長目の浜の洋上ウバメガシ林内礫浜構造について
1
西 隆一郎・
2塩谷克典・
3稲留陽尉Ryuichiro Nishi, Katsunori Shioya
1鹿児島大学准教授 水産学部水産学科(〒890-0056 鹿児島市下荒田4丁目50-20) 2(財)鹿児島県環境技術協会調査部環境生物課 課長代理(〒891-0132 鹿児島市七ッ島1丁目1番地5) 3(財)鹿児島県環境技術協会調査部環境生物課 課長代理(〒891-0132 鹿児島市七ッ島1丁目1番 1.まえがき 鹿児島県薩摩川内市の沖合の東シナ海洋上に上甑島, 中甑島,下甑島(写真-1参照)からなる甑島列島があ る.この中の下甑島には,海岸工学および海岸地形学か ら見ても非常に興味深い地形と水理現象が存在している. 海岸地形に関しては,礫で構成された里地区のトンボロ 地形がある.国内でも大型のトンボロ地形で,その上に 集落が発達している.加えて,長目の浜と言う礫で構成 されたバリア-アイランド状の砂嘴と,その背後の海跡 湖群がある.そして,2009年2月には約3mの高さの副振 動と推定されたあびきで有名な浦内湾がある.それぞれ の形成機構や流体力学的な水理現象の解明は,工学的に も学術的にも重要であるが,本論文では,長目の浜の形 成機構と,長目の浜上に形成された洋上ウバメガシ林内 の礫浜構造について現地調査した結果を述べる. 鹿児島県の薩摩半島沖合の上甑島には,図-1に示すよ うな海跡湖群が存在している.この海跡湖群は,東西方 向に並んでおり,東から須口池(すぐちいけ),鍬埼池 (くわさきいけ),貝池,海鼠池(なまこいけ)と呼ば れている.これらの海跡湖と海との間には,東西方向に 細長い「長目の浜」と呼ばれる砂州(バリア-アイラン ド)が存在している.類似の海岸地形としては,京都府 の日本海側にある「天橋立」と呼ばれる景勝地や,北海 道のオホ-ツク海に面する能取湖,サロマ湖,コムケ湖 などの海跡湖群がある.しかし,我が国の多くの海跡湖 群およびその前面の砂州は,基本的に砂質材料で構成さ れており,長目の浜のように礫質材料で構成された砂州 は珍しい.また,長目の浜の西端に位置する岬状地形の 田ノ尻からの礫浜延長は約4kmで,ほぼ天橋立と同じ 程度の延長を持つが,背後の海跡湖群の多様性は長目の 浜の方がより優れていると言えよう.なお,長目の浜背 後の海跡湖群の中では,海鼠池が最も大きい内水面面積 をもっている.この海鼠池ではナマコ・アコヤガイなど が獲れるが,『三国名勝図会』に,ナマコについて「尋 常の種と異にして,その味佳絶なり」と書かれている. (参考;鹿児島地図紀行, 鹿児島県高校地理部会編, 142頁,平成10年,(有)徳田屋書店発行). 1977年撮影の写真-2と3に示すように,この長目の浜 には海浜植生が繁茂し,その代表的なものとしてウバメ ガシ林が発達している.現地踏査によればこのウバメガ シ林は,横断方向(海陸方向)には砂州の頂部付近から 内水面境界部まで発達している.しかし,沿岸方向には, ウバメガシ群落が一部途切れている.写真-3の丸印で 示されるウバメガシ群落の顕著な途切れ個所は,写真- 2の28年後に撮影された2005年の航空写真で確認しても, 回復が進行していない(写真-4参照).この森林が途 写真-1 上甑島の海岸の様子
図-1 上甑島長目の浜の位置
写真-3
長目の浜の拡大空中写真(1977年)
写真-2 長目の浜の空中写真(1977年)
切れた個所は,ル-ス台風時に砂州がいったん完全に切 れて海とつながった個所と言われている.砂州が切れて 湖口がいったん形成されたときに,長い時間をかけて自 然に形成されたウバメガシ林,養土,保水・透水層が完 全にはぎとられ,さらに,砂州が切れて形成された湖口 を塞ぐ時にも,自然に形成されていた礫浜の養土および 保水・透水層構造と類似した修復を行わなかったために 海浜植生の回復が進行しなかったのではないかと考えら れる.一般的には,砂質の砂丘や砂州上に形成された海 浜植生群落では,台風被災後60年以上経過するとある程 度の回復がなされる.しかし,水持ちの非常に悪い,言 いかえれば透水が非常に速い礫で構成された長目の浜で は,礫浜表層および内部の保水・透水層構造が自然ある いは人為的な外力で破壊されたために,現状のままでは, 今後数十年かけてもウバメガシ群落が回復すると予想す ることは困難であり,現存のウバメガシ林を適切に保全 しなければならない必然性も高くなる. 写真-4 ル-ス台風時に被災を受けたウバメガシ林 写真-5 海鼠池と貝池境界部のウバメガシ林 そこで本調査では,わが国でも非常にユニ-クな礫で 構成された砂州および海跡湖群である「長目の浜」に関 して,地形特性,形成機構,構成材料特性,そして,透 水・保水特性という物理的な観点から調査を行い,今後 の保全の一助とするものである. 2.現地調査 長目の浜は上甑島の北側に位置している.また,図- 2に示すように,浜の東側は里村のあるトンボロ地形お よびその前に接続した島状地形により海域が遮蔽され, 北西から北東に渡る方向だけが開口している.したがっ て,現状では礫浜を形成し維持するのに必要な漂砂を引 き起こす主要な波(卓越波浪)は,この開口方向からの 波に限定されている.この開口方向から入射し,かつ礫 を移動開始させ,そして,輸送することが可能なエネル ギ-を持つ波は,台風時の継続時間が比較的短い波か, 冬季季節風により発生する継続時間の比較的長い波であ る.このように長目の浜の形成には,地形的な要因で, 入射波浪の卓越方向が限定されていることが非常に重要 である. 図-2 長目の浜の開口特性と入射波浪の卓越方向 現状の地形図だけを見れば,北側(開口方向)からの 卓越波浪による波食で田ノ尻岬周辺の海食崖が崩落する ことで供給された礫を含む多量の土砂が,南東向きの沿 岸漂砂により牛瀬側に徐々に輸送され堆積した結果形成 されたのが,長目の浜と考えられる.つまり,長目の浜 は北西端の田之尻岬から,南東に向かい徐々に延伸し, 最終的に牛瀬に接続した結果,リアス式海岸が閉じて形 成されたのが現在の海跡湖群であると地形学的な観点か ら推測される. 長目の浜は田ノ尻岬が沿岸漂砂供給源となって形成さ れた礫浜である.一方,沿岸漂砂量は,沿岸漂砂量Qの 計算式(式(1)参照)から理解できるように,入射波 高以外に,(礫)浜の汀線に対する波の入射角が大きな 影響を持っている.
b bs bs b g
x
H
a
a
C
H
Q
(
2)
(
1sin
2
2cos
2
)
∂
∂
θ
θ
−
=
(1) ここで, H = 波高 Cg = 線形波理論より与えられる群速度 b = 砕波条件を表す添え字 θbs = 局所汀線に対する砕波角である. 本海域においては,長目の浜前面が急深地形であるた めに沖からの入射波浪が十分に屈折せず礫浜に作用する ために,写真-5に示すように汀線に対する波の入射角 が非常に大きいことも,その他の砂質性の砂視嘴に比較 して特有な現象である. 写真-5 入射角が大きく浜に沿うように進行する波 砂州を構成する底質は,当然ながら入射波浪が大きい 時に移動量が大きい.ただし,高波浪の条件では,細か い底質は沖に移動するが,礫のように粒径の大きなもの は質量輸送と境界層の効果と打ち上げ効果で陸側に堆積 する.つまり,礫は砂と異なり高波浪時に浜を広げるよ うな作用を持つ.また,礫浜の高さは,礫を打ち上げる 遡上波の高さに応じて,その堆積高さが定まる.した がって,礫浜が成長するときには,一般的に現況の海水 面上数mの高さを維持しながら,卓越漂砂方向に伸張す ることになる. このような自然条件下で,現在目にしている長目の浜 がいつ形成されたかを考えると,現状とほぼ同じ海水準 になった縄文海進よりも後の時代と推測される.ただし, それより以前も,時代の海水準に応じて長目の浜は存在 していたものと考えられる.加えて,上甑島北部の卓越 波条件と地質条件は基本的にいつの時代もいつの時代も 基本的に同一であるために,現在の里村があるトンボロ 地形がやや先に形成され,その結果,長目の浜付近では 波の卓越方向が北西側の単一方向に限定されるようにな り,長目の浜の元地形である砂州の発達が進んだものと 考えられる.あくまでも仮説であるが,長目の浜の成長 過程は,大まかに二段階に分けられ,(1)里村地域の トンボロが完全に形成される以前は,長目の浜では季節 的に北西側と南東側の卓越波向があり田之尻および牛瀬 両方からの土砂の供給があったが,(2)里村地域のト ンボロが完全に形成されてからは,南東側からの波浪が 長目の浜には作用しなくなり,結果として田之尻岬の波 蝕により供給された礫を含む土砂が牛瀬方向に沿岸漂砂 で移動したものと推測される.ただし,長目の浜は,急 勾配の海岸であるので,田之尻の波蝕で供給された砂や シルト成分は牛瀬側に移動する過程で沖側に輸送され, 基本的に粒径の大きい礫成分だけが牛瀬側に輸送・堆積 したものと考えられる.したがって,長目の浜の形成時 期は,基本的には里村のトンボロ(写真‐7参照)が形成 された時期あるいは若干遅れた時期と推測される. 写真-6 沿岸漂砂(礫)供給源と推測される田ノ尻岬 3.長目の浜の構成材料特性 長目の浜は,わが国では珍しい礫で構成されたバリア -アイランド状の砂嘴である.また,一見透水性の非常 に高そうな礫浜にかつ海水に非常に近い位置にウバメガ シ森林が形成されると言う希少価値の高い自然地形であ る.なぜ,この礫浜上に水分(淡水)を必要とするウバ メガシ林が形成されたのかを考察するために,長目の浜 の底質(礫)特性を調べることにした. 3.1 底質(礫)の粒度特性 ウバメガシ林内および外縁部で礫浜を構成する礫材 (写真-7参照)の粒度分布および中央粒径を,ふるい わけ試験により調べた. また,以下に5つのサンプルの粒度分析結果及び中央 粒径と淘汰係数をそれぞれ示す.写真-7 礫浜で採取した構成材料 図-3 粒度分布および中央粒径のまとめ 3.2 礫材の形状特性 本海浜は礫で構成されている.例えば,長目の浜は玉 石により構成されている旨の記載がある説明もある.た だし,一般に礫は玉石からイメ-ジするような完全な球 体ではなく,場合によっては平板状のものも存在する. また,その形状によって外力に対する移動しやすさも異 なる.そこで,浜を構成する礫の経常特性を調べるため に,図-4に示すように長目の浜中央部に測線を設けた. そして,ウバメガシ林前面の浜堤部(No.1)とバーム先 端部(No.2)において,それぞれ100個および110個の礫 材を採取し,図-5に示すように,長径,短径,厚みを それぞれメジャ-で計測した. 図-4 形状測定用礫材採取地点 ここで,Ls = 長径, Ss = 短径, t = 厚み 図-5 形状特性の指標値の定義図 表-1に測定結果を示す.表中の平均値から分かるよ うに,それぞれのサンプリング位置は岸沖方向で異なる が,長径,短径,厚みの平均値はほぼ同一である.また, 長径と短径の比は0.68と0.69,そして,長径と厚みの比 は0.32と0.32であるので,球状とは言い難い形状であっ た.また,一般的に砂質海浜では砂丘に相当する測点1 の方が粒径が細かくなるが,本礫浜ではそのような構造 が見られなかった.なお,波打ち際と,内水面側の個所 での計測,および沿岸方向に沿っての計測は時間の関係 で行っていないので,今後の調査が必要と思われる. 表-1 形状特性のまとめ(平均値) Sample location No. of sampl es Range Mean Ls (cm) Ss (cm) t (cm) Ls (cm) Ss (cm) t (cm) 1 110 6.2-29 2.5-16.9 1.4-12 11.7 8.0 3.7 2 100 4.5-25 2.8-20 1-10.5 11.4 7.9 3.7 図-3および表-1から明らかであるが,形状特性を調 べた海浜部の礫材の中央粒径と,ウバメガシ林内および 湖水側外縁部での中央粒径を比較すると,概略10倍程度 海浜部の礫材の方が中央粒径は大きい.したがって,ウ バメガシ林が成長するためには,適切な径の範囲の礫材 を用いる必要があろう. 4.長目の浜の構成材料特性 4.1 礫材料の透水特性 礫浜の透水特性は,礫浜を通しての海水浄化および水 質保全,間隙生物の生息条件,礫浜内部の保水特性,養 分の保持機能,海浜植生の成長具合などに大きな影響を 持つ.本研究の対象である長目の浜上に形成されたウバ メガシ林の成長及び海浜侵食被害からの回復過程にも Koshikijima Sediments 0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00 0.01 0.1 1 10 100 Particle size (mm) P e rc ent F ine P as si n g (% ) K Sample 1 K Sample 3
K Sample (coarse gravel) K Sample (coarse and fine) K Sample (less coarse gravel)
とっても重要な指標であると考えられる.そこで,長目 の浜の透水特性(透水係数)に関して,実験式に基づい た手法と,数値計算に基づいた手法により推定する.な お,実験式は,マリオら(2008)により提唱された下記 の式であり,数値計算は北村ら(1998)による粒状体モ デルに基づくものである. (1)透水係数 k20と中央粒径 D50の相関 両手法による数値計算結果は,それぞれの礫材サンプ ルに対して以下のようになった.また,多様な粒径の海 浜材料に対する透水係数の水理実験結果を図-11に示す が,中中央粒径が0.数mm程度の砂質海浜の透水係数に 比べて,概略で一桁ウバメガシ林内の透水係数が大きい. 言い換えれば,保水特性が非常に悪いことになう.した がって,礫材以外に何らかの保水性能を発揮する機能を 持つ機構が存在することが,推測される. 表-2 透水係数の推定値 実 験 式 (1) 数値計算 資料 1 0.122cm/s 0.979cm/s 資料 2 0.081cm/s 0.656cm/s 資料 3 0.155c/ms 1.241cm/s 資料 4 0.132cm/s 1.061cm/s 資料 5 0.092cm/s 0.741cm/s 図-6 中央粒径と透水係数(水理実験結果) 4.2 保水層マットおよび湖水面側の内部粘土層 長目の浜は,写真‐11 に示すように浜表層が礫で構 成された砂州(砂州)である.前述したように,礫で構 成された砂州は透水性(水はけ性能)が,砂質性の砂州 と比べて一桁以上高い.したがって,水分を必要とする 植生が成長するのに恵まれた環境とはいえず,ウバメガ シ林が発達した何らかの特殊な保水機構が礫浜の内部構 造として存在するのではないかと考えた.そこで,ウバ メガシ林内および境界部で,浜の内部構造を調べるため に礫浜を掘り下げ,保水機構の存在を確かめてみた.な お,植生への被害を極力減らし,かつ内部構造を破壊し ないために,礫浜の掘り下げ作業はバールと人力で注意 深く行った. まず,写真‐12に示すようにウバメガシ林の内水面側 で掘り下げ作業を行った.掘り下げ作業は二人一組で2 チームをくみ,交替で掘り下げた.写真‐12に示すポイ ントでは約70cm掘り下げた.表層付近に樹根と有機物を 含む層が見える.写真‐13に,掘り下げた穴の最も深い 部分で内水面水位とほぼ同じ標高の礫浜内部の状況を示 す.下層に透水性の低い粘土層がありその上部に保水性 の高い有機物を含む層があることが分かる. 写真‐11 ウバメガシ林海側前面の礫浜表面の歴の堆積 状況 次いで,ウバメガシ林の中央部で,写真‐14に示すよ うにウバメガシの成長が良好な箇所を選び掘り下げた. この掘り下げた穴の表層付近を写真‐15に示す.厚さが 約10cm程度のマット状の構造が浜表層にあることが分か る.マット状の構造を目視で観察すると,細かい根状の ものが,密接に絡まった層になっていることが分かった. 写真‐12 内水面側の礫浜内部構造 長目の浜の掘り下げ作業の結果,ウバメガシ林の発達
054
.
0
)
ln(
0303
.
0
50 20=
D
+
k
k20 = 0.0303Ln(D50) + 0.054 R = 0.76 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.10 1.00 10.00 Median size, D50 (mm) C o ef fi ci ent o f pe rm ea bi lit y, k 20 ( cm /s )しているところでは,礫浜の鉛直構造として,表層付近 には保水性があると思われるマット状構造が,その下に 有機物層があり,そして,内水面水位近くの層には粘土 層が存在し,ある種の浮島状の構造になっていることが 分かった. 写真‐13 内水面側の礫浜内部構造(湖水面水位付近の 粘土層と上部の有機物層) 写真-14 ウバメガシ林中央部の礫浜表面の様子 写真-15 ウバメガシ林中央部の礫浜表面の保水マット 状構造 5.あとがき 以下に,本調査のまとめを行う. 1)長目の浜は北西から北東側にかけて外洋からの波の 作用を受けやすいために,これらの方向からの波の作 用で,田ノ尻から牛瀬方向に礫が輸送され,堆積して できた砂州および海跡湖地形と考えられる.また,砂 州の海跡湖側を見ると,遡上波などの作用でできた小 さな堆積(デルタ状)地形が離散的に形成され,この 堆積地形上でウバメガシ群落の発達(面積)が良いこ とも空中写真から判読できた. 2)砂州上のウバメガシ群落面積は,田ノ尻側よりも牛 瀬側の方が広い.また,1977年の写真や2000年以降の 空中写真を見ても,ル-ス台風時に砂州が切れたと推 定される箇所での,ウバメガシ群落の回復は進んでい ない. 3)現地踏査時に行った礫浜の掘削実験および土質材料 実験結果などに基づけば,本長目の浜を構成する礫材 料の透水性は高く,礫材だけでは海浜植生の成長に重 要な保水性が確保されるとは言い難い,これは,砂州 上に形成されていた保水層が自然あるいは人為的な外 力で破壊されてしまった箇所で海浜植生が長期間回復 していないことを示す下記の写真からも明らかである. したがって,いったん保水性能を持つ礫浜内部構造が 破壊された箇所の植生回復には,保水層を人為的に設 置するなどを行わない限り,今後も回復が進みにくい と推測される. 4)長目の浜背後に存在する海跡湖群は汽水性の度合い がそれぞれ異なる.これは,例えば海鼠池のように礫 浜に透水層が形成され満潮時に礫浜を通して海水が内 水面側に流入したり,海池のように人為的に築造され た小さな水路を通して海鼠池と小規模の海水交換がな されたり,須口池のように海に通じる人工の水路が築 造されたりと,海水交換の様子が異なるためである. ただし,それぞれの海水交換機能を発揮する自然地形 あるいは水路などの人工構造物は,当該個所が礫浜と いうこともあり,長期間安定したものと考えられる. したがって,ルース台風のような大型の台風が来襲し ない限りは,現状維持のままであると考えられる.た だし,須口池は,目視によれば水深が数十cm程度と浅 いので,人為的に適切な量の海水交換を行わなければ 水質悪化が起きやすい条件にはある. 5)自然環境として,特有な海岸地形を呈している.そ れは,国内ではほとんど類例のない礫で形成された大 規模な砂州であり,その礫砂内部にはこれまで報告さ れたことのないような透水・保水構造が存在している. さらに,この礫浜内部構造のために砂州上にウバメガ シ群落が形成されている可能性が高い.しかも背後に は,水質条件あるいは海水交換度の異なる多様な海跡 湖群が存在しているので,保全の重要度は高いと考え
られる. なお,本調査においては予算や人員の制約で,環境保 全の観点からは,それぞれの池の地形の詳細測量(測 深),海水交換量の推定,流況,夏季および冬季におけ る成層の状態,また,数m以上の礫浜内部構造,池の底 の底質特性などが明らかにできていない.加えて,長目 の浜を形成する主要な外力である海象条件に関しても データが存在していない.したがって,これらの物理要 因を明らかにするための現地調査が必要と考えられる. 謝辞 本調査は,平成20年度薩摩川内市長目の浜調査業務委 託において行われ,財団法人鹿児島県環境技術協会との 合同調査によるものであり,現地調査の機会を与えていた だいた薩摩川内市には紙面を借りて謝意を表させて頂く.また, 現地調査には,鹿児島大学水産学部海洋物理学グル-プの4年 生望月君,清野君,マリオ君が同行し,手作業による礫浜の掘 削作業や土質実験を補助してくれた.ここに,謝意を表させて いただくことにする. 参考文献 1) マリオ デ レオン・西 隆一郎・北村良介:海浜底質の 粒度特性と透水係数について, 海洋開発論文集, 第24巻, pp.1201-1206, 2008年. 2) 西 隆一郎・Nicholas C. Kraus・川森 晃: インレット の形状特性に関する基礎的研究,海洋開発論文集 第22 巻,pp.927-932, 2006年.
3) Kitamura, R., Fukuhara, S., Uemura, K., Kisanuki, G., and Seyama, N., (1998), A Numerical Model For Seepage Through Unsaturated Soil, Soils and Foundations, Vol. 38, No. 4, 261-265. 4) 運輸省港湾局防災課編; 日本の海岸,昭和45年2月発行 追悼の辞 : 川内川河川事務所工務課の山本幸次専門職には,筆者 が海岸工学・海岸地形学を志すきっかけとなった(旧) 建設省土木研究所河川部海岸研究室での実習時に,いろ いろとお世話になった.山本博士と筆者の出身地がとも に南九州で年も同じと言うこともあり,親切にしていた だいた.その後,筆者が運良く大学で海岸工学の研究者 になれたこともあり,土木研究所で海岸保全を専門にし ている山本さんとは,学会の時に顔を合わせて話す付き 合いが続いた.ウェールズで海岸工学の国際学会が開催 された時には,会場を抜け出してレンタカ-で海岸の現 地踏査を一日したことも楽しい思い出である. そして,山本博士が鹿児島県にある国交省の川内川河 川工事事務所に赴任されたので,電話して一緒に飲みま しょうと約束したのだが,川内川の激特事業で山本博士 が多忙を極めたこともあり,近い所に居ながら,いつも タイミング悪く一緒に飲む機会を逸してしまった.つい 最近も,4月になったら是非飲みましょうと電話するこ とを考えていたところに,突然の訃報が飛び込んできた. 山本博士の担当された川内川は,筆者の故郷を流れてお り,2006年の洪水時には高校の同級生の家が,激流で流 されていく様子を見たものである.筆者の故郷の災害対 策の激務をこなしていただいた山本博士には,よろしく お願いしますと言うばかりで,本当に有難うございまし たと直接言う機会を無くしてしまった.恥じ入るばかり である.山本博士が夭折されたのは悲しみに耐えないこ とであるが,山本博士が(旧)土木研究所,国土総合研 究所で携わった海岸保全・海岸地形学の研究や,川内川 で携わった災害対策の仕事は,関係者や地元住民の心に 永久に残るものと考える.山本幸次さんのご冥福を祈り, 追悼の辞とさせて頂くことにする.