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ドイツにおける知 的財産権法特 に その海賊製 品防止 に関す る改正

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(1)

ドイツにおける知 的財産権法特 に その海賊製 品防止 に関す る改正

久 々湊 伸 一

1

,は じめに

2

,海賊製品防止措置 の必要性

3

,改正法 の構成

4

,海賊製品防止 関係 の改正規定

( 1 )

廃棄請求権

( 2 )

情報開示請求権

( 3)

水 際での差押手続 き

( 4)

罰則

( 5)

時効

5

,著作権法 におけるその他 の改正‑ 著作 隣接権 の保護期間

6

,実用新案法 におけ るその他 の改正

7,わが国の現行法 との対比

( a)

廃棄請求権

( b)

情報 開示請求権

( C)

水際措 置、

( d)

罰則

( e )

時効

(f) 著作隣接権 の保護期間 の延長。

( g)

実用新案権 の対象 の基本的変更

8

,むす び

1

(2)

2

4 1

3 号

1

′は じめに

本年

1 9 9 0

3

7

日に ドイツで は 「知的財産権

1 )

の保 護 強化及 び海賊 製 品

2)

防止 に関す る法律

」 3 )

が公布 され,

7

1

日か ら施行 されて いる

この法律 は

,1 9 8 8

1

1月 に成立 した英国 の

「 1 9 8 8

年著作権 ,意 匠 お よび特許 に関す る法律

」 4)

に次 ぐ知的財産権法 を一括 して改正 す る試 み と して興味深い。

特 に この法律 の改正点 は,

GATT

ウル グアイ ・ラウ ン ドの

TRIP 交渉 5 )

線 に沿 った もの と思 われ るが,直接 にはすで に ドイ ツ国内 に発効 してい る

EC

理事会規則

( EWG)

3 8 4 2 /8 6

6 )

の商標権 に関す る措置 を知 的財 産権 全般 に拡大 して不正商品すなわち この法律 で云 う海賊製 品の水際措置等 に関す る規 定 を した ものであ る

しか も重要 であると思 われ るのは,これ らの規定 の従 来 の知的財産権法 (特許法,実用新案法 ,意匠法 ,商標 法 ,著 作 権 法 ,半導 体保 護法7),品種保護法及 び不正競争防止法)全体 を通 じて調 査 し,海 賊 行為 の厳 しい現状 に対処す るため,すべてにおいて既存 の規定 の最 も強力 な措置 な い し はそれを越 え る改正並 びに新 たな措 置をすべての法律 にお いて実質 的 に同文 で 規定す るか,また は準用す る規定 を置 くことによ り,知的財産権 のす べ て に共

1)"

i nt e l l e c t ualpr ope r t y"

の用語は,公式には 「知的所有権」と訳 されて慣用 され て釆たが,"

i mmat e r i alpr ope r t y"

の語を 「無体財産権」 と訳 し

" i ndus t r i al pr ope r t y"

は 「工業所有権」と訳されたが,その内容を的確に表 していないきらい

がある。そこで排他権 としての民法上の有休の所有権から区別する意味からも

,

的財産権」の訳がより適切と思われ,近年使用され出してお り,論者 もこれを使用 することにした。

2 )" Produkt pi r at e r i e"の語は,正式には 「

製品海賊行為」 と訳すべきであり

,

賊製品」に対応する語は

" Pi r at e r i e pr odukt "であると思う。 しか し意訳するこ

とにした。商標法上は商品

( War e n)

,著作権法上 は複製物

( Ve r v i e l f al t i gungs ‑ s t 正c ke )

,特許法,実用新案法,意匠法上は所産

( Er ge bni s )

ということになる。

これらの上級概念として

" pr odukt "が使用されている。

3 )文献 1

参照。法律の略号はPr

PG

。条文の全体の仮訳 はA IPP I

日本部会月報 Vo

l

.3 5No.l l 1

貢以下参照。

4 )英文名は, " Copyi gbt ,De s i gnsandPat e nt sAc t 1 9 8 8 "

5)文献1

0

および

1

1参照。

6 )文献 5

参照

7)

ドイツの半導体保護法の解説については,文献

1 2

参照。

(3)

ドイツにおける知的財産権法特にその海賊製品防止に関する改正

3

通 の規定 を増加せ しめた点 にある。

この法律 の改正作業 は

,1 9 8 8

年 の 「海 賊製 品防止 に関す る連邦 政府 法律草 案」8)に遡 るが,上記 の

GATT

の線 に沿 った内容以外 に

,1 9 8 6

年 の実用新案 法 の改正 と

1 9 8 5

年 の著作権法 の改正 をそれぞれ更 に改正す る規定が追加 されて審 議が進 め られた。 その内容 がそれぞれ重要事項 にかんす るものである点 におい て も意義がある

すなわち著作権法で は隣接権 の保護期間を延長す るものであ り,実用新案法では,物品の形状等 の要件 をほとん ど完全 に撤廃 して,例 えば 化学物質 の発明 も実用新案 による保護が受 け られ るよ うに した ものである。

2 ′ 海賊製 品防止措置の必要性

海賊製品 の防止,特 に水際措置の必要性 はどこにあるか。

い くっかの理 由が挙 げ られ るが,まず技術革新 の加速化 とい う原因を調 べ て 見たい。 これは知的財産権 に共通す る問題であ るが,特 に著作権 についてその 影響 が多 い。 そ こには 「絶 えず技術革新 が法制度 の変革 を要求す る」 とい う問 題がある

しか しまた技術革新 は,著作権法 が主 として保護す る物 の外形 だけではな く, その内面性,物 の機能 につ いての複製能力 を増大せ しめたので,海賊行為 は物 の機能 につ いて も容易 とな る

外見 と内実 の両方 におけるコピー製品が市場 に おいて正 々堂 々 と取 引され る

オ リジナル製品の製造者 も海賊製造者 も同一 の オー トメー ション機構 を使 うと,全 く同一 の海賊製品が大量 に出来 ることにな コピー製品が外見 はそ っくりだが,その機能すなわち品質がオ リジナル よ り劣 っている場合 はまだよいのであるが,同一かあるいはよ り優 れてい る事 態 も発生す るのである。海賊製品の製造者 は,オ リジナル製造者が投入 した長年 の開発費や広告費を節約で きるわけであ るか ら,その費用 を技術改良の ための 開発費 に投入 して もオ リジナル製品 よ りもその価格 を下 げて競争で きる

怖 いのは,消費者が廉価で しか も質 のよいコピー製品で満足 して しま うこと

8 )

文献

2,4,6,7,8

,および

9

参照。

(4)

4

4 1

3号

である オ リジナル製造者が倒産すれば,過 当競争 を経て商品の消滅,生物種 の絶滅 にも似 た現象が起 るであろう 。

海賊製品の出現 は,‑ルベル ト・エー ・マイスターによれば,国際 的 な大掛 か りな組織 にあるとす る 。 9) すなわち麻薬 と同列 に置かれ るわけで あ る 。 米 国 の I TC ( 国際貿易委員会) は ,1 9 8 8 年 2 月 2 6 日に海賊製品 による損害 の報告 を している 米国の産業界が外国 における海賊製品 によって受 けた年間の損害 は ,4 3 0 ‑6 1 0 億 ドルに上 った 。1 9 8 6 年 では 2 3 8 億 ドルで あ った とい うことで あ る。特 に被害 の大 きな産業 は,科学用及 び写真用機器 ,コンピュー タ及 び ソフ トウェア産業,電子機器工業,医薬品および化学工業 であると して いる 。 侵害 国を列挙す ると,ブラジル,中国,イ ン ド,イ ン ドネシア,日本,メキシ コ,韓 国,台湾,および タイとい うことであ る 。 1 0 )

知的財産権 の性質 には国際性があ る 創作 された物 は,その内容が伝播 自由 になる 。 動産 は不動産 に対 して移動性 がある点で相違す るが,その動産 は貨物 として輸送可能 であ るとは言 え,電波 に乗 って伝播可能ではない。 いか にわが 国 に海 とい う明確 な国境があろうとも電波 による伝播 に対す る障壁 とはな りえ ない。

そ こで, EC 理事会規則第 3 8 4 2 /8 6 号 は規則制定の理 由を次 のよ うに述 べ た のであ る

「 違法 に標章 または商標を付 した商品‑ 以下 『 模造 商品』 とい う‑ を取 引に置 くことによって,法律 を遵守す る製造者 および取引者 に重大 の損害 が加 え られ消費者 は編 され る。 したが って このような商品 はで きるか ぎり共同体市 場 に導入 され るの を防止す る必要がある この目的で この遵法な慣行 の有効 な 防止 の措置を,しか もそれによって公正 かっ 自由な取 引を防 げ られず に,実行 しなければな らない。 この目的の設定 は,さ らに国際的平面 における規律正 し い努力 に合致す るものである。」

それを受 けて,この改正法の ドイツの立法者 は,立法理 由 として海賊製品 に

9 )

文献

9

5 6 0 頁。

1 0 )GRUR I nt . 1 9 8 8 S.4 5 6

(5)

ドイツにおける知的財産権法特にその海賊製品防止に関する改正 5 よる損害 の増大 を挙 げ,次 のよ うに述べてい る1 1 )0

「 著作権 および工業所有権 の標的的侵害,他人 の知的財産権 の営業 的 占奪, スローガ ン風 に海賊製品 と言 われているものが,近年世界的な規模で飛躍 的 に 増大 した。経済競争 においてすでに絶 えず発生 し極 く一般的 に意識的でない第 三者 の権利 の侵害 と共 に,狙 いを定めた職業的な大型 の模倣が出現す る。 犯行 者 は最初 はどち らか と言えばぜ いた く品の商標 とか表装 の コピーに限 っていた が,この新 しい海賊製品 は,今 日で は知的財産権 のあ らゆる保護対象 物 お よび 日常使用す る大量生産品に至 るあ らゆる領域 の商品 に拡大 した。海賊製品の規 模 は憂慮すべ き程度 にまで至 った 。1 9 8 7 年末,国際商工会議所 は,海賊製 品 に

よる取引の割合がすで に世界貿易の 4 ない し 5% を占めると推計 している。

この新型 の経済犯罪 の増大 の理 由は,多様である 主 な原因 は複製技術 の領 域 における発展である

すなわち商品,その包装 あるいは商標 を欺岡的 に類似 させて コピーす ること,書籍 を海賊版 として写真複写的に複製す る こと,音 楽 カセ ッ ト,ビデオテープ,映画 またはコンピュータ,プログラムを再 生 しまた は繊維 デザイ ンを模造す ることは,今 日の技術手段 によれ ば,概 して簡単 に, 廉価 にかつ到 る所で可能であ る とりわけコピーされ る製品 は市場 に普及 した ものであるか ら,知的財産権 の侵害 は開発費 と共 にまたは製品輸入の費用及 び 宣伝費 を節約す る 製品の入念 な製品 と品質 は一般的 には考慮 されない。 その か ぎりにおいて,かか る海賊製品 によ って‑ 全 くそれ程 の危 険 もな く‑ 得

られ る収益が さ らに高 い刺戟 となる 。

最後 に模造者 は,中小企業がその製品の保護 を少数 の国 に しか求め られ な い とい う事実を悪用す る 知的財産権の領域 において妥当す る属地主義 の原則 に 基づいて,知的財産権が存在 しない国 において は権利 を侵害す ることな く製 品 を製造 し販売す ることがで きる この商品 は,その後 しば しば ドイツ連邦共和 国 に輸入 され,ここで販売 され る 。 ドイツ国内 にはこれに対抗す る知的財産 権 が成立 しているに も拘 らず起 こるのである。」

l l )

文献

2

1 7 4

(6)

6

41

3 号

「商品の違法な模造 とコ ピーは,オ リジナルの製造者およびさ らには技術革 新的な中小企業 に損害 を与え る

安価 な模造品 によって国の内外で販売市場を 失 い,さ らに声望 も穀損 され る。 なぜな らば消費者 は模造製品の品質 の欠 陥 を オ リジナルの製造者 に転嫁す るか らである 。 費用 のかか る開発 と市場‑の導入 後直ちにコピーが生ず るとい う事態 は,技術革新 の意欲を喪失せ しめる。 費用 のかか る技術革新や独創的な製品が手 ごろな値段 の コピーの大量販売によって, その革新 を追求す る企業 よ り市場を奪 い,ひいては経済的存立 の危機 に追 いや ることにな りかねない。

消費的ではあるが重大 な作用を,この海賊製品 は,国内市場 に対 して も持 っ ているのであ る 。1 9 85 年 1 0 月 9 日の欧州議会 の外国貿易関係委員会 の報告 ( 文 書 A2 1 1 5 /8 5 ) によれば,第三国 よ り輸入 され る海賊製品 による職場 の喪失 は, 欧州共同体 において1 0 万件 と推計 され る 。 ドイツ連邦共和国 にか ぎって も,喪 失 した職場 は約 5 万 に上 る。

海賊製品 はさ らに消費者 に損害を与 え る なるほど消費者 はそれ と思 しきブ ラン ド商品を一部廉価で入手 で きる 。 しか し一般的 にオ リジナルに対 して質的 にかな り低下 した製品を掴 まされ ることになる 多 くの場合海賊製品 は,オ リ ジナルに劣 るだけでな く,公共 の安全性 および健全性 を害す るのである。」

「 知的財産権侵害 によって惹起 こされ るオ リジナルの製造者 と消費者 の損害 あるいは労働市場 および経済 の革新力 に対す る影響 は,結局 の ところ国民経済 に重大 な危険 を与 え る。」

3

.

改正法の構成

この法律 は 1 4 条か らな り,それぞれの表題 と項 目数 は以下 の通 りである。

第 1 条 商標法の改正 (9 項 目)

第 2条 著作権法の改正 ( 1 4項 目)

第 3 条 意 匠法 の改正 (4 項 目)

第 4 条 特許法の改正 (3 項 目)

第 5 条 実用新案法 の改正 ( 1 1 項 目)

(7)

ドイツにおける知的財産権法特 にその海賊製品防止 に関す る改正 7

第 6 条 半導体保護法 の改正 (3 項 目)

第 7 条 品種保護法 の改正 (9 項 目) 第 8 条 不正競争防止法の改正 ( 1 項 目) 第 9 条 裁判所構成法 の改正 (2 項 目) 第1 0 条 刑事訴訟法 の改正 (2 項 目)

第 1 1 条 特許庁および特許裁判所 の手数料 に関す る法律の改正 (2 項 目) 第1 2 条 経過規定 (3 項 目)

第1 3 条 ベル リン条項 ( 1 項 目) 第1 4 条 施行 日 ( 1 項 目)

4 ,海 賊 製 品 防止 関 係 の改 正 規 定 ( 1) 廃棄請求権

(Vernichtunganspruch)

従来 の廃棄請求権 に,民法第 1 00 4 条の過失 に関係 のない一般的な結果排 除請 求権 と同第2 49 条の現状回復 による損害賠償の観点 による過失 を要件 とす る排 除請求権 がある 。 知的財産権法 について言えば,商標法第30 条 による違 法標 章 排除請求権,著作権法第9 8 条の廃棄及 び類似 の処分 の請求権,意 匠法 第1 4 条 a

第 3 項 の規定があった。特許法 は,第 1 39 条第 1 項 において差止請求権 を規定 す るに止 まっていた。す なわち 「 第 9 条か ら第 1 3 条 までに違反 して特許発明を 実施 す る者 に対 して は,侵 害 を受 けた者 によ り差止請求 をす る こ とが で き

る。」

商標法第30 条 の排除請求権 によれば,「 第2 4 条 か ら第26 条 まで に規 定 す る理 由によ り ( 民事,刑事 の処分 の)宣告を した ときは,裁判所 は,宣告 を受 けた 当事者 の占有す る商品か ら違法 な表示 を除去すべ きことを命ず る この表示 を 除去す ることがで きないときは,その商品の廃棄 を命ず る。」

著作権法第98 条第 1 項 は , 被害者 は,遵法 に製作 されて違法 に頒布 され お

よび違法頒布 に定 め られたすべての複製物を廃棄す るよう請求す ることがで き

る」 と規定す る 意匠法第 1 4 条 a 第 3 項 は,この著作権法第98 条 の規定 を準 用

している。

(8)

♂ 商 学 討 究 第 4 1 巻 第 3 号

今回の改正 では,知的財産権全般 について原則 と して独立 の過失 に関係 のな い権利侵害 となる製品および もっぱ らかか る製品の製造 に使用 され る設備 の廃 棄請求権を認 めた ものである

商標法 は上述 の第30条が削除 され,差止請求権 および損害賠償請求権 を定 め る第 2 4 条 および第 2 5 条 のあ とに,第 2 5 条 a を挿入 して次 の通 り規 定 して い る ( 改正法第 1 条第 2 項 目)

「 第 2 5

a

( 1 ) 被害者 は,第 2 4 条及 び第 2 5 条 の場合 には,侵害者 の占有 また は所 有 に ある違法 に商標 を付 した目的物 を廃棄す るよ う請求す ることがで きる, ただ し権利侵害 によ って生ず る該 目的物 の状態を他 の方法 で排除す るこ とがで き,かつ廃棄が侵害者 または所有者 にとって個別的 に不相 当 で あ る場合 はこのか ぎりでない。

( 2 ) 第 1 項 の規定 は,侵害者 の所有 にあ り,もっぱ らまたはほ とん ど もっ ぱ ら違法 な商標 に利用 されまた はそ のた め に定 め られ た設備 に準 用 す る。」

特許法 は,改正法第 4 条第 1 項 目で第 1 4 0 条 の次 に第 1 4 0 条 a を挿入 して 同様 の規定 を している。商標法 の 「 違法 に商標を付 した目的物」が 「 特許の目的物」

に変わ っていることと,第 2 文 として 「 第 1 文 の規定 は特許 の目的物で あ る方 法 によ って直接製造 され る製品 に関す る場合 にもこれを適用す るもの とす る。」

を加 えた点が相違す る

実用新案法 は,改正法第

5

条第

9

項 目で,同様 の規定 を してお り,半導体保 護法 について は,改正法第 6 条第 2 項 目で,第 9 条第 2 項 に実用新案 法第 2 4 条

a

を準用す る規定を置 いている 品種保護法 については,改正法第 7 条第 5 項 目において,第37 条 a を新設 して同様 の規 定 を置 いて い る

特許法 にお いて

「 特許 の目的物である製品」 に対応 す る文言 は,それ ぞれ 「実用新案 の 目的物 である製品」 , 「侵害行為 の目的物であ る資料」 とな っている

著作権法 は,改正法第 2 条第 6 項 目で,第 9 8 条および第 9 9 条 を以下 の文言 に

変更 しているが,その内容 は上記各法 の規定 と同一である

(9)

ドイツにおける知的財産権法特 にその海賊製品防止 に関す る改正 9

「 第 9 8 条 複製物 の廃棄 または差止 に関す る請求権

( 1) 被害者 は,法律 に違反 して製造 され,頒布 されまたは遵 法 の頒 布 の用 に供 され る複製物で侵害者 の占有 また は所有 にあるものを廃棄す るよ う 請求す ることがで きる。

( 2 ) 第 1 項 に定 め る措置 に代 えて,被害者 は侵害者 の所有 にあ る複製物 を 製造費を越えない相当の補償金 と引換 えに引渡 す よ う請求す ることがで

きる 。

(3)

1

項 および第

2

項 による侵害者 または所有者 に対す る措置が個別的 に不相当であ り,権利侵害 に基づ く複製物 の状態 が他 の方法で排 除 され 得 る場合 には,被害者 はそのために必要 な措置 に関す る請求権 のみ有 す

第 9 9 条 装置の廃棄 または引渡請求権

第 9 8 条 の規定 は侵害者 の所有 にあ り,もっぱ らあるいはほとん ど もっぱ ら複製物 の遵法 な製造 に利用 され またはそのために定 め られた設備 に準用 す る。」

意匠法 について は,改正法第 3 条第 4 項 目において,第 1 4 条 a の第 3 項 に著 作権法第9 8条,第99条を準用す る規定を している

( 2) 情報開示請求権 ( Au s k u n f t s an s p r u c h )

明示の規定 はないが,知的財産権 に関す る情報開示請求権 は,裁判 所 が民 法 の一般原則 と慣習法 に従 って認 めていた とされ る 。 権利者が,権利侵害 の存在 を確実 に証明 し得 て もその侵害 の全容 を知 り得 ないのが,特 に知的財産権 に顕 著 な特徴 である 。 そ こで これを明確 に し,補強 し,あるいは濫用 防止 の措 置 を 定 めている

商標法 は,改正法第 1 条第 2 項 目において商標法第 2 5 条 b を新設 し,第 1 項 で次のよ うに情報開示請求権 の内容を定 めている。

「 営業上 の取 引において商品 またはその包装 あるいは広告,価格 表,業務

(10)

1 0

41

3 号

用書状,推薦状,計算書 また は同様 の ものに この法律 によ って保 護 され る商 標 を違法 に付 した者,あるいは,このよ うに違法 に商標を付 した商品 を取 引 に置 きまた は販売す る者 に対 して は,被害者 はこの商品の出所および販売経 路 に関す る情報 を遅滞な く開示す るよ う請求す ることがで きる,ただ しこれ が個別的 に不相当である場合 はこのか ぎりでない。」

第 2 項 によれば,更 に情報開示義務者 は , 「商品 の製造者,供給者 その他 の以 前 の占有者,営業上 の受取人 または注文者 の氏名 と住所」 および これに関 わ り のある商品の量 につ いで情報開示す る義務がある また権利侵害が明白な場合 は情報開示 の命令を仮処分手続で求 めることがで きる ( 第 3 項)。 開示 され た 情報 の利用 は,開示義務者 の同意 ある場合 にか ぎり刑事手続 き等 において利用 す ることがで きる ( 第

4

項)。開示請求 は改めて行 うこともで きる。

著作権法 についは,改正法第 2 条第 8 項 目にお いて,著 作権 法第1 01 条 a を 新設 して実質的に同一 の規定 を している。意匠法第 1 4 条 a は,この著作権 法第 1 01 条 a を準用 している ( 改正法第 3 条第 4 項 目)。特許法 第1 40 条 b ( 改正法 第 4 条第 1 項 目),実用新案法第2 4 条 b ( 改正法第 5 条第 9 項 目),品種保護法 第37 条 b ( 改正法第 7 条第 5 項 目) も同様 である 。 半導体保護法第 9 条 は,莱 用新案法第2 4 条 b を準用す るように改正 された ( 改正法第 6 条第 2 項 目)0

( 3) 水際での差押手続 き ( Gr e n z b e s c hl a gn ah me mb gl i c h k e i t )

水際措置 について は,既 に商標法 は1 968 年 1

2日の現行法第2 8 条 にお いて 規定を置いてお り,この規整 について は,この規定 に代わ って1 9 86 年 1 2

1 日 の関税法上 自由な取引における模造 商品 の移動禁 止措 置 に関す る理事会規定

( EWG) 第38 42/86 号 2 ) が EEC 加盟国 ドイツにおいて効力を有 して い る この規則 は商標法上模造商品の水際 における税関の差押,その差押期間の延長, 解除,管轄官庁 との 関係 などにつ いての詳細 な規定であ り,その詳細 な規 定 に おいて ドイツに対 し効力を有す る 。

1 2 ) 文献 3 参照。

(11)

ドイツにおける知的財産権法特にその海賊製品防止に関する改正 1 1 改正法 は,第 1 条第 5 項 目において,商標法第28 条 を変更 し,上記 EC 理 事 会規則が適用 されず,かつ管理侵害が明 白な場合 にか ぎって,税 関 に よ る差 押 に適用す る規定 を定 める ( 第 1 項)。第 2 項 は差押 申請人 の情 報 の開示 を定 め る

第 3 項 は差押 に対す る異議 申立が行 われないときの差押商品の没収を定 め る。差押商品の処分権者 の異議 申立 と申請人が異議 申立があ った ときの対応 を 定 める ( 第 4項) 。 また差押 の解除 ( 第 4項),処分権者 に対す る差押 によ る損 害を賠償す る義務 ( 第 5 項),申請 の有効期間 2 年 ( 第 6 項),差押 と没収 に関 す る不服 申立の手続 ( 第

7

項)がある 。

上記 EC 理事会規則第3 8 42 /8 6 号 に対す る本改正法 の意義 は,この水 際措 置 を商標法 に止 ま らず,知的財産権法 のすべてに同一内容 を もって拡大 した とこ ろにある。

著作権法 は第 1 11 条 a が追加 されて,上記商標法第2 8 条 の改正 規定 とその内 容が実質的に同一 の規定 を している ( 改正法第 2 条第1 3 項 目参 照)。 意 匠法 は 第 1 4 条 a の規定で著作権法第111 条 a の規定 を準用 してい る ( 改正 法 第 3 条 第 4 項 目参照) 。特許法 は第1 42 条 a ( 改正法第 4 条第 3 項 目参 照),実 用新案 法 は第25 条 a ( 改正法第 5 条第1 1 項 目参照),品種保護 法 は第40 条 a ( 改正法 第 7条第 9項 目参照)で商標法の規定 と実質的に同一の規定行 い,半導体保護 法 第 9 条第 2 項 は,実用新案法第25 条 a の規定を準用 している ( 改正法第 9 条第

2

項 目参照)0

( 4 ) 罰則

(Strafbestimmun9)

商標法 の罰則 は,驚 きを覚 え るところであるが,第25 条第 3項 で , 「6ケ月以 下 の禁鋼 または1 80 償金 日以下 の罰金 に処す る。」 ことにな っていた。 これ に対 し著作権法 は,単純罪 は 「 1年以下 の禁鍋 また は罰金」で ( 第 1 0 6 条),営業上 の不正利用 に対 しては ,「5 年以下の禁鏑 または罰金」 で あ った。 特 許 法 は単 純罪 のみでやは り 「1 年以下 の禁鍋 または罰金 」 であ った ( 第1 42 条第 1項)0 意 匠法 ( 第1 4 条),実用新案法 ( 第25 条) も同様である。

これに対 し,改正法 において は,不正競争防止法違反 の場合 (2 年以下 の禁

(12)

1 2

4 1

3 号

鏑 または罰金 ,改正法第 8 条 による第 4 条第 1 項 の変更) を除いて,単純 罪 は 一律 「3 年以下 の禁鏑 また は罰金」 に引上 げ られ,営業上 の取引による犯行 に 対 して は ,「5 年以下 の禁鏑 または罰金」 に引上 げ られ た ( 改正法 第 1 条 第 2

項 目による商標法第 2 5 条 a の新設,第 2 条第 1 0 項 目及 び第 1 1 項 目による著作権 法第 1 0 6 条 ない し第 1 0 8 条 および第 1 0 8 条 a の変更,第 3 条第 3 項 目によ る意 匠 法第 1 4 条 の変更,第 4 条第 1 項 目によ る特許 法第 1 4 0 条 a の挿入,第 5 条 第 1 0 項 目による実用新案法第 2 5 条 の変更 ,第 6 条第 3 項 目による半導体保護法 第 1 0 条 の変更,第 7 条第 7 項 目による品種保護法第 3 9 条 の変更)0

また未遂 を処罰で きることに した ( 各法対応条文 の第 3 項)。 親告罪 で あ る が,例外 も認 め る ( 同第 4 項)。没収 ( 第 5 項)及 び判 決 の公示 ( 第 6 項) を 定 める

( 5) 時効 ( Ve r j 呂h r u n g )

国際的な手続 においては,比較的短 かい時効 の完成が訴追 の障害 とな ってお り, ‑その期間を延長す ることによって ( 第 1 条第 2 項 目,第 2 条第 9 項 目,第 3条第 4 項 目,第 7条第 5項 目参照),特許法第 1 41 条 ,実用新案法第 2 4 条 第 3 項 および半導体保護法第 9 条第 2 項 の規定 との‑ ‑モナイゼ‑シ ョンを達成 し た。すなわち権利 の侵害を理 由 とす る請求権 は,権利者が侵害および義務者個 人を知 った時か ら3年 の時効 にかか り,また この知得 に関係 な く侵害 よ り3 0年 で時効 にかか る。民法第 8 5 2 条が準用 され,権利者 と義務者 との間 に履行 され るべ き損害賠償 につ いての交渉が行 われている場合 には,権利者 または義務者 の一方 が交渉 の継続 を拒否す るまで,時効 は中断す る 差止請求権 も,この 3 年 の時効 に服す る ( 民法第 1 9 8 条第 2 文)。著作権法上 の侵害製品の廃棄 または 引渡請求権 は時効 にかか らないとされていたが ( 旧法第 1 0 2 条第 2 項),廃 止 さ れた。

義務者が,権利者 の犠牲 において何 ものかを得 た ときは,時効完成 後 も不 当

利益返還 の規定 によ り返還義務 を負 う

(13)

ドイツにおける知的財産権法特 にその海賊製品防止 に関す る改正 7 3

5 ,著 作 権 法 にお け る そ の他 の改 正 ‑ 著作隣接権 の保護期間

海賊製 品防止法草案 の審議段階で,それ以外 の法改正 が追加 され,知 的財 産 権法 の傘 の中で成立 した。 この経験 は,改正事業 を この傘 の中で行 うことに よ り審議 に費 した時間の中でたゆみな く進 む技術革新 と国際環境 の変化 に応 じて 生ず る改正 を緊急 とす る問題,その必要性が明白にな った問題 を,審議 中 の改 正 に取込 む ことがで きることを明 らかに した。

(1)

学術的刊行 の保護期間の延長 ( 第 7 0 条)

著作権法上保護 されない著作物 あるいは原文 の刊行 は,それが学術的 な鑑 別 行為 の成果 をな し,本質的 にその著作物 または原文 のそれまで に知 られ た刊 行 物 と区別 され る場合 には,著作権法 によ って保護 され る。 この権利の保護 期 間

は原則 と して刊行 の時 よ り 1 0 年間である。 この権利 の重要性 が認識されて来て, 今回の改正法 によるその期間 は,刊行 の時 よ り 2 5 年 に延長 された。

( 2 ) 遺作 出版物 の保護期間の延長 ( 第 7 0 条)

また遺作 出版物 について与え られていた1 0 年 ( 発効後) の付加的な保護期間 が認 め られていたが ( 第 7 1 条),この期間 も 2 5 年 に延長 された。

( 3 ) 実演芸術家 の権利 の保護期間の延長 ( 第 8 2 条)

実演芸術家の実演が録画物例 えば ビデオまたは録音物 に収録 された とき,実 演芸術家 の権利 は,録画物 または録音物 の発行後 2 5 年間存続す ることとされて いた。今回の改正で 5 0 年 に延長 された。 これに対 し,実演 の企業的な主 催者 に 認 め られた権利 は,実演芸術家 と同様 2 5 年 の保護期間を与 え られて いたが,今 回の改正 では据置 きとな り,録画物 あるいは録音物 の発行 よ り 2 5 年間保 護 され

る。

しか し実演 の時か らそれぞれ 5 0 年 あるいは 2 5 年が経過 して も録画物 あるいは 録音物が発行 されないときは,これ らの権利 は実演 の時か らそれぞれ 5 0 年 あ る

いは 2 5 年で消滅す る

(14)

1 4

4 1

3 号 ( 4) 経過措置 ( 第 1 37 条 b ,第 1 3 67 条 C)

第70 条 ,第71 条 および第8 2 条 による保護期間 に関す る改正法 の規定 は,それ ぞれ特別 の経過措置を受 ける 。 第7 0 条及 び第71 条で保護 され る学術的刊行 およ び遺作著作物 の刊行であ って,この改正法 の施行 の日にその ときまでに効 力 を 有す る法律 によって存続 しているものに対 して延長 された期間が適用 され る

1 5 年間の延長 となる ( 第1 37 条 b 第 1 項)。 これ らの権利の譲渡あるいは利用権 の付加が行われて いる時 は,延長 の利益 はいずれの者 に生ず るか。契約 な どか ら明白でないときは,利用権 の付与 と譲渡 は延長 された期間 に及ぶ もの と して 取扱われ る ( 同第 2 項)0

実演芸術家の権利 につ いて は,改正法 の期間が延長 された権利が1 99 0 年 7

1 日以後 に行 われた実演 に対 して生ず る 。1 9 90 年 7

1 日以前 に行 われた実演 は,旧法 によって生 じた権利で はあるが,1 991 年 1

1 日の時点 で 旧法 の権 利 と して存続 している権利すなわち発行以来50 年 をまだ経過 していない ものにつ いて は,改正法を適用 して期間を計算す る ( 第 1 37 条 C 第 1 項)。利用権 の付与 あるいは譲渡 の場合の延長 された期間 の利益 を受 ける者 につ いての解釈規定は, 学術的刊行等 の場合 と同様であ る ( 同条第 2 項)。

6.実用新案法 におけるその他の改正

ドイツの実用新案法 は1 986 年 に全面 的に改正 されたが,その第 1 条第 1 項で, 実用新案法 の定義 を次 のよ うに行 って いる。「日常使用す る道具 若 し くは物 品 又 はその部品であ って,新 しい形状,配置,又 は回路 を有 し,進歩性 を具 え, かつ産業上利用す ることがて きるものは,この法律 に従 い実用新案法 を もって 保護 され る 。 」 ( 同項第 1 文)。更 に第 2 項 において は,実用新案 登録 の対象 か ら外す ものを列記 している。すなわち 「1 ,発見,学問上 の理論 及 び数学上 の 方法 ; 2,美学的な形態創作 ;3,知的活動,遊戯又 は営業活動 のため の計画,

ルール及 び方法,並 びにデータ処理装置のためのプログラム ;4 ,情報 の再現」

これに対 しこの改正法で は,上記 の第 1 条第 1 項 を,形体的な要件 を全 く廃

して発明の概念 に近づ けるべ く次 のよ うに改正 した。 す なわ ち , 「新 規 で,発

(15)

ドイツにおける知的財産権法特にその海賊製品防止に関する改正 1 5 明の段階 にあ りかつ産業上利用す ることがで きる発明 は,実用新案 と して保護 され る 。 」 と規定 された。 したが って化学物質や医薬 の発 明が実 用新案 にお い て登録可能 とな った。

また第 2 条 は,法政策上登録で きない実用新案 ( すなわち発明) を列 記 して いるが,旧法 の規定 は 「 1,その公表 または実施 が公 げの秩序又 は善良 の風 俗 に反す る恐 れのあ る対象 ;この違反 は,対象 の実施が法令 によ って禁止 され て いるとい う事実のみによ って導 き出されてはな らない。第 1 文 は,第 9 条 に該 当す る対象 に対 して実用新案 と しての登録排除す るもので はない。 2 ,植物 の 品種又 は動物 の種族」 とな って いた。改正法 において は,「方法」 を加 えて次 の通 り規定 している 。 「1 ,その公表 または利用が公 の秩 序 また は善良 の風俗 に遵反す る発明 ;かか る違反 は もっぱ ら発明の利用が法律 または行政規定によっ て禁 じられているとい う事実 のみか ら導 かれ ることはあ り得 ない。第 1文 は第

9 条 に該当す る発明に対す る保護 を排除す るものではない ; 2 ,植物 の品種 ま た は動物 の種 ; 3 ,方法」。方法 の発明を除外 した理 由 は,審査制度 のな い実 用新案 の保護 は具体的な表現が不可能 な ものに対 して は適当でないとい うもの である 。 旧法 ももちろん 「 方法」 を実用新案 の対象 と していなか ったのであ っ て,これ はその定義 が 「 新 しい形状,配置又 は回路」 を要件 と して いた ところ か ら明 らかである

7 ′わが国の現行法 との対比

以上 に示 した ドイツの海賊製品防止関連 の知的財産権法 の改正法をわが国の

現行法 と対比す ることは,わが国 の現行法 が現在 の国際的な状況 に対処 で きる

制度 を具えているか どうか, GATT ウルグアイ ・ラウ ン ドの TRIP 交渉 の

要求 を既 に満足 しているか どうか,またその要求 に答え るためにはどの点 を検

討 しなければな らないか とい うような問題が明 らかにな って くると同時 に,知

的財産権 とい う 1つの領域 に法制度 の無意味な差異が存在す るとすれば これを

修正 す る必要があることを検証す ることになる

(16)

1 6

41

3 号 ( a) 廃棄請求権

わが国 において は,特許法第 1 0 0 条第 2 項 が 「 特許権者又 は専 用実施権者 は, 前項 の規定 による請求 をす るに際 し,侵害の行為を組成 した物 ( 物 を生産 す る 方法の特許発明 にあ って は,侵害 の行為 により生 じた ものを含 む。) の廃棄 , 侵害の行為 に供 した設備 の除却 その他 の侵害 の予防 に必要 な行為 を請求す るこ とがで きる。」 と規定 して,廃棄請求権 を認 めて い る ( 実用新 案法第 2 7 条 ,意 匠法第 3 ウ条,商標法第 3 6 条参照)。著作権法 は,工業所有権法 を参考 に して改 正条文が作成 されてお り,第 1 1 2 条第 2 項で , 「 著作者,著作権者,出版権者 又 は著作隣接権者 は,前項 の規定 による請求 をす るに際 し,侵害 の行為 を組成 し た物,侵害 の行為 によって作成 された物又 はもっぱ ら侵害の行為 にされ た機械 若 しくは器具 の廃棄 その他 の侵害の停止又 は予防に必要 な措置を請求す ること

がで きる。」 と規定 してお り,この点 について既 に整備 されて い る

著作権 法 の根本的な改正 に際 して,工業所有権法 の規定 を参照 し実質的 に同一 の内容 と な っているので,この点で も問題 はない と思われ る。

( b)情報開示請求権

このよ うな権利 をわが国の知的財産権 は規定 していない。不法行為 における 英米法 と大陸法 との比較 において,三倍賠償,弁護士費用 の敗訴者負担 と共 に デ ィスカバ リーとい う英米法 における強力 な手段 は,大陸法 を継受 したわが国 の法構造 か ら相当の距離 があるもの と思 われ る

TRIP エ ンフォースメ ン トの情報開示請求権 に対す るわが国の対応 につ い て次のよ うな コメ ン トがある1 3 ) 0

「この規定が開示すべ きもの とす る第三者 の関与 の有無や第三者‑の頒布経 路 は,当該訴訟 の解決 には本来必要 のない情報であるので,この規定 は,民事 訴訟 を別訴準備 のための情報収集 の手段 として利用す ることを認 めよ うとす る

もの といわざるを得 ないが,このような機能 まで民事訴訟 に果 たさせ よ うとす

1 3 )

文献

1

1の

8 2 5

貢以下

(17)

ドイツにおける知的財産権法特にその海賊製品防止に関する改正 1 7 るのは,行 き過 ぎとい うべ きであろう。 わが国の民事訴訟 には,裁判 長 の釈 明 権 に関す る規定 ( 第1 2 7 条)が置かれているが,その釈 明 の対 象 は,当該訴 訟 の解決 に必要 な法律上 および事実上 の事項 に限定 されているので,わが国 と し て も, EC や米国の提案 には応ず ることがで きない ことになる。 」

しか し被害者が海賊製品 と見 た ものを,占有者が真正製品であることを証 明 し,かつ いかなる数量 を取扱 ったかを証明す るためには,その製 品 の取 引経 路 の情報を与 える外 に十分 な代替手段 はないよ うに思 われ る。 ドイツには,情 報 開示請求権 は明文 の規定 を持 たなか ったが,裁判所が形成 して認 めてい る もの であ り,これを リステー トメ ン トす る改正 とい うことがで き,わが国 と して は 特 に国際的な解決 の機会 の多 い知的財産権 の自国の利益 を少 な くともアジア地 域 において確保す るためには,まず 自 らこの情報開示請求権を認 める方 向で検 討すべ きではなか ろ うか。極東地域 においては大戦後英米法 の影響を受 ける諸 国が経済発展 している コピー製品で満足す る風調 は,終局的 には知的財産権 その ものの否定であ り,旧い中国やイ ン ドの思想であ って貧困 における平等 を 維持す るのみであ る

( C ) 水際措置

わが国の水際措置 は関税定率法 に基づ いて職権 によ って行 われている。知的 財産権 の権利者 の真正 によって税関が義務 と して行 う手続 きには,法改正 が必 要 となろ う 。 この改正 は,わが国 の国益 を阻害す るとは思われない。 もっと も 水際措置 の対象 を商標権 と著作権 に限定すべ きであるとす るカナダ,オー ス ト ラ リア等 の立場がわが国 の立場であるか, EC ,米国のよ うに知 的財産 権 の全 ての類型 に拡大 して差支 えないか どうか は,諸企業の利害を見極 めて決 すべ き であろう

( a )

罰則

わが国の著作権等侵害罪 は,昭和4 5 年 の制定 当時 は,「3 年以下 の懲役 また

は 30万円以下 の罰金 に処す る。」 となって いたのを,昭和5 9年 の改正 によ り,

(18)

1 8

41

3 号

「3 年以下 の懲役又 は 1 0 0 万円以下 の罰金 に処す る。」 と変更 され罰金刑が引 き 上 げ られ,この点 においてわが国が先行 して いる と言 うことが で きる ( 第 1 1 9 条)。 しか しその理 由は ドイツと比較 して著作権思想 が普及 して い る とい うこ

とで はな くて,一般的 に著作権思想が普及 していないに も拘 らず,技術革新 の 前線基地 と して常 に新 しい形式 の知的財産権侵害 を体験 し,これに対処 す るこ とを余儀無 くされた故 に急激 な外か らの ( 客観的事態 と しての)要請があ った ためである。特 に レコー ド・レンタルは顕著 な減少 として体験 し一応 の解決 を みたが,ビデオはその対抗措置を発見で きず苦慮 している

狭義 の工業所有権 について は, ・特許権及 び商標権侵害罪 が 5 年以下 の懲役 ま たは 5 0 万 円以下 の罰金 ( 特許法第 1 9 6 条 ,商標法第 7 8 条),実用新案 法 お よび意 匠権侵害罪が 3 年以下 の懲役 または 3 0 万円以下 の罰金である ( 実用新案法第 5 6 条,意匠法第 6 9 条)。商標権侵害罪 を除いて親告罪であ る ( 特許法第 1 9 6 条 第 3 項,実用新案法第 5 6 条第 3 項,意匠法第 6 9 条第 2 項 )。 不正 の 目的 を もって し た他人 の表示 の侵害行為等 につ き 3年以下 の懲役 または20万 円以下 の罰金 を規 定 している ( 不正競争防止法第 5 条) 。

ドイツの改正法 に示唆 されて知的財産権全体 を比較 してみ ると極 めて興味深 い。差異が顕 わにな った。特許権,商標権 の侵害が 5 年,実用新案権,意 匠権, 著作権 の侵害が 3 年 とい う差別 は, ドイツ改正法 における知的財産権全体 を通

じての同一化 とい う点 で これに反 しているが,単位 としての権利 を考えて その 経済的価値 を比較す ると一般的 に妥 当 しているよ うに考え られ る。 しか しそれ は懲役刑 につ いてだ けであ って,罰金刑 につ いて著作権が 1 0 0 万,特許権,商標 権が 5 0 万,実用新案権 と意匠権 が 3 0 万 とい うのは, ドイツ改正法 に見 るよ うな 統一化 あるいは調整 の対象 となるものである。知的財産権法の改正 を同時 にす

る場合 には,このような規定 の不均衡 を是正 で きるように思 え る

( e ) 時効

時効 については,知的財産権法 は規定を持 たず,民法の原則 によ る 。 不 法行

為 による損害賠償請求権 は,損害および加害者 を知 った時か ら 3 年 の時効 にか

(19)

ドイツにおける知的財産権法特 にその海賊製品防止 に関す る改正

1 9 か り,不法行為 の時 よ り 2 0 年で時効 にかか る ( 民法 第 7 2 4 条1 4 )ドイ ツにお け る

「 行為か ら 30 年」 とは差異がある。知的財産権法が共通の規定 によ る結果 とな り統一が 自ずか ら達成 されている 。

不当利得返還請求権 について は,債権 の消滅時効 の一般原則 に従 い ,1 0 年 の 時効 にかか ると解 されている ( 民法第1 67 条)0 1 5 )不法行為 の知得か ら3 年 の時 効 にかか った時点 では, ドイツと同一 の状態 になるが,更 に時間 を経 過 した時

は,異な って くる

( f ) 著作隣接権 の保護期間の延長

わが国の著作隣接権の保護期間 は平成元年 6月2 8日の改正 によ り 10 年か ら 30 年 に延長 された。 ドイツの 2 5 年 の期間 よ りも長 くな った期間 は 1 年 もなか った わけであ り ,5 0 年 と水をあけ られて しま った。

細か く見てゆ くと隣接権制度全体 について両者 に隔た りが出て来ている。 ド イツにおいて は実演芸術家の権利 のみを 5 0 年 に延長 しているのに,わが国では,

「 実演家,レコー ド製作者及 び放送機関の保護 に関す る国 際条約」 に関す る 3 種類 の権利を一様 に 10 年 よ り 30 年 に延長 している

また ドイツにおいて は,実 演芸術家 の権利 の外 に主催者 の権利があ って,この権利 は 2 5 年 に据置かれ る と

い うことにな った。

学術 の版 と遺作著作物 の版 に対 して,わが国 において は版面権 を検討 中で あ る 。 遺作著作物 の版が 10 年であ ったときは,それ程 の存在感 はな いが ,2 5 年 に 延長 されて見 ると,わが国の昭和4 5年 の著作権法が遺作著作物 を廃止 L 6 ) , 著作者死後 5 0 年 を経過 して発行 され る遺作著作物が現行法では保護 されな くなっ ている状態か ら大 きな隔 た りとな った 。 まだわが国の学術的な創作能力が西欧 に対 して低 いとい うことか。版面権が創設 され るときには,この点 もあ る程度 解消で きるか も知 れないが,権利者 の点で相違があるか ら,遺作 著作物 と版 面

とは白か ら別 の問題てあると思 う

1 4 )

文献

1 3

3 6 7

1 5 )

文献

1 3

371 頁

1 6 )

文献

1 4

46

貢以下 において批判 しておいた。

(20)

2 0

41

3

( g) 実用新案権 の対象 の基本的変更

実用新案法 の基本的な改正 が 1 9 8 6 年 に行 われたばか りであるが,これが更 に ここで根本的な改正 を経験 したわけである。 わが国の実用新案権 に近づ いた点 もあるが,基本的な相違 は依然 として存在す る

ドイ ツの実用新案制度 は無審査である また特許 出願 と同一の発明を登録維 持す る従属的実用新案登録 出願 も特徴であ る 。 わが国の実用新案登録出願 には

「 物 の形状等」 の要件が残 っているため,図面の提 出を必要条件 と して い るの に対 して, ドイツの今回の改正法 によれば,図面 を必須要件 とせず,特許 法 の 文言 と同一 に変更す ることによって図面の提出を相対的な もの と した。電気 の 配線図 と化学物質 の構造式 にいかな る本質的な相違 があるか はさだかでないが, わが国 の慣行 と して電気機器 は実用新案登録要件を具備 し,化学物質 は登録要 件がないとされ る。 これに対 し改正 ドイツ法が方法 を認 めないとい うの も論理

を突 きっめれば不明 となる。

9

む す び

知的財産権法 は全体 として改正 を行 う慣行がで きるとす ると,一方 にお いて 幾つかの利点 が示 され るが,また他方 において例えば総花的 にな って改正 の審 議が進 まない とい うことにで もなれば不便である 改正 の内容 によって単独法

の改正であ った り,全体的な改正であ った りして もよいであろう 。

わが国 において,このよ うな知的財産権全般 にわた る改正が成立す るか ど う かを考 えると, ドイツのよ うにたやす くは行かないように思 う

ドイツでは著作権法 も,工業所有権法 も,法務省草案か ら政府草案 を経過 し て成立す る 。 マ ックス ・ブランク研究所 の知的所有権部門が GRUR ( 国内版)

と GRUR INTERNATIONAL の 2 つの月刊誌 を発行 してい るが, この雑誌 を支え る協会 は,わが国 における国際工業所有権協会であ る AIPP

I の 日本部会 に相当 し,この ドイツの協会 は工業所有権 と著作権 を含 む。 ル ド

ル フ ・ニルクの 「 工業所有権法」 とい う教科書 は,

1

7 )第 1 部著 作権 法,第 2 部

1 7 )

文献

1 5 参照。

(21)

ドイ ツにおける知的財産権法特 にその海賊製品防止 に関す る改正

2 1 意匠法,第 3部特許法,第 4部実用新案法,第 5部競業法及 びカルテル法,第

6 部商標法 とな っている 。 また意匠法 は,その法律 の正式名称 で は , 「意 匠 お よびひな型 の著作権 に関す る法律 」1 8 )である 。 著作権管理団体 は, ドイ ツにお いては,その監督官庁が特許庁 にな っているところに も相違がある1 9 ) 0

ただ 1 つ確かな ことは,不正競争防止法 の重要性 を認識す るとき,立 法上 も 知的財産権法全般 が常 に検討 され,不正競争防止法がその傘 の中に入 る必要 が ある 。 不正競争防止法 は商標法 ばか りでな く著作権法 とも境界を接 してお り, 現 にわが国 において も,著作権法 の境界線上 にある問題が,不正 競争 防止法 の 一般条項 において解決 され るべ きところ,この一般条項がないため,裁判所 が 法 を創造 している事態が生 じている。換言すれば,不正競争防止法の分野 が立 法 の死角 とな っているのではなか ろ うか。 この点で も知的財産権法全体 の法的 観点が重要 にな って くると思われ る。

1 ,Ge s e t zz urSt ar kungde sSc hut z e sde sge i s t l ge nEi ge nt umsundz urBe kam‑

pf ungde rProdukt pi rat r i e( Pr PG ) v om 7.Mir z1 9 9 0,BGBII1 9 9 04 2 2 f f . 2,Ent wur fe i ne sGe s e t z e sz urBe kampf ungde rPr odukt pi r at r i eni tBe gr t i n‑

dung,St e l l ungnahmede sBunde s r at e s,Ge ge naGβe r ungde rBunde s r e gi e ‑ r ungz urSt e l l ungnahmede sBunde s r at e sundBe s c hl uβe mpf e hl ungundB e r i c htde sRe c ht s aus s c hus s e s( 6. Aus s c huβ)z ude n vonde rBdnde s r e gi e ‑ r unge i nge brauc ht e nEnt wur fe i ne sGe s e t z e sz urBe k' impf ungde rPr odukt ‑ pl r at e r i e,PMZ1 9 9 01 7 3 f f .

3,C1 ausDi e t r i c hAs e ndor f , Pr PG, NJW 1 9 9 0 S.1 2 8 3 f f .

4,St e l l ungnahmez um Re f e r e nt e ne nt wur fe i ne sGe s e t z e sz urBe kampf ung de rPr odukt pi r at e r i e

,

Mi t t e i l unge n ausde rDe ut s c he n Ve r e i nl gung f i i r ge we r bl i c he nRe c ht s s c hut zundUr he be r r e c ht ,GRUR1 9 8 9S.2 9 f f .

5,Eur opai s c heGe me i ns c haf t e n,Ve r or dnung ( EWG)N r .3 8 4 2 /8 6de sRat e s vom 1De z e mbe r1 9 8 6' dbe r Mas s nahme n z um Ve r bot de r Ube r f Ghr ung

I 1 8) Ge s e t zbe t r e f f e nd dasUr he be r r e c htan Mus t e r n und Mode l l e n v om ll Januar1 8 7 6( RGB

l

.S.l l )

1 9 )1 9 6 5 年 9

9

日の著作権 および隣接保護権 の管理 に関す る法律 第

1 8

条 第

1

項 ,第

2

条参照。

(22)

2 2 商 学 討 究 第 41 巻 第 3 号

nac hge ahmt e nWar e n i n de n zol l r e c ht l i c h f r e i e n Ve r ke hr , GRUR I n t . 1 9 8 7 S.9 8 f f .

6,Cant e rFr hr. Ⅴ. Gr av e nr e ut h, Ent wur fe i ne sGe s e t z e szurBe kampf ungde rP r odukt pi r at e r i e,Ei nhal fSc hr i t ti ndi er i c ht i geRi c ht ung?BB1 9 8 8 S.61 4

ff

.

7,Fr i e dr i c h‑ Adol fJahn, Mode r nePi r at e nPr odukt pi r at e r i eundi hr eBe kam‑

pf ung,WRP1 9 8 8 S.41 3f f .

8

,

Andr e asHar t i s c h und Ge r tNac he n

,

Pr odukt pi r at e r i ebe iunge pr i i f t e n Sc hut z r e c ht e n,WRP1 9 8 9 S. 1 f f .

9,He r be r t

E

, Me i s t e r, DasPh' inome nPr odukt pi r at e r i e, WRP1 9 8 9 S.5 5 9 f f . 1 0,土井輝生 「GATT と知的所有権の保護」貿易 と関税 1 9 9 0,2

4 4

頁以下。

l l,原優 「ガ ッ トのウルグアイ ・ラウン ドにおける TR IP 交渉 (ェンフォースメ ン ト) について」国際商事法務 1 8 巻 8

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