TMI 中国最新法令情報
―(2018 年 3 月号)―
TMI 総合法律事務所
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一.中国最新法令(2018 年 2 月中旪~3 月中旪公布分)
1.中央法規 (1) 中華人民共和国憲法改正案1 全国人民代表大会 2018 年 3 月 11 日公布、2018 年 3 月 11 日施行 ① 背景 1982 年に憲法(以下「現行憲法」という。)が公布・施行されて以来、全国人民代 表大会は改革開放や社会主義現代化建設の実践及び発展に応じて、中国人民共産党の 指導のもと、これまで 1988 年、1993 年、1999 年、2004 年と、計 4 回にわたって「現 行憲法」の個別条項及び一部の内容に対し改正がなされてきた。 最後に現行憲法が改正された 2004 年以降、共産党の事業も国家の事業も様々な変 化が生じており、特に中国共産党第 19 回全国代表大会(以下「党の 19 大」という。) 以来、共産党は新しい起点に立ち、新時代における中国の特色ある社会主義を堅持・ 発展することに関し、重大な戦略を実施し、一連の政治論断を打ち出している。 今回の中華人民共和国憲法改正案(以下「憲法改正案」という。)の主な目的は、 党の 19 大が確立した重大な理論的観点、政策方針、特に習近平の新時代における中 国特色のある社会主義思想を国家の根本法とし、党と国家の事業発展の新たな成果、 新たな経験、新たな要求を体現し、憲法の連続性・安定性・権威性を全体的に維持し たうえ、憲法を時代とともに発展、完備させることにある。 ② 内容 今回の憲法改正案は計 21 条の改正案を追加し、そのうちの 11 条は監察委員会の設 置に関連している。その主な修正内容は以下の通りになっている。 ア 指導思想の追加 憲法改正案は憲法序言第七段落に掲げられた指導思想に「科学発展観、習近平の 新時代における中国特色のある社会主義思想」という内容を追加し、これら思想の 国家政治・社会生活における指導的地位を確立した。なお、改正後の指導思想は「マ ルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、三つの代表2、科学発展観、習 近平の新時代における中国特色のある社会主義思想」となっている3。 イ 奮闘目標の内容の充実 憲法改正案は奮闘目標に「社会文明、生態文明、中華民族の偉大復興」という内 1 《中华人民共和国宪法改正案》 2 「三つの代表」とは、中国共産党が、①中国の先進的社会生産力の発展要求、②中国の先進的文化の 前進方向、③中国の最も広範な人民の根本利益、を代表することをいう。 3 憲法改正案第 32 条容を追加した。改正後の奮闘目標は「物質文明、政治文明、精神文明、社会文明、 生態文明の協調的な発展を推進し、中国を富強・民主・文明・調和の取れた美しい 社会主義現代化強国に築き上げ、中華民族の偉大復興を実現する」となっている4。 ウ 法により国を治める措置及び憲法宣誓の措置の完備化 憲法改正案は憲法序言における「社会主義法制を健全化させる」を「社会主義法 治を健全化させる」へと修正し5、憲法第 27 条に「国家公務員が就職する際、法律 の規定に従って公開で憲法宣誓を行う」という内容を追加し6、第 3 項とした。 エ 愛国統一戦線及び民族関係内容の充実 憲法改正案は「中華民族の偉大な復興に励む愛国者」を愛国統一戦線に含め7、 民族関係に関する記述を「平等・団結・相互扶助の社会主義的民族関係」から「平 等・団結・相互扶助・調和のとれた社会主義的民族関係」へと修正した8。 オ 平和外交の内容の充実 外交政策については、平和共存 5 原則9の後に「和平的発展の道を堅持し、互恵 の開放戦略を堅持する」という内容を追加し、「各国との外交関係及び経済・文化 的交流を発展させ」の後に、「人類運命共同体の構築を推進する」といった内容を 追加した10。 カ 中国共産党による全面的な指導の内容の追加 憲法改正案は現行憲法第 1 条第 2 項の「社会主義制度は中華人民共和国の根本制 度である」という内容の後に「中国共産党の指導は中国の特色ある社会主義の最も 本質的な特徴である」という内容を追加した11。 キ 社会主義核心的価値観の追加 憲法改正案は現行憲法第 24 条第 2 項の「国家は祖国を愛し、人民を愛し、労働 を愛し、科学を愛し、社会主義を愛するという公徳(公共道徳)を提唱する」とい う内容の前に「国家は社会主義の核心的価値観を提唱する」という内容を追加した 12。 ク 国家主席任期制限規定の削除 憲法改正案は現行憲法第 79 条第 3 項の「中華人民国家主席、副主席の任期は全 4 憲法改正案第 32 条 5 憲法改正案第 32 条 6 憲法改正案第 40 条 7 憲法改正案第 33 条 8 憲法改正案第 34 条、憲法改正案第 38 条 9 国家主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等と互恵、平和共存の 5 原則。 10 憲法改正案第 35 条 11 憲法改正案第 36 条 12 憲法改正案第 39 条
国人民代表大会の任期と同じで、続投任期は 2 期を超えてはならない」という規定 における続投任期の制限内容を削除し、「中華人民国家主席、副主席の任期は全国 人民代表大会の任期と同じである」と修正した13。 ケ 区を設けた市による地方性法規の作成規定の追加 現行憲法の第 100 条に「区を設置した人民代表大会とその常務委員会は憲法、法 律、行政法規及び本省、自治区の地方性法規に違反しない前提のもと、法律に従っ て地方性法規を制定し、本省、自治区人民代表大会に報告し、その認可を得た上で、 施行することができる」という内容を追加し、第 2 項とした14。 コ 監察委員会関連内容の追加 現行憲法第三章で定められた「国家機関」に、新たに監察委員会15が追加され、 国家監察委員会、地方各級監察委員会の性質・地位・名称・人員構成・任期・指導 体制等について規定された16。また、これに合わせ、現行憲法の内容も修正されて いる17。 (2) 工商総局等 13 の部門による全国の統一的な「多証合一18」改革の推進に関する意 見19 工商総局、発展改革委員会、公安部、財政部、人力資源社会保障部、城郷建設部、 農業部、商務部、税関総署、品質検査総局、新聞出版放送総局、旅行局、気象局 2018 年 3 月 1 日公布、同日施行 ① 背景 2017 年 5 月に交付された「国務院弁公庁による『多証合一』の加速推進に関する 指導意見」20の要求に応じ、多証合一の改革は 2017 年 10 月 1 日より全国において全 面的に実施され、その結果として、著しい成果をあげている。 しかし、全国的に見れば、営業許可証に一本化された証書の量は地域毎にばらつき があり、発展レベルは均一ではない。また、地域や部門間のデータの共有も十分では なく、地域・部門を跨いだ場合のシステム上の障害といった問題も存在している。 13 憲法改正案第 45 条 14 憲法改正案第第 47 条 15 監察委員会は、国家の監察職能を行使する専門的な機関で、政府内の多くの組織に分散されている汚 職摘発部門を統合し、すべての公務員に対する監視や摘発等を行うための、権限を集中した新たな専門 的国家機関である。監察委員会の具体的な権限等については、2018 年 3 月 20 日に公布された監察法(《中 华人民共和国监察法》)に詳細に規定されている。 16 憲法改正案第 52 条 17 憲法改正案第 37 条、第 41 条-第 44 条、第 46 条、第 48 条-第 51 条 18 企業の登記や届出に関する各種証明書全般を営業許可証に一本化する企業登記制度の簡素化措置をい う。 19 《关于推进全国统一“多证合一”改革的意见》 20 《国务院办公厅关于加快推进“多证合一”改革的指导意见》
このような、改革を推進する過程で現れた問題を着実に解決し、「多証合一」改革 を更に規範化・完備化させるため、「工商総局等 13 の部門による全国統一の『多証 合一』改革の推進に関する意見」(以下「本意見」という。)を公布した。 ② 内容 意見は営業許可証に一本化される証書の範囲、多証合一業務の手順、情報共有、情 報収集項目の規範化、事中・事後の監督管理の強化、実施手順及び任務の分担等の内 容を明確にした。以下、その主な内容を簡単に紹介する。 ア 一本化される証書の範囲 五証合一の基礎のもと、19 項目の企業関連証書を更に営業許可証に一本化させ、 まずは 24 証合一を実行する。多証合一改革の関連証書に対し、リストアップされ たものについては動態管理を実施し、リスト外の証書については期限・ロットを分 けて徐々に多証合一の範囲に入れる。なお、法律上、行政許認可が必要な証書につ いては、一本化させない21。 イ 業務手順の完備化 多証合一改革は工商部門が登記・届出等の情報収集・発信に責任を負い、関連部 門が直接受領する、又は相互に確認した上で導入するかのモデルを採用する。五証 合一の基礎のもと、一件の申請を一カ所の窓口で一式の資料を提出するワンストッ プシステムを全面的に実行させる22。 ウ 情報共有の推進 工商部門は企業登記申請及び各部門が確認した企業経営範囲の規範化した表 現・情報のニーズに応じ、企業の全部または一部の情報の省級共有プラットフォー ムまたは省級部門間のデータ接続ポートを通じた共有を実現させる。各部門は本部 門、本システムにおける多証合一改革情報の共有原則及び措置を真剣に研究し、省 級部門、部門垂直管理システムと目下の省級共有プラットフォームとの接続を推進 させる23。 エ 情報収集項目の規範化 企業の負担を軽減し、行政の効率を高めるため、同じ情報については「一回収集、 一つのファイルで管理」することを実施し、既存の企業登記情報で関連部門の業務 ニーズ及び監督・管理のニーズに対応できる場合、工商部門から関連部門への発信 で対応する。工商部門による同時収集が必要な場合、関連部門が情報ニーズを提示 して、工商部門がまとめたうえ、工商部門登記データ共有情報項目と多証合一政府 部門共有情報項目を作成し、企業登記資料規範及び企業登記全過程電子化システム 21 本意見の一 22 本意見の二 23 本意見の三
に取り込む24。 オ 「多証合一」「一証一コード」営業許可証の利用の推進 各関連部門が本システム内において、「多証合一」「一証一コード」営業許可証の 認可・利用・普及を強化する25。 カ 事中事後の監督・管理の強化 各部門は監督・管理理念を強化し、監督・管理方式を変更し、「企業側からのア プローチを待つ」という受動的な方式から、企業の情報をタイムリーに取得して、 企業の経営行為を積極的に規範化し、事中事後の監督・管理を強化する方式へと変 更する26。 キ 実施手順及び任務の分担 2018 年 3 月から 6 月までを前期準備段階、2018 年 6 月末を全面実施段階、2018 年 7 月から 12 月を総括・評価段階と分別し、各部門の実施における責任を明確に した27。 2.司法解釈等 (1) 最高人民法院によるインターネットを通じた審理手続情報公開についての規定28 最高人民法院 2018 年 3 月 4 日公布 2018 年 9 月 1 日施行 ① 背景 2013 年 11 月、最高人民法院は「司法公開三大プラットフォーム29の建設の推進に 関する若干の意見」(以下「若干意見」という。)30を公布し、審判手続情報公開プラ ットフォームの構築任務を明確に打ち出した。その後、全国の各級人民法院は当該領 域での模索と実践を全面的に始めた。 2013 年以来、若干意見は全国法院の審判手続情報公開に重大な役割を果たし、各 地の審判手続情報公開プラットフォームはゼロからスタートしながらも、不断に改良 され続けている。一方、人民法院の司法公開が深まるにつれて、社会環境も、その直 面する主要問題も既に大きく変わり、審判手続情報公開を規範化する専門的な規定の 必要性も日増しに高まっている。 また、インターネット技術の高速な成長・普及に伴い、「ネット+」という構図は 24 本意見の四 25 本意見の五 26 本意見の六 27 本意見の七 28 《最高人民法院关于人民法院通过互联网公开审判流程信息的规定》 29 判決書類・審判手続・執行情報三大プラットフォームのことをいう。 30 《最高人民法院关于推进司法公开三大平台建设的若干意见》
社会生活の各方面に影響を及ぼしている。近年来、最高人民法院は四大司法公開プラ ットフォーム31を相次いで構築しており、「ネット+司法」の理念は益々深まっている。 「最高人民法院によるインターネットを通じた審判手続情報公開についての規定」 (以下「本規定」という。)はこうした背景の下で制定され、これまでの各地の各級 人民法院の審判手続情報公開に係る蓄積の集大成である一方、新時代における国民の 多様化した司法ニーズに対応するための新しい試みでもある。 ② 内容 本規定は 17 条からなり、審判手続情報公開の基本原則、公開をする対象、審判手 続情報公開プラットフォームの位置づけ、訴訟参加者の身分情報の収集と照合、イン ターネットによる審判手続公開情報の範囲、審判手続情報公開プラットフォーム経由 での電子送達の規則等を規定した。以下、その主な内容を紹介する。 ア 公開する対象 人民法院は刑事・民事・行政・国家賠償案件の審判手続情報を、インターネット を通じて訴訟に参加した当事者、その法定代理人、訴訟代理人、弁護人に公開しな ければならない32。また、重大な影響力のある案件に関する手続情報を、インター ネットまたはその他方式で公衆に公開することができる33。 イ 公開原則 人民法院はインターネットを通じて審判手続情報を公開し、公開は合法性・規範 化・迅速性・便宜性を満たさなければならない34。 ウ 審判手続情報公開プラットフォームの位置づけ 中国審判手続情報公開ウェブサイトは人民法院が審判手続情報を公開する統一 的なプラットフォームであり、各人民法院がそのウェブサイト及び司法公開プラッ トフォームに中国審判手続情報公開ページへのアクセスリンクを設置する35。 エ 訴訟参加者の身分情報の収集と照合 当事者、法定代理人、訴訟代理人、弁護人の身分証明書、弁護士執業証書番号、 組織機構コード、統一社会信用コードは審判手続情報を取得するための身分を検証 するための根拠であり、当事者、法定代理人、訴訟代理人、弁護人は案件を受理す る人民法院の身分情報収集・照合に協力し、有効な携帯電話番号を提供しておかな ければならない36。 31 三大プラットフォームに法廷審判プラットフォームを加えると、四大プラットフォームになる。 32 本規定第 1 条第 1 項 33 本規定第 1 条第 2 項 34 本規定第 2 条 35 本規定第 3 条第 1 項 36 本規定第 5 条
オ 公開内容-手続情報 下記手続情報はインターネットを通じて当事者及びその法定代理人、訴訟代理人、 弁護人に公開しなければならない37。 案件受理、案件登記、案件終結情報 検察機関、刑罰執行機関情報、当事者情報 審判体情報 審判手続、審理期限、送達、控訴、検察による控訴、移送等の情報 法廷審理、反対尋問、証拠交換、審理前会議、尋問、審判等訴訟活動の時間 と場所 裁判文書の中国裁判文書ウェブサイトでの公布状況 法律、司法解釈の規定により公開が必要または人民法院が公開可能だと認定し たその他の情報 カ 公開内容-訴訟事項に関連する手続情報 回避、管轄争議、保全、案件受理後判決前の執行、評価、鑑定等手続情報はイン ターネットを通じて当事者及びその法定代理人、訴訟代理人、弁護人に公開しなけ ればならない38。 但し、保全や案件受理後判決前の執行の情報の公開により、事件の処理に影響を 及ぼす可能性がある場合、事件処理後に公開することができる39。 キ 公開内容-訴訟書類 下記訴訟書類は送達後、ネットを通じて当事者及びその法定代理人、訴訟代理人、 弁護人に公開しなければならない40。 起訴状、控訴状、再審申立書、上告状、国家賠償申立書、答弁状等訴訟書類 案件受理通知書、応訴通知書、訴訟参加通知書、出頭通知書、合議体構成員通 知書、召喚状等の訴訟書類 判決書、裁定書、決定書、調停書及びその他、訴訟手続を中止・終結させる役 割または当事者の実体権利への影響があり、手続上の権利に重大な影響がある 審判書類 法律、司法解釈の規定により公開が必要または人民法院が公開可能だと認定し たその他の手続情報 37 本規定第 7 条 38 本規定第 8 条第 1 項 39 本規定第 8 条第 2 項 40 本規定第 9 条
ク 公開内容-記録 法廷審理、反対尋問、証拠交換、審理前会議、尋問、審判等訴訟活動に関する記 録はインターネットを通じて当事者及びその法定代理人、訴訟代理人、弁護人に公 開しなければならない41。 ケ 公開が不可とされる場合 国家機密にかかわり、また法律・司法解釈の規定により秘密保持されるべきまた は取得制限された審判手続情報は、インターネットを通じて当事者及びその法定代 理人、訴訟代理人、弁護人に公開してはならない42。 コ 電子送達 送達先の書面による同意を経て、人民法院は中国審判手続情報公開ウェブサイト を通じて、民事、行政案件の当事者及びその法定代理人、訴訟代理人、弁護人に電 子方式で判決書、裁定書、調停書以外の訴訟書類を送達することができる43。 (李成慧・中国法顧問) 41 本規定第 10 条 42 本規定第 12 条 43 本規定第 14 条第 1 項
今月号より、中国企業法実務第十三弾として、全 6 回で「中国の法曹」の連載をお届け する。 本稿の読者は、中国の弁護士等の法律専門家と何らかの形で接触されることが多いと思 われるが、日本の弁護士等と、その資格やバックボーンがどのように違うかを理解するこ とは、中国の法律専門家とやり取りをするうえで、重要かつ効果的と思われる。 日本では、「法曹」といえば、「法曹三者」とも言われるように、裁判官、検察官、弁護 士(司法試験に合格し司法修習を経ることが、その主な資格となっている)を指すことが 多い。中国でも、司法試験はこの三者の資格を得るための前提となってきたことから、「法 曹」の範囲のイメージとしては、日本と近いと言える。 他方、中国では、司法試験を必要とする職種として、公証人が明記されている。日本で も、事実上、公証人は、裁判官又は検察官を経験した者の中から任命されているので、本 シリーズでは、公証人も「法曹」に含めて取り上げることとする。 なお、外国弁護士は、中国の法曹ではないが、中国のリーガルプラクティスにおいて一 定の重要な役割を果たしていること、また、中国における外国弁護士に関するルールは、 日本の外弁法といろいろ異なる点があることから、これも、本シリーズで取り上げる。 今月は、まず、法曹資格の入り口である、法曹資格試験について述べる。
第 1 回 法曹資格試験
1.司法試験の歴史 中国における現行の司法試験制度は、裁判官、検察官、弁護士共通の資格試験として、 2002 年から導入された。 中国では、文化大革命(1966 年~1976 年)の前後に亘り、司法制度は機能を喪失し ており、文化大革命後の 1980 年になり、ようやく弁護士の制度も復活した。1980 年に三.連載 中国企業法実務
第十三弾:中国の法曹(第 1 回/全 6 回)
第 1 回 2018 年 3 月号 法曹資格試験 第 2 回 2018 年 4 月号 裁判官 第 3 回 2018 年 5 月号 検察官 第 4 回 2018 年 6 月号 弁護士 第 5 回 2018 年 7 月号 外国弁護士 第 6 回 2018 年 8 月号 公証人制定された弁護士暫定条例44では、「弁護士は国家の法律職業者」(第 1 条)とされ、弁 護士の資格は、省レベルの司法庁(局)が、一定の学歴と職歴を有する者の中から認定 することとされ(第 8 条、第 9 条)、資格試験制度は置かれていなかった。 1980 年代半ばから一部の省において、弁護士資格試験を試験的に実施するようにな り、これを受けて、1988 年に第 1 回の全国弁護士資格試験が導入された。当時は 2 年 に 1 回資格試験が行われていたが、1993 年から毎年行われ、1997 年施行の弁護士法45で 正式に法律レベルで全国統一試験の実施が明文化された。 裁判官と検察官についても、1995 年に裁判官法46、検察官法47が制定されてから、初 任の裁判官、検察官については、公開の試験により任用することとされた。 このように、裁判官、検察官、弁護士ばらばらだった資格試験を統一したのが、2002 年から導入された国家司法試験である。国家司法試験実施弁法(試行)48では、「初任の 裁判官、検察官及び弁護士資格の取得については、必ず国家司法試験に合格しなければ ならない」と規定された(第 2 条第 2 項)。そして 2008 年施行の国家司法試験実施弁法 49では、公証人の資格についても、国家司法試験の対象に加えられた。 2.去年までの司法試験 (1) 受験資格 ①中国国籍の保有、②憲法の擁護・選挙権被選挙権の保有、③完全な民事責任能力 を有すること、④大学の法学部卒業又は他学部卒業かつ法律専門知識を有すること、 ⑤品行方正であることが資格要件とされる(国家司法試験実施弁法第 15 条)。 国籍条項があるため、外国人は司法試験の受験資格を有しない50。なお、香港、マ カオ、台湾地区の住民は受験資格を有する(第 24 条)。 (2) 試験科目 試験の目的は、法律専門知識と法律職業に従事する能力を測ることであり、試験の 内容には、理論法学、応用法学、現行法律規定、法律実務及び法律職業道徳が含まれ る(第 8 条)。出題の範囲については、司法部が発表する「国家司法試験大綱」によ る(第 9 条)。 具体的には、4 種類のテストがあり、第 1 テストが総合知識51、第 2 テストが刑事・ 44 《律师暂行条例》 45 《律师法》 46 《法官法》 47 《检察官法》 48 《国家司法考试实施办法(试行)》 49 《国家司法考试实施办法》 50 日本の司法試験には国籍条項はない。 51 社会主義法治理論、法理学、法制史、憲法、経済法、国際法、国際私法、国際経済法、司法制度、法
行政法52、第 3 テストが民商事法53(これらはマークシート方式)、第 4 テストが事例 分析、法律文書、論述54(記述式)である。試験は毎年 9 月に 2 日間の日程で行われ る55。 試験は中国語(漢語)で行われるが、民族自治地区では、尐数民族の文字を用いる ことができるとされる(第 22 条)。 (3) 合格点 各テストに 150 点が配点され、合計は 600 点満点。例年 360 点で合格とされる。 また、民族自治地区と、経済発展の遅れた地区については、受験資格の緩和(学歴 要件の緩和)と、合格点を下げる措置が取られている。2017 年については、チベッ ト自治区では合格ライン 280 点、内モンゴル、広西、寧夏、新疆の 4 自治区並びに四 川、貴州、雲南、甘粛、青海の 5 省の自治州・自治県の合格ラインは 305 点、当該 5 省の県(市・区)の合格ラインは 310 点、それ以外の地区で緩和措置の対象となる地 区の合格ラインは 315 点とされた。56 合格率は、2008 年頃は 20%を超えていたが、近年は 10%ないし 10%台前半で推移 しており、日本の現行司法試験(昨年度の合格率は約 23%)よりもかなり低い。 3.国家統一法律職業資格試験の導入 2018 年から、国家司法試験の対象職種(裁判官、検察官、弁護士、公証人)に加え て、法律職の公務員(処罰決定の審査、行政再審査、行政決定、法律顧問)や仲裁人に も対象職種を拡大した、「国家統一法律職業資格試験」が導入される。これは、2017 年 9 月 1 日に既に裁判官法、検察官法、公務員法、弁護士法等の関係条文を改正する法律 57が公布され、今年 1 月 1 日から施行されているが、本体の「国家統一法律職業資格試 験」については、意見募集稿58が出されている段階で、まだ正式には決まっていない。 意見募集稿によれば、上述したとおり、対象職種を広げるほか、受験資格において、 学歴等要件を厳格化する(法学部以外の学部卒業者については、法律の修士以上の学歴 律職業道徳 52 刑法、刑事訴訟法、行政法、行政訴訟法 53 民法、商法、民事訴訟法(仲裁を含む) 54 社会主義法治理論、法理学、憲法、司法制度、法律職業道徳、行政法、行政訴訟法、刑法、刑事訴訟 法、民法、商法、民事訴訟法 55 日本の現行司法試験は、論文式 3 日間、短答式 1 日間で行われる。日本の場合、公法系(憲法・行政 法)、民事系(民法、商法、民事訴訟法)、刑事系(刑法、刑事訴訟法)に選択科目 1 つであるので、 日本と比べると中国の司法試験の方が、科目数は多いが、試験の合計時間は短い。 56 http://www.moj.gov.cn/organization/content/2017-11/20/gjsfksssjxw_9864.html 57 《全国人民代表大会常务委员会关于修改《中华人民共和国法官法》等八部法律的决定》 58 《国家统一法律职业资格考试实施办法(征求意见稿)》
又は実務経験 3 年)ことにより、中国における広義の法律職従事者のレベルを向上させ る趣旨が読み取れる。 また、試験の内容についても、客観テストと主観テストの 2 段階に分け、前者に合格 した者だけが後者の受験資格を得ること、テストにおいてはコンピュータ試験も導入す ることなどの改革が予定されている。 なお、本弁法施行前に、司法試験の受験資格となる学歴等を有している場合には、経 過措置として、新試験の受験資格を有するとされる。 以上は、意見募集稿の段階であり、具体的な内容は、実施弁法が正式に公布・施行さ れるまでは、確定的内容は分からない。 [応用編]司法修習 日本では、司法試験に合格すると、司法修習生となる資格を得る。司法修習生は、1 年 間の期間をかけて、法曹三者を中心とした実務修習(10 か月)と、司法研修所における集 合修習(2 か月)を受ける。修習の最後に「司法修習生考試59」(俗にいう 2 回試験)に合 格すると、裁判官・検察官に任用される資格又は弁護士登録資格が得られる。 司法修習生にとっては、修習において法曹三者の現場を見てから、最終的に進路を決定 できるというメリットがあるとともに、法曹制度の観点からしても、実務家になる前に、 他の職種の現場を知り、また、修習同期の間での仲間意識・信頼関係を築くことで、「法曹 共助」(裁判官、検察官、弁護士という法曹三者が司法手続において対立する立場を有しつ つも一定の協力を行うことで、社会正義の実現を促すという考え方)の実現に資する社会 的メリットがあると言える。 他方、中国では、司法試験は法曹になるための統一試験ではあるものの、合格後は、裁 判所、検察院、弁護士会等、それぞれにおいて研修を行い、実務家を育てる制度となって おり、日本のような共通の司法修習制度はない。中国の司法試験合格者数は多く(公式の 統計は見当たらないが、近年では、毎年 7~8 万人程度合格しているとされる。日本では、 昨年度の合格者は 1,543 人)、共通の司法修習制度を導入するのは難しいと考えられる。 もっとも、今年導入される新試験では、法律職の公務員にまで広く統一資格試験の対象 を広げること、そして、合格率が 10%台という難しい試験であることから、中国の広義の 法律家の裾野を広げ、かつレベルアップを図ることで、中国の法治社会の発展に寄与する ことが期待される。 (山根基宏・弁護士) 59 中国語では、試験のことを「考试」というが、ここでは、日本語でも「考試」という語が使われる珍 しい場面である。
三.中国法務の現場より
1.北京の雪 3 月 17 日、暖かい土曜日の朝に突然大雪が降った。これは、2017 年から 2018 年にか けての冬の初雪であった。例年であれば、11 月頃から雪が降り始める北京が、なぜか、 今年は 2 月まで雪が降らなかった。1 月 22 日に、北京の初雪が降るという天気予報が あったものの、結局北京市内全地域における平均降雪量は 0.1 ミリメートルしかなく、 初雪として観測されるレベルに達しなかった。 北京の冬は非常に乾燥しているものの、全く雪が降らないというわけではない。1947 年から 2017 年までの天気記録によると、この 70 年間、毎年降雪してきたようである。 一番乾燥していたといわれる 1982 年~1983 年の冬でも、0.3 ミリメートルの雪が降っ たとされている60。 統計によれば、北京の初雪は、概ね 11 月 29 日前後に降ることが多いようだ。統計上 一番早いのは、10 月の下旪での初雪である一方、今回の 3 月の初雪は観測史上最も遅 い時期であったようである。今世紀に入って、これまで初雪が最も遅かった記録は、2011 年 2 月 9 日であり、今回は、それを 1 ヶ月強上回る記録となった。 雪が降ると、北京の古い建築に雪屋根がかかり、格別の景色となるため、北京の人は 雪を非常に好む。「北京では、雪が降ると、北平61に戻る」という言い方もある。雪の時 に、紫禁城や頤和園などの古跡に足を運べば、非常に綺麗な景色を鑑賞することができ る。また、大人だけでなく、当然ながら、子供達にとっても雪が降ることは楽しみなこ とである。雪合戦、雪だるま作りは、国を問わず、子供の大好きな遊びである。しかし、 今回は、気温も高くなっており、積雪もしなかったため、子供たちの雪遊びはお預けと なった。 今回の雪は、145 日間、「効果的な降水」が連続して降らなかった記録を終わらせた ため62、北京市では大きな話題となり、微博(ウェイボー)でも話題を独占していた。 雪景色を楽しむことはできなかったが、春花伴う春の雪というのも格別なものであった 63。 60 1983 年から 1984 年にかけての冬は、1984 年 2 月 11 日の初雪が降ったたけで、その降雪量は 0.3 ミリ メートルに過ぎない。 61 北京のかつての名称である。晋時代、今の北京は北平という地名が使われており、北の地方の平和と いう意味を持つ。明時代には、南京と区別をする為、「北京」という地名が使われ始め、民国時代に一 度は北平という旧称に戻ったものの、1949 年に中華人民共和国が建国したことを機に、北京という名が 使われている。 62 「効果的な降水」とは、中国語で“有效降水”という一種の気象上の用語であり、土壌の植物の根ま で届く降水量のことを指すようである。 63 他方、例年殆ど雪が降らない上海では、今年の 1 月 24 日に初雪を観測し、また、上海の人々の話によ(呉秀頴・中国法顧問、包城偉豊・弁護士) 2.上海市の最低賃金・前年度平均賃金の発表 上海市では、毎年 4 月 1 日付で、最低賃金の調整がなされる。 月最低賃金は、これまでの 2,300 元から 2,420 元に引き上げられた。120 元の上げ幅 は、昨年の 110 元の上げ幅と比べて微増となった。また、非全日制の労働者に適用され る時給の最低賃金は、20 元から 21 元に変更された。64 例年、この時期には、最低賃金と併せて、前年度の上海市平均賃金も公布される。真 正面から前年度平均賃金が公表されるのは、例年、4 月になってからのことが多いが、 3 月中に公表される社会保険の納付基数(当該基数に各保険の料率を乗じて保険料を定 める)から、前年度平均賃金を逆算して求めることができる。即ち社会保険の納付基数 は、上限が前年度月平均賃金の 3 倍、下限が前年度月平均賃金の 60%とされる。その ため、納付基数の上限が 21,396 元であるという発表65に基づき、それを 3 で割った 7,132 元が 2017 年度の月平均賃金であることが分かる。 <近年の最低賃金・平均賃金の推移>(最低賃金は毎年 4 月 1 日より変更) 年 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 最低賃金 960 960 1,120 1,280 1,450 1,620 1,820 2,020 2,190 2,300 2,420 上昇率 14.3% 0% 16.7% 14.3% 13.3% 11.7% 12.3% 11.0 % 8.4% 5.0% 5.2% 年平均賃金 39,502 42,789 46,757 51,968 56,300 60,435 65,417 71,268 78,045 85,584 月平均賃金 3,292 3,566 3,896 4,331 4,692 5,036 5,451 5,939 6,504 7,132 上昇率 13.8% 8.3% 9.3% 11.1% 8.3% 7.3% 8.2% 8.9% 9.5% 9.6% (山根基宏・弁護士) れば、過去にもなかなか見ない積雪量であったとのことである。1 月 24 日、25 日頃、上海の中心地域で もかなりの雪が降ったが(水分を多く含んだ湿気たみぞれ雪に近い雪)、雪に構わずスマホを片手に雪、 景色、自撮りをする人々であふれていた。なお、みぞれ雪のため、歩道に積もった雪を歩くのは靴にも 足にも優しくなく、職場等に着くころには靴も靴下も濡れ、大変不快な気分になるのが通常ではないか と思われるが、朝起きて見ると、夜まで歩道に積もっていた雪が綺麗に掻き出されており、大きな支障 も、靴や靴下が大きく濡れることもなく外出することができたことに感動したものである。 64 http://www.12333sh.gov.cn/201712333/xxgk/flfg/gfxwj/ldbc/01/201803/t20180323_1280261.shtml 65 http://www.12333sh.gov.cn/201712333/xxgk/gsgg/201803/t20180329_1280377.shtml
TMI 中国最新法令情報―2018 年 3 月号― 発 行:TMI 総合法律事務所 監 修:何連明・外国法事務弁護士 編集主幹:山根基宏、包城偉豊・弁護士 発 行 日:2018 年 3 月 31 日