〈原著論文〉
地域福祉の推進主体としての社会福祉協議会
小地域活動を中心として一※
稲 葉 一 洋※※
はじめに
近年,新しい「公共」概念が支配的潮流となる中で,行政をもっぱら公共の担い手とする統 治(ガバメント)から,行政と地域の多様な主体との協働による協治(ガバナンス)への転換 が模索されている。この不可逆的ともみえる社会事象の進展は,地域を基盤iとした社会福祉の 実施公私の協働化,行政役割の限界と住民参加をコンセプトとして掲げてきた地域福祉のあ
り方とも,きわめて親和的にみえる。ここには日本社会が分権化,計画化,民営化を軸に政策 問で時問的なズレをみせつつも,厳しい財政状況のもと社会政策全体としてガバナンス指向を 共有する段階に入ったことを意味しているが,自治体経営や地域福祉の推進実施においてガバ ナンスが適切に行われ,有効に機能するには至っていない。
2000年の社会福祉法では,地域福祉を社会福祉の主導理念として掲げ,それを推進するツー ルとして法定化された地域福祉計画が,新しい公共やガバナンスの試金石といわれて久しい。
しかし,この計画も法施行後!0年余が経過し,平成の大合併が一段落した現在に至っても,行 政のポテンシャルは低調なままに推移し,地域福祉の構i築に向けた動きは一向に緩慢であ る(注1)。そこに各地の地域福祉推進の方策や実践にも大きな前進はなく,社会福祉法で「地域 福祉の推進を図ることを目的とする団体」と規定された市町村の社会福祉協議会(以下,「社協」
という)の活動状況も,その社会的な役割期待からはほど遠い。そもそも地域福祉の推進は,
法律に位置づけられただけでは達成されはしない。地域福祉を推進する各主体の担う基本的な 役割や機能が,政策的にも社会的にも広く認知され,それが財源問題を含めて行政や地域の多 様な主体によって共有化され,現実の政策・施策や活動として実行に移される必要があるが,
それが十分に行われてこなかった。
この稿では,社会福祉法に地域福祉の推進主体として明示された市町村社協による,住民参
※Co朋6 げ30cめ1晩仙rεα3 Proη70 ∫oη3〃毎εσ(ゾCo溺 η配π妙〃珍侮rε一オro珊4〃zθ3め一アε9ご。ηα1αc ∫y∫ ∫θ∫一
※※Kazuhiro INABA 立正大学社会福祉学部社会福祉学科教授
キーワード:地域福祉の推進主体,小地域活動,社会福祉協議会,埼玉県内市町村社協
一13一
加支援の象徴ともいえる小地域における福祉活動に焦点を絞り,その事業の進捗状況やトレン ドを捉えたい。つまり市町村社協による小地域事業等の実施率の推移に注目し,それを把握・
分析することにより,数字に裏打ちされた市町村社協事業の現実の姿を提示したい。周知のよ うに社協は,社協間の格差も大きく,理念と実態との乖離が指摘されることの多い組織だし,
過大ともいえる役割期待とともに,不十分な力量・条件が混在してきた組織でもある。民間の 中核的な地域福祉推進主体として,地域や住民の負託に応え,それにふさわしい内実を各地の 社協が備えるべく,地域福祉活動の展開を図ってきたといえるか否か,それが問われ続けてい る。そこで本稿では最初に,地域福祉の推進主体の枠組みを,社会福祉の法制度的および理論 的な文脈を踏まえて検討し,その中に市町村社協を位置づける作業を行う。
それに続いて社協が歴史的に重視し,地域福祉の母胎ともいわれる小地域活動を軸に据えて,
市町村社協の組織・事業の実態を社会福祉法制定以後を中心に把握していく。この社協活動実 態の把握にあたり,全国社会福祉協議会(以下,「全社協」という)は全国の市区町村社協を 対象とする活動実態調査を3年に一度実施してきたが,2006年度調査以後,全ての市区町村社 協から回答を得ることが困難になっている(注2)。そこで本稿では,この全国的なデータを参照
しつつ,全市町村社協の実態把握が可能な県レベル,具体的には埼玉県社協によって調査され ている市町村社協データを中心に考察を加えたい(注3)。その手順としては,初めに全国的なデー タをもとに,わが国の市町村社協の組織・小地域活動を中心とした概括的推移と特徴を描き,
その後に埼玉県内の市町村社協の組織財政,小地域活動の実施と進捗状況の推移を検証する。
そして最後に,上記の検討考察を踏まえつつ,地域福祉の推進主体としての市町村社協が小地 域活動を推進実施する課題について言及し,本稿のまとめに代えたい。
1 地域福祉の主体としての市町村社協
(1)地域福祉の主体枠組みと市町村社協
一般に,客体に対置される「主体」という用語は,一定の意図をもって働きかけるもの,行 為するものを指している。そこに地域福祉の主体についても,地域福祉の推進や実践を担う組 織や個人を意味するものと理解されてきた。それを従来からの社会福祉の主体枠組みに即して
いえば,「政策主体」と「実践主体」に大別することが可能だし,さらに「経営主体」や「運 動主体」,「利用者主体もしくは当事者主体」を加えた主体類型も提示されてきた。しかし,論 者の視点や意図により,地域福祉の主体枠組みのみでなく,各主体類型に関する認識にしても 一義的な規定がされてきたわけではない(注4)。そこでこの小論では,次のような地域福祉の主 体枠組み,つまり①政策主体,②経営主体,③実践主体,④運動主体,⑤生活主体の5類型を 念頭に置きつつ論を進めることにしたい。
これらの主体類型の内容を簡単に示すと,①政策主体は国・地方自治体を意味し,②経営主 体は福祉サービス供給組織やソーシャルワーク機関を指している。また③実践主体はサービス 一14一
や支援を提供する専門職員や福祉活動への住民等の参加者,④運動主体は地域福祉運動を担う 住民や当事者やその組織⑤生活主体は地域住民や要支援者を指している。ただし,上記で政 策主体とされた行政は,同時に経営主体や実践主体でもあり,特に地域福祉の推進に直接的な 責任をもつ市町村には,地域福祉の経営や実践を担う複合的な主体もしくは機能が求められる。
この複合的な主体という点では,市町村社協も市町村を範囲とした「地域福祉の推進」を目的 に,②と③の主体としてだけではなく,①との公私協働をはじめ,社協を除く②と③や地域と の連携・協働を推し進め,④と⑤との協働や参加支援を担う中核的な民間組織といえよう。こ うした主体枠組みの認識には,複合的な主体役割への着目が重要だし,主体間の相互関連や相 互補完への視点が不可欠となる。また地域福祉の「推進主体」の意味内容は,地域福祉の主体 枠組みの一部ではなく,主体それ自体として捉えて使用している(注5)。
上記の枠組みを念頭に置きつつつ,法律に初めて地域福祉という用語を登場させた「社会福 祉法」における地域福祉の推進主体に関する規定をみていこう。この法律では第1条,第4条,
第107条,第!08条,第109条,第110条,第112条に「地域福祉の推進」という用語を使用して いる。それを順に辿ると,第1条(法の目的)に掲げた「地域社会における社会福祉(地域福 祉)」の推進を受けて,第4条(地域福祉の推進)では,その推進主体として①地域住民② 社会福祉を目的とする事業を経営する者,③社会福祉に関する活動を行う者の三者を示し,そ れらが互いに協力して地域福祉の推進に努めることと定めた。もともと地域福祉の根源的主体 を地域住民とする認識は広く定着していたが,本条文の規定により改めて法律的にも,地域住 民は地域福祉を推進する努力義務の主体に位置づけられた(注6)。さらに同条では地域福祉推進 の対象を,福祉サービスを必要とする地域住民とし,ここに地域住民には,福祉サービスの利 用者および地域福祉活動の担い手という,2つの側面ないし性格をもつことが明記されるとこ ろとなり,地域福祉の主体にふさわしい住民の主体的力量と参加が求められることになった。
それらを具体的に推進し,住民参加を支援する主体として市町村社協が位置づけられたのは,
わが国の地域福祉発展の経緯を考えても,ごく自然なことであったといってよい。
周知のように社会福祉法第4条の条文には,地域福祉の推進主体として市町村の行政,社協 や共同募金会は入っていない。しかし社協に関しては,同法第!0章第2節「社会福祉協議会」
の第109条(市町村社会福祉協議会及び地区社会福祉協議会)および第110条(都道府県社会福 祉協議会)で,上記の社協がそれぞれの区域内において「地域福祉の推進を図ることを目的と する団体」と規定し,それが推進主体であることに疑念の余地はない。それに続く第10章第3 節「共同募金」も,その発足時より社協とは表裏一体ともいえる関係を有してきた共同募金を,
第112条で地域福祉の推進を図るという目的をもった制度として定義し,第1!3条では共同募金 事業および事業主体である共同募金会を定めている。これら社会福祉法で明示された地域福祉 の推進主体をみると,そこで明文化されているのは住民・事業者・活動者・社協・共同募金会 に限定され,地域福祉の推進に最終的な責任をもつ,国・都道府県・市町村を主体として明確 に規定している条文はない。
一15一
地域福祉の推進主体をめぐっては,住民の参加や住民主体のリアリティだけでなく,概念規 定や社会福祉法の解釈も一定ではない。特に市町村行政が推進主体もしくは実施主体であるか 否かを含めて,それが担う守備範囲や役割をめぐる議論も活発である(注7)。福祉サービスの提 供も,近年は多様な供給主体が担うことが多くなり,市町村の役割も実施責任から管理運営責 任に移行しつつあるのも事実である。とはいえ,わが国社会福祉の実施体制をみると,市町村 は個別法に基づく大半の事務を実施する主体であり,「1990年の福祉八法改正,分権一括法の 施行,介護保険制度の始動,社会福祉法とそれにともなう個々の事業法の改正により,市町村 は基本的には〈社会福祉の実施主体〉として明確に位置づけられている」(注8)と考えるべきで ある。このように市町村行政は,地域福祉の推進に不可欠な事業経営や実務を求められるだけ でなく,実際にも多くの事業や役務の直接提供を行っている。これからの地域福祉のあり方研 究会報告(2008年3月)でも,市町村行政を地域福祉の推進において住民と協働する主体とし て捉えているし,それは環境や条件を整備し,管理運営の責任を負うのみでなく,直接的な介 入や支援を担う主体として明記している。あくまでも,「地域福祉を推進する中核はコミュニ ティと自治体である」(注9)という明快な事実に立脚し,行政を地域福祉の推進主体・実施主体 とすることが妥当だし合理的である。それが先に行政を政策主体としてのみでなく,経営主体,
実践主体として注目した理由にほかならない。
(2)市町村社協の理念と実態との乖離
2000年の社会福祉法第1条では,新たに利用者の利益の保護及び地域福祉の推進を規定した ほか,従来の「社会福祉事業」よりも広い意味をもつ「社会福祉を目的とする事業」の全分野 に共通する基本事項を定めた。しかし,戦後半世紀に亘って続いた社会福祉事業法の時代にも,
社協が対象とする事業の範囲は,現行法と同一の「社会福祉を目的とする事業」(調査・総合 的企画・連絡,調整及び助成・普及及び宣伝)と規定されてきた(注lo)。わが国の市町村社協は,
社会福祉法第109条にも「地域福祉の推進を図ることを目的とする団体」と明記され,「新・社 会福祉協議会基本要項」(1992年)も,社協の性格を「住民主体の理念に基づき,地域の福祉 課題の解決に取り組み,誰もが安心して暮らすことのできる地域福祉の実現」を目指すと謳っ ている。このように全市町村に存在する社協は,地域福祉活動への住民参加の促進住民参加 による社会福祉を目的とする事業の実施地域の多様な主体間の連絡調整など,地域福祉の推 進を幅広く担う民間の代表的な組織といってよく,住民・当事者の参加支援や組織化,公私協 働化を担う不動の存在であるかにみえる。
だが,一括りに市町村社協といっても,その実態は千差万別であり,その多様さが社協の特 徴ともいわれてきた。各市町村の地理的範囲や人口数,社協の事業・組織・財政の規模も,大 小さまざまだし,各社協が実施する事業の展開や取り組み姿勢,それらがもつ力量も一定では なく,社協間の格差が常に人々の注目を集めてきた。また行政との密着化や従属化が批判され,
社協の事業や運営にも自主性の弱さが指摘され続けてきたが,この各社協と行政との関係にし
ても微妙で複雑多様である。近年,各市町村社協には地域福祉の推進に向けて,確固たる方針 と決意のもとに組織的・計画的な事業展開が期待されているが,その負託に応えきれていない 社協の実態が問題視されることも多い。あるべき社協の理念と実像との乖離は,概して大きい。
かつて岡村重夫が自発的社会福祉の推進者として想定した社協は,今ではこの想定が崩れてい るとし,「実態からいえば法律による社会福祉の請負をしているにすぎない。この社協改革 は必須事項であろう」ともいわれる(注11)。
一般に社協の固有性を示す基幹的事業として,地域組織化を挙げることに反論や異論の余地 はなぐいわば通説といってもよい。地域住民・当事者の組織化(以後,「地域組織化」という)
に対する社協による取り組み姿勢,参加支援の強弱や適切性は,各地における地域福祉推進の 成否を大きく左右する。この地域組織化に対する力の入れ方や実績は,市町村社協によって大 きく異なることも周知の事実である。社会福祉法に移行後の社協事業の動向に着目しても,地 域組織化事業に大きな進展を認めることはできないし,かつての社協職員によっても,「特に,
組織化活動にかかわる活動の内実化が近年おろそかにされてきたのではないかと考える」と指 摘されたり(注12),「……今日,社協の原点ともいうべき組織化活動にかける比重は小さくなっ ている」(注13>といった懸念が抱かれる状況であることにも留意する必要がある。
このように住民の参加と組織化が市町村社協に強く期待されつつも,一段と厳しさを増す地 方自治体の財政難と経営環境は,経費の削減と小さな政府への指向を強め,行政に財源を大き
く依存する社協への補助金等の削減化・減額化を進行させ,社協の組織・財政・事業を圧迫し ている事実は重い。さらに介護保険事業・自立支援給付,高齢者・障害者・児童への生活支援,
震災地への支援やボランティア派遣,日常生活自立支援事業,成年後見事業,生活困窮者支援 等,社協の事業や業務の多岐にわたる広がりも近年顕著であり,小地域活動に象徴される地域 組織化に社協が重点的に取り組むことも容易なことではない。それに加えて,この地域組織化 活動には,息の長い地域住民への働きかけが必要だし,そこで参加支援や組織化を担うコミュ ニティワーカー,コミュニティソーシャルワーカーとしての専門的力量を備えた社協職員が一 定数確保されねばならない(注14)。これら今日的な社協を取り巻く厳しい状況や環境のなかで,
地域福祉推進を妨げる壁は厚く立ちはだかり,そこに期待と現実の狭間で苦渋する市町村社協 に対する評価も面面褒既が著しい様相を呈している。
2 市町村社協の組織・事業
(1)社協職員の推移と特徴
社会福祉法の時代を中心に,全社協による「市区町村社協活動実態調査」データから,全国 の市町村社協の組織(職員)の推移,次いで社協による小地域事業に焦点を絞って進捗状況を 検証する(注15)。2000年の「社会福祉法」成立と前後して,市町村社協は介護保険事業への新規 参入はじめ,地域福祉権利擁護事業への取り組み,指定管理制度の導入,平成の大合併に伴う 一17一
社協合併,地域や福祉分野へのNPOの進出等の影響により,社協をめぐる状況は激変した。
全国の市町村数も1999年3月末の3,232から,2005年3月末には1,821に急減して市町村合併の ヤマ場を超え,2010年3月末には1,727に減少している。この市町村単位の社協による小地域 活動支援などの地域組織化の働きかけでは,地域における支え合いや自立生活の支援に向けて,
住民・当事者の参加や組織化が目指される。それは地域に人と人のくつながり〉をつくり,福 祉コミュニティを形成する営為といってよいが,その業務を担うのは社協職員の全体ではなく,
地域組織化に携わる職員が中心である。
2000年度からの10年間の市町村社協全体の職員数をみると,次の4点にその特徴を整理でき る。つまり(1職員数全体としては,8万9,443人から12万6,038人へと一貫した増員傾向を辿って いるが,それは単線的な組織拡大を全く意味していない。全社協は市町村社協職員の分類を,「一 般事業職員」と「経営事業職員」に大別し,それをさらに「常勤」と「非常勤」に区分してい る。この整理区分に従ってみていくと,②社協で顕著な増加を続けているのは,経営事業職員 であり,常勤と非常勤を合わせて7万0,400人から9万9,650人へと,2万9千人を超える増員と なっている。それと比較して一般事業職員の伸び率は低い。さらに全国的な非正規雇用の広ま りと軌を一にして,(3)社協の常勤職員の割合は低下傾向が続き,この10年で職員の常勤率は10 ポイント低下し,53.6%と半数を上回る程度である。(4)常勤職員の比率は,経営事業職員は4 割台半ば,一般事業職員でも8割にすぎない。さらに地域組織化に関わる「一般事業職員」に 限定していえば,この10年間で常勤者数は4,736人,非常勤も2,609人と増加しているが,それ でもピーク時2007年の2万3,086人よりも,常勤・非常勤ともに職員は減員となっている。
1960年代半ばより人員整備が図られてきた市町村社協の「一般事業職員」も,近年は常勤職員 数の伸び止まり,常勤者中心から非常勤化の趨勢が確実に浸透しつつある。ここに地域福祉の 推進が地域や福祉の課題として叫ばれつつも,地域組織化を担う社協の職員体制が強化される ことなく,むしろ国及び地方の財政逼迫を背景に,人件費を含む補助金等の削減や合理化とい う流れの中で,社協職員の非常勤化と常勤の削減化が進行し,人員削減による業務推進力の低 下・縮小が懸念される事態となっている。
(2)社協による小地域活動の推移と特徴
住民参加を旗印に掲げる社協は,わが国の代表的なコミュニティワーク機関として,小地域 や小地域社協を理念的・歴史的に重視してきた。この小地域を単位に行われる小地域活動は,
地域福祉推進の母胎として社協の組織化活動を象徴する固有事業といってよい。法制度的にも 地域福祉時代を迎えることにより,社協はその期待もしくは負託に応えた小地域活動の取り組 みを着実に推進実施しているか否か,が厳しく問われている。ここでは2000年度からの10年間 の市町村社協による組織面(①住民会員制度②地域福祉推進基礎組織)と活動面(③小地域 ネットワーク活動,④ふれあい・いきいきサロン)の事業実施率の推移を中心に,それと関連 の深い地域福祉活動計画の策定を含めて検証してみたい。
一18一
住民・民間主体の地域福祉活動計画は,小地域福祉活動のみに限定された計画ではないが,
それを重要部分としている。1990年代に進展しだす社協の計画化の動きも,近年の市町村地域 福祉計画策定の気運が高まる中で,それと相互補完の関係にある地域福祉活動計画の策定率も 高まりを見せている。その推移をみると,2000年に36.4%から2003年・2006年に落ち込みをみ せたが,2009年には40.1%と4割を超え,その後の2012年調査では52.5%と半数を上回り,市 町村社協による地域福祉活動計画の策定化の進展を確認できる。次いで,具体的な小地域活動 の取り組みをみると,①地域を基盤とした事業展開を理念に掲げる社協は,自主財源ともなる 会費制度を伴う住民会員制度の普及に努めてきた。この住民会員制度を有する社協は,2009年 度調査でも87.0%と9割近いが,この10年間の変化は乏しい。②地域福祉推進基礎組織は,小 地域における福祉活動の推進を担う組織であり,2006年度までは地域福祉の推進を直接目的と する組織に限定し「地区社協」設置の有無を尋ねていたのを,2009年度から「地域福祉推進基 礎組織」という新用語に改め,まちづくり協議会の福祉部会などの地域福祉推進を担う住民組 織を含めて捉えている。このため2009年度調査では,この組織を有する社協は10年前よりも20 ポイント高く,47.4%と半数近くに達しているが,この調査で対象を広げた点を割り引いても,
小地域組織には増加傾向が読み取れる。③小地域ネットワーク活動は,小地域を単位として要 援助者の一人ひとりを対象に,ニーズ発見と生活支援の機能を担う,近隣住民による福祉活動 であるが,2000年度の59.7%から2009年度には50.7%へと実施率が低下している。④ふれあい・
いきいきサロンは,1994年に全社協が提唱し,2000年の介護保険実施を契機に全国的に急速に 広まり,高齢者分野が多数を占めつつも,子育て支援にも広がりをみせている。この右肩上が
りの数字を示すサロンを実施している社協は,2000年度の40.8%から2009年度には79.1%へと 倍増し,身近な地域で見聞きすることの多い代表的な小地域福祉活動となっている。
小地域活動の重要性が再三指摘されつつも,上記①〜④の社協事業のうち,文句なしに実施 率が伸びたといえるのは,④ふれあい・いきいきサロン1つのみである。強いトレンドとはい えないが,地域包括ケアや災害時における住民役割への注目,地域福祉の計画化の進捗に伴う 地区別計画の策定化の動きを反映して,②地域福祉推進基礎組織についても実施する社協が増 えているかにみえる。それらを除く二事業は,いずれも実施率の低下や停滞の状態にある。こ こでみたデータは,各事業の実施率とその推移であり,市町村社協による小地域活動の全体的 な質量を示すものではないし,それが直ちに小地域活動の停滞や縮小を意味してはいない。と はいえ少なくとも,小地域における住民参加の拡大化に向けた事業が明確な趨勢にはなってい ないし,いわば緩慢もしくは停滞が続いている状態といってよく,それが社協の財源や職員の 削減もしくは非常勤化を反映した数字であることは否めない現実といえよう。
一19一
3 市町村社協による小地域活動の推進一埼玉県の場合一
(D 社協組織と財政の推移
周知のように埼玉県は,首都東京に隣接する内陸県だが,都内にも近く人口・産業が密集し た県南部と過疎化の進んだ県北西部に代表される地域差の大きい県であり,面積は3,800km2 とほぼ国土の100分の1を占めている。1955年に243万人であった県人口は,50年代中頃より急 増を始め,2010年の「国勢調査」によると719万人を超えて,全国第5位の人口数である。高 齢化率が7%を超えたのは1985年と遅かったが,2010年には20,4%と県人口の2割を超え,現 時点での高齢化率は県南部が低く,秩父地域で高くなっているが,今後急速な全県的高齢化の 進展が予測されている。埼玉県では1973年以後,長い間92市町村の時代が存在してきたが,
2001年のさいたま市(浦和市・大宮市・与野市の合併)新設に続いて,2005年度〜2006年度 には平成の大合併が進み,2007年4月には71市町村,さらに現在では政令指定都市を含む40市,
22町 1村の合計63の市町村および市町村社協が存在する。先の全国的な市町村社協の動向を 踏まえて,埼玉県内市町村社協の職員数及び予算額の推移を,2000年度からの十数年間の合併 前後を除いたデータをもとに,県内市町村の社協職員数(表1)及び予算額(表2)からみて
いくことにしたい(注16>。
最初に,社協職員数の推移をみると,全国的動向と一致する点も多いが,埼玉県社協による データでは,「常勤」と「非常勤」の区分以外に,「臨時職員他」を加えて集計されている。こ の「臨時職員他」は,全国データとの比較には削除することも考えられるが,実際の社協業務 の担い手や遂行,職場での人間関係や職員間の業務分担や連携,社協の組織的統合への影響を 考えると,むしろ貴重なデータといってよい。この職員区分の違いにも留意しながら,2000年 と2009年の10年間の県内の社協職員数を,先の全国レベルの整理に倣ってみていくと,(1)職員 数全体としては,2000年度の3,876人から2009年度の5,222人へと一貫した増員傾向を示し,全 国的な趨勢と同一である。ただし職員区分で増加しているのは,(2)経営事業職員が844人に対 して一般事業職員552人と,その開きは全国平均よりも相当小さく,むしろ臨時職員他を除い た増員数では前者が143人,後者の一般事業職員が541人と約3.8倍も増えている。県内市町村 社協においても,全国と同様に(3)常勤職員の比率は低下を続け,臨時職員他を除いた社協職員 の常勤率は,この10年で5%低下して40.5%となり,全国平均より13%も低く,臨時職員他を 含めた比率でいえば,実に33.2%と3分の1を割っている。(4)常勤職員の比率も,職員区分で 異なる。臨時職員他を除いた常勤率は,経営事業職員では31.9%から30.4%への小さな変化で しかない。しかし,それが一般事業職員では93.6%から76.5%へと大幅な低下を示し,それに 臨時職員他を含めて計算すると,常勤の一般事業職員は47.8%と半数を割り込み,非常勤と臨 時職員他の計が半数を超える実態となっている。それ以降の2010年度・2013年度の県社協デー タからも,これらの特徴には大きな変化がないことを読み取れる。
一20一
表1 埼玉県市町村社協職員数
実人数カッコ内%
一般+経営
常勤 非常勤 訴願他 小計 常勤 非常勤 臨職他 小計 常勤 非常勤 臨職他 合 計
2000年度 715
i753)
49
i5.2)
!86
i19.6)
950
i100.0)
860
i29.4>
1,839
i62.9)
227
i7.8)
2,926
i100.0)
1,575
i40.6)
1,888
i48。7>
413
i1α7>
3,876
i100.0)
2008年度 667
i55.4>
224
i18.6)
313
i26.0)
!,204
i100.0)
952
i25.8)
2,204
i59.7)
537
i14.5)
3,693
i100.0)
1,619
i33.1)
2,428
i49,6)
850
i17.4)
4,897
i100.0)
2009年度 694
i47.8>
213
i14.7)
545
i37.5)
1,452
i10α0)
985
i26.1)
2,255
i59.8)
530
i14.1)
3,770
i100.0)
1,679
i32。2>
2,468
i47.3)
1,075
i20.6)
5,222
i100.0)
2010年度 739
i48ユ)
283
i18.4)
514
i33.5)
1,536
i100.0)
1,034
i27.6)
2,152
i57.4)
56!
i15.0)
3,747
i100。0)
1,773
i33.6)
2,435
i46.1)
1,075
i20.3)
5,283
i100,0)
2013年度 705
i41.7)
311
i18.4)
674
i39.9)
1,690
i100.0)
821
i20.9)
1,18!
i30,1)
1,925
i49.0)
3,927
i100.0)
1,526
i27.2)
!,492 i26.6)
2,599
i46.3>
5,617
i100.0)
出所:埼玉県社会福祉協議会「市町村社協組織及び事業の取り組みについて」(平成22年度版及び平成25 年度版)をもとに筆者作成。
表2 埼玉県内市町村社協の平均予算額
単位;千円
市社協 町村社協 市町村社協
A 予算額
@合 計
B内,市町村行政
ゥらの補助委託
B/A×100
@ (%)
2000年度 335,063 65,942 191,727 17,638,879 11,136,961 63.1
2008年度 484,809 116,803 322,486 22,896,489 11,058,450 48.3
2009年度 508,614 118,126 341,262 23,888,368 11,!97,323 46.9
2010年度 545,829 128,422 377,621 25,300,574 12,113,960 47.9
出所:埼玉県社会福祉協議会「市町村社協組織及び事業の取り組み状況について」(平成22年度版)をも とに筆者作成。
次に,2000年度からの10年間における埼玉県内の市町村社協の事業・組織を支える予算額の 推移をみる。2000年「介護保険」の導入は,市町村社協の財政構造を大きく変えて委託費や補 助金の比重低下と減少をもたらした。一口に社協といっても,その市町村の規模によっても予 算額は異なる。この表2では,市社協と町村社協を区分し,その予算額及び市町村行政からの 補助金・委託金の推移を捉えると,次のような点が判明する。この!0年間で県内市町村社協の 予算合計額も62億5千万円が増加し,(1)一市町村社協あたりの予算額は,2000年度の1億9,200 万円から2009年度3億4,100万円へと1.8倍に増えている。つまり,一社歯あたり9千万円の予 算増であり,年間1千万円程度の予算規模の拡大を意味し,それは合併に伴う社協数22の減少 を加味しても予算の拡大傾向が確認できる。(2)予算規模では平成の大合併の影響もあってか,
市社協が町村社協の2000年度で5.1倍であったのが,2009年度では4.3倍と縮小する傾向にある。
一21一
(3)予算額に占める市町村行政からの補助金・委託金の比率は,2000年度の63.1%からは大きく 落ち込み,2009年度には46.9%,その前後の年度をみても予算比率は4割台後半となっている が,近年社協に対する補助・委託の金額自体は微増が続いている。
社協の組織や財源は有限であり,かつ事業収入や委託金の使途には制約がある。市町村社協 の事業を全社協は,(1)地域福祉推進部門,、(2)福祉サービス利用支援部門,(3>在宅福祉サービス 部門,(4)法人運営部門に分類している。小地域活動を含む(1)地域福祉推進部門以外の3部門の 業務量拡大は,次に示すように今世紀に入って顕著である。2000年には県内65.2%の市町村社 協が介護保険事業に参入したが,2009年には87.1%,2011年以降は9割を超えるに至り,今や 介護保険事業収入のない社協は1割未満である。2006年度にスタートした地域包括支援セン ターの受託運営も,2009年の24.3%から2013年半は34.9%と実施率を上げている。また自立支 援給付事業等も,2009年の実施率が72.9%であり,支援費制度開始時2003年の66.3%よりも増 えるなど,介護保険事業を筆頭に社協は在宅サービス事業への参入を強めている。また社協に よる年間相談数も,2001年に1万7,872件であったのが,2010年には2万6,815件と10年間で1。5 倍に増えている。日常生活自立支援事業の契約数も,スタート問もない2000年の4件から2006 年度は182件に増加し,最近統計の取り方を換えて相談件数と実利用人数としたが,それぞれ 2010年度は2万712件,931名,2012年度には2万228件,1,020名を数えるなど,各市町村社協 の事業として拡大定着を遂げている。
(2)社協による小地域組織化活動
埼玉県内市町村社協の組織・財政・事業をめぐる推移を捉えてきた。ここでは先にみた全国 の市町村社協による実施状況を踏まえつつ,県内市町村社協の小地域活動への取り組みの推移 とトレンドを,平成の大合併前後を除いた2000年度と2009年度 さらに2009年からの最近5年 間のデータをもとに,以下の事業を検討する。つまり,組織面(①住民会員制度,②小地域福 祉活動推進組織)と活動面(③見守り・支援活動④ふれあい・いきいきサロン,⑤福祉委員),
そして⑥地域福祉活動計画の策定である(表3)(注17)。
地域に根ざした社協の事業や運営に必要な①住民会員制度は,全国の9割近い市町村社協が 実施していたが,埼玉県内では2000年に95.7%と高い実施率を示し,2006年からは全市町村で 実施されて現在に至っている。また②小地域福祉活動推進組織も,2000年に38.0%,2009年に は60.9%と,それぞれ全国平均を10%以上超える実施率を示し,2013年には65.1%と伸びをみ せている。これら小地域の組織面での事業は,全国平均を超える実施率であった。しかし活動 面をみると,③見守り・支援活動は,全国平均と類似の実施率であったし,④ふれあい・いき いきサロンでは,2000年に26.1%,10年目の2009年には71.9%と全国平均を下回るが,2013年 には77.8%と着実に実施社協は増加している。⑤福祉委員は2000年の50.0%が2009年には48.9%
と実施率をわずかに下げたが,それも最近の2013年では57.1%と実施社協が増えている。さら に⑥住民・民間の活動計画といわれる地域福祉活動計画も,2000年調査では計画策定の有無を 一22一
表3 埼玉県内市町村社協の事業実施率
実数カツコ内%
2000年 k92社協〕
2009年 k70社協〕
2010年 k67社協〕
2011年 k64社協〕
2012年 k63社協〕
2013年 k63社協〕
①住民会員制度 88(95.7) 70(100.0) 67(100.0) 64(100.0) 63(100.0) 63(100.0)
②小地域福祉活
@動推進組織 50(54.3)※ 41(58.6) 38(56.7) 39(60.9) 40(63.5) 4!(65.1)
③見守り・支援
@活動 56(60.9) 一( 一) 一( 一) 40(62.5) 44(69,8) 35(55.6)
④ふれあい・い
@きいきサロン 24(26ユ)※ 29(41.4) 41(61.2) 46(71.9) 49(77.8) 49(77.8)
⑤福祉委員 46(50.0)※ 34(48,6) 30(47.8) 35(54.7) 36(57.1) 36(57,1)
⑥地域福祉活動
@計画 33(35.9) 21(3α0) 21(31.3) 24(37.5) 25(39.7) 31(49.2)
⑦介護保険事業 60(65.2) 6!(87.1) 59(88.1) 58(90.6) 57(90.5) 57(90,5)
⑧地域包括支援
@センター 一( 一) 17(24.3) 20(29.9) 23(35.9) 2!(33.3) 22(34.9)
⑨住民参加型在宅
@福祉サービス 48(522) 39(55.7) 39(582) 38(59.4) 38(60.3) 36(57.1)
注1:※印は埼玉県社会福祉協議会「小地域福祉活動実態報告書」(2012年3月)のデータを使用している。
注2:2000年の地域福祉活動計画の数字は,計画策定済みの社協数であり,計画の期限が有効なものに 限らない。
注3=実数および%の数字記載がない事業は,当該年度の調査票に調査項目として設定されていない。
出所:埼玉県社会福祉協議会「市町村社協組織及び事業の取り組み状況について」(各年度版)をもとに 筆者作成。
尋ねているため比較は難しいが,最近の5年間では「期限が有効な計画」をもつ社協が,
30.0%から49.2%へと確実に増えている。これら市町村社協による各回地域事業の実施率と地 域福祉活動計画の策定状況からみる限り,ほぼ右肩上がりの推移を示していることが確認でき
る。
次いで社協規模に注目し,市・町・村別に社協の小地域活動への取り組みを検討していきた い。2013年の埼玉県の市社協数は40であり,町村社協数23のうち人口が2万人以上は1!町,!
万人台は9町 1万人未満は3町村となっている。小地域で住民参加を進める個々の社協事業 についていえば,一概に社協規模が大きいほど実施率が高いとはいえない。小地域活動の事業 化には,地域性や事業特性が重視されるし,市町村行政による社協への補助金や委託金の多寡 社協の取り組み姿勢が大きく影響するが,それでも社協規模を無視することはできない。そこ で市社協と町村社協に分けて,2000年(町・村別)・2009年・2013年の組織面では,全市町村 実施の住民会員制度を除いて①小地域福祉活動推進組織活動面では②見守り・支援活動③ 一23一
表4 埼玉県内社協(市町村別)事業の実施率
実数カッコ内%
2000年〔92社協〕 2013年目63社協〕
市〔43〕 町〔38〕 村〔11〕 市〔40〕 町村〔30〕 市〔40〕 町村〔23〕
①小地域福祉活
@動推進組織※ 35(81.4) 14(36.4) 1(9ユ) 28(70.0) 13(43.3) 31(77.5) !0(43.5)
1)
n区(支部)
ミ協の設置
27(62,8) 7(18,4) !(9.1) 25(62.5) 4(13.3) 25(62.5) 3(13.0)
︵内訳︶
2)
繼L以外の g織の設置
1(2.5) 0(0.0) 6(15.0) 1(4.3)
3)
存組織か ッ様の役割
牛s
8(18.6) 7(18.4) 0(0.0)
2(5.0) 9(30.0) 5(12.5) 7(30.4)
②見守り・支援
@活動※ 28(65.1) 22(579) 6(54.5) 一( 一) 一( 一) 24(60.0) 11(47.8)
③ふれあい・い
@きいきサロン※ 13(30.2) 8(21ユ) 3(27.3) 16(40.0) 13(433) 34(85.0) 15(65.2)
④福祉委員※ 19(44.2) 20(52.6) 7(63.6) 15(37.5) 19(63.3) 20(50.0) 16(69,6)
⑤地域福祉活動
@計画 21(44.8) 11(28.9) 1(9.1) 20(50.0) 1(3.3) 27(67.5) 4(17.4)
⑥介護保険事業 34(79.1) 2!(55,3) 5(45.5) 35(87.5) 26(86.7) 36(90.0) 20(37.0)
⑦地域包括支援
@センター 一( 一) 一( 一) 一( 一) 14(35.0) 3(10.0) !8(45.0) 4(17,4)
⑧住民参加型在
@宅福祉サービ
@ス
30(69.8) 13(342) 1(9ユ) 28(70.0) 11(36.7) 25(62.5) 11(47.8)
注1:※印の2000年は,埼玉県社会福祉協議会「小地域福祉活動実態報告書」(2000年3月)のデータ を使用している。
注2:2000年の地域福祉活動計画の数字は,計画策定済みの社協数であり,計画の期限が有効なものに 限らない。
注3:2009年・20!3年の埼玉県内の村社協は1村のみであり,町村を一括して集計した。
注4:小地域福祉活動推進組織に関する内訳のうち,2000年調査は2)と3)の選択肢が異なっている ため一括した。また2013年では4市町で複数回答されている。
注5;実数および%の数字記載がない事業は,当該年度の調査票に調査項目として設定されていない。
出所:埼玉県社会福祉協議会「市町村社協組織及び事業の取り組み状況について」(各年度版)をもと に筆者作成。
ふれあい・いきいきサロン,④福祉委員,そして⑤地域福祉活動計画の実施率を整理した(表 4)。この丁数年間ゆるやかに増え続けた小地域福祉活動推進組織を埼玉県社協は,1)地区(支 部)社協の設置 2)地区(支部)社協以外の組織設置 3)既存組織(自治会・町内会等)
が同様の役割遂行,に三区分している。この組織類型のうち1)地区(支部)社協の設置は,
市社協の設置率が町村社協より相当高く,最近5年では市社協で6割強,町村社協で1割強と 一24一
増減はないが,町社協による設置はいずれも人口3万人以上の自治体であり,一定の人口規模 が地区社協設置の要因となっている。また2)地区(支部)社協以外の組織設置は,まだ全体 的には少数だが,最近5年では市社協で1社協から6社協へと増加し,人口3万人台の一町社 協でも新規に設置されている。これら2つの組織類型では,市社協で町村社協よりも高い設置 率であったが,3)既存組織(自治会・町内会等)が同様の役割遂行を担う類型は,逆に町村 社協の設置率が市社協のそれを大きく上回っているほか,最近5年間では市社協も2市から5 市へと増加しているのも,社協による有効で現実的方策の選択として注目される。
次に,小地域事業の活動面から②見守り・支援活動,③ふれあい・いきいきサロン,④福祉 委員の実施率をみていく。要支援者を地域で支える住民の代表的活動である②見守り・支援活 動は,町村社協よりも市社協の実施率がやや高いとはいえ,2000年では市・町・村ともに半数 を超える社協が実施し,2005年には市社協および町村社協ともに7割台の実施率に達したが,
ここ数年は実施率が低下している。③ふれあい・いきいきサロンを実施する社協は,ほぼ一貫 して増加を続け,市社協と町村社協とで実施比率の高低に入れ替わりもあったが,2013年時点 では市社協が8割台半ばに達し,町村社協の65.2%を20%ほど引き離している。④福祉委員を 設置する社協は,2000年で市44.2%,町52。6%,村63.6%と,町村社協が市社協よりもかなり 高い実施率を示し,近年は実施社協も増えて2013年には町村社協の69.6%と7割近くに達した ほか,市社協でも半数が取り組む展開となっている。この人口規模で異なる事業実施率は,特 に⑤地域福祉活動計画の策定で顕著である。最近5年間の「期限が有効な計画」をもつ社協は,
2009年(市50.0%,町村3.3%),2013年(市67.5%,町村17.4%)と市町村ともに増加が著し いが,市社協の計画策定率は格段に高く,人口1万人未満の3町村社協には策定の経験がない。
まとめにかえて
ここまでの検討を踏まえ,埼玉県内の市町村社協の組織・事業の推移に注目しつつ,社協に よる小地域活動の推進課題に言及してまとめに代えたい。まず,社協の規模という点からいえ ば,小地域福祉活動推進組織や地域福祉活動計画,見守り・支援活動では市社協が町社協より も,そして町社協が村社協よりもそれぞれ高い実施率を示していた。逆に福祉委員を設置した り,小地域福祉活動推進組織のうち「既存組織(自治会・町内会等)が同様の役割遂行」を担 う類型の設置率は,町村社協が市社協よりも実施率が高かった。それは各事業の特性や社協職 員数を反映した数字には違いないが,都市部と農村部といった地域特性にも起因し,小地域活 動と地域性との関連性の強さを改めて示唆している。それと同時に,これら小地域事業の推移 からは,社協による有効で現実的方策の選択と決定が行われていることが読み取れる。
これら市町村社協の規模による事業実施率の差異は,小地域活動に限定されてはいない。最 近5年間の社協によるサービス事業の市・町村別の実施率をみても,介護保険事業は2009年(市 87.5%,町村86。7%)には8割台後半を超え,2013年(市90.0%,町村87.0%)にはさらに増え,
一25一
ともに高い類似の数値を示す事業もある。しかし,その一方で地域包括支援センターを受託運 営する社協は,2009年(市35.0%,町村10.0%)と20!3年(市45.0%,町村17.4%)と,市・
町村ともに増加してはいるが,市社協の実施率は町村社協よりも格段に高い。また埼玉県は,
社協運営型の住民参加型在宅福祉サービスが多い県として知られてきたが,その実施率も2009 年(市70.0%,町村36.7%),2013年(市62.5%,町村47.8%)といずれも市社協が高いが,近 年では町村社協も実施率を伸ばしている。このうち地域包括支援センターを受託運営している のは,2万人以上の3町社協,1万人台の1町社協,住民参加型在宅福祉サービスも2万人以 上の7町社協 1万人台の4町社協であるなど,ともに人口規模の比較的大きい町であり,1 万人未満の3町村社協による受託や実施はない。これら各種社協事業の実施状況からは,社協 規模が事業化に影響を及ぼしていること,さらに住民参加を核とした地域支援のみでなく,サー
ビス提供や個別支援を合わせた両輪として駆動する,現在の市町村社協の姿を鮮明に示してい る。社協が使命とする地域福祉の推進には,この現実を直視しつつも,住民参加とりわけ小地 域組織化をしっかりと埋め込んだ社協構想が不可避である。
この十数年を振り返ると,埼玉県内の市町村社協で働く職員は増えたが,その大半は非常勤・
臨時職員等であり,常勤で増えているのは主に経営事業職員のみであった。小地域の組織化を 担う常勤の一般事業職員は増員されず,社協の業務拡大が続くなかで,住民の参加や組織化と いう成果の見えにくい事業に,社協が大きな力を継続して注ぎ,その成果を挙げることが難し い局面が続いている。長いこと社協の総合力発揮は,市町村社協の基本課題とされてきたが,
多様なサービス提供や個別支援等の社協業務の拡大が続き,多様な雇用形態の職員が働く職場 で,小地域における住民参加や組織化を実現していくことは容易ではない。こうした厳しい市 町村社協を取り巻く環境のもとでも,埼玉県内の市町村単位でいえば,小地域事業の実施率の 緩やかな上昇傾向を確認できた。そこにはときに行政の要請があったにせよ,各市町村社協に よる事業実施の判断と決定があったことは見過ごせない。とはいえ住民参加の地域への浸透や 住民の福祉力の形成化には,単に社協事業の一つとして地域組織化を位置づけ,それを業務と して実施もしくは消化していくという姿勢では,住民の主体的な参加を引き出し,地域の福祉 力を高めて福祉コミュニティの形成につながるような成果は期待できない。
社協による小地域活動推進の隆路となっているのは,行政による補助金の減額,地域支援業 務を担う職員の削減や常勤率の低下といった事情だけではない。地域福祉の母胎ともいわれる 小地域事業の取り組みに,社協が本腰を入れるのに躊躇するのは,事業の成果に対する見通し の不透明さが一因している。それを払拭するには,何よりも社協組織としての意思統一を図り,
継続的な事業展開を可能にする明確な方針と構想を確定し,地域組織化の実践を支える論理と,
それを具体化するための方法が欠かせない。社協実践にとって合理的で,かつ住民の心をゆさ ぶり,行動化につなげるのは社協職員以外にはいない。このことは理念的には強調されても,
社協の実態との乖離は大きく,多くの社協が地域組織化を担当する職員の養成や確保する方策 を,十分には採り得ていない。言い古されてきたことだが,社協実践において地域で住民主体 一26一
の活動を引き出すのは,社協職員による息の長い住民・当事者への働きかけを続ける,住民参 加支援にあることだけは間違いない。
注
1 地域福祉の推進が遅滞する理由や事情については,拙稿「地域福祉の推進と共助の拡充」(立正 大学社会福祉学部紀要「人間と福祉」第28号,2014年)において言及しているので参照してほしい。
2 本稿では全社協が3年ごとに,市区町村社協の活動実態を明らかにする目的で実施している「市 区町村社協活動実態調査」結果を用いる。2003年度までは,全市区町村社協からの回答を得ていた が,その後の2006年度84.5%,2009年度91.6%,2012年度は65.6%と71.3%の回収率である。近年の 全社協よる調査は,全市区町村社協からの回答ではなく,どの程度それが全体像を正確に反映した ものか懸念がもたれるデータとなっている。
3 埼玉県社協が毎年実施している「市町村社協組織及び事業の取り組み状況等について」(平成12 年度〜平成25年度)各年齢の調査結果を中心に用いる。この埼玉県社協によるデータは,全市町村 社協からの回答を得て作成されている。
4 たとえば山口稔は,地域福祉の推進主体を①政策主体,②経営主体,③実践主体④運動主体 の4つに区分しているが,③実践主体には住民やボランティアを含めず,④運動主体のなかに活動 主体として含めている。これは従来の社会福祉の主体研究の文脈とは異なる見解といってよい(山 口論「地域福祉の推進主体」山口稔・山ロ尚子編著『地域福祉とソーシャルワーク実践〈理論編〉』
溶出房,2005年,pp.76−84)。
5 ちなみに『広辞苑(第六版)』から「推進」の文字を引くと,「おし進めること」と簡潔に記され ている。これを「地域福祉の推進」という文脈に即して考えれば,そこで推進・実施する中身が「地 域福祉」であり,そのために用いる手段についての限定はなく,それゆえに事業・サービス・活動 の企画・実施・運営を除くという意味合いもない,として理解することができる。
6 地域福祉の推進主体として地域住民を努力義務主体に措定したことは,特記に値する条文といえ よう。地域福祉時代にふさわしい規定とする言説が多いが,それは「いささか住民に対して権力的 とも言える」ものであり,!990年改正の社会福祉事業法の方が適切とする見解もある(栃本一三郎 「社会福祉法成立の思想的背景一10年を経ての遠近法」『社会福祉研究第108号』鉄道弘済会,20!0
年,p.37)。
7 社会福祉法第4条を根拠に,市町村は地域福祉の政策主体だが,推進主体ではない(金井利之「自 治体行政における地域福祉サービス」宮島洋・西村周三・京極高宣『社会保障と経済3社会サービ スと地域』東京大学出版会,2010年,p.227)という主張がある一方で,同法第4条および第6条 の規定は,地域福祉の推進主体を住民・事業者・行政の三者と明確にしている(上野谷加代子「地 域福祉の主体と対象」社会福祉学習双書編集委員会『地域福祉論一地域福祉理論と方法』全国社 会福祉協議会,2009年,pp.72−73)との見解もある。
8 澤井勝「地域福祉と自治体行政」大森彌編著『地域福祉を拓く 第4巻 地域福祉と自治体行政』
ぎょうせい,2002年,p.360
9 内藤辰美「縮む都市と地域福祉一変化する都市と地域福祉」橋本和孝・藤田弘夫・吉原直樹編『都 市社会計画の思想と展開』東信堂,2009年,p142
10 かつて厚生事務次官であった木村忠二郎(『社会福祉事業法の解説(改訂版)』時事通信社,1955 年,pp.166−167)によると,社協は特定の地域社会において公私の社会福祉事業関係者およびこれ に関心を持つものが中心となり,社会福祉を目的とする諸活動を総合調整したり機能化させる地域
一27一
社会組織化活動を行う団体であるとして解説している。「社会福祉事業法」では第74条に社協は規 定されていたが,「社会福祉を目的とする事業」項目に逐次追加が行われ,2000年の法改正前には 7つの事業が列挙されていた。
11 田中尚輝「ボランタリーセクターと公共性」牧里毎治・岡本栄一・高森敬久編著『自発的社会福 祉と地域福祉』ミネルヴァ書房,20!2年,p,34
12 塚口伍喜夫「21世紀の地域福祉を展望して」塚目伍喜夫・明路咲子編『地域福祉論説一地域福 祉の理論と実践をめぐって一』みらい,2006年,p.271
13 明路咲子「市町村社会福祉協議会が進める組織化活動の評価」塚口伍喜夫・岡部和夫・松澤賢治・
明路咲子・川崎順子編集『社協再生一社会福祉協議会の現状分析と新たな活路一』中央法規出版,
2010年,p30
14 コミュニティワークの中心には,常に参加が位置している。住民の参加支援や組織化は,素人や 事務的な業務として遂行できるものではない。それゆえに多くの地域福祉に関する著書は,ワーカー の資質や力量,専門性の決定的な重要性に言及している。
15 ここでの数字は,全国社会福祉協議会の「2003年市区町村社会福祉協議会活動実態調査報告書」
(2005年3月)及び「社協情報ノーマ」2010年3月号(No.235),4・5月号(No.236),8月号(No239),
2012年10・11月号(No261),2013年4・5月号(No.266)。なお「社協情報ノーマ」の数字は,20!0 年4・5月号(No.236)を除いて速報値である。
16 ここでのデータは,埼玉県社協による「市町村社協組織及び事業の取り組み状況等について」(平 成12年度〜平成25年度)各年盛を中心に,そこでは捉えられないものについては,埼玉県社協が 2000年代に入って発行した「小地域福祉活動実態報告書:」(平成12年3月,平成16年3月),その他 を使用した。なおデータ問で差異が発見される場合には,市町村別概況と照合などして適切と判断 される数字を用いた。
!7小地域福祉活動の呼称は,同一もしくは類似性の高い活動であっても,地域によって異なること が多い。ここでは埼玉県社協が使用している用語を用いたが,「小地域福祉活動推進組織」は「地 域福祉推進基礎組織」,「見守り・支援活動」は「小地域ネットワーク活動」という全国的な呼称と ほぼ同一内容である。
一28一