小売商葉形藩論の課題
‑ 業態変動のミクロ基礎 ‑
近藤 公彦 ( 小樽商科大学)
■要約( アブストラクト)
この論文の 目的 は、革新 と競争 とい うカギ概念 に注 目 しなが ら、小売商業形態論 の分析視 角 と その問題点 を議論 し、新 たな課題 を提示す るこ とで ある。小売商業形態論 は小売 の輪仮説以来、
小売商業 における業態変動 メカニズムの理論的解 明 を目標 としなが ら、抽象度の高 いマ クロ理論 を構 築 しようとして きた。 そこでは、小売企業 レベルの業態創造 と競争のプ ロセス を小売商業 レ ベルの業態変動 に集計化 ・一般化す る一方、小売企業 のそ う した ミクロ行動 はブ ラック ・ボ ック ス として捨象 され る。 しか し、わが国 におけ る大規模小売企業 の業態多様化 とい う現状 を踏 まえ た とき、 この ような分析視角 は大 きな問題 に直面す るこ とにな る。 この間題 を克服す るための小 売商業形態論 の新 たな展開の方向性 は、小売企業 の業 態創造 と競争のプ ロセス を明示的 に組 み込 んだ ミクロ基礎 を もつマ クロ理論 を確立す るこ とであ る。
Jキーワード
業態、革新、競争、市場、企業成長
Ⅰ.はじめに
近年、総合 スーパ ー を中心 とす る大規模 小売企業 が新業 態の開発 を積極 的 に進 めてい る。 ダイェ一 における‑ イパ ーマー ト、 コウ ズな どデ ィスカウ ン ト・ス トアの展開、 ジャ ス コによる大型 シ ョッピング ・セ ンターや食 品スーパ ーへ の取 り組 み、 あるいはマ イカル にお け るサ テ ィや ビブ レな どの新 百貨 店、
フ ァッシ ョン専門店の開発 はそ う した例 であ り、 そこで は小売市場 に対 して よ り高 い訴求 力 を もった新業態 を創造 し、成熟期 に達 した 既存業 態 を ドラステ ィックに転換す るこ とが 志向 されてい る。 この ような大規模小売企業
の業態開発 は、不断 に変化す る市場環境 の も とで業態の多様化 に新 たな成長機会 を兄 いだ そ うとす る動 きと捉 えるこ とがで きるだろ う ( 近藤 , 1 9 9 5 , pp. 5 0 ‑ 5 1 ) 0
一方、流通 ・ マーケテイング理論 において業 態の変動 を研究対象 として きたの は小売商業 形態論( 1 ) である。小売商業形態論 は小売商業 に お ける業態の生成 ・発展メカニズムの理論的 解 明 を共通の 目標 に据 えなが ら、 これ まで さ まざまな仮説 を提示 してきた 。Mc Nai r( 1 9 5 8 ) 、 Hol l ande r( 1 9 6 0 ) 、I z r ae l i ( 1 9 7 3 ) 、McNai r&
May( 1 9 7 6 ) 、Kaynak( 1 9 7 9 ) らに よる小売 の 輪仮説 、Hol l ande r( 1 9 6 6 ) の小売 ア コーデ ィ オ ン仮 説 、Ni e l s e n( 1 9 6 6) の真空地 帯仮 説、
Gi s t( 1 9 6 8)
やMa r o ni c k& Wal ke r( 1 9 7 8)
に‑ 44 ‑
よる弁証法仮説 、Dr e e s mann( 1 9 6 8 ) 、Mar ki n
& Dunc an( 1 9 8 1 ) 、Et gar( 1 9 8 4 ) らに代表 さ れる生態学仮説 、Da vi ds o ne tal . ( 1 9 7 6 ) の小 売 ライフサイクル仮説、そ して St e r n& El ‑ Ans ar y( 1 9 7 7 ) の危機 ‑変化仮説 な どはその 主要な諸仮説であ り、いまなおその現実適合 性 と理論の体系化 に向けて研究がつづ けられ ている領域である。
この論文の 目的は、小売商業形態論が業態 の生成 ・発展メカニズムをどの ような視角か ら分析 して きたのかを検討 し、わが国におけ る大規模小売企業の業態開発 を視野に入れな が ら、小売商業形態論の新たな課題 を示すこ とにある。ただ しそのさい、個 々の研究の議 論 と相互の関連づ けには深 く立 ち入 らない。
すでに小売商業形態論全般 にわたる詳細を文 献 レビューがなされているからであり( Br own , 1 9 8 7, 1 9 8 8 ;向山 , 1 9 8 5, 1 9 8 6 ;関根 , 1 9 8 5 ;白 石 , 1 9 8 7 ;小川 , 1 9 9 3 ;笹 川 , 1 9 9 4 ;坂 川 , 1 9 9 7 ) 、ここでは小売商業形態論が共有す るカ ギ概念 を抽 出 し、それにもとづ く業態変動メ カニズムの定式化様式 とその問題点 を考察す
ることに焦点 をあてる。
Ⅰ Ⅰ . 小売商業形態論の分析視角
Br own( 1 9 8 7 ) によれば、小売商業形態論 は 業態変動のメカニズムを明 らかに しようとす るさい、環境理論、循環理論、お よび対立理 論の 3 つの視点か らアプ ローチ して きた。環 境 理論 ( e nvi o r nme nt alt he or y) は生 態学仮 説 を中心 とす る もので、業 態の変動 は経済 的、人 口統計学的、社会的、文化的、法的、
お よび技術的条件 によって規定 され、 これ ら 環境諸条件 に適合 した業態が発展 してい くと みなす。循環理論 ( c yc l i c alt he or y) は小売の 輪仮説、小売アコーデ ィオ ン仮説、真空地帯
仮説、小売 ライフサイクル仮説などに共通す るアプ ローチであ り、業態の変動が歴史的に 同 じパ ターンで繰 り返 され、そこに規則性が み られ ることを強調す る。対立理論 ( c onf l i c t t he or y) は、革新的業態 と既存業態 との間の 競争的対立が新 たな革新的業態 をもた らすこ とに注 目す るもので、弁証法仮説、危機 一変 化仮説が これにあたる。
これ ら 3 つのアプ ローチは、業態変動の ど の側面 に着 目す るかについてそれぞれ異なる が、そのプ ロセスを次の ように理解す る点で は共通す る。すなわち、新業態は環境変化 に 適合 した革新的な経営手法 を採用す る革新者
によって創造 され、革新的小売企業 はそれを 業態の優位性 として模倣者 を巻 き込みつつ既 存業態 との間で競争 を展開 してい く。そ して この競争プ ロセスを通 じて小売商業 において 一定の地位 を確立 した とき、その業態は新業 態 として社会的に認知 され ることになる。
小川 ( 1 9 9 3, p. 2 3 4 ) は、こうした小売商業形 態論が暗黙的に次の ような仮定 をおいて きた ことを指摘 している。第 1 に、業態間お よび 業態内競争はそれぞれの業態の特徴 をもつ代 表的な店舗間競争 として表現 され ること、第 2 に、 一企業 は一業態のみを採用すること
(2)、 第 3 に、 業態変化 を価格 ・マージン、品揃 え、
商品 ・サービスの結合様式の変化 として捉 え ること、そ して第 4 に、業態変化 は国内市場 の要因のみによって発生 し、国家間で発生 し
うる業態の模倣、小売商業の資本移動、小売 商業 内 ・間のノウハウの移転 は考慮 されない
こと、である。
さらに小売商業形態論 には、 これ らの仮定 の もとで共有 されて きたカギ概念がある。そ れは革新 と競争である。小川の指摘す る第 1
と第 2 の仮定は小売競争 にかかわる側面であ
り、第 3と第 4の仮定は革新の要素 とその出
自にかかわる側面である。
1 .業態と革新
小売商業形態論では、小売商業 に新たな業 態が生成す るのは既存の小売商業 にない革新 が導入 され ることを通 じてであると考 える。
ここでの革新 は次の 2 つの点において重要で ある。第 1 は、その革新 とは何か という問題 であ り、小売商業 に変容 を引 き起 こす新業態 の革新の要素に関す るものであろ。第 2 は、
その革新者 は誰か という問題であ り、新業態 を創造す る革新者の出自にかかわる。
(1 )革新の要素 小売商業形態論 は革新 を 2 つの側面か ら捉 えて きた 。 1 つは店舗の立 地、規模、品揃 え、価格、サービス といった 小 売 ミ ッ ク ス 次 元 に お け る革 新 で あ る ( Mc Nai r, 1 9 5 8;Re gan, 1 9 6 4;Hol l ande r , 1 9 6 6;Ni e l s e n, 1 9 6 6;I z r ae l i, 1 9 7 3 ;矢作 , 1 9 8 1 ;中西 , 1 9 9 6 ) 。革新者 はこれ ら小売 ミッ クス要素の新たな結合様式 として新業態 を創 造す る。た とえば、郊外 に大規模店舗で立地 し、幅広 い品揃 えを行い、低価格 ・低サービ スで訴求す るデ ィスカウン ト・ス トアによる 革新 という捉 え方である。 もう 1 つの側面は 小売技術 ・管理次元 であ り(白石 , 1 9 8 7 ;石 原 , 1 9 9 3 ) 、百貨店の部門別管理、 総合スーパー の仕入れにおける本部集中管理 と販売 におけ る分権管理、多店舗展開 と店舗運営の標準化 な どが革新的な経営手法 として指摘 され る。
これ ら 2 つの次元で既存の小売商業 には存在 しなかった革新 をもた らした小売企業が業態 変動の担い手 となる。以下では、小売 ミック ス次元 と小売技術 ・管理次元の両者 を含 んだ 業態の様式 を業態フォーマ ッ トとよぶ ことに
しよう ( 3 ) 0
ところで、 この 2 つの革新の次元 は業態 を 定義す るさいに決定的に重要な役割 を果 た し ている。革新の要素 をどの ように理解す るか に よって識別 され る業態が決 まるか らで あ
る。 しか し、 この点について小売商業形態論 は統一的な了解 を得ているわけではない。た とえば、百貨店、専門店、 コンビニエ ンス ・ ス トア、デ ィスカウン ト・ス トア といった業 態は比較的容易 に識別可能であろうが、スー パー という業態 をとってみた場合、品揃 えの 違いか ら総合スーパー、食品スーパー、衣料 品スーパー、住関連スーパーなどに細分化す ることもで きる。 この ような業態の境界の確 定 につねに暖昧 さが ともなうのは、革新 をど の次元で捉 えるべ きかについて明確 な視座が 与えられてこなかったことによる。
この点 に関 して Br own( 1 9 8 7 , p . 27) は、
チェーンなどの組織形態 と業態の類型 とを混 同すべ きでない と主張す る。矢作 ( 1 9 8 1, p.
8 3 ) もまた、 業態は経営管理や経営組織 ではな く、店舗 ・販売形態の類型 として識別 される と述べている。 こうした指摘 は、業態の革新 性 が小売 ミックス次元 にあ り、業 態 は小売 ミックス要素の終合様式か ら識別 され ること を示唆 している。すなわち、小売 ミックス要 素の結合様式が革新的であ り、その革新性が 市場競争環境 によりよく適合す る場合 に、新 業態の優位性 が保証 され る と考 えるので あ
る。
ただ し、業態の識別基準 として留意すべ き ことは、新業態は小売 ミックス次元 における 何 らかの革新 な くしては成立 しえないが、そ れは必ず しも小売技術 ・管理次元の革新 をと もなうものではない という点である。た とえ ば、食料品を中心 とした最寄品 3 0 0 0 品 目程度 の品揃 えで近 隣 に立地 し、価格 訴求 は行 わ ず 、2 4 時間営業のサー ビス便宜性 を提供す る という小売 ミックス要素の結合様式か ら、 コ ンビニエ ンス ・ス トアを識別す ることは容易 である。 これに対 して、小売技術 ・管理次元 の革新 として指摘 され る多店舗展開 と店舗標 準化の条件 は、総合スーパーであって もコン
ー 4 6 ‑
どこエ ンス ・ス トアであって も満たされてお り、 この点では識別基準 とはな らない。 しか し同時に、わが国におけるコンビニエ ンス ・ ス トアの発展が きわめて高度な情報 ・物流 シ ステムの構 築 と不可分 であるこ とを考 えれ ば、そうした小売技術 ・管理次元の革新 もま た排除すべ きではないだろう( 4 ) 。 このことか ら、小売 ミックス次元の革新 は業態識別の必 要条件であ り、小売技術 ・管理次元の革新 は 十分条件 とみなすことがで きる。
( 2 ) 革新者の出自 革新的な業態の創 出を 通 じて小売商業 に変容 をもた らす革新者 は、
一般的にいえば、小売商業外部か らの新規参 入者 と内部の既存小売企業 とを想定す ること がで きるだろう( 5 ) 。 この革新者の出 自に関 し て小売商業形態論 はここで も統一的な理解 を もつわけではな く、それ を新規参入者 とす る 研究 ( Mc Nai r, 1 9 5 8;Hol l ande r, 1 9 6 0 ) 、新規 参入者 と既存企業の両者を含む研究 ( I z r ae l i , 1 9 7 3;Be r e ns, 1 9 8 0) とさまざまで あ る (向 山 , 1 9 8 6, pp. 2 8 ‑ 2 9 ) 0
こうした革新者の出 自に混乱がみ られ るの は、前述の業態の革新 をどの次元で捉 えるべ きか という問題 と密接 に関連 している。すな わ ち、革新 者 を新 規参 入者 とす る McNai r ( 1 9 5 8 )
やHol l ande r( 1 9 6 0) に とって、革新 は 従来の小売商業 に存在 しなかった業態フォー マ ッ トの新規性 において捉 えられ るものであ り、これに対 して 、I z r ae l i ( 1 9 7 3 ) 、Mar oni c k
& Wal ke r( 1 9 7 8 ) 、Be r e ns( 1 9 8 0 ) らは、新業 悲‑ の対抗 手段 として既存小売企業 が業 態 フォーマ ッ トを修正す るという競争的相互作 用 をも視野に入れて革新 を議論す る。前者の 場合、革新者の出自はより限定的であ り、後 者ではより広 く捉 えられることになる。
しか し、革新 を議論す るさいに、その主体 の出 自を明 らかに してお くことはきわめて重 要である。なぜ な ら小売商業外部か らの新規
参入者 による革新 と既存小売企業 による革新 では、革新 をもた らす条件が異なると考 えら れ るか らである。た とえば既存小売企業 によ る革新の場合、既存業態か らの経営資源の援 用 とい う点 で優 位 性 を もつ一 方 で (中野 , 1 9 7 6) 、業 態 固有 の取 引規範 ( nor m ofe x‑
c hange ) の制約か ら劣位 に立つか もしれない ( 小川 , 1 9 9 5 ) 。また新規参入企業 は既存小売企 業の 「 評判 」( r e put at i on) による参入障壁 に阻 まれた り( 成生 , 1 9 9 4 ) 、成長局面で資本調達 に 制約 を受けるか もしれない ( Be r e ns, 1 9 8 0 ) 0
先に指摘 したように、革新的小売企業 は小 売 ミックス次元の革新 を通 じて新業態 を創 出 す る。その新業態の革新性が既存業態 に対 し て優位性 をもつ ものであれば、多 くの模倣者
と対抗者 を生むであろう。そうした業態内 ・ 業態間の競争的相互作用のなかで、新業態 と 既存業態は不断に変化 を遂げてい く。セルフ サービス店か らスーパーマーケ ッ ト、セルフ サー ビス ・デ ィスカウン ト・テ
ンヾ‑ トメン ト ス トアを経て総合スーパーが誕生 し、 さらに 郊外型 シ ョッピングセ ンター、‑イパーマー ケ ッ トへ とつなが る展開は、 こうした業態の 変遷 と変容 に競争的相互作用が重要な役割 を 果 た して きたことを示唆 している( 6 ) 。対立理 論が定式化 しようとした業態変動のプ ロセス
は、 まさにこの点である。
この ようなプ ロセスを議論 しようとす るさ い、革新者 を新規参入者 に限定す ることは分 析 の視 野 を狭 め るこ とにつ なが る。それ ゆ え、業態変動のプ ロセス とそのメカニズムを 明 らかにす るためには、新規参入者 とともに 既存小売企業 による革新 を考慮 しなければな
らない。
2 . 業態と競争
小売競争は店舗の立地、規模、品揃 え、価
図 1 小売業態変化のモデル (1)
格、サー ビス といった小売 ミックス次元 で展 開 され る。 この意味で、個 々の店舗 は小売競 争の基本単位 である。小売商業形態論 におけ る競争の捉 え方 を検討す るさいに注意 しなけ ればな らないの は、小売 ミックスの意思決定 主体 が どの レベル に設定 されてい るか とい う 点で ある。 これ は競争単位 の集計水準 問題 に ほかな らない。
しか し、 この間題 もまた小売商業形態論 の 想定す る集計水準 は研究者 に よって異 な り、
またある特 定の研究 を とってみて も、 そ こで の集計水準 は ミクロ とマ ク ロが交錯 す る( 向 山 ,1 9 86, pp.1 9 ‑ 2 2) 。 た と え ば 、McNai r ( 1 9 5 8 ) 、Hol l ande r( 1 9 6 0 ) 、I z r ael i ( 1 97 3 ) らは 集計水準 を業態 レベル に設定す る点では一貫
してい るが 、Dr e e s mann( 1 96 8 )、Davi ds on e tal . ( 1 97 6) 、Be r e ns( 1 9 8 0) らは業態 レベル と企 業 レ ベ ル、 そ し て Re gan(1 9 6 4 )、
Hol l ande r( 1 9 6 6) 、Ni e l s e n( 1 9 6 6) らは業態、
企業、店舗の 3 つの レベルで議論す る。 もち ろん、業態、企業、店舗 それぞれの レベル で の競争のあ り方 を明確 に した うえでの議論 な らば 、3 つの集計水準 を風上 に乗せ るこ とそ れ 自体 はなん ら問題 で はない( 7 ) 。しか し、小売
出所 :小 川( 1 9 9 3 ) 、2 3 4 ページを修正.
商業形態論 はこの間題 を解決 しない まま、 た だ無 自覚 の うちにこれ らの集計水準 を代替的 に用 いて きたので ある。
小川 ( 1 9 9 3, p. 23 5) は、小売商業形態論 にお ける業態変化 モデル を図 1 の ように要約 し、
その集計 水準 と競 争 の捉 え方 を整 理 して い る。 このモデル において、店舗 はそれぞれの 業 態 の特 徴 を もつ代表 的店 舗 と して想 定 さ れ、小売競争 は業態間競争であれ業態 内競争 であれ、店舗 を単位 として展開 され る。 さら に前述 の一企業一業 態の仮定か ら、同一業態 内の競争 は店舗間競争で ある と同時 に企業 間 競争であ り、 この こ とは業 態間競争 について も同様 である。 そ して これ らの競争が集計化 され るこ とに よって業 態 レベル の競争が理解 され る。
小川 ( 1 9 9 3, pp. 2 3 4‑ 2 3 6) は こ う した小売商 業形態論 の捉 え方 を批判 的 に検討 し、業態 レ ベル、企業 レベル、店舗 レベル とい う競争の 階層性 を提起 して、各 レベルでの差別的優位 性 を議論す る必要が あ るこ とを主張す る。す なわち、店舗 レベルで は各店舗 は 自店舗 の存 続 ・成長のため に競合店舗 に対 してその店舗 独 自の差別的優位性 を獲得 ・維持 す る努力 を
‑ 4 8 ‑
図 2 小売業態変化のモデル (2)
行 い、企業 レベルでは各企業 は自社の経営資 源 を獲得 ・蓄積 ・利用す ることで差別的優位 性 を発揮 し、それを店舗 に反映 させ ることを 追求 し、そ して業態 レベルでは他業態に対す る差別的優位性が当該業態 を採用す る各店舗 で反映 され るとす る。 こうした各 レベル ごと の差別的優位性 を指摘 しつつ、小川 は小売商 業形態論の一企業一業態の仮定 をはず し、小 売企業成長の観点か ら図 2 の ような多業態小 売企業 を考慮 したモデル を提示す る。
小川が小売企業成長の観点か らモデルの組 み替 えを行 ったのは、一企業一業態の仮定 を はず したことの帰結である。特定の小売企業 が属す る業態は 1 つであるという小売商業形 態論の一企業一業態の仮定は、少な くともわ が国の大規模小売企業 を前提 とした場合、現 実的な妥当性 をもたない( 8 ) 。実際、ダイエー ・ グループやセゾン ・グループ といったわが国 を代表す る小売企業 グループの生成プ ロセス が示す ように、既存業態は新業態創 出の僻化 器の役割 を果た して きた。
小売商業形態論の理論的アイデ ンテ ィティ が業態の生成 ・発展メカニズムの解明にある か ぎり、 こうした既存小売企業の多業態性 を
出所 :小川 ( 1 9 9 3 ) 、2 3 8 ページを修正。
明示的に組み込んだ分析枠組みの構築が不可 欠である 。Ho l l a nd e r( 1 9 8 0, p. 8 1 ) も主張す る
ように、既存小売企業 による業態多様化 を考 慮すれば、小売商業形態論の集計水準の暖昧
さの問題 はより深刻 になるか らである。
以上の ような ミクロの業態多様化 とマクロ の業態変動 との関係 を検討す るには、市場 と 店舗、企業、業態 との対応 を整理 しておかな ければな らない。あらためてこれ らの対応関 係 に立 ち返 ることに しよう。
3 . 市場 と店舗、企業、業態
小売市場 には、消費者の所得水準、 ライフ スタイル、あるいは慣習などによって多様 な 選好が存在 し、 この選好分化か ら市場異質性
( ma r ke the t e r o ge ne i t y) が生 じる。特定の業 態 もまた特定の市場細分 を標的 とす るもので あ り、市場全体 にわたるすべての選好 を訴求 対象 とす るわけではない( 向山 , 1 9 8 6, p. 3 8;
矢作 , 1 9 8 1, p. 8 8 )
̀9' 。こうして一方で小売市場
に異質性が存在 し、他方で特定の市場細分 に
訴求す る業態が存在す る。そこで小売企業 は
この市場異質性 に もとづ いて市場 を細分化
図 3 業態 と市場
小売市場3
し、特定の業態 をもって特定の市場細分 に訴 求 し よ う とす るだ ろ う (近 藤 ,1 9 9 5 ,pp.
5 0 ‑ 51 ) 。図 3 はこの関係 を図示 した ものであ る。
図 3では、小売市場の縦方向の高低 は各市 場 における異質性の程度 をあらわ し、業態の 横方向の位置は各業態が直面す る各市場での 細分 を示 している。企業 1 の ように業態 A と い う単一業態のみに属 す る小売企業 で あれ ば、それに対応す る市場細分だけが訴求対象 となるにす ぎない。 しか し、企業 2 の ように 業態 B 、業態 C 、業態 D という 3 つの業態 を 有す る多業態小売企業の場合、 より多様 な市 場細分 とそれ らの市場細分 を集計化 したより 大規模 な市場 に訴求す ることがで きる。
こうした関係 を前提 とすれば、小売企業が 業態 を多様化す ることは次の 2 つの点か ら合 理的な行動であろう。第 1 に、業態多様化 に よって小売企業 は業態 ライフサイクルの制約 を突破 す る こ とが で き る ( 小 川 ,1 9 9 3 ,p.
2 37 ) 。業態に生成、発展、成熟、衰退 という
ライフサイクルがあるとすれば ( Da vi ds one t a 1 . ,1 9 7 6) 、単一の業 態 しか もたない小売企 業 はその業態のライフサイクル と運命 をとも
にせ ざるをえない。図 3 でいえば、その業態 が訴求 しうる市場細分が市場環境の変化 とと
もに消滅す る可能性 を秘めているのである。
小売企業が業態 ライフサイクル を乗 りこえ、
企業 としての存続 を確保す るために、新業態 の創造 に取 り組 もうとす る契機 が ここにあ る。第 2 に、業態 を多様化す るこ とによって 企業 レベルでの成長 をはか ることがで きる。
前述の ように、 もしある小売企業がそれぞれ 異なった市場細分 を標的 とす る複数の業態 を 有 しているな らば、業態の数 に応 じて多様 な 市場細分 に直面す ることを背景 に、単一業態 企業 に比べてその成長可能性 はより高 くなる
と考 えられ るか らである。
しか し、小売企業が業態多様化 により成長 の機会 を与 えられるとして も、それはあ くま で可能性で しかない。それを実現す るために は、業態の特徴 を反映 した店舗が競争力 をも
ー 50 ‑
つ ことが不可欠である。それゆえ新業態の優 位性 はまず、小売競争の基本単位である店舗 において発揮 されなければな らない。 ここで は、一方で業態 フォーセ ッ トの優位性が店舗 競争力の源泉であるとともに、他方で店舗競 争力が業態 フォーマ ッ トの優位性の基盤 をな す とい う相互 規 定 関係 が あ る。業 態 フ ォー マ ッ トの優位性 は店舗競争力 を通 じて発揮 さ れ、店舗競争力 が発揮 され て は じめ て業 態 フ ォーマ ッ トの優位性 が確 立 され るので あ る。逆 にいえば、店舗競争力がなければ、業 態 フ ォーマ ッ トの優位性 は保証 されず、 また 業態 フ ォーマ ッ トの優位性がなければ、店舗
は競争力 を失 うことになる。
以上 の ことか ら、小売商業形態論が等閑視 して きた競争単位の集計水準 は、業態展開の 主体である小売企業、店舗競争力 を基盤 とす る業態、そ して業態の優位性が反映 され る競 争の基本単位 としての店舗 とい う 3 つの レベ ルで捉 えることが必要である。
Ⅰ Ⅰ Ⅰ . 小売商業形態論の課題
これ まで指摘 して きたさまざまな問題 は結 局の ところ、小売商業形態論が既存業態 と市 場環境 との不適合が大 きくなると、革新者が その不適合 を埋め るかたちで新業態 を創 出す るとい う業態変動の必然性 を定式化す ること を目的 として きた とい う点に帰着す る。 しか し、 この ような定式化 は一方で、革新者の業 態創 造 と競争のプ ロセス それ 自体 をブ ラ ッ
ク ・ボ ックス とす る傾 向 を もた らす こ とに なった。すなわち、業態変動 を循環理論的に 説明す る場合で も、環境理論的に論 じる場合 で も、 あ るいは対 立 理論 的 に捉 え る場合 で も、小売商業形態論 は新業態 を生み出す革新 は どの ように して生 まれ るのか、競争はどの
ように して展開 され るのかを個別企業 レベル の ミクロ行動 に踏 み込んで理解す ることはな いのである。
しか し、 冒頭 にあげた大規模小売企業 によ る業態開発の取 り組みにみ られ るように、業 態の創造 は革新者 による文字 どお り 「 創造的 な」プ ロセスであって、決 して客観 的な市場 競争環境 によって外生的に規定 され るわけで もなければ、単なる受動的な環境適応行動 と して行われ るわけで もない。小売企業 が 自社 を取 り巻 く市場競争環境 の変化 をどの ように 解釈 し、訴求力の高い新業態のフォーマ ッ ト
をどの ように策定 し、 どの ように既存業態 と 競争す るかによって、マクロの業態変動の方 向性 も異 なるであろ う( 1 0 ) 。業態創造が「 消費者 の購買ニーズの新 たな切 り口を模索す る業態 フ ォーマ ッ トの構築プ ロセス」 ( 近藤 , 1 9 9 5 , p. 51 ) であるとすれば、 ミクロの小売企業 レ ベルの業態開発行動 を理解す ることな しに、
マ クロの業態変動 メカニズムに接近す ること はで きない。
したが って、小売商業形態論の課題 は何 よ りもまず、小売企業 レベルでの業態創造 と競 争のプ ロセスを明 らかにす ることによって、
業態変動の ミクロ基礎 を付与す ることでなけ ればな らない。
小売商業形態論 に ミクロ基礎 を付与す るさ
い、 これ までの議論 を踏 まえて次の視点が導
入 され るべ きであろ う。第 1 は、個別企業 レ
ベルの業態創造の分析 である。小売商業 にお
ける業態変動メカニズムをマクロ ・レベルで
解明す ることが小売商業形態論の主流 であっ
たが、一方で個別企業 レベルの分析 の必要性
を指 摘 す る研 究者 もい る。た とえば Sa vi t t
( 1 9 8 4, p. 4 3) は、小売の輪 に関す る理論化 の
ほ とん どが特定の状況 を検討せず に一般的な
観察 に もとづ いて きたことを批判 し、その仮
説がマネジ リアルな意味で価値 をもつべ きで
あるな らば、個別企業の意思決定状況 に位置 づ けられなければな らない と主張 している。
彼が個別企業 レベルの行動 に注 目す る背景 に あるのは、小売の輪仮説 をは じめ とす る小売 商業形態論が小売企業の実践 と行動 に有用な 洞察 を与 えることがで きなかったことへの反 省である。弁証法仮説 に代表 される対立理論 が示唆す るように、小売商業 における業態変 動が革新者の行動 とそれに対す る競争者の反 応 という相互作用的なプ ロセスを通 じて生 じ
るか ぎり、個別企業 レベルの詳細な分析が不 可欠である
(ll)0第 2 はこれに関連 して、小売競争論、 とく に差別的優位性 をめ ぐる理論 との統合 で あ る。 この点については、業態変動が差別的優 位性 を追求す る競争の産物であるという認識 の もとに、すでにい くつかの検討はなされて きてい る ( Dr e e s ma nn, 1 9 6 8;Hunt, 1 9 7 6;
Mar oni c k &Wal ke r, 1 9 7 8 ;小川 , 1 9 9 3 ) 。 し か し、 ここであらためてその必要性 を指摘す
るのは、店舗間競争、企業間競争、そ して業 態間競争 を議論す るさい、小売商業形態論 は 各 レベルでの競争様式の違いを考慮せずに競 争行為 を過度に一般化 し、そのプ ロセスをブ ラック ・ボックス として きたことに大 きな問 題が内在す るか らである。小売商業形態論が 競争行為の ミクロ ・レベルのプ ロセス ・ダイ ナ ミズムをもたない、その意味で静態的な理 解 に とどまってい るの は、 この点 にかかわ る。小売商業形態論 に業態変動の動態的な視 点を組み込むために、個別企業 ・店舗間の競 争プ ロセスを踏 まえた小売競争論 との統合が 必要 とされ るのである。
第 3 の視点は、歴史分析である。歴史的接 近の 1 つの 目的は、 ある事象 を経時的に追跡 す るこ とによって事象 の変化プ ロセス を記 述 ・分 析 す る こ と に あ る ( Sa vi t t ,1 9 8 0 , 1 9 8 2 ) 。小売商業形態論の枠組みにおける歴史
的接近 は、特定業態の経時的変遷の分析であ る。た とえば 、Buc kl i n( 1 9 8 3 )は百 貨 店、
Br own ( 1 9 9 0 ) は 倉 庫 型 店 舗 ( r e t ai l war e ho us e ) を事例 として、それぞれ業態の経 時的変遷 とその要因を検討 している。 こうし た業態変動‑の歴史的接近が示唆す るのは、
どの ような業態をとってみて も、そのフォー マ ッ トは不変ではな く、差別的優位性 を追求 す る競争プ ロセスのなかで経時的に変化す る という点である。 この ような業態フォーマ ッ トの修正 ・変更が どの ように して生 じるのか という問題 に焦点 をあてるさい、歴史分析 は 有効な方法である。
さらにここで強調 したいのは、業態一般の 変動ではな く、個別企業 レベル における特定 業態の経時的な生成 ・発展プ ロセスに注 目す る こ とで あ る。業 態 の創 造 が新 しい業 態 フォーマ ッ トの構築であるとすれば、それは Sc humpe t e r (1 9 2 6 ) の い う 企 業 家 ( e nt r e pr e ne u r )による革新 にほかな らない。
こうした革新 をもた らす企業家的行動がいか に して生 まれ、展開され るのかを個別企業 レ ベルで問 うことは、小売商業形態論 に動態的 な ミクロ基礎 を与えるうえで きわめて重要で ある。
Ⅰ Ⅴ. おわりに
小売商業形態論 は Mc Nai r( 1 9 5 8 ) の小売の 輪仮説以来、小売商業 における業態変動メカ ニズムの理論的解明をめ ぐって多 くの研究努 力 を注いで きた。 この論文では、革新 と競争 というカギ概念 を中心 として小売商業形態論 の分析視角 を検討 し、 その問題点 を指摘す る
とともに、わが国における大規模小売企業の 多業態性 に注 目しなが ら、い くつかの課題 を あげた。
‑ 5 2 ‑
小売商業形態論は ミクロの業態創造 と競争 プ ロセスをマクロの業態の生成 ・発展プ ロセ スに集計的に移 し替 え一般化す ることによっ て、業態変動の法則性 を明 らかに しようとし て きた。 こうした研究努力は業態変動のメカ ニズムを事後的に説明す ることに関 してはあ る程度 の成功 をお さめて きた といって もよ い。 しか し、一方で とくに新業態の生成局面 においてそれを事前に予測す ることにほ とん ど無力であった という事実は、 これ までの小 売商業形態論の分析視角の有効性 その ものに 再考 を迫 るものである。
こうした限界 を克服 し、小売商業形態論が 真の意味で業態変動のメカニズムを解明す る ためには、 これ までの抽象度の高いマクロ的 なアプ ローチを修正 し、個別小売企業の業態 創造 と競争のプ ロセスを組み込んだ ミクロ基 礎 をもつマクロ理論 を志向す ることが求め ら れ る( 1 2 ) 0
〔 謝辞〕
この論文 を作成す るにあた り、流通科学大学商学 部向山雅夫教授、 日本商業学会関西部会および北海 道部会の先生方
、I TS
研究会のメンバーの方々、なら びに 『流通研究』の匿名 レフ リーの先生方か ら貴重 なコメ ン トをいただ きました。記 して感謝いた しま す。) 王
(1) 小売業態の変動 に関す る研究は、小売発展、
小売制度体進化、小売制度体変遷、小売制度体 変化、小売営業形態展開、小売商業形態展開、
小売機関発展などさまざまな名称でよばれて き たが、 ここではそうした一連の研究 を小売商業 形態論 と総称す る。
(2)
後 に述べ るように、 この一仮定はきわめて大 き な問題 を含んでいる。小川( 1 9 93 )
は小売商業形 態論 に一企業一業態の仮定がおかれていることを示す根拠 を明 らかに していないが、それは次 の ように推測す ることがで きる。すなわち、 も
し既存の単一業態に属する小売企業が新業態を 創造す ることによって革新者 となるな らば、そ の革新的業態への転換が きわめて短期間に全店 舗 にお よぶ ドラステ ィックな ものでないか ぎ り、少な くともその間において複数の業態 をも つことが十分 あ りうるはずである。そ してその さい、単一業態企業 と多業態企業 とでは革新 と 競争のあ り方 も異なるだろう。 しか し、小売商 業形態論ではそうした多業態小売企業 による革 新 と競争に関す る検討はなされてこなかったの である。
(3)
中内( 1 9 91 )
はこれを事業 フォーマ ッ ト、福田( 1 9 9 4)
は小売フォーマ ッ トとよんでいる。(4)
矢作( 1 9 94 , pp . 1 3 ‑ 35)
は、小売業務、商品供 給、および組織 を流通イノベーシ ョンの3
要素 とし、そのシステム革新 を流通イノベーション と位置づ けている。(5)
さらにここでは議論 しないが、小川( 1 9 93 )
が 指摘するように国内 ・国外次元で革新者の出自 を問 うことも重要であろう。小売技術の国際移 転 問題 につ いて は、Kacke r( 1 9 88)
を参 照せ よ。 また矢作( 1 9 97 )
は、わが国における小売革 新の普及に経営者の人的ネ ッ トワークが強 く影 響 したことを論証 している。(6) わが国における小売業態の歴史的展開につい ては、矢作
( 1 9 81 )
、小山( 1 9 9 3)
、池尾( 1 9 9
7)を 参照せ よ。(7) 小売商業 において競争 をどの ように捉 えるか はきわめて重要な問題である。 この点について は、田村
( 1 9 8 2 , pp. 1 6 3 ‑1 9 4)
の議 論 を参 照せ よ。(8)
これは小売商業形態論がアメ リカにおける業 態変動の現実に目を向けて きたことによるもの であって、そ こで は一企業一業態が一般的で あった(矢作, 1 9 81 , pp. 41 ‑ 4 2)
。ここで強調 した いのは、小売商業形態論のそうした仮定が誤 り であることを指摘することではな く、わが国の 大規模小売企業の多業態性 を前提 とした とき、この仮定 を引 き継 ぐことはで きない という点で ある。
(9)
小売商業形態論 に関連づ ければ、 この ような 捉 え方は とくに循環理論 において特徴 的で あ る。たとえば、革新者が低 コス ト・低価格の新業態で小売業 に参入 し、やがて格上 げ
( t r adi ng up)
によって高 コス ト業 態 に移 っていくという小 売の輪仮説は、異なった市場細分‑の移行 を示 唆 した もの といえる。既存業態では特定の消費 者の選好が満たされない真空地帯 とい う潜在的 な市場細分が存在 し、そこに新 たな業態が生 ま れ るという真空地帯仮説の定式化 も同様 である。( 1 0 )
小売競争論では、競争の知覚 と戦略 との関係 に焦点 をあてた研究がある。た とえばGr i ps r ud
&
Gr
〆n ha ug( 1 9 8 5)
やGr i ps r ud( 1 9 8 6)
は知覚 された競争構造 と小売企業の戦略選択の相互関 係 に注 目し、Po r a ce ta
l.( 1 9 8 7 )
は小売環境 に 対す る理解の仕方が小売戦略に影響 をお よぼす ことを明 らかに している。 また消費市場の理解 と製品開発 あるいは事業創造 との関係 について は、石井( 1 9 9 3 )
の議論が示唆 にとむ。( l l)
この ようなアプ ロー チ に対 してHol l a nde r ( 1 9 8 6, pp. 5 ‑ 6 )
は、小売の輪仮説の洞察 は新業 態の一般的な市場参入パ ター ンにかかわるもの であ り、個別企業の品揃 え政策 はその小売企業 に特有の要因に求め られ るべ きであると述べて いる。 しか し、 ここで提示 したいのは、現象面 において小売企業が業態創造 と競争の主体 とし て どの ような行動 をとるかを個別企業 レベルで 詳細 に検討 しては じめて、小売商業形態論がカ ギ概念 として きた革新 と競争 に現実の コンテキ ス トを与 えることがで きるという視点である。( 1 2)
しか し、 ミクロ問題 をマ クロ理論 に組み込む 方法論 は、いまだ十分 に確立 されているわけでは ない。 業態変動の ミクロ基礎の構築 という研究 課題 においてこの点 をどの ように克服すべ きか は、あらためて問われるべ き重要な問題 である。‑ 参考 文献‑
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『流通 構造 と小売行動』千倉書房、1 0 7 ‑ 1 3 7
ページ。St e r n ,Loui sW. a nd Abe
llI . El ‑ Ans ar y ( 1 9 7 7 ) , Mar ke t i n gCh anne l s ,l s te d. ,Pr e nt i c e ‑ Hal l
. 田村正妃( 1 9 8 2 )
、 『流通産業大転換の時代』日本経済新聞社。
矢作敏行
( 1 9 8
1)、『現代小売商業の革新』日本経済新 聞社。矢作敏行
( 1 9 9 4 )
、『コンビニエ ンス ・ス トア ・システ ムの革新性』 日本経済新聞社。矢作敏行