言 語 比 較 と 英 語 発 音 の 教 授
北 村 正 司
言語 比較 と英語 発音 の教授
限定された時間内に︑学習者の進歩をできるだけ促進しようとする外国語の教授計画の編成においては︑外国語の
科学的分析と記述に基盤を置く教材の選択が第一の要件である︒次に考慮すべき重要な問題は︑このような教材の習
得にあたって︑学習者の母国語の習慣がどのような障害を与えるかということの研究である︒幼児は何等固定した言
語習慣を持っていないから︑両親や周囲の人々の発話を素直に模倣できる︒しかし︑母国語を学ぶ場合には事情は全
く異なってくる︒母国語に似た外国語の要素は︑学習に容易であろうし︑母国語と異なった要素は困難に感ずるであ
ろう︒したがって︑教師は外国語と母国語の比較によって︑学習上の問題点を洞察し教材編成に当らなければならな
︑Q周ユOωまーVを
↓ずo目oωけo臼oげ艮日讐o目壁尻母o窪80夢9胃Φぴ器&ロ"o昌簿ω90巨田o留o陰o比営δ口o出
( 1 ) o 費 Φ 貯 = ︽ 8 目 b 母 a 乱 夢 ㊤ ℃ 母 蝉 旨 巴 山 o の q 首 鉱 o 昌 o h 導 o ロ 9︒ 諏 く Φ 冨 昌 αq ロ 譜 o o h け げ o 冨 胃 ロ o 吋 . 夢 ① 置 づ 槻 ̀ 拶 oQ o 8 9 5 母 ロ Φ ユ 讐
991
といっている︒わが国の英語教育においては︑英語と日本語の科学的分析と記述に立脚し︑二つの言語体系を組織的
に比較して︑構造上の型に関する差異を学習の難易の角度から研究し︑本質的で適切な教材を編成することが必要で
ある︒このような教材は効果的な教授法を導き出し︑教授と学習の能率を高めるものと信ずる︒以上の趣旨からここ
では英語教授の諸領域のうち︑発音の分野において英語と日本語の比較を行い︑主要な学習の問題点を明かにしたい
( 2 )
と思う︒(1)Oげ櫛ユoのρ閏憶⑦ρ§§ミ鑓黛ミ亀ト§§§偽穿曳帖忠蕊魯さミ雪卜亀墓ミ噂や・㊤・
( 2 ) 日 英 両 語 の 発 音 と 文 法 を 比 較 し た も の と し て は ︑ 英 語 教 育 研 究 委 員 会 報 告 ( 研 究 社 ) 中 に ︑
庶 ミ § 馬 亀 亀 蓋 職 肉 這 詠 魯 が あ る ︒ 中 鳥 文 雄 氏 の 6 q § ミ 註 勉 O 蕊
一
英語と日本語の発音の比較は︑この二言語の音組織を構成する分節音素(ωo窟o巨巴嘗o器目o)と﹁かぶせ﹂音素
(ωξ旨ωΦ窟o暮巴旨言oヨΦ)について行われねばならない︒
英語の分節音素に関し日本の学習者が直面する問題点の所在をつきとめ︑これを記述するためには︑二言語につい
てそれぞれの分節音素表を作成し︑これを比較するのが効果的である︒ミシガソ大学英語研究所の寄象駄﹄ミミ
壽ミ翫§ミ鍵軌罫誉︑ミ§§曾ミ§︑吻(やQ︒)には次の日英両語分節音素比較表が掲げられている︒
この表の英語音素表記法は年帥①ωのもので︑そのほかに二重母音鳶く鳶口\\2\の三個がある︒つまり︑牢奮に
したがえば︑英語(いわゆるO窪¢邑ぎ︒ロ$")の分節音素は︑子音二四︑母音一一︑二重母音三計三八個がある︒こ
れに対して︑日本語の分節音素の数は︑はるかにすくない︒同研究所の日本語の分節音素表は︑厳密なものでなく︑
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言語 比較 と英 語発音 の教授
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幾 分 妥 協 を 行 っ た 実 際 的 な も の で あ る が ︑ 服 部 四 郎 博 士 は ︑ 日 本 語 ( 東 京 方 言 ) の 音 素 を 次 の よ う に 設 定 し て い る ︒
申 鴫 燗 隷 \ 劉 . ⁝ ぎ σq ⁝ 掌 ぴ ⁝ 計 Ω ⁝ p 8 ω ⁝ 鴇 脚 學 β 具
( 音 素 \ 咀 \ を 所 有 し な い 個 人 も あ る ︒ \ ︑\ は 服 部 博 士 が 最 初 ゼ ロ 子 音 音 素 ︑ 後 に 喉 頭 音 音 素 と 呼 ん だ も の ︒ )
糸 砲 環 囎 澱 ≧ 妻 \
鞄 蝋 蝋 澱 \ 舘 P 9ユ 吻 P 二 \
993
串 ー 唱 囎 素 \ 7 0 \ (\ 2 \ は い わ ゆ る ﹁ は ね る 音 ﹂ ︑ \ O \ は 同 じ く ﹁ つ ま る 音 ﹂ ) ( 市 河 三 喜 ︑ 服 部 四 郎 共 編 ﹁ 世 界 言 語 概 説 ﹂ 掌 H α ω ・) で \ 目 \ と 表 記 す る 学 者 も い る ︒ )
すなわち︑日本語には︑子音音素一五︑半母音素二︑母音音素五︑モーラ音素二計二四個の分節音素しかないわけ
で︑英語の分節音素三八個との対照から見ただけでも︑日本人の英語学習上の困難が示唆されるが︑それがどのよう
な問題点を構成するかを考察しなければならない︒ミシガソ大学英語研究所では前掲の日英両語音素表に立脚して予
想される日本人学習者の聴覚上の問題点を次のようにまとめている︒
10.9.8.7.6.5.4.5.2.1.
\ H \ ︑ \ α \ お よ び 無 気 音 の \ 什 \ と 混 同 さ れ る \ 一 \ ︒
こ \ と 混 同 さ れ る \ 一 \ ︒
\ ぴ \ と 混 同 さ れ る \ く \ ︒
\ d \ と 混 同 さ れ る \ 離 \ ︒
両 唇 子 音 の 前 以 外 の 音 節 の 末 尾 で \ ㊤ \ と 混 同 さ れ る \ 目 \ ︒
\ げ \ と 混 同 さ れ る \ 楠 \ ︒
\ o \ と 混 同 さ れ る \ o \ ︒
\ 凶 \ あ る い は \ 一 \ の 前 の \ け \ と 混 同 さ れ る \ α \ ︒
音 節 の 末 尾 の \ ㊤ \ と 混 同 さ れ る \ 昌 \ ︒
\ ", \ と 混 同 さ れ る \ 一 \ ︒
言語 比較 と英語発音 の教授
25.24.23.22.21.20.19.18.17.16.15。14.13.12.11.
\ 一 \ あ る い は \ 同 \ の 前 の \ 似 \ と 混 同 さ れ る \ の \ ︒
\ ⇔ \ と 混 同 さ れ る \ o \ ︒
母 音 で 分 割 さ れ る 同 じ 子 音 と 混 同 さ れ る 子 音 の 連 結 ︒
\ ω \ と 混 同 さ れ る \ ㊤ \ ︒
\ 一 \ の 前 の \ " \ た は \ N \ と 混 同 さ れ る \ 自 \ ︒
母 音 の 間 の 位 置 に お い て \ 燭 \ と 混 同 さ れ る \ O \ ︒ ﹁
\ N \ と 混 同 さ れ る \ 倒 \ ︒
\ " \ と 混 同 さ れ る \ 駆 \ ︒
\ 田 \ と 混 同 さ れ る \ 伺 \ ︒
\ 山 \ と 混 同 さ れ る \ H \ ︒
母 音 で 分 割 さ れ る 子 音 と 混 同 さ れ る 同 じ 子 音 の 連 結 ︒
\ 一 \ ま た は \ 同 \ の 前 で \ " \ と 混 同 さ れ る \ N \ ︒
\ 弱 \ と 混 同 さ れ る \ 8 \
母 音 で 分 割 さ れ る 子 音 と 混 同 さ れ る 同 じ 子 音 の 連 結 ︒
\ $ \ と 混 同 さ れ る \ o \ ︒ ( 21 と 24 に 同 じ 項 目 が あ る の は 問 題 作 成 の 順 序 を 示 す ︒ )
(↓げO菊Φω①曽目Oげωけ曽睡OhけゲO国昌oq賦ω犀U9ロ雅曽oqO一旨ωけ詳ロ冨℃頴無ミトミミ壽§鳳画Oざ尋︑ミ亀ミ題鴨⑦ミ亀偽ミ︑鉾喝.日9)
この表は聴覚テストの基準として︑主な問題点を列挙したものであるが︑変異音に関する問題点を補う必要があ
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る︒また調音の角度から見れば︑もちろん他に考慮しなければならぬ問題が存在する︒それで次にこれらを総合し︑9いわゆる標準米語を比較の対象として考慮を進めてみよう︒音素表記法は主として甲奮に従うことにする︒
L日本語音素の剛型性に基因する問題点
英語の分節音素の数は日本語よりはるかに多いから︑英語の二個またはそれ以上の音素が︑日本語では一個の音素
に入ることが予想される︒このような場合の学習の困難さについて︑H巴︒は次のように述べている︒
ω↓讐o画ヨ目08αqΦロ9巴けΦ目目μ≦ゲoロo昌oω齢巳自8日梓口巳幹990BΦ馨言野Φロ9鉱くo冨昌磐90q①
け零oω赫巳ゆ$暮ロ巳$ぎ夢o♂邑皿αq昌冨昌αqロ90qΦ毒oゴ曽くoヨ9凶日口B冨跨巳昌σqα一曲o巳身●
(ピぎ豊一ω訟$碧﹃盆のO巳ε↓oω・℃﹂9) Φρロ彗oωげ罠ロ磐巴ぐ毒詳げ
この観察は発音の問題だけではなく︑語彙︑文法の問題にもあてはまるわけであるが︑これを発音上から見れば︑
母国語の一音素が︑外国語の二音素に等しいという関係が二言語間に存在するとき︑学習上の困難は最大であるとい
う結論になる︒分節音素に関しては︑日本語が一型組織(()昌Φ弓簿け什O円口Pω団ωけ①邑P)を取り︑英語が二型組織(↓ぎ弓9︒マ
8旨ω器8旨)を取っている場合がすくなくない︒たとえば︑日本語の\幽\の一音素に対して︑英語ではげ︒鼻げ詳の
\一\\一\の二音素の対立がある︒この二音素は音質の差で区別されるもので︑\一\は\くより︑ほとんどの場合
長く発音されるが︑長さはこの二音素の決定要件ではない︒一方︑日本語においては︑母音の長短が意味を区別す
る︒もっとも︑日本語の長母音は︑音素論的に見れば︑前の母音をもう一度くりかえしたにすぎないのであるが︑
﹁オバサソ﹂か﹁オパーサソ﹂かは母音の長短で決定するのであるから︑その対立は重要である︒この言語習慣か
ら︑日本人はたいてい\一\\一\を二音素の長さで識別しようとし︑また\凶\の方が普通長く発音されるため︑識
鞠
言語比較 と英語 発音 の教授
別できる場合が多い︒ミシガン聴覚テストの缶①︑ωαq︒ぼ︒q8冠碧9と国⑦︑ωαq︒冒︒q8豪ρの差異を聞き分ける問題につ
いて実験してみると︑誤謬はほとんど皆無に近いことがわかる︒しかし︑このように長さの差によって識別しようと
する努力は必ずしも成功するとはかぎらない︒同じく︑ミシガソ聴覚テストの↓冨目き葺旨︒9騨と↓げΦ巳き
び︒讐ひ︒臥︒㎎について実験してみたところ︑前の問題の正解者の三割までが失敗した例がある︒英語の母音の長さは
その音声環境によって変化し︑無声子音の前に来る場合は有声子音の前に来る場合より短くなるが︑後の問題におい
てはげ$けのこ\が後続の無声子音\↓\の影響によって短く発音されるため︑混同が生じたものと考えられる︒
これを要するに︑多くの場合\一\と\くの対立は︑日本の学習者には識別上の問題点とならないが︑学習者はそ
の識別を長さという非音素的特性を通して行うことが多いという事実に留意し︑音素的特性である音質を認知するよ
う指導する必要がある︒
識別の場合とは異って︑\凶\と\図\を対立して発音することは︑日本の学習者には極めて大きな問題点を構成
する︒長さの差によってこの二音素を区別するように発音すれば︑音質の差が欠如しているから︑英語国民を混乱さ
せる︒それで音質を区別して調音することが重要であるが︑両者のうち\一\は[イ]によく似た音であるから︑問
題点は\一\の方に存在する︒\一\は\一\より舌とあごの位置が少し低く弛緩した母音である︒この音は日本語
にないため︑[イ]を転用し混乱を生ずる傾向は著しいものがある︒ある英語教育講習会においても︑当時上映中の
米画の題名︑︑一ミ碧け8こく①︑︑を.︑一類9暮8H$︿①..と発音し︑米人講師に混同を与えた人々があったくらいで︑学習
者にはむずかしい音である︒また︑\一\の調音指導においては︑\・\との混同が学習者に生じやすいことにも注意
しなければならない︒日本語の調音点と比較すると︑\H\の舌とあごの位置は[イ]と[エ]の中間である︒その
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音色も場合によっては日本人の耳には[エ]のように聞える︒たとえば︑弓言が需ロのように聞えるから︑学習者は舌を弛緩し︑\一\よりも舌を下げることに注意を集中する間に\H\が\・\になることも珍しくはない︒このよ
うな事情であるから︑以上の三音素については︑特に集中的な練習を積むことが大切である︒
\一\と\一\の対立と似てはいるが︑調音上さらに複雑な問題点を構成するものに︑り8r宕コの母音\β\と
\¢\の対立がある︒識別上は︑前者が普通長く発音されるので︑\一\\一\の場合と同様に︑学習者はこの非音素
的特性を通して二音素を聞き分けようとする︒その結果音質の差を認知する努力に欠け︑調音上の困難の解決を遅ら
す傾向が強い︒日本語の[ウ]は\鎚\より舌の位置はずっと前方であって唇の円めも普通ない︒このように唇を使
うのを一般に避けるのは日本語の調音的特性である︒また舌の中央部を使うことが多いのもその特性である︒この言
語習慣から考察すれば︑英語の\q\は唇を円くし︑かつ突出し調音域をずっと[ウ]よりも後方にするのであるか
ら︑その調音は日本の学習者に大きな困難を与えることが予知される︒\d\は\ロ\より舌の位置がすこし低く︑
弛緩した母音で︑\q\とは音質が異なる︒また唇はすこし円められる︒この音を発する場合の筋肉の弛緩は日
( 1 ) 本 人 に 不 得 手 な こ と が 多 く ︑ O Φ } 9︒ a も ︑G 碧 き ︒ ω Φ 曾 & ︒ 暮 ω ︒ h8 昌 貯 出 8 日 接 ︒ ↓ぼ ω 8 暮 α ω 二 日 ︒ δ 昌 牙 H 匹 震 Φ P .︑ と 述 べ
て い る ︒ \ 匡 \ と \ d \ と の 音 質 の 差 を 区 別 し て 発 音 す る こ と は 重 要 な 問 題 点 と な る ︒
(1)男oび¢誹=.O¢}胃負墨ミ§§o審駄鍵帖簿黛ミ織︾§恥鼠o§⑦§§謎℃,HωP
日本人に同じように聞えやすい英語の音素にび︒9・ぴ︒口︒q耳の母音\o\と\o\の対立がある︒\o\は日本語の
[オ]に近い位置で唇をもうすこし円め\q\の方に移動する音で︑\o\は[オ]より舌の位置は低く︑あごはもっ
と開いている︒あごの開きは\9\を発音する時とほとんど同じくらいであるが︑唇は円みを帯びる︒寄奮や国ざ
は\o\を単母音と解釈し︑⇒認︒ひω巳号などは二重母音と解釈するが︑米音では冒]への移動がすくないので