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異次元緩和の効果

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Academic year: 2021

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異次元緩和の効果

著者 大坪 ピョートル寛彰

発行年 2019‑04‑11

その他のタイトル The Effect of Quantitative and Qualitative Monetary Easing

学位授与機関 明治学院大学

学位授与番号 32683甲第46号

URL http://hdl.handle.net/10723/00003562

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「異次元緩和の効果」

大坪 ピョートル寛彰氏

博士課程学位請求論文審査報告

大坪氏の学位請求論文は、異次元緩和の効果という題名のとおり、2013 年 4 月からの量的質的金融緩 和政策の効果を検証するものである。近年行われた「大胆な金融緩和」を中心に、バランスシートの拡 大を通じた非伝統的金融政策の(i)実体経済への効果、(ii)その波及経路、(iii)ゼロ金利下でのも う一つの景気刺激策である財政政策と比較した特徴という三点に注目して三つの推計を行っている。本 論文は四章構成となっており、第一章では、金融政策と財政政策の理論や歴史を概観する。第二章では、

本論文を作成するにあたってサーベイした金融政策と財政政策、TVP-VAR の先行研究をまとめる。第三 章では、本推計で用いた TVP-VAR の説明を行ったうえで、先に述べた三つの推計と分析を行う。最後に、

第四章では本論文によって得られた分析結果とインプリケーションをまとめている。

本論文は、特に三つの実証分析を中心として構成されている。一つ目の実証分析は、2001 年 3 月に導 入された量的緩和政策以降の非伝統的金融政策の効果と、波及経路を明らかにする推計である。その結 果、以下の五点が明らかになっている。①どの非伝統的金融政策期においても金融緩和ショックが GDP を増加させる効果が確認されたこと。②非伝統的金融政策の物価に対する効果が近年高まってきている こと。③非伝統的な金融緩和政策は株価の上昇と為替レートの減価を引き起こしていたこと。④非伝統 的な金融緩和政策は銀行貸出の増加に繋がっていないこと。⑤株価の上昇と為替レートの減価はポート フォリオ・リバランス・チャネルを通じて引き起こされたのかは不確実であることである。

二つ目の実証分析は、非伝統的金融政策における期待インフレ率を通じた効果の推計である。この推 計結果からは以下の四点が示されている。①包括緩和政策では、金融緩和ショックは期待インフレ率の 上昇を通じて為替レートの減価と株価の上昇を引き起こしていたこと。②包括緩和政策では、主に為替 レート・チャネルを通じて GDP を増加させていたこと。③量的・質的緩和政策では、マネタリーベース の期待インフレ率に対する影響が徐々に低下してきていること。④量的・質的緩和政策の導入と量的・

質的緩和政策の拡張では、資産チャネルと為替レート・チャネルを通じて GDP を増加させていたことで ある。

三つ目の実証分析は、もう一つの景気刺激策である財政政策の効果との比較を通じた推計である。三 つ目の推計結果からは以下の四点が示されている。①拡張的な財政政策のショックは、時間をかけずに 明確に GDP を押し上げるものの、その効果は半年ほどで消えてしまうこと。②拡張的な財政政策は物価 を低下させる効果があること。③非伝統的な金融緩和政策は、財政政策と比べると明確に GDP を増加さ

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せるまでに時間がかかるものの、GDP を持続的に押し上げること。④非伝統的な金融緩和政策は物価を 上昇させる効果が確認されたことである。これらの結果から、日本における非伝統的な金融緩和政策は、

物価を上昇させる効果があり、主に期待インフレ率の上昇(インフレ期待チャネル)による為替レート・

チャネルや資産チャネルを通じて GDP を増加させていたことが分かった。また、同じくゼロ金利下にお いても景気刺激効果を持つとされる財政政策と比較すると、非伝統的金融政策には即効性がないものの、

持続的に GDP を増加させる効果があることが明らかにされている。

これらの結果を受け、本論文では今後の日本の政策運営に関して具体的に以下の 3 点を述べている。

一つ目は、今後また量的緩和を行ったとしても中央銀行が一般的に期待する信用チャネルは機能しない 蓋然性が高いことである。日本ではこれまでに量的緩和を含んだ政策を三度行なってきた。一度目は量 的緩和政策、二度目は包括緩和政策、三度目は量的・質的緩和政策である。量的緩和政策に関しては、

多くの先行研究で金融緩和ショックは銀行貸出を増やさないという推計結果を得ていたものの、本推計 では包括緩和政策と量的・質的緩和政策においても金融緩和ショックは銀行貸出を増やさないという結 果を得た。これは、日本においては資金量を増加させたとしても信用チャネルが機能する環境ではない ことを意味している。そのため、今後同様の政策を行なったとしても機能する見込みはあまりないと考 えられる。二つ目は、今回行われたインフレターゲットを守ることが今後の物価に対する政策運営を行 ううえで重要であるということである。本推計では金融緩和ショックに対して、量的緩和政策期には物 価に明確な影響は見られなかったものの、包括緩和政策期と量的・質的緩和政策期では物価が有意に上 昇する効果が見られたこと、その効果は近年になるに連れて高まっていることが分かった。また、この ような結果を得た可能性として、量的緩和政策で時間軸の約束を一度守っていたこと、近年になるに従 い目標物価に対するコミットがより強力になってきていることを挙げた。本推計では明確にどちらが原 因であるとは言えないものの、今回の結果を得た原因がもし前者である場合は、2%のインフレターゲッ トを守らないまたは有耶無耶にすると今後の物価に対する政策運営に響く蓋然性が高いと考えられる。

三つ目は、GDP をより強く増加させたい場合は財政政策と金融政策を併用し、GDP と物価をともに適度に 押し上げたい場合は金融政策だけを用いたほうがベターだと考えられることである。上述の通り、三つ 目の推計結果からは(i)拡張的な財政政策は、非伝統的な金融緩和政策に比べると効果はすぐに消えて しまうものの、GDP に対して即効性があること、(ii)非伝統的な金融緩和政策は、拡張的な財政政策と 比較すると遅効性があるものの、持続的に GDP を増加させること、(iii)物価に負の影響を与えた拡張 的な財政政策とは異なり、非伝統的な金融緩和政策は物価を持続的に押し上げる効果が見られたことが 分かった。そのため、本推計結果に基づくと、景気を刺激する際にもし物価の上昇も目的とする場合は、

日本の環境では金融政策のみで政策運営を行う方が好ましいと言える。

本論文について審査委員会では以下のように評価する。

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研究テーマの適切性については、異次元緩和、または非伝統的金融政策の検証は社会的意義があり、

またその効果を明らかにすることが現行の政策だけでなく、外国や将来の金融政策を行う上で参考にな るため社会的な貢献は非常に大きい。また異次元緩和政策の効果を TVP-VAR で分析するのは学術的に意 義がある。問題意識も明確である。研究テーマに関する先行研究や関連研究に関する理解の適切性につ いては、多くの論文をサーベイし、適切なものを引用している。研究結果・結論に至る論証の適切性に ついては、本論文の論証は適切だが、理論モデルの構築や発展には至っていない。研究内容の独自性に ついては、組み合わせや使用するデータの改善などはみられたが、理論や実証の手法は、既存の論文を ベースにしたものである。理論モデルの構築や発展をすることで独自性も上がることが予想される。論 文の形式・体裁の適切性については特に問題なく、適切なものとなっている。知識の適切性については、

当該分野について数多くの論文をサーベイし、その基礎となる学問も習得してきている。また最後に特 記すべき事項として、本論文は、作成するにあたり学会をはじめ複数回外部で発表を行い修正を繰り返 している。さらに、5 本の論文をすでに出版し、そのうち 2 本は査読付きの学会誌であるということが あげられる。

所定の論文試験と口頭試問の結果を総合して以上のように評価した結果、審査員一同は大坪ピョート ル寛彰氏に対して明治学院大学博士(経済学)の称号を授与することを適切であると判断する。

2018 年 12 月 12 日 審査員

佐々木百合(主査)

高橋青天

室和伸

参照

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