。 そ

の た め に も本 稿 で は こ の仏 塔 双 六 の全 容 を 冒頭 に提 示 して、 広 く研 究 者 の

注 意 を 喚起 して お き た い と願 って い る の で あ る。

〈 注 〉 (1)筆 者 は十 年 前 に こ の仏 塔 双 六 の存 在 を指 摘 して お い た([吉 崎1993: 5])が、 そ の 後、 この双 六 が ネパ ール の 学 界 で も知 られ て い な い ま ま で あ る こ とを 確 認 した の で、 こ こに 新 資 料 と して 全 貌 を紹 介 す る こと に した。 ま た南 ア ジア 学 会 で の 要 旨 発 表([吉 崎2001b])は この双 六 の紹 介 に と ど ま り、 傘 蓋 部 分 の 考 察 を 含 ん で い な い。 (2)図1は[立 川1996: 40]よ り転 載 した。転 載 にあ た り立 川 武 蔵 先 生 に紹 介 を頂 き、 学 習 研 究 社 か ら格 別 の配 慮 を得 た。記 して 御 礼 を 申 し上 げ ま す。 (3)興 味 深 い こ とに、 リス ト(1)に見 られ る、チ ャ ン ドー ハ と 第 六 現 前 地、 な らび に ウ パ チ ャ ン ドーハ と第 五 難 勝 地 の対 応 関係 は、 リス ト(2)と(3)では逆 に な って い る (ネ ワー ル 仏 教 の 儀 礼 趣 旨宣 言 文 も、カ トマ ンズ盆 地 を[第 五]難 勝 地 の ウパ チ ャ ン ドー ハ とす る)。津 田真 一 氏 は、前 者 の 「順 序 の乱 れ」が、 サ ン ヴ ァ ラ 系 の ・「諸 タ ン トラの 系 統 論 的 関 係 を 考 察 す る上 で の一 っ の 手 が か りを 提 供 して い る」([津 田1971: (33)一(34)])と 指 摘 す る(ま た[津 田1971: (40)][津 田1973: (16)]参 照)。 リス ト(2)と(3)では この 「順 序 の乱 れ 」が 「訂 正 」 さ れ て お り、 そ れ に 対 して リス ト(1)はそ の 「順 序 の乱 れ」を 「訂 正 」 しな い ま ま、 ピ ー タ と ウ パ ピー タ を 繰 り返 して い る。 これ らは、ネ パ ール に お け る サ ンヴ ァ ラ系 密 教 の 歴 史 を 考 え る上 で の 資 料 と な る だ ろ う。 (4)Huntingtonは、 これ を ネ ワ ール 仏 教 に独 自 の第 十 四地 と す る([Huntington 2002: 18])。 (5)チ ベ ッ トの 仏 教 双 六 に は い くっ か の 名 称 が 挙 げ られ て い る。[Das 1902: 260]は srid pai khorlo("the Circle of Life")を 挙 げ、[Finkel 1995: 34]はsa-lam rnam-bzhag("Determination of the Ascension of Stages")と す る。[Tatz &Kent 1978: 55-56, n. 28]はsa-1am rnam. bzhags("Determination of the Paths to the Stages")が ブ ー タ ン で の 名 称 で あ る と し て、 代 わ り にsa-gnon rnam-bzhagsの 名 を 挙 げ、 ま た そ の サ ン ス ク リ ッ ト名 vyavasthapanaと す る。 チ ベ ッ ト の 仏 教 双 六 に 関 す る 記 事 は[Waddell 1972: ネ パ ー ル の 仏 塔 双 六 に つ い て

(26)

472-473][Hummel and Brewster 1963: 8]に も見 られ る。

(6)ネ パ ール 人 は これ を ナ ー グ ・パ ー スNaga-pasaと 呼 ん で い る。 イ ン ドの 双 六 の名 称 に はJnana-chaupar("the Game of Self-knowing")あ る い baji("the Game of Knowledge")な ど が あ り、サ ン ス ク リ ッ ト語 pata(「 解 脱 の 絵 」)が挙 げ られ る こと もあ る。 〈 参 考 文 献 〉 江 島恵 教 1978 「説 出 世 部 の 仏 塔 テ キ ス ト」「国 訳 一 切 経 ・三 蔵 集 』第3輯pp. 160. 立 川 武 蔵 1996 「マ ン ダ ラ-神 々 の 降 り立 っ 超常 世 界」学 習 研究 社(学 研 グ ラ フィ ッ ク ・ブ ッ クス10) 津 田 真 一 1971「 サ ン ヴ ァ ラ系 密教 に於 け るpitha説 の研 究(I)」 『豊 山 学 報」第 16号pp. (26)-(47). 1973「 サ ン ヴ ァ ラ系密 教 に於 け るpitha説 の研 究(II)」 『豊 山 学報 』第 17/18合 併 号pp. (11)-(35). 吉 崎一 美 1989「Caitya-laksapa-vidhi訳 解 」『印 度 学 仏 教 学 研 究 』 第38巻 第1 号pp. (91)-(93). 1991「 ネ ワー ル仏 教 の仏 塔 建 立 に っ い て」「密 教 図 像 』第9号pp. 15-25. 1992「 仏 の 歩 む 旗 の 道-dhvajavaropa胆 考-」 「密 教 図 像 』 第11号 pp. 1-10. 1993「 ネ パ ー ル の仏 塔 に見 る壺 の入 れ子 構 造 と色 究 寛 天 」 「密 教 図 像 』 第12号pp. 1-14. 1998 「ネ パ ー ル仏 教 』春 秋 社(田 中公 明氏 との共 著) 2001「 ネ パ ー ル の ヨー ガ ー ンバ ラ系 密 教 」『密 教 文 化 』第207号pp. (44) 2001b「 ネ パ ー ル の仏 塔 す ごろ くにつ い て 」 『日 本 南 ア ジ ァ 学 会 第14回 全 国 大 会 報 告 要 旨集 」pp. 29-32. 2001c「 ア ー シ ャー ・サ フ ー ・ク テ ィ所 蔵 写 本 デ ジタ ル デ ー タ ベ 温 ス の 完 成 」 『日本 ネパ ー ル協 会 会 報 』No. 169, pp2-3.

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〈 キ ー ワ ー ド〉

参照

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