奈良市観光交流推進計画
平成22年2月 奈 良 市
<目 次>
I. はじめに ... 1 1.計画を策定する背景 ... 1 2.計画の期間 ... 1 3.計画の構成 ... 1 II.奈良市の観光を取り巻く状況 ... 2 1.奈良に来訪する観光客の状況 ... 2 2.奈良における観光資源・観光関連産業の状況 ... 9 III. 奈良市へ招く観光客のニーズ(ヒアリング・アンケート結果等より) ... 14 1.奈良の魅力 ... 14 2.観光資源 ... 14 3.宿泊施設 ... 15 4.交通手段の整備 ... 15 IV. 奈良市観光の課題 ... 16 1.既存の計画等で指摘されている課題 ... 16 2.ヒアリング結果等からみる奈良市観光の課題 ... 18 3.検討委員会において議論された奈良市観光の課題 ... 19 4.課題のまとめ ... 20 V.奈良市観光の方向性 ... 21 1.奈良市観光の目標像 ... 21 2.基本的な方向性 ... 22 VI. 重点的な取り組み ... 29 1.資源を育てる ... 29 2.魅力を分かち合う ... 29 3.環境を整える ... 30 VII. 計画の推進に向けて ... 31I.
はじめに
1
. 計画を策定する背景
本市は、国際文化観光都市であり、観光は本市の魅力や活力を充実させるツール であるとともに、本市の大きな経済基盤である。 このため、文化観光集客都市づくりを本市の都市像づくりの一つと位置付け、平 成 19 年度には新奈良ブランド開発計画を策定し、まち歩きや文化、人々の暮らし を楽しんでいただく多彩なウォーキングコース「ゆきめぐり」の作製や「ならまち」 のブランド化など新たな奈良の魅力づくりを進め、また、東京観光オフィスを設置 するなど観光客の誘致を図ってきた。 しかし、本市においては、これまで観光に関する基本的な計画がなく、今後の観 光行政を進める上において、基本的な方向性、事業の取組方針を整理するため、こ のたび奈良市観光交流推進計画を策定した。 また、この計画の内容に、本年4月に制定した「奈良市もてなしのまちづくり条 例」の趣旨を取り入れ、平城遷都 1300 年祭に訪れた観光客に奈良の良さを伝え、 将来リピーターとして訪れてもらえるまちづくりを支える計画として位置付ける。2
. 計画の期間
計画の期間は、平成 21(2009)年度から 10 年間とする。3
. 計画の構成
この計画は、まず、奈良市の観光を取り巻く状況や訪れた観光客のニーズなどの 調査結果を示した上で、奈良市観光の課題について取りまとめている。その上で、 奈良市観光の今後の基本的な方向性を示し、そのために必要な取り組みの例を挙げ ている。中でも、早急に着手すべきものについては重点的な取り組みとして例示 し、最後にはこの計画の推進に向けた体制を示している。
II.奈良市の観光を取り巻く状況
1
. 奈良に来訪する観光客の状況
(1)
国内
①
宿泊観光客
ア. 総数 奈良市における宿泊観光客数は 2006 年に 200 万人を突破した。修学旅行による 宿泊は減少傾向にあるものの、2006 年以降一般の宿泊客が大幅に増加している。 図表II-1 奈良市における宿泊観光客数の推移 156 134 147 173 180 184 183 179 193 205 215 20 19 9 9 10 10 12 15 13 15 16 215 203 189 194 196 195 188 163 153 176 224 0 50 100 150 200 250 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 一般 修学旅行 (万人) (年) (注)四捨五入の関係で内訳と合計が一致しないことがある。 (資料) 奈良市観光企画課「奈良市入込観光客数調査報告 平成 20 年」イ. 宿泊客の出発地・居住地 国内の宿泊観光客の出発地について、奈良と京都を比較すると、関東と近畿、中 国・四国についてはほぼ比率が同じであるが、北海道・東北、九州・沖縄といった 地域の比率は奈良より京都のほうが高く、京都の方がより広域に国内の宿泊客を集 めていることが分かる。 図表II-2 宿泊観光客の出発地(奈良・京都) 5.5 9.8 55.5 55.6 15.1 9.4 11.5 10.5 4.2 4.8 6.0 8.1 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 奈良 京都市内 北海道・東北 関東 中部 近畿 中国・四国 九州・沖縄 (注1)2006年度の JTB 宿泊券データより抜粋・整理されたデータ (注2)四捨五入の関係で内訳の合計が 100 にならないことがある。 (注3)「奈良」は奈良県全域 (資料)ツーリズム・マーケティング研究所「JTB宿泊白書 2007」 図表II-3 宿泊観光客の居住地 2.9 4.7 35.9 34.9 11.1 11.9 32.2 15.6 4.3 4.9 4.7 6.2 8.8 12.6 9.3 0.0 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 奈良県 京都府 北海道・東北 関東 中部 近畿 中国・四国 九州・沖縄 国外 不明 (注1)従業者数10人以上の全宿泊施設を対象とした調査(2008 年 1~3月) (注2)四捨五入の関係で内訳の合計が 100 にならないことがある。 (資料)国土交通省「宿泊旅行統計調査報告」
②
日帰り観光客数
奈良市における日帰り観光客は 1100 万人前後で推移している。1998 年に 100 万 人であった修学旅行客は、少子化の影響もあり 2008 年には 70 万人を下回ってい る。2005 年以降、一般の日帰り客は増加が続いている。 図表II-4 奈良市の日帰り観光客数の推移 1,001 1,038 1,065 1,083 1,096 1,093 992 1,013 1,037 1,053 1,091 100 77 71 72 71 68 74 77 73 79 94 1,160 1,125 1,109 1,084 1,068 1,170 1,169 1,155 1,144 1,132 1,101 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 一般 修学旅行 (万人) (年) (注)四捨五入の関係で内訳と合計が一致しないことがある。 (資料) 奈良市観光企画課「奈良市入込観光客数調査報告 平成 20 年」(2)
海外
①
外国人観光客数
奈良市を訪れる外国人観光客は、2002 年以降増加傾向にあり、2004 年には 30 万 人を突破している。また、2006 年から 2007 年にかけては、約 15 万人の大幅な増加 が見られ、2007 年から 2008 年にかけてもやや増加している。 図表II-5 奈良市における外国人観光客数の推移 2 2 2 2 3 3 3 4 4 5 5 17 47 45 32 29 27 23 24 16 17 19 52 50 35 32 31 27 26 18 20 21 19 0 10 20 30 40 50 60 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 宿泊 日帰り (万人) (年)②
外国人観光客の宿泊日数
外国人観光客の宿泊日数をみると、奈良市内で1泊以上宿泊する外国人観光客は 約3割にとどまり、多くが日帰りで訪れていることがわかる。 一方、京都市では約7割、大阪市では約8割の外国人観光客が宿泊しており、5 泊以上滞在する観光客も約1割いる。 図表II-6 外国人観光客の宿泊日数(2006年度) 68.9 31.6 13.7 16.9 23.8 26.2 8.4 16.3 24.1 10.7 13.3 1.7 6.3 8.4 11.2 14.4 2.1 2.0 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 奈良市 京都市 大阪市 0泊 1泊 2泊 3泊 4泊 5泊以上 (注)四捨五入の関係で内訳の合計が 100 にならないことがある。 (資料) (独)国際観光振興機構「JNTO 訪日外客実態調査」③
外国人観光客の地域別・国別内訳
奈良市を訪れる外国人観光客は韓国からが最も多く、次いで台湾、アメリカの順 となっている。ヨーロッパからの観光客は日本全体では英国からが最も多いが、奈 良市ではフランスが最も多くなっている。 図表II-7 奈良市を訪れる外国人観光客の国・地域別構成比 (注1)四捨五入の関係で内訳の合計が 100 にならないことがある。 (資料) 奈良市観光企画課 中国, 4.9 フランス, 4.4 英国, 4.3 香港, 3.0 オーストラリア, 3.0 カナダ, 2.8 ドイツ, 2.7 タイ, 2.4 マレーシア, 1.1 シンガポール, 1.0 不明, 0.4 その他, 15.5 アメリカ, 10.4 台湾, 14.2 韓国, 29.8 (%)④
外国人観光客の奈良訪問回数
奈良を訪れる外国人観光客のうち、8割以上が奈良を初めて訪問している。 図表II-8 外国人観光客の奈良訪問回数 不明 2.1% 在住 0.2% 複数回 0.4% 5回以上 1.8% 4回 0.7% 3回 3.0% 2回 8.5% 初めて 83.3% (N=1,141) (注1) 県内の主要観光地(東大寺、薬師寺、法隆寺、明日香村)周辺での聞き取り調査 (注2) 図中の「N=」に続く数字は調査対象の母数(以下同じ) (資料) 奈良県文化国際課「奈良県の外国人観光客動向実態調査結果報告書」(2007年 3 月)⑤
外国人観光客の訪問地
外国人観光客が最も多く訪れているのは東大寺であり、次いで奈良公園、興福 寺、春日大社と続く。 図表II-9 外国人観光客の訪問地(複数回答) 601 323 158 139 97 79 70 47 33 32 396 0 100 200 300 400 500 600 700 東 大 寺 奈 良 公 園 興 福 寺 春 日 大 社 お 寺 法 隆 寺 大 仏 国 立 博 物 館 奈 良 町 二 月 堂 そ の 他 (人) N=1,141 (注) 県内の主要観光地(東大寺、薬師寺、法隆寺、明日香村)周辺での聞き取り調査 (資料) 奈良県文化国際課「奈良県の外国人観光客動向実態調査結果報告書」(2007 年 3 月)⑥
外国人観光客の奈良訪問理由
外国人観光客が奈良を訪問する理由で最も多いものは「文化体験」「歴史」であ る。 図表II-10 外国人観光客の奈良訪問理由(複数回答) 491 367 338 281 38 468 0 100 200 300 400 500 600 文 化 体 験 歴 史 自 然 知 名 度 勧 誘 そ の 他 (人) N=1,141 (注) 県内の主要観光地(東大寺、薬師寺、法隆寺、明日香村)周辺での聞き取り調査 (資料) 奈良県文化国際課「奈良県の外国人観光客動向実態調査結果報告書」(2007 年 3 月) 平城宮跡(東院庭園)(3)
来訪者の立ち寄り先
①
宿泊場所
宿泊観光をする際には京都や大阪で宿泊し、奈良に立ち寄っている人も少なくな い。 図表II-11 奈良に宿泊を伴う旅行をした際の宿泊場所(複数回答) 【首都圏】 【中部圏】 (注)3 年以内に奈良に訪れたことのある首都圏・中部圏在住者(各 400 名)を対象としたインターネットアン ケート調査(2008年11 月実施)の結果による。②
奈良以外の立ち寄り場所
奈良以外の立ち寄り場所は京都が多く、首都圏からの来訪者で特に顕著といえ る。 図表II-12 奈良に訪れた際の、奈良以外の立ち寄り場所(複数回答) 【首都圏】 【中部圏】 (注1)3 年以内に奈良に訪れたことのある首都圏・中部圏在住者(各 400 名)を対象としたインターネットア ンケート調査(2008年11 月実施)の結果による。 (注2)この設問において「神戸」については「神戸及びその他兵庫県内」という選択肢で回答を得ている。 73.0 20.3 28.0 44.3 5.4 1.7 3.0 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 奈良市内 奈良市以外の奈良県内 大阪 京都 神戸 和歌山 その他 無回答 N=296 76.3 22.9 18.2 30.5 3.8 4.7 1.7 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 奈良市内 奈良市以外の奈良県内 大阪 京都 神戸 和歌山 その他 無回答 N=236 45.3 81.5 19.5 10.0 8.3 7.5 3.5 10.0 0.0 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 大阪 京都 神戸 滋賀 和歌山 三重 その他 どこにも立ち寄っていない 無回答 N=400 36.5 61.5 12.3 11.5 8.5 14.0 1.5 26.5 0.0 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 大阪 京都 神戸 滋賀 和歌山 三重 その他 どこにも立ち寄っていない 無回答 N=4002
. 奈良における観光資源・観光関連産業の状況
(1)
観光資源
奈良市には「古都奈良の文化財」として、世界遺産リストに登録された歴史的遺 産がある(東大寺、興福寺、春日大社、元興寺、薬師寺、唐招提寺、平城宮跡、春 日山原始林の8資産群)。また、奈良市には 766 件の国指定文化財があり、うち 126 件が国宝で、このほか特別史跡、特別名勝が2か所あり、春日山原始林が特別天然 記念物に指定されている。 図表II-13 奈良市の国宝、特別史跡、特別名勝、特別天然記念物 種別 概要 国宝 (126 点) 建造物 (31 点) 海竜王寺五重小塔、興福寺五重塔、興福寺三重塔、興福寺東金堂、興福 寺北円堂、元興寺極楽坊五重小塔、元興寺極楽坊禅室、元興寺極楽坊本 堂、秋篠寺本堂、春日大社(本殿)、十輪院本堂、新薬師寺本堂、正倉 院正倉、唐招提寺金堂、唐招提寺経蔵、唐招提寺鼓楼、唐招提寺講堂、 唐招提寺宝蔵、東大寺開山堂、東大寺金堂(大仏殿) 、東大寺鐘楼、 東大寺転害門、東大寺南大門、東大寺二月堂、東大寺法華堂、東大寺本 坊経庫、般若寺楼門、薬師寺東院堂、薬師寺東塔、霊山寺本堂、圓成寺 春日堂白山堂 絵画 (10 点) 絹本著色阿弥陀三尊及童子像、絹本著色倶舎曼荼羅図、絹本著色慈恩大 師坐像、絹本著色十一面観音像、絹本著色十二天像、紙本著色華厳五十 五所巻、紙本著色地獄草紙、紙本墨画淡彩山水図伝周文筆、麻布著色吉 祥天像、紙本著色辟邪絵 彫刻 (45 点) 乾漆鑑真和上坐像、乾漆金剛力士立像、乾漆四天王立像、乾漆十大弟子 立像、乾漆帝釈天梵天立像、乾漆八部衆立像(内一身區下半身欠失)、 乾漆不空羂索観音立像、乾漆盧舎那仏坐像、塑像十二神将立像(宮毘羅 大将像を除く) 、塑造月日光光仏仏立像、塑造四天王立像、塑造執金剛 神立像、銅像仏頭(旧山田寺講堂本尊)、 銅造観音菩薩立像、銅造誕生 釈迦仏立像・銅造灌仏盤、銅造薬師如来及両脇侍像、銅造盧舎那仏坐像、 板十二神将立像、木心乾漆千手観音立像、木心乾漆薬師如来立像、木造 僧形八幡神/神功皇后/仲津姫命 坐像、木造 梵天/帝釈天 立像、木 造維摩居士坐像、木造乾漆四天王立像、木造金剛力士立像、木造金剛力 士立像、木造四天王立像、木造四天王立像、木造四天王立像、木造十一 面観音立像、木造十二神将立像、木造俊乗上人坐像、木造千手観音立像、 木造僧形八幡神坐像、木造大日如来坐像、木造不空羂策観音坐像、木造 文殊菩薩坐像、木造法相六祖坐像、木造無著菩薩立像・木造世親菩薩立 像、木造弥勒仏座像、木造薬師如来坐像、木造薬師如来坐像、木造薬師 如来立像、木造竜天燈燈鬼鬼立像、木造良弁僧正坐像 工芸品 (27 点) 金銅宝塔/金銅宝珠形舎利塔/金銅筒形容器/赤地二重襷花文錦小袋/ 水晶五輪塔 赤地錦小袋/水晶五輪塔 織物縫合小裏、花鳥彩絵油色箱、 華原磬、牛皮華鬘、金装花押散兵庫鎖太刀中身無銘、金地螺鈿毛抜形太 刀、金銅燈籠、金銅透彫舎利塔、金銅八角燈籠、黒韋威矢筈札胴丸兜/ 大袖付、刺繍釈迦如来説法図、舎利瓶/鉄宝塔、舎利容器、若宮御料古 神宝類、赤糸威鎧兜/大袖付、赤糸威鎧兜/大袖付、唐鞍、菱作打刀中身 無銘、葡萄唐草文染韋、本宮御料古神宝類、沃懸地獅子文毛抜形太刀中 身無銘、沃懸地酢漿平紋兵庫鎖太刀中身無銘、沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀 中身無銘、蓮唐草蒔絵経箱、梵鐘、梵鐘、籠手 書跡典籍 (7 点) 金光明最勝王経、金剛般若経開題残巻、賢愚経巻第十五(四百六十七 行)、紫紙金字金光明最勝王経、大田比盧遮那成仏神変加持経、日本紀 巻第十残巻、日本霊異記上巻 1 巻 古文書 (2 点) 伝教大師筆尺牘、東大寺 文書 1008 巻 51967 通 9 通 (4 点) 考古資料 興福寺金堂鎮壇具、東大寺 金堂鎮壇具、仏足石、仏足 跡歌碑 記念物 特別史跡、 特別名勝 (2 箇所) 平城京左京三条二坊宮跡 庭園、平城宮跡 特 別 天 然 記念物 (1 箇所) 春日山原始林 (資料) 文化庁データベース、奈良県教育委員会資料等をもとに作成(2)
宿泊施設
奈良県及び奈良市においても、全国と同様、施設数・客室数とも旅館が減少しホ テルが増加する傾向が続いているが、施設数・客室数ともホテルに対する旅館の存 在感が、全国に比べて大きくなっている。 奈良県のホテルについては、2002 年3月末時点では、施設数、客室数とも 47 都 道府県中最下位であったが、2007 年3月末には1つだけ順位を上げている。 図表II-14 宿泊施設の施設数・客室数の推移(奈良) 【県】 10 12 14 23 28 30 37 42 46 51 563 543 535 516 502 493 480 468 452 439 3,036 1,114 5,991 7,701 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 ホテル(客室数) 旅館(客室数) (年度) (室) (施設) 客 室 数 施 設 数 旅館(施設数) ホテル(施設数) 【奈良市】 14 15 16 19 21 23 122 125 129 123 125 129 1,411 1,986 2,324 2,059 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 ホテル(客室数) 旅館(客室数) (年度) (室) (施設) 客 室 数 施 設 数 旅館(施設数) ホテル(施設数) (資料)厚生労働省「保健・衛生行政業務報告」図表II-15 宿泊業の事業所数・従業者数の推移(奈良市) 119 116 107 93 96 2,510 2,559 2,583 2,155 2,137 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 1996 1999 2001 2004 2006 0 25 50 75 100 125 150 (年) (事業所) 従 業 者 数 事 業 所 数 (人) (資料)総務省「事業所・企業統計調査報告」 図表II-16 ホテルの施設数・客室数の推移(奈良県:2002 年3月末-2008 年3月末) ホテル 23 (47) 51 (46) 1,868 (47) 3,036 (46) 旅館 516 (46) 439 (43) 7,046 (45) 5,991 (45) 客室数(順位) 2002年3月末 2008年3月末 2002年3月末 2008年3月末 施設数(順位) (資料)厚生労働省「保健・衛生行政業務報告」 奈良公園(飛火野)
(3)
交通
奈良市内では鉄道・バスの事業者が観光資源と関連付けて様々なサービスを展開 しているほか、観光タクシーや人力車、レンタサイクルの利用なども可能となって いる。 図表II-17 奈良市内の観光に関する交通 事業者 概要 近鉄 ・ 奈良・斑鳩1dayチケット:スルッと KANSAI エリアの私鉄・地下鉄 沿線および近鉄電車と奈良交通バスの指定区間が1日乗降自由。主要観 光施設割引特典付き。 ・ 奈良世界遺産フリーきっぷ:近鉄電車往復乗車券と指定区間内の近鉄 電車と奈良交通バスが乗降自由のきっぷを割引セット。「奈良・斑鳩・吉 野エリア」「奈良・西の京・斑鳩エリア」「奈良公園エリア」の3種類。 有効期間は2~3日。主要観光施設割引特典付き。 奈良・大和路遊々きっぷ:京都までの新幹線往復とフリー区間内の近鉄 電車・JR線・奈良交通バスが乗降自由のきっぷを割引セット。有効期 間は4日間。 ・ 奈良大和路スルーパス:名古屋⇔奈良大和路周遊⇔京都のいずれか片 道が利用できる乗車券。奈良大和路周遊区間では鉄道のみまたはバスセ ットコースがあり乗降自由。有効期間は4日間。主要観光施設割引特典 付き。 JR西日本 ・ 「JRで行くハイキング」と題したハイキング企画商品の一環として、 「奈良コース 広々とした緑の空間と四季のうつろいが彩るいにしえの 都・奈良を訪ねる」を設定。JR奈良駅から猿沢池、春日大社、若草山、 東大寺等を経て駅に戻るルートなどを紹介している。 ・ 夏休み、冬休み乗り放題きっぷにおいて特典施設(寺社仏閣)の設定 をしている。 ・ 日帰り旅行商品として、駅プラン「奈良散策」の設定をしている。 奈良市と共同で DISCOVER WEST ハイキング(ガイド付・無料・予約不 要)の実施を PR している。 奈良交通 ・ 定期観光バス:「世界遺産コース」「季節コース 紅葉」など4種類の ルートで運行。バス運賃と拝観・見学料が割引セットで用意されている。 ・ レトロ調バス「バンビーナ」:近鉄・JR奈良駅から東大寺、春日大社 などをめぐる循環バス。内回りと外回りがあり双方向に循環できる。主 要バス停には、路線図や時刻表にも英語表記が施されている。 ・ 奈良・西の京・斑鳩回遊ライン:路線バスの「奈良法隆寺線」春日大 社本殿~法隆寺前系統が、国土交通省より「観光推奨バス路線」に指定 され、「奈良・西の京・斑鳩回遊ライン」として運行されている。 その他 ・ 観光タクシー:2時間半のコースや6時間のコースなど、時間ごとに 様々なメニューがあり、奈良市内の社寺や法隆寺等を運転手が同行案内 する。 ・ 人力車:京都、浅草、鎌倉など全国 10 か所に拠点を持つ「えびす屋」 が奈良店として拠点を構えている。東大寺や興福寺の前で待機している。 ・ レンタサイクル:駅リンくん(JR奈良駅)、奈良交通(西大寺南出口) などがサービスを提供。奈良交通のサービスは、近鉄奈良駅前の奈良自 転車センターでも乗り捨て可能である。(4)
その他(人材育成・関連サービス業等)
①
人材育成
奈良県立大学では、2001 年、地域創造学部に観光学科を設け、「持続可能な開発」 に資する「持続可能な観光」を担う人材の輩出に努めている。 観光学科には「観光事業・文化」を専攻する「観光開発コース」、国際経済の観 点から観光を捉える「国際観光コース」、サービス産業の観点から観光を捉える「観 光サービスコース」の3つのコースがあり、それぞれの分野で活躍できる人材の育 成を図っている。②
観光ガイド・ボランティア
奈良市ではいくつかの観光ガイド・ボランティア団体が活動しており、外国人旅 行者や個人旅行者向けにサービスを提供している。 図表II-18 奈良市内で活動する観光ガイド・ボランティア (資料)奈良市観光協会ホームページ、奈良県「奈良ボランティアネット」ホームページなどをもとに作成 トピック 概要 なら・観光ボランティ アガイドの会「朱雀」 ・ 少人数家族・友人・団体旅行グループ・修学旅行な どを対象にガイドを行う。 ・ 英語及び中国語のガイドも行っている。 奈良S.G.G.クラブ ・ 奈良市観光センターにおける外国人旅行者、在日外 国人等に対する案内業務のほか、英語とフランス語に よる通訳・ガイドサービスを行っている。 奈良YMCA善意通訳 ガイド(EGG) ・ 英語で個人向けのツアーガイドを行っている。 ・ ガイド全員がガイド科を修了し、奈良の文化や歴史 に詳しいスペシャリストであることをうたっている。 奈良学生ガイド ・ ボランティア学生による観光ガイド。1964 年設立さ れた。 ・ 年末年始を除き、毎日活動している。 ・ 奈良市の猿沢観光案内所をガイドオフィスとして使 用する許可を得ている。 平城宮跡サポートネッ トワーク ・ 平城宮跡の環境保全事業(清掃活動や美化啓発活動 など)や教育・文化事業(歴史・考古学や宮跡の自然 環境などの講演会・学習会の他小学校への出前教室な ど)を実施している。III.奈良市へ招く観光客のニーズ
(ヒアリング・アンケート結果等より)1
. 奈良の魅力
・ 固定ファンは京都にはない奈良の魅力を気に入っている。 ・ 具体的にはしっとりとした静かさの中で本物に触れられる魅力を感じる人が 多い。 ・ テレビドラマ等の舞台などになると、ロケ地めぐりをする観光客が増えるな ど反響が大きい。今後もドラマや映画の舞台となれば、ロケ地めぐりをするフ ァン層があると考えられる。2
. 観光資源
・ 自分へのお土産として、従来の製品に工夫を加え、こだわりを持って作られ ている製品を購入する人が少なくない。 ・ 再訪する際には、斑鳩・吉野などに足を伸ばしたいというニーズがある。 ・ まだ奈良を訪れていない人が来訪にあたって整備されるべき条件として、観 光資源に関するものでは、「魅力的な旅行プラン(体験や創作を伴う活動な ど)」や「魅力的なイベントの開催」という回答が多い。 ・ 20・30 代の女性では「魅力的な飲食店の整備」という回答も多い。 図表III-1 奈良に再訪する場合、訪れたい場所 【首都圏】 【中部圏】 (注)過去3 年以内に奈良に訪れたことのある首都圏・中部圏在住者(各 400 名)を対象としたインターネット 51.9 32.8 24.3 27.1 10.0 22.3 38.1 39.6 18.8 20.6 22.1 14.3 17.5 22.1 15.3 16.0 21.8 46.4 38.1 42.4 6.5 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 東大寺 奈良公園 興福寺 春日大社 元興寺 新薬師寺 薬師寺 唐招提寺 西大寺 法華寺 平城宮跡 春日山原始林 若草山 奈良国立博物館 ならまち 柳生 月ヶ瀬 法隆寺・斑鳩 橿原・明日香 吉野 その他 無回答 49.0 40.4 20.5 21.7 8.6 18.9 29.3 30.1 13.1 16.9 21.7 13.1 19.7 24.2 18.7 11.9 23.5 44.2 36.9 47.5 7.6 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 東大寺 奈良公園 興福寺 春日大社 元興寺 新薬師寺 薬師寺 唐招提寺 西大寺 法華寺 平城宮跡 春日山原始林 若草山 奈良国立博物館 ならまち 柳生 月ヶ瀬 法隆寺・斑鳩 橿原・明日香 吉野 その他 無回答3
. 宿泊施設
・ まだ奈良を訪れていない人が来訪にあたって整備されるべき条件として、 「安価で手軽な宿泊施設の整備」という回答が最も多い。 ・ まだ奈良を訪れていない人が来訪にあたって整備されるべき条件として、40 代の男性では「上質な宿泊施設の整備」という回答が他の属性と比べて高くな っているなど、宿泊施設について、属性ごとに多様なニーズを示している。4
. 交通手段の整備
・ 20 歳代の男性や 60 歳以上の女性においては、まだ奈良を訪れていない人が 来訪にあたって整備されるべき条件として、「交通手段の整備」という回答が 最も多い。 図表III-2 まだ奈良を訪れていない人が来訪にあたって整備されるべき条件 【首都圏】 【中部圏】 全体 魅力的な イベント などの開 催 上質な宿 泊施設の 整備 安価で手 軽な宿泊 施設の整 備 交通手段 の整備 魅力的な 飲食店の 整備 歴史・文 化などの 情報発信 魅力的な 旅行プラ ン(体験 や創作を 伴う活動 など) その他 484 26.2 11.4 35.3 26.4 15.1 19.0 24.6 11.2 253 27.7 12.6 38.7 26.1 12.3 20.2 18.6 11.9 36 33.3 2.8 27.8 41.7 13.9 22.2 27.8 11.1 57 38.6 12.3 35.1 33.3 15.8 10.5 14.0 7.0 46 28.3 21.7 39.1 23.9 6.5 23.9 19.6 13.0 80 18.8 11.3 42.5 20.0 13.8 22.5 18.8 13.8 34 23.5 14.7 47.1 14.7 8.8 23.5 14.7 14.7 231 24.7 10.0 31.6 26.8 18.2 17.7 31.2 10.4 34 35.3 2.9 29.4 17.6 29.4 8.8 38.2 5.9 44 38.6 11.4 34.1 25.0 29.5 11.4 25.0 4.5 31 16.1 9.7 32.3 25.8 16.1 22.6 35.5 12.9 96 19.8 11.5 29.2 28.1 14.6 20.8 29.2 15.6 26 15.4 11.5 38.5 38.5 0.0 23.1 34.6 3.8 全体 女性計 30代 40代 50代 60代以上 20代 30代 40代 50代 60代以上 性別: × 年代: 男性計 20代 (注)過去3 年以内に大阪・京都の観光経験はあるが、過去 5 年以内に奈良観光の経験がない首都圏・中部圏在 住者(各400 名)を対象としたインターネットアンケート調査(平成 20 年 11 月実施)の結果による。 24.0 12.9 34.3 24.0 18.0 18.0 27.0 13.3 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 魅力的なイベントなどの開催 上質な宿泊施設の整備 安価で手軽な宿泊施設の整備 交通手段の整備 魅力的な飲食店の整備 歴史・文化などの情報発信 魅力的な旅行プラン (体験・創作活動等) その他 無回答 N=233 28.3 10.0 36.3 28.7 12.4 19.9 22.3 9.2 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 魅力的なイベントなどの開催 上質な宿泊施設の整備 安価で手軽な宿泊施設の整備 交通手段の整備 魅力的な飲食店の整備 歴史・文化などの情報発信 魅力的な旅行プラン (体験・創作活動等) その他 無回答 N=251IV.奈良市観光の課題
1
. 既存の計画等で指摘されている主な課題
(1)
21 世紀の観光戦略(奈良県 平成 17 年)
①
イメージが固定化している
「社寺めぐり」「史跡探訪」のイメージが強く、固定化したイメージが観光客の訪 問ルートの偏りや新たなファン層の拡大の阻害要因になっている。②
もてなしの心にかける
努力しなくても人は集まるという油断が、来訪者の目にはもてなしの心にかける と映り、リピーター養成の阻害要因になっている。③
観光地間の移動に時間を要する
交通渋滞来訪者がスムーズに観光地等をめぐることの阻害要因になっている。(2)
「観光振興」から「観光深耕」へ
(奈良商工会議所 奈良市観光協会平成 19 年) さまざまな情報メディアで奈良の名所旧跡の情報が発信され「見たような」気に させてくれるようになった今日、「滞在しないと知ることができない」魅力を提示 する必要がある。そのためには「手段としての宿泊」から「宿泊自体が目的」とな る旅の演出・提案が重要である。(3)
奈良観光振興の基本方針と早急に取り組むべき対策に関する提言
(奈良市都市経営戦略会議 平成 20 年)①
奈良観光の魅力に関わる課題
・ 「大仏商法」とやゆされるように、観光振興に関わる自助努力や創意工夫が 不足している。 ・ 奈良観光の目的となるような「食」の魅力が求められている。 ・ 奈良の「特産品」や「土産物」を発掘する必要がある。 ・ 「食」や「特産品・土産物」を含めて、観光客が奈良の魅力を効果的に楽し めるように創意工夫された「観光商品」の開発が求められる。②
観光振興の仕組みに関わる課題
・ 奈良の観光振興を包括的に捉えるマーケティングやプランニングが設定され ず、その実践もできていない。 ・ 奈良観光の一元的な情報発信がなされず、情報が重複したり、時には矛盾し たりして、効果的・効率的な情報提供がなされていない。・ 個々人に観光振興のよいアイデアや方策があっても、それらを共有したり集 約したりする場がなく、その効果的な実践もできていない。
③
観光関連インフラに関わる課題
・ 観光客の多様な観光目的や観光形態に対応する多様な宿泊施設の整備が遅れ ている。 ・ 交通の利便性が悪く、観光客から多くの不満が寄せられている。 ・ 観光客の回遊路に自動車の交通量が多く、歩行者に危険な箇所や長い信号待 ちの箇所があり、風景を楽しみながらゆったりと歩けない。 ・ 観光関連の案内板・標識が少なく、また効果的に配置されていない。(4)
新奈良ブランド開発計画
(奈良市地域ブランド向上3ヶ年計画策定委員会 平成 20 年)①
奈良観光の課題
・ 入込客数の低迷(修学旅行客の減少) ・ 宿泊施設の課題(施設数不足) ・ もてなしの心に欠ける。 ・ 新しい顧客開発が進んでいない。 ・ 食やお土産品などの魅力不足②
ならまち観光の課題
・ 情報の提供や町歩きツールが不足している。(マップ、レンタサイクル) ・ 来訪者受け入れ施設が整備されていない。(トイレ、休憩所) ・ まちの個性づくり、魅力づくりが不足 ・ 交流やネットワークづくりが未整備 奈良市ならまち格子の家2
. ヒアリング結果等からみる奈良市観光の課題
計画策定の中で、旅館・ホテル、交通事業者、土産物店、寺社等の関係者に奈良 市における観光の展望・課題についてヒアリング調査を行った。その中から要点を 抽出すると以下のようなことが指摘できる。(1)
観光客
・ 購買力の高い 30・40 代の女性や大人の女性の親子連れといった観光客が京都 などに比べて少ない。(2)
交通
・ 感覚的に「京都・大阪からは遠い」というイメージを持たれている。実際に 京都や大阪から来ると「意外と近い」という感想を聞く。 ・ 慢性的な交通渋滞。かつては夕方大阪方面に向かう道が混んだが、近年は一 日中混む。 図表IV-1 京都・大阪に訪れた人が、奈良に立ち寄らなかった理由 【首都圏】 【中部圏】 (注)過去3 年以内に大阪・京都の観光経験はあるが、過去 5 年以内に奈良観光の経験がない首都圏・中部圏在 住者(各400 名)を対象としたインターネットアンケート調査(平成 20 年 11 月実施)の結果による。(3)
資源
・ 名物となる食事・土産物がない。知られていない。 ・ 「ライブ」の楽しみが少ない。伝統芸能や工芸等、資源として「鑑賞」「体験」 する価値が高いものは少なくない。(4)
宿泊施設
・ 大規模なホテルが少なく、大規模なイベント・コンベンション1の需要に応え られない。 46.5 13.4 12.6 19.7 25.2 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 奈良に寄るには時間がかかりすぎると思った 奈良に寄るには交通費がかかりすぎると思った 奈良への交通手段がわかりにくかった 奈良よりもほかの場所に行ってみたいと思った その他 無回答 N=127 64.5 7.3 14.5 15.5 13.6 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 奈良に寄るには時間がかかりすぎると思った 奈良に寄るには交通費がかかりすぎると思った 奈良への交通手段がわかりにくかった 奈良よりもほかの場所に行ってみたいと思った その他 無回答 N=110(5)
情報発信
・ 統一的な情報発信がなされず、何が「売り」なのか、今何が行われているの か、十分に伝わる仕組みがない。3
. 検討委員会において議論された奈良市観光の課題
検討委員会で議論された奈良市観光の課題として、以下のようなことが挙げられ る。(1)
観光客の状況
・ 外国人観光客は増えているが、奈良での観光消費額は大きくない。 ・ 価値観が多様化している今日、観光客のニーズはショッピングモール、テー マパーク、伝統工芸・産業、食など幅広くなっている。奈良はそのような動向 のなかにあって、それに充分に対応できる環境にはない。 ・ 修学旅行に行きたい所として奈良は上位に入っていないという。また、商家 の町並みや行きたい国内の世界遺産にも上位に入っていないというようなデ ータもあり、観光客に奈良の観光地が強くアピールできているとはいえない。 ・ 近年の旅行市場の成熟に伴い、観光客は、その土地ならではの体験、感動を 求めて自由に行動するようになり、情報通信の発達もこれに拍車をかけてい る。WEBエージェント2の台頭により、個人のインターネットによる直接取引 が促進され、最近では旅行会社離れすら起こりつつある。そのために観光客を 迎える側(地域)としては、従来のビジネスの手法や受け入れ体制を今後のニ ーズを満たすものに変えていかなければならない。(2)
観光資源
・ 夜出かける場所がないなど、宿泊を伴う観光に耐える資源に乏しい。 ・ 観光資源は豊富にあるが、入場料・拝観料が高い、スケッチ等の活動が難し いなど資源を存分に楽しむ上での制約がある。(3)
観光客を迎える環境
・ 観光客の誘致をオール奈良で考えていくことが必要である。そのためにも、 市民や事業者自身が奈良の魅力をもっと知る必要がある。 ・ 駅の案内板、バスの路線系統など主要観光施設への経路が分かりにくい部分 がある。 ・ 案内板の中には文字が消えかけて見えにくくなっているものや、街路樹が茂 って見えなくなっているものもあり、早急な対応が必要である。 ・ 宿泊施設の誘致は必要である 2WEBエージェント:インターネット上で旅行商品の販売等を行っている旅行代理店のこと。4
. 課題のまとめ
これまで挙げられてきた課題をまとめると、以下のように整理される。(1)
観光資源の魅力向上
奈良市は数々の世界遺産をはじめとして、歴史・文化の豊富な観光資源を有して いる。しかしながら、そのような名所旧跡を観光した後に、立ち寄りたくなる飲食 店や、買いたくなる土産物などの質・量が不十分であり、奈良市内での消費が進ま ず地域経済の振興に十分につながっていない。 また、伝統芸能や工芸など「鑑賞」「体験」する価値の高い魅力を有しながら、 それを楽しめる場所や機会が少なく、観光資源として埋もれてしまっているものも 少なくない。 このような課題の克服に向け、奈良が持つ様々な資源の魅力を引き出し、観光振 興につなげていく必要がある。(2)
情報発信の充実とおもてなしの心の醸成
奈良市においては、統一的なプロモーション活動や効果的な情報発信が十分にな されていないため、上記のような魅力ある資源が知られず、観光振興につなげられ ていないケースがある。また、市民や事業者自身が奈良市の歴史的・文化的魅力を 十分に理解しきれておらず、それがおもてなしの心に欠けると指摘される背景にな っている可能性がある。 このような課題の克服に向け、効果的・統一的な情報発信や観光プロモーション の仕組みを整えるとともに、市民や事業者が研究者や寺社等と連携して奈良の歴 史・文化への理解を深め、より充実したおもてなしができるようにしていく必要が ある。(3)
観光客を迎える環境の整備
来訪者が快適に観光を楽しむための基本的な環境として、駅の案内板やバスの路 線系統、案内標識などの中には、主要観光施設への経路がわかりにくい部分があ る。このような点については早急に点検し、改善を図る必要がある。 春・秋を中心とした観光シーズンには交通渋滞が慢性的に発生しており、自転車 等他の移動手段の有効な活用を含めた対応が求められている。また、首都圏や中京 圏の人などから漠然と「奈良は遠い」というイメージを持たれており、京阪神から のアクセスの良さなどを具体的に周知していくことなども求められる。 奈良には大規模なホテルが少なく、大規模なイベント・コンベンションの需要に 応えられない、また、宿泊観光の需要に応えられていない、といった課題がある。 以上のような課題を踏まえ、次章以降で奈良市観光がめざす目標像と方向性を示V.奈良市観光の方向性
1
. 奈良市観光の目標像
奈良市の市民憲章には冒頭で「奈良は日本のふるさと。美しい自然とすぐれた文 化遺産を守り、古都に住むものにふさわしい自覚と誇りに生きましょう。」とうた っている。世界中から奈良市を訪れる観光客は「古都の空気」と「くつろぎ」が感 じられる奈良に日本のふるさとを感じ、歴史・文化に触れ、人々と交流する中でそ の魅力を心に刻む。このような点を踏まえ、奈良市観光の目標像として次の3点を 掲げるものとする。 観光事業者だけでなく、市民を含めた奈良の人々全体が、奈良の魅力へ の深い理解のもと、あたたかいおもてなしの心で観光客を迎える体制をつく る。 奈良に訪れてこそ感じられる魅力・よさを守り、育てていくことで、これまで のリピーターを大切にしつつ、「奈良にしかない」魅力の発信を通じて新たな 誘客を図る。 魅力的な観光資源とおもてなしの心を持った人々に迎えられ、世界中から 多くの人々が集い、訪れた人と迎える人、また訪れた人どうしの交流が進む ように、必要な基盤を整備する。2
. 基本的な方向性
(1)
資源を育てる
奈良の持つ「本物」の良さを守り、新たな可能性を引き出し、さらに発展させて いく。①
既存の資源に新たな付加価値をつける
奈良晒や吉野葛等、市内だけでなく奈良県下の市外の物も含めた様々な資源の新 しい活用方法を開発して商品化したり、既存の場所や施設を新しい視点で観光の中 に組み入れるなど、既存の資源に新たな付加価値を付けてより魅力の高い観光資源 として育てる。 《取り組み例》 公共施設の積極活用 ・ 入江泰吉記念奈良市写真美術館、杉岡華邨書道美術館、なら工藝館等既存の 公共施設を観光の観点から総合的に活用する。 奈良の資源を題材とした活用方法のコンペの実施 ・ 地元の人が気づいていない場所や行事、風習など、様々な素材をテーマに活 用方法のアイデアを募集する。 奈良町おもしろマップの作成 ・ 地元の人しか知らない情報を、クイズ形式で提供し、旅行者自らが町を探索 してマップを完成させていく。 クリエーター・デザイナー等の開発のマッチング ・ 既存の素材に「一工夫」を加えるヒントを得るために、情報の受発信が集中 する東京在住のクリエーターやデザイナーなど、外部の目を入れる。 エコ・ツーリズム、グリーン・ツーリズム関連資源の形成 ・ 春日山原始林、月ヶ瀬・柳生等の自然資源、大和茶や都祁地域のトマトなど の農業資源等を活用したエコ・ツーリズム、グリーン・ツーリズムの振興など を図る。 都祁の茶畑②
「ライブ」を育てる
奈良には歴史的にゆかりの深い伝統芸能(能、狂言、邦楽、落語等)が豊富にあ るほか、工芸・写経など、創作体験につながる文化資源も多数ある。これらの活動 を体感・体験できる場を設け、近年の観光の潮流に沿いながら、夜も含めた滞在時 間の長い観光資源を育てる。 《取り組み例》 体験・鑑賞機会の充実 ・ 伝統工芸・伝統文化・伝統行事の体験や伝統芸能の鑑賞等、体験・鑑賞メニ ューについて、初心者向け・外国人向け・熱心な方向けを用意するなどして充 実させ、いつでも手軽にオプショナルツアーとして組み込める体制を整える。 イベントの育成と参画の促進 ・ なら燈花会・バサラ祭りといったイベントにおいて、市民参画を促進すると ともに観光客が参画できる要素などを充実させ、体験型観光資源としてイベン トを発展させる。③
「組み合わせ」で相乗効果を図る
奈良晒の小物を持って伝統芸能鑑賞など、単にみやげ物のブースを作って売ると いったことだけでなく、イベントの重要な要素としてさまざまな物産が組み込まれ ているような工夫を施すなど、地域にとって波及効果が大きく、相乗効果が期待で きる組み合わせのあり方を検討し、実践していく。また、宿泊施設や駅・公共施設 等市内の観光関連施設の様々な場所で奈良ならではのものを取り扱っていく。 《取り組み例》 ホテル・交通機関・公共施設等におけるニーズ調査と資源活用 ・ 奈良ならではのものをこんな場所で使いたいというニーズを把握し、地域内 で商品とお金が回る仕組みを作る。 ニーズ調査を踏まえつつ、ホテル・旅館・駅・案内所や街角などに奈良に関連 する素材がふんだんに使用され、来訪者が自然と奈良ならではの素材に触れら れる環境を作る。 なら燈花会(浅茅ヶ原)④
ブランド力のある商品・資源を育てる
平成 19 年度に策定された、「新奈良ブランド開発計画」に基づき、「食」や「な らまち」などブランド力のある商品・資源を育てる。 《取り組み例》 素材ごとのブランド化プロジェクトの立ち上げ ・ 「茶がゆ」「大和鍋」などブランド化を図る素材ごとにプロジェクトを立ち上 げ、開発・導入から普及・定着までを一貫して扱う体制をつくる。 「上級者向け」ツアーの充実 ・ 歴史・文化等についてより専門的な解説を求める人々を対象に、研究者によ る解説などがセットになったツアーを充実させる。その中では少し高額だが少 人数で普段は見られない施設や文物が見学できる、といった要素を加え、「歴 史観光」としての奈良観光のブランド価値を高めていく。 「ロケ地」としての存在感の向上 ・ 豊富な歴史・自然資源を背景とした「ロケ地」としての存在感を高め、ロケ の誘致・放映後の視聴者への発信・誘客等総合的な取り組みを行う。⑤
オフシーズン向けの観光資源を育てる
かつてオフシーズンであった8月が「なら燈花会」の定着によって集客シーズン となったように、オフシーズン向けの観光資源を育て、一年を通じて観光客が訪れ るようにする。 《取り組み例》 冬季に集客できるイベントの実施 ・ マラソンや多彩なウォーキングコース等、冬季に集客を図れるイベントや周 遊コースを、宿泊施設や飲食店、交通機関等と連携して定着させる。 冬季に開催されるイベントの活用 ・ 東大阪市の花園ラグビー場で開催される全国高校ラグビー大会の参加校の宿 泊所として、奈良市内の宿泊施設を活用してもらう取り組みを進める。⑥
広域連携による新たな観光資源の形成
県内外の観光地と連携し、広域連携による新たな観光資源の形成を図るほか、近 隣県のイベント等への来訪者を宿泊客として取り込むなどの取り組みを進める。 《取り組み例》 テーマ別広域観光ルートの形成 ・ 歴史、グルメ、映画・ドラマ等、様々なテーマに即した広域観光ルートを、 他の自治体と連携しながら形成し、新たな観光資源の形成を図る。(2)
魅力を分かち合う
奈良が持つ「本物」の魅力を伝えるために、事業者・市民が学びつつ、幅広く有 効に伝え、奈良の魅力に触れる感動を訪問者とともに分かち合う。①
事業者・市民が奈良の歴史・文化を学ぶ
神職や僧侶、大学・博物館等の教育・研究機関における専門家などを講師に迎え、 事業者・市民が歴史・文化を学び、事業者はより充実したサービスができるように、 また市民はボランティアガイド等として来訪者により充実した案内ができるよう に努める。また、そのような学びの活動がネットワークとなり、新たな資源の発見 や活用方法のアイデアが出てくる場が形成されることを促す。 《取り組み例》 「プロ向け」勉強会の定期的な開催 ・ 社寺関係者や教育・研究機関等の研究者を講師に招いて、観光事業者等専門 家向けの勉強会を開催し、より充実した案内や商品開発につなげる。 ・ 市外の観光客や事業者、専門家等、外部の有識者を招いて、奈良の魅力や観 光面での改善に向けた議論の場を設け、交流や情報共有を図る。 ・ 外国人向け、高齢者向けなど、テーマに即した接客・接遇技術を向上させる 勉強会・研修の場を、旅館・ホテル従業者からタクシー・バスの乗務員まで幅 広く受講できるよう取り組む。 市民が奈良の観光資源を知る機会の拡大 ・ 特定の期間中のみ市民の観光施設への入場料を優遇する。 ・ 市民が市外の来訪者を案内する際に、入場料等で優遇するなど、市外の人を 案内する機会の拡大を図る。 修学旅行生等による奈良観光のPR隊 ・ 各地へ修学旅行に出かける奈良市の高校生を奈良観光のPR隊として、奈良 の歴史・文化、観光の見所を学習した上で、訪問先でPRする。 ・ 奈良への修学旅行生を奈良の高校生が案内する(実地案内が困難な場合、学 校や宿泊施設等での解説や、案内資料の作成等も考えられる)。 ・ 小中学生に奈良の歴史・文化を学んでもらい、子どもガイドとして観光ボラ ンティア体験を行う。②
情報発信・提供体制の充実
「売り」とする情報を地域で共有し、新たな資源(施設・商品・イベント)が送 客を促す媒体(旅行会社・鉄道会社・マスコミ等)に速やかに伝わる体制をつくり、 「神社仏閣めぐり」といった固定的なイメージにとらわれない奈良の多様な魅力を 伝えていく。《取り組み例》 プロモーション連絡会議への情報発信 ・ 毎月「時期ごとに何を売りにするか」を検討し、集中的に情報発信する。 送客事業者向け情報提供の充実 ・ メールマガジン等によるサービスや、日常的な情報交換を通じた個人的な信 頼関係づくり等、最新の情報がすばやく伝わり、誘客につながるよう関係をつ くる。 ロケ地情報の発信の充実 ・ テレビ局、映画プロダクション、フィルムコミッション3 等との連携を強化 し、ドラマ・映画等のロケ地情報を充実させる。 ・ 観光協会だけでなく、奈良をロケ地等で取り上げているテレビドラマや映画 のホームページにも、来訪や観光消費につながる情報を提供する。 観光案内所の充実 ・ コールセンター的な機能を設け、相談・苦情を受け付けるとともに、改善に 向けた情報整理や提案を行う。 ・ 旅館・ホテルと案内所間の連携を進め、観光客の属性に即して、宿泊形態・ 食事等それぞれのニーズに合った情報が伝わる仕組みをつくる。 情報発信媒体の多様化 ・ 京阪神など近隣都市の拠点における奈良観光の情報提供を強化する。